TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~   作:地味子好き

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文化祭編④

「冬香…」

 

千冬さんは息を切らしながら近づく。どうやら走ってきたようだった。

 

「千冬さん…」

 

私はそんな彼女に微笑み返す。

 

「お前は…」

 

パチ…パチパチ…パチパチパチパチパチ

 

千冬さんが何かを言いかけた。しかしそれは手をたたく音に消される

 

「感動的ねぇ。でも、無意味よ。」

 

プラチナの髪に胸元を主張する真っ赤なドレス。そしてまるでヴァンパイアのような紅き目…。

 

そんな女はこの世に一人しかいない。亡国企業幹部にしてモノクローム・アバター隊長。

 

「スコール…ミューゼル!」

 

「Mを…返してもらえるかしら、天利冬香さん?」

 

私はマドカをしっかりと抱き抱え、放すつもりはない。

 

「…渡せない、と言ったら?」

 

「簡単よ。ナノマシンがМを内側から殺すだけ…そういうナノマシンが注射されているの。貴女ならわかるでしょう?」

 

「なっ…!?」

 

…確かに、その可能性はある。亡国企業に心から誓っていないマドカに対する処置としては至極真っ当なものだ。

 

それは裏切り者のオルフェノクを許さないスマートブレインのように。

 

「待て、ここに私がいることを忘れたのか?貴様も含め全員捕虜にさせてもらう。」

 

「あら、そんなこと言っていいのかしら?貴女の妹、死ぬことになるわよ?」

 

「…くっ」

 

『妹』その単語が出た途端、千冬さんは動揺をあらわにする。

 

「…天利冬香、感謝する。だが…私はここにはいられない。私は…私の復讐がある!」

 

「マドカ…」

 

私の腕の中にいたマドカは強引にその手を払いのけるようにして立ち上がる。

 

「…織斑千冬、いずれ待っていろ。」

 

そう千冬に言い残し、彼女はスコールの元へ向かった。

 

「ほら、貴女のラファールよ。持ってきておいて良かったわ。」

 

マドカはそう言って紫色の首飾りを受け取った。

 

「ではまた会いましょう。織斑千冬…それに天利冬香。」

 

黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)とラファール・リヴァイブを展開させた二人はそう言って飛び去った。

 

 

「あれ…?」

 

 

突然、眼前がピントのあってないカメラのレンズのようにぼやける。

 

 

「冬香!」

 

 

私を呼ぶ千冬さんの声、それさえもかすれたように聞こえる。

 

頭が考えることを拒否し、全身が脱力感に包まれる。

 

そして私は…そのまま地面へ倒れこんだ。

 

 

~~~~~

 

 

IS学園の保健室。

 

治外法権であるIS学園ではさすがにオペの設備はないが、日本の養護教諭とは違い、医師免許を持った保険医が在籍している。

 

「織斑先生…」

 

扉を開け入ってきたのは楯無であった。

 

「…更識か」

 

更識楯無もまた負傷していた。頭と右腕に包帯がまかれている。

 

「すみません…私の力不足でした。」

 

「…山田先生から聞いている。」

 

始めは釣れた魚、亡国企業のオータムに楯無と一夏の二名で圧倒できていた。

 

しかし、そこにあの忌まわしい女、スコールの『ゴールデン・ドーン』が加勢してからは形勢が変わった。

 

オータムを一夏と他の専用機持ちへ任せた後、タイマンを張った楯無はゴールデン・ドーンとの戦闘で敗北を喫した。

 

そしてスコールを取り逃したことが、眼前の状況を生み出していた。

 

「…冬香ちゃんが暮桜を起動させたって言うのは…」

 

「事実だ。」

 

本来なら学園の中枢、最深部に封印されているソレが起動した。本来は絶対あり得ぬことだった。

 

しかし、先ほど楯無が確認しに行ったときその暮桜は以前と変わらぬ姿で、その美しい少女の姿で鎮座していた。

 

「冬香ちゃんは…」

 

「過労、に近いような状態だそうだ。そう心配せずとも、じきに目を覚ますらしいがな。」

 

保険医から聞いた話では数時間、遅くても明日には目が覚めるだろうとのことだった。

 

「…更識」

 

「なんでしょう、織斑先生。」

 

「京都で、確実に決着をつける。」

 

「ええ、わかっています。更識の力をすべて使って…亡国企業を殲滅し(冬香ちゃんを守り)ます。」

 

 

~~~~~

 

「あっれっぇ?????」

 

今日のおやつであるチーズケーキを頬張りながら束は疑問の言葉を発した。

 

「なんで?なんで暮桜戻っちゃったの~?う~んおかしいなぁ」

 

そう言いつつも彼女は笑顔だった。最低限の目標は達成されたからだ。

 

 

天利冬香は暮桜を動かした―

 

 

その事実があっただけで、束はうれしくてしょうがなかった。

 

少なくとも、今までの行為が無駄に終わったわけではなかった。

 

天利冬香の、()()()()()()()()()()()()()()()S()()()()()()()

 

困難極まりないその課題に自ら立てた仮説が『解』であるという事実に大きく前進したからでもあった。

 

70億のニンゲン、いや今まで生まれ、死んで来た人類を含めほぼ同じ時代にこうして二つ、その例が…()()が生み出される確率はまさに『ゼロに限りなく近い』としか言いようがなかった。

 

コード・チェリーブロッサムは本来、()()()()()()()()()()()()()()()()()()プログラムである。

 

たとえ、それが…まぁ適当な例を出すなら妹の箒や娘のクロエ。あとはその辺にいるゴミのような名無し共でも起動は可能である。

 

まぁ、起動し、装着した瞬間身体が『コアの逆流』に耐え切れず、死ぬというおまけ付きだが。

 

彼女の中のコード・チェリーブロッサムは見事起動し、そしてその後は『天利冬香』と言う存在が暮桜をあそこまで動かした。

 

その後若干のダメージは入ったようだが、その程度全くもって支障はない。

 

…と、言うよりも今回に限ってはもし冬香が違くても支障はない。その為に彼女の体内に『コアの欠片』を埋め込んでいるのだから。

 

「まぁいいや!ふふふふふ、やっぱりふゆちゃんが一番だなぁ。ちーちゃんもだけど、やっぱり養殖(にせもの)より天然もの(ほんもの)だよね!」

 

 

 

束は笑った。生まれてきて初めて、自分と同じ存在(な か ま)を見つけられたことに、心からの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




全三回予定の文化祭編、これにて完結。

冬香の正体、まぁそんなに深く考えないでください。

正直言うと私のこじつけなので。

次回はさんで次々回からはメインヒロイン簪ちゃんの回になります。

え~、ずいぶん前に『簪は原作通り一夏に惚れる』と答えたのですが、すみません。撤回します。

ちなみに前回のあとがきにしれっと書き足していましたが、個人的なイメージとしてマドカはマリーダさん的な位置じゃないかなって考えています。

…これが本編に関係するかは別ですよ?

あ、そうだ。(これ書かないで書いてた)新作被験体29号「織斑チナツ」のほうもよろしくお願いします。

意見、感想、評価、よろしくお願いします。

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