彼女……稲城金比羅が死んだ。
『余命六ヶ月』
死んだ日は安井金比羅宮で出逢った日から六ヶ月後の日だった。
金比羅は『余命』があることを俺の目の前で倒れるまで話さなかった。
主治医の処置により意識が戻った金比羅は病院のベッドで全て話してくれた。
金比羅が言うには出逢ったあの日は自分の病気と縁を切るために来ていたらしい。
全てを終わらせて帰ろうとした。
そのとき、目の腐ったこの俺を見つけ、
余命がある自分でさえ目が腐っていないのに何であんなに腐っているのだろうと近付いたらしい。
俺の絵馬を見ると、
『 今までの人間関係の縁が切れて、このような縁が一生来ませんように 』
と書いてあった。
金比羅はそれを見て死ぬまでの間だけ友達になって欲しいと願った。
最初はただの友達と思っていたが遊んでいるうちにそれが好きな人に変わっていき、両親に頼んで、無理やり俺をここに居させた。
刻々と死が近付いているのがわかっていたから。
これが我儘だということはわかっていた……だけどこれだけはこの願いだけは聞いてほしかった。
叶えてほしかった。
『最期まで好きな人には近くにいてほしい』と。
倒れたあの日……
デートと称していつも通り遊び、帰る間際で金比羅の提案であの場所に再び行った。
…………俺は薄々気付いていた。
金比羅が本当に俺を好きということ……俺が本気で金比羅を好きになったこと。
だからこの縁が切れる前に俺、金比羅が同時に告白した。
後悔しないように。
そして、俺たちは『本当の恋人』になった。
その嬉しさ、喜びもつかの間、その日に金比羅が入院した。
入院した日からしばらくの間、金比羅は部屋(個室)から出ることができず、外でデートがしたいと主治医にお願いしていたが一蹴されていた。
当たり前だ。
ようやく病院の外(敷地内)に出る許可が降りて、俺たちはデート(?)をすることができた。
俺が車椅子を押す形で。
それから毎日、病院の敷地内ではあるがデートをたくさんした。
思い出になる写真もたくさん撮った。
でもその分だけ苦しくなることをお互い知っていた。
だけど、一緒にいられるのならその時間を共有したい。
共有しておきたい。
いつ、また出逢えるかがわからないから…………。
そして……金比羅が亡くなる三日前、急変して意識が無くなった。
前日まで元気で笑顔で……。
俺が金比羅の変顔の写真を撮って言い合いになったが目の腐ってない俺の写真を撮ることで許してくれた。
その写真を見てお互い笑い合った。
これ誰?という感じで。
そのあと屋上に行って明日は何をするかを話し合った。
三十路手間で結婚を急いでいる看護婦さんにイチャイチャを見せつけるとか、主治医の恥ずかしい写真を撮るとかいろいろ出し合った。
屋上から出る間際、金比羅が何かを感じ取ったのかお願いをしてきた。
それは…………俺と彼女の最初で最後になった『キス』。
最初はお互いに恥ずかしがって中々できなかったが勇気を振り絞って俺から唇を近付けた。
それをきっかけに時間が来るまで何回もした。
最後の一回は泣きながらキスをしていた。
俺は金比羅の意識が無くなってから亡くなるまでの間奇跡を信じて話しかけた。
出逢った日のこと、俺を慰めてくれたこと、告白した日のこと……退院してしたいこと、いろいろ話した。
俺の願いは叶うことはなかったが亡くなる直前にそれは起きた。
俺の手を握り返したこと。
手を握っている俺にしかわからないくらいの力で…………。
そして、俺の手を握っている力が無くなると同時に金比羅が亡くなった。
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俺は月命日でお墓に参る次いでに思い出の場所を訪れている。
最後が金比羅宮になるように。
あのときと変わらない夕暮れ時………………。
「そろそろ、帰るか」
俺が金比羅宮から出ようとすると突然強い風が吹く。
それが俺には金比羅が俺の背中を押しているように感じた。