TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
夏休みは儚いもの。始まったと思ったらすぐ終わってしまう。
昨年までの夏休みは高校受験のための夏期講習やらで忙しかったが今年はまた別な忙しさを含んでいた。
例の夏祭りの一件はもとより盆週以外は学園で倉持に送るための黒薊のデータ収集と生徒会の雑務に明け暮れる日々。
後はたまに簪ちゃんの進捗を見に行ったり…。ああ、それと一夏くんの盗撮集を束さんに送ったり。
最近さぼり気味だったので何か言われるかと思ったら、『一夏くんと箒をくっつけるのに専念すればいいので別に送らなくてもいい。』と言う返信が返ってきたので、私としては万々歳である。
なんやかんやで今日がこの家にいる最終日になってしまった。明日からはまた学園での寮生活が始まる。今は昼食後の休憩の時間だ。
「さて…ついに
瞭の机から誰の目にも触れられずここまで持ってきた1冊。間違いなく他人に見つかったらヤバイことになりかねないソレはたとえ自分の家の自分の部屋であっても私の指紋認証の机の引き出しに厳重に保管されている。
指紋の偽造?甘い。その中には本が一冊入るサイズの虹彩認証の機密ボックスがあるのだ。ちなみにネット通販で二万円だった。
代表候補生予備である私は毎月大卒公務員の初任給より少し多いくらいのお金がもらえるので少し高いものでも難なく買えるのだ。
「すぅ…はぁ…」
機密ボックスから取り出したソレはあくまで私と言う存在がない、インフィニット・ストラトス。
私が干渉した時点でその歴史は変わっているはず―だが何らか、高次的な修正力のようなものが働いてその運命へ収束する可能性だって存在する。
私は大きく深呼吸し、それを開いた…。
~~~~~
「はぁ…」
IS学園の整備ルーム、そこで1機のISが鎮座していた。
打鉄弐式―黒鉄色の打鉄とは違い、水色の機体色をした弐式は現在未完成状態であった。
倉持技研の人がとあるISのデータを送ってきてくれるおかげで大部分の開発は省略できたが…。
肝心の火器管制システムが一切手についていない。その送られてきたデータの中に弐式が採用する武装のデータは全くない、つまりはそのISは装備していないのである。
当初予定されていた五月という完成は遅れに遅れている。あの白式のせいで―。
「…だめ、今白式を恨んでも何も進まない」
頭がいっぱいに張り詰めた時、私がすることは決まっていた。
「…よし」
今日はもう終わりにしよう。先ずは機材を片付けて当直の先生に使用終了届を提出しに行かなければならない。
それが終わったら…背徳感に包まれた時間が始まる。
今は実家に帰っているルームメイト、彼女のベッドに入り…
倉持から送られてくる映像の中の彼女、それを見ていると勇気が湧いてくる。
彼女に会ってみたい―そんな衝動に駆られるがいつも私はすんでのところで踏みとどまる。
もし彼女に実際会ったとしたら、私はだめになってしまう。きっと彼女に「手伝って」と言ってしまう。
唯でさえ、冬香が差し入れをしてくれる時その言葉を言ってしまいそうになっているのに…。
「必ず完成させて…あの人の隣に立つ。だから、もう少し待っててね。」
私は弐式に向かってそう言って、部屋の電気を消した。
~~~~~
「………はぁ」
後書き含め215ページ。文庫本にしては文量の少ないソレを読み終えると、ため息しか出なかった。
前半は最早どうでも良い、ここで新ヒロインを出すのはどうかと思ったが。
…
ある種、予想できた事実。確かに、織斑一夏がただの人間でないことは分かっていたことだったし、箒の過去、それも既に示唆されていたはずだった。
しかし、しかしである。感情と理解が追いつかないのだ。感情、湧き上がるこの気持ち悪い感情が、彼や彼女たちの理解に追いついていない。
織斑千冬は…ただ、『きょうだい』を助けたかった。
織斑一夏は、その事実を知らぬまま生きてきた。
織斑マドカは、ただ自分を家族と認めてほしかっただけだった。
勝手に作られ、勝手に捨てられ、それがいつまでたっても織斑を呪っている。
インフィニット・ストラトス。それについては謎が深まるばかりだった。
『すべてのISは操縦者の夢をかなえる為に働く』そう赤月は言っていた。まるでパーシヴァルが見つけた聖杯のように。そして自らが初めてのISとも…。
何故、何故束さんはあんなように動くのか、何故普通の人間として生きようとする一夏を拒絶したのか、そして何故ISを生み出したのか…。
謎と、負の感情が渦巻く。そして私は思った。
こんなものは捨ててしまおう。何故なら、この本は意味がなくなるから。
誰も笑顔にならない結末を…私が変えて見せるから。
千冬さんも、一夏君も、マドカも、束さんも、箒も、みんな幸せにして見せるから。
だから、お願い。黒薊。その時まで力を貸して。
~~~~~
「さてと、終わったわね。」
誰もいない生徒会室。そこで楯無は体を伸ばす。
机に乗せられている大量の書類はすべて倉持技研へ送られるものだった。
白式の整備と打鉄の改良を同時進行で進めている倉持技研には全くもって遊ばせる人員など存在しないが、無理をして二名ほど黒薊と打鉄弐式を繋げる役割を担ってもらっている状態である。
よって少しでも手間を省くため、彼女がこうやって各種手続きを済ませてから資料を送るのである。
「冬香ちゃんか…」
ふと、彼女の名前を呼ぶ。IS適正S+という織斑千冬並みの数字を叩き出しながらその素性はいたって普通。
彼女の両親だって既に調べは付いている。父親はとある証券会社の社員で母親は専業主婦、過去にパートで弁当屋に勤めていたと全くもっておかしくない。
さらに過去に遡っても調べがつく限りではおかしいと思える事が何もなかった。
しかし、彼女は存在しているのである。…一歩間違えれば世界を揺るがす事態になりかねないが。
にしても、彼女は良く働いてくれる。まだ完全に信頼のおける関係とは言えない為、買いだしや雑務をしてもらっているが、細かいところに気配りができるタイプであることが分かりつつあった。
本音も良く懐いていることも好印象だった。だが、何より最も大きいのは最愛の妹が彼女に心を開いていることだった。
ここ数週間共に過ごしただけで分かった気もする。彼女はいい娘なのだ。女尊男卑がはびこる中でそのような考えはちっともない。
本音の手伝いと言う名目上、彼女を妹にふさわしいかどうか見極めるのが彼女を生徒会に入れた本当の理由である。
「これなら完全に任せられるわね…」
最初は「彼」が起爆剤となるという想定も考えられたが、もうその案は楯無の中に微塵も存在していなかった。
そう、彼女なら、天利冬香であったなら最愛の妹を任せられる。
「後は根回しだけね…」
現状、学園にいる公式な専用機持ちはダリル・ケイシー、グリフィン・レッドラム、フォルテ・サファイア、織斑一夏、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、そして更識簪と楯無の11名。
そこで数合わせのため彼女を角谷奈津美として学園祭後に行われる専用機タッグマッチトーナメントに入れる為の根回しをする必要があるのだ。
更識の力をフルに使い、各国との調整をしなくてはいけない。彼女にとってまた骨の折れるような仕事だったが苦とは思わなかった。
何故ならこれもすべて愛する妹のためなのだから…
皆様、評価のほうありがとうございます。起きてみたら5.7とかになっていたのでめちゃくちゃ驚きました。
と、言う訳で今回は12巻を読むお話です。
13巻がどうなるのかわかりませんが、いろいろと最後は考えています。
まぁ最終的に貞本EVAエンドのような展開になるかもしれませんが。
そこは確定ではないので…。原作でハッピーエンドならもっとハッピーにしますし、バッドならハッピーに変えるだけです。
ちなみにグリ姉だけいますが、設定改編のための専用機持ち数調整なので本編に殆どかかわってきません。
アーキタイプ・ブレイカーのほうもやってはいましたがそんなにガチ勢ではなかったのでストーリーも進めてなかったんですよ…
正直こんなに早く終わるとは思ってなかったので。ちなみに12巻についていたシリアルナンバーはまだ使っていません(半ギレ)
評価、感想よろしければお願いします。