石の薔薇、ストーン・ローゼズ
遽用意された、その空間は周囲に招かれたゲストやサーゼクス、ライザーの眷族やそれにグレモリー眷族やリアスも観衆として見守っている。変則としてライザーと“先生”が入れ替わりになって千寿に挑む、ということでダニーは最早数として数えられていないようだ。
「……それで、テメェは何者なんだよ?此処は悪魔しか入れねえところじゃねえのかよ?」
「さァ?何を言ってるんだろうな、君は。そう思わんかね?ライザー君」
「ええ、きっと戦闘前でしょうから、緊張しているんでしょう。なんせ、オレに負けましたからね。引き摺っているんでしょう」
ライザーと“先生”は千寿に目もくれず、談笑している。『ストーン・ローゼズ』の視力を通して向かい合う両者を見ると、ライザーの頭部から飛び出している『芽』のようなもの。
“先生”の隣に立つ者は何処か祖父を思い出させるような、懐かしい雰囲気があるが、同時に『dio』への憎しみを湧き出させてくる。マジシャンズ・レッドの攻略法は新たに進化したストーン・ローゼズの能力が勝利の鍵となる。しかし、あの『スタンド』の能力はなんなのだろうか?マジシャンズ・レッドはそのスタンドヴィジョンから能力がシンプルであると分かるが、dioの『スタンド』の能力は予想できない。吸血鬼としてのスキルは幼少にちょっぴり見たことがあるので、それなりの対処が出来るというもの。
【兄ィ!あいつら、なんか話してやがりますぜ!?オレらも作戦会議しますか!?】
意気揚々と溌剌とした様子でダニーは鼻を鳴らすが、不審そうにライザーはこちらを見る。馬と『会話』しているような千寿の様子が不審に見えたらしく、僅かに炎が揺らめいたように見えた。一方のdioはと言うと、我関せずといった様子で表情を表面に出さないのか、荘厳としたプレッシャーを放っている。水源が見つかったときに水が割れ目から噴出すように、思い出される記憶によれば、dioは百年間眠っていたはずだ。容姿が二十代でストップしていることに加え、dio自身が眠っていた時間を加えると実際の戦闘経験は千寿の父親の譲寿くらいとしか千寿はdioが得た戦闘経験は無いといえる。
つまり、この場ではdioの戦闘経験はdioが戦う上では全く
(……自分が思うがままに暴れる。dioのクソッタレとやりあう前に体力が無いんじゃあ、話にならねえからな)
「我がフェニックスの一族が炎に焼かれて死ねェ!ド三流がァァァ!“先生”の前で無様な姿は晒せねえんだよッッ!」
まるで燃え盛る炎のように激しい性格を露としたライザーは両手に炎を、背中に炎の翼を顕現させ、その燃え盛る翼をブーストにして千寿へと接近する。触れるだけで黒焦げにされてしまいそうな、その炎は流石はフェニックスと言うべきか距離を開けていても熱気は感じ取られ、近づけば近づくほど肌が焦がされてしまいそうになる。
千寿のベースは父親が『破壊神』と言う異名を持つ者だったにしろ、元は人間だ。波紋の力で常人よりは頑強さが増しているものの、ほんのちょっぴりのために転生悪魔として上昇した運動神経を持っていても、生まれながらの才能と力を持つ上級悪魔のライザーには敵わないものがある。波紋を両手の指先から発し、両手全体を包み込む。炎に包まれたライザーの両拳を掴み、互いの力比べがはじまる。
「キ、貴様ッッ!我が業火をこうも易々と受け止めるとは……、またそれは忌々しい波紋かッ!?」
ライザーが歯軋りさせながら、その顔が千寿と向かい合うような態勢となって悔しがる表情を見せる。が、口端は吊り上げられており、余裕の表情だ。小さく呟いた発音の一つ一つを拾っていくと、
『マ』
『ジ』
『シ』
『ャ』
『ン』
『ズ』
『レ』
『ッ』
『ド』
『背後に回って焼き殺せ!』
最後の最後ははっきりと聞こえた。あえてそうさせたんだろうか、千寿の耳に届かせるように。刹那、背後で業火が燃え盛る音がフィールド中に響く。業火を纏う両拳が唸り、長ランを纏う千寿の背中に風穴を穿とうと空を切る音を立てて炎の勢いが増す。
【兄ィ!後ろだ!】
(分かってらァ!迎え撃て、ストーン・ローゼズ!)
炎の拳が背中に向かった時、背後からニュルリと現れた鎧を纏う長身の青年。千寿と同じ身長を持つ人型のヴィジョンを持つ、スタンド・『ストーン・ローゼズ』はその球体関節の腕を固定させてライザーの『マジシャンズ・レッド』を迎え撃つ。スタンド本体と違い、波紋を通せなくなっている今の姿では、少しでも炎を食らうと本体へのフィードバックでダメージが跳ね返ってくる。ライザー自身もそうだが、スタンドバトルと白兵戦を同時に二つ行なう時は相当な集中力が必要となる。最初の邂逅ではスタンドヴィジョンは人型ではなく、ただ鉄球を放出するだけの大したことがない能力だった。そして前回のレーティングゲームではスタンドが現れなかった。
ライザーのマジシャンズ・レッドの能力は業火を放出させたりと炎を操る能力に長け、そして本体と同じく格闘スキルが高い。千寿は前にマジシャンズ・レッドの能力を見たことがあるので対処のしようはあるが、ライザー自体は『第三の姿』となっているストーン・ローゼズの能力を見ていない。人型といえど、そこにどんな能力が秘められているか分からないのだ。
《クソッ、相棒のスタンドとフェニックスのスタンドはパワーが互角か……。相棒、お前のスタンドはスピードはどうだ!?》
ライザーやdioに知られぬよう、ブーステッド・ギアが僅かに点滅して千寿に語りかける。互いに集中力を高めている中、掴みあう両手にも力を込め、互いが後ろに引き下がったり追い詰めたりの繰り返し。どちらかが集中力が切れた側が負けとなるが、ライザー自体には『炎』という利点がある。両手を燃やしているというのは、疲れで波紋のリズムが崩れたときを待てばいい。反対にライザーに一撃も与えられない、ということは無限に回復するボディよりもメンタルにダメージを与える行動にもでられないのだ。
「……ッ……グッ!」
隙を狙ったのか、何かの力で壁に吹っ飛ばされる。この展開されたフィールドの中では観衆は手出しが出来ないが、dioやライザーのスタンドならば、隙を突いて殴ることは可能だ。しかし、マジシャンズ・レッドはストーン・ローゼズと取っ組み合っているし、ライザー自身も千寿と取っ組み合っている。波紋から伝わる太陽エネルギーと似た作用を起こす働きがドライグの手助けによるものか、増強されていることもあって壁に千寿がストーン・ローゼズごと『吹っ飛ばされて』もダメージを与えていたようだ。
《クソッ、このままじゃ相棒の体力だけが削られちまう……。スペリオン光線はチャージが長いし、おい、禁手化するか?》
(禁手化っつーけどよォ、俺の体力がもたねえよ。波紋を練るのにも、ドライグはしたことねえだろうからわかんねえだろうが、集中力を保って相手と取っ組み合いしながら呼吸のリズムを保つのは難しいんだぜ?長距離ランナーってのは凄いなァ、おい)
《禁手化も出来ない状態か……。……そういえば、お前の長ランのポケットの中に何かが入ってたぞ?寝てる間に誰かが入れたんだろうが……》
(あ?何か入って……る?)
戦闘に夢中で気づいていなかったが、右ポケットには確かに重さを感じる。鉄球を隠し持っている時のように鉄独特の重さではなく、程よい感じの重さ。ポケットに手を入れてみると、それは……『矢』のようだった。
「どうした!?生意気なガキめ!耐え切れなくなったから、壁に自ら吹っ飛びに行ったのか?笑わせてくれるな!逃げたところで、かえって炎はお前を追い詰める!」
フェニックス眷族や観客からどっと笑いが溢れる。中立的立場でなくてはならない、魔王だからこそサーゼクスは真剣な面持ちでグレモリー眷族もまたそうだ。リアスはと言うと特にソレが顕著でドレスの布を握っている。
「……俺は『
よろよろと壁にぶつかった衝撃で僅かに視界が揺れる。さきほどの衝撃で軽い脳震盪にでもなったんだろうか、身体が少しだるい。少しでも集中力の糸が途切れてしまえば、すぐにでも地面に倒れ伏してしまうだろう。
だけど、そうさせない理由がある。
だけど、そうならない事情がある。
勝たねばならない、もがかなければならない必要がある。
「今際となってついにイカレたか!?ジョースターの血筋と聞いて、どれほどの力を持っているかと思ったが……大したことでもないようだ。この業火に焼かれて死ねェ!」
マジシャンズ・レッドを『収納』し、両手に燃え盛る炎と背中の炎の翼をブーストさせて振りかぶったこぶしはビュンッ!と炎の勢いと共に千寿の頬を切裂く。そして、また
本能から、士藤千寿のジョード・ジョースターの『生きて護りたい』との意思は瞬時に無駄の無い動作でポケットから達人の剣士が鞘から剣を引き抜くように、右ポケットから『矢』を取り出してストーン・ローゼズに『
業火を覚悟し、無意識のうちに動かした左手の動作には気づかず、それはストーン・ローゼズに突き刺していた。途端にストーン・ローゼズには亀裂が広がり、緩慢となっていた時の歯車が崩れ、どっと時間が侵攻し始める。観客席は何があったのか、とどよめきが走って騒ぎ出している。いつもならば此処で叫んでいるはずの千寿だったが、今回は叫ぶよりも前に自らのスタンドの『変化』に仰天していた。
鎧を消し飛ばし、露となった石の薔薇の真の姿は『頭からはやした角に鋭い爪、背中から生やした翼に牙のような者を剥きだして逆三角形の先端の尻尾を持った』人間がイメージする中で最も典型的なタイプのデザインで逞しい身体つきをした『悪魔』そのものだったからだ。
「なんだ、その姿は……なんなんだ!?」
いつもなら食って掛かるライザーの言葉は耳に入らない。覚醒した『石の薔薇』は炎を拳に纏うライザーの顔面に拳撃を入れ、血を吐くのも気にせずに腹や肩、鳩尾や顔面と炎を恐れずに怒涛のラッシュが続く。炎の合間を縫って叩き込まれる、そのラッシュのスピードはまるで炎を両腕が『回転して吹き飛ばす』かのようだ。
回転した両手はーーかつて祖父とその戦友で師に当たる男が戦った、風の
マジシャンズ・レッド、そしてフェニックスが持つ炎の衣そのものを吹き飛ばし、『裸体』と言える状態になったライザーに振り下ろされる無慈悲なラッシュ。
「…暫く黙っていろ、鳥野郎。俺ん家のこと、俺の家族のこと、オヤジのことにお袋のこと。なんッにも馬鹿にさせたりはしねえ。テメェが俺を下に見るのも気にくわねえから、俺は力で俺の意思を貫いてみせる。見ていろ、焼き鳥野郎とそのエセ教師。テメェに初めて見せてやるんだ、光栄に思え」
《結局、禁手化は使わなかったのか……。コイツ、つくづく態度や振る舞いは『ジョースター』じゃないようだな》
「クソッ!クソクソクソクソクソクソ!お前は今回のことがどれほど大切かを分かっていない!」
「わからねえよ。理解させたいってんなら、俺の前でお前の力を貫いてみろよ?」
ボコられながらも傷を回復し、元のスカしたツラと評せる顔に戻るものの戻ったとたんに一息つく前に無慈悲に入れられるストーン・ローゼズの拳。両腕に『回転』が自然の産物たる炎のお陰で加わったことで『斬撃』も可能となる。勢いを増して速度もどんどん加速していくラッシュは徐々に再生速度を上回り、ジョード・ジョースターの激しい怒りを表しているような精神のカタチであった。
スゥゥゥ、と余裕が出来たことで改めて可能となった波紋呼吸のリズム。悪あがきとしてマジシャンズ・レッドを繰り出して最後の一撃に全てを込めているライザーを全力で以って叩きのめす為にブーステッド・ギアで波紋を倍化させ、黄金のオーラを纏う。
「終わりだァッ!破壊神シドーの落胤よォォォォォ!燃え盛れ、我が炎よ!マジシャンズ・レッド!ヤツを我がフェニックスの炎と共に燃やし尽くせ!」
「震えるぞハート!ブチのめすほどヒート!刻むぞ、栄光へのロード!
完全回復が終わる前に全身全霊の炎と黄金色の波紋のオーバードライブ。千寿の必殺技と言える『ゴラゴラのラッシュ』が本体とストーン・ローゼズが行い、空間をも燃え上がらせそうな炎を右手にマジシャンズ・レッドの戦意を滾らせ、
千寿自身は分からなかったが、この強敵を前に完全に完成した黄金の波紋疾走とスタンド、ストーン・ローゼズの黄金の波紋のような魔力のオーラが合わさり、拳撃をさらなるパワーアップを果たす。
フェニックスの炎が燃え上がるより早く、ストーン・ローゼズの両腕の球体関節の『回転』と千寿自身のラッシュがライザーを圧倒して行きーー
「ーー俺の勝ちだ、ライザー」
「認めたくないが、お前の勝利だ。ジョー……スター」
「やるじゃねえか。そして、まともに俺の名を呼ぶようになったな」
意識も絶え絶えになり、スタンドのヴィジョンが薄らいでいく中、ライザーは満足げな笑みを見せた。しかし、その頭から見える肉の芽はライザーの
ストーン・ローゼズと共にライザーの身体のそばにしゃがみ、肉の芽を取り除こうと精密動作性が上がったストーン・ローゼズの指先は肉の芽を捕まえる。観衆がライザーに勝利したことで千寿に対するコール上がる中、ゆっくりと背後に忍び寄る『恐怖』。
肉の芽をブチン、と引き抜くとこわばっていたライザーの表情が緩くなったように感じた。次の宿主を求め、ストーン・ローゼズの手の中で暴れる肉の芽。
それを両腕で引き千切ると、やがて肉の芽は引き千切られた。
「お、お前……。あれだけ、オレと険悪な雰囲気になったというのに何故助けたんだ?ジョースター」
【オレも思った。兄ィ、疲れでどうにかしてんじゃねえか?アイツはオレを蹴っ飛ばしたんだぜ?忘れたとは言わせねえ】
(そりゃあ、ダニー。勝者が正義。勝てば官軍って言う、この国に伝わることわざなんだがな。勝てばいいんだよ、どんな無茶も許されるだろうさ)
ライザーと
かたや、ライザーには背を向けて長ランは煤塗れになって傷だらけの帽子を千寿は深く被り直す。
「なにも死ぬことはねえ、って冷静に考えたら思っただけだ。いつでもテメェをサンドバッグに出来るからよォ、テメェをな」
「オレは面と向かってサンドバッグにされると言われたことないぞ……。いや、ないほうがいいんだろうが。……危ない、ジョースター!後ろだ!」
『奇妙な友情』が出来上がり、妙な雰囲気がフェニックスとスタンド使いを包み込む。ストーン・ローゼズのストレートに顔面に向かって重さと硬さを併せ持つボーリングの玉を当てられたときのような痛みを思い出すと、自然と顔が青くなる。不思議と千寿とライザーの間に生まれた『奇妙な友情』にフェニックス眷族は怒る気力が失せた。
が、よい時間ほど簡単に過ぎていくもので疲弊しきった両者のうちの一人、千寿の背後に忍び寄る影に仰向けに倒れ伏したライザーはすぐに気がついた。
「勝利を確信した時こそ、もっとも油断が生じる……。これは、このdioが百年のうちに学んだことだ。そう思わんか?ジョード」
『恐怖』は、『過去』からやってくる。
ライザー戦、終了。
賛否両論ある終わり方だと思いますが、千寿はボロボロの状態で父親を殺した原因でもあるdioに次回に挑むこととなります。
今回、冒頭のアーシアの語りで出てきた千寿の幼少の姿の描写で出て来たスタンドヴィジョンをとったのは『石の薔薇』から連想できるヴィジョンをイメージしてみました。
これにて『石の薔薇』は最後の姿に至りましたが、肝心の能力はまだ開花していません。
次回、このままからのdio戦。