TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
「ずっと、待ってた。またここに来てくれること」
彼女―、黒薊はそう言って私に微笑みかける。
以前、私がカチューシャシステムによって暴走した時もここに来た。
「あの時も私は…」
死んでいた―とでもいうのだろうか。
「そう。冬香の身体は耐えれても精神が壊れてしまう。だからあの時、私が身体を借りたんだ。おかげで少しは私の声聞こえていたでしょ?」
ふんふふんと楽しそうに鼻唄を歌いながら私の手を取る。
「声―」
何度か、声が聞こえていたのもそうだ。
それに、千冬さんにラウラさんと戦うように言われたときに出た言葉も。
「
「この状態―?」
「そう。今の私は意図的に鎖が付けられている状態。……やっぱり気付いてなかったんだ」
むぅ―と彼女は口を膨らませる。
なんだか、美容院とか新しいネイルに気付かない彼女のような感じだ。
「ご、ごめん。その…鎖って―?」
束さんからそんなことを聞いた覚えもないし、第一、今までだって黒薊の性能は実習で使う打鉄やラファール・リヴァイブより低く感じたことはなかった。
機体性能だけでいえば、第三世代機も優に超えている。
問題は私がそれを動かしきれていないということだが―
「冬香、あんまり自分を責めるの悪い癖。…私たちIS、特に専用機はその専用機たるためにまず初めにすることがある。それはなんだかわかるよね?」
「それはもちろん、
専用機として運用される機体には先ず
それが完全に完了したとき―ISは
具体的には、セシリアさんと一番初めに戦った一夏くんのような状態。一般的には初期設定状態と呼ばれる。
初めて黒薊を起動したあの日、私はあのくそったれの神のいる空間に強制的につなげられた。
それはつまり―。
「ずっと初期設定状態で戦ってたってこと!?」
「うん、そういうこと。だから私たちはまた出会う必要があったの」
彼女は私の前に立ち、手を差し伸べる。
「冬香、私と―
私はその手を握り返す。
次の瞬間、彼女は私の身体をぐっと引き寄せた。
お互いの頭と心臓。それを鑑写しのようにぴったりとくっつける。
「ありがとう。冬香」
早くなる鼓動、かすかに香る花の香り。
今にでも、口づけしそうな距離―
私たちの周りには光の粒子のようなものが浮かび上がり始める。
私はそれが直感的に、現実へ戻るためのかがやきだと理解した。
「…また会えるよね?」
「うん、私はあなたの傍にいる。だから―自分を信じて』
その最後の言葉は上手く私には聞き取れなかった。
―――――
「………?」
海上に膝を抱くようにうずくまった銀の福音は、その顔をあげた。
そして次の瞬間電磁力によって加速された砲弾が直撃…大爆発を起こした。
「初弾、命中確認。継続して砲撃を行う」
128ミリL80電磁投射砲『ブリッツ』を二門装備したシュヴァルツェア・レーゲン パンツァー・カノーニアの姿はクアッド・ファランクス装備のラファール・リヴァイブより数倍も威圧感を与えた。
グスタフ、ドーラの愛称を持つ二門の超電磁砲が福音が反撃へ移るよりも早く砲撃を加えている。
(しかし、データのスペックよりも速いぞ…!!あと2000切ったかっ!)
銀の福音は翼を広げドンドンこちらへ近づいてゆく。
1500…1000…500…そして距離が300を切った時さらなる急加速で銀の福音はラウラへと迫った。
そうして、ステルスモードのセシリアが急襲するポイントへ差し掛かった時、福音は
『敵機B、確認。排除開始』
「何!?セシリア!不味い!ばれて…クッ!」
上を向いた銀の福音はそのシルバーベルの一部をラウラへ放った後、砲門の大部分を上空のセシリアへと放った。
『敵機C確認、排除開始』
そして二撃目にはさらに後方にいたシャルロットに向け放っていた。
「ISのステルスモードを突破する…?まさか!」
「でも、そんなんじゃ僕を落とせないよ!」
ブルー・ティアーズは換装した六基のブースターを巧みに操作しながら『スターライトMK-Ⅲ』を放つ。
ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡはそのペイロードを生かし、シルバーベルによる攻撃を受け止めながら『アルト・アサルト』や『レイン・オブ・サタデイ』で銀の福音の装甲をすり減らしてゆく。
『海中に新たなる敵機二機確認、以後D、Eと識別…』
シュヴァルツェア・レーゲンによる効力射も続く中、海面からさらに二機。ISが現れる。
「ばれちゃあしょうがないわね!やるわよ箒!」
「ああ、一夏の仇、討たせてもらう!」
甲龍のパッケージ崩山によって4門へ増加された衝撃砲…その赤き炎が福音を襲う。
「やったんですの!?」
「いいや……まだだ!」
紅椿の手には雨月と空裂の二振りが握られている。
『銀の鐘……最大稼働…開始!』
炎の中から姿を現した銀の福音は四肢と翼を目一杯に広げ、その持てるすべての砲門から光を放った。
「みんな下がって!僕の後ろに!」
シャルが叫ぶ。ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡのパッケージ、『ガーデン・カーテン』が防御の要であった。
紅椿のエネルギー消費問題を解決する上で、現在展開装甲の発動は防御時にもオフになっている。
しかし、篠ノ之流剣術から繰り出されるその攻撃は戦力として十分すぎるものであった。
「それでも…これはキツイかな…」
その強固な楯であったとしても現在の銀の福音の攻撃を受け止めることは至難の業であった。
しかし、ドン―と銀の福音に爆発が起きる。ラウラが発射した榴弾が命中したのだ。
その砲撃から生まれたの一瞬のスキを突き…攻勢に転じる。
「ラウラ!セシリア!援護よろしく!箒、切り込むわよ!」
スターライトMK-Ⅲとパンツァー・カノーニアから機体をパージさせたシュヴァルツェア・レーゲンが援護射撃を開始する。
そして正面からは箒の斬撃が、下方からは鈴の双天牙月が銀の福音を捉えた。
「もらったぁぁぁぁぁぁ!」
『攻撃…接近!
鈴の拡散衝撃砲をやすやすと回避すると銀の福音はその腕よりレーザーブレードを展開した。
「なっ…!?」
そうして双天牙月の一撃を受け止めると…もう片腕で甲龍を切り裂いた。
「鈴!!」
箒が叫ぶ。
「鈴さん!速く撤退を!その状態じゃ無理です!わたくしが援護します!」
状況をいち早く理解したセシリアは鈴の撤退の援護に回った。
「よくも鈴を!」
雨月と空裂の一撃を背後より急襲。鈴の衝撃砲のおかげか一瞬で反応が出来なかった銀の福音の右翼を破壊した。
「もらった!何ッ!ぐあッ!」
しかしそう易々と落とされるような相手ではない。
全身に装備されたスラスターとアポジモーターを巧みに使い、紅椿へ回し蹴りを叩き込んだ。
そして銀の福音の砲口が紅椿へ向いた。
「武器を捨てて回避!箒ー!」
そんなシャルの声も箒は聞き入れるつもりはない。
(今を逃したら…さっきと何も変わらない!)
そして今、光が放たれた。
「もし、お前が私の願いなら―答えて見せろ!紅椿ー!」
そしてその声に答えるかのように紅椿は放たれた光弾を避けた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」
二本の刀が狙うのは―福音の左翼のみ。そしてその絶大なエネルギーを秘めた刃は…届いた。
『機体…損傷…重大…制御…不可能…』
両翼を失った銀の福音はそのまま海中へ落ちてゆく。
「勝った…やったよ箒!」
シャルロットが嬉しそうな声をあげる。
「鈴さんも無事だったみたいですし、あとは一夏さんが目を覚ませば全部終わりますわね。」
恐らく山田先生からの通信を受け取ったのであろうセシリアは鈴の容態を伝えた。
「嫁へのいい土産話になったな。起きたらたっぷり……セシリア!回避!」
「どうしたんですの?ラウラさ…きゃぁぁぁ!」
突如海中からの一撃がブルー・ティアーズを襲った。
「全機、戦闘態勢!
「何…あれ…」
海中から姿を現した銀の福音は青い光の球の中でうずくまっている。
『キィァァァァァァァ!!!!!』
獣のような叫び声をあげる銀の福音は破損し、失った翼部を修復するばかりかまるで蝶のようなエネルギー翼を構築する。
「
ラウラがつぶやいた。ISの最高峰の一部しかたどり着けない領域。
同時に紅椿、リヴァイヴカスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、ブルー・ティアーズは恐れを感じたかのように一斉に警告音を鳴らす。
「何ッ…!?」
最初にロックオンされたのはラウラだった。
現状最も損害が軽微ではあったが二次移行したISを完全に捕捉し反撃する余裕などは微塵もなかった。
「ラウラを放せぇぇぇぇ!!!」
シャルロットはガーデンカーテンをパージし近接ブレードへ切り替え突撃。
「よせシャルロット!コイツは…!!」
その言葉が言い終わる前にシュヴァルツェア・レーゲンは光り輝く翼に包み込まれる。
その翼から放たれるエネルギーの弾丸は
「ラウラァ!コイツゥ!」
近接ブレードからレイン・オブ・サタディへ切り替え…それを福音の腹部へ撃ち込んだ。
しかしそれは…福音のさらなる攻撃につながるだけであった。
直撃を受けた腹部はまるで卵の殻のようにひび割れそしてそこから小型のエネルギー翼が生える。
そして腹部の崩壊から連鎖するように全身の装甲がひび割れそこから翼が生える姿はまるで一種の生命のように思えた。
エネルギー翼の直撃を受けたシャルロットもまた海中に落ちる。
「まずいなんてもんじゃありませんわ!」
懸命に射撃を続けるセシリアだが銀の福音は全身からレーザーを放った。
「回避を…!間に合わない…!?」
六基のブースターをフル稼働させ全力で回避に専念したとしても、銀の福音のレーザーから逃れることはできなかった。
一瞬にして数十の光弾の直撃を受けたブルー・ティアーズもまた海へと墜ちた。
「よくも―私の仲間を!」
展開装甲のロックを解除し、紅椿は空を駆ける。
紅椿の展開装甲を用いた防御と第四世代というスペックは銀の福音に追いつく…いや追い越すことも不可能ではなかった。
徐々にデッドヒートしてゆく格斗戦は互いの攻撃と回避の繰り返しの鼬ごっこだった。
「これで決める!」
すべての展開装甲を攻撃に転換させた紅椿は必殺の一撃と言わんばかりに雨月の打突を放つ…。
キュゥゥゥン
「なっ、こんなところでエネルギー切れだと!?」
眼前には銀の福音が間近まで迫っている。その翼は無防備な獲物を狩る準備を整えていた。
(ああ、すまない一夏…)
諦めた―その瞬間だった。
「ハァァァァァッ!」
「デリャァァァァァァ!!」
自分に向けられていた砲が放たれることはなく銀の福音は斬撃を受けた。
箒は二つの声が重なって聞こえた。
どちらの声も聞き覚えがある。しかし、二人ともISの形状が変わっていた。
「いち…か…」
「心配かけて悪かったな、箒」
白き鎧をまとい箒をそっと抱きしめる…織斑一夏。
漆黒の鎧をまとい赤き太刀筋を見せた…夏虚 薊莉。
形勢は―逆転した。