二次創作/デジモンアドベンチャー03 ロストソウル   作:島鳥 烏

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 大人になった太一が主人公の物語とは違い、こちらは新たなる選ばれし子供の亮が主人公の物語になっています。それとアドベンチャーらしくデジタルワールドメインの話にしていきます。
 
 ここからは私事になってしまうのですが、もう片方の03から時間が空いてしまって申し訳ないです。私としましても出来れば月一で次話を投稿できればと思っているのですが、仕事やプライベート色々で時間が作れず間が空いてしまいまして・・・。
 それに最後のバトルについても話が長くなってしまうと言う事からバッサリカットさせていただきました。肩透かしになってしまうのは重々承知しています。重ね重ね申し訳ないです。
 ですが、そのバトルももう片方ではしっかり書かせていただきますのでもうしばらくお時間をいただければと存じます。
 前置きが長くなってしまいましたが、もう片方の話共々楽しんでいただければ幸いです。


新たなる冒険のゲートが開く時

 東京都内、とある小学校。

 柔らかな朝日の中、多くの子供達が登校するいつもの光景。そしてその子供達と共にパートナーのデジモンも共に登校するのもすっかりそのいつも通りの光景の一部となっていた。

 電脳の世界、デジタルワールドで生まれたデジタル生命体、デジタルモンスター、通称デジモン。データだけの存在であったデジモンだが、過去に起きた現実世界とデジタルワールドが重なる事件によって互いに密接な繋がりを持つに至った。そして、子供達はデジヴァイスを介して心を繋げたデジモンをパートナーとして共存していく事が現実となった世界。

 だが、たった一人だけ、例外がいた。

「はぁ・・・はぁ・・・、良かった、追いついた。何とか遅刻せずに済んだか」

 遅刻してしまうと全力で走っていた少年は先に行っていた集団登校のグループに追いつき、肩で息をしながらも安堵の息を同時に漏らす。

 そんな様子にこのグループを纏め、同じクラスの委員長も務める少年が苦笑交じりで迎える。

「今日は遅刻しなくてよさそうだね。でも、もう少し早く出るようにしたら朝からそんなに疲れる必要もなくなると思うけど?こっちも待たなくて済むしさ」

「そうしたいのはやまやまなんだけど、こいつが負けを認めなくて」

「え~、そっちだってこっちが勝ったらもう一度ってやめようとしないじゃん」

 少年の言い訳に不満を挟んだのは自身と同じ大きさのパチンコを背負った子猿のデジモン。この少年のパートナーのコエモンだった。

「ゲームか何か?別にやるなとは言わないけど程々にした方がいいよ。それで支障をきたすまでやって勉強に身が入らないんじゃ・・・」

「い、委員長!小言はまた今度って事で!ほら、俺達に突き合わせて委員長まで遅刻させる訳にはいかないからさ!よし!コエモン!学校まで競争するぞ!」

「いいね。引き分けのままじゃ気持ち悪いしね」

 朝から小言は聞きたくないとばかりに一方的に話を打ち切って少年は自分が待たせたグループを置いて学校へ向かって再び走り出す。

 やれやれと肩を竦めながら元気なのはいい事かなと思いながら見送る。

そう、思うだけ。先を行く二人の様に言葉を交わせるパートナーが委員長と呼ばれた少年、八神 亮(やがみ たすく)にはいないのだから。

 

 

 

 その後、亮は学校の近くに来るといつも額にかけているゴーグルを外すと慣れた手つきでポケットの中へ仕舞う。出来れば常に身につけておきたいが校則に引っかかってしまう為に学校の敷地に入る時にはこうして仕舞うようにしている。

「お、おはよう、亮君」

 そんな時に声を掛けてきたのはクラスメイトの少女、朝霧 風花(あさぎり ふうか)

 そしてその隣には風花のパートナー。柔らかな毛に全身を包み、フワフワと宙に漂う羊雲型デジモンのフワリモンが揺らめいていた。

「ああ、おはよう。朝霧さん。珍しいね、遅刻ギリギリなんて」

「うん、ちょっと考えなくちゃいけない事があって、それで寝坊しちゃって」

「考えるって、何か悩み事?僕でよければ相談ぐらいには乗れるけど」

「あ、ううん。いいの。大した事じゃないから」

「そうなの?それならいいんだけど」

「うん、ありがとう。それより早くしないとチャイムなっちゃうよ」

 そう言って風花は歩く速度を上げて校舎の中へと入っていく。

 いつもとは違う様子が気になりつつも相手が望まない以上無理に聞き出すのは良くないかなと胸の中に収めた。だが、風花の抱える悩みを直ぐに知る事となる。

 

 放課後。誰もいなくなった教室で風花はフワリモンと残っていた。

「はぁ~」

 物思いにふけていた風花が溜息を吐き出す。その原因となっているのは風花が持っていた一枚の紙。

「何で私にこんなのが届いたんだろう」

 そう呟きながら改めて目を落としたその紙には次の時代を担う選ばれし子供達を育成する計画の参加の有無を問う内容が書かれていた。

「でも、良かったの~、亮君に相談しなくて~。一緒に考えてくれると思うんだけど~」

 風花の悩みを共に考えているのか考えていないのかいまいち捉え処のないおっとりとした口調でフワリモンは風花にそう尋ねる。

「・・・言えないよ。だって亮君はパートナーがいないんだよ。それなのにこんなの言える訳ないよ」

 風花は以前別の町で暮らしていた。そして町に出没していた不審者に狙われてしまっていた。その時、不審者から風花を守ろうとする一心でフワリモンは完全体への進化を果たす。

 だが、風花の恐怖心から力を制御しきれず、相手に重傷を負わせる事となってしまい、その時に相手に与えられた恐怖だけでなくフワリモンが相手に重傷を負わせてしまった事が心に大きな傷となって風花は心を閉ざし、風花の両親も町に留まるといつまでも風花の心の傷は癒えないとこの町へと引っ越してきた。

 心を閉ざしたまま誰とも話をしようとしない風花だったが、亮だけはずっと親身になって声をかけ続けてくれて、やっと過去の悪夢から解放されたのだった。

 個人差はあれど低学年の時には全員パートナーデジモンと出会えている。それなのに一人だけパートナーが現れずにいる亮に自分が特別な存在に選ばれてしまった等と言える筈がなかった。

 そうして家にいても頭の整理が出来ない風花は静かになった教室に残って考え込んでいた。

「・・・やっぱり断ろうかな。あっ」

 そう決断しようとした時だった。窓から入り込んだ風が風花の手からその紙を奪い去っていく。

 そして地面に落ちたその紙を拾ったのは担任からの頼まれごとを終えて戻っていた亮だった。

「これって・・・」

「た、亮君・・・。それは、その・・・」

 しまったと顔を伏せる風花に亮はゆっくりと傍までやってくる。

「ごめん、勝手に見ちゃって。でも、もしかして悩んでたのってこれ?」

「その、実は・・・うん・・・」

「えっと、僕の事とか気にしてたりする?何てそれは流石に自意識過剰か」

 風花の様子に亮はそう考えるも、直ぐに思い直す。

そこに空気に揺られているのに一切空気を読もうとしないマイペースの化身とも言えるフワリモンがその空気をぶった切る。

「そうなんだ~。フーちゃんったら変に気を使っちゃってね~」

「フ、フワリモン・・・」

 ぶっちゃけるフワリモンに風花はバツが悪そうにする。だが、これもただ空気を読んでいないのではなくフワリモンなりに風花の事を思っての事なのだろう。・・・恐らく。

「そうだったんだ。なら僕の事なんて気にしなくていいよ。確かにパートナーが見つからないのは寂しいよ。でも、きっと何処かにいる筈なんだ」

 そう言いながら亮はポケットに引っかけているデジヴァイスを手にする。

「僕の許にデジヴァイスはこうして現れてるんだから」

 人がパートナーを求め、その思いがデジモンに繋がった時にデジヴァイスが現れ、同時にデジヴァイスを媒体にしてデジタルゲートが開き、パートナーデジモンと出会う事となる。

 亮は誰よりも早くデジヴァイスが自分の許に現れていた。それなのにパートナーだけが現れない。

 こんな事は他には起きていない。原因も分からないのだから対処しようもない。それでも亮は信じているのだ。デジヴァイスがある以上絶対にパートナーがいるんだと、そう言ってくれた人がいるから。

「亮君・・・」

 その亮の言葉に風花は自分の意思を固める。

「・・・そうだよね。だったら私が亮君のパートナを見つけてきてあげる」

「・・・え?」

 その突然の発言に亮も驚く。それに風花は照れくさそうに言葉を続ける。

「だって、もし私が選ばれし子供の一人になれたらデジタルワールドに行けるかもしれないし。そうしたら亮君のパートナーを探しに行けるから」

 デジモンが生まれたデジタルワールドには凶暴なデジモンがいるなどの危険性から調査隊以外には行く事が認められていない。けれど、選ばれし子供達の一員になれれば調査隊に同行する事も出来るかもしれない。亮がいけなくても自分がいけるなら代わりに探しに行く事も出来る筈。

 その風花の思いに面食らいながらも亮もその思いに礼を返す。

「ありがとう。でも、さっきも言ったけど僕の事は気にしなくてもいいよ。朝霧さん自身がやりたいかどうかが一番大事だろうし」

「わ、分かってるよ。私もデジタルワールドに行ってみたいってのがあるから」

 デジモンをパートナーに持つ者としてはやはりデジタルワールドへの興味がある。それに嘘偽りはないが、一番の理由はやはり亮の為だ。だが、それを伝えるのは風花の中にある亮への思いと同じぐらいに恥ずかしい事なのだから出かかっていたその思いを少し顔を赤くしながら胸の中に仕舞う。

「そっか。それじゃ、そのついでにお願いしようかな」

「大丈夫~、私がいるから任せて~」

「もう、何でフワリモンが言うのよ」

「だって私も一緒に行くのを忘れてそうだったから~」

 自分の事も忘れないでほしいと何やら甘酸っぱい空気になりそうな所に割って入ってくる。

フワリモンのおっとりとした抗議に亮と風花はついつい笑みを溢してしまうのだった。

 

 

そんな暖かい日々の中で、その温かさとは無縁の深き闇の奥底でまるでその闇そのものの如く静かなる声が静寂に満ちた世界に波紋を呼ぶ。

「必然から生まれた偶然。偶然から生まれた必然。

 未来を見失った者と過去に囚われし者。

 ようやく舞台は整った。さぁ、新しい物語の幕を開けるとしよう。いや、彼等に合わせてゲートが開く、と言った方がいいやもしれんな。くっくっくっくっ・・・」

 

 

 下校するのが遅れて空が闇に向けて茜色に染まる頃。帰り道を歩く亮だったが、突然デジヴァイスに異変が起こる。

デジヴァイスを手にした亮はその画面から侵食し合うように溢れる白と黒の光を目にする。

「これって・・・まさか・・・!」

 デジヴァイスが見せた初めての反応に亮の心はざわつく。

 それに呼応するかのように二つの光は激しさを増し、そして亮の眼前にゲートが開いた。

 

 

 

「そいつが委員長のパートナーなのか?」

「でも、良かったね。パートナーが見つかって」

 翌朝。学校に着いて亮はパートナーのデジモンをクラスメイトに紹介していた。

 だが、亮のパートナーデジモンは集まる人から逃れるように亮の陰に隠れていた。

「ほら、挨拶ぐらいはちゃんとしないと駄目だよ」

 亮に促されて姿を見せたデジモンはローブで全身を覆い、すっぽりと深くまで被ったそのデジモンは姿を見せてなお、顔も体もその全てをかくしたままの姿をしていた。

「・・・初めまして」

 促されて亮の陰からローブに包まれた頭を覗かせるも、一言だけ告げると直ぐにまた隠れてしまう。

「ごめんね。臆病なところある子みたいで」

「みたいだな。・・・でも、珍しいデジモンだよな。なんて名前なんだ?」

「それが分からなくて。データベースで調べてみたけどそこになかったし、この子も自分の名前を知らないらしいし」

 デジタルワールドの研究機関がデジモンのデータベースをネット上に公開していて誰でもあらゆるデジモンを調べる事が出来る。それも確認されているデジモンだけではあるが、それ以前にデジモン自身が自分の事が分からない等を言うのは類のないケースだった。

「そうなのか?また何か色々面倒そうなのがパートナーなったんだな」

「でも、委員長にはピッタリなんじゃない?面倒見いいんだしさ」

「そうなのかな?う~ん、言われてみればそうなのかもね」

 なんて少し不思議なパートナーを紹介し、集まったクラスメイトと会話をする亮だったが、密かに思いを寄せる風花はその中に加われずに離れた席から気にするだけしかできていなかった。

 

 その後、授業が始まると生徒のパートナーデジモン達は閉鎖された空間に集まっていた。

 ここはデジタルワールドを解析した技術で作られたサイバースペース。

デジヴァイスを通じてサイバースペースに入ったデジモン達は子供達が授業を受ける間の時間をここで過ごしている。

 閉鎖されているとはいってもデジモン達が集まるには十分な広さがあり、簡素ではあるものの必要な物は全て揃っている。

ここで本状に束ねられたデータを読んだり、自由に遊び回ったりして思い思いの時間を過ごしながら他のデジモン達と交流を深めている。

 だが、亮のパートナーのローブのデジモンは教室の時からも予想できる通り、隠れるように端の方で一人っきりで座り込んでいた。

 そこに一体のデジモンがやってくる。

「なんか辛気臭ぇのがいるな」

 粗野な口ぶりと態度の小鬼の姿をしたデジモン、ゴブリモンがぶしつけに話しかけてくる。

 それにローブのデジモンは逃げ場を探すようにきょろきょろと視線を彷徨わせる。

「何だ?受け答えもまともにできねぇのか?」

「あぅ・・・」

 最初から端にいるせいで逃げ場もなく、じろじろと覗き込んでくるゴブリモンに何も出来ず、一方的に言われるがままになってしまう。

「・・・にしても薄気味悪ぃ奴だな。お前一体何なんだよ」

 自分の名前を知らないようにその問いに対する答えを持っていないのか、それとも持っていても答える対応力がないのか、ローブのデジモンは口を噤んだまま。

 それにゴブリモンは苛立ちを募らせる。

「おい、何とか言ったらどうだ。口ぐらいあるんだろ」

 声を荒げ始めるゴブリモンに対してローブのデジモンは怯えを増し、その口も身もさらに硬直させてしまう。

「何だ?ホントに口がねぇのか。ちょっと見せてみろよ」

 顔を隠すフードを無理やり剥がそうとゴブリモンが手を伸ばしてくる。だが、それが届く事はなかった。

「ふわふわふわり~ん」

「な、なんだこりゃ!?」

 突然現れ腕に纏わり付いてきた白い雲の様な物体を払おうとゴブリモンが激しく腕を振り回している所にその物体を放ったデジモンが現れる。

「人が嫌がる事をやるのはあまり感心しないよ~」

 間延びした特徴のある声の主、フワリモンはゆらゆらと揺らめきながら傍までやってきていた。

「何だてめぇ!喧嘩売るつもりか!」

「そう言うの私苦手~」

「だったらちょっかい掛けてくるんじゃねぇ!」

「でも~、みんな仲良くした方がいいんじゃないかなって思うから~」

「ちっ!」

 いくら打っても全く響かないフワリモンのあまりのマイペースっぷりにゴブリモンは気が削がれたと舌打ちだけを残して立ち去っていく。

 ローブのデジモンはフワリモンに助けられたのだが、それに礼を言うでもなくその間にこの場から離れようと背中を向けていた。

「ねぇ~、どこ行くの~」

「あ・・・、うぅぅぅ・・・」

 呼び止められてビクリと動きを止め、ローブのデジモンは体を縮こませる。そこにフワリモンはポフンとその頭の上に乗っかる。

「へへへ~、、気持ちいいでしょ~。私の自慢なんだ~」

 フワリモンは自分の体を覆う柔らかな毛を押し付ける。

 乱暴なゴブリモンも、ローブのデジモンの怯えも一切に気にしないフワリモンのマイペースさに毒気が抜かれ、ローブのデジモンは「・・・うん」と短く頷いた。

 

「なんか、ごめんね。この前お願いしてたのに無駄になっちゃって」

「ううん、大丈夫だよ。それより亮君のパートナーが見つかってよかったね」

 先日の事もあり、亮が話をしたいと風花を誘って下校の帰り道を共にしていた。

「・・・でも、今まで来なかったのってどうしてなのかな?」

 ずっと亮の前に現れなかったのに前触れもなく急に現れたかと思うと、すっかり仲良くなったフワリモンを頭に乗せていて、まるで何事もなかったかのように生活に溶け込んでいる。

 イレギュラーな状態だったのにそれを感じさせない様子は不可思議さをより強調している。

「僕も聞いてみたんだけどよく分からなくて。暗い所にいたらしいんだけど・・・」

「それって何処かに閉じ込められてたとか?」

 それなら現実世界に来られなかった理由の説明も付く。けれど、その一方でそれは何らかの厄介な問題を抱えている事をも意味している。だが、そう言う訳でもないらしい。

「う~ん、聞いた限りそうでもないみたいなんだよね。建物の中にいて、そこから出たらダメだって言われてたけどその中だったら自由にしてよかったらしいし」

「でも、そこから出るのを止められてたから亮君の所にこれなかったんでしょ?それなのどうして今これたのかな?」

「それも本人にもよく分からないみたいで。突然、パートナーの所へ行きなさいって言われて来たらしいから」

「そうなんだ。本当に不思議な子なんだね。話を聞いた方がよく分からなくなるなんて。あ、でも悪い子じゃなさそうだよね。亮君のパートナーなんだし」

「そうだね。・・・ずっと待ってた僕のパートナーなんだから」

 謎は一切解明されないまま。それ処かより深まっているようにも感じられる。それでも自分のパートナーだからと信じるしかない。

 それに亮には風花に話さなければならない事は他にもある。

「まぁ、深く考えてもこれ以上は何も分からないだろうしね。それよりあの時の用紙ってもう出したの?」

「あ、うん。学校に来る途中でポストに入れてきたけど」

「そうなんだ・・・。本当にごめん。今更言っても手遅れだと思うけど・・・」

 自分の発言で影響を与えておきながら、それが完全に意味を無くしてしまっている。その上、もう取り返しか聞かない状況にしてしまったと心の底から謝る。

「謝らなくてもいいよ。前にも言ったでしょ。私だってデジタルワールドに行ってみたいからって」

 最大の目的は失ってしまったが、それでも風花のデジタルワールドへの興味が失われた訳ではない。それにその経験をネタにすれば亮と話す口実も出来ると言う初々しい下心もあるのだから。

「でも、余計な気を遣わせちゃったのもあるし・・・。何か埋め合わせみたいなのができればいいんだけど・・・」

「私は別にいいんだけど・・・」

「でも、何もしないってのも悪い気がするし・・・。本当にいいならそれでいいんだけど・・・」

 お互いに相手に気遣う中で、それを変えるのは決まっている。

「だったら~、もうすぐ夏休みだし~、お祭りにでも一緒に行ってもらえばいいんじゃないかな~。人数は多い方が楽しいし~」

 フワリモンの提案にその時の光景が風花の頭の中に浮かんでくる。そこにいるのは主に自分と亮だけだが。

「う、うん。そうだね。私もそうしてくれると嬉しいかな」

「僕は構わないけどそんなのでいいの?」

「うん、もう十分だよ」

 風花が心の中でフワリモンのフォローへの感謝と共に小さくガッツポーズをする。

 その間にまだ人間界に来て日の浅いローブのデジモンが疑問符を浮かべる。

「おまつり?」

「うん。沢山の出店があって他の楽しいんだよ~」

「楽しいの?」

 それに今度は亮が答える。

「そうだね。君もお祭りに行ってみるのはいい経験になるだろうし」

 こうしてやっと出会えたパートナーの加わった新たな日々の一ページが刻まれていく。けれどこれは新たなる冒険の始まりへと続く物語の序章に過ぎなかった。

 

 それから時間は流れ、夏祭り当日。

 待ち合わせの駅に先に着いた亮達に少し遅れて風花達もやってくる。

「ごめん、待たせちゃったかな」

「いや、僕達もさっき来たばかりだよ。約束の時間にもまだ少し早いぐらいだしね」

 そう言葉を交わしながら亮の目に風花の姿が目に付いた。

「浴衣着てきたんだね」

「うん、せっかくの夏祭りなんだしね」

「私が選んであげたんだよ~。似合うでしょ~」

 風花が直接聞けない事を聞き出そうとするフワリモンに風花は照れくさそうに少しだけ俯く。

「でも、ちょっと子供っぽくないかな」

 そんな風に言う風花の浴衣は成長期のデジモンをイメージした柄が入っていた。なんでも和装を元にした服をコーディネートする新進気鋭の若手クリエイターが手掛けた物らしい。

 風花の照れの中にはもっと大人っぽい物の方がよかったんじゃないかと言うちょっとした恥ずかしさも交じっていだが、亮の言葉でそれも無くなる。

「そうかな?可愛くていいと思うよ。それにこれから行くお祭りは人とデジモンの共生を祝う為の物だから、その意味でもピッタリだろうしね」

「そうかな?だったらいいんだけど・・・」

 亮がそう言ってくれるならと風花から恥ずかしさは無くなる。その代わりにちょっとだけ照れが増してしまってはいるが。

「ほら~、私の言った通りでしょ~」

「うん、そうだね」

 フワリモンが自分の見立てに間違いはなかったと鼻を高くする。そんな中で亮のズボンの裾が引っ張られる。

「・・・行かないの?」

 事前に楽しい場所と聞かされ、祭りへの期待感を滲ませるフードのデジモンが急かしてくる。

「ああ、そうだね。この子も待ちきれないみたいだしもう行こうか。話なら歩きながらでも出来るしね」

 駅から出た一行は祭りが開かれる日比谷公園を目指して歩いていく。

「そう言えば、選ばれし子供達って奴。もう始まってるんだよね」

「うん、そうだよ」

次世代の選ばれし子供達を育成する計画は子供達の夏休みに合わせて実施され、風花とフワリモンも都内にある研究所を始めとしたデジモンやデジタルワールドに関わる施設の集うデジモンセンターに通うようになっていた。

「それで選ばれし子供達ってどんな事してるの?」

「今は基礎的な訓練とデジモンやデジタルワールドに関する勉強かな」

「へ~、いたって普通なんだね」

「まだ始まったばかりだから。これからどうなるかも分からないし」

「まぁ、いきなり特別な事をやるって事はないよね」

 選ばれし子供達がどんな事をしているのか。その興味は当然亮にもある。だが、それに関する事柄で亮に聞きたい事が風花にもあった。

「そう言えば、亮君って八神 太一(やがみ たいち)さんって人、知ってる?」

 風花の唐突に出てきた名前に亮は目を丸くしながらもそれに答える。

「え?太一さんは僕の従兄だけど」

「やっぱりそうなんだ」

「でも、そうして朝霧さんが太一さんの事を知ってるの?」

「実は私達の教官として訓練をつけてくてるのが八神さんなんだ」

「・・・そうだったんだ。でも太一さんなら信じて大丈夫だよ。僕だって太一さんがいてくれたおかげで助けられたから」

「亮君にとって特別な人なんだね」

「一応、そうなるかな。このゴーグルをくれたのだって太一さんだったから」

 そう言いながらその存在を確かめる様に額のゴーグルに手を当てる亮の言葉には太一に対する絶対的な信頼が感じ取れる。

 相手は男性で勿論そんな感情ではないと分かっていてもそんな亮の姿に風花は少し妬いてしまう。

 そんな風に他に参加しているのはどんな子達なのかや、そのパートナーデジモンの事。研究センターの中の様子など、色々と話しながら目的の日比谷公園に近づいてきた時、不意の亮のズボンの裾をフードのデジモンに引っ張られてその足を止める。

「どうしたの?」

 さっきの期待を滲ませていた時とは対照的に怯えているように裾を握る手も強張っていた。

「・・・うぅぅぅぅ」

 尋ねても呻きに似た声を漏らすだけで要領を得ない。

「えーっと、話してくれないと分からないんだけど・・・」

 亮もその場にしゃがんで視線の高さを合わせて聞き出そうとするが、ローブのデジモンは俯いてしまうだけで返事がない。

「急に立ち止まって、どうしたの?」

「それが僕にもさっぱりで」

 同じ様に足を止めた風花に同じ様に聞かれても亮は答えられない。

「ねぇ~、行かないの~?お祭り楽しいよ~」

 フワリモンが隣に並んで話しかけても何も変わらない。

 このまま立ち止まっている訳にもいかないが、答えてくれなければ解決方法も探せない。

 どうすればいいのか、三人が困り果てている横を数人の人が横切っていく。その瞬間、亮は自分のズボンの裾を握るフードのデジモンの手に更に力が込められたのを感じ取った。

「・・・もしかして人が多いのを怖がってるのかな?」

 その質問に返答はないが、握る手に入る力でそれが正しい事が分かった。

他者とコミュニケーションをとるのが苦手なフードのデジモンはどうやら祭りを目当てに集まってきた人達の多さにたじろいでしまっているようだ。それでも行ってみたい気持ちもあるから,その二つが混じってうまく言葉にできないようだ。

「大丈夫だよ。僕が傍にいるから」

「でも・・・」

 接するのが苦手なのに大勢の人が集まる場所に行く。それは言葉に出来る程容易な事ではない。そんなパートナーに亮は手を差し出す。

「ほら、手を繋いでれば大丈夫だから。色んな美味しい物が食べられるし、楽しそうなイベントだってあるみたいだから。それにゆっくり行くから。ね」

「・・・う、うん」

 そう説得されてフードのデジモンは亮のズボンから話した手で亮の手を握る。

「じゃぁ、行こうか。また怖くなったら手を引っ張ってくれればもっとゆっくり歩くから」

「・・・うん」

 人の多さから来る怯えを繋いだ手から伝わる暖かい優しさに支えられて乗り越えて歩き出した。

 

「うわぁ・・・」

 公園の中に集まったひしめく人の多さにフードのデジモンはたじろいでしまう。だが、その場で立ち止まる事はなかった。

「大丈夫だよ。でも、このままいきなり奥まで行くのはきついだろうし、とりあえず近くの出店から見に行ってみようか」

 そう決めて、亮はパートナーに合わせてゆっくりと人波を掻き分けながら進んでいく。

 そして立ち並ぶ出店の中から選んだのは出店の鉄板、たこ焼き屋台。だが、普通のたこ焼き屋台ではなかった。その店でたこ焼きを焼いていたのは頭にかぶった壺に王冠を乗せた軟体型のデジモン、オクタモンだった。そして本来銃と剣を持つ代わりに持ったピックで瞬く間にたこ焼きを返していた。

 人間にはない柔軟な体だからこその滑らかな動きに通りすがる人々は思わずその足を止めていた。

「ヘイ!らっしゃい!見ての通りこいつの腕前は見事なもんでしょう!勿論見かけだけじゃなく味だって本物!おっと中身はこいつの足じゃないから安心してくださいよ!いや、ご期待に沿えなくて、と言った方がいいかもしれねぇな!」

 軽快かつ活気のある店主の声は焼きあがっていく生地の音と立ち上るソースの香りと組み合わさり、より多くのお客を引き留めていた。

 だが、それに隣の出店が真っ向から喧嘩を売り行く。

「たこ焼きなんて普通過ぎるだろ。他にある様な事したってつまらねぇよ」

 そう噛みついてきたのは出店もオクタモン同様にイカの形態をした軟体型のデジモン、ゲソモンがその屋台の中にいた。そしてそこで出していたのはまさかのイカ墨スパゲッティだった。

「へ!御大層な事を言ってるつもりだろうが、去年まで出してたのはイカ焼きだったじゃねぇか!」

「それがなんだってんだ。ゲソモンを生かす為に考えた結果なんだよ。それにこっちはゲソモンの墨を使って作ってるんだよ。こっちに比べてそっちはただ引っ繰り返させてるだけじゃねぇか」

「くっ・・・」

 痛い所をつかれてたこ焼き屋の店主は言葉を詰まらせる。だが、オクタモンが口撃を仕掛ける。

「ゲソモンの墨なんて食えたもんじゃねぇ。そんなもん食ったら体が痺れちまうだろ」

 オクタモンの口撃に今度はゲソモンが反論する。

「デッドリーシェードの事を言いたいらしいが、残念だがあれは吐き出す時に毒と混ぜ合わせてるんだよ。墨自体には何の効果もない。それどころか普通のイカには比べ物にならない味の深みがあるんでね。当然、試食して問題がないのも実証済みだ。だから出店が許可されたんだよ」

 指摘した問題点を論破し、尚且つ自分達のイカ墨スパゲッティのアピールまで同時にしてくる手ごわい相手だが、オクタモンの立ち向かう姿にたこ焼き屋の店主が今一度自信を奮い立たせる。

「だとしても、日本の祭りに洋食なんてのは似合わねぇな。そんなん食っても祭りに来た気分に浸れねぇんだからな!」

 気勢を取り戻したたこ焼き屋の店主をイカ墨スパゲッティ屋の店主が迎え撃つ。

「自分達に出来る最大限の事をしようとしてるだけだ。常識に縛られてるだけじゃ新しい事なんて始められねぇからな。ま、その程度の度胸すらないような奴にとってみれば正しく馬の耳に念仏ってもんかもしれねぇけどな」

「んだとこの野郎!喧嘩売ってんのか!」

「何だ?そんな事にも気づいてなかったのか?」

 舌戦の域を出そうな程に苛烈になっていく両者だったが、それは突然終わりを告げる。

「ったく、そんなにピリピリしてたらお客さんが近寄ってこれないやろ。もうオトンは下がっといて。オクタモンも手を止めない!」

「おい、邪魔するんなら帰って寝てろ。お客さん、こんなのは放っておいていいから是非食べて行ってください。ちょっと変わってますが、味は保証しますし他の祭りじゃ食べられませんからね」

 オクタモンのパートナーらしき高校生ぐらいの少女と、同じくゲソモンのパートナーらしき高校生ぐらいの少年が父親であるそれぞれの店主を一喝する。

「・・・仕方ねぇな。今日はここまでにしておいてやるか」

「どっちが正しいか。売り上げを見れば分かる事だしな」

 共に矛を収めて騒ぎも収まる。

「・・・なんか色々あるみたいだね。でも、良かったよ。落ち着いたみたいで」

 部外者でしかない亮達は騒ぎが収まるのを眺めるだけだった。そしてやっと収まった事で店の前まで行く事ができる。

「う~ん、やっぱりたこ焼きの方がいいかな。イカ墨スパゲッティはちょっとね」

「それなら私がそっち買ってみようかな。ちょっと面白そうだし」

「そうだね~。分け合えば両方食べられるしね~」

 そうして風花がイカ墨スパゲッティを買いに行っている間に亮はたこ焼きを買いに行く。

 亮が代金を払って受け取り、その少しの間に話していたたこ焼きをフードのデジモンがじっと見つめる。

「・・・それ何?」

「たこ焼きって言う食べ物だよ」

「食べれるの?」

「うん。美味しいんだよ」

「・・・なんかうねうねしてる」

「ああ、鰹節だね。これも美味しいんだよ。食べたらきっと気に入ると思うんだけど・・・。ここだと他の人の迷惑になっちゃうからね」

 亮は少しの間、放していた手を繋ぎ直して購入を済ませた風花達と屋台から少し離れた場所へ移る。

「ここならいいかな」

 亮は比較的人の少ない場所でしゃがみ込んでローブのデジモンのデジモンに高さを合わせる。

「ちょっと待ってね。熱いから少し冷ましてあげるよ」

 そう言って亮はたこ焼きの中から適当に選んだ一つを刺した爪楊枝で少し持ち上げて息を吹きかけて冷ましてから差し出す。

「はい、どうぞ。中はまだ熱いだろうから気を付けてね」

 そう言われてフードのデジモンは恐る恐る食べる。入れた瞬間は大丈夫だったが、噛んだ瞬間に熱さに襲われてフードの中の目を白黒させながらハフハフと息を吐き出す。

「ご、ごめん。もっと冷ました方がよかったね」

「うぅぅぅ・・・熱い・・・でも、美味しい・・・」

 どうやらたこ焼き特有の熱さに苦戦しながらもその美味しさを堪能できたようだ。

 それに亮も表情を緩めながらたこ焼きが半分になるまで交互に食べていった。

「ね~、そろそろ交換しない~」

「あ、そうだね」

 フワリモンに促されて亮と風花はたこ焼きとイカ墨スパゲッティを交換する。

 渡されたイカ墨スパゲッティは透明なフードパックに入れられている事もあって、一見焼きそばの様に見えなくもない・・・・・・のかもしれない。

「イカ墨スパゲッティか・・・。まさか出店で食べる事になるなんて思わなかったな。それで実際食べてみての感想はどう?」

 初めて食べるものの感想としては聞いておきたい。ましてやこんな場違いとも言える所で出して言えばそれは猶更だろう。

「う~ん、まさしくイカって感じかな。好きな人は好きだと思うんだけど・・・」

「そ、そう」

 見る限り反応はいま一つ。これでは食べてみようと言う気が湧いてこないが食べない訳にはいかない。

 亮は未知の食べ物を恐る恐る食べてみる。まったりとした甘みと共にイカの旨みがいっぱいに広がる。だが、その独特の味わいと微かに残る生臭さは子供にはちょっと厳しかった。

「・・・なんて言うか、大人の味って言えばいいのかな」

「私は結構好きなんだけどな~」

 二人とは違い、フワリモンはこの味わいを理解できたらしい。

 亮が独特な味わいを前に微妙な表情を浮かべる間に亮のクイクイと引かれる。

「あ、君も食べてみたいよね」

 ローブのデジモンの行動の意味を理解して亮はたこ焼きに続きイカ墨スパゲッティを食べさせてあげる。

「・・・どうかな?」

「・・・こっちの方が好き。・・・熱くないから」

「ははっ、そうか。そんなに熱いのがダメだったんだね。それじゃ熱いのは避けるようにしようか。出店は他にも沢山あるしね」

 ローブのデジモン共々、新しい経験をしながら祭りを楽しんでいく。その楽しさはいつの間にはローブのデジモンの中から恐れを取り去っていた。

 その最中、屋台に並べられていたリンゴ飴を見つけたローブのデジモンは、その宝石の様に鮮やかな色に心惹かれて繋いでいた亮の手を放して駆け出してしまう。

「あっ!待って!・・・っ!」

 慌てて追いかけようとした亮は通りかかった人にぶつかってしまう。

「す、すいません・・・」

 頭を下げて謝る亮に、ぶつかってしまった相手はいいよと軽く手を挙げてそのまま歩き去っていく。

 その後に亮が追いついた時にはローブのデジモンはしょんぼりと肩を落としていた。

「勝手に行ったらダメだよ。こんな風に危ないからね」

「・・・うん」

 亮に注意されてローブのデジモンは深く反省する。

「でも、気持ちはわかるよ。リンゴ飴って綺麗だもんね。見に行ってみようか」

 そう言って亮は手を差し出す。

「う、うん」

 ローブのデジモンもその手を握って改めてリンゴ飴の出店の方へと歩いていく。

 こうしてパートナーとの初めての祭りを楽しんでいた亮達だったが、その姿を見ていた奴等がいた。

 

 出店を一通り回った亮達は大噴水の近くにあるベンチに座って一休みしていた。

「結構色々と買っちゃったね。けど、君が楽しんで切れたみたいだからいいかな」

 小学生のお小遣いで今回の出費は祭りと言えど少々痛い。それでも隣に座ったローブのデジモンは頭にお面を乗せながらヨーヨー釣りで手に入れた水風船で遊んでいる姿を見られたのだから、その対価として不満はない。

「ふふっ、そうだね。私も誘ってよかったかな」

 亮とそのパートナーが喜んでくれるのは誘った風花も嬉しく思う。勿論、亮と一緒に夏祭りに来られた事が風花にとって一番嬉しい事なのだが。

 だが、今日この日は楽しい事だけでは終わらなかった。寧ろこれから過酷な物語の始まりとなるのだった。そして、風花がある事に気付いた事がその切っ掛けとなってしまう。

「あれ?亮君。ゴーグルが無いみたいだけど・・・」

「えっ・・・?」

 そう言われて額に手を当てた亮は風花が言う通りゴーグルが無くなっている事に気付く。その途端、亮の顔が青褪めていく。

「・・・何で・・・でも・・・どこで・・・」

「た、亮君?大丈夫?」

「・・・あれが無いと・・・また・・・」

 大切な物だとしてもここまで動揺するのは異様ともとれる。そんな今まで見た事のないまでに動揺する亮に風花は心配するがその声も届いていない。

「よう、もしかして探してんのはこれか?」

 亮のゴーグルを持って現れたのは亮のクラスメイトの少年、高杉 和真(たかすぎ かずま)。ただ、いいクラスメイトと言える相手ではない。不良とは言わないまでもお世辞でも素行がいいと言う事の出来ない相手だった。

 連れているパートナーも以前ローブのデジモンに絡んできたゴブリモンである事もそれを示している。

「・・・見つけてくれたの?」

「偶々だけどな。さっき人にぶつかってただろ?そん時に落ちたのを見ててな」

「そ、そうなんだ。ありがとう」

 亮はゴーグルを返してもらおうと和真の許へ行くが、それに和真は底意地の悪い笑みを浮かべる。

「おっと、わざわざ持ってきてやったんだ。返礼っての?そう言うのあってもいいんじゃないのか?」

「返礼って・・・何をすればいいの?」

「大した事じゃないさ。俺等とデジモンバトルをして欲しいんだよ。いいだろ?委員長だってパートナーデジモンがいるんだからさ」

「で、でも、そんなの・・・」

 亮は人一倍争いごとを嫌っている。それはゴーグルを貰う事になった経緯と密接に関係している。 だからこそ、亮にとってゴーグルは絶対に手放せない物になっていた。

 そして、そのゴーグルを取られた亮の心の中が様々な感情が渦巻き始める。

「・・・や、やってみる」

「・・・え?」

「大事な物なんだよね。だったら返してもらわないと。・・・た、戦った事ないけどやってみる」

「・・・うん、頼むよ」

 亮はパートナーの思いに全てを任せる。だが、亮ならパートナーを自分の都合で危険な目に合わせるような真似はしそうにない。何か異常な状態にしか見えない。それを最も感じているのは風花だが、いつも見ていた姿からは想像もできない程に動揺する亮にどうすればいいのかも分からずいた。

 亮も代わりに止める者もいない以上、この戦いは避けられなくなってしまっていた。

 

「相手の行動一つ一つを見極め、弱点を狙いに行く知的な戦法。それに対して全てを力でねじ伏せようとする正反対のスタイルを持つ両者のバトル。素晴らしいの一言に尽きます!」

「うん。勢いのままに押し込むベアモンと最小限の動きで躱しながら隙を見逃さずにカウンターを仕掛けていくコテモン。最後は力で押し切られる形になっちゃったけどもう一度戦ったら同じ結果にならないかもね」

「お集りの皆さん!激しい接戦を見せてくれた両者に拍手でその健闘を称えましょう!」

 大噴水の近くに用意されたデジモンバトル用の特設ステージではどことなく天使を彷彿させる衣装に身を包み、仮面で素顔を隠す謎の司会者、デジモンマスターT・Tとそのパートナーである大きな耳が特徴の哺乳類型デジモン、パタモンがデジモンバトルの参加者と観客を盛り上げていた。

「まだまだバトルは続きます。さぁ、次の対戦者を迎えましょう!」

 デジモンマスターT・Tの言葉に観客は次の対戦者を拍手で迎え、その拍手を受けながら亮達は舞台に上がる。

「そんなに固くなるなよ。やる事なんて単純なんだから」

「う、うん」

 まるでただ遊ぶだけかのように気軽な口調のゴブリモンにローブのデジモンは頷く。だが、それは僅かな間だけだった。

「両者とも準備は整ったようだね。それじゃ始めるよ。デジモンバトルスタート!」

 その掛け声と共にゴブリモンから気軽さは消え、代わりに獲物を見定めた下卑た笑みに顔を歪めた。

「俺がボコボコにしてやるだけだからな!」

 そう言い放ち飛び出したゴブリモンは棍棒で殴り掛かる。

 ローブのデジモンはその突然の攻撃に成す術もなく殴り飛ばされる。

「あっ!・・・うっ!」

 地面へと倒れた相手を見下すようにゴブリモンは棍棒の先をもう片方の手と合わせてパシパシと打ち鳴らす。

「おいおい、これで終わりとかじゃねぇだろうな。それだと肩透かし処じゃねぇぞ」

 ゴブリモンはこれで終わりなんて自分が満足できないと吐き捨てるが、その言葉の殆ど届いていない。だが、そんなのは関係なくローブのデジモンは痛む体を押さえながら立ち上がる。

「ああ、そうこなくっちゃな。おら、どんどん行くぞ!」

「ぅぅぅぅぅぅ・・・・」

 何度も繰り出されるゴブリモンのこん棒をローブのデジモンは身構えた腕で防いで耐えるだけ。

 あまりにも一方的な光景に風花もフワリモンも見ていられなくなってしまう。

「た、亮君。も、もうやめさせた方がいいんじゃ・・・」

「そうだよ~、棄権してあげようよ~」

「き、棄権・・・。そうだね。そうした方が・・・」

 二人に言われて亮もやっとその考えが浮かぶ。だが、相手はそれを許さなかった。

「おいおい、そりゃないだろ。勝負ってのは最後までやりあってこそ面白いんだろうが。もし、そんな萎える事するってんならこっちの気も変わっちまうかもな」

「そ、そんな・・・」

 決着がつくまで許さない。それは暗に自分達が倒すまで逃げるなと告げている。

「仕方ねぇな・・・。おい、そろそろ終わらせてやれ!」

「まだやり足りねぇが、まぁいいか。これで終わりにしてやるよ!ゴブリストライク!」

 一方的に甚振っていたゴブリモンが和真の指示を受けて棍棒を大きく振りかぶる。これでこの戦闘にもなっていない戦いが終わる。

だが、この時、誰も気付いていなかった。ローブのデジモンの口から洩れていたのが弱弱しい呻きではなく、底より込み上げてくる獰猛な唸り声に変わっていた事に。そしてそれが予想外の結末を招く事となる。

「・・・ゥゥゥゥゥ・・・メガフレイム!!」

 ゴブリモンの棍棒が届く直前でフードの奥でその目が赤く光り、そしてそのローブの中に隠れる口から高熱の炎が放たれる。そしてそのゴブリモンはその炎に飲まれた。

「・・・な!?」

 和真を始め誰もが予想しえなかった結末に目を疑う。そしてその間にもゴブリモンがステージ上に崩れ落ちる。

「・・・おおっとまさかの展開!この逆転劇を誰が予想したでしょうか!」

 誰もが呆然とする中、最初に我に返ったデジモンマスターT・Tが静まり返った会場の空気をもう一度盛り上げる。

 それによって再び歓声が上がる中で和真はギリリと歯を食いしばる。

「何でだよ・・・メガフレイムってグレイモンの技だろ・・・なんでそいつが使えるんだよ・・・」

 有り得る筈のない反撃によって自分に返ってきた理不尽な展開を前に和真は亮達をキッと睨みつける。だが、それ以上何をするでもなく気を失ったままのゴブリモンを運んでいく救護班の後に続いてこの場から立ち去ろうとする。

「あ、待って!返してよ!」

「・・・知るかよ」

 ゴーグルを返すと言う約束ごと吐き捨てて行こうとする和真だったが、その前に立ち塞がる者がいた。

「事情はよく分からないけど何か約束してるんだよね?約束は守らないと駄目だよ。そんな悪い子には僕がメッてしちゃうよ」

 その大きな耳で飛目の前まで飛んできたパタモンの注意に和真は舌打ちしながらゴーグルを投げ渡してくる。

「あっ・・・」

「これでいいんだろ」

 ゴーグルをキャッチした亮を後目に和真は救護用のテントへと向かっていった。

 ゴーグルを無事取り戻せて安堵し、心が落ち着いていく亮の許にローブのデジモンが戻ってくる。だが、突然その体が前のめりに傾く。

「あっ!?」

 その体を亮が抱き留める。

「大丈夫!?」

「う、うん。ちょっと体が痛くなっただけだから。それより、役に立てたかな?」

「うん、ちゃんと返ってきたから。全部君のおかげだよ」

 心の平穏を取り戻した亮は感謝しながらも、パートナーに強いてしまった負担を後悔してしまう。

「そっか、良かった」

 だが、ローブのデジモンは亮の言葉を聞き、役に立てたのだと安堵と共に体から力が抜ける。

 そんな二人の目の前に白い物がひらひらと舞い降りてくる。

「・・・雪?」

「・・・綺麗」

「・・・うん」

 まだまだ未熟ながらもパートナーとして絆を繋いでいく二人は真夏に降る不思議な雪を見上げていた。

 

 だが、その時。降り注ぐ雪よりも高い空の上。真夜中の空よりも黒い影が地上を見下ろしていた。

「・・・この力。・・・存外早く見つかるものだな」

 そしてその影もまた悠然と地上へと舞い降りる。

 

「送ってくれてありがとう。今日は楽しかったよ。そ、その亮君も来てくれたから・・・」

 風花は亮に祭りに行ってくれた礼を伝えながら、最後にひっそりと本心を添える。

「僕も朝霧さんと行けてよかったよ」

「えっ?」

 思わぬ亮の言葉に風花は目を丸くさせる。だが、やはりと言うべきか、それは風花が望む物とは少し違っていた。

「友達と行くのは家族と行くのと違った楽しみがあるしね。それにフワリモンもこの子と仲良くしてくれてるし」

「・・・そうだね」

 自分の願望がそう簡単に現実になる訳がないと分かってはいても、そんな思いがあるからこそ突然の言葉に期待してしまう。そんな自分に恥ずかしさが込み上げてくる。

 それを知ってか知らずか、フワリモンがその後に

「最後に邪魔されたのだけなければもっとよかったんだけどね~」

「そうだけど、別に今言わなくてもいいでしょ」

「だって~」

 フワリモンの不満ももっともだが、風花はあの時の亮の様子が引っかかっていて、だからこそあまり触れるべきではないと思っていた。

「でも、あれはそもそも僕の不注意が原因だしね」

「違うよ。勝手に行こうとした僕を追いかけたからだから・・・」

 否は自分にあると言う亮にローブのデジモンはそもそもの発端は自分にあるとそれを否定する。

「だったら二人とも悪かったって事にしようか」

 そう言って亮はちゃんと反省を忘れていないパートナーの頭を撫でる。

「それじゃ、僕達も帰るから。また学校でね」

「うん、またね」

 ありふれた別れの挨拶。けれどこの当たり前の約束が果たされる事はなかった。

 

 風花を家まで送り届け、亮達も帰り道を今日の事を話しながら歩いていく二人の前に静かに一体のデジモンが降り立った。

 黄金に縁どられた漆黒の鎧に全身を包み、蒼いマントをはためかせる姿はまるで闇と一体になるかのよう。けれど悪しき存在ではない。寧ろその対極に位置する聖騎士、それこそが二人の前に現れたデジモン、アルファモンだった。

 何の前触れもなく現れたアルファモンは二人を見据える。いや、正確に言うならローブのデジモンを見た後に亮の方へと視線を向ける。

 そして徐にアルファモンが手を翳すとその周囲に魔法陣が展開する。

「そこを退け。俺も無用な犠牲は出したくない」

 アルファモンが何を考え、何をしようとしているのかは分からない。それでもアルファモンの言動を前にしてそのまま言う通りには出来ない。

「・・・いきなりなんですか?何をするつもりですか?」

 亮はローブのデジモンを守るように後ろに隠し、アルファモンに対峙する。

「そいつを始末する。それだけだ」

 やはりと言うべきか。アルファモンのしようとしている事は到底受け入れる事が出来ないものだった。

「そんな事させない。この子は僕のパートナーなんだから」

 自分の至らなさで苦しませてしまったからこそ、いや、それがあろうがなかろうがパートナーを守らなければならない。

 目の前の強大な相手の静かな圧力を前に気圧されそうになりながらも亮は真っ直ぐに睨み返す。

 そんな亮にアルファモンは失笑を漏らす。

「・・・フッ、パートナーだと。有り得ないな。嘘ならもっとまともな嘘をつくんだな」

「ありえないって・・・。この子は僕のパートナーだ!」

「・・・何を勘違いしているが知らないが。人間のパートナーなど出来る筈がない。そいつはデジモンではないんだからな」

「デジモンじゃない・・・?」

 アルファモンのその一言に亮は言葉を失ってしまう。確かにローブのデジモンは

けれど、それを信じる事は出来ない。突然現れたアルファモンと共に過ごしてきたパートナー。どちらを信じるかは明らかだ。

「そんなの信じない!そっちの言ってる事の方が嘘じゃないの?」

「それならそいつの名は何だ?デジモンであるなら種としての名が存在するだろう」

「・・・名前」

「答えられないだろう。種の証明が出来ない事こそがデジモンではないと言う証だ。・・・そうだな。敢えて名をつけるとするなら、決して存在を許してはならない、消滅させなければならない異物。ロストモン、と言った処か」

 アルファモンの言う通り、亮はパートナーの名を知らなかった。だが、自分のパートナーとしてデジヴァイスを通して自分の許へとやってきたのも間違いのない事実。

 亮はアルファモンの言葉に揺らいでいた心を立て直し、アルファモンを見据える。

「・・・逃げるよ」

 そしてロストモンと呼ばれたローブのデジモンの手を取って全力で走りだす。

「無駄な事を」

 狭い路地の中へと逃げ込んで消えた先を見つめながらアルファモンは光の翼を広げて再び空へと飛翔する。

 

 入り組んだ道を選んで逃げ続ける亮達だったが、その姿は頭上を飛ぶアルファモンには意味がなく、展開された魔法陣から放たれた光弾が亮の進行方向の先の地面を打ち抜く。

そしてその衝撃によって足を止めた亮達の前に再度立ち塞がる。

「諦めろ。そいつを差し出せば済む話だ」

「そんなの出来る訳ない!」

「・・・意思は固いか。仕方ない、ならばお前も運命を共にしてもらうしかないな」

 人を殺す事をも辞さない。その揺るぎのない決意を二人に向ける瞳の奥に宿すアルファモンが亮達に向けて手を翳し、魔法陣を展開する。だが、そこから光弾が鼻垂れる事はなかった。

「・・・どうやら他にも邪魔立てする奴らがいるようだな」

 そう言いながら亮達から外したアルファモンの視線の先に二体のデジモンがパートナーと共に駆けつけてきていた。

「あいつか!光子郎が言っていたって奴は!」

「どうやらそうらしいね、ヤマト」

 全身をメタル化させた狼のデジモン、メタルガルルモンとその背に跨るパートナーであり、かつての選ばれし子供達の一人だった石田 ヤマト(いしだ やまと)が市街地を駆け抜ける。

 そしてもう一組。

「亮も一緒か。まさかとは思ったけど的中するなんてな」

「しかもあまり穏やかな状況だとも言えそうにないようだ」

 超金属クロンデジゾイドの鎧を身に纏った竜戦士、ウォーグレイモンがその手に抱えながら同じくパートナーであり、かつての選ばれし子供達の一人であり、そして亮の従兄でもある八神 太一(やがみ たいち)が夜空を飛翔して現れる。

「ウォーグレイモンとメタルガルルモンか・・・」

 その二体のデジモンを視界に捕らえたアルファモンは何かを馳せるように目を細める。

 そのアルファモンの細やかな反応に気付かず、ただ立ち居姿から発せられる淀みのない気配に太一達は実力を悟る。

「ただもんじゃないってのは間違いないみたいだな」

「最初から全力で行くしかないって事か」

 強敵を前に太一とヤマトは互いに目配せをする。

「久しぶりだな。行くぞ!ウォーグレイモン!」

「本当にこの力が必要になるなんてな。頼んだぞ!メタルガルルモン!」

「「ジョグレス進化!!」」

 二人が同時に掲げたデジヴァイスが一際強く輝きだす。そしてその光に導かれ、ウォーグレイモンとメタルガルルモンは融合し、二つの力を合わせた新たなるデジモン。純白の鎧とマントに身を包み、ウォーグレイモンの形をした左腕とメタルガルルモンの形をした右腕を持つ聖騎士、オメガモンへと進化する。

 白と黒。相対する二体の聖騎士であるデジモンが視線を交錯させる。緊迫する状況で先に口を開いたのはアルファモンだった。

「・・・まさかまたこうしてオメガモンに会えるとはな」

 アルファモンが呟いた意味深な言葉にオメガモンは怪訝な表情を浮かべる。

「私を知っているのか?」

 そうにしか聞こえないアルファモンの呟きだが、オメガモンにはアルファモンと出会った事はない。だが、それも当然だった。

「ああ、よく知っているさ。但し俺のいた世界のオメガモンだがな!」

 それ以上、何も語る気はないと両腕で展開させた魔法陣から無数の光弾を放つ。

 対して、オメガモンは振り抜いた左腕のグレイソードで迫る光弾を次々に切り捨てる。そして流れるように右腕のガルルキャノンから放たれる絶対零度の冷気弾にて反撃を行う。

 それをアルファモンは攻撃の為に展開していた魔法陣を防御用の魔法陣へと変え、正面に出現させた障壁で防ぐ。その攻防を皮切りに両者の激しい戦いが繰り広げられる。

 強大な力を持つ二体のデジモンが戦い合う中、亮も黙ってみているだけではいられなかった。

 この場に留まっていても見ているしかできない。戦いの最中にロストモンと呼ばれた自分のパートナーを狙ってくるかもしれない。

 それなら逃げるべきか?だがそれは太一達に全てを押し付けると言う事になってしまう。例え残ったとしても何も出来はしないとしても。

それにこの場から逃げたとして逃げられる保証はない。太一達と合流できればいいが、太一達と逸れたままアルファモンに追いつかれてしまえば打つ手はない。

(この子を守る為に僕はどうすればいいんだ・・・)

 その答えを示すかのように亮の目の前の空間が歪み、その先に見た事もない光景が広がっていた。

(・・・まさか・・・どうして・・・!?)

 突如として開いたデジタルワールドへと続くデジタルゲート。何故、今ここに開いたのかは分からない。それでも亮が出来る最善の方法はこれしかない。

「行こう!」

「・・・うん!」

 亮はパートナーの手を取って走り出す。

「待て!亮!」

 呼び止めようとする太一の声にも振り向かず、亮はまるで自分達を助ける為に開いたようなデジタルゲートの中へと飛び込んだ。

 亮達を助ける為だけに開いたのではないとも知らずに・・・。

 




次回予告
 ついに自分のパートナーとの出会いを果たすも、アルファモンの襲撃にあってしまった八神亮。
 その時、目の前に開いたゲートへとパートナーと共に逃げ込むも、最低限の知識しか知らない亮達は右も左も分からず当てもなく彷徨うしかなかった。
 そんな二人の前にあるデジモンが現れる。
次回、「漢の教え」
 新たなる冒険のゲートが開く。
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