一輪の花   作:餅味

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毎度遅くて申し訳ありません。
今回はあろまボットン関連なので、期待しないでください。


あなたを求めて

王都リ・エスティーゼ中央通り

 

中央通りからすぐの路地の入り口に小さな影。

大振りの宝石が嵌った仮面を付けており、漆黒のマントを纏った小柄な少女が壁を背にして立っている。

 

「遅い」

 

冒険者として最高位に君臨するアダマンタイト級冒険者チーム【蒼の薔薇】の一員イビルアイ、見た目に反して年齢は200を超えていたりする。

そんな彼女の待ち人は【蒼の薔薇】のリーダーであるラキュースや男女で童貞食いのガガーラン、女好きの変態ティア、ティアの姉妹であり少年好きの変態ティナの他のチームメンバー達である。

どこで油を売っているのだととため息が漏れる。

 

数少ない休日を削り、ここ最近起きている魔物の異変調査の打ち合わせに充ててるのだ。

どうせあのアホ忍者姉妹のせいだろうとあたりを付ける。

 

「ん?」

 

近づく足音の先に顔を向ける。

鉄製らしき鎧を着た長身の存在に僅かに目を細める。

 

兜の不細工さと鎧全体の歪なアンバランス差が目を引く。

胴回りの部分はやけに細く、腕と脚部は微妙に太くなっている。

色合いも塗装はされておらず寂れた銀色に関節部分には錆が見えている。

 

胸には銅のプレートをぶら下げており、どこぞの田舎からやってきた新米冒険者。

 

「(こいつ鎧の音が全くしないぞ?)」

 

ガシャガシャという鎧特融の金属の擦れる音がしないのだ。

見た目に反して魔法の鎧なのかもしれない。

 

「迷子かな?お父さんとお母さんはどうしたの?」

 

イビルアイの前まで来ると膝を曲げと視線の位置を一緒にし話しかけてきた。

はぁと再びため息が漏れる。

これだから世間知らずはと呆れてしまう。

 

「私はこう見えてもアダマンタイトの冒険者だ、心配は杞憂だ。さっさと行け」

 

「・・・・・は?」

 

「二度は言わん」

 

男に興味を無くし視線を切ってしまう。

 

 

だがそれは失敗であった。

 

 

ヒュッ

 

顔のすぐ脇を何かが掠めていったのだと分かるまで反応することすらできなかった。

 

「へぇー」

 

男は何を思ってか小さく拍手していた。

今のはこいつが投げたのかと理解し、すぐさま距離を取る。

 

「お前・・・・・何者だ?」

 

「ごめんねビックリしたよね、俺はあろまボットンだよ。クレマンティーヌやブレインじゃ反応も出来なかったし、やっぱ上には上がいるもんだね。それにしてもちっちゃいのに凄いなぁ。」

 

ずきりと頭の中の奥底が痛み、咄嗟に頭に手を当てる。

遠い過去の記憶がノイズ混じりに再生される。

 

「あろまボットン・・・・・」

 

「もしかして当たちゃった!?ど、どこ?今手当てするから」

 

男の動揺をよそに頭の中で何度も反響する記憶にある言葉。

かつて共に旅をし、共に戦い、共に笑いあったあの人の言葉。

 

 

 

 

気高きエルフの麗人、名を()()()()()

 

 

 

 

師であり、仲間であり・・・・・私が最も心許した()である。

 

記憶に残る彼女は気高く凛としたまっすぐな瞳の持ち主で、よく花や草木を愛でていた。

年老いて美しいブロンドの髪にはいくつもの白い線が出来、薄いほうれい線としわの出来た暖かな手。

右目には傷跡が残っており白の眼帯を付けていた。彼女曰く一種の呪いで治癒を全く受けつけず光は一切見えなかったとか。

長槍の名手で魔法も数多く取得しており、当時の仲間たちの中では最強の名を欲しいままにしていた。

 

そんな彼女はいつも一人のときは寂しげに空を見上げ、指を組んでは祈るようにしていたのを覚えている。

 

 

倒れそうになる身体を男が咄嗟に支えられる。

 

 

「(花の匂い?)」

 

 

この香りは・・・・・

 

 

古びれた記憶が徐々に蘇っていく。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「眠れないのか?」

 

「あぁ」

 

河原で星空を見上げるアンゼリカはヒビだらけのガラス細工のようで、今にもどこかへ風に乗り儚く消えてしまいそうであった。

 

「こっちに来てくれ」

 

アンゼリカはその場で腰を下ろすと隣に来いと手招きする。

素直に頷き、アンゼリカの隣に座りこむ。

 

「何かあったのか?」

 

「いいや」

 

「?」

 

「不思議そうだな、なんと言えばいいかな。これはそうだな、言うならば恋煩いだろうか」

 

目を丸くし開いた口が塞がらなかった。

どれほど愛を囁かれ様が、どれほどの情熱をぶつけられようがピクリともしなかったあのアンゼリカがだ。

 

「信じられないと顔に書いてあるぞ」

 

「い、一体いつから!?」

 

「いつからか....それは正直分からない。出会った時かもしれないし、何気ない所でかもな」

 

ふふと彼女は愛する人の顔を思い浮かべてなのか、今まで見たことないほど幸せそうに笑みを溢していた。

 

「あ、相手を聞いても良いだろうか?」

 

「ふーむ、特別に教えてやろう」

 

ゴクリと生唾を飲み込む。

アンゼリカ程の城塞を切り崩した男に興味を引かれていた。

 

「あろまボットン様。一応私の旦那様だ。」

 

「・・・・・誰だ!?というか旦那様!?」

 

自分もあまり顔は広くないが、そのような名前は聞いたことがない。

付け加えて婚約済みと来たもので更なる混乱が襲い掛かる。

 

「まあ知らなくても仕方ないさ、初めて話したからね」

 

「い、いつから?」

 

アンゼリカの笑みは苦笑いに変わり、あぁと小さく答えた。

 

「もう100年か500年かどれほど時が過ぎたか、正直もう時間のせいで記憶が霞掛かっていて分からないよ」

 

「っ!」

 

エルフの様に長命ではない種族の場合、それは長すぎる時間である。

しまったと聞いたことに後悔する。

好奇心だけで聞いてしまった自分に嫌気がさす。

 

「まぁ気にしないでくれ、それより少し恋バナでもしようではないか。」

 

聞いてしまった後ろめたさから、断ることなどできるはずもなく。

何も言わず首を縦に振る。

 

「私はな、どこよりも美しい庭園でモレナベ様という御方から生まれたんだ。生まれた瞬間から私にはいくつかそうアレと定められたことがある。その中で最も大事なことがあろまボットン様の妻となりお傍でお守りすること。」

 

「それは嫌だと思わなかったのか?」

 

生まれた瞬間から自分の道をすべて定められるのは苦痛ではないかと

 

「今も嫌だなんて思ってはいないよ。それであろまボットン様に仕えてから、ただひたすらに見守り続けたの。」

 

御方々が一人また一人と歯が抜ける様に消えていく中で、それでもたた一人で皆を繋ぎ止めるために奮闘する姿を見守っていた。

仲間に裏切られ秘宝が盗まれたというのに一人なぜか冷静で、周りを鎮める姿は庭園の主として輝いて見えた。

庭園の仲間が傷つけば誰よりも怒りを露わにし、誰よりも優しき御方であると実感した。

戦場では共に立ち向かい背中をお守りし続けた。

モレナベ様の様な特に仲の良かった方々消えた日、声を押し殺し泣いていた彼の背中を見つめることしか出来なかった。

 

彼女は多くを語り、眼尻に涙をため星空を仰ぎ見る。

 

「あろまボットン様はね、いつも周りから阿呆の扱いを受けていた。単純な能力だけ見たら私の方が強い。でもね、庭園の皆が自分たちの主はこの御方以外ありえないと感じていた。」

 

「なんとも変わった人だな」

 

「そうよね。妻になったとしても抱かれるどころか手すら繋げなかった、最後の言葉なんて『好きにしなさい』よ酷いわよね。」

 

彼女の隻眼にはきっとその情景は色褪せることなく鮮明に残っているのだろう。

 

「あろまボットン様が消え、こちらに来たときは大変だったのよ。最後に残された命令は好きにしなさいなものだから私たち配下はもうパニックよ。嘆き自決する者が大半を占めてね、残りはだいたいが主たちの帰りを待つために庭園に残るもの達。残りの僅かな者は私みたいに主を探す為外界へ飛び出したものね。」

 

「ほかに指揮する者はいなかったのか?」

 

「残念ながら私たちは平等で上も下もない、そういった役割を与えられれば話は違ったのかもしれないけど」

 

まるで子供でしょと呆れながら話すアンゼリカに何も言えず、黙って相槌を打つ。

 

「私ね、実はあろまボットン様を愛せとは定められていないのよ。なのに不思議なことに彼を思うと心が満たされていくのがハッキリ分かるのよ、心臓が高鳴って頬が熱くなるのを感じる。変よね、それまでただひたすらに定められたことに従っていたのにこんなこと。」

 

「私は恋を知らないが、恋は落ちるものらしい。決められてするものではないと思うぞ?」

 

今度はアンゼリカが目を丸くしている。

 

「なるほど、かなり前から落っこちてたのは分かったわ。」

 

「アンゼリカ、もしこの先旅を続けてその人に会えたらどうするんだ?」

 

「そりゃもちろん」

 

アンゼリカはニコリと笑うと

 

「思いっきり抱きしめてから()()()()()

 

「え゛っ!?」

 

予想外の回答に思わず汚い返答をしてしまう。

 

「いくら主様でも妻を置き去りなんて本来切腹ものよ」

 

「セップク?」

 

「モレナベ様が言うには腹を裂いて内臓を繋げたまま取り出し、それを縄代わりに馬につなげて引きずり回す刑罰らしいわ。」

 

「怖すぎる」

 

ぶるぶると全身が鳥肌が立ってしまう。

 

「せめて私も連れて行ってくださればいいのにね。」

 

アンゼリカはそうボヤくと懐から小さな紙を取り出す。

 

「それは?」

 

「これは唯一あろまボットン様から貰えたものでね、押し花というものでね。こうしておくと決して枯れず散ることもない、そんじょそこらの魔物では噛み千切るのだって無理なのよ。」

 

「それは凄いな、良かったら見せてくれないか?」

 

「あぁ」

 

受け取った紙の中には一輪の薄桃色の花が綺麗に咲き誇っていた。

僅かにだが甘く心地良い香りがする。

 

「綺麗だ」

 

「これは私の命よりも大事な宝物なんだ。」

 

「会えるといいな」

 

「あぁ、そうだな」

 

2人星空を見上げ物思いにふける。

チラリとアンゼリカの横顔を覗く、その顔は清々しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神の襲来

空に突如覆われた山の様な巨大さは太陽を隠し、死の瘴気をまき散らし現れた。

 

 

瘴気で立つことすらままならない中、彼女は立ち向かい。

 

 

そして激闘の末、魔神を打ち滅ぼした。

 

見事に長槍は魔神の心臓を刺し貫いた、しかし代償に命を持っていかれたのだ。

 

徐々に霧散していく瘴気の中でがくり力なく膝は折れ、糸の切れた人形の様に倒れる。

 

彼女は私に「すまない」と自分の宝物を差し出す。

 

「だ、ダメだ!?まだ会えてないじゃないか!!抱きしめてぶん殴るのだろう!!まだ!まだ死ぬな!」

 

徐々に冷たくなっていく手を握りしめ、涙を流し悲痛な叫び声をあげることしか出来ない。

 

「あろまボットン様......」

 

彼女の目には走馬灯の様に彼が過ぎていっているの、空に震えた手を必死に伸ばす。

愛した者の名を呼び、眠るように力尽きる。

 

 

空は晴れることなく、曇天から降り出す雨が降り出す。

 

叫びは雨にかき消され、彼女身体を強く抱きしめる。

 

もうしばらくは晴れそうにない。

 




これ以降出番はないと思うのですが、一応オリキャラのタグ付けときますね。
後シリアスもですよね。
最近暗い話だと異様に筆が乗るんですよねw

それでは次話まで気長にお待ちください。

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