TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
「これからよろしくね。―更識簪さん」
私は微笑み、手を差し出す。
(なるほど、千冬さんが代表候補生云々ってところはこういう事だったのか…。)
ここでまた原作の話をしよう。
彼女、更識簪は原作中盤から登場するヒロインの一人だ。
日本の代表候補生ではあるのだが、織斑一夏がISを動かしてしまったせいで彼女の専用機の開発チームは『白式』への注力を余儀なくされ専用機『打鉄弐式』の開発はストップしてしまっている。
そして、現ロシア代表にして、学園最強の生徒会長、更識楯無の妹。
専用機の一件で他人に対し不信感を抱いてしまっている上、優秀な姉へのコンプレックスから、ただひたむきに己の力だけで『打鉄弐式』を完成させようとしている。
先ほどの話しぶりから千冬さんも、責任というか彼女に対する申し訳の無さは少なからず感じていたようだった。
「……うん、よろしくね」
少しだけ間が相手から、彼女は私の手を握り返してくれた。
だが、その心持ちは少し悪そうである。
(うわー、簪ちゃんの手ちっちゃいなぁ…)
この時の私は少しばかり興奮していた。
何を隠そう、私は前世では『かんざ新党員』だったのだ。
アニメだと二期の中盤から本格的な登場ということも有り視聴者へ魅力が伝わらなかったのもあったのか…他のヒロインズより党員が少なかったが、彼女の専用機へのひたむきさ、姉である楯無三都のすれ違いと再び関係を戻していくストーリー。前世の私は彼女のことを一番に応援していた。
「あの…長くない…?」
「あぁ、ごめんね!」
まずいまずい、自分の世界に入りすぎた…。
いそいそと私は持ってきた荷物整理を始めた。
(それにしても、あれから身体の調子は全然悪くない。神からの贈り物なのか、束さんのアフターサービスなのか、どちらにせよ私のことを何だと思ってるんだろう)
私の心はさすがに少し疲れ気味だった。
―――――~翌日・放課後~
「天利、すまないが6時に頼むぞ。」
「ええ、分かりました。織斑先生」
廊下で千冬さんと会話を交わす。
ちなみに、一応昨日休んだ身なのだが、心配してくれたのはのほほんさんだけだった。
(やっぱりのほほんさんは天使だななぁ…)
「天利、あのカチューシャはこっちで預かってる。一昨日みたいにはならないはずだ。存分に戦ってくれ」
「ええ。分かりました」
私がぶっ倒れたこともあって一夏君との模擬戦は翌日に延長されていた。
当然千冬さんからしばらく中止にするか、もう少し延期するかという提案もあったのだが、身体スキャンでは正常値だし、調子も悪くない。
だからなんだか申し訳ない気もしたし、それに一夏君の成長の糧となるのも実はやぶさかではなかった。
パトロンからのオーダーは彼を好きにならないことだしね。
外に出てアリーナへと向かう廊下にはコツコツコツと私だけの足音が響く。
当然だ。私以外にアリーナへ向かう人間はいない。
(だけど…この視線のようなものは何だ?)
数分前から感じる、ストーカーのような目線に私は振り向く。
「誰もいない…気のせい?」
振り向いた首を戻し歩き出そうとする。
が、一歩目を出さなかった。
いや、出せなかった。
「やぁやぁ、ふゆちゃん。調子はどうだい?」
「…ッ!束さん!?」
私の体をギュっと引き寄せ、耳元でささやく。
「この前のデータありがとね 」
ゾクッと体が震える。気まぐれにしては少々刺激的だった。
「で、データって何のことですか!」
束さんを引き離す。
「うん?ああ、ふゆちゃんには言ってなかったね。黒薊には自動的にデータを私のラボに送る装置をつけてあるのだ!束さんはよういしゅーとー!」
そう言って束さんは胸の間から空中投影型のディスプレイを取り出す。空中に映し出された映像には一昨日の戦闘の映像が移されていた。
「BT兵器とか言ったっけ?あれ、ちょっち私の方でも作ってるんだよねー。あのカチューシャ。あれから良い脳波の反応も取れたよ~!」
「…やっぱり、アレはカチューシャが元凶だったんですね」
「ん?そうだよー!アレはね…相手のISコアからの情報を傍受して君の脳に直接的に情報を送り込むって言うスグレモノなのだー!アレを使いこなせればぶっちゃけ君はちーちゃんも倒せるようになるよ!」
(思った以上にやべー奴じゃねーか!あのカチューシャ!)
「まぁ、ちーちゃんレベルになるとふゆちゃんの脳が壊れるけどねー!でもだいじょーぶ!一応リミッターかけてあるし!まぁ、慣れるまで時間かかると思うしリミッターのせいである程度までしかダメだと思うけどねー!」
「…そもそも束さん。私はもうあのカチューシャは付けませんよ。」
「ふふふふ~それはどうかにゃー?じゃあ私はもう行くね!今日はソレを伝えに来ただけだしー!じゃあねぇ!」
一瞬にして彼女の姿が消える。
(原作だと束さんもIS付けてるって一夏君が言ってたよな…。どんなレベルなんだよ…)
そっとハンカチを取り出し流れ出た冷や汗をぬぐう。
ふと腕時計を見ると試合開始までもう15分を切っていた。
「急がなきゃ…」
私はアリーナへ足を進めた。
―――――~第六アリーナ~
「一夏。良いか!後輩の代表候補生に頼んで特別に模擬戦の許可をもらった。一度自分の力量を図ってみると良い。」
アリーナには一夏が既に打鉄を展開し、準備を整えていた
『分かったよ。千冬姉、でも相手はまだ来ないのか?』
「もうすぐ来る。待ってろ」
既に右手には対IS用ブレードの『葵』が握られている。
「遅いな…」
ぽつりと呟くと控室から『黒薊』をまとった冬香が出てきた。
『ち…千冬さん』
通信で聞こえた彼女の声はどこか細く、か弱いものだった。
「どうした?冬香?」
『あの…カチューシャ…付いてるんです。…それに取れないんです。』
「は?冗談はよせ。あれは今私が…。」
後ろを見ると置いておいたはずのカチューシャがなくなっている。
「…すまん。冬香、今回はそのまま戦ってくれ」
『…はいぃ』
ブザーが鳴り試合が始まる。
(何故だ?なんでアレが…?さっきまで確かにそこに置いておいたはずなんだが…。また、アイツの口を割らせる必要があるな)
―――――
試合開始のブザーが鳴る。
(本当に束さんには…!なんでこれがまた!)
そんなことを考えつつ、背部のスラスターを稼働させる。
少し経つと、私の目に異変が起きる。
相手の一夏の姿がブレる。
ブレた幻影はは大きく右に動く。脳がそこにビームを撃てと体を動かす。
「そこッ…!!」
ライフルから放たれたビームの方向へ一夏が動く。
「うわぁっ!」
狙撃用モードの高出力ビームが一夏の打鉄へ直撃した。
(頭が…一昨日ほど痛くない?)
一昨日はこれでもかと言う程に痛みが来たが今日はそれほどでもない。
「うぉぉぉぉ!」
一夏は一直線に刀を構えこちらへ向かってくる。
「そんなに単純なら!痛みも強くない!」
目の中に映るブレは全くない。それは一夏が回避軌道をせずにただ直進することを意味していた。
「甘いッ!」
対艦刀を展開しそのリーチで葵をはじく。
そして左手のエネルギー放出をどてっぱらに食らわせた。
格闘技でいうところの掌底である。
次の瞬間、ビーとブザーが鳴った。
『試合終了。打鉄、エネルギー0』
機械的な音声がアリーナ内に流れる。
主人公との戦いは、驚くほど拍子抜けするものだった。
ISを解除しピットへ戻る。私は鼻歌混じりでISスーツを脱ぐ。
「ふんふんふふ~ん。今日は倒れなかったなぁ~」
「あの…」
後ろから声が聞こえる。
「ふぇ!?」
声の主は、セシリア・オルコットだった。
「せ、セシリアさん?」
(まずい、黒薊で顔が隠れてない!ば、バレる…?)
「あ、名前覚えていてくださったんですのね…。その、一昨日のことで…」
(これは、バレてない…?)
制服姿の彼女は私の方を向いている。
だが、私がクラスメイトの一人であるということには気が付いていないようであった。
「あ、あぁ。一昨日の事ですか?」
「ええ。貴女に負けて、自分の未熟さを知りました。それで…その、お名前だけでも聞かせてもらえませんか?」
なんだか今日のセシリアはいつもよりしおらしい。
「何やってるんだ。オルコット?関係者以外立ち入り禁止のはずだが?」
そんな彼女の後ろに千冬さんが立っていた。
「お、織斑先生!?いやこれは…その」
「悪いがコイツのことは国家機密だ。お前に喋ることはできない。さっさと寮へ戻れ」
「…はいですわ」
渋々彼女は了承しとぼとぼと帰っていく。
「セシリアさん。また、いつか会いましょう?」
彼女へ微笑む。
「はいっ!」
セシリアは嬉しそうに返事をする。
(なんだか、青春って感じ…。こういうのも悪くは、無いのかな)
私はそっと髪型を整えて眼鏡をかけなおした。