TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
―ここはどこ…?
まるで星のない宇宙か、海の底のように光は見えない。
辺りには頼るものも、導いてくれるものもない。ここには、私しかいない。
―…?
ふっと目のまえに光が現れる。
その光に映るのは『私』ではない。私なんかより何倍も、何十倍も、何万倍もすごい、『姉』だった。
―やめて…それを見せないで…
光の中の姉の姿。それは…己が今まで見ていた姿。
そしてその光の中の姉はこちらを向き口を動かす。
『私とあなたじゃ、そもそも比べられないのよ。』
あなたが低すぎるから
―やめて!私は貴女に追いつける!
『追いつけないわよ』
―ううん、私と冬香なら…
『へぇ。そうやって人を頼るんだ。私ならそんなことしなくてもできたのに。』
―……
何も言い返せなかった私へ、『姉』は軽蔑の目を向ける。
『あーあ。何も言えなくなっちゃうんだ。』
そしてその光は私を包み込み、眼前には姉の姿がはっきりと映る。
『それでいいのよ。あなたは…
―嫌…やめて…
『やめないわ。だって、それが事実だもの。あなたは、何のとりえもない、無価値な人間よ。そんな人間に、だれも振り向いてくれるわけないじゃない』
そうだ。私はいつもダメで、何のとりえもない。そんな私にお姉ちゃんに追いつけるわけなんてない。
いや、お姉ちゃんを追いかける
「違うよ」
声が聞こえた。私の眼前の、光の『姉』のさらに奥。
「価値のない人間なんて、人を追い求める資格なんて、どこにもない。」
『何を…!?』
「人を追い求めるのに、資格なんていらない。」
彼女の声は一言一言ごとに近づき、大きくなる。
『やめて…それ以上、近づかないで!』
そして、光の『姉』の姿が霧散する。
「絶対、あなたを否定したりしない。あなたの才能も、心も、弱さも、全部、受け止めてみせる」
ああ、なんて優しくて、魅力的な声なんだろう。
「だから、辛くなったらいつでも頼ってよ…簪!」
声の主は私の目のまえで手を伸ばす。
―うん、ありがとう、冬香。
そして私は、その手をぎゅっと握った。絶対に離さないように。
~~~~~
「ん…」
目を覚ますとそこは整備室ではなかった。
私はどうやら保健室運ばれて今まで眠っていたらしい。
窓からは日の光が差し込み、鳥の鳴く声が聞こえる。
「かんざし…」
ふと、声が聞こえた。
私が視線を移すと、そこには私の寝ているベッドに上半身を預けるようにして眠っている冬香がいた。
彼女は制服のまま、眼鏡も外さずに眠っている。
おそらく、ずっと私の傍にいてくれたんだろう。
「ありがとう、冬香」
私はそっと、眠っている彼女の頭へ手を置く。
寝ている冬香の顔はなんだかちょっとだらしない笑顔だった。
こんな顔をしている冬香を見るのは、案外レアだったりする。
「ああ、起きたのね。おはよう」
シャーっとカーテンが開かれそう声をかけられる。
IS学園の保険医…えっと、申し訳ないが名前は憶えていない。
「昨日の夜にその子が貴女をここまで連れてきてくれたのよ。」
ああ、そうか。私は昨日整備室で倒れたんだ。
原因は…まぁ一つしかないよね…。
「とりあえず、貴女の担任には欠席を伝えておいたから。」
「ありがとう…ございます…。」
「私は殆ど何もしてないわ。お礼なら、その娘に言ってあげて。」
どうして、どうして冬香は私のためにこんなにしてくれるんだろう。
何でこんなにやさしくて、なんでこんなに…。
「それじゃあ、私は仕事に戻るから。」
そう言って保険医の先生はカーテンを閉じ、戻っていく。
「ん…ふわぁ……」
それから少し経った後、冬香が目を覚ました。
いつも私より早起きな冬香は私が起きると決まって優しく微笑んでおはようって言ってくれたっけ。
…私も言って見たくなっちゃったな。今日くらい、いいよね…。
「おはよう、冬香」
目と目が合う。
いつもの私だったら恥ずかしくて目を背けてしまうかもしれない。
でも、今日は、いやこれからは違う。どんなことからも絶対に逃げない。
「…おはよう、簪。」
いつもとは少し逆なやり取り。
少し照れて、目を少しずらしたのは冬香のほうだった。
なんだか、意外な一面がとても可愛らしい。
冬香、貴女がいてくれるなら、私はどこにだって行って見せる。
だから…ずっと一緒にいてね。
~~~~~
その後、冬香はそのまま教室へ走っていった。
起きたのがHRの五分前だったらしく結構ギリギリだったらしい。
私はと言うとその日は一日検査で解放されたのは夕方だった。
そして今、私はIS学園整備課の一室にいる。
でもここにいるのは昨日までみたいに私一人だけじゃない。
「それで、話って?」
私の隣には冬香がいる。
「うん、その…この子、打鉄弐式の話…」
落ち着け、私。
何回もイメージトレーニングはしたはずだ。ありのままの思いを伝えるだけ。それだけなんだ。
口を開いて、冬香をじっと見つめれば、必ず言葉は出る。
「冬香…私は…私は貴女と一緒にこの子を完成させたい!だから…手伝ってください!」
私は、今まで心の奥底にため込んでいた想いを、精一杯の言葉と共に吐き出した。
一瞬たりとも、一ミリたりとも、その目を彼女から離さず。
「…よろしくお願いします」
そう言った冬香の顔は、なんだかとっても赤かった。
天利冬香
実は他人からまっすぐな視線で見つめられると、結構恥ずかしがる。
と言うわけで、今回はオール簪視点の話。
普段は母性マックスだけどいざ自分が受け側に回ると赤面するキャラ良い…よくない?
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