TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~ 作:地味子好き
「千冬…姉さん……」
目の前の彼女がそう呟いた。
「天利…?」
彼女の眼はうつろで、顔が赤い。
とっさに彼女の席にあったウーロン茶を口に運んでみる。
常人にはわからないほど、ほんのうっすらとアルコールの味がした。
おそらく、店員がウーロンハイを作ろうとしてその途中、ただのウーロン茶が注文である事に気づいた。
しかし、酒の入ったプッシュボトルからほんの少しだけグラスに落ちてしまった……と、そんな所だろう。
しかも、この程度であれば警察の飲酒検査も引っかかりそうもないほど薄かった。
だが…余りに彼女がアルコールに弱かったのかもしれない。
「へへ…千冬さん、いまこれ飲みました~?じゃあ間接キスですねぇ~」
普段は真面目な彼女が、アルコールで少しだけ乱れている。ただそれだけだった。
そのはずなのに…。
千冬の心には先ほど彼女が呟いた、姉さんという一言が離れなかった。
自身は千の屍の上に積み上げられ、生み出された存在。
私は、その屍を捨て、最愛の弟である一夏だけは何としても守り抜く―と心に決めていた。
しかし、彼女が世界の暗い世界に潜るにつれ、その織斑の因子は世界中に拡散されていたことを知る。
ドイツで産まれた、あの堅物もその一つだった。
だが、彼女は、何度も何度も調べたように経歴に不審な点がなかった。
彼女の母親から産まれた純粋な人間。
しかし、彼女に揺ら付く陰は、どうにも自分と同じ存在であるかのように思えた。
彼女―天利冬香もまた、『いもうと』なのかもしれない―と、千冬は感じていた。
―――――
はっ!と私は目が覚めた。
「知らない天井だ……」
だが今度はまるで普通の部屋に、普通のベッド。
束さんのようなファンシー趣味は見当たらない。
辺りを見回せば、机に本棚。ハンガーには私の服がかかっている。
ベッドからゆっくり起き上がると同時に、ガチャンと部屋の扉があいた。
「む、起きていたか」
入ってきたのはコーヒーを持った千冬さんだった。
部屋着なのか、少しルーズな格好をしている。
「あ、千冬さ…じゃなかった。織斑先生」
危うく私は『千冬さん』と彼女を名前で言いそうになり訂正する。
いきなり彼女を名前で呼んだのは、なんだかそれがえらく日常で、なじみのある呼び方だったような感覚がした為だった。
しかし、私はなんでここに?
…というか、ここって…もしかして。
「ここは私の家だ。昨日はすまなかった。店員がどうやらウーロン茶とウーロンハイを取り違えたようでな」
そう言われても、昨日の記憶があんまりはっきりしない。
確か、一夏君の写真を見せてもらって…それから何の話をしたんだっけ?
「なるほど…私お酒すっごく弱いんですね」
少しばかり口にしただけで記憶をなくすとは、この身体は随分とひ弱なようだった。
私も前世では何人も酔いつぶれた人間の介抱をしたことがあるが、その経験から基づくにだいぶ迷惑をかけてしまったらしい。
「すみませんでした。千冬さ…、織斑先生」
…
今までは出なかったのにどうして今日に限ってこんなに『千冬さん』と言ってしまうのだろう。
「…私のことは名前で呼んでいい。ま、だいじな教え子だしな。その代わり私も冬香と呼ばせてもらうぞ。いいな?」
知らぬ間に、千冬さんとの仲が縮んでいた。
いや、いいことではあるのだけど。
しかし、急な展開に、また喉が少し熱い。
これが…恋…?
ではないか。