TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~   作:地味子好き

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夏休み編②

私の隣では千冬さんが寝ている。と言うよりも私が千冬さんの隣で寝ていた。

 

そうここは織斑家の二階、千冬さんの部屋だ。

 

自分でもどうしてこうなったのか理解が追いついていない。

 

あれ…?私篠ノ之神社の夏祭りに行ってたはずだよね?

 

私は目を瞑って今日一日の行動を思い出した。

 

 

~~~~~

 

 

「冬香~。もう起きなさ~い!」

 

そんな声を聴き私は目を覚ました。八月の盆週。久しぶりに帰省した私は休みなのをいいことによく昼近くまで寝ている。

 

まぁ帰省と言ってもIS学園からモノレールや電車を乗り継げばそれほどかからず帰ってこれる。

 

お母さんの声で起きた私はベッドから起き上がり身体を伸ばす。時計を10時30分を指していた。そんな時間まで寝かせてくれる私の両親はとても甘い部類に入るのだろう。

 

「ふぁぁ…」

 

あくびをしながら階段を降りていくとお父さんとお母さんはリビングでテレビを見ていた。

 

「おはよう。冬香、顔洗ってきなさい。」

 

「ふぁい…」

 

洗面台へ向かい、洗顔。視界にはお母さんのスキンケア用品が見えるが私はまだ必要ない。

 

「冬香ー!朝ごはんは?」

 

「んーいらない!」

 

そう、今日は篠ノ之神社で夏祭りがある日だ。始まるのは夜からだがとある理由で早くに家を出る。

 

せっかく箒の家に行くんだから近くにある五反田食堂に行ってみようと言う訳だ。

 

自室に戻った私は早速着替えを始めた。服装は水色と青のワンピース。水色のショルダーバッグ。

 

そしてカチューシャ…と行きたいところだが今日は付けずに麦わら帽子をかぶる。

 

「これでよし…」

 

カバンにハンカチ、財布他一式を詰め込み鏡の前に立つ。

 

「じゃあ、お母さん。行ってきま~す。」

 

ガチャとドアを開けると夏の暑い風が吹いていた。

 

八月も半分を過ぎているがまだまだ暑さは残っている。

 

さて、マップアプリで確認した所篠ノ之神社までは電車で40分乗った後30分ほど歩く。

 

その為に今日はスポーツサンダルを履いてきた。もちろん日焼け止め対策は万全に施したうえでである。

 

早速カバンに入れたペットボトルの麦茶を一口のみ、私は歩き出した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

お盆と言うこともあっていつもより客数は少ないが五反田食堂はにぎわっていた。

 

…しかし、地元から人気の食堂みたいな店には少し入りにくい雰囲気はあるが、意を決して扉を開ける。

 

「いらっしゃーい」

 

野太い声が響いた。調理場のほうから聞こえたのでこの声が『厳さん』なんだろう。

 

幸い誰もいないテーブルがあった。そこに座らせてもらおう。

 

「おぉい、弾!注文取ってくれ!」

 

「うーい!」

 

長い赤髪を束ね、注文を取りに来たのは一夏の親友五反田弾だった。

 

「あ…この業火野菜炒め定食で…」

 

「うい!少々お待ちください」

 

持ってきた本を読むこと十分。皿が運ばれてきた。

 

白い皿に乗せられた野菜と肉にはあんかけ風のたれがかかっている。醤油の香ばしい匂いが鼻腔をつく。

 

「いただきます。」

 

箸を手に取り、たれの絡まったキャベツ、玉ねぎ、豚肉をつかみ取り口に近づける。

 

ふぅふぅと息で冷まし口の中へ放り込むと、歯ごたえある野菜とそれを受け止める豚肉がしっかりと存在感を主張する。

 

すかさず口に白米を含むと野菜炒めの醤油味がもっとよこせと訴える。

 

それに従いもう一口白米。美味しい。

 

ごくんと飲み込むとまた少し寂しくなった口内へ野菜炒めを入れる。白米と野菜炒めのループの完成だ。

 

しかしこのままではいけない。みそ汁と付け合わせが置いてきぼりをくらってしまう。

 

みそ汁は夏らしい茄子の味噌汁だった。口に入れるととろけるように柔らかい茄子。少し濃いめのみそは汗で塩分を失った体に染みるような感覚を与える。

 

付け合わせはキュウリのお新香。かじるとポリといい音を立てる。このキュウリには白米よりも麦茶で流し込むのが正解だろう。

 

そして私は無限ループへ再突入する…。

 

「あ…」

 

気が付くと皿がすべて空だった。そして私の胃袋は満腹である。

 

「ごちそうさまでした。」

 

そう呟くと伝票をもち会計に行く。レジでは綺麗な女の人が応対してくれた。確か28から年を取っていない連さんだ。

 

「ウチの料理はおいしかった?」

 

財布から代金を出そうとしているとそう言われた。

 

「ええ。とても美味しかったです。」

 

「ふふふ。この辺じゃ見ない顔だから、気になっちゃって。どこの高校?藍越かしら?」

 

「あ…その…IS学園です。」

 

「まぁ!IS学園?じゃあ一夏くんと同じところね?」

 

「まぁ…はい。殆ど話したことないですけど。」

 

そう言って私は代金800円を渡す。

 

「ええと、はい丁度ね。ありがとうございました。」

 

「ごちそうさまでした…。」

 

そう言って店を出る。さて、まだ時間はあるので少し駅のほうに戻って図書館に…。

 

「ああ!待ってください!」

 

いきなり後ろから声がした。赤い髪を後ろでまとめた少女は活発そうな印象を与える。

 

「私…?」

 

「そうです!あの…私!貴女にお願いがあるんです!」

 

そう言って少女―五反田蘭は私に頭を下げた。

 

 

 

~~~~~

 

ここの図書館の一階には落ち着いたカフェが併設されていた。最近はこのスタイルが多くなったので借りてきた本とコーヒーを一緒に楽しめる。

 

「それで…お願いって?」

 

「はい…うぅ…」

 

目の前で五反田蘭は少し縮こまっている。その理由は良く分からないが。

 

「えっと…IS学園の生徒さん…なんですよね?」

 

「あ、うん。一応。」

 

「えっと…その非常に失礼なお願いなんですけど…」

 

何だろう。一夏君の写真やら映像とかだったら簡単に渡せるけど…

 

「文化祭の招待チケットもらえませんか!」

 

「…はい?」

 

文化祭の招待チケット…ああそういう事か。確か一夏君は弾君のほうに渡したから行けなかったんだっけ?

 

それにしても文化祭のチケットか…。確かに渡す人もいないからなぁ…。

 

「…ダメですよね?」

 

彼女はあからさまな落胆の表情を見せる。

 

「ううん。分かった。いいよ。」

 

そう言うと彼女の表情がパァッと明るくなる。

 

「良いんですか!?」

 

ダンと机をたたくように彼女は立ち上がった。そして周りから向けられた視線に気が付きまた縮こまってゆく。

 

「うん。私は別にあげる人がいないから…」

 

「あああああありがとうございます!!!!」

 

私の手をぎゅっと握り眼前数センチのところまで近づいた彼女は目にうれし涙を浮かべていた。

 

「じゃあ、連絡用にメアドを…ってそういえば私たち自己紹介してなかったね。」

 

「あ、そうでした!すみません…」

 

「ううん、言わなかった私も悪かったし、えっとじゃあ改めて。私の名前は天利冬香。よろしくね?」

 

「はい!私は五反田蘭です!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

~~~~~

 

セミの声が辺りに鳴り響く。私は木陰の下に入り、夏の日差しから逃れようとする。

 

篠ノ之神社。近くに剣道場が併設されているそこは壮麗な雰囲気を醸し出していた。

 

時刻は午後五時。箒曰く神楽舞は六時から始まるらしいので会えるのは禊が終わったこの時間のみらしい。

 

「よく来たな。」

 

全身を神楽衣装に包んだ彼女はいつもより麗しく見えた。

 

「…綺麗だね、箒。」

 

「ああ。私の叔母さんがこの手の化粧が得意でな。今日は楽しんでいってほしい。」

 

少し箒と談笑しているとその『雪子叔母さん』が彼女を呼びに来た。

 

簡単な挨拶をして私は露天を見て回りに行く。八時からの花火大会も見る予定だし時間はたっぷりある。

 

夏と言うことで夜が近くなっても外はまだ明るい。図書館から小説を数冊借りてきたので暇をつぶす相手はいるのだ。

 

焼きそば、お好み焼き、クレープ、金魚掬い、大判焼き…カラフルな文字は自分の店を一層主張している。

 

「あ、タピオカ…」

 

かつてのブームが過ぎ去りもはや定着したタピオカの屋台も勿論あった。

 

こうやって露天を見て回るのは何年ぶりだろう。天利冬香の記憶、そこをたどっても数回しかない。

 

「あ…」

 

私は一つの屋台の前で立ち止まった。人が来なさそうな外れにある扇子を売っている屋台だったがその中で端に埋もれるようにあったある一つの扇子に目を奪われた。

 

ソレを取り開いてみると黒地に赤でアザミの花が描かれている。薊は春の花だから全く季節外れであるのだが、ある種運命のように思えた。

 

「それが気に入った?」

 

「―はい。とても。」

 

店番をやっている女の人が話しかけた。

 

「これ―いくらですか?」

 

「そうね。五千円ってところかしら?」

 

「え…」

 

金額は予想以上だった。少なくとも私の財布には千円札はあと四枚しか入っていなかったはずである。

 

「嘘、嘘。冗談よ。タダでいいわ。」

 

「た、タダですか…?」

 

「ええ。その子をきちんと見つけてあげた貴女へのプレゼントよ。」

 

「そ、そんな…きちんと払いますから―」

 

そういった瞬間だった。シャン―と神楽舞の鈴の音が聞こえたのである。

 

 

「…へ?」

 

はっとした私が顔をあげると()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

しかしその手には先ほど手に取ったはずの扇子が確かにあった。

 

ワァァァっと歓声が上がる。丁度箒の神楽舞が終わったところだった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

「あれ…確か…」

 

そう聞こえたので振り向くとそこには朴念仁がいた。

 

「天利です。同じクラスの。」

 

「ああごめん。にしても奇遇だな。」

 

「ええ。箒の神楽舞を見に。」

 

「ええッ!!」

 

彼は驚く―と言うか当然の反応だ。臨海学校で同室だった人以外はというかそのメンバーですら信じないだろう。

 

「ああ、イヤごめん。意外だったから…」

 

「いえ。いいんですよ。…じゃあ私はそろそろお暇します。」

 

「えっ、いいのか?箒と会わなくて?」

 

「さっきも会いましたし…それに、貴方がいますから。箒に会いに来たんでしょう?だったら私が帰ったことも伝えておいてください。」

 

そう言って私は反対方向に歩いてゆく。ちなみに帰るというのは全くの嘘でこれから夕飯を屋台で買いあらかじめ見当をつけていたというか蘭ちゃんに教えてもらったポイントで花火を見る予定である。余談であるが、さっきのカフェで彼女は今日いけないと嘆いていた。さて、屋台で夕飯。うん、心が躍る。とりあえずさっき見てた塩焼きそばと焼き鳥は確定として…甘いものが何か欲しいな…。

 

そんなことを考えながら歩いてゆく。時計は七時半を指していた。とりあえず焼きそばと焼き鳥。後は飲み物の瓶ラムネを買い、いいものはないかと薊の扇子でパタパタ仰ぎながら歩いていくと、かつてブームを起こした白いたい焼きの屋台が目に入った。しかも冷たいタイプのたい焼きだ。〆のデザートはこれにしようと抹茶クリームとごま餡を買う。そして()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

やはり予想はしていたが、まさか白昼夢でも見たというのか。だったら私の持っているこの扇子は何なんだろうか。

 

湧き出る疑問と不安。しかしそれはすぐ掻き消された。

 

 

ヒュルルルルル―ドォン!

 

と一際大きな音が鳴る。花火が始まっていた。私は急いで蘭ちゃんに教えられたところへ足を進める。

 

数分歩くと全く人気のない、しかし花火がくっきり見えるところへ出た。しかし、知っているのは私以外にもいるようで先客がいた。

 

その先客は浴衣姿でねぎまを齧り、ビールで流し込む姿はいつものクールなイメージとは打って変わる。

 

「むぅ…もう焼き鳥がなくなってしまった。後五本くらいは買っておくべきだったか…」

 

そう呟く。それを聞いて私は先ほど買ったパックから()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうぞ。()()()()。」

 

「………冬香?」

 

織斑千冬―先客は彼女だった。私はバッグからシートを取り出し千冬さんの隣に敷く。

 

「奇遇ですね。」

 

「あ、ああ。そうだな。」

 

明らかに動揺が見える千冬さん。そんな彼女を横目に私はせっせと持ってきた紙皿に焼きそばを取り分ける。

 

「食べます?」

 

貰った割り箸を添えて千冬さんに渡すと受け取ってくれた。その間にも綺麗な花火は打ちあがり続ける。

 

私はラムネを取り出し、ポンと栓を開けた。シュワシュワと溢れてくるのを防ぐためそのまま強くビー玉を抑え込む。

 

「…ふぅ。」

 

何とかこぼれずに済んだ。

 

「じゃあ、千冬さん。乾杯しましょ?」

 

「ん、ああ。」

 

そう言ってビールの入っているプラコップに瓶を押し当てる。

 

炭酸が乾いた喉を潤してゆく。そしてパキリと割り箸を割って焼きそばを食べ始めた。

 

夜になっても風はまだ生ぬるい。

 

「……なんでお前がいるんだ!?」

 

「ふぇ…?」

 

タイムラグが長すぎるその質問に私は驚く。

 

「なんでって箒の神楽舞を見に来たんですよ。誘われたんで。」

 

「篠ノ之の…?」

 

「はい。友達なんですよ?私たち。」

 

千冬さんはにわかに信じられないという顔をするが私は気にせず、かさかさとたい焼きの袋を漁る。

 

「千冬さん、ごまと抹茶どっちが好きですか?」

 

「ん、ああ。抹茶だな。」

 

「じゃあ、はい、これどうぞ。」

 

抹茶と書いてある紙袋に入ったほうを手渡す。

 

「…いいのか?」

 

「はい。二個あるので。」

 

彼女は受け取って頭からガブリと食べる。逆に私は尻尾から食べるタイプだ。

 

たい焼きを食べ進めていくと、突然ピリリリリと千冬さんの携帯電話が鳴った。

 

すまんと言って立ち上がり木のそばへ行く。

 

「冬香」

 

花火を見ていると声をかけられた。電話はすぐ終わったようである。

 

「なんですか?」

 

「今日は私の家に泊まっていけ。」

 

 

 

 

冒頭へ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




12巻はまだ読まない。

とりあえず本編から結構改変しました。


追記:まっっっったく関係ない話。

篠ノ之神社の夏祭りの日の束さんの夕食は屋台で買ってきたようなものだったらしい。


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