魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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誤字脱字が止まらない。
もっと慎重に更新していかねば。

誤字脱字の報告をくださる方、ありがとうございます。
即座に気づかれないよう修正しています。
あ、気付いてますか、そうですか。

さぁ、今度は無いと思いつつ第七話れっつごぉ


ゼロの旅7

 何やら視線が痛いです。

 

 授業を受けている私を、周りの生徒達がジロジロと見て来ます。ただでさえ、今まで女子校ばかりで教室に男子生徒が居る事に慣れないと言うのに、この客寄せパンダ状態。一体なんなのですか。

 

 「うふふふふ。ユエ、人気者ね?」

 

 「一体なんなのです、この注目度は?」

 

 「昨日の決闘で、あの使い魔君と一緒にあなたも注目されてるのよ。あの剣さばきは見事だったものね。んふふ。あなたが男の子だったら、私のベットに招待してる所よ?」

 

 「タバサさん、貴方の友人が変態です。どうにかしてください」

 

 「無理」

 

 「ちょっと!?男の子だったらって言ったでしょう!?」

 

 即座に答えるタバサさんと、慌てるキュルケさんを尻目に教室をぐるりと見回します。誰もが興味深げに見てくるこの状況は少々予想外です。

 そこまでの事はしてないはずなのですが、あれぐらい誰でも出来るはずです。

 

 「いや、普通出来ないわよ?」

 

 キュルケさんが何やら引き気味に言って来ますが、身体強化すれば簡単なはずです。何故そんなおかしな事の様に言うのでしょう。

 

 「身体強化って、何?」

 

 タバサさんがグリっと顔を向けて聞いてきました。またしても目が光ってます。どうにもタバサさんは強くなる事に貪欲です。それこそ、あの夏休み前の先生のように。じーっと真剣な、それでいて追い詰められている人の様な鬼気迫る、気迫のこもった目で凝視してきます。

 

 「身体強化と言うのは、魔力を使って身体能力を強化する事です。10メートル、20メートルを垂直飛びするくらいは、簡単に出来るようになるです」

 

 [戦いの歌](カントゥス・ベラークス)は使い出すと、結構便利なので事あるごとに使ってしまいます。日常生活でも、結構重いものを持つ事が多いですが、この魔法はそんな時にも役立つ物なのです。図書館探検部などでもちょっと遠い所に行く時や、本を移動させる時などで使い倒しました。使い過ぎてすっかり特別な物と言う感覚が無くなっていたです。

 よく考えたらこちらには身体強化の術式がないのですね。魔法使いは皆使える物と思っていましたから気付きませんでした。迂闊でしたね。

 

 「あー、君達。一応授業中なので、ちゃんと聞いてて欲しいのですが?」

 

 教壇に立っていたコルベール先生が、困った様子で注意して来ました。

いけません、もう授業は始まっていたのでした。折角オスマンさんが機会をくれたのですからしっかり勉強しなければ。

 

 「ミス・ファランドール。折角なので貴方にやって貰いましょう。

火を灯して、それを大きな火の玉にしてみて下さい」

 

 「はいです」

 

 火を起こす魔法は、私達の魔法では初心者用の基本魔法ですが、こちらでは火の魔法の基本というだけで、魔法全般の基本ではないそうです。

 この世界の魔法は、属性を足して行く事で威力を上げる仕組みで、個人での最大は4つまでだそうです。魔力のボールを一つ、二つと持って魔法を使うイメージでしょうか。今から実践する魔法は、一つのボールで作った火にもう一つ足して火を大きくすると言うやり方です。出来るかどうかで、ドットかラインかが分かる訳です。

 この時点で私達の魔法とはかなり違うですね。その辺りを把握した上で実践しなければなりません。

 

 「では、行くです」

 

 気合いを入れて呪文を唱えます。先に聞いていた呪文をゆっくりと、一言ずつ魔力の動きを確認しながら唱えますが、唱え終わっても魔力は流れず、魔法は発動しませんでした。錬金の魔法の時と同じで完全な失敗です。

 

 「ふむ、何も起こりませんね。呪文は間違ってないですが」

 

 どうも魔力の流れがおかしいです。呪文に伴うはずの魔力が、まるで動きません。呪文を唱えて、呼吸などで取り込んだ魔力を杖に向かって流して行くのですが、魔力のボールを作る事も出来ず、完全な素通りです。少しだけ反応するのは私自身が持っている魔力のみです。

 

 世界に満ちている魔力を引き寄せて制御するのに使うのが自身に内包している魔力の使い道で、その魔力が多ければ多いほど集められる魔力が多く、威力の高い魔法が使えるです。しかし、ここの呪文はその制御用の魔力にしか反応しません。おかげで発動に必要な魔力量が得られず、魔法が発動しないようです。

 ふむ、まだ確証はないですが、もしかしたらこちらの魔法は私達の魔法とはもっと根本的なシステムが違うかもしれないです。

 

 「ミスタ・コルベール。次は私がやりますわ」

 

 キュルケさんが自信たっぷりに手をあげます。彼女は火のトライアングルと言っていたですし、これくらいなら簡単でしょう。

 

 「では、ミス・ツェルプストーに見本を見せて貰いましょう。ミス・ファランドールはしっかり見てて下さいね?」

 

 「えぇ、もちろんです」

 

 前まで出てきたキュルケさんが杖を構えます。すぐそばに陣取って、何も見逃さないよう神経を研ぎ澄ますです。キュルケさんは爆発しないでしょうから、障壁のお世話にはならないですね。

 

 「じゃあいくわよ、ユエ?」

 

 「えぇ、いつでもどうぞです」

 

 キュルケさんが呪文を唱えます。やはり彼女の呪文と共に動くと思われた周囲の魔力は一切動きを見せません。そして、代わりに彼女の中からかなりの量の魔力が流れて来ました。今のはどういうことでしょう?

 思ったとおり周囲にある魔力は一切使わなかったですが、発動した時の魔力は周囲の魔力を使った物と遜色無い量でした。つまり彼女は世界の魔力を借りるのと同じ位の魔力を宿しているという事ですか?

 

 キュルケさんはそのまま火を大きくして行くですが、やはり周囲の魔力を使っていませんでした。全て自分が持っている魔力だけで魔法を発現しているようです。

 発現している魔法はそれなりの威力になるです。これだけの威力を出すのが自力の魔力のみとは、内包魔力がネギ先生並にあるという事ですか?

 

 「ふむ。ミス・ツェルプストー、もういいですよ」

 

 「分かりましたわ。どうユエ、参考になった?・・・ユエ?」

 

 「ッハ!は、はい。ありがとうございました」

 

 考え込みすぎました。

 しかし、どうやら魔法を使う際の魔力の出処が私達と違うようです。全て自分の魔力のみで魔法を発現させるのが、こちらの魔法のやり方みたいです。私がこちらの呪文で魔法を発動出来ないのは、その辺りが原因のようです。

 

 「もう一度やってみるかい?ミス・ファランドール」

 

 「いえ、今回はやめておくです」

 

 もう少し検証が必要です。私の予想通りなら、どんなに頑張っても私にはここの魔法が使えないという事になるです。

 全てを自分の魔力のみでしか魔法が使えないのなら、内包魔力量が一般魔法使い程しかない私ではまず無理ですね。知り合いの中でも、ネギ先生やこのかさん、エヴァンジェリンさん達なら使えそうですが、他の人は無理でしょう。

 

 ふぅむ、こちらの魔法を極めようと言うのは無理かもしれませんね。残念です。

しかし、自力のみだけだと、それほど魔法が使えないのではないでしょうか?

すぐ魔力切れを起こしそうな気がします。その辺りも検証していかなければいけませんね。

 

 

 

 

 授業が終わりお昼休みになりました。

皆でドヤドヤ食堂にやって来て席に着きます。食事は豪華過ぎて食べ切れないほどの量で、毎度残してしまうので心苦しいです。

 

 「ユエ、ここに居たのね」

 

 「おや、ルイズ。もう看病はいいのですか?」

 

 いつの間にかルイズが隣に座っていました。

 

 「貴方のおかげで、もうほとんど治ったからね。食事に出てる間だけ、あのメイドに任せてきたのよ」

 

 ずっと付いてるのも大変ですからね、少しぐらい休憩するのも悪くないです。

 

 「あら、ルイズ。授業サボっちゃだめじゃない?」

 

 「サボってないわよ!バカな使い魔の看病してただけなんだから!」

 

 私の隣に座っていたキュルケさんが席に着いたルイズをからかい出しました。

それにすぐ噛み付くルイズ、その感じが明日菜さんと委員長さんとの言い合いを思い起こさせるです。他の生徒達がルイズをからかう時はもっと剣呑な雰囲気を漂わせるですが、この二人だと仲良くケンカする猫とネズミのように見ていてもハラハラしません。

 

 「くくくくぬぉ、ツェルプストーめ!」

 

 「なーにかしら、ヴァリエール?」

 

 まぁ、本人達は結構本気でやってるようですが。

 

 食事が運ばれて来て祈りの時間になったので、二人のじゃれ合いも中断です。

まだ覚えきれてないお祈りを誤魔化し、昼食にかかります。

人が多いので、西洋のコース料理の様に一皿ずつではなく、テーブルに一人分一気に置かれます。前菜、スープ、メイン、そしてデザート。

 今日のデザートはクックベリーパイとか言うもので、なかなか美味しそうです。

 

 「んふふー♪このクックベリーパイは私の大好物なのよー♪」

 

 パイを頬張るルイズは、とても幸せそうな笑顔を浮かべています。相当好きなんですね。確かに美味しいですね、このパイ。クックベリーと言う木苺に似た果物の酸味と、間に挟んだクリームの甘みがなんとも美味しいです。もしや、これを食べるために看病を代わってきたのではないですか?

 

 「それでルイズ、アンタがわざわざ私の近くに座ったのには何か理由があるんでしょ?一体何企んでるのよ?」

 

 「企むってなによ。私はユエに話があったのよ」

 

 「そう言えば、前にお茶に誘った事があったですね。どうせなら食後にお茶でも飲みながら話しますか?」

 

 「あ、う、うん。お願いするわ」

 

 少し顔を赤くしながら頷くルイズ、それをニヤニヤしながらキュルケさんが見ています。その視線を感じたのか、ジロリと睨みつけ、

 

 「なによ、気持ち悪いわね?」

 

 「なんでもないわよぉ。そうだ、私もお茶会にお呼ばれしようかしら」

 

 「な!?あ、あんたなんかお呼びじゃないのよ!」

 

 また始まりました。こう言うのはほっとくのが一番ですね。その間にキュルケさんの横に居るタバサさんはどうするか聞いてみるです。

 

 「タバサさんはどうします?」

 

 「行く」

 

 彼女はいつも簡潔です。こんなしゃべり方をする人が麻帆良にも居たですね。

キャンキャンとケンカしながらもデザートを片付けて行くルイズ達に遅れないよう、手のスピードを早めます。

 うん、美味しいです。

 

 

 

 昼食後、中庭のカフェのようにテーブルが並べてある所までやって来ました。周りにはいろいろな幻獣と戯れる生徒達が沢山います。なんでも、呼び出した使い魔とのコミュニケーションを図るのがここ数日半日で授業が終わる理由なのだそうです。確かに折角呼び出したのに、授業でまったく会えなかったら呼んだ意味が無いかもしれないです。

 

 「それで話ってなんなのよ?」

 

 「なんであんたが仕切ってるのよ!?というか、あんたに用はないんだから、どっか行きなさいよ!」

 

 「ユエの友人としてヴァリエールが変な事しないように見てないといけないのよ」

 

 「変な事ってなによ!?」

 

 「言わせるの?ルイズのエッチ!」

 

 「キュルケさんは何を想像したですか」

 

 「もう手遅れ」

 「どういう意味よ!?」

 

 席に着いてお茶が運ばれてくるのを待ってる間にまた二人のじゃれ合いが始まりました。キュルケさんがからかい、それにルイズが噛み付く。見た目は全然違いますが、麻帆良の教室に居るような錯覚を起こしそうな光景です。

 

 「まったく、何をアホな事言ってるです。それでルイズ、話とはなんですか?」

 

 放っておくといつまでもやってそうなので、自ら水を向けます。午後に授業がないとはいえ、そんなにのんびりもしてられません。

 そんな所でお茶が運ばれてきました。このお茶は見た感じ普通の紅茶です。ここは貴族の嫡子やら子女やらが通う学校なので、お茶も高級品なのだそうです。それでも、最高級品である東方からの輸入品には届かないとか。世界中のどこからでも輸入できる現代とは、こんな所にも違いが出るですね。

 

 「あ、うん。えーっとね…」

 

 「その前にユエ」

 

 ルイズがしゃべり出そうとした所にキュルケさんが割り込んできました。

出だしを邪魔されて、ルイズの機嫌も急降下して行きます。

 

 「ちょっとツェルプストー、邪魔しないでもらえるかしら?」

 

 「悪いわね、ヴァリエール。すぐだから、ちょっと待ってくれるかしら?」

 

 先程の様に噛みつき返さず、私に向き直るキュルケさん。そのいつもと違う反応に、ルイズが呆気に取られています。割と真剣な顔でこちらを向きながら、

 

 「ユエ、私達友達よね?」

 

 いきなり何を言い出すのですか。確かに知り合って二日ですが、こちらで出来た大事な友人です。確認するまでもないです。

 

 「えぇ、そうですが、改まってどうしたです?」

 

 「ユエ・・・、なんで私達はさん付けで、ルイズは呼び捨てなのよ?

私達の方が早く友達になったのに、他人行儀なのは酷いじゃない!」

 

 なんですか、それは。

まぁ、確かにキュルケさん達はさん付けでしたが、他人行儀にしてるつもりはないですよ。

 

 「ねぇ、タバサ。ユエってば酷いわよね?」

 

 「どっちでも」

 「酷いわよね!?」

 

 「うん、酷い」

 

 タバサさんも面倒なのかキュルケさんに言われるままになってます。

 

 「キュルケ、そんな事はあとでいいでしょう?」

 

 「ダメよ!こういうのは早目にしないとずっと続くんだから!」

 

 タイミングを外すとなかなか呼び方と言うのは変えられないですからね。

言いたい事はわかるです。

 

 「えーと、キュルケ。これでいいですか?」

 

 「えぇ、そうよ。タバサもちゃんと呼んであげてね?」

 

 「・・・わかったです。タバサもいいですか?」

 

 「ん。」

 

 キュルケさん、いえ、キュルケに抱えられながらも本を手放さないタバサも頷きます。そんな彼女達を微妙に呆れた様子でルイズが眺めてます。

 

 「えーっと、キュルケ。もう私の話に入っていい?」

 

 じとっとした目をしたままルイズがキュルケに確認します。

 

 「えぇ、もういいわよ。ずずいっと話始めちゃって?」

 

 「はぁ・・・。どうもありがと」

 

 疲れた感じでため息をつくルイズ。まぁ、気持ちはわかるです。

出鼻を挫かれぐったりしたルイズは、うまく切り替えられないようで、そのまま話を始めます。

 

 「とりあえず、サイトの治療のお礼を言うわ。ありがとう、おかげで水の秘薬も予定の半分以下で済んだわ」

 

 「それはなによりです。それで、それだけではないのでしょう?

それだったらこうやって改まる必要もないですからね」

 

 今朝もお礼は言われたですしね。

彼女の様子はもうちょっと込み入った話があると語っているです。

 

 「えぇ。実はユエが最初私の魔法を見学した時の事を聞きたいのよ」

 

 「あぁ、あのユエを巻き込んだアレねっ!真っ黒にされて災難だったわね」

 

 「もう!キュルケは黙ってて!」

 

 ルイズの魔法で吹き飛ばされたのも、まだ一日しか立ってないんですね。

もっと時間が立ってる様な気がするです。一日が濃いせいでしょうか。

 

 「それでね?あの時ユエ、私が失敗する直前何か言ってたでしょう?

その時の事を聞きたいのよ」

 

 あの爆発する直前の事ですか?

 

 「何か言いましたかね?」

 

 「えぇ、言ったわ。強すぎる。って」

 

 そう言えば言ったですね。シュヴルーズ先生の見本の時と比べて五倍以上の魔力が流れてたので、思わずそう言ったんでした。

 

 「そういえば言ったですね。それがどうしたのですか?」

 

 「まさか、ルイズ。ユエが余計な事を言ったから失敗したんだっていちゃもん付ける気じゃないでしょうね?」

 

 「そんな恥知らずな事する訳ないでしょう!?

言って好い事と悪い事があるわよキュルケ!」

 

 「じゃあ、一体なんなのよ?」

 

 「それをこれから話そうってしてるんでしょう!少し黙ってなさいよ。ほらそこの青いのでもいじって時間潰してなさいよ!」

 

 ちょくちょく邪魔されてルイズが文句を言います。黙らせるためにタバサを生贄にするとは、やりますね。何をかは知りませんが。

 

 「タバサよ?覚えておきなさい。まぁ、しばらく黙っててあげる。

タバサぁ〜、イチャイチャしましょぉ〜?」

 

 「衛兵を呼ばなきゃ」

 

 「冗談よ!?本気で嫌がらないでよ!」

 

 二人がじゃれ合って邪魔されない間にルイズの話を聞くとしますか。

 

 「それで、私に聞きたい事とは?」

 

 「うん。あの時貴方は強すぎると言ったわ。一体何が強すぎたと言うの?私は知っての通り、今まで魔法が成功した事は一切なかったわ。そして、誰に聞いてもその原因は分からなかった。私の両親もかなりの腕前を持つメイジなんだけど、それでも何一つ分からなかったわ。結局私の努力不足って事になったけど」

 

 そう言ってルイズは今までの事をポツポツと語り始めました。

一度も成功せず、すべて爆発する。ついた二つ名はゼロのルイズ。

 ちゃんと使いたいけど、どんなに練習しても、どんなに魔道書を読んでも、失敗しかしない。誰に聞いても答えは出ず、失敗の原因も分からないので、どうにもならなかったのだとか。

 

 チラチラと気まずげにキュルケの方を見ながら、それでも自分の事を話し続けるルイズ。そんなルイズを気にせず聞いてないフリをしながら、タバサとイチャつくキュルケ。そして、とても迷惑そうなタバサ。

 

 「そんな中、貴方が、ユエが言ったのよ。爆発する寸前、いつもの失敗する直前に強すぎる、って。初めて具体的な注意が出来た人なのよ、貴方は。だからどうしても聞きたかったのよ。一体貴方は何に気が付いたのか、何を知っているのか。本当は、今朝聞けば良かったんだけど・・・」

 

 「今朝は急いでたですしね。タイミングがなかった訳ですね」

 

 「えっと、それもあるけど、単にユエの治癒魔法の印象が強すぎて忘れてただけよ。

気付いたのは、ずっと後だったものだから、一日付いてる予定だったのをメイドに任せてこうやって出て来たのよ」

 

 顔を赤くしながら目をそらし、気まずげにそう呟きます。

あー、そんなに衝撃的でしたか。まぁ、私も初めて魔法を見た時は他の事を気にしてる余裕はなかったですしね。初めて見る時はそんなものなのでしょう。

 

 「ユエ、お願い。貴方が何に気付いたのか教えて?私の魔法はどうして失敗するのか、何で爆発しかしないのか、貴方の知っている事を教えて下さい。お願い・・・」

 

 深刻な、そして真剣な顔で私に教えをこうルイズを見て、一瞬キュルケが止まったですが、すぐ再起動してタバサ弄りに戻ります。

 

 「ルイズ、私はまだこちらの魔法もよく分からないですし、使う事もできない未熟者です。東方の魔法は使えますが、そちらもまだまだ半人前。貴方の悩みを一切合切解決出来るほどではありません。それでもいいのなら、私の知識で分かる範囲で良いのならお答えします」

 

 「それでいいわ!それだけでも誰も教えてくれなかったんだもの。東方の知識でなら少しは糸口が掴めるかも知れないわ。お願い、お金でもなんでも欲しい物ならなんでもあげるから、お願い!」

 

 「ルイズ、貴方が欲しいとか言われたらどうするの?」

 

 「む、無論構わないわ!」

 「構ってください。キュルケも真剣な所でチャチャ入れないで下さい」

 

 今まで我関せずを貫いていたはずのキュルケがまたチャチャを入れてきました。今はそんな時でないですのに、まったく。

 

 「ごめんごめん。つい耐えられなくなって。もう終わりまで黙ってるから。ほらタバサ、チューしましょ〜?」

 

 「衛兵ー」

 「そこはツッコミが欲しかったわ!!」

 

 どうやら思いの外重く、真剣な話だったので耐え切れなくなったようです。いつもからかっている相手の真剣な話がどうにも聞いていられなかったのですね。しかも、自分からここに座ったものだから、今更立ち去る事も出来なかったようです。

 

 「ふぅ・・・、話の腰が折れたですが、欲しい物は今の所ないですから、別にいいです。無論、ルイズが欲しいなんて事も言いませんから、安心して下さい」

 

 「じゃ、じゃあ、教えてくれるの?」

 

 「えぇ、私に分かる範囲でなら」

 

 「ありがとう!」

 

 本当に嬉しそうにお礼を言うルイズ。これは全力で行かねばなりません。アーティファクトも使って、必ず原因を見つけて見せるです。

 

 「話終わった?」

 

 「聞いてたでしょ?終わったわよ。だからあんたもそろそろその変態行為やめなさいよ」

 

 「変態行為ってなによ。友達通しのスキンシップじゃない」

 

 「汚された」

 「そこまでしてないわよ!?」

 

 手持ち無沙汰だからと、タバサを弄りすぎです。まぁ、殆どは頬ずりやらなんやらしてただけですが。

 

 「キュルケ、スカートに手を出すのはやり過ぎですよ」

 

 「ほら、タバサって余り表情変えないじゃない?こうして恥ずかしそうにするのがなんか楽しくて」

 

 「・・・迷惑な奴ね」

 

 ルイズも呆れています。本当にハルナのような性格してるですね。

 

 「さて、ルイズの質問に答えるには、ここではいろいろと問題です。どこか人目の無い所に行きましょう」

 

 「ここじゃダメなの?」

 

 ルイズが不思議そうに聞きますが、もうここでは無理でしょう。

お茶に手を付けずに真剣に話し合うルイズと、その横には普段は仲の悪いキュルケが居て、しかもタバサにセクハラしてる訳ですからね。実はとても注目されていたです。カフェに居る生徒達は皆チラチラと興味深げにこちらを見ているです。

 

 それに気付いたルイズも移動に賛成した。すっかり冷めたお茶を一気に飲み干し席を立ちます。

 

 「まったく、キュルケのせいでとんだ手間だわ」

 

 「ちょっとやりすぎたかしらね」

 

 全然反省してないですね、キュルケ。

悪びれもせず口笛を吹いてるです。それをジト目で見るルイズとタバサ。

 

 「とりあえず移動です。どこか人目の無い所を知りませんか?」

 

 私が聞くとキュルケとルイズが空を見ながら考え込みます。

ここに来て間もない私は考えても出てこないので、結果が出るまで待つだけです。

 

 「この時間なら演習場に行けばいい」

 

 タバサがそう言い、二人もそうかと納得したように手を打ちます。

 

 「演習場ですか?」

 

 「えぇ。攻撃魔法の練習をする所よ。三年生になると簡単な攻撃魔法を教えられるのよ。で、その場所が演習場」

 

 「なるほど」

 

 訓練場なのですね。魔法を撃ち放つのでそれなりに広く、授業以外で訪れる生徒はそう居ないそうです。

 

 「ならばそこに行きますか。ちょっと確かめたい事もあるですし」

 

 「確かめたい事?」

 

 「えぇ。私では、ここの魔法が使えない可能性があるです。その理由を確かめる必要があるので、ついでに確かめさせて貰おうと思うです」

 

 キュルケが魔法を使った時の魔力量、他の人の物も一緒に細かく調べて見るべきです。それによっては、ここの魔法習得に影響が出るです。

 理由さえ分かれば、そこを改善すれば習得出来る可能性が出て来るです。

 

 「じゃあ、行きましょう?時間は有限よ、急がなくちゃ」

 

 「そこまでじゃないでしょーが。ま、ユエこっちよ。ここからちょっと歩けば着くわ」

 

 確かにこのまま話していたらすぐ暗くなってしまうです。

キュルケを先頭に演習場まで歩きます。生徒達の視線を気にしながら学院から出て、少し歩いた所にある林を抜けると広い場所に出たです。草原が広がり、少し向こうには、魔法の的になりそうな崖があります。ここが演習場らしいですね。

 

 「着いたわ。予想通り人は居ないわね。ここなら大丈夫でしょ?」

 

 「えぇ、そうですね。ここなら多少私の魔法を使っても見咎められないでしょう」

 

 「あぁ、ちゃんと分かってたのね。もう言った事すっかり忘れてるんだと思ってたわ」

 

 キュルケがそう皮肉を言います。まぁ、使うなと言われているのにバンバン使う私が悪いのですが。

 

 「で、どうするの?」

 

 「そうですね。まずは、ルイズに魔法を使って貰いますか」

 

 「ルイズに使わせると、また吹っ飛ぶわよ?」

 

 キュルケがそう止めて来ますが、やらなければ話が進みません。

 

 「そうしないと話が進まないのです。ではルイズ、一発あの崖に向かって撃ってください。貴方の魔法を私は一回しか見てないので、あの時の感覚が勘違いである可能性もあるですから、もう一度見てみる必要があるです」

 

 私が魔法を使わせる理由を説明すると、ルイズも戸惑いつつも一歩前に出て杖を構えます。

 おっと、忘れてました。

 

 [調べるデスー](エクサミナームス)

 

 検査用の精霊を召喚して、ルイズの周りに配置します。今度の精霊は私を小さくしたヴァージョンです。以前に墓守り人の宮殿で使ったような有線ではないので、フヨフヨと自由に飛び回っています。

 

 「わ!わ!なにそれかわいいじゃない!?」

 

 「また出た」

 

 この中ではキュルケだけが初見なので、大いに騒ぎます。

浮かんでいる私型の精霊を前後左右から眺めてわーわーとはしゃぐキュルケ。

 

 「あ、やっぱり紐なのね」

 「何してるですか!」

 

 アーティファクトを出して準備してると、いきなりチビゆえのスカートをめくり出すキュルケにすぐさまツッコミをするハメになったです。

 

 「ユエと初めて会った時もめくってた」

 

 「何してくれるですか」

 

 初めて会った時とは、気絶していた時ですかね。

人の気絶中に何してるですか、まったく。

 

 「ユエ、こんなの出してどうするの?私、どこも怪我してないわよ?」

 

 「今回のこれは、怪我などではなく、魔力、こちら風に言うと精神力の流れを見るのに特化させたものです。魔法を使う時、精神力を使うのは分かるですね?その魔法を使う時に精神力がどう動くのかをしっかり見れば、何かしら分かるかと思いまして」

 

 この魔力探査に特化させたチビゆえで、くまなくルイズの魔法を調べます。魔力の出処から、集まり方、流れ方と全てを観察すれば、大体の事が分かるはずです。その上で、ルイズが魔法を失敗する理由を考えていく予定です。

 

 「まぁ、全部ユエの好きにしていいわ。私じゃ何も分からないしね。

それで、もう撃っていいのね?」

 

 「ちょっと待って下さい、これの準備が終わったら合図するです」

 

 チビゆえから送られてくる情報を私のアーティファクト、[世界図絵](オルビス・センスアリウム・ビクトウス)で出力、空中に投影していきます。半透明なウィンドウにルイズの全身写真とその周りに魔力、筋力等の色々なデータがグラフで表示されて行きます。

 

 「うわぁ、なにこれ?ルイズ?」

 

 「字が書いてあるけど、読めない」

 

 そのウィンドウを興味深げにキュルケとタバサが覗き込みます。

字はラテン語が中心ですから、読むのは難しいでしょうね。私も最初は苦労しました。今でも時々辞書を片手にしないといけない事もあるくらいです。

 ピピっと音がなり、計測が完了した事を知らせてくれます。

ここからどう変わるかを見て判断するです。

 

 「いいですよ、ルイズ。まずは一発お願いします」

 

 私がそう促すと、ルイズは頷き崖の方を向きます。

杖を構え、ゆっくりと呪文を唱えて行くルイズを、チビゆえが周りを回りながら細かく計測していきます。

 

 「なんかいっぱい動いてるわ」

 

 「何かを測ってるみたい」

 

 覗き込んでるキュルケ達も、数値やグラフが動く様子に興味津々のようです。

 

 [ファイヤーボール!]

 

 ルイズの呪文が完成し、一気に魔力が解き放たれます。

杖を向けた状態で止まっているルイズですが、そこから何かが飛び出す気配はありません。しかし、計測画面を見ていると魔力は既に解き放たれ、何らかの現象を引き起こそうとしています。私の感覚も、膨大な量の魔力が練られ、飛び出していった事を感じていました。しかし、一体どこに・・・。

 

 ドオォォォォォンッ!!

 

 狙っていたはずの崖の真ん中辺りではなく、その右上の方で一拍遅れて大爆発が起こりました。威力は凄まじく、崖の右上は巨人がかじったようになくなっています。

 

 「やっぱり失敗したわね。あれのどこがファイヤーボールなのよ」

 

 「うるさいわね!どうしてかこうなるから、調べて貰ってるんじゃない!それで、ユエ。どうなの?理由分かった?」

 

 キュルケに怒鳴り返してから、こちらを不安げに見つめながらルイズが聞いてきます。しかし、それよりも、

 

 「タバサ、今の魔法、いつ発射されたか見てましたか?」

 

 「気付いたら爆発してた」

 

 やはり私が見逃した訳ではないようです。なんともデタラメな魔法ですね。計測結果を見てみますが、発動直前から魔力量はネギ先生の[雷の暴風](ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)並の魔力が篭っていると出てきました。こんなに大量の魔力を込めなければならない魔法なのですか。比較になるものが必要ですね、折角いるのですから、協力してもらうです。

 

 「キュルケ、貴方にもファイヤーボールを撃って貰いたいのですが、いいですか?」

 

 「ええ、良いわよ。本物のファイヤーボールを見せてあげる」

 

 火のトライアングルだと言う彼女なら、普通のファイヤーボールも撃てるでしょう。ルイズの魔法との比較にはもってこいです。

 ルイズの計測画面をそのままにして、今度はキュルケのものを出します。ルイズの時と同じ要領で計測していって、数秒で結果が出ました。

あとは、彼女に魔法を使ってもらうだけです。

 

 「では、キュルケ。チビゆえにセクハラしてないで魔法をお願いします」

 

 「はいはい、じゃあ、いくわよ?」

 

 周りを回りながら計測していたチビ夕映を捕まえて、またスカートをめくって下着を見ていたキュルケに魔法を撃つようお願いします。

 まったく、何でわざわざチビゆえの下着を見たがるですか。ハルナが、買ってきたフィギュアの下着を見ようと一生懸命覗き込んでいるのを何度か見ましたが、理由を聞くと下着まで細かく作り込んでいる物ほど、出来のいいフィギュアなのだと力説されました。だからと言って、そんなに真剣にスカートを覗く事はない気がするです。

 まぁ、キュルケもそのハルナのように、小さく作ってあるこのチビゆえの出来を見たかったのでしょう、モデルの私としては断固やめて欲しいですが。

 

 [ファイヤーボール!!]

 

 杖を向けたその先から、ハンドボール大の火の玉が飛び出し、崖にぶつかり爆発を起こしました。

 なるほど、あれが本当のファイヤーボールですか。ゲームとかである魔法そのままですね。

 

 「どう、ユエ?ちゃんと見てたかしら?」

 

 髪をかきあげながら、ルイズの方流し目を送るキュルケ。悔しそうな表情でそのキュルケをルイズは睨みつけます。

 ぐぬぬとか効果音が聞こえてきそうな見事な睨みです。

 

 「さて、二人の魔法を計測した結果が出たです。これを見ると、二人の魔法には明らかに違う所があるです」

 

 「い一体どこよ!?」

 

 「さっきの魔法を見る限り相当違ったじゃない。まだ何かあるの?」

 

 「二人の違い。それは魔法を発動させる時の魔力量、いえ、精神力量がルイズはキュルケの五倍程あったと言う事です」

 

 計測結果、並びに私の感覚もその差はかなりの物があると感じました。その差が、先程の魔法現象の違いなのかもしれません。

 

 「五倍って、つまり私の方が魔法が強いって事?」

 

 「込められた精神力が強かったと言うだけです。同じ現象が起きていないので、一概にどちらが強いか、とはいえないですね」

 

 「うっ。そ、そう」

 

 ルイズがしょんぼりしてしまいましたが、そこは仕方ないです。しかし、これだけではなんとも言えないですね。

 

 「次はタバサ、何か撃ってくれますか?適当なのでいいです」

 

 「わかった」

 

 小さく頷き、タバサがルイズ達より前に出ます。その大きな杖を掲げて呪文を唱え、自身の魔力を魔法に変換していきます。

 

 私の手元にある彼女の計測画面には、他の二人よりかなり洗練された魔力行使をしていると表示されます。変換率に無駄が殆ど無いですね。これだけでも、かなりの腕であると分かるです。

 

 [ジャベリン]

 

 タバサの呪文が完成し、氷で出来た槍が崖に突き刺さったです。

なかなか強力な魔法ですね。委員長(エミリィ)[氷槍弾雨](ヤクラーティオー・グランディニス)なんて魔法を使った事がありますが、あんな感じに複数で一気に撃たれたら、かなり手強いです。しかし、あれは熟練しないと上から下にしか撃てないので、[氷槍弾雨](ヤクラーティオー・グランディニス)よりは使い勝手がいいかもしれないですね。単発なので、接近して避ける余裕を奪った上で発動させる必要があるですが。

 

 「さて、次はルイズ。同じ魔法を撃ってみて下さい。貴方がどの属性にあったメイジなのかはまだ分かりませんが、もう少しサンプルが欲しいです」

 

 「う、うん。分かったわ」

 

 タバサと入れ替わり、ルイズが詠唱を開始します。

こうして三人を計測していると、三人共保有魔力が私の世界の基準でもトップクラスですね。特にルイズはこのかにも匹敵するほどです。

 

 [ジャベリン!!]

 

 ルイズの魔法が打ち出されます。しかし、先程と同様杖の先からは、何も出て来ません。そして、

 

 ドカァァァァンッ!!

 

 一拍置いて爆発が起こりました。これも先程と同じですね。

一切の軌道を見せずに着弾するとか、これでコントロールが良かったら防ぎようがないです。気付けば当たってる訳ですから、どう避けろというのでしょう。

 

 爆発した所を見ると、崖のかなり手前の地面にクレーターが出来ています。その深さで威力のほどがよく分かります。

 

 「ふむ。さっきと同じく爆発だけですか。魔法の軌道も見せず突然着弾する所も同じですね。ふむふむ」

 

 三人の計測画面と、ついでに録画していた詠唱場面の映像を並べてどこに違いがあるか検証していきます。

 

 「え?こっちの何?私?」

 

 「私のもあるわ。なにこれ、どういう事?」

 

 三人、いえ、二人が録画映像を見て騒いでます。

そこは放置して、ルイズの検証に入るです。詠唱まではほぼ同じですね。魔力の流れを見ると、キュルケは普段の態度とは違い、その扱いは繊細です。そしてルイズはというと、魔力の扱い自体はちゃんと出来ているようですが、その量が尋常ではありません。数値もキュルケのが二桁なのに対し、ルイズのは三桁に達してるです。

 ここの魔法は魔力を込めれば込めるほど強くなる、というほど単純ではないようですが、これでちゃんと発動してれば物凄い大きさの炎が出たでしょうね。

 

 「こっちはタバサのよ。うわぁ、不思議」

 

 「一体どんな仕組みなのかしら?」

 

 タバサの物も見て行きますが、こちらも魔力の扱いは繊細です。しかし、その中にも力強さがあり戦闘にも耐えられる素早い魔力行使をしてるです。

多分、彼女は戦闘経験があるでしょう、それも一度や二度ではなさそうです。

 さて、ルイズの方はと言うと、やはり魔力量は半端ないですね。魔力の扱い方もさっきと同じく問題ないようですが、その量だけ大雑把と言うかやたらと豪快です。多分、ここに秘密があると思います。

 

 「答えは出た?」

 

 タバサが画面から目を離さずに結論を聞いてきます。まだ検証が不十分な気もしますが、この時点でもある程度答えは出せるです。

 

 「えぇ。完全ではないですが、それなりの答えは出せるです」

 

 「ほ、ほんと!?私はどうしたら魔法を使えるの!?」

 

 私の答えにルイズが詰め寄ってきて肩を揺さぶりだしたです。

あ、あまり揺らさないで下さい、喋れません。

 

 「お、落ち着くですよルイズ。ちゃんと答えますから、とりあえず揺すらないで下さい」

 

 まだ微妙に興奮しているルイズから一歩離れ、私は計測画面を三人分、大きくして皆の前に配置します。

 

 「さて、まずこれを見てください。これは三人の魔法を使う所を計測した結果です。これを見るとルイズの物だけ数字が大きいのが分かると思うです。これはルイズが、尋常じゃないほどの精神力を魔法を使う際に込めている事を示しています」

 

 「・・・強いのはいい事じゃないの?」

 

 ルイズがこてっと首を傾げて何がおかしいのかと聞いてきます。

 

 「強すぎるのが問題なのですよ。わかりやすく言うと、グラスを持つ時、軽く持つのか、割れる程ギュッと持つかです。キュルケ達は持ち上げる事が出来るだけの力でグラスを持つですが、ルイズはグラスが砕け散って、手に破片が突き刺さる程の力でグラスを握っているのです」

 

 つまりは全く力加減が出来ていないのです。

しかし、ただそれだけでは無いようです。それだけなら、誰かが気付いたでしょう。問題はここからです。

 

 「さて、問題はこれだけではないです。ここの魔法は属性を足して行く事で威力が上がって行く訳ですが、ここにもルイズが魔法を使えない理由があると、私は見るです」

 

 「どういう事?私がうまく足せてないって事?」

 

 「いえ、まず足す物が問題なのでしょう」

 

 計測結果と私の感覚によって感じたそれを考えると、この答えが一番近いのではと思うです。

 

 「まず、魔法を使う為に呪文を唱える訳ですが、この時貴方達は自分の中に持っている精神力をボールのような状態にしてから、呪文で使いたい魔法に合う形に加工し、それを杖に通して魔法として発動させる訳ですが、ルイズの場合、どうもこの部分に問題がありそうです」

 

 私が説明していると、三人共真剣な顔で聞いています。ちょっと得意な気分でさらに説明を続けます。ふむ、指し棒とメガネを持った方がいいですかね。

 

 「仮に、杖の先にはその属性に合わせた筒があると思って下さい。この筒の形によって火のメイジや水のメイジ等の分類が出来るという具合に。それで、その筒に合うよう精神力のボールを加工し、杖の先の筒に通して魔法として発動させる訳です。

 ちなみに使えない属性があるのは、その属性用の筒を持っていないからだと思って下さい。

 キュルケの場合杖の先には、そうですね、三角形の筒があると思って下さい。呪文により精神力のボールをその筒に合うよう三角形に加工して、その加工したボールをしっかりと筒に通す事で魔法として発現させるのですが、ルイズはこの部分がうまく出来ていない訳です」

 

 杖が銃身で、銃口の形は属性毎に違います。そして持っている魔力ボールと言う銃弾を、銃口に合わせて加工しなければ銃口を通れずに発射出来ない、つまり魔法が発動しないか、暴発すると言うイメージです。

 

 「ははぁ、そこまで考えた事なかったわ。つまりルイズは、その加工が下手くそって訳ね」

 

 「なんですってーっ!?」

 

 とうとうルイズをからかうネタが見つかったのか、生き生きとからかい出すキュルケと、元気に噛み付くルイズ。どうやら真剣な話が続いたので限界値に達したようです。まぁ、放って置いて次行きます。

 

 「ルイズの場合、このボールがキュルケ達の五倍近くあり、加工をしても、杖の先の筒に合わないと言う感じですかね。先程説明したようにその筒の形は属性によって決まっていますが、大きさは多少上下するのでしょう。しかし余り小さいと、つまり精神力が少ないと魔法が使えず、ある程度までの大きさなら威力が上がるですが、大きすぎるルイズのボールは、その筒からはみ出るので、そのはみ出た部分が暴走して爆発を起こすのではと私は考えたです」

 

 検証結果と想像とでどんどん説明していきますが、本当にそうなのかは分かりません。でも、今の所はこれ以上の答えは出せないです。

 

 「つまり、私が魔法を成功させるには、その加工をうまくやって、杖の筒に合う精神力の大きさで使わないといけないって事ね」

 

 「まぁ、今の所はそういう結論になったです。

他には、ルイズの精神力に合った呪文を作るか、見つけるか、ですね」

 

 「呪文を作るなんて無理よ、アカデミーでも早々出来ないのに。

うーん、その加工をうまくやるのはどうすればいいのかしら?」

 

 んーっと空を見つつ考えてたルイズが不意にそう聞いてきました。

さて、どうなんでしょう?

 

 「呪文は間違ってなかったようですし、魔力の流し方もおかしくは無かったです。なので・・・・」

 

 「なので!?」

 

 「どうすればいいのでしょう?」

 

 私が答えた途端、キュルケとルイズがずっこけました。タバサも転びはしなかったですが、少し斜めになってるです。そこまでボケたつもりはないですが。

 

 「私が聞いてるのよ!」

 

 「まぁ、ユエはこっち来たばっかりだし、まだそこまで分からないって事ね。それでも、あれだけ分かるんだから凄いわね」

 

 起き上がって二人が口々に感想と文句を言います。まだここの魔法を発動させた事もないですから、細かい事までは分からないです。でも、基本は私達の魔法と変わらない訳ですから、もう少し調べて行けば分かるかもしれないですね。

 

 「まぁ、とりあえず・・・・」

 ドカァァァァンッ!!

 

 急にルイズが魔法を撃ち始めました。

 

 「ちょっとルイズ、いきなり何してるのよ?」

 

 「今言われた通りに精神力を少なめにして、丁寧に呪文を唱えてみたのよ。また爆発したけど」

 

 なるほど、早速実践してみた訳ですね。今度の魔法はしっかり崖に当たりましたが、やっぱり爆発するだけでした。

 

 「ふぅむ。少しだけ狙った所に行くようになったけど、やっぱり爆発しかしないわね」

 

 ほぼ杖の向けた先で爆発するようになったようですが、どんな呪文でも爆発しかしませんね。魔力は強いのですから、ちゃんと使えるようになったら、凄い魔法使いになれそうですが。

 

 「精神力は強いのですから、きっと強いメイジになれるですよ。

私で分かる事は教えるですから、一緒に頑張りましょう」

 

 「うん。お願い」

 

 少し希望が見えて来て嬉しそうな顔で頷くルイズを見ていると、私も頑張って強くなろうと改めて思うです。

 

 「ユエ、折角だから貴方の所の魔法が見てみたいわ。

治療と検索の魔法しか見てないから、どうせなら攻撃魔法とか見たいわ」

 

 「私も見たい」

 

 ルイズとタバサがそう言って魔法を見せて欲しいと強請ってきます。

まぁ、見せるのは一向に構いません。ここには他には人は居ませんから、人目を気にする必要ないですしね。

 

 「分かったです。では、いくつかやって見ましょう」

 

 そう答え、皆より前に出て崖に向かって杖を構えます。

しかし、何を撃ちましょうか。とりあえず[魔法の射手](サギタ・マギカ)でも撃つとしましょう。

 

 [魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・光の29矢!!]

 

 呪文と共に魔法の矢が崖に向かって撃ち出されます。

29本が着弾し、ズガガガガガっと大きな音を立てます。うん、いい出来です。

 

 「おぉぉ!マジックアローね!」

 

 「なんか綺麗な魔法ね!」

 

 「威力もかなりある」

 

 三人が今の魔法を見て色々と感想を述べていきます。

私も初めてこの魔法を見た時はその煌びやかさに心を奪われたです。もう、随分前に思えるですが、一年も立ってないのですよね。

 

 「では、次行くですよ」

 

 次は何にしましょうか。そうです、あの鷹トカゲを倒した時の魔法にしましょう。

 

 [白き雷](フルグラティオー・アルビカンス)

 ズガガァァン!!

 

 雷鳴と共に、崖に白い色の雷が突き刺さりました。

あの時は、儀式用の短剣を的にしなければ狙った所にちゃんと飛ばなかったですが、今ではそのままでもしっかり命中します。あれからことある毎に使ってきたですからね、もう扱いは完璧です。

 

 「おぉ、今度はライトニングね?狙った所になかなか飛ばない扱いの難しい魔法なのに、よく使えるわね」

 

 「色が白かったわよ?東方の呪文だからかしら?」

 

 タバサはじっと着弾点を睨み、今の魔法を解析しようとしているようです。

 

 「ユエ、ユエ!次は?次はどんなの!?」

 

 ルイズが更に要求してきます。

次はそうですねぇ、何にしましょう?

 

 「どんなのがいいですか?今の二つが私がよく使う魔法ですが」

 

 「氷はない?私の魔法の参考にしたい」

 

 リクエストを聞けば、タバサが氷属性を希望してきました。

氷ですか。使えなくはないですが、威力が低いのですよね。

 

 「出来なくはないですが、威力が低すぎて参考にならないと思うです」

 

 「構わない、どんなのがあるか見たいだけだから」

 

 「そうですか、ではやって見るです」

 

 そこまで言うならやって見るですか。少し時間をかけて魔力を集中すれば、少しは見れた物が出来るでしょう。

 

 「では、いくですよ!」

 

 丁寧に呪文を唱え、全力で魔力を集中していきます。

完成した魔法のイメージは、氷の女王とも言うべきエヴァンジェリンさんが使っている所です。最強を自他共に認める彼女の魔法に届くはずはないですが、完成系としては最高の物。それをイメージしながら呪文を紡いで発動させます。

 

 フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ

 [氷神の戦鎚](マレウス・アクイローニス)!!

 

 呪文が完成し、飛び上がって魔法を発動させます。

出てきた氷塊はエヴァンジェリンさんの物とは比べものにならない1メートルほどでしかありませんでした。そのまま崖に向かって打ち出し、三人の近くに着地します。

 

 バキャァァン!

 

 氷塊が崖に激突し、大きな音を立てます。その音もまだまだ彼女のそれとは比べものにならない軽いものでした。

 氷自体は得意とは言えない属性ですが、それでもどうせならちゃんと使えるようになりたいですね。

 

 「おぉぉ!凄いじゃない!これは見た事ないわ!」

 

 「大きい氷を出して押し潰すって使い方なのかしらね。

今のジャンプも凄かったし、東方って凄いわね」

 

 「あれでも本来の大きさの三分の一も出てないです。あれを得意とする人は10メートルクラスを軽く作り出してくるですから、この程度ではまだまだです」

 

 上を知っている事は練習する上ではプラスですが、その反面目標までが遠過ぎて心折れる事もあるです。私もそんな時期がありましたが、それが当然で気にしても仕方が無いと思うようになってからは、純粋に目標に向かって努力出来るようになったです。

 

 「あれでまだまだなの?一体どんなメイジが居るのよ、東方は」

 

 「東方って、皆お母様みたいな人ばかりなのかしら?」

 

 キュルケとルイズが脱力して呟きます。一部の人だけですよ、そんな非常識な強さを持っているのは。

 そうです、[世界図絵](オルビス・センスアリウム・ビクトウス)にいつぞや研究の為に録画した先生達の訓練風景の映像が有ったはずです。それを見せてみましょう。私が実践するより分かりやすいはずです。

 

 「どうでしょう、私の先生達の訓練風景を撮影したものがあるのですが、見てみますか?」

 

 「・・・撮影、ってなに?」

 

 あぁ、こちらはビデオカメラとかは無かったですね。この説明では分からないですか。

 

 「さっきルイズ達のを見たでしょう?あんな感じで私の先生達の訓練風景が観れるです。どうです、見てみますか?」

 

 「見たい」

 

 タバサが物凄い勢いで食いついてきました。

強さに貪欲らしい彼女なら多分そうなるとは思っていましたが、思っていた以上の食い付き加減です。今のデモンストレーションで、火が着いたですかね。

 

 「私も見たいわ。貴方がこれほど多才なんだから、その先生がどんな人物なのか興味があるわ」

 

 「私も見せて。似てるけど、見た事無い魔法ばかりで凄く面白いもの!

私もこういう魔法を使ってみたいわ!」

 

 キュルケとルイズも見せて欲しいと詰め寄ってきました。そんなに必死にならなくても大丈夫ですよ、だから、もう少し離れて下さい。

 

 「では、一度部屋に帰るですか。もうすぐ日も暮れるですし」

 

 「あら、ほんと。いつの間にか結構時間が立ってたのね」

 

 「あぁ、昼食の間だけって言って代わって貰ってたのに、悪い事したわね。あとで謝っておかないと」

 

 あぁ、シエスタさんに看病を代わって貰って話に来てたんでしたね。

あの後、すぐここに移動してきたですから、連絡もせずにずっと任せていた事になるですね。

 

 「まぁ、一度帰ってからですね。夕食の事もあるですし、早く行きましょう」

 

 「そうね。暗くなると戻るのも大変だし、急ぎましょう」

 

 キュルケがそう結論してタバサの手を取り学院に向けて歩き出します。もうそのまま家路につく親子です、微笑ましいと言うのはおかしいですかね。

 

 「私達も手を繋ぐですか?」

 

 「あっちは親子だけど、こっちは何になるのかしら?」

 

 どうやらルイズも親子の様だと感じたみたいですね。

 

 「うーん。姉妹ですかね、お姉様?」

 

 「うん、出来の良い妹か。複雑ね」

 

 そんな事を言いながら私達も手を繋いでキュルケ達を追いました。

今日でここに来てから二日が立ったわけですが、その二日で友人が4人も出来たです。私よりほんの少し背の高いルイズを見つつ、これからどうなるのかと思いを馳せます。

 とりあえずは、私の魔法はあまり使わないようにして、ここを追われる事のないようにしなければ。折角出来た友人と離れないといけない事態にならないよう、注意しましょう。

 

 「こうして友達と歩くのは子供の頃以来よ」

 

 私の視線に気付いたルイズがそう呟くです。

 

 「今はないのですか?」

 

 「今は皆ゼロってバカにするだけで、近付かないからね」

 

 なるほど、そういうことですか。あの教室の状態を見れば頷かざる得ないですね。

 

 「私で良ければこれからも手を繋ぐですよ?」

 

 言った瞬間ビクッとなったルイズですが、すぐ再起動して少し顔を赤くしながら、

 

 「手は、恥ずかしいからいいわ。一緒に歩くだけで」

 

 そう言うルイズを見ると、更に赤くなって行くです。

微笑ましい彼女の手をもう少し強く握って、私達はキュルケ達からはぐれないように、足を早めました。

 

 私の世界を色付けてくれたのどかのように、彼女にとって掛け替えのない友人になれたらいいと、その赤い、それでいて嬉しそうな顔を見ていると、強くそう思ったです。

 

 

 

 

 




説明の無理やり感が酷い第七話でしたぁ。
最初ルイズ達にネギま魔法を教える展開もいいなぁ、と書いてたんですが、これから先おかしな事になりそうなんで、結局やめました。

そんな事すると、ゼロ魔の世界が侵食されそうなので、これからもしないでしょう。
楽しそうなんだけどねぇ。ゼロ魔が食われないようにバランスを考えていこうと思います。

でわ、また次回〜

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