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高校三年生になってからわたくしは日々の雑務に忙殺されてしまっていました。
でもそれは、わたくしが
わたくしにとって最善の選択。それはどういうものなのでしょうか。わたくしは何かしていないときは、いつもこのことを考えていました。
──その答えになりそうな出来事は、何の前触れもなく、突然起こったのです。
溜まってしまっている生徒会の雑務を少しでも片付けてしまおうと、いつもより早めに登校した日のことでした。
「……!」
わたくしは木陰のベンチに座っている百合さんに気づいたとき、思わず瞬きをしていました。
この時間に他に生徒がいると思っていなかったので驚いた、というのもあるでしょう。でも、それだけではありません。
例えるなら、美術館の絵画に見とれてしまうような感覚でした。
ありふれたもので満たされたはずの光景に彼女が座っている。ただそれだけがいつもと違うで、本当にわたくしはそう思ったのです。
「隣、よろしいですか?」
「……どうぞ」
実際に顔を合わせて話してみると、聞いていた噂と実際の百合さんが違うことに容易に気づくことが出来ました。
彼女はただ色々と無自覚なだけで、むしろいわゆるいい人の方に分類されるべき人なのでしょう。
でも、だとしたら普段はどうしてああいう態度を取っているのでしょう。
それ以外にもいくつかの疑問を持ちながら、わたくしは生徒会室に向かいました。
それからしばらくした日曜日のことでした。
「失礼します。花恋様、今よろしいでしょうか」
自室のベッドでくつろいでいると、ノックとともにメイドの声がしました。
「ええ」
体を起こしてからそう返答するとすぐにドアが開かれました。
「明日葉様のことで少しお伝えしておいた方がよろしいかと思うことがありまして」
「何かあったの?」
本来わざわざ明日葉のことでわたくしに伝えに来ることはないのですが、お父様とお母様が今家を空けているので仕方なくといったところでしょうか。
「どうやら学校帰りに塾に行かずにゲームセンターに行っていらっしゃったみたいです」
「……そう、だから今日帰って来るのがいつもより早かったのね」
困ったような顔をして俯いている彼女は、どうやら明日葉にわたくしが注意することを求めているのでしょう。
「分かりました。わたくしが直接話をするので、明日葉をここに呼んで」
「かしこまりました」
頭を下げてメイドは明日葉を呼びに行きました。
「……ふぅ」
自分の時間を使ってまで明日葉と話をする価値はないのですが、引き受けてしまったので仕方ありません。
「で、何の用?」
明日葉は部屋には入ろうとせず、ドアの前で不満げな顔をしていました。
「今日塾に行っていないみたいだけど、どうしたのかしら?」
「アンタには関係ないでしょ」
「ええ、関係ないしどうでもいいわ。でも、最近お母様から随分とお説教されていたのに、懲りていないのかって思っただけよ」
「……っ」
明日葉は下唇を噛みながらわたくしを睨みつけてきました。今お説教をしてもただ時間の無駄になるだけでしょう。
「……はぁ。今日のことはお父様とお母様には黙っておいてあげますから、端的に誰と何をしていたかだけ言いなさい」
「……ちょっとゲームセンターに行ってただけよ。別に何も悪いことしてないし」
別に悪いことをしていたと、わたくしは言っていないのに、自分から言うあたり多少罪悪感は感じているのでしょう。
だったら最初から大人しくしておけば面倒なことにならないのに。
「一人で行ったの?」
「違うけど」
「じゃあ、学校の友達?」
「……別に誰だっていいでしょ」
わたくしも別に知りたいわけではないのに、そういう態度を取られると癪に障ります。
「言えないようなろくでもない人でしょ、どうせ」
「はぁ!? そんなことないし!」
予想通り明日葉はムキになって言い返してきました。
「じゃあどんな人なの?」
「……この人、アンタなんかよりよっぽど美人よ」
明日葉は得意げに携帯電話のカバーを外して、裏面に貼っていたプリクラをわたくしに見せてきました。
「……まさか」
予想外の人がそこには写っていたのです。
「あら~? どうしたのぐうの音も出ない?」
「へぇ、あなたは……何というかダメ人間そうな年上の方が趣味なのね」
「ふ~んだ! アンタとは違ってこういう友達もいるのよアタシは」
そう言うと乱暴にドアを閉めて明日葉は去って行きました。
「……」
──どうやら、明日葉と話したことは結果として正解だったみたいです。