二次創作/デジモンアドベンチャー03 ロストソウル 作:島鳥 烏
今回ではアルファモンやオメガモンに並んで人気を集めるあのデジモンが登場します。
他にも作品には自分のデジモン愛を小ネタとして反映させています。例えば第一話の方ではワールドやフロンティアの劇場版を用いたりしております。これより先の話はあまり入れ込む余裕がないので入るかどうかは分かりません。
今回の話でもあるデジモンとの出会いがちょっと都合がいいよなと自覚しながらも、全五話で纏めようと思ってるのでどうしても話を詰める都合上そうなってしまいました。ですが都合よくなってしまっているのはこの部分だけになると思うのでご容赦頂ければ・・・。
作品についてはここまでなんですが、一つ謝っておきたい事があります。今回の投稿は二週間前に負える筈だったんですが軽い鬱状態なってしまって全く話を書けなくなってしまって遅れてしまいました。PS4のフリープレイの戦国BASARAのおかげでストレス解消できて何とか立ち直る事が出来ましたが・・・次回の投降も遅れる可能性があります。
ネガティブな要素ではなくポジティブな要素ではあります。
と言うのも年末はゲームが次々に発売されてしまうのです・・・!
アトリエ、地球防衛軍、龍が如く、そして何よりデジモンストーリーに新作が出てしまう!この誘惑に抗う事は難しい・・・。
出来る限り並行して書き進めるつもりではありますがどうしても遅れてしまう可能性が高くて・・・(汗)
なので先に謝罪させてもらいます。申し訳ないですが少々お待ちください。
「・・・これからどうしようか」
アルファモンから逃げる為にデジタルゲートへ飛び込んだものの、亮はデジタルワールドに関する知識は最低限しかなく、当てのある訳がなかった。
「どこへ行けばいいとか、君は何か分からない?」
デジモンならデジタルワールドの事も知っているのではないかと尋ねるも、ロストモンと呼ばれていたパートナーは首を横に振るだけ。
「そっか、暗い場所にずっと居たって言ってたもんね」
今いる場所は見渡す限りの平原。現実世界と同じで時間的に夜の闇に包まれているが、それも朝が来れば当然明るくなる。ずっと暗いままと言う事はない。少なくとも元々居た場所はここではないのだろう。
「遭難した時は助けが来るまであまり動かない方がいいって聞くけど。・・・助けじゃなくてあの黒いデジモンが来るかもしれないし」
ゲートは既に閉じている。直ぐには来ないだろうが、いつ来るかも分からない。ここにずっと留まる訳にもいかない。
「・・・兎に角、先へ進んでみようか」
亮はパートナーを連れて当てもないままにデジタルワールドを彷徨い始める。
道なき道を歩き続けるうちに夜も明け始める。それだけの時間を歩き続けた二人にも疲れの色が見え始めてしまう。それでも前に進み続けるしかない。
まるで生えるように前半分が地面から突き出るバスや、逆さに建って中に入れそうにもないビル等々。現実にはあり得ないデジタルワールドならではの歪な光景の中を通り過ぎていく。そんな中で不意に見なれてはいるが絶対に平原にはある筈のない物が二人の前に現れる。
「・・・自販機?」
草木が生い茂る平原の中で無造作に林立する自販機はあまりにも浮いている存在だったが、もっとおかしなものを見てきた上に、歩き疲れた二人は気にする事もその前まで行く。
「・・・これ、使えるのかな?・・・少し疲れたし買ってみようか。何がいい?」
そう聞かれてローブのデジモンは自販機の商品を見るも、なかなか決められなかった。
「・・・決められないかな?だったらお茶でいい?体を動かした時に甘い物ってのもなんだし」
「うん」
ローブのデジモンが頷き返したのを確認して、亮は投入口に硬貨を入れる。けれど、その効果はそのまま返却口に落ちて帰ってきてしまった。
「・・・ダメか。そうだよね。こんなところにある自販機が使える筈ないよね」
肩透かしな結果が切っ掛けとなって抱えていた不安や疲労が一気に押し寄せてくる。
そうして亮は使えない自販機に背中を預け、その場に座り込んでしまう。
その隣に同じ様に座ったローブのデジモンはそっと呟いた。
「・・・ごめんね」
「どうしたの?急に」
「だって、僕がいなかったらこんな事にはならなかったから・・・。あのデジモンも僕の事いない方がいいって言ってたし・・・」
不安なのが一緒なだけではなく、その原因が自分にあるんじゃないのかと余計につらい思いをしていたのだろう。
「そんな事ないよ。君と出会えて僕は凄く嬉しかったんだから。だって君は僕のパートナーのアライブモンなんだから」
「アライブモン?」
アルファモンが言っていたロストモンとは違う呼び名にローブのデジモンは首を傾げる。
「うん、君は生きてていいんだよ。だから、ロストモンなんかじゃない。アライブモンなんだ」
「・・アライブモン。・・・うん!」
亮がつけてくれた新しい名前を反芻して、アライブモンは大きく頷く。
その様子に亮も表情を綻ばせる。
「歩き続けて疲れちゃったし、このまま少しだけ休もう。・・・そしたらまた先へ行こう。デジモンが住んでる場所は見つけられなくてもデジモンは絶対に見つけられるから。そこで話を聞いてもらえれば・・・」
気が緩んだ亮に睡魔がやってきて、使えない自販機に体を預けたまま眠ってしまう。
ガチャン!
つい眠ってしまった亮達だったが、近くで何かが落ちる音に起こされてしまう。
「う・・・ん・・・」
「起こしてしまったか。済まぬな」
目覚めた亮達に向けて謝ったのは身長二メートルを超す大男。だが、人間ではない。肩から羽織るGAKU❘RANに身を包んだ獣人型デジモン、バンチョーレオモンだった。
「・・・えっと」
座ったままの態勢で時間的にも殆ど寝れていない亮は念願のデジモンを前にしても頭が働かない。そんな亮を他所にバンチョーレオモンは亮達に向けて話し続ける。
「人間は時折見かけはしたが子供は初めてだな」
そう言いながらバンチョーレオモンは亮達を起こした時とは別の分の水を新たに自販機から二本購入する。
「起こしてしまった詫びだ。遠慮なく飲むといい」
そう言いながら差し出してくる水を亮は呆然としたまま受け取る。
「こ、これで大丈夫です」
「・・・どうした?呆けたままで。まだ寝ぼけてるのか?それとも子供にはジュースの方が良かったか?」
「その、自販機使えるんですか?」
色々と聞きたい事はあったが、まだ整理をつけられない頭の中で最初に出たのがその疑問だった。
「ん?そうでなければこれはいったい何だと言うのだ?」
亮の疑問にバンチョーレオモンは自分用に先に買っていた水を見せながらそう答える。
「寝てしまう前に買おうとしたんですけど買えなかったんで・・・」
「・・・もしやその後ろのから買おうとしたのか」
「そうですけど」
「だとしたらそれは当然だ。よく見てみろ。その自販機には明かりが灯っていないだろう」
そう言われて確認してみるとバンチョーレオモンの言う通り、背中を預けていた自販機には明かりが灯っていない。もう少し早くついていれば暗い闇の中で気づけたかもしれなかったが、夜明け近くの薄闇の中ではそれに気づけるだけの余裕は亮には残ってなかった。
「そ、そうだったんだ」
何の事はない。ただ自分の注意力が足りなかっただけなのかと気が抜けてしまう。
「ふっ、だが運がいい。この場合は悪運の方が適切か」
「悪運、ですか?」
「ああ、なんせ動いていない自販機の中にはヌメモンが入り込んでいる事があるからな。もしそれに遭遇していたらどうなっていたか」
軟体型デジモン、ヌメモン。攻撃力も知性もないが外敵と認識した相手に向けてウンチを投げつけてくるそれはそれはとてつもなく恐ろしいデジモンである。もしそんなデジモンに襲われでもしたら・・・。
「・・・そうですね」
その悲惨な光景を想像して顔を引きつらせる亮の様子にバンチョーレオモンは基本的な知識もない様子を訝しむ。
「そんな事も知らぬとはな・・・。お主らだけか?他に誰かおらぬのか?」
「はい・・・。僕達だけです」
「ふむ。・・・何か事情があるようだな。良ければ話してみぬか?」
「はい・・・、実は・・・」
亮は自分達がデジタルワールドに来るに至った経緯を話すと、バンチョーレオモンは神妙な面持ちを浮かべる。
「・・・成程。それでデジタルワールドへと逃げてきたのか」
事情を理解したバンチョーレオモンは亮の説明の間に渡された水を飲んでいたアライブモンに目を向ける。
「・・・確かに他とは違う奇妙な気配を感じるな」
バンチョーレオモンのその言葉にまさかアルファモンの様にアライブモンを排除しようとしてしまうのかと身を強張らせる。
そんな亮に対してバンチョーレオモンは力強くも暖かい笑みを返す。
「案ずるな。我は子供を襲うような下劣な真似はせん。それは漢としての道に反するからな」
「・・・男?」
日常では決して聞くことはないであろう多少大仰なワードにアライブモンは小首を傾げる。それはバンチョーレオモンのスイッチを入れてしまう事になってしまうのだった。
「否!男ではない!漢である!!」
バンチョーレオモンの勢いに驚いて飲んでいた水を落としそうになっているアライブモンを他所にバンチョーレオモンは語り続ける。
「男と言うのは性別を意味するものだ。だが、我の言う漢とは生き様の事だ。常に高みを目指し進み続ける者。それは何でも構わない。力であれ、知識であれ、心であれ、己の道を見出し臆する事無く突き進む事が出来る者。それが漢だ!!」
これ以上ない程の熱意を込めて自身の信念を語るバンチョーレオモンだったが、それをアライブモンには伝わっていなかった。
「・・・まぁ、いいだろう。こればかりは言葉で伝えられるものではないからな。そう!伝えるには己が生き様を見せる他ないのだからな!」
そしてバンチョーレオモンはその信念に基づいてある決意をする。
「あい!分かった!ならば我がお主らの面倒を見よう!」
「えっ・・・、いいんですか?僕達としては有難いですけど・・・」
「当然だ。寧ろこのまま見過ごす事こそ問題だ。何故ならそれは漢の道に反する事になってしまうからな」
バンチョーレオモンの個性の強さに押されながらも助けてくれるデジモンに出会え、亮達に一筋の光明が差し込まれた。
その後、バンチョーレオモンにデジタルワールドでの旅のいろはを教えてもらいながら平原を進み、やがてデジモン達の村の近くまで辿り着く。
「おお、そうだった。町の中での注意点だが、自販機は円でもいいが町にある店の場合はドルでの支払いになるからな。なんでもそれを知らなかった人間にがいて、食い逃げをされそうになったと言う話があるそうだ。お主らも気を付けておくようにな」
「そうなんですね。それを知らなかったら僕も食い逃げしなくちゃいけなくなってたかも」
「それは関心せんぞ。金がないなら食い逃げなどせず労働で返せばいいのだからな」
「それもそうですね。でも、自販機は円が使えたのに店ではドルになるのって何でですか?」
「さぁな、我も知らぬ。この世界は人間の世界のデータが集まって出来たものだ。その理由も人間の方に関係しているのではないか?」
推測するとすれば世界で最も使われている貨幣はドルになる。けれど、最も自販機の割合が多いのは日本になる。それが反映された結果、そんなちぐはぐで面倒な状況がデジタルワールドでは当たり前になっているのかもしれない。
とは言え、何者かの意志によって作られた世界ではないのだからその真相を知る者はいない。そして何より無秩序な世界であるデジタルワールドにおいてその理由を探る事は無駄以外の何物でもないのだろう。
こんな風にその都度必要な事を学びながらやがて町の姿が見え始める。だが、不意にバンチョーレオモンがその足を止める。
「どうしたんですか?」
「何やら様子がおかしくてな。少し様子を探る。我の後についてこい。慎重にな」
その指示を受けて気配を消して物陰に身を隠しながらバンチョーレオモンは進み始め、亮達もその後に続く。
町から少しそれた場所にある周囲を一望出来る高台へと登ってそこから様子を探る。すると町の中には軍人の様な姿をしたデジモン達が町に住むデジモンが我が物顔で歩き回っている光景があった。
「・・・D❘ブリガードか」
「D❘ブリガード?」
初めて聞く名前に疑問符を浮かべるアライブモンにバンチョーレオモンが答える。
「ああ、デジタルワールドの各地で無法の限りを尽くす外道共だ」
「何でそんな事するの?」
「それは奴等にしか分からぬだろう。だが、ただの無法者とも違う。我も幾度か相対した事があるのだが、完全に連携の取れた戦い方を見る限り自らの欲のままに行動を起こしているとも考え辛い」
バンチョーレオモン言う通り。最速で町の制圧を進めるD―ブリガード達には無駄な動きはなく、完全に統制が取れている。見た目同様完全に軍隊そのもの。
「目的がなんにせよ悪行を見逃す事は出来ん。奴等を追い返してくる。お主等はここで待っていろ」
そう言い残してバンチョーレオモンは一気呵成に町へと乗り込む。
幾度となく辛酸を嘗めさせられたバンチョーレオモンの突然の襲撃にもD❘ブリガードのデジモン達は動じる事無く陣形を組んで迎撃を開始する。
前列を固める竜型サイボーグの歩兵デジモン、コマンドラモンの部隊が携帯するアサルトライフル、M16アサシンを一斉に放つ。
「その程度でこの我が止められると思うてか!!」
だが、バンチョーレオモンはそよ吹く風と一切怯まず、弾幕の中を勇猛果敢に突っ切っていく。
その気迫を前にしてもコマンドラモンも恐れずに尚も銃弾を放ち続ける。
絶えず放たれる無数の銃弾を浴びながらもバンチョーレオモンはダメージを受けてはいない。それを可能にしているのは物理攻撃の89.9%のダメージを無効化するGAKU―RANがあるからこそ。けれど、それを得られたのも偏にどんな逆境においても立ち向かい続けた勇敢さによってバンチョーの称号を得たからこそだ。
そして降り注ぐ銃弾すらも意に介さず、バンチョーレオモンは瞬く間に距離を詰め、そして繰り出される拳の前にコマンドラモンの陣形はいとも容易く瓦解する。だが、その瞬間、後ろに控えていたコマンドラモンの中においても選ばれた一部の者しか進化できないエリート、シールズドラモンが吹き飛ばされるコマンドラモンを飛び越え、頭上からバンチョーレオモンに襲い掛かる。
「喝っ!!」
だが、それもバンチョーレオモンは裂帛の雄叫びだけで大気を震わせ、それによって体制を崩したシールズドラモンに拳を叩きつける。
強烈な一撃を受けて尚もシールズドラモンは立ち上がる。精鋭として選ばれただけの事はある。
そしてシールズドラモンは正面から特攻する。だが、それは無謀な行動ではない。スカウターモノアイによってGAKU―RANの特性を分析し、それによって羽織っただけではだけたまま晒されている胸元こそが唯一の弱点だと見定め、そして極限まで研ぎ澄ませたナイフを突き立てる。
「・・・デスビハインド」
ナイフの切っ先は寸分違わずバンチョーレオモンの体に突き刺さる、筈だった。
「・・・それが攻撃のつもりか?」
ナイフの切っ先は確かにバンチョーレオモンの体に触れている。だが、触れているだけだ。
どれだけ力を込めても鍛え上げられた筋肉の鎧を前に刃は一向に沈んでいかない。
バンチョーレオモンが身に纏うGAKU―RANは大きな守りの力を与えている。だが、バンチョーレオモンはそれに頼りなどしない。常に己が肉体を最大限にまで鍛え上げているバンチョーレオモンにとって最大の守りはGAKU―RANではなく己自身の肉体。故に弱点などない。それがバンチョーだ。
「温いわ!」
シールズドラモンの胸倉を掴んで待ちあげたバンチョーレオモンはその胴体に容赦く拳を打ち込む。
「道具に頼った力なんぞでこの我に傷を与える事など出来ぬとしれ!」
悪辣なるD❘ブリガード達では自分には勝てないと宣告するバンチョーレオモンだったが、特殊テクスチャー加工がされている体表によって姿を消したコマンドラモンが密かに近づいてきていた。
「甘い!」
その気配を察知したバンチョーレオモンが繰り出した拳によって放たれた衝撃波が姿を消していたコマンドラモン達を薙ぎ払う。
「言ったであろう!道具に頼った所で我には勝てぬと!漢なら己が身一つでかかってこんか!!」
苛烈な怒号に初めてD❘ブリガードの面々はたじろぎを見せた。
「情けねぇな・・・。この程度でビビってんじゃねぇよ」
バンチョーレオモンと戦っていたD❘ブリガード達が空けた間から粗野な口ぶりと共に現れたのはマシーン型デジモン、タンクドラモン。
「ようやく会えたな。ずっと待ってたぜ」
「・・・どこかで会ったか?生憎と記憶になくてな」
「ああ、そうだろうな。なんせこの体になって会うのは初めてだからな!ブラストガトリング!!」
キャノン砲の横にあるガトリングガンから一秒間に放たれる3600の弾丸がバンチョーレオモンに放たれる。その激しさは瞬く間にバンチョーレオモンを覆い隠すほどまで巻き上がった砂煙が証明していた。
それでも土煙が晴れた時、バンチョーレオモンは変わらず悠然とその場に立ち続けていた。
「・・・そう言えばD❘ブリガードの中に一人だけ魂の籠った一撃を放つ奴がいたな」
「思い出してくれて何よりだ。ここじゃてめぇも本気させねぇだろ。続きは外でやろうじゃねぇか」
「ふっ、良かろう」
「てめぇらも。余計な手出しするんじゃねぇぞ。ヘタレ共にいられたって邪魔4にしかならねぇんだからな」
そう言い残してタンクドラモンはバンチョーレオモンと共に町の外へと向かっていく。
「・・・凄い強いね」
バンチョーレオモンの実力を目の当たりにしてアライブモンはそう呟く。
「そうだね。僕達が居ても足手纏いにしかならないだろうね」
バンチョーレオモンの戦いに圧倒される二人だったが、ただそのままでいる事も出来なくなってしまう。
「・・・あれ、何かな?」
アライブモンが何かを感じて、亮もその先へと視線を向けるとそこは建物の陰になっている部分。ぱっと見ではよく分からないが何かがおかしい。注視してみると何もそこにはいない筈なのに建物の陰の中に紛れてそれとは違う影があった。
「何かいる?」
影があると言う事は姿が見えない何かが存在していると言う事。そして姿を消す能力をコマンドラモンが持っている事はバンチョーレオモンとの戦闘の中で見せている。
と言う事は必然的にコマンドラモンが何かをしようとしていると考えるべきだろう。そしてそれは決して碌な事ではない。
「・・・よし」
何かを企んでいるのなら見過ごすわけにはいかないと亮はゴーグルに手を当てながら勇気を奮い立たせる。
「僕も行ってくるからアライブモンはここにいて」
「え・・・?一人で・・・?」
「大丈夫だよ。直ぐに戻ってくるから」
「・・・うん」
一人にされてしまう不安を抱えながらもアライブモンは亮に言われるままに見送ってしまう。
「そ、そこにいるんだろ!何してるんだ!」
駆け付けた亮に見破られ、コマンドラモンは潔くその姿を現す。
「・・・人間か」
バレてしまった以上は作戦の遂行は出来ない。だが、それだけが理由であっさりと姿を現した訳でなかった。
「まぁいい。代わりにお前を利用させてもらう」
そう言いながらコマンドラモンは亮にM16アサシンの銃口を向けた。
一方。平原に場所を移してバンチョーレオモンとタンクドラモンはバトルを続けていた。その激しさは平原の所々が焼け野原と化している事からも見て取れる程だ。
「チッ!相変わらず無茶苦茶な野郎だ!!ブラストガトリング!!」
草花を踏み潰しながらキャタピラを焼き切れてしまいそうな程に回し続けるタンクドラモンは絶えず弾幕を張り続ける。
対してバンチョーレオモンはその身一つで弾幕の中をタンクドラモン目掛けて真っ直ぐ駆け抜ける。
「これでもくらえ!ストライバーキャノン!!」
搭載した砲弾を胴体の左右から伸びる砲塔からバンチョーレオモンの進行先の地面に向けて放つ。
本来であれば殲滅用に周囲30キロを焼き尽くす核弾頭を積んでいるのだが、この時は殲滅ではなく制圧。万が一その障害となる者が現れた時に対応する為に一軍に加わっていたが故にそこまでの破壊力はない。だが、それも爆発範囲を抑える為だけ。威力自体はそれほど落ちてはいない。それは焼け野原となっている周囲の状況が物語っている。
着弾と同時に周囲を焦土と化す程の爆炎を跳躍して躱したバンチョーレオモンはその爆風を受けて高く舞い上がる。
「狙い通りに飛んでくれてありがとよ」
タンクドラモンは足場のない空へと飛んでしまったバンチョーレオモンに向けてもう片方の砲塔を向ける。
「そらもう一発だ!ストライバーキャノン!!」
砲弾が迫りくるも逃げ場のないバンチョーレオモンだったが、そこに動揺はなかった。
バンチョーレオモンは自慢の短刀、男魂を引き抜き、砲弾へ向けて投擲。そして真っ二つになった砲弾が生み出す爆炎の中を突っ切ってタンクドラモンへと拳を構える。
「はぁぁぁーーーーーー!!」
「舐めんなーーーーーー!!」
真っ向から迫るバンチョーレオモンにタンクドラモンも三本のニードルが付けられた鋼の拳で迎え撃つ。
拳と拳がぶつかり合い、その結果気合を纏ったバンチョーレオモンの拳がタンクドラモンの鋼の拳を打ち砕いた。
「まだだ!」
勝利を諦めないタンクドラモンはもう片方の腕でバンチョーレオモンを狙う。だが、それも弾かれバンチョーレオモンには届かない。
「お主の心意気!見させてもらった!我もそれに応えよう!」
バンチョーレオモンは足元の地面に突き刺さっていた男魂を引き抜く。そして全霊を込めた一閃を繰り出した。
「・・・獅子羅王斬」
その太刀にて全ての武装も一纏めにタンクドラモンを切り捨てる。
「・・・ぐ・・・あ・・・」
鋭い斬撃の前にタンクドラモンは幾度目かの敗北を喫してしまう。それでもタンクドラモンはまだ倒れない。
「・・・ざ・・・けんな・・・負けて・・・たまるか・・・てんだよ・・・」
もう勝敗は決した。それでもタンクドラモンは残った片方の腕で殴ろうとする。
けれど、もう既に通用しなかった上に大きなダメージを負った状態では通用するはずのない事は分かり切っている。それでも尚、勝利を掴み取ろうと腕を伸ばすかの様に僅かに残った力を叩きつけようとする。
バンチョーレオモンはそれを避けるでもなく、労わるようにそれを掌で受け止める。
「勝負を諦めぬ執念。誠にあっぱれだ。だが、時には負けを認め、受け入れる事も高みに行く為には必要な強さだ」
「・・・高みとか・・・どうでも、いい・・・。俺の前に、立つ奴を・・・ぶっ潰す・・・それだけだ・・・」
自分の事も顧みず、ただ目の前の相手だけを睨み続けるタンクドラモンの勝利への執念は相当な物。だが、それだけではまだバンチョーレオモンには届かない。
けれど、その中にある荒々しくも絶える事のない魂の輝きをバンチョーレオモンは尊いと認める。
「強くなれ。お前はもっと強くなれる。・・・むっ」
漢同士の魂の語らい。だが、それを邪魔する奴等が現れる。
「・・・遅かったか」
そこに現れたのは町に残っていたD❘ブリガード達と人質に取られた亮だった。
「・・・貴様等、その子供をどうする気だ?」
「お前を倒すのに利用するつもりだったが、どうやらそれも間に合わなかったようだしな」
そう言いながら亮を捉えたコマンドラモンを引き連れたシールズドラモンはバンチョーレオモンに敗れたタンクドラモンを一瞥する。
「だが、人質としての利用価値がなくなった訳ではない」
「くっ・・・!」
人質を取られてしまっては流石のバンチョーレオモンも成す術はなく、歯噛みする以外にない。僅かにでも隙があるのであれば直ぐにでも助け出したいが、そんな隙を見せる相手でもない。
「余計な事は考えない方がいい。こいつを死なせたくなければそこでじっとしていろ。安心しろ。お前をどうこうするつもりはない。こちらもそんな余裕もないからな。撤退するのを黙って見ていればいいだけだ」
手段を問わない非情さを持ちながらも過信に陥る事のないD❘ブリガード。だが、例外がいた。
「・・・邪魔、すんじゃ・・・ねぇ・・・つったろうが・・・」
仇敵との戦いに水を差されたタンクドラモンは仲間達に向けて怒りに満ちた敵意を向ける。
だが、それをシールズドラモンは一笑に付す。
「大口叩くなら結果を出してからにしろ。そこまで進化できたとしても所詮は落ちこぼれ。過ぎた力を持って過信した愚か者が」
「・・・クソ、が・・・」
何かしらの確執があるのか、成熟期のシールズドラモンに蔑まれ、完全体であるタンクドラモンはその目に憎悪の炎を燃やす。
だが、タンクドラモンの憎悪の炎をバンチョーレオモンの漢気の熱意が吹き消す。
「愚か者?それは貴様の方だ!!己が信念を持たぬ者に他者を見下す資格などない!少なくともこやつにはそれがあった!」
そのバンチョーレオモンの言葉にタンクドラモンは目を丸くさせる。
その一方でシールズドラモンにはバンチョーレオモンの熱さは響かず、鬱陶しそうに目を細める。
「・・・御託はもういいか?いくらほざこうがお前に何ができる?それともこいつがどうなってもいいのか?」
シールズドラモンの言葉に合わせてコマンドラモンは銃口を亮に向ける。
「ぬぅ・・・」
「それでいい。撤収するぞ。一応そいつも連れてこい」
シールズドラモンの指示を受け、コマンドラモン達はタンクドラモンを連れて立ち去っていくのを、バンチョーレオモンはただ見ているしかできなかった。
「・・・ふむ。これを仕掛けていたのか」
高台で待っていたアライブモンから話を聞きながらバンチョーレオモンは亮が捕まってしまった場所でコマンドラモンが仕掛けていた小型爆弾DCDボムを発見する。
そしてそれを空へと高く投げ、拳から放たれる衝撃波を放って爆破する。
「・・・それでお前は何もせずに居たと言うのか」
今まで何も言わずただ聞いていただけのバンチョーレオモンは全てを把握した今、アライブモンに向き合う。
「パートナーが一人で危機へと向かうのを何もせずに見ていたのか」
「・・・だ、だって亮がここにいてって・・・」
バンチョーレオモンの厳しい言葉に委縮してしまう。だが、バンチョーレオモンの叱責は更に厳しさを増す。
「パートナーが連れていかれたのに何もしなくていいと思っているのか?」
「だ、だって何すればいいのか分からなかったから・・・」
「何をすればいいかではない!何をしたいかだ!お前はパートナーを連れていかれたままでいいと思っているのか!」
「・・・ぅぅぅぅ」
「唸っているだけでは何も変わらんぞ!今一度問う!お前は何がしたい!」
「・・・助けたい・・・亮を助けたい・・・!」
自分の意思を示したアライブモンにバンチョーレオモンは牙を見せて応える。
「ならばその為の行動へ移せ。我もその思いに力を貸す」
そうして亮救出作戦が遂行される事となる。
「まだ・・・まだ足りないのか・・・もっと力があれば・・・」
D❘ブリガードのメンバーに駐屯地へと連れ戻されたタンクドラモンは更なる力への渇望が自分の奥底から湧き上がるのを抑えられずにいた。
そこにD―ブリガードを操る者。老人の姿をした強欲を司る魔王型デジモン、バルバモンがその長い髭を撫でながらタンクドラモンの前に現れる。
「ほっほっほっ、力を望む欲望。誠に心地よい。そなたの欲望、叶えてやってもよいぞ」
「・・・俺は俺の力であいつを倒す。誰の助けも望んじゃいねぇ」
「本当にそれでよいのか?力の差が分からぬ訳でもあるまい。あやつの実力は究極体の中でも頭一つ抜けておる。例えそなたが更なる進化を遂げた所で勝てると思うか?儂ならばそれ以上の力を与える事も可能だぞ」
バルバモンの甘言は間違いなく事実に基づいている。だからこそタンクドラモンはそれを拒絶しきれない。そして同時にバンチョーレオモンに告げられた言葉が浮かんでくる。
「・・・ああ、認めてやるよ。俺は負けた。完敗だ。勝てる気なんてしねぇ。だからこそもっともっと力がいるんだ。誰も俺を馬鹿にさせねぇぐらいの力が。・・・あいつを超えるだけの力が・・・」
タンクドラモンの目にはずっと原動力となっていた憎しみの炎が再び燃え上がる。けれど、その奥底にあるのはそれとは違う純粋な熱だった。
「そう、そなたはその欲望に従うのじゃ。・・・ただそれだけでよい」
まるで沼に引きずり込むようにバルバモンが開いたゲートの先へ、それに気付かぬままに渇望に支配されたタンクドラモンは痛む体を黙らせながらその中へと足を踏み入れた。
そしてその二つの力への渇望がタンクドラモンを誤った道へと進ませる事になってしまうのだった。
平原の中、バンチョーレオモンはたった一人でD―ブリガードの駐屯地の正面で仁王立ちをしていた。
「我は逃げも隠れもせん!倒したいのなら全兵力でかかってこい!」
正々堂々と宣戦布告をするバンチョーレオモンを打倒すべく町の時とは比較にならない程の数の兵士が基地から出現する
「さぁ!全力で来るがいい!」
一人で大軍を相手取るバンチョーレオモンだが、一人だけではない。
バンチョーレオモンがD―ブリガードの兵士達と戦っている一方でアライブモンは駐屯地の裏から高く聳える壁を見上げながら自分のするべき事を反芻していた。
アライブモンの役目は捕まっている亮を見つけて助け出す事。その為にはまず基地の中へ侵入しなければいけない。バンチョーレオモンがたった一人正面から乗り込んだのも注意を惹く為。
今、バンチョーレオモンは大勢の兵士を相手に防戦に専念している。それもアライブモンが侵入する時間を稼ぐと共に乱戦状態を維持していれば相手も人質を持ち出せなくなると言う試算があってのも。
流れ弾で万が一の場合があれば切り札を失ってしまう事になる。そんなミスをしでかすような相手ではない。だからこそそこに付け入る事が出来る。
大勢を一人で相手にし続けるバンチョーレオモンもきついが、亮を直接助けに行くのはアライブモン自身。
アライブモンは亮を絶対に助け出してみせると奮い立たせる。そして壁の上部に向けて左手を突き出す。
「ポイズンアイビー!」
ローブの裾の中から毒性を帯びた蔦を伸ばして壁に纏わり付かせてから巻き戻し、自分の体を引っ張らせて壁の上部へと登って敷地内への侵入を果たす。
そうして見つけた通気口から基地の内部へと入り、その中を這って進んでいく。
幾つもの部屋を探り、やがて亮が捕らわれている牢獄へと辿り着く。牢屋の中に亮の姿も確認できる。どうやら一応は丁重な扱いを受けてはいるのか、危害を加えられている様子は見受けられない。
とりあえず無事を確認出来て一安心といきたい所だが、それは助け出してからだ。
だからと言って今すぐ飛び出す訳にもいかない。軽はずみな行動をしてしまえば亮に危害を加えられてしまう事にもなりかねない。単独行動をする前にバンチョーレオモンにも焦るな、慎重に行動しろと予め言い聞かせられていた。
アライブモンは逸る気持ちを抑えながらタイミングを伺う。だが、早々にそのタイミングが訪れるとはいかない。
看守のコマンドラモンは暇な時間を怠惰に過ごす事なく、その役目を果たしている。亮がアライブモンに気付けば隙を作る事も可能かもしれないが牢屋とダクトの位置関係があまり良くなく、亮に気付いてもらえる気配はない。亮に気付いてもらおうと物音を立てればコマンドラモンにも気づかれてしまう。
いい手段が思いつかないまま悩んでいるとコマンドラモンに変化が訪れる。
コマンドラモンの許に通信が入り、耳元に手を当てながらそれに応じる。
「どうした?・・・そうか、人質を使うのか。ああ、今から連れていく」
バンチョーレオモンとの戦いが長引きすぎていると判断したのか、予想とは違う行動を起こし始めてしまう。
何事も予想通りに物事が進むとは限らない。それでもこれは千載一遇のチャンスにもなりえる。
牢屋を開け、亮を連れて部屋を出ようとするコマンドラモンにこのまま亮を連れて行かれる訳にはいかないとアライブモンはダクトの格子を外して部屋の中へと躍り出る。
コマンドラモンは突如として現れた侵入者に反応して振り向く。
「バンチョーレオモン以外にも侵入者がいたか。だが、こっちはただの子ネズミでしかないようだな」
見るからに成長期のアライブモンに対して、同じ成長期とは言えどもD―ブリガードの一員として過酷な訓練を積んできているコマンドラモンが憶する事はない。
反対に自ら躍り出るも、戦いに慣れていないアライブモンはコマンドラモンの鋭い視線に怯んでしまいそうになる。
そんなアライブモンに亮も意を決してコマンドラモンに背後から体当たりを仕掛ける。
「この・・・!」
僅かによろけるも踏みとどまる。だが、その亮の勇気に触発されたアライブモンが態勢を立て直す前のコマンドラモンに向けて飛び掛かる。
「コロナックル!」
アライブモンは高熱を放つ右腕でコマンドラモンを殴りつける。
その一撃がクリーンヒットし、コマンドラモンはそのまま気を失ってしまう。
「亮、大丈夫?」
「うん。アライブモンのおかげだよ。でも、よく来れたね」
「バンチョーレオモンが注意を引いてくれてるから」
「バンチョーレオモンも来てくれてるんだ。それなら早くここから出ないと」
逃げるにしろ倒すにしろバンチョーレオモンの負担を減らす為にも一刻も早く脱出しなければならない。
亮はコマンドラモンの持っていた鍵を使って手錠を外すとアライブモンと共に脱出を試みる。
一方でバンチョーレオモンの戦闘は長引く毎に投入される兵士の数は増え続け、その激しさを増していた。
「・・・流石にこの数はきついものがあるな」
そう溢しながらもバンチョーレオモンには焦りや苛立ちの様なマイナスな感情はない。寧ろこの苦境こそが自分を更に高みへと導いてくれると喜悦交じりで獰猛な牙をむき出しにしている程。
そこにはアライブモンへの杞憂もない。助けたいと心の底から発した意思を信じ、任せた以上は最後まで信じ切る。それもまた漢としての気概と言うものだろう。
「タンクドラモンを出すぞ!」
次々に兵力を投入しても止められないバンチョーレオモンにD―ブリガードも次なる一手として更なる兵力を投入する。
バンチョーレオモンは自分を囲む十体を超えるタンクドラモン達を見回す。
「・・・どうやらあやつは居らぬようだな」
あれだけの傷を与えたのだ。この短期間に復活は無理だと分かってはいても漢と見初めた相手と相対する事を出来はしないと微かに落胆の色を見せる。
だが、そんな事はタンクドラモン達には関係がない。一斉に構えたブラストガトリングの砲身がバンチョーレオモンを狙う。
同時に放たれるブラストガトリングの銃弾の中をバンチョーレオモンは突っ切る。魂の籠らぬ攻撃など脅威を感じる事はおろか闘志すら燃え上がらない。
「・・・有象無象が束になるより、あやつ一人の方がまだ我の胸に届いたわ!」
バンチョーレオモンは容赦なくタンクドラモンを一体殴り飛ばす。
と、同時にタンクドラモンの内の一体がストライバーキャノンを放つ。
その砲弾が直撃し、爆炎に覆われるもGAKU―RANと鍛え上げられた肉体を持つバンチョーレオモンにはまともなダメージ一つ与えられない。寧ろその爆炎によってバンチョーレオモンの姿がタンクドラモンの視界から隠す事になってしまうだけだった。だが、その目くらましもタンクドラモンにとって失策とまではならない。
爆炎の中から飛び出したバンチョーレオモンをタンクドラモンの内の一体が補足する。そのデータは他のタンクドラモンにも共有され、爆炎によって視界を塞がれたタンクドラモン達も同時にバンチョーレオモンを補足する。
そして次々にストライバーキャノンが立て続けに放たれる。
そんな激しさを増していく戦闘だったが、だが未だにバンチョーレオモンにとっての真の戦いは始まってすらいなかった。
そしてその真の戦いを告げるかの様に基地の内部から壁を吹き飛しながら爆炎が噴出する。
「・・・あやつらに何かあったのか・・・!?」
物々しい状況にバンチョーレオモンの気が削がれる。それならば助けに行かなければならないが、バンチョーレオモンにはそれが出来なかった。
それはタンクドラモン達が居るからではない。高空より飛翔する存在が居たからだった。
「・・・そろそろ外に出られる筈なんだけど」
連れてこられた時の記憶を頼りに基地の内部を進んでいる亮とアライブモンだったがそのまま何事もなく脱出する事は出来なかった。
「・・・止まれ」
人質に逃げられたと通達を受け、探索をしていたシールズドラモンに見つかってしまう。
「おとなしくしろ。そうしていれば悪いようにはしない」
シールズドラモンの言葉に嘘はない。なるべく人質を傷つけたくない上に無駄な労力もかけたくはないのだから。だとしてもそれに従う訳にもいかない。
「・・・脱走するような奴に言うだけ無駄か。ならば致し方ない」
捉える為に荒事も辞さないと言外に告げるシールズドラモンにアライブモンがその前に立つ。
「アライブモン・・・」
「・・・戦うよ。亮と一緒に逃げるんだ・・・!」
キッと睨み返すアライブモンにシールズドラモンは冷たい目で睥睨する。
相手は見た所、成長期のデジモン。だとしても手を抜きはしないとシールズドラモンはスカウターモノアイでアライブモンの弱点を探る。
だが、そこに映し出されたのはそんな生温い物ではなかった。
「・・・な!?・・・お前は一体・・・」
スカウターモノアイによって示されたのは蠢く無数のデータ。アライブモンのローブの中に内包された圧倒的な存在感を覗き見てしまったシールズドラモンはその中に飲まれるかのような錯覚に苛まれ、二の足を踏んでしまう。
「何を尻込みしている」
余力として控える中で脱走した亮達の捜索に駆り出されていたタンクドラモンがそこに現れる。
「いや・・・こいつは・・・」
得体の知れない恐怖をうまく言葉にできす、それに気づかないタンクドラモンはシールズドラモンを退かせる。
「まぁいい。こっちは俺がやる。お前は表の奴等の支援にでも行っていろ」
「あ、ああ」
その指示に従いこの場から去ったシールズドラモンの代わりにタンクドラモンが立ちはだかる。
より強い相手に代わってしまってもアライブモンの心は挫けない。
そんなアライブモンにタンクドラモンはその銃口を向ける。
「・・・ブラストガトリング」
「・・・ぅぅぅぅ!」
放たれる銃弾の雨に晒されながらも、アライブモンはそれに必死に耐える。だが、それもアライブモンを倒す為ではなく無力化する為に力を削ぎ落しているに過ぎなかった。
「アライブモン!!」
亮の悲痛な叫びに続くかのようにタンクドラモンの砲塔は弾丸の代わりに硝煙を燻らせる。
「躾はこれぐらいでいいか。これ以上痛い目にあいたくなければ大人しく従え」
そう言われても従う事なんて出来はなしない。亮は何とか切り抜ける方法はないかと考えを巡らそうとするが、それはタンクドラモンに読まれていた。
「逃げようとしても無駄だ。俺達はデータをリンクし合える。ここで補足した情報は他にも伝わっている。例え逃げたとしても一度補足した以上俺達からは逃げられない」
その事実を突きつけられて尚、いやだからこそより一層ここで負ける訳にはいかないとアライブモンは傷つきながらもタンクドラモンを力強く睨みつける。
「・・・負けられない。・・・亮と一緒に逃げるんだ・・・。絶対に負けられないんだ!」
そしてアライブモンはその為に自らの中に渦巻く力を目覚めさせていく。
「ゥゥゥゥァァァアアアア・・・!!!」
叫びと共にアライブモンのローブの中に隠された鳴動し、肥大化していく。そして隠されていたその姿の一部がローブの中から現れていく。
樹木の左腕。獣の右腕。骨の左足。鉱石の右足。竜の口。その体の所々を覆う鋼の装甲。
統一感のない歪な姿にタンクドラモンは顔を顰める。対してアライブモンはタンクドラモンの様子も認識できていないように低い唸り声を漏らし続けていた。
それでも敵としての認識は依然として変わらず、排除する為にタンクドラモン目掛けて突進する。
「ふん、見かけがどうであろうと後先考えないような奴にやられはせん。ブラストガトリング」
再び放たれる無数の弾丸さえも意識にないのか、一切怯むことなくタンクドラモンに向かって走り続ける。
対してタンクドラモンはブラストガトリングを放ちながらも思い通りに懐に入らせはしないとキャタピラを逆向きに回転させ、後退と攻撃を同時に行い距離を保とうとする。
だが・・・。
「コズモフラッシュ!」鉱石の右足から放出された大宇宙のエネルギー波を推進力として利用し、アライブモンは彗星の如く空を駆け抜ける。
「フラウカノン!」
樹木の左腕から大輪の花が咲き、その花弁を銃口に変えてエネルギー弾を打ち出す。
「くっ!」
複数のデジモンの技を使う有り得ない相手にタンクドラモンは歯噛みしながら銃弾を放ち続けると共に回避を行う。だが、そのせいで後方へ下がる事はままならず、アライブモンと瞬く間に距離を詰められてしまう。
「カイザーネイル!」
右腕の獣の腕から鋭い爪が伸び、タンクドラモンの体を切り裂く。
「ネイルボーン!」
立て続けに光を放つ骨の左足がタンクドラモンを蹴りつけ、その光によってデータ異常に蝕まれるタンクドラモンは身動きが取れなくなる。
「ドラゴンインパルス!」
弾き飛ばされるタンクドラモンを更に竜の口から放たれた竜の形をした衝撃波によって吹き飛ばされ、激しく壁に叩きつけられる。
「ギガデストロイヤー!ギガデストロイヤーⅡ!」
広がった装甲に包まれ、砲身へと変化した両腕から二種類のミサイルを同時に発射。そして激しい爆炎がタンクドラモンを覆いつくす。
その炎が消えた後には完全に沈黙したタンクドラモンが残された。
「ゥゥゥゥゥ・・・」
それでも尚、アライブモンの闘争心は収まらず、必要のない攻撃を更に繰り出そうとタンクドラモンの許へと近づいていく。
「もういい!もうそれ以上しなくていいから!」
走って追いかけてきた亮の声にアライブモンはその足を止める。
「・・・う・・・ぁ・・・」
同時にアライブモンは自分の中で荒れ狂う力に苦痛に満ちた呻き声を漏らしながら、その力は収束していき、その体もローブの中へと収まっていく。
そして元の姿へと戻った瞬間にその場へと倒れてしまう。立つ事もできないまま自分の体を抱える様は痛々しい。それはタンクドラモンから受けたダメージが原因だけだとは思えず、そしてローブから見せた姿と幾つもデジモンの技を使うのは誰の目にも異様としか映らない。
けれどそんな事など苦しむアライブモンを前にどうでもいいと亮は直ぐに駆け寄る。
「アライブモン!」
亮の自分の名を呼ぶ声に痛みに耐えながら顔を上げる。
「・・・亮・・・僕、ちゃんと戦えたよね・・・?」
「うん。ほら、アライブモンのおかげで外にも出れるようにもなったよ」
そう言いながらアライブモンの体を労わりながらそっと抱き起し、最後の攻撃で破壊された壁とその先に広がる外の光景を見せる。
「・・・それじゃ一緒に出られるんだね。良かった・・・」
役目を果たせたと安堵したアライブモンはそのまま意識を手放し、静かな寝息を立て始める。
それを乱さないように亮はアライブモンをゆっくり背負いそのまま外へ向けて戦ってくれたアライブモンの分まで前へ向かって歩き出した。
そして脱出を果たした亮の目に壮絶な戦いの光景が飛び込んできた。
基地内部から爆発が起こった直後、高空より飛翔する存在が突如現れ、バンチョーレオモン目掛けて急降下する。
「・・・BAN―TYO!BAN―TYO!!!!!!!」
「むっ!」
その存在に気付き、バンチョーレオモンは直撃する寸前で跳躍して躱す。そしてその瞬間にまるで墜落するかのように高空より現れた存在がバンチョーレオモンの居た場所を貫く。
巻き上がる土煙を風が払った時、そこに立っていたのは全身をサイボーグへと改造されたデジモン、ダークドラモンだった。
「・・・貴様は」
その問いかけもダークドラモンには届かない。
「GAAAAAAAAA!!!!!!」
ダークドラモンはバンチョーレオモンの問いに応えず、代わりとばかりに咆哮と共に突進してくる。
「ギガスティックランス!!!!」
右腕に仕込まれた強大な力を内包したギガスティックランスの切っ先をバンチョーレオモンに向ける。
「っ・・・!。獅子羅王斬!」
ギガスティックランスにバンチョーレオモンも獅子羅王斬を繰り出す。そして槍と短刀がぶつかり合い、尋常ならざる衝撃が周囲に放たれる。
「・・・まさかお主は・・・」
互いにその衝撃に弾かれる中、その攻撃を受けたバンチョーレオモンは突如現れた相手のその真っ直ぐなまでの力を感じ、正体を知る事となる。けれどそれにもダークドラモンは答えない。
「GRAAAAA!!!!!」
理性などない力の本流として襲い掛かるダークドラモンのギガスティックランスに男魂を再び重ね合う。
互いの闘気を削り合うような鍔迫り合いの中、バンチョーレオモンは男魂の軸をずらし、鬩ぎ合う力を受け流す。
すかされたダークドラモンは受け流された流れのままにバンチョーレオモンの脇を抜けていく。そこに狙いを澄ましたバンチョーレオモンが拳を叩き込もうとする。
蓄積された膨大な戦いによって洗練された戦闘技術。だが、ダークドラモンの闘争心はそれをも超える。
すかされたダークドラモンはギガスティックランスの穂先を地面に突き立て、それを軸として無理やり受け流された力のベクトルを捻じ曲げ、そしてその力を蹴りに乗せてバンチョーレオモンの体に叩き込む。
「がっ!!」
思いもよらぬ攻撃をバンチョーレオモンは防ぐ事も出来ずダイレクトにその身に受け、蹴り飛ばされてしまう。
そこに追撃を仕掛けようとしたのは二者の戦いに入る事が出来ずに見ているだけだったタンクドラモン達だった。
絶好のチャンスだとバンチョーレオモンに向けて一斉に銃口を構えるタンクドラモン達だったが、そこから銃弾が放たれる事はなかった。
「邪魔をスルNAAAAA!!!!!」
絶叫を上げながらダークドラモンは翼状のブースターを最大出力で展開し、瞬く間にタンクドラモン達をギガスティックランスで貫き、全滅させる。
これで二人の戦いに水を差すものはいなくなったと悠然と振り向くダークドラモンにバンチョーレオモンは変わり果てても尚、変わらぬ意思を感じ取る。
「・・・そうか。ならば我も真っ向から受けて立とう!」
衝動のまま力をぶつけてくるダークドラモンに、バンチョーレオモンは築き上げた技術を捨て、その奥にある力を振るう。
互いに何度も武器をぶつけ合わせ、その都度、互いの闘気が高まりあっていく。そしてその高まる闘気によってぶつかり合う衝撃も激しさを増し、ついに互いに武器を弾き飛ばされてしまう。それでも戦いが止まる事はない。
武器を失った両者はその拳をぶつけ合う。
力と力のぶつかり合い。それは荒々しくも完全に調和のとれた天秤の様にどちらかに趨勢が傾く事はなかった。
だが、そんな戦いにも終わりは訪れる。
互いにぶつかり合い。闘気を高め続け、そしてその果てに極限まで至る。
まるで示し合わせたかのように拳を打ち合わせ、互いに弾かれ、そして間合いが空くと同時に極限まで高まった闘気を同時に力へと変換する。
「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!」
バンチョーレオモンは拳に。
「GRRRRAAA・・・・!」
ダークドラモンは体内に。
互いに臨界へと達した時、その力を解放する。
「フラッシュバンチョーパンチ!!」
「ダークロアー!!」
バンチョーレオモンの拳から放たれた気合とダークドラモンの放ったダークマターが両者の間で衝突し、鬩ぎ合う力が逆巻く奔流となって絡まり合いながら立ち上っていく。それはあたかも力と力のぶつかり合いの中で互いの意思を響かせ合う二人の様でもあった。
そしてその力と力は、確たる己と言う地盤によって支えられたバンチョーレオモンのフラッシュバンチョーパンチが、力に飲まれ自我を見失っているダークドラモンのダークロアを押し返し、絡まり合ったその力を叩きつける。
逼迫した戦いの果て。
そこに至っても尚、互いに睨み合いは続いていた。だが、勝負は既に決している。
最後の攻撃を受けたダークドラモンは辛うじて立っているだけ。もう戦う力は残されていなかった。
「Grrrrrrr・・・・・・」
まだ勝利への執着を唸り声として発しながらもダークドラモンは空へと飛び立ち、バンチョーレオモンの前から立ち去っていく。タンクドラモンの時には勝敗は決しても退こうとはしなかったにも拘わらず。
それは敗れた際に帰還するようプログラムされているせいか、それとも強くなる為に負けを認めろと言うバンチョーレオモンに言われた言葉を覚えているのか。
その答えを知る者はいない。ただ、一騎打ちに固執する様子はタンクドラモンの時と変わっていない。そして何より交わした拳がそれを伝えていた。
バンチョーレオモンは拳に残った熱を感じながらもその胸に寂寞を抱え、ダークドラモンの消えていった空の果てを見つめていた。
そんなバンチョーレオモンの許へと戦いを見届けた亮がやってくる。
「・・・どうやら脱出できたようだな」
「うん。アライブモンが頑張ってくれたから」
「そうか・・・。無事に、とは言えぬようだな」
「・・・うん。でも、今は寝てるだけだから」
「そうか」
「これからどうするの?」
「・・・そうだな。取り合えず町へ戻ろう。きっとお主達を受け入れてくれるだろうからな」
「受け入れってって・・・」
「面倒を見ると言っておきながらその言葉を翻すのは漢の道に反するが、お主等も巻き込む訳にもいかぬ。お主も見ただろう。あやつはまた我の許へ現れる。我はそれに付き合わねばならぬからな。あやつが見失っている己自身を取り戻すその時まで」
変わり果ててしまっても根本は変わらずにいた。それを感じ取ったバンチョーレオモンは信じた。いずれ本来の自分を思い出せる筈だと。
亮もバンチョーレオモンは巻き込みたくはないと言ったが、自分達が付いていけば足を引っ張ってしまうと理解している。だからこそ、その決意に水を差す事はなかった。
「・・・バンチョーレオモン、行っちゃうの?」
代わりに目覚めたアライブモンがそう聞き返す。
「我がいなくともやっていけると確信している。何故ならお主等の中にある漢をしっかりと見せてもらったからな」
町に住むデジモンを助ける為にと危険を顧みなかった亮。そして亮を助ける為に勇気を振り絞って立ち向かったアライブモン。二人には間違いなく漢としての気概が宿っている。
「・・・なんとなく分かった気がする」
「そうか、それは何よりだ」
アライブモンの言葉にバンチョーレオモンは力強い笑みを浮かべる。
「では、町まで戻るとしよう」
これからの事をそれぞれに思いを馳せながら残された僅かな時間を共にする。
バンチョーレオモンとの出会いによって大切な事を教わった。この出会いはこれで終わりではない。また、再開を果たす事になる。だがそれは互いに望む形ではなかった。
次回予告
バンチョーレオモンと別れ、デジモン達の町で過ごす亮とアライブモンの許に次世代の選ばれし子供達が迎えにやってくる。
アルファモンの存在に悩み、戸惑いながらも子供達と共に現実世界へと帰ろうとする亮。だがその裏で暗躍する者がいた。
物語が複雑に絡まり合う中、その歪みを正す為に傍観者がついにその重い腰を上げる。
次回、「闇の中へ」
新たなる冒険のゲートが開く。