TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
「ふんふんふふ~ん」
部屋の中に鼻歌とキーボードのタイプ音が響く。
「束様、お茶が入りました。」
「ん~ありがとくーちゃん!」
茶葉は決して高いモノではない。買おうと思えば余裕で最高級品を買えるのだが昔から飲んでいたものを買っているあたり束の物事への関心が良く表れている。
「お茶菓子はパウンドケーキです。」
「わぁ~!随分上手くなったね!」
以前は黒焦げだったが今回出されたのは綺麗な黄金色だった。
「えぇ。いずれ冬香様に食べていただくのですから。」
少しでも美味しいものを―とクロエは付け加える。
「そうだね~!今回もふゆちゃんにひとっ働きしてもらわないといけないし、
束はクロエの入れたお茶を半分まで飲むと目にもとまらぬ速さで入力を始める。
「これは…」
二人の眼前のモニターには冬香と黒薊のバイタルデータが逐次表示されている。
タァンと束がエンターを押したとき、その片方、黒薊のバイタルデータが一定になった。そしてもう片方、天利冬香のほうにとあるポップアップが現れた。
「ふっふっふ~!ちょぉっと眠っててね。それと…目を覚まそっか…
―コード・チェリーブロッサム 起動
~~~~~
生徒会室の中にはペンとハンコの音のみが響いていた。
「「終わったぁ~」」
そして山のように積み重なっていた文化祭関連の書類の最後の一枚を処理したとき、二人の声が重なった。
食べ物関連の保健所への申請や必要な設備、道具等の用紙とのにらめっこの生活は終わりを告げた。
「ふゆふゆ~ケーキ取って~」
「あ~、モンブランでいい?」
「どっちでも良い~!」
やっと今日のおやつとして取っておいたケーキにありつける。
「わぁ~おいしそ~!」
「のほほんさん、お茶入れてくるね」
「あ、ありがと~」
生徒会に入ってはや1か月。一大イベントである文化祭も目前に迫り、忙しさには拍車をかけていた。
しかし、生徒会としての書類仕事はもう終わりだ。あとは当日の運営とクラスのほうなのだが…
「はぁ~おいし~これならふゆふゆ一流のメイドさんになれるよ~」
そう、私とのほほんさんはなぜか接客業務のほうに班分けされていた。
「正直やりたくないんだけどね…。」
一応人並みに接客はできるとは思うのだが…如何せん恥ずかしい。
ちなみにどこからか聞きつけた虚さんがお茶入れのやり方を教えてくれた。
「じゃあ私も…ん?」
ポケットの中で携帯がバイヴした。仕事に集中するため電話のバイヴ以外ならないようにしていたので十中八九着信だ。
「ごめん、のほほんさん。ちょっと外すね。」
私はそう言って生徒会室の外に出る。
「もしもし?」
『ああ、ふゆちゃん!今どこ!?』
「束さん…?今学校の中ですけど…」
『じゃあ、今すぐここにきて!』
そう言うとメッセージアプリのほうに画像が送られてきた。
ん、ここは私がよく着替えに使う更衣室だ。
「分かりましたけど…いったいなんです?」
『それは着いてから説明するから!それじゃあ急いで!』
そう言うと電話が切れた。こんなに焦った声で話す束さんは初めて見た。
とりあえず、言って見よう。
~~~~~
ガチャリと扉を開けると、すでに束さんはそこにいた。
「ああ、ふゆちゃん!早速だけど…
「え、ああ、いいですけど…」
どうせ、この人に条約なぞ関係ないのだ。
(…黒薊!)
そう心に念じる…が、黒薊が現れることはない。
「え…?ど、どうして?黒薊!」
何度も呼び出そうとするが依然として変わりはない。
「…やっぱり。」
訳が分からずいると束さんが口を開いた。
「こっちで観測していた黒薊のデータ送信がいきなり途絶えたんだ…。何が起きたか束さんにも良く分からない。」
いつものおちゃらけた口調はどこかへ行き、束さんはいたって真剣な目をしていた。
「ど、どうすれば…」
「…とりあえず、分解して解析してみるしかないと思う…」
空間投影型のディスプレイを目の前に映し何やら計算をしている。
「一週間…」
「うん、もしかしたらそれ以上かもしれない。」
一週間と言う期間は来週の文化祭に間に合うかどうかだった。
私は腕輪である待機状態の黒薊を外し、束さんに手渡した。
「束さん、黒薊をよろしくお願いします」
「うん、絶対原因見つけるから。じゃあ束さんは早速取り掛かってみる。じゃあね。」
そう言うと束さんは窓を開け、飛び降りた。
文化祭に起こる亡国企業の襲撃…原作通りだったら私がいなくても対処できるが…
私の心には一抹の不安が残っていた。…とりあえず、千冬さんと楯無さんにも言っておかないと…。
~~~~~
「えっと…ああ、ここか。」
日曜日の今日は基本的に当直の先生以外は自由だ。
だがほとんどの生徒が部活と寮生活と言うことで寮長は土日の部活終了時間である午後六時までは寮長室へ戻ることになっている。
「織斑先生、天利です」
コンコンコンとノックし扉を開ける。
「ん、冬香か。どうした?」
千冬さんは机に向かって何やら仕事をしていた。
「えっと…実は、黒薊が起動しなくなったんです。」
「起動しなくなった…?」
「はい。さっき束さんが回収に…」
千冬さんは神妙な面持ちになる。
「…分かった。私のほうから更識には伝えておく。」
「あ、ありがとうございます。」
「まぁ、そう焦るな。束にもいろいろと聞いてみるさ。」
そっと彼女は立ち上がり冷蔵庫の中から缶コーヒーを二本取り出した。
「ほら。とりあえず、ここに座って飲め」
そう言って机の下にあったもう一つの椅子を出してくれた。
「ありがとうございます。千冬さん」
コーヒーを受け取って座ると、カシュとプルタブを開ける。口を近づけるとコーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「…なぁ冬香」
「なんです?」
「…一夏の事をどう思う?」
「一夏君ですか?…どうって言われたって、んーまぁ良い人だとは思いますよ。」
ただし、鈍感かつ行動がアレなだけで。二次創作でよく見る一人に覚悟を決めた一夏君とかは普通に好きだったけどね。むしろ目指すべきはそれなのでは?
速く誰かとくっついてほしい。と言うか箒とくっついてほしい。…今度ある(はず)のインフィニット・ストライプスの撮影の時にもっとぐいぐい行くように助言でもしてみるか。
「…そうか」
そう言って千冬さんはコーヒーに口を付ける。
「人間ってなんだろうな。」
いきなり千冬さんはそう言った。
「哲学ですか?」
「あ、いや。なんとなくな。」
「…私は自分が人間と思うならそれが人間なんだと思います。たとえ他者から否定されようとも、自分がそう思ってる限り、きっと人間ですよ。」
そう言うと千冬さんが目を丸くする。そして私はこう続けた。
「千冬さん。私は貴女を…いえ
そう言って私は部屋を出た。
今回は少し短め。文化祭編は全三回の予定です。
ちなみに投稿が遅れた原因は12巻までの大まかな流れを書いていたからです。
意見、感想、評価、よろしければどうぞ。
と毎回書いているんですが、これがまたかなりモチベーションになるのでなんでもいいので何かあればお願いします。
追記8/15 大幅に書き足しました。