朝色小夜曲   作:芦野

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この章はAnotherchapter1〜5の続きとなっています。未読の方はぜひそちらからどうぞ


Another chapter6

1

「まあ、いきなり本題に入るのも味気ないし、何か頼みなよ。もちろんお姉さんの奢りだから……といってもここファミレスだけどね」

どこに連れて行かれるかと身構えたけど、連れてこられたのは近所のファミレスだった。

「本当だったら、もっとちゃんとした所に連れて行きたかったんだけど、高校生と一緒に行けるお店が思いつかなかったんだーごめんね」

「……はあ」

どうしてそんなに楽しそうなのか分からないけど、それよりもこの人の目的が何なのかが気になる。

改めてよく見てみても、あの生徒会長様とは対照的な雰囲気をしてると思った。

あの生徒会長が清楚系ならこの人は悪女系とでも例えた方がいいような、同じ姉妹でも服とかメイクでこんなに違って見えるものなんだと、少し感心してしまった。

「でも、久々に来るとこういう雰囲気も悪くないなあって思うんだよねー」

「そうなんですか」

「だってお姉さんにも高校時代があったからねえ」

蓮佳さんはそう言って笑う。

「花恋が今は生徒会長してるみたいだけど、実はお姉さんも三間桜の生徒会長してたんだよ」

「へえ」

「もう10年ぐらい前のことだけどねー」

蓮佳さんは目を細めて短く息を吐く。

「そうだったんですか」

なるほど大人っぽいと思ってたけど、本当に大人だったのか。

「今年の文化祭こっそり見に行こうかなあ」

「OGだったら普通に入れるじゃないんですか」

「あっそれもそうだねー。朝倉ちゃん賢い賢い」

「……」

もしかしたら誰に対してもこういう感じの人なのかな、そんなふうにわたしはふと感じていた。

 

「飲み物取ってくるね〜」

それからしばらくいわゆる世間話をした後で、蓮佳さんはいったん席を立った。

「……はぁ」

一人になった瞬間、思わずため息が出る。自分よりテンションが高い人と話すだけで疲れるのに、ましてや初対面だし。

「久々にこういうの飲むとけっこう美味しく感じるんだよねー」

そう言って蓮佳さんはメロンソーダを一口飲んでから、わたしの目をちらりと見てきた。

「もうそろそろいい時間だし、そろそろ本題に入ろっか」

唐突に発せられた言葉に、緩みかけていた気が一気に引き締まる。

「あーでもそんなかしこまらなくて大丈夫だよ。今日はあくまでも朝倉ちゃんがどういう子なのかなーって知りたかったのがメインだし」

「……はぁ」

「でも、ひとつだけ言っておかないといけないことがあるんだ」

今までの軽い感じとは違って、重々しい口調でこう続けた。

「花恋と二人きりで会うのはこれからはやめといた方がいいと思うよ」

「……?」

わたしの反応を確かめるように間を置いてから、蓮佳さんは口を開いた。

「他の人から見たらどう見えるか分からないから。ほら、君子危うきに近寄らずって言うじゃん? ……面倒なことに巻き込まれたくなかったら少し考えた方がいいかもねー」

「面倒なことって」

聞いても答えてくれなそうとなんとなく思ったけど、聞かずにはいられなかった。

「まあ、朝倉ちゃんはたぶんよく知らないだろうから説明しづらいんだけど、椿原(うち)の家は普通の家とはちょっと違うところがあるからねー」

どこか自嘲的な笑顔を浮かべて、蓮佳さんは残りのメロンソーダを一気に飲み干した。

「天気予報だと、もうそろそろ雨が降るって言ってたから今のうちに帰っとこうか?」

「えっそうなんですか」

一度腕時計に目を落としてから、蓮佳さんはわたしに目線を戻した。

「うん。降水確率70%って言ってたかな、この辺りは」

それなら降り始める前に帰らなければいけない。

わたし達は少し急いでファミレスを後にした。

 

「あの、ありがとうございました」

「ううん。むしろお姉さんに付き合ってくれてありがとうねー」

それに、と蓮佳さんはわたしに向き直った。

「花恋に釘を刺される前に朝倉ちゃんに会えてよかったよ」

じゃあまたね、と手を振ちながら蓮佳さんはバイクに再びまたがった。

「……あ」

走り去っていった蓮佳さんを見送って、家の中に入ろうとした時にちょうど雨が降り始める。もう少し遅かったら濡れることになっていただろう。

まあでも、どのみちシャワーを浴びようと思ってたから対して変わらないような気もするけど。

「……」

疲れたし今日はもう寝よう、そう思ってわたしはソファーの上で目を閉じた。

2

「どうして今日に限ってこんな暑いの?」

「本当だよね……」

よりによって球技大会の日に、今年一番暑くなるとかどうかしてる。

それにしてもただでさえ暑い体育館で、これから一日スポーツをさせられると思うとそれだけで体調が悪くなりそうだ。

「あっ、次だよ。ほらいこ」

「分かったから引っ張らないで」

密着されると余計に暑いからやめて欲しい。

「で、わたし達は何やるの」

「もう、何言ってるのドッジボールだよ」

お互いのチームに男子が混ざっているからなのか、飛び交うボールは思っていたよりも気迫に満ちていて正直少し怖い。

「いたっ」

わたしは試合が始まってすぐに足にボールを当てられた。内心ラッキーだと思いながら、そのまま外野に移動する。

「えいっ!」

真央にボールが渡るたびに、見ている男子たちが歓声を上げる。最初は純粋な応援なのかと思っていたけど、どうやら違うようだ。

まあ、あんなに迫力があるから見たくなる気持ちは分からなくはない。

「あー負けちゃった」

「まあ頑張ったんじゃないの」

とりあえずどこか涼しいところで休憩することにした。真央と一緒に体育館の隅に移動する。

「あー涼しい」

「もう、独り占めしたらダメだよ」

扇風機に当たっていると、誰かがこっちに走って来る。

「あっいたいた、探したよ」

「どうしたの?」

真央に話しかけているのは同じクラスの女子だった。

「いやーついさっきの試合で足くじいちゃった奴がいてさー」

「えっ大丈夫なの?」 

「うん多分ねー。で、相談なんだけど人数が一人足りなくなっちゃってさ、桜井さんバスケにも出てもらえない?」

「でも、私バスケあんまり得意じゃないし足引っ張っちゃうよ」

「そんなこと言わずにさー」

「私よりも百合の方がいいと思うよ、元バスケ部だから。ね?」

どうして急にわたしに話を振るのか。

「やだよめんどくさいし」

「私、久々に百合がバスケやってるとこ見たいなー」 

 真央は悪い顔をしてわたしを見る。いつもだったらこういう頼まれごとは自分で率先してやるのに、今日はどうやら違うみたいだ。

「……」

「……」

「じゃ、じゃあジャンケンで決めたらどう?」

沈黙に耐えかねたのか、わたしと真央を交互に見ながら謎の提案をしてきた。

「じゃーんけん」

わたしはやるとは言ってないんだけど、なぜかやる流れになっている。

「ポン」

思わず出してしまったが、ここで拒否しとけばよかったのに、と後でわたしは思うことになった。

 

「はぁ……はぁ……」

よくこんなしんどいことしてたな、と改めて思う。

やっぱり攻守が切り替わるたびに、コートを走らされるのがとにかくしんどい。中学二年の夏以来やってないから当然だろうけど、あっという間に息が上がる。 

「ほら、行くよっ!」

それにこの晴海(バスケバカ)がやたらとボールを回して来るせいで、休む暇がない。

「……はぁ……はぁ……わたしにボール回さなくていいって」

わたしの訴えにもかかわらず、晴海は容赦なくわたしにパスを出してくる。

そのせいで、途中からもう足が動かなくなりそうだった。

試合は相手にもバスケ部やら経験者が半分ぐらいいるらしく、点差があまりつかないまま進んでいった。

一瞬視線をタイマーに向ける。残り時間はラスト15秒、点差はわたしが2点負けている状況だ。

ようやく終わると、安堵のため息をついたときに晴海が大声でわたしを呼んできた。

「百合っ! 決めて!」

「えっ」

自分で撃てばいいのに、スリーポイントラインの少し後ろにいたわたしにパスを出してきた。 

慌ててシュートの体勢に入る。ブザーが鳴る中、わたしが放ったボールはゴールのリングに直接当たってから外に落ちた。

「……ごめん」

「いいよいいよ、久しぶりに一緒にバスケ出来て楽しかったし」

晴海は屈託のない笑顔でわたしの肩を軽く叩いてきた。

「……」

試合中は何か文句でも言ってやろうと思ってたけど、なんだかその気が無くなってしまった。

 

3

「お疲れ様、最後のシュート惜しかったね」

「あそこで入れなきゃ意味ない」

「そんなことないよ、百合じゃなくて私がやってたらここまでいい勝負にならなかったよ」

体育館を出て外で顔を洗う。本当だったら今すぐシャワー浴びたいぐらいだけど、そうはいかない。

「はい、タオル」

「ありがと」

真央から借りたタオルで顔を拭く。

「やっぱり百合がバスケしてる姿ってかっこいいよ」

「そんなことない」

「ううん。かっこよかったって」

「やめてよ恥ずかしい」

「ふふっ別に照れることないのに」

「……飲み物買ってくる」

体育館を出て校舎の近くにある自販機に向かう。

「うーん」

少し考えた後で、いつも買う水を結局選んだ。

「百合さん」

「?」

声に振り返ると、椿原がすぐ後ろに立っていた。

「びっくりした」

「うふふ、ごめんなさい」

いたずらっぽく椿原は笑う。

 

「そういえば、バスケットボール見ましたよ」

並んで木陰のベンチに座っていると、椿原がわたしの方を見てこう言ってきた。

「晴海さんの話は本当だったんですね。わたくしはバスケットボールについては詳しくないんですけど、素人目に見てもかなり上手な方だと思いましたよ」

「褒めすぎ、正直晴海(あいつ)の方が今じゃ上手いよ」

ここまで話したところで、この前の蓮佳さんの言葉を思い出した。

──花恋と二人きりで会わない方がいいよ。

「じゃあ、わたしそろそろ戻るね」

その言葉の真意は分からないけど、ちょうどいいし体育館に戻ろうとしたときだった。

「そういえば、百合さんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか」

わたしの言葉を遮るように、椿原はこう聞いてきた。

「……何?」

椿原の声のトーンが今までとは違うのが、わたしにも分かる。

端的に言うと嫌な予感がした。椿原を振り切ってでもこの場から離れた方がよかったのではと思ってしまうような何かを感じてしまったのだ。

「……最近わたくしの姉が、わたくしの周りの人に会って余計なことを言って回っているそうです」

椿原はわたしの顔をじっと見ながらこう続けた。

「百合さん、もしかしたら椿原蓮佳と名乗った、派手な女に会いませんでしたか?」

「……」

椿原はいつもと同じような笑みを浮かべている。でも、それが余計に怖いと思ってしまった。

どうしよう、蓮佳さんと会ったことを正直に答えた方がいいのだろうか。

頬を今までとは違った種類の汗が伝う。

答えを誤ったら文字通り()()()()()()()()()()()になる。そんな気がした。

「えっと──」

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