二次創作/デジモンアドベンチャー03 ロストソウル   作:島鳥 烏

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今回、選ばれし子供達が活躍する回になります。
それと同時に傍観者もついに動き出す・・・。
と、同時に今回もデジモンワールドをネタに組み込むことが出来たんでそれも楽しんでもらえたら嬉しいです。

と、本編については以上ですが、その、執筆が遅れている事を誠に申し訳なく思ってます。
ネットフリックスにあるオリジナル作品や昔の名作(スティーブンキングのミストとか)のドラマがあまりにも面白すぎてしまって・・・。
時間が・・・時間が足りない・・・。


闇の中へ

「ふぅ、これで最後かな。そっちはどう?アライブモン」

「うん、こっちも終わった」

 バンチョーレオモンと別れた亮とアライブモンはD―ブリガードから守った町で日々を過ごさせてもらい、その代わりに町の人達の手伝いをしていた。

 この日も肉が生る畑で育った肉の収穫を手伝っていた。野菜ではなく肉が実るなんてありえない話だが、デジタルワールドではそれが当たり前だった。

 亮も最初は驚きもしたが、それも最初だけ。実際に目の当たりにすれば受け入れるしかなく、受け入れてしまえばそれはもう不思議な事ではなくなってしまう。

「助かったぜ、ありがとな。後はこれをメラモンの所へ配達に行ってくれればもう終わりだ」

「メラモンって事はお店の方だね。うん、分かったよ」

 肉畑を管理する古代恐竜のデジモン、ティラノモンの最後の頼みを引き受けると、亮とアライブモンの前に次々と肉が山の様に積まれていった。

 どう見てもこれを運ぶのはかなり大変だが、そこはデジタルワールド。

 亮は山の様に積まれた肉を次から次へと背負っていたリュックへと詰め込んでいく。

 子供一人が背負えるリュックの収納量を遥かにオーバーしているにも関わらず、その全てがリュックの中にすんなり納まった。

 何故そんな事が可能かと言うと、それはリュックの中にしまう際にデータへと変換され、圧縮される事により見た目よりも遥かに多くの物を入れる事が出来るからだ。

 このリュックはこの町の長であるおばあさんの姿をしたエンシェント型デジモン、ババモンにD―ブリガードを追い払った礼にと貰ったものだった。

 そしてリュックに大量の肉を仕舞った亮達はこの町唯一の飯屋、バーニングルメへ。そして到着するとその店主兼料理人である全身に紅蓮の炎を纏った火焔型デジモン、メラモンへ頼まれていた肉を届ける。

「お、なんだ、お前らが届けに来たのか?ティラノモンの野郎、楽しやがって」

「別にいいよ。僕達の方が厄介になってるんだしね」

「うん、ティラノモンのお手伝い楽しいよ」

「ま、お前らがそう言うんならいいけどよ。もう昼飯は食ったのか?まだだったらなんか用意してやるぞ」

「いいの?」

「ああ、ここまで運んでくれた駄賃代わりだ。遠慮すんなよ」

「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「メラモンの料理、美味しいから好き」

「ははっ、そう言ってくれるのが何よりだ。それじゃ直ぐに用意するからな」

 そうして二人の前に出されたのはバーニングルメで一番人気の爆裂チャーハン。

 見た目はごく普通のチャーハンだが、米の一粒一粒がパラパラに解ける程しっかりと炒められながらも、ふっくらとしたうま味を一切逃さずに閉じ込めている。一噛みする毎にうまさが口の中で弾ける様はまさに爆裂。

それを可能にしたのはメラモンの灼熱の炎。その炎によって短時間で米の表面を炒める事が出来るからだ。

 他にも細切れにされた特製チャーシューとニンジンやグリーンピース等の野菜が見た目だけでなく味わいにも彩を与えているが、それらも米のうまさを最大限引き出す為に一役買っている。

「ん~~~~~」

 爆裂チャーハンのあまりのうまさにアライブモンも思わず唸ってしまう。

「このチャーハンの味をしちゃったら他のチャーハンが食べられなくなるかも」

 亮がそんな風に思ってしまうのも無理はない。メラモンだからこそ作り出せる至高のチャーハンなのだから。

 だが、メラモンが用意していたのはこれだけではない。

「ご馳走ついでに新作の味見も頼んでいいか?」

「新作?全然かまわないけど」

「そうか。ちょっとだけ待っててくれよ」

 そう言いながらメラモンは鉄の箱と鉄の棒が伸びた台を用意し、亮達が持ってきた肉をいくつかの塊に切り分け、スパイスを混ぜ込んでそれを鉄の棒に突き刺して鉄の箱を被せると、拳を引いて構える。

「バーニングフィスト!」

 拳から燃え上がる炎を放ち、箱の中の肉を一気に焼き上げる。その間、僅か一秒足らず。

 そんな短時間では肉に中まで火は通らないが、それで構わない。

 メラモンは表面の焼けた部分をナイフで切り落とすとそれを更に乗せ二人の前に出す。

「灼熱ドネルケバブだ。食ってくれ」

「それじゃぁこっちも頂きます」

 そう一言告げて亮は削がれた肉に噛みつく。

 焦げる直前の肉のカリカリとした触感に一秒にも満たない間しか焼かれてない事によって身から殆ど滴り落ちる事もなく残った肉汁が噛んだ瞬間に染み出してくる。本来であればじっくり焼き上げる事によって肉の味を凝縮させるのだが、それとはまた違ったあふれ出る味わいをもたらしていた。そしてスパイスがその味わいのインパクトをより一層高め、強烈な印象を与えてくれる。

 シンプルを極めた先にある素材の味を限界まで引き出す灼熱ドネルケバブは究極の肉料理の一つと言っても過言ではないだろう。

「・・・これすっごく美味しいよ」

「うん!うん!」

「反応を見れば分かるぜ。それもお前らが持ってきてくれた肉のおかげだな」

 亮とアライブモンはデジタルワールドに来て大変な目にも遭ったが、今はこうしてデジタルワールドの暮らしを楽しんでいた。

 けれどこの生活がずっと続く事はなかった。

 

「新作料理が食べられるなんて運がよかったね」

「うん。また晩に食べにこよう」

「ははっ、そんなに気に入ったんだね。さて、次は何しようか」

 メラモンの料理に舌鼓を打ってバーニングルメを後にし、この後の事を考えていた亮とアライブモンの許にオウムのような巨鳥型デジモン、パロットモンがやってくる。

「二人ともここにいたんだ」

「パロットモン?何か用事?」

「ああ、て言っても用があるのは俺じゃないんだけどね。亮達を探しに人間が来たんだよ。今、ババモンの所で待ってるから行ってくれるか?」

「探しに・・・。うん、分かったよ」

 亮達を探しに来たと言う事は現実世界へと連れ帰る為に来たと言う事だろう。だが、戻ればあのアルファモンがアライブモンを狙ってくると言う事でもある。

 いつまでもデジタルワールドに居続けると言う訳にもいかないが、だからと言って戻る訳にもいかない。

「・・・亮」

 亮の不安が伝わったのか、アライブモンも不安そうにしてしまう。

 ここで逃げる事も出来ない。どうなるかは分からないが、行くしかない。

「・・・大丈夫・・・きっと大丈夫だから」

亮は大丈夫だとアライブモンの手を握りながらそう口に出す。それはアライブモンにだけでなく自分自身にも言い聞かせながら。

だが、そこで待っていたのは予想外の人物だった。

 

「亮君・・・!良かった、無事だったんだ」

「朝霧さん・・・!?」

 亮を探しに来たのは風花とパートナーのフワリモン。それ以外にも数人の子供達とそれぞれのパートナーデジモン達。それで全て。大人は一人もいなかった。

「朝霧さん達だけ?他には誰もいないの?」

「うん。デジタルゲートがうまく開けなくて大人は通れなかったから」

「・・・そうなんだ」

 亮はずっと心配していたのはアルファモンがデジタルワールドまで追いかけてくる事だった。だが、風花達だけしか来れていない様子を見る限りどうやら大人がデジタルワールドを越えられないようにアルファモンもデジタルゲートを越える事が出来ないようだ。

 それはいいとしてもまた別の懸念がある。風花達が来たと言う事は自分達をリアルワールドへと連れ戻す気なのだろう。今アルファモンの居るリアルワールドへ。

 亮の無事を確認出来て安堵する風花と複雑な反応をする亮。その二人に割って入る者がいた。

「感動の再開はそれぐらいにしといてよ」

 やけに冷めた少年がタブレットPCをポーチの中から取り出しながら亮と風花の二人に冷や水を浴びせる。

 そして背面のカメラをアライブモンへと向けるが、それを警戒したアライブモンは亮の陰に隠れてしまう。

「・・・悪いけどそいつをこっちに出してくれない?」

「何するの?」

「データをスキャンするだけだよ。研究所でやる方が正確だけどどうせ戻る気はないんだろうし」

「それは・・・」「は?何言ってんだよ。そいつを連れて帰るのが俺等の目的だろ」

 亮がそうだけどと言おうとした所で鋭い目つきの少年が冷めた少年に食って掛かる。それに冷めた少年は冷たい視線を向ける。

「無理やり連れて帰る訳にもいかないだろ。それにアルファモンとか言う奴がそこのデジモンを狙って暴れたんだし、連れ帰ったらまた同じ事が起こるのが目に見えてる。かなりやばい奴っぽいし、連れ帰るのもそれはそれで問題なんだよ」

「だからって勝手に決めてんじゃねぇよ」

「勝手にじゃない。これを渡された時に泉さんと場合によってはって話し合ってたんだからね」

 泉 光子郎(いずみ こうしろう)。かつての選ばれし子供達の一人としてその知能を発揮して当時の子供達が状況を打破する為に活躍していた人物。今、人間の中でデジタルワールドやデジモンについて最も造詣の深い人物であり、学生の頃から幾つもの論文を発表し、その功績から20代半ばと言う若さながらデジタルワールド研究所の所長に任命されている人物。亮とアライブモンを巡る騒動でも陣頭指揮を執って対応して事に当たっている。

「だったら俺達にも先に言っとけよ」

「無事が確認されていない状況で少しでも時間を無駄にしたくない。見つかってからの事なんてその時でも遅くはない。それ以前に先に言っても言わなくてもどうせ何も変わらない。これだけ言えば理解できる?」

「・・・お前な。チームワークって言葉知ってるか?」

「あんたみたいな脳筋と一緒にしないでくれる?なんでもかんでも食って掛かるそっちの方こそチームワークなんて無縁なんじゃないの?」

「はいはい。喧嘩はそのぐらいでいいでしょ」

 一触即発の二人の少年の間に割って入ったのはばっちりとメイクを決めた今時の少女だった。そしてその少女は二人の少年を止めた後、亮の方をじっと見つめる。

「へ~成程成程。彼が例のって事ね。ふ~ん、見た目も中の上ってとこかな。草食系ってぽいのがちょっとあれだけど、この二人みたいにめんどくさいのに比べれば全然いいかもね」

「あ、あの蔵戸さん・・・」

「ああ、心配しなくていいわよ。人のを取ったりとか、そんな面倒な事する気ないって」

「べ、別にそう言う訳じゃ・・・」

「分かってる分かってる。それより私達の紹介、一応はやっておいた方が良いんじゃない?スキャンしてる間にそれぐらいの時間はあるでしょ。君もこっちはその子に危害を加える気はないって分かったでしょ?だからこっちに出してくれない?」

「そうみたいだね。ほら、アライブモン。大丈夫だからみんなの前に行って」

「う、うん」

 恐る恐る亮の陰から出てきたアライブモンに冷めた少年がタブレットPCを向けながら聞いていたのとは違う名前を口にする。

「アライブモン?まぁ、名前なんて何でもいいか」

 しかしそれも気にする事ではないとスキャンを開始する。

 その間に子供達とそのパートナーの自己紹介が始まる。

「それじゃ自己紹介ね。まずは私から。私は蔵戸 美優(くらと みゆ)。で、こっちがあたしのパートナー」

「アスクモンだ。美優共々よろしく頼むよ」

 今時の少女、美優に続いて尻尾を巻き付けた杖を掲げる白蛇のデジモン。アスクモンが丁寧な口ぶりでもたげていた頭を下げる。

「じゃぁ次あんたね」

「言われなくても分かってるっての。俺は大武 雅人(おおたけ まさと)。で、こっちがドスモンだ」

「・・・ヨロシク」

 目つきの鋭い少年、雅人が紹介を済ませてしまうように発達した両腕を持つ鉱石型のデジモン、ドスモンは武骨と言う言葉がぴったしな様にその一言だけで済ます。

 だが、それ以上に口数が少ない者がいた。

「・・・間宮 佑真(まみや ゆうま)。それとショットモン」

 冷めた少年、佑真は自分とパートナーの傾くサイズの大きいヘルメットで片目を隠すトカゲの獣人型デジモン、ショットモンの名前だけを告げ、ショットモンも一度亮達へ目を向けるも直ぐに自分のショットガンのメンテナンスに没頭する。

「さて、自己紹介もこれぐらいってとこかな。君達の事は一応ここに来る前に聞いてるし、風花ちゃん達の方は必要もないだろうしね」

「何じゃ、わらわは良いのか?寂しいのう」

 子供達とそのパートナー以外にこの場所を提供していたババモンが不貞腐れてしまう。

「そ、そうね。それじゃお願いしようかしら」

 不貞腐れるババモンに苦笑交じりで美優がババモンの望みに応える。だが、それを後悔する事になろうとは・・・。

 

「・・・そうしてわらわがこの安らぎの町の長となり、この町はここまで発展するようになったのじゃ。じゃが、ここで満足する訳にもいかぬ。満足してしまえばそこで止まってしまう。この町に住むデジモン達の為にももっと良い町にせねばならぬ。それこそがこのババモンの使命なのじゃよ」

 ババモンの自己紹介は自分の事だけに留まらず、この町の生い立ちから歩み、そして展望に至るまでが長々と続いていた。それは数時間に及び、子供達やパートナーデジモン達も疲れ果てぐったりとしてしまっていた。

 だが、目の前に広がる光景をババモンは自分が原因だとは思わなかった。

「・・・ふうむ、どうやら長旅で疲れているようじゃの。気が付かぬとはすまなんだのう。そう言えば亮とアライブモンが来た時も同じように疲れておったのう。わらわとした事がすっかり失念してしもうたわ。直ぐに休める場所を用意しよう。少しばかりここで待っておれ」

 そう言ってババモンは屋敷から出ていく。

「・・・凄くよく話すデジモンだったね~」

 フワリモンが呟いた感想に亮も少しばかり困り顔を浮かべる。

「良いデジモンなのは間違いないんだけどあれだけはね。町の事とかここに住むデジモンの事を誰よりも考えてるからなんだけど」

「それは分からなくはないけど・・・。って言うかそっちはまだ終わらないの?」

 美優にスキャンの経過を聞かれ、佑真は淡々と答える。

「もうとっくに終わってるよ」

「だったらもっと早く言いなさいよ。そうすれば途中でなんとか解放される事だって出来たかもしれないでしょ」

「そう?変に口を挟む方が返って長くなりそうじゃない?」

「そうかもだけど・・・。それよりスキャン終わったんだったら何ずっとやってんのよ」

 スキャンが終わったと言いながらもずっとタブレットPCを操作し続けている佑真に美優がそう問いかける。

「スキャンしたデータを分析してるんだよ。まぁ、戻ってからでもいいんだけどさっきの話が長く続きそうだったからね。時間を無駄にするのはあまり好きじゃないし」

 ババモンの語りに精神的なダメージを受ける中で意にも介さずにいた佑真だったが、それも本来の役目を越えてはいるもののやれる事を見つけて聞き流していたからだったようだ。

周りの事など気にも留めないからこそだが、それはパートナーのショットモンも同じ。ババモンの長い話の間も佑真が美優に問われている間もメンテナンスの終わったショットガンを分解しては組み立て、組み立てては分解を繰り返していた。

 パートナー揃って飄々とした佑真だが、佑真が解析していたアライブモンの情報は亮にとって知りたい事でもあると同時に知るのが怖いと思うものだった。

「・・・それで何が分かったの?」

「何も分からないってのが分かったってとこだね」

「分からないって・・・」

「これじゃ流石にね。詳しくは戻ってからじゃないと。でも、正直言ってかなり面白いね」

「面白いって、分からない事が?」

「ああ、解析しようにもデータがバラバラで解析しようがない。そのくせ、データ量が尋常ないぐらいに内包されてる。化け物みたいな奴って聞いてたけど、正直半信半疑だったんだけどどうやら間違いじゃないかも」

「・・・アライブモンは化け物なんかじゃない!アライブモンは僕のパートナーなんだ!だから絶対に化け物なんかじゃない!」

 存在するべきではないとアルファモンに狙われていたからだけではない。亮はアライブモンの力の片鱗を目の当たりにしていた。だからこそ、亮の中にもアライブモンへの懸念は宿っている。けれど出会ってから過ごしてきた日々。危険を顧みずに助けに来てくれたのも事実。

 アルファモンが狙ってきた意味と信じたいと言う亮の思い。その二つによって心の逆麟となっていた。

「ああ、いや、言い方悪かったか。でも、悪い意味で言ったつもりはないんだけどね。化け物って言ってもそれだけの力を秘めてるって意味なんだし。よく言うだろ。力は使い方次第だって。そいつも同じ。そいつがかなり危険だってのは多分間違いないだろうけど、デジモンには無限の可能性がある。そいつも同じなのかもしれないしね」

「そ、そっか。ごめん、大きな声出して」

「いいよ。こっちも軽はずみで言うべきじゃなかっただろうし」

 亮は佑真に悪意はないと知り、佑真も亮への気遣いが足りてなかったと反省する。その様子に納得いかないのが約一名。

「・・・お前。ここに来る途中で何か変な物でも食ったのか?」

「は?何訳分かんない事言ってんの?」

 突然そんな事を言い出した雅人に佑真は不機嫌そうに顔を顰める。

「お前が謝るとか、そうとしか考えられねぇだろ」

「非があれば認める。それって人として当たり前の事でしょ」

「いや、俺にはそんなの一度もなかっただろ」

「それはあんたの言動が短絡的だからってだけだろ」

「・・・お前ってホント可愛げねぇな」

「可愛げって、そんな風に思われる方が気持ち悪いんだけど」

「こっちだってそんなん言うの気持ち悪ぃっつの」

「だったら一々言わなくていいんじゃないの」

「てめぇが一言も二言も余計な事を言うからだろうが」

「先に言い出してるのはそっちでしょ」

 剣呑の空気が立ち込めだしだその時にババモンが戻ってくる。そして言った言葉でそれは一瞬で霧散する。

「何じゃ。疲れてると思うて休める場所を用意してきたんじゃがのう。ふむ、夜までまだ時間があるしの。折角じゃ、わらわが為になる話でしようかのう」

 あの長話がまた始まるのかとうんざりする雅人も、それならと佑真はタブレットPCへと視線を戻し、雅人も言い合いを続ける気が失せてしまう。

「そ、そのお気持ちだけで充分ですから」

「そうか、残念じゃのう」

 ババモンは残念そうにするが、美優の丁重な断りのおかげでどうにか寸前で長い話から逃れる事が出来た。

 

 その後、亮とアライブモンが風花とフワリモンを連れて町を案内していた。他の子供達とパートナーデジモンは美優が気を利かせて別行動をしていた。

「へぇ~、デジモンの町ってやっぱり変わってるんだね」

「そうだね。変わってるけどその分ここでの暮らしも楽しいんだけどね。それにここに住むデジモン達も皆優しいし」

「そうなんだ。・・・亮君が無事でホントに良かった」

「・・・心配させてごめん」

「良いんだよ。亮君が無事だっただけで」

 ちょっとだけいい雰囲気になりかけるも心配させてしまったと申し訳なさのある亮と亮の所に来る一心で見つけてからの事を考えていなかった風花の二人は続く言葉が出てこなくなってしまう。

このまま沈黙が場を支配するかと思われたがそうはならなかった。

「でも、まさか亮君とアライブモンの方が先にデジタルワールドに来ちゃうなんてね~。約束が無駄になっちゃたね~」

 フワリモンがそんな呑気な事を言い出したのも亮の無事を確認できたから。そしてその呑気な言葉は周りを和ませる。

「もうそれはいいんだけど・・・」

「そっか~。亮君と一緒にデジタルワールドにいるんだからそっちの方がいいもんね~」

「それはそうだけど・・・。そ、それよりこっちに来て大変じゃなかった?」

 フワリモンが何気なく言った事だったが、それは風花にとって一番の望み。だからつい恥ずかしくなって風花は話を逸らす。

 そんな風花の思いも知らず、亮は聞かれたままデジタルワールドに来てからの事を話し始める。

「大変だった時もあったけど直ぐにこの町に来れたし、何よりバンチョーレオモンがいてくれたからね」

「バンチョーレオモン?」

「うん、デジタルワールドに来たばっかりの時に助けてもらったんだ。今はもう旅立っていないんだけど」

 バンチョーレオモンへと思いを馳せる亮だったが、亮以上にバンチョーレオモンから影響を受けたアライブモンも話し始める。

「バンチョーレオモンってかっこいいんだよ!ちょっと怖い時もあったけど・・・。でも、すっごく強くてすっごくかっこいいんだよ!D―ブリガードって悪いデジモン達がいたんだけどバンチョーレオモンが一人で全部倒しちゃったんだから!」

「そうなんだ~。そんなに凄いデジモンがいたんだ~」

 アライブモンの話すバンチョーレオモンにフワリモンは素直に感心するが、風花はそうではなかった。

「・・・やっぱり大変な目に遭ってたんだね」

「うん、だけどバンチョーレオモンが助けてくれたから。それにバンチョーレオモンだけじゃなくてアライブモンも頑張ってくれたからね」

「だって亮がいなくなっちゃうのが嫌だったから・・・」

「そっか~。アライブモンも活躍したんだね~」

「・・・えへへ」

 亮を連れ戻せた誇らしさと褒められる照れくささに笑みを溢すアライブモン。それを見ていたのは亮達だけではなかった。

 

「・・・ふむ、順調と言いたい所だが、いささか進みが遅いか。いや・・・」

 深い闇の中。出会った子供達の姿を映したスクリーンが宙に浮かんでいた。それを眺めながら闇の主は頬杖をつきながらひっそりと呟く。

「・・・進みが遅いのではなく。こちらが性急に進みすぎていると言うべきか。・・・このままでは、な」

 その視線の先には亮やアライブモン達の姿を映し出す以外にも無数に浮かぶスクリーンの中があった。闇の主はその中のある一つのスクリーンへと視線を移した。

 

「・・・戻ってこぬか。あやつの執念は儂の想像を超えておったようじゃな」

 様々な機材に囲まれた部屋の中。自分の髭を撫でながらバルバモンは空の培養器を眺めていた。

 この培養器の中で調整されたダークドラモンが帰ってくる事はなかった。だが、それをバルバモンが気にする様子はない。

「まぁよい。実験は成功したのじゃからな。このデータを元にダークドラモンを量産すれば兵力は揃う。敵となる者の把握も済んだ。準備は万全」

 全てバルバモンの計画通りに事は進んでいた。D―ブリガードが各地を襲っていたのは戦闘を介してD―ブリガードの強化を図り、同時に行動を起こした時に障害となる者を炙り出し、その能力を把握する為。

 ダークドラモンの量産が終われば真の侵略を始められる。ただ、バルバモンにはそれだけでは満足できていなかった。

「・・・と言いたい所ではあるが、まだあと一つ。あれを手に入れなければな・・・」

 その底知れぬ欲を満たす算段を立てるバルバモンだったが、それは通信によって中断させられてしまう。

「噂をすればなんとやら、か・・・・。何の用じゃ?」

「そんな言い方はあんまりではないですか?私と貴方は互いに協力関係を結んでいる。言わば一蓮托生なのですから」

「よく言うわ。儂を利用する気しかないのであろうに」

「それは貴方も同じなのでは?そう言う意味でも一蓮托生と言えると思いますが」

「儂には正反対にしか思えぬがな。まぁよい。それより要件を早く言ってくれんか?」

「ええ、そうしましょう。実はそちらに迷い込んでしまった子供がいまして」

 通信の相手はそう言いながら送られた亮のデータが機材の一つとして備え付けられていたモニターに表示される。

「この子にあまり干渉しないでいただきたいのです。同時にこちらに戻らぬようにして手を講じていただければ」

「干渉せずに気をつけつつ戻らぬようにしろとは。なかなか無茶な要求をしてくる。じゃが流石に遅すぎたのう」

「と、言うのは?」

「もう既にこの子供とは一悶着あったようじゃからな。報告が儂の所に上がってきておる」

「それで、彼は無事なんですか?」

「ああ、幸いな事に助けられたようじゃよ」

「そうですか。それならいいんです。彼が無事である事とこちらに戻ってこない事。最低限その二つさえ守ってもらえれば」

「・・・それだけ重要な存在と言う事か」

「いえ、そうでもありませんよ。ただ、彼を狙うデジモンがこちらに居ましてね。それがなかなかに厄介なデジモンで騒動を起こされると都合が悪い。だからそのデジモンが行動を起こせないようにそちらに行ったままでいてほしいのです。彼が無事でいてもらいたいのも、もし何かあればそれはそれでこちら側で騒ぎの元になってしまいますから。それだけでしかありませんよ。・・・それとも貴方は私が今以上に何かを望む必要があるとでも思っているのですか?」

「・・・確かにな。そなたが手にした力。それがあれば世界を手にする事も可能であろう。儂と同じ魔王が欲した力なのじゃからな」

「ええ、ですから貴方も私に協力してくれている。そうですよね」

「その通りじゃ」

「ふふっ、私も気をつけなければいけませんね。貴方に後ろから狙われないように」

「ふんっ。それは儂とて同じ事。・・・確かに一蓮托生かもしれんな。互いに背中を狙い合っているのじゃからな」

 裏で暗躍し、その為に手を貸しながらも互いに警戒し合っている両者。その謀略に巻き込まれる子供達。一体この先に何が待ち受けているのか。

 それを見通している者はただ一人。誰にも気付かれない闇の奥底でこの事態を憂慮していた。

 

 翌朝。目的を果たした子供達は夜が明けるのを待ち、帰還の為に町から出立しようとしていた。

「それじゃ、私達はもう行くね。アライブモンは大丈夫だってなったら直ぐに戻ってくるから」

「・・・僕達も行くよ」

「え?でも・・・」

 思いもよらない亮の言葉に他の子供達も驚きを見せる。だが、それは決して帰る事を決めたからではなかった。

「僕達はこっちの事を少しは知ってるから手助けできると思うんだ。食べ物の調達とか、こっちでやってるし」

「持ち込んでる食糧はあまり余裕はないからね。ここで補充した分を含めても節約しなければ持ちそうにないし。助かるには助かるけど」

 亮の提案に佑真は思案し、その後に雅人と美優が続く。

「保存食も味気ないしな。それに比べてこっちの食い物はうまかったからな。保存食ばかり、しかも制限されてってのはしんどいんだよな」

「あたしらとしては助かるけど・・・。いいの?」

「僕達を探しに来させちゃったし、それにこれからもアライブモンの為に色々してもらう事になるのに全部任せっきりってのも気が引けるから。大した事は出来ないけど、僕も何かしたいんだ」

「それはいいが、向こうへ帰る訳ではないのだろう?君達だけでここへ戻って来る事は出来るのかい?」

 自分達が帰ってからの事をアスクモンが尋ねるが、心配には及ばなかった。

「それは大丈夫。これがあるから」

 そう言いながら亮はリュックの中から掌サイズの飛行機の模型を取り出す。

「オートパイロットって言ってね。これを使えば大きくなって中に乗れるようになってあらかじめインプットされている町まで自動で帰れるんだ」

「そんな便利な物があるんだ」

「まるでゲームだね。まぁ、デジタルの世界だから同じような物か」

 風花と佑真がデジタルワールドならではの道具に面白い物があるんだなと感心する。これなら見送った後に戻るのも問題はない。

「ふむ。それならこちらが気にする必要はないようだね」

「それじゃ、戻るまでの間だけど私達の新しい仲間って事で。改めてよろしくね」

 美優が選ばれし子供達代表の様に亮を一員として受け入れ、亮とアライブモンも選ばれし子供達と共に帰還までの間、行動を共にする事となった。

「こちらこそよろしく。それで帰る方法なんだけどどうやって帰るつもりなの?」

 亮の疑問に佑真が答える。

「昔にお台場霧事件の時にヴァンデモンってデジモンがゲートを開いて向こうに行った時に使ったゲートがヴァンデモンの城にあるからそれにデジヴァイスの力を加えてゲートをこじ開ける予定。ゲートキーパーが壊れてなければ今直ぐにでもゲートを開けるんだけどね」

 本来ならしなくていい苦労に佑真が面倒だと嘆息する。

「成程。それじゃそこを目指すんだね」

「そういう事」

 目指す先を確認して、亮とアライブモンは他の子供達とそのパートナーと共に歩き出した。

 

 それから数日経ち、子供達の旅路の果てにヴァンデモンの城へと辿り着く。

「・・・どうやらすんなりとはいきそうにないな」

 少し離れた場所で身を潜めながら様子を探る子供達の目に、悠然と聳える城の門前を二体のコマンドラモンが守る姿が映る。

「あれはコマンドラモン?何でこんな所にいるんだろう」

 主を失った城は廃墟同然になっている筈。リアルワールドとデジタルワールドを繋ぐデジタルゲートを開く装置がありはするが、二つの世界の間にある封印によってその装置を以てしてもデジタルゲートを開く事が出来ない。デジヴァイスの力を加えればこじ開ける事は出来るが、単体では意味をなさない筈。

「・・・誰もいない場所って事は誰にも気付かれずに入り込めるって事でもある訳だ。見た感じ中も広そうだしね。拠点として利用するにはもってこいだったのかもね」

 佑真はそう推測するが、これが当たっていようがいまいが厄介な事になっているのは変わらない。帰る為にはD―ブリガードを相手にしなければいけないのだから。

「要するにあいつらを蹴散らせばいいだけだろ。へっ、簡単じゃねぇか。行くぜ、ドスモン」

「オウ」

 そう言って雅人はドスモンと共に駆け出していく。

「あ・・・、おい・・・!ったく、これだから」

 雅人の独断専行に佑真は頭を押さえる。

「いいの?二人だけで行っちゃったけど」

 雅人とドスモンだけで大丈夫かとアライブモンが心配するが、佑真はいたって冷静。こうなる事は既にここまでの付き合いの中で既に経験済み。今更動揺はしなかった。

「まぁ、何とかなるだろ。実力“だけ”は本物だからね」

 実力は認めつつもそれ以外の部分で認めたくないと“だけ”の部分の皮肉に込められている。

「でも、あのデジモンは姿を消せるし、かなり厄介だと思うんだけど・・・」

 町を占領していた時の事を思い出しながらその時に見せた能力を亮が伝えるが、それは佑真達も既に把握していた。

「それは知ってるよ。捜査隊も出くわした事があって、その情報も上がってきてたからね」

 D―ブリガードの事は既に把握済み。問題はない。しかしそれに首を傾げる者がいた。

「・・・でも~、その情報を見てないとか~、忘れてるとかしてそうだよね~」

「「「・・・・・・・」」」

 フワリモンが思ってつい口に出した事。それは一緒に行動をしていた子供達とデジモン達は否定する事が出来ずに嫌な沈黙が流れる。

「・・・はぁ~、ショットモン」

 名を呼ばれたショットモンはそれだけで言いたい事は全て理解していると軽く目配せした後、草むらに隠れるように姿勢を低くしたまま大外に回り込むように雅人達の後を追いかける。

 

 他の子供達の杞憂など知らままに特攻を仕掛ける雅人とドスモン。

 近づいてくる不審者にコマンドラモンは容赦なく銃を構え、迎撃を開始する。

「いくぜ!ぶちかましてやれ!ドスモン!」

「ロックタックル!!」

 交差した両腕で銃弾から身を守りながら銃弾の雨を突っ切って岩石の体を叩きつける。

 それをコマンドラモンも銃でガードするが、岩石の体全身でぶつかってくるロックタックルの衝撃を防ぎきれず吹き飛ばされる。

 それを横目にロックタックルの標的から免れた方のコマンドラモンがドスモンを舐められる相手ではないと判断し、姿を消す。そして吹き飛ばされた方のコマンドラモンもまた立ち上がりながら姿を消した。

「な・・・!?消えるとか反則だろ!」

「・・・ムゥ」

 姿を消したコマンドラモンを前に周囲を見回すがそれで見つけられる筈はない。だが、反対にコマンドラモンからは変わらずドスモン達の姿は丸見え。左右に展開したコマンドラモンがドスモンに向かって一方的に銃弾を浴びせる。

「グゥ・・・!」

 何とかしようと銃弾が飛んでくる方へ腕を振るうが方向は分かっても距離までは分からず、僅かな銃弾を弾くだけでしかない。

 だが、そこに草むらから飛び出したショットモンが現れる。

「・・・LIZ―S」

  飛び出すと同時に飛び出したショットモンが構えたショットガンLIZ―Sを放つ。

  瞬時に放たれた無数の弾丸はその先の空間で消え居ていたコマンドラモンの一体をハチの巣にする。

 適当に撃って当たった訳ではない。例え姿を消していてもそれは体表面のテクスチャを変化させているだけ。発砲時のマズルフラッシュまでは消せはしない。それを頼りに場所を特定した。そんな芸当が出来たのもコマンドラモンの攻撃にも耐え続けていたドスモンの耐久力があってこそ。

 そしてLIZISの激しい反動を利用して後方へと弾かれるように飛んだショットモンは身を捩って半回転。空へ向いていた視線を地面へと向ける。

「メットバッド」

 ドスモンの頭上を越えて次なる空間へとヘルメットで覆われた頭での頭突きをかます。

 瞬く間に二体のコマンドラモンを打倒し、ショットモンは静かに着地する。

「・・・戻るぞ」

 着地よりも静かにそう一言だけ告げてショットモンは引き返す。

「お、おい!・・・何だよ」

 折角倒したのにと悪態をつきながらも雅人はドスモンと共に仲間達の元に戻って来る。

「・・・勝手な行動は止めろって何回行ったらいいのか教えてくれない?」

 戻って来るや否や嫌味たっぷりに辛辣な言葉で迎える佑真に不満げに戻ってきた雅人が更に不満を大きくする。

「何だよ。それならこっちだって何で来ねぇんだって言いたいっつの。折角中に入れるようになったってのに」

 そんな雅人の言い分に佑真はうんざりした顔を返す。

「そのチャンスを潰したのはあんただっての」

「何だよ、それ」

「あんた等が戦ったせいで中の奴等にも侵入しようとしてるってのがばれたんだよ。通信機を身に着けてたし、隠れてる時にでも通信して伝えてるに決まってるだろ。そんな状況で正面から行ったって集中攻撃受けて返り討ちになるのは目に見えてるよ。警戒レベルだって引き上げられてるだろうし。はぁ~、これで侵入するのがもっと難しくなったよ」

「だ、だったら止めてくれりゃいいだけだろ」

「うん。だから常に言ってるだろ。勝手な行動を止めてくれって。何回もね」

「うっ・・・」

 ぐうの音も出ない程に言い負かされた雅人を放って佑真は侵入方法へと思考を回す。

「・・・でも、どうする?周辺は探索がされている可能性が高い。しかも姿を消せるとなると迂闊に近づく事も出来ないしな・・・」

「姿が見えなくても影まで消せる訳じゃないから分からない事もないと思うけど」

 亮が経験から知った事を伝えるが、今回はそれは役に立ちそうにない。

「・・・いや、建物の陰に紛れてたら見つけられないし、建物の中にいる奴等も陰で把握するのは完璧には出来ない。敵がどれだけいるかも分からない中で迂闊な事は出来ない」

「地上がダメなら空から。と行ければいいのだろうが私達の中で空を飛べるのはフワリモンだけだからな」

 アスクモンも考えている事を口にするも、それは不可能だと切り捨てる。だが、佑真はそれを可能にするピースを繋げる。

「・・・いや、それいい考えだよ。八神君。オートパイロットだっけ?あれって一つだけ?幾つかあれば何とか出来るんだけど」

「えっと、確かまだ七つぐらいあったと思うけど」

「七つか・・・。オートパイロットって一人乗り?」

「ううん。二人まで乗れるようになってるけど」

「それなら十分だよ。じゃぁ・・・、ああ、でもその前に亮君ってどこまで付いてくるの?」

「どこまでって」

「こっちに残るんだろ?だったらここで戻ってくれてもいいからさ」

「・・・そうだよね。ゲートの所に辿り着いてそのまま向こうに帰るんだよね。それだと僕達が脱出しなきゃいけなくなるし。それは流石に無理か」

「脱出についてはそこまで気にしなくていいけど。あいつ等もゲートを通って向こうに行かれるかもしれないからここにいる奴等は全部追い払うのが先になるだろうし」

 追い払うと言うのであれば奥まで辿り着いても亮とアライブモンだけで戻る事も出来る。何だったら亮とアライブモンを外まで送ってから他の子供達がゲートの所まで戻ると言う事も出来る。

 だが、ここから先も同行するのなら恐らく亮とアライブモンも戦闘に参加する事になるだろう。

 アライブモンに戦わせたくはない。力を使っていた時のアライブモンの異様な姿。そしてその後に多大な負荷を受けて苦しむアライブモンの姿が脳裏に浮かんでくる。けれど、他の子供達とパートナーのデジモンだけに行かせてそのまま町まで戻れる程、面の皮は厚くない。

 付き合うべきか戻るべきか。その答えが出せない亮の手をアライブモンが引く。

「一緒に行こ。皆の力になれるかもしれないから」

「アライブモン・・・」

 バンチョーレオモンとの出会いを経て一回りも二回りも成長したアライブモンの意思に亮も繋がれた手を握り返す。

「・・・うん、そうだね。僕達も協力するよ」

「そう、ま、こっちとしてもどれだけ中にいるのかも分からないから人手があるに越したことはないからね」

「もう、折角協力してくれるって言ってくれてるんだからもっと柔らかい言い方ぐらいしてもいいんじゃないの?これだからうちの男連中は・・・。でも、亮君は違うみたいだから私としては大歓迎よ」

「でも、無理はしないでね。亮君達に何があったらいけないから」

「ふーちゃん心配しすぎだよ~。私達もいるし皆もいるんだから大丈夫」

 亮とアライブモンの決断を受け入れ、D―ブリガードを追い払う為の作戦を遂行する為の準備に取り掛かる。

 

「それじゃオートパイロット貸してくれない?」

「あ、うん」

 佑真は亮からオートパイロットを受け取ると隅々まで観察していく。

「・・・見た感じただの模型だね。っとここにポートがあるんだ」

 オートパイロットの背面下部にあるポートを見つけるとタブレットPCを取り出してオートパイロットとケーブルで繋げる。

「・・・これなら何とかなりそうだね」

 タブレットPCの画面にはオートパイロットを構成するプログラムが表示される。それを見て佑真は片側の口角を吊り上げる。だが、他の子供達はちんぷんかんぷん。

「・・・で、具体的には何が出来んの?」

 美優の問いに佑真はプログラムをいじりながら答える。

「見た感じこれはそのまま戦闘機を小さくしたような物みたいだからね。まぁ、武装はないけど。でも、それ以外は完璧。脱出装置もあるからルートを設定してあの城の上を通過するように設定して、座標が重なった時に脱出装置を起動するようにすれば屋根の上に降りれる。そうしたら窓から中に侵入できるしね」

「ほぉ、そんな事が可能だとはね」

 プログラミングまでやってのける佑真にアスクモンが感心する。

「大した事ないよ。ちょっとデータいじるだけなんだし。流石に本物の戦闘機じゃこうはいかないだろうけどね。全てがデータで構成されているデジタルワールド様様」

「でも、そんなんやってもうまくいくか?空からなんて丸見えだろ」

 作戦に対して雅人から指摘が入るが、佑真はそれを軽くいなす。

「そんなの隠せばいいだけだろ。フワリモンが進化すれば解決するっての。ああ、それと戦闘機が近づけば警戒するとか言い出すかもしれないから先に言っとくけど、そのまま通り過ぎれば気にしなくなる。まさかそこから飛行中に飛び降りてくる奴がいるなんてそうそう考えつかないだろうしね」

「へいへい、俺が考えつく事なんか頭のいいお前にはとっくに解決してるんだろうな」

「少しは物分かりがよくなったみたいで良かったよ。それじゃ朝霧さんとフワリモン。頼んだよ」

「私達の出番だね~。ふーちゃん頑張ろ~」

「う、うん、責任重大だね」

「気を張るような事じゃないよ。寧ろ一番安全なのは君達になるかもしれないしね。よし、これで行けるか。それじゃ、他のをやってる間に君達に行動してもらおうか」

 佑真は作戦の概要を伝え、風花とフワリモンがそれに従う。

「行くよ。フワリモン」

「うん、フワリモン進化!」

 風花がデジヴァイスを掲げ、発せられる光を受けてフワリモンの体を覆う羊毛が雨雲の様に灰色に変化し、その中からすらりと伸びる四肢と緩やかに巻いた角の生えた頭を出すクラウディモンへと進化を果たす。

 そしてクラウディモンが風花を背に乗せ、空へと駆け上っていく。

「エクステンドクラウディ!」

 クラウディモンが纏う羊毛が広がり、空を覆いつくしていく。

 そしてその中に紛れて風花とクラウディモンが最初に見張り台の屋根に降りる。

 気付かれたかどうかを確認出来れば作戦を中断して退かせる事も出来るが、姿が見えない以上相手の反応を確認する事も不可能。見張り台の真上に降りているのだから気付かれていれば直ぐに対応してくるだろうが、それがない以上は気付かれていないと考えるべき。反応が見えない以上は恐らくとまでしか言えないが。

「・・・姿が見えないってのはやっぱり厄介だね」

「始めた以上はうだうだ言ってねぇでやるしかねぇだろ」

「・・・止めるなんて言ってないっての」

 反応を把握出来ない事は予想していたが実際にその不快さに作戦を続行するべきか判断に迷いが生まれる。

ついそれを口にしてしまった所に良くも悪くも迷いとは無縁な雅人に妥当な事を言われ、また別の不快さを感じながらも否定できずその分、表情を濁らせながらオートパイロットを起動させる。

「それだけ威勢がいいんだったら最初に乗ってもらおうか。不備がないか確認ついでにさ」

「・・・それって大丈夫なのか?」

「多分ね。試してみない事には試してみない事には確実な事は言えないし。何?もしかしてビビってんの?」

「んなわきゃねぇだろ。行けばいいんだろ、行けば。行くぞ、ドスモン」

 佑真の意趣返しに誘導されて雅人は大きくなったオートパイロットにドスモンと共に乗り込む。

「で、これどうすりゃいいんだ?」

 戦闘機の操縦なんてした事がある訳のない雅人にどうすればいいのか分かる訳もない。だが、そんなに複雑な操作は必要ない。

「中央の辺りに大きなボタンがあるからそれを押せばいいだけなんだけど・・・。それでいいんだよね」

「ああ、その辺りはいじってないからね」

 オートパイロットを使用した事のある亮が変更はないかと佑真に確認しながらも使用方法を伝える。

「・・・これか」

 言われた通り見てみると計器や操縦桿がある中で異彩を放つまるでおもちゃの様なボタンを見つけ、雅人は躊躇いなく押すとハッチが締まり、エンジンが起動し殆ど滑走する事無く飛び立つ。ボタン一つで戦闘機が動くなんてリアルではありえない事がいともたやすく起きるのもデジタルワールドならでは。

 見た目だけではなく、質感さえも雲そのものの様にクラウディモンの羊毛の中を突っ切り、佑真の組んだプログラムの通り城の真上に差し掛かった所で脱出装置が起動し、コクピットから排出される。そしてパラシュートが開いてゆっくりと降下する、筈だったが質感が似ていても雲ではなく羊毛。繊維が絡まってパラシュートが開かない。

「・・・これってヤバくね」

「・・・アア」

 重力に引かれ、落下の勢いが増していく雅人達はやがて下まで落ちてしまう。だが、衝撃はなかった。

「間に合って良かった」

 落下する雅人とドスモンをクラウディモンが背中で受け止め、そのまま下まで降りていく。

 

「・・・プログラミングは完璧だったけど、作戦に穴があったみたいだね。まぁ、ああなるかもとは思ってたけど」

「・・・思ってたんなら言っておきなさいよ」

「言っても余計な恐怖心を煽るだけだよ。クラウディモンがいればそれも問題ないってのも想定内だったし」

 効率的なのか陰湿なのか。美優にわかる事はたった一つ。

「・・・何で真面な男がいないのかな」

 美優はつくづく自分の男運のなさにうんざりする。

 だが、そんな嫌気にいつまでもかかずらっている暇はない。真面ではあるが美優の範囲外にいる亮が作戦を先に進めるよう促す。

「ど、どうやら計画通りに収まってるみたいだし、僕達も行かないと」

「一秒無駄にする度に成功率は下がってくしね。次、どっちでもいいよ」

「・・・あんなの見た後じゃ気が乗らないけど少しでも早く解放されたいものね」

 美優は紐なしバンジーもかくやと言う恐怖体験の方が自分の望みの可能性がないのに面倒な仲間に無駄に付き合い続けるよりマシだと次に起動させたオートパイロットに乗り込んで雅人に続く。

「次は僕達だね・・・」

 高所から落とされる光景を遠目ながら目の当たりにして亮は躊躇してしまう。

「考え変えてもいいけど?無理に行く必要はないし」

 佑真に改めて尋ねられた迷いの答えを出す前に亮にアライブモンが手を握ってくる。

「行こう。亮」

 いつもより強く握ってくるアライブモンの手から同じ恐怖を感じているのが伝わってくる。同時にそれを乗り越えようとする意志も。

「・・・うん」

 そうして亮とアライブモンも、そして最後に佑真とショットモンもオートパイロットを利用して見張り台の屋根に降りる。

 

「さてと、では私が様子を探ってみるとしよう」

 無音で移動できるアスクモンが屋根を這って上から中を覗き込む。そして戻って仲間達に伝える。

「ここにはコマンドラモンが二体。そことそこの辺りにいたよ」

「それならショットモンとドスモンが同時に飛び込めば制圧できるかな。ショットモンは向こう。ドスモンはその反対側からって事で」

「いいのか?また馬鹿やるかもしれないぞ」

「今、これやれるのはショットモンとドスモンだけ。勝手な暴走さえしなければ君達の戦力は貴重だからね」

「・・・お前がそんなこと言うなんて、雨どころか隕石でも降ってきそうだな」

「何言ってんの。ずっと言ってるだろ。あんたが馬鹿な事やらなきゃこっちも余計な事言わなくて済むんだって」

「・・・前言撤回。快晴が続きそうだな」

「そう言う下らない事を言うから駄目なんだよ。ショットモン。ドスモン。頼んだよ」

「おい、ドスモンに命令すんじゃねぇよ」

「マサト。キニスルナ。ヤルコトハカワラナイ」

「・・・仕方ねぇな。ドスモンに免じて許してやるよ」

「・・・はぁ。そうかい。それじゃぁ、改めて頼むよ」

 その余計な事がいらないんだと佑真が心底うんざりする一方でショットモンとドスモンが佑真の指示通り乗り込み、数秒と経たずに制圧を完了する。

「僕達はあまり役に立たないかも」

 亮はそのあまりの早業にそんな感想を呟きながら選ばれし子供達に続いて見張り台から城の内部へと侵入する。

 

「・・・うわ、ここってどうなってるの?」

 アライブモンがそう言うのも無理はない。

 まるでトリックアートの世界に踏み込んだかのように上下が無茶苦茶になっている入り組んだ通路。しかもそれは単に通路がめちゃくちゃになっているだけではなく逆さまになっている通路の上を当然の様に逆さまで移動するコマンドラモンの姿が重力までもがその法則に従っているのを示していたのだから。

「私は別に何とも思わないが」

「そりゃあんたはね」

 地面も壁も天井も関係なく這って進めるアスクモンはこんな不可思議な空間を常に生きている。

 アスクモンと美優がそんな会話をしている間に佑真がリュックの中からドローンを取り出す。

「まずは周囲の状況を把握する。こんな所じゃ隠れながら進むのも難しそうだしね。念の為にこいつを持ってきておいてよかったよ。これが終わるまで皆は待機してて」

 ドローンを飛ばした佑真はタブレットPCで送られてくる映像を元にマッピングし、ショットモンがドローンや自分達に気付く可能性のある敵の動きを監視し、それを逐一伝えて佑真のサポートを務める。

「・・・こう言うのって落ち着かねぇな」

 隠れるのが性に合わない雅人がうずうずと飛び出したい気持ちを抑える。

「じっとしてないと。折角、間宮君が探ってくれてるんだから」

「分かってるんだけどよ・・・」

 亮に注意されるも落ち着きのなさは変えられない。

「でも、ドスモンは全く動かないよね」

 パートナーとは対照的に微動だにしないドスモンのデンとした姿に風花はそう呟く。

「まぁ、そいつは岩だからな。家にいる時もする事がない時は像みたいにじっとしてるぐらいだし」

「本当に全然動かないね~」

「うん、凄いカチカチ」

 好奇心からフワリモンが頭に乗られ、アライブモンに体を触られてもドスモンはピクリともしない。

「フワリモンもアライブモンも断らずに触るのはよくないよ」

「そんなの一々気にする奴じゃねぇし、別にいいんじゃねぇの」

「アア、オレハ、キニシナイ」

 そんな緊張感のないやり取りを前に作業に没頭していた佑真も口を開く。

「・・・あんた等隠れてる自覚あんの?まぁ、勝手に飛び出されるよりはいいけど」

 チクリと一言言いながらドローンの操作を続けていたが、そのドローンがコマンドラモンに気付かれ撃ち落されてしまう。

「あ・・・・。ごめん、静かにしてなくて」

 自分達のせいでミスしてしまったのかと亮が謝るが、佑真はそれを不思議そうにする。

「何で謝ってんの?もしかしてそのせいで落とされたとか思ってる?だったら必要ないよ。元よりこうなるのは分かってたし。こんな場所であんなの飛ばしてたらそりゃ落とされるよ」

 ドローンが撃ち落されたと言う事は敵にばれたと言う事。にも拘らず平然としている佑真に雅人が慌てだす。

「おい、そんな悠長にしてる場合かよ」

「ここにいる事まで知られた訳じゃないし、焦らなくてもいいっての。数で劣る上で戦うんだったら狭い場所の方が良い。つまりここ。後ろも気にしなくていいしね。周辺の構造も大体は分かったし、後はここにいる奴等を倒すだけだ」

 普段通りのクールさの中に普段見せない戦意を滲ませる。

 

「エクステンドクラウディ!」

 クラウディモンが羊毛を周囲へと広げて通路の空間全体に満ちる。

「これで視界を潰せる。こっちが相手を見えなくなるのと同じように向こうもこっちを見えなくなる。条件は同じ。でも、こっちは見えなくても把握する事はできる。クラウディモン。敵は何処にいる?」

「こことここと、それにここ。他には・・・」

 クラウディモンが広げた羊毛を掻き分けて進む敵の動きを感じ取り、タブレットPCに表示された周辺の地図に敵の居る場所を蹄の先で指し示していく。

「・・・成程ね。これなら数が来てもこの通路で迎え撃てるか。それ以外でも色々とやりようがあるか・・・」

「戦略を考えるのもいいが、いつまでも悠長にする訳にも行かないのでは?見つかってはいなくともここにいる事は知られてしまっているのだから増援を差し向けられてしまうだろうし」

 アスクモンの指摘に細かい事は状況に合わせてその都度修正すればいいと佑真はそれに首肯する。

「ああ、そうだろうね。じゃぁ、排除開始といくかな」

 そうしてD―ブリガードとの戦闘。その本番の幕が切って落とされた。

 

「・・・一体何処にいる」

 クラウディモンの羊毛に視界を塞がれた状況の中、ツーマンセルで捜索を行うコマンドラモン達が互いの場所を確認し合う意味も込めて軽い会話を繰り返していた。

「まさか俺達の方が襲撃を受ける事になるなんてな。しかも視界を潰すなんて味な真似しやがる」

「だが、それは向こうも同じ筈。把握出来たとしてもこの状況を作り出している奴だけだろう。タンクドラモンの様に情報を共有できるなら別だろうが」

「流石にそれはないと言いたいが、ここまで入り込まれてるのを鑑みればそうも言って・・・」

 言葉を交わしながらも耳を澄ましていたコマンドラモンが迫ってくる何者かの存在に気付き、言葉の代わりにその方向へと銃口を構える。

 と、同時に羊毛を突っ切って飛び出して来たドスモンにコマンドラモンは反射的に銃弾を撃ち込む。

 だが、頑強な岩の体に覆われたドスモンは止めるには至らない。

「ドスンパンチ!」

 ドスモンが繰り出した重い拳が片方のコマンドラモンの胴体に炸裂し、激しい衝撃と共に吹き飛ばされる。

「・・・くっ」

 もう片方のコマンドラモンは不利だと判断を下し、仲間を置いて後方へと下がり、羊毛の中へと姿を消す。

「・・・そのまま直進。逃がすなよ」

 ドスモンの後に続いてきた雅人が佑真から渡されて装着していたヘッドセットを通じて佑真の指示が届く。

「おい、ドスモンはそんな早くは走れねぇぞ」

「言われるまでもない。その先の通路は曲線になってて視界が悪い中じゃ逃げ足は鈍る。だからさっさと追いかけろ。逃げられるだろ」

「ああ、そうですか。ドスモン。さっきの奴を追いかけるぞ」

「アア」

 指示通りに追いかける。確かに通路は緩やかに曲がりくねっている。あまりにも非効率的で無意味なつくりだが、重力すらも無茶苦茶なこの空間でそれを言うのもナンセンスか。

 全力で走るも足の遅いドスモンだが、ドスモンの全速力程度なら緩やかなカーブなら狭い視界でも辛うじて対応が出来る。

 対するコマンドラモンは佑真の読み通り全速力は出せない。それでもドスモンと同じ程度に速度を落とせば通路のカーブに対応はできる。だが、追う側と追いかけられる側では同じにはならない。

 背後から追いかけてくるドスモンの足音に気を取られたコマンドラモンは前方と後方共に意識を割かれ、その分だけ速度を出せずにいた。

 その差によって追いついたドスモンはその勢いのまま体当たりをぶちかます。

「ロックタックル!」

 そのままコマンドラモンを倒すと雅人がそれを佑真に伝える。

「もう片方のも倒したぞ」

「それなら一度引き返して別れてる通路の右に進んでくれ」

「分かれた通路を右だな。ドスモン、戻るぞ」

「モドルノカ。ワカッタ」

「ちょっと待ちなさいよ。あたし達が付いてきてるの忘れないでよね」

 そう言いながら雅人の後から美優とアスクモンも現れる。

「次に行く前に傷を治しておかなければな。パナケイヤ」

 アスクモンは尻尾に巻き付けた杖を掲げると柔らかな光を放ち、ドスモンが負っていた傷を癒していく。

「さぁ、これで大丈夫だ」

「タスカル」

「それじゃさっさと次倒しに行ってきなさい」

「お前まで命令すんのかよ」

 そんな風に雅人とドスモン。美優とアスクモンが行動を共にしながら各個撃破を続けていった。

 

「どんな気分だろうな。逆の立場になるってのは」

 相手から姿を消す戦法を取るコマンドラモンだが、今は相手に視界を潰されながら自分達の場所を把握されている。

通常なら自分達が行う戦法を相手にされてしまった状況に陥ったコマンドラモンがどんな反応をするのか。それを想像する佑真は心底楽しそうにほくそ笑む。

 その傍らで何も役割を与えられていないアライブモンが呟く。

「何もしなくていいのかな・・・」

「いきなり加わっても連携を邪魔するだけになるかもしれないからね」

 皆の力になりたいと決意しながらもそれが果たせていないアライブモンに亮は亮なりに宥める。

「ヘッドセットも亮君の分は用意してこなかったみたいだし。仕方ないよ」

「アライブモンの力が必要になる時がないんなら問題ないって事だからそれはそれでいいと思うけど」

「・・・そうなのかな?」

 風花とクラウディモンにもそう言われアライブモンも完全には納得できないながらもくすぶる思いを胸に収める。

「そうだね。そのうち増援が来るだろうし、そうなればショットモンにも対応してもらわなきゃならなくなるけどその時にもし敵がここに気付いた場合の事を考慮しておくとショットモンの行動が制限しなくちゃいけない。クラウディモンは残るとしても戦闘には向いてないしね。だからこそ、君がここにいていざと言う時に僕達を守ってくれるのならショットモンも自由に動く事が出来て作戦の成功率も飛躍的に上昇させられるからね。君がいてくれるだけでも大きな意味があるよ」

「・・・そっか・・・うん。皆を守るよ!」

 佑真はアライブモンの思いを汲んだと言う訳ではなく。ただの事実を並べただけでしかないが、その事実によってアライブモンは自分の役割の重要性を理解する。

 そうこうしているうちに佑真の想定通り、仲間が次々と倒されている事に気付いたコマンドラモンの要請を受けて大勢の援軍が送られてくる。

「・・・援軍の到着だ。ここからが正念場になるぞ」

「せいせいするぜ。これでちまちませずに済むんだからな」

「さっさと帰る為にもサクッと終わらせちゃいましょう」

 通信機越しに佑真、雅人、美優の三人はこれより先の仕事を確認し、揃ってデジヴァイスを構える。

「ショットモン!」

「ドスモン!」

「アスクモン!」

「「「進化!!」」」

 デジヴァイスから発せられる光を受け、ショットモンはヘルメットがぴったりと嵌るまでに成長し、身軽さを感じさせる細身の体で武器をアサルトライフルへと持ち替えたアサルトリザモンへ。

 ドスモンは岩石の肉体が更に隆起し、更に鋼に覆われた拳を得たドゴスモンへ。

 アスクモンは人間の上半身と蛇の下半身を持ち、雌雄一対の蛇を体に巻き付けるナーガモンへ。

 それぞれが進化を果たし、ここでの戦いもまた先のレベルへと進化する。

「そこから前進。一分後に増援部隊の一つがやってくる。通路は少し広くなるから思う存分暴れていいよ」

「そりゃ有り難いが、かなりの数が来たりはしないんだろうな」

「増援なんだから当たり前だろ。でも、気にしなくていいよ。通路も広くなってるって言っても部隊を展開しきるには狭すぎるし、それにお膳立てはしておくからね。はい、残り50秒。向こうは待ってくれないぞ」

「やりゃいいんだろやりゃ。・・・お膳立てって何なんだ?」

 雅人は通信を切ってから佑真の言っていた事が気にかかる。だが、通信をしなおす暇はない。

「まぁいいか。ドゴスモン。この先の通路に援軍が来るらしい。結構いそうだし油断するなよ」

「ノゾムトコロダ」

 佑真からの指示を受けて先へと突き進む。

「で、こっちはどうすればいい訳」

 雅人とドゴスモンの後姿を見送りながら美優は自分達の行動を尋ねる。

「君達には一番重要な役割をしてもらう事になるよ」

 そうして盤面はチェックメイトへと向かっていく。

 

 雅人とドゴスモンが増援部隊と遭遇するそれより数秒前に敵の頭上を通る通路をアサルトリザモンが潜伏していた。

「・・・そっちはどう?」

「いつでも行ける」

 佑真の確認にアサルトリザモンは短く告げる。

「それなら予定通りに」

 通信を終えるとアサルトリザモンはアサルトライフルを背負い、四肢を使って壁に張り付いて敵の頭上へと移動。そして両手を話してぶら下がると懐から手榴弾を取り出す。

「スプラッシュグレネード」

 放り投げると同時に手榴弾は分裂し、爆撃となって降り注ぐ。

「どこからの攻撃だ!!」

分裂した手榴弾の威力は低いが相手を錯乱させるには十分な効果を上げる。

「・・・上だ」

 シールズドラモンがスカウターモノアイにて生体反応を探ってアサルトリザモンの場所を発見し、コマンドラモン達が集中砲火を仕掛ける。だが、その時には既にアサルトリザモンは通路を登り、銃弾から逃れていた。

「どうやらお膳立てってのがこれらしいな。ドゴスモンこっちも派手に行くぞ!」

「オウ!」

 アサルトリザモンへ注意が向いている隙をついてドゴスモンが突撃する。

「ドゴスナックル!」

 その剛腕でコマンドラモンを纏めて薙倒す。

 別方向からの襲撃にもシールズドラモンはいち早く反応して回避し、そこから続けてナイフを構えてドゴスモンに切りかかる。

「デスビハインド」

 シールズドラモンの目にもとまらぬ早業にドゴスモンは戦士の間で考えるよりも先に引いた右腕で辛うじてガードする。

「ムゥ・・・!ナラバ・・・!」

そして弾き返すと共に左手を腰に落とし、渾身の力を込めて突き上げる。

 だが、シールズドラモンは迫りくる鋼鉄の拳にも動じず、その拳の先に足をかけ、拳の勢いを跳躍力へと変換し高く跳ねる事でダメージを限りなくゼロに減らす。

 シールズドラモンへのカウンターを狙ったドゴスモンの一撃は無効化されただけでは終わらず、その瞬間に他のシールズドラモン達がドゴスモンの周囲を囲み、全方向からデスビハインドを叩き込もうとする。

「エレクトリックウール!」

 ドゴスモンのピンチを察知したクラウディモンが発生させた静電気がシールズドラモン達の体を走る。

 だが、所詮は静電気。シールズドラモンの動きを一瞬止める程度しか出来ない。でも、それで十分だった。

「スピニングスチール!」

 高速回転しながら両腕を広げたドゴスモンの鋼の拳が周囲を囲んでいたシールズドラモンを一掃する。

「チッ・・・!」

 ドゴスモンの拳を踏み台にして宙へと逃れていたシールズドラモンは舌打ちと共に着地する。

「何をしている!お前らも攻撃しろ!」

 コマンドラモンへ怒声を飛ばすが、シールズドラモンはその怒声を詰まらせてしまう。

「おねんね中の相手にそれを求めるのは流石に無理があるんじゃないか?」

 ドゴスモンへ注意が移った僅かな間に集団の中に飛び込んで瞬く間に壊滅させたアサルトリザモンが倒れ伏したコマンドラモン達の中で手にしたアサルトライフル・LIZ―Aの銃身を燻らせていた。

「・・・・・・」

 自分達の部隊が壊滅に追いやられた現状に対してシールズドラモンの前後には迫ってくるドゴスモンと悠然と行く手を塞ぐアサルトリザモン。

 最後に残ったシールズドラモンが追い詰められる中アサルトリザモンの足元にいたコマンドラモンが意識を取り戻し、M16アサシンを掴もうとするもそれより早くアサルトリザモンが放った銃弾が弾き飛ばす。

 だが、その一秒足らずの間にシールズドラモンはアサルトリザモンの背後を抜けて逃走する。

「ご苦労さん。よくやってくれたよ。後はそのまま寝とけ」

 羊毛の中へと姿を消したアサルトリザモンを気にも留めず、アサルトリザモンは銃床をコマンドラモンの首筋に打ち付けて再び昏倒させる。

「・・・オワナイノカ?」

 逃げていったシールズドラモンを気にも留めないアサルトリザモンへドゴスモンが傍へ寄りながらそう尋ねる。

「その必要はない。こいつが起きるように手加減したのもこうさせる為だからな」

「・・・ドウイウコトダ?」

「撤退しようとした時にどちらから逃げるとなれば動きの遅い君の方へ逃げる。もしそれで抜けられたらその先にいる雅人や美優が捕まって人質にされるかもしれない。そうなった所でクラウディモンの力を使えばどうにか出来るだろうが面倒な事になるのは変わりない。確実に仕留める為にはこっちに逃げてもらう必要があった。それに彼等にも出番があった方が良いしな」

 全ては作戦通りに進んでいた。

 逃走したシールズドラモンが追われていない事を確認すると別の部隊へ通信を行おうと足を緩める。だが、その前に足元に異物がある事に気づき足を止める。それが植物の種だと気付いた時には遅かった。

 その種から芽が生え、それが蔓となって体に巻き付き拘束される。抵抗する暇さえない一瞬の早業。

 雄の蛇の顎を撫でながらナーガモンがその姿を現す。

「流石としか言いようがないね。全部佑真の作戦通りになるなんて」

 ナーガモンはドゴスモンとアサルトリザモンが戦っている間に通路の裏を伝って反対側へと回り込んでトラップを仕掛けていた。全ては佑真の作戦通り。

 その事にナーガモンが感心している間に雄蛇の伏犠が左腕へと移動し、空いた右肩に身動きが取れなくなったシールズドラモンを担いでドゴスモンとアサルトリザモンに合流する。

「死屍累々とはこの事だね」

 ナーガモンはそこら中に倒れたD―ブリガードの一軍を前にドゴスモンとアサルトリザモンの戦闘力にも感心しながら担いでいたシールズドラモンをその中に投げ込む。

「誰も死んでないぞ」

「ふむ、それなら全員捕えておかなければならないね。頼んだよ。木徳・伏犠」

 元居た位置へと戻り、ナーガモンの右肩から顔を出す雄蛇、伏犠が瓢箪の種を吐き出し、その種が見る間に成長し、育った巨大な瓢箪が倒した敵の全てを吸い込む。その間にドゴスモンがぽつりと呟く。

「・・・キイテナカッタガ」

「ナーガモンの事か?話す時間はなかったからな」

「・・・マサトガオコリソウダ」

「それなら心配はいらないよ。美優がもう伝えているだろうからね」

「ソウカ。ナライイ」

 アサルトリザモンからまたしても佑真から全てを聞かされていなかったのかと雅人が不満を露わにするのを想像していたドゴスモンだったが、ナーガモンによってその必要はないと知る。

「さてと、それじゃ次のグループを排除しに行くとしよう」

 こうして完璧ではないながらもそれぞれのデジモンの能力を活かした連携によってD―ブリガードを次々と排除していく。

 

「・・・ここを狙ってくるとはのう。ここを拠点にしているのはまだ誰にも知られてはおらんかった筈。ならば狙いはゲートと言う事であろうな。で、あれば襲撃者は向こうへ帰ろうとしている人間の子供達じゃろうな。・・・しかしこうも簡単にやられてしまうとはのう。中に入られてはタンクドラモンも力を発揮できぬか。こうなった以上は被害を抑える為にもこのまま行かせてもよい所じゃが・・・そうも行かぬか。あやつに言われておる以上はな」

 こうなってしまった以上、取るべきは最後の手段。子供達の許へ最大の危機が迫ろうとしていた。

 

 D―ブリガードを次々に排除しながら城内を踏破し、やがて一行はゲートのある広間へと辿り着く。

「・・・・・・」

 クラウディモンの羊毛では広間へ流れ込みにくく、代わりにアサルトリザモンがLIZ―Aを構えながら内部を探る。

姿はない。それでもコマンドラモンが姿を消して潜んでいる可能性もある。影にも注意を払い、彫像などの陰にも紛れてないかライトを当てて確認する。

「・・・クリア。大丈夫だ。ここには誰もいない」

 アサルトリザモンが安全を確かめると残りのメンバーも中に入ってくる。

「ふぅ、これで帰れるようにはなった訳ね」

 任務の終わりか目に見える形で表れてほっと胸を撫で下ろす美優だったが、そんな美優にナーガモンが水を差す。

「帰るにもまだ少しかかるよ。D―ブリガードがまだ残ってるかもしれないし、亮君とアライブモンも外まで送らないといけないしね」

「口うるさく言わなくても忘れてないってば」

「それならいいんだけどね」

 そんな二人のやり取りにアライブモンは近づいてくる別れの足音を感じていた。

「・・・そっか。もう帰っちゃうんだね」

 寂しさを漏らすアライブモンにクラウディモンがその寂しさを紛らわせようと話しかける。

「お別れって言っても直ぐに戻って来るから。アライブモンは危険なデジモンじゃないって説得しに戻るだけだもん。それに次に戻って来るときはアライブモンと亮君も一緒に帰れるしね」

 クラウディモンはアライブモンと共にした時間によってアライブモンが危険なデジモンではないと理解している。だが、クラウディモン以上に時間を共にしている亮は簡単に頷く事は出来なかった。

「・・・でも、そう簡単に行くのかな」

 問答無用で襲ってきたアルファモンの事を思い出してしまい、どうしても心配は拭えない。

 そんな亮にクラウディモンがそうしたように風花も亮の心配を和らげようとする。

「きっとうまくいくよ。アライブモンが危険なデジモンになるって言ってたけど、もしそれが嘘じゃないとしても、データを持ちかえればそうならないようにする方法を見つけ出せる。そうなればアルファモンがアライブモンを襲う理由も無くせるんだから」

「・・・そうだね。うん、きっとうまくいく」

 想定通りに進むとは限らない。けれど、亮にはそうなると信じる以外に出来る事はない。

 そんな亮の苦悩に悩みとは無縁そうな雅人が亮の背中を叩いてくる。

「何とかなるって。そいつが悪い奴じゃないってのはよく分かってるしな。しっかり伝えてきてやるよ」

「う、うん。ありがとう」

 雅人の強引さに押され気味になりながらも、そのおかげで多少は気が逸れていく。

 そして佑真も普通とは違うが佑真なりに気遣いを見せる。

「まぁ、説得できなければ別の方法を考えればいいだけ。その都度、最大限出来る限りの事はするし。泉さんや教官とか、大人も対応してくれてるしね」

「・・・そうだね。太一さんだっているんだ。だからきっとどうにかしてくれるよね」

 かつて亮を救ってくれた最も信頼する太一が関わってくれている。何よりも心強い筈なのだが、オメガモンとアルファモンの戦いを見ていた亮はそれでも確信する事は出来ない。それでも太一ならきっとどうにかしてくれる。そう言い聞かせるしかなかった。

 そんな亮の事など露知らず。雅人と佑真はまた言い合いを始めてしまう。

「お前はなんでそうズレてんだよ」

「別の観点から事実を言ってるだけだろ。それにそう言うあんたは碌に考えもしない勢い任せ。それに比べればマシでしょ」

「勢いじゃねぇよ。こいつらを見てきてそう思ったからそう言ってんだからな」

「だからそれが勢いだけだって言ってるんだよ」

「あ~!もう分かんねぇ奴だな!そうじゃねぇって言ってんだろ!」

「違うんならどう違うのか。ちゃんと説明してくれない?じゃないと反論にならないよ」

 そんな二人に苦言を呈する者が徐に現れた。

「・・・敵地であるにも関わらず喧嘩を始めるとは呑気じゃのう。緊迫する中での余裕は必要じゃが、気を抜いてしまうようでは命取りになるぞ」

 まるで初めからそこにいたかのように何の気配もなく現れたバルバモンに全員の視線が集まる。

「何で爺さんがこんな所に・・・。」

「チカヅクナ、マサト。ソイツハキケンダ」

 老人の姿であるバルバモンに雅人は油断を見せるが、同じ老人の姿であるにも関わらずババモンとは違う圧倒的な存在感を感じてドゴスモンが静止させる。

 それだけの存在感を持ちながらも気配無く現れたバルバモンにドゴスモンだけではなく、他のパートナーデジモン達も一斉に警戒する。

「ほっほっほっ。ただの老いぼれに聊か過剰な反応ではないか?」

「ただの老いぼれ?それが事実なら多勢の相手に構えられてそんなに悠長には出来ないと思うが?」

「それ以前に俺達以外でここにいると言う事はD―ブリガードに関係していると告げてるようなものだ。察するに黒幕か、それに等しい者と考えるべきだろう」

 バルバモンの異様さをナーガモンとアサルトリザモンがそう推測する。

「ほう、その程度は考える力を持っているのか。じゃが、それぐらい出来ない様な者に儂が鍛えた兵士がしてやられるなどあまりにも無様すぎると言うもの。だとしてももっと鍛え直さねばならぬのは変わりないがのう」

 そう言いながらバルバモンの目に狂気の色が宿る。この後にどんな地獄がD―ブリガードに訪れるのか想像もできない。だが、そんな事を気にしている余裕はない。

「このまま見逃してくれる訳ないよね。だったらここに現れる訳ないもんね」

「ナラバ、ウチタオスホカナイ」

 クラウディモンとドゴスモンだけではなく、アサルトリザモンとナーガモンもバルバモンに対して身構える。

「威勢が良いのう。若さ故の特権と言うものか。・・・ならば先達として威勢だけではどうにもならぬと教えてやるとしよう」

 バルバモンがそう言い終わるよりも早く、二人が仕掛ける。

「LIZ―A」

「ドゴスナックル!」

アサルトリザモンが銃弾をバルバモンへばら撒き、そしてドゴスモンがその間を突き進む。

「やれやれ。血気盛んなのは良いが、老体を労わる気遣いぐらいは持っていてもらいたいんじゃがのう」

 そう言うバルバモンだったが、無数の銃弾を正面で回転させた杖で全て弾き、ドゴスモンの拳が触れるより早く杖を回収し、風に舞う木の葉のように軽やかに浮き上がって交わす。それはどう見ても老体なんて言う動きではない。

「ほっほっほっ。いい動きをする。コマンドラモンやシールズドラモンを倒すだけはある」

 余裕を見せるバルバモンにクラウディモンとナーガモンが追撃する。

「エクステンドクラウディ!」

「木徳・伏犠!」

 視界を奪おうとする羊毛は杖の先から発生した黒炎で瞬時に焼き払われ、着地の瞬間に伸びた蔦に体を拘束されるも、放出した魔の力によって枯れ落ちてしまう。

「ふむ。人間とデジモンが交わる事で生まれる力はやはり侮れぬな。さて、では儂も少し力を披露するとしようか」

 まるで子供に芸を見せるように緩やかに杖を翳すとその先端に邪悪な力が集まる。

「パンデモニウムロスト」

 放出され邪悪な力は超高熱の爆炎と化し、デジモン達に襲い掛かる。

「ぐあっっっっ!!!!」

 本気を出しているとは到底思えない。にも拘わらず、バルバモンの放った爆炎に吹き飛ばされ、クラウディモンは綿毛に覆われたワタモンへ、アサルトリザモンはヘルメットに姿を隠すメットカモンへ、ドゴスモンは岩の塊の中から目を覗かせるゴロモンへ、ナーガモンは小さな蛇のニョロモンヘ、力を失ったデジモン達は幼年期の姿へと退化してしまう。

「そんな・・・」

「教官のウォーグレイモン以上だって言うの・・・」

 圧倒的なバルバモンの力を前に絶望するしかない。それは風花と美優だけではない。雅人と佑真も同じだったが、ただ絶望するだけではなかった。

「・・・おい!何する気だ!?

「・・・決まってるだろ。ゲートを開くんだ」

 バルバモンに背を向けて駆け出した佑真に続いて雅人もゲートを開く台座の前に立つ。

「・・・やるなら早くしろって」

「だったら黙っててくれる?」

 好調だった状況が一転し、追い込まれた状況に焦りと苛立ちに急かされながら佑真はリュックのサイドポケットからカードの束を取り出す。

「えっと・・・上の絵が属性で横の星が成長段階、か」

 聞いていた通りにカードのデジモンを該当する場所に置いていく。

 佑真がゲートを開こうとする一方で、アライブモンがバルバモンへと戦う覚悟を決めていた。

「・・・皆を守らないと」

「アライブモン・・・」

 アライブモンは大きな力を持っている。それはここにいるパートナーデジモンの中で最も大きな力。だが、それを使えばその反動がアライブモンを襲う。タンクドラモンとの戦いの後で自らの力に苦しむアライブモンの姿を思い出し、亮は心配そうにアライブモンを見つめる。

「もう皆戦えない。だから皆の分も、それにここに来るまでの分も戦わなくちゃいけないんだ・・・!」

 強く見つめ返すアライブモンの意志の強さに亮も覚悟を決める。

「・・・分かったよ。もし、アライブモンに何かあったら僕が助けるから」

「・・・うん」

 バルバモンへと対峙したアライブモンは自分の中にいるデジモン達のデータを呼び覚ます。

「グルゥゥゥゥ・・・ァァァアアアアアア!!!!」

 ローブの中から活性化したアライブモンの体がローブの中から現れると同時にアライブモンは両腕を突き出し、装甲が覆っていく。

「ギガデストロイヤー!ギガデストロイヤーⅡ!」

 二種類のミサイルを放つと突き出したままの樹木の左腕の先に現れた木の葉の手先から無数のビームが放たれる。

「ライラシャワー!」

 その間に鉱石の左足に貯めたエネルギーと骨の右足に現れた有機体系ミサイルを推進力として前方のバルバモンへ飛び出す。

「コズモフラッシュ!グラウンドゼロ!」

 そして獣の右腕に現れた鍵爪を構える。

「カイザーネイル!」

 ミサイルとビームの激しい攻撃によって発生した煙に覆われながら、その煙の隙間からバルバモンは迫り来るアライブモンを見据えていた。

「・・・驚嘆に値する。じゃが・・・」

 だが、これだけの攻撃を受けながらもそのバルバモンの目には何の関心も宿っていなかった。

「脅威にはなりえぬ」

 アライブモンの鍵爪をバルバモンが杖で受け止めると同時に半回転させる事でいなし、そして杖の石突がアライブモンの胴体を軽く突く。

「あ・・・がぁぁぁ・・・」

 軽く突いただけ。だが、それはアライブモンの中にあるデジモン達のデータの繋ぎ目を見抜き、そこを狙う事で綻びを生み出し、そしてそれはアライブモンに激しい苦痛を与えた。

「アライブモン!」

 元の姿に戻り、倒れたアライブモンの許へと走り、守るように抱きかかえた亮はバルバモンに睨みつける。

 その二人の様子をバルバモンは髭を撫でながら眺める。

(・・・デジモンのデータの集合体。故に数多のデジモンの技を使う事が出来るようじゃのう。しかし、所詮は不完全なデータが集まっただけ。オリジナルには劣る。評価するなら成熟期以上完全体以下と言った所か。しかもその程度の力しか出せぬ割にはあまりにも脆く、リスクの方が遥かに高い。あやつがこちらに留めておくようにと言っておったのじゃから出し抜くのに使えると踏んでおったが、どうもそれだけの価値があるようには思えぬ。・・・それともこの奇怪なデジモンのパートナーとなった子供の方こそが本命なのじゃろうか・・・)

 バルバモンは協力者からの頼み事を利用して出し抜けないかと真意を探るが、利用できる存在になるかの確証が持てない。

(・・・特別な価値があるとは限らんか。あやつの言葉通りあちら側に現れたデジモンへの対策にすぎぬのか。それだと下手に手を出せば墓穴を掘りかねぬか。・・・それともそれを見越しての頼み事なのか・・・)

 手を組んだ相手を出し抜ければ全てが揃うが、それが如何に難儀かを改めて実感している間にも佑真達がカードを台座へと設置し終える。

「ゲートをこじ開ける!皆!デジヴァイスを!」

 来た時と同様。封印されているリアルワールドとデジタルワールドの壁をこじ開ける為にゲートだけでは足りない力に同じくゲートを開く力を持ったデジヴァイスの光を合わせる。

「亮君も早くこっちに!」

 こじ開けたゲートを通ればバルバモンから逃げられる。けれど、逃げた先にはアルファモンがいる。

 風花の声に亮はゲートの方を見るも迷いが生まれる。その僅かな間にバルバモンが先に杖を翳した。

「このまま向こうへ帰らせぬわけにはいかぬ。パンデモニウム・・・」

 ゲートを破壊しようとするバルバモンの行動。それはここにいる誰にも止められない。そう、ここにいる者では。

「・・・おっと、悪いがその子供達には一度帰ってもらわなければならないのでね。この物語が正しい結末へ辿り着く為に」

 バルバモンが技を放つよりも先に突如としてバルバモンの足元に現れた魔方陣から闇が溢れ出し、その足に絡みつく。

「な!・・・一体これは・・・!?」

 バルバモンは抗うも、闇は無情にもバルバモンをその中へと引きずり込んだ。

「・・・これは・・・?」

 眼前へと迫っていた危機が脈絡もなく消え去った事に子供達とデジモン達も理解が出来ず、ただ茫然とする。

 だが、その闇は単にバルバモンを排除しただけでは終わらなかった。

「・・・私の用意した舞台に紛れ込んだイレギュラー。それも物語が予定調和に陥らぬ為の刺激になると見逃していたが、私の見立てを越えて出しゃばり始めてしまったな。現に間延びせずに進ませる事が出来たが、このままでは破滅と言う最も安易で下らぬバッドエンドを迎えてしまう。それだけは見逃す訳にはいかないな。・・・あまり気乗りはしないが、私もこの舞台へ上がるとしよう。物語が破綻せぬよう調整するのもストーリーテラーたる私の義務なのだから。その為にも再び彼を招待しよう。この闇の世界へ」

 バルバモンを飲み込んだ闇は更に広がり亮とアライブモンにも絡みつく。

「亮君!!」

 風花が亮の許へと駆け寄った時には既に遅く。その手が亮に届く事はなかった。




次回予告
 闇の中へと引きずり込まれた亮とアライブモン。その先に待っていたのは光のない闇に満ちた世界。
 そこで待っていたのは闇の主に歓待を受ける亮達は闇の世界をそこに住まう者たちの事を知る事となる。
 そして闇の中にあった自分達の真実も・・・

次回、「作られた絆」
 新たなる冒険のゲートが開く。
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