朝色小夜曲   作:芦野

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この部分はED後のストーリーです。chapter1〜EDまでを読んだあとにぜひ読んでくださいね〜


Ex.1

「ねえ、百合。明日水族館行こうよ! あっチケットはもう買ったからね」

 

──というわけで、わたしは真央に連れてこられて水族館に来ている。

「前からこの水族館来てみたかったの」

「へえ」

適当に頷きながら館内に入った。

夏休み期間中だからか、平日なのにかなり人が多い。

「いこいこ」

「引っ張らなくてもついてくから」

 

わたしが真央とこういう関係になってからあとひと月で1年ぐらい経つけど、あまり高校生のときと変わってない気がする。

こうして2人で出かけるときも、真央が行きたい場所に一緒に行って、とりとめのない話をするだけだ。

でも、こうして一緒にいる時間が増えた分だけ真央はもっとわたしにとって身近な存在になった気がする。

 

「水槽って、あっちにあった小さなものからこの大きいのまで色々な大きさがあって面白いよね」

「この水槽いくらぐらいするんだろ」

もうすごい数のイワシが泳いでいる様子を眺めながらあまりデート感のない会話をしていると、目の前をサメが横切った。

「わっすごいサメもいるんだこの水槽」

「なんかマグロみたいなのもいるし、あそこにはエイがいるし、イワシだけじゃないんだね」

しかし、あれだけいるのなら、一匹や二匹サメとかが食べたりしないのだろうか。

「ねえ百合ってさ、海好きだよね?」

「どうしたの急に」

「覚えてる? 去年私が電話したとき……確か8月の最初の方だったと思うんだけど」

真央は水槽の中の魚たちを見つめながら続ける。

「なんか、毎年海に行ってるじゃんあのぐらいの時期に」

「……そうだね」

「だから、百合って海好きなのかなって」

「……うん、好きだよ。砂浜歩いたり、波の音聞くの」

わたしは小さいときから海は好きだった。だけど特に神尾浜はわたしにとってとても思い入れのある場所だ。

「海が好きだったら、水族館も好きかなーと思ったの」

「へぇ……」

「もう、何ニヤニヤしてるの」

真央は脇腹を肘で軽くつついてきた。

「わたしの行きたそうなところだからわざわざ選んだんだって思うと、なんか……ね」

「だって、最近私の行きたいところばっかりに付き合わせちゃってるなって思ったから」

「別に真央が行きたい場所でいいのに」

「でも、この水族館に来たかったのは本当だよ。だってここには一度も来たことなかったから」

「だったらいいけど」

 

「あっ今度は向こう見に行こうよ」

「うん」

大きな水槽を離れて別のエリアを見に行く。

「クラゲをライトアップしてるんだって」

「へえ」

クラゲってたまに打ち上げられているあのクラゲか。

「うわぁ……ライトアップされるとこんなに綺麗なんだね」

「うん」

クラゲって聞いてあんまり期待していなかったけれど、結構綺麗だ。

「イルミネーションよりもなんか落ち着く」

「……いいね」

クラゲが人工的な照明で照らされて、ふわふわと水槽を漂っている。

改めて見ると不思議だ。輪郭は確かにあるのに流動的で、空を流れる雲みたいに同じままじゃない。

「なんか、百合に似てるとこあるかもクラゲって」

「え?」

呟くように真央がいった言葉に思わず反応してしまった。

「掴みどころないところ、そっくりじゃん」

「……」

「すぐにどこかに漂って行きそうなところ、百合にはあるし。でもそんなところも私は好きだよ」

「……なにそれ」

「照れてる〜」

「……照れてない、行くよ」

「あっちょっと!」

 

「あー楽しかった!」

「確かに、思ってたより面白かった」

電車から降りたあと、2人で並んで家に帰っていた。

「……あのさ」

「ん?」

「今度は本当に真央の行きたいところにさ、行こうよ」

「……私は百合とだったらどこでも楽しいと思うけどな」

冗談めかした口調で真央は言うけれど、これはきっと真央の本心な気がする。

「ねえ、百合」

少し歩くペースが遅くなった。

「だったら百合がさ、行ってた海に行ってみたいな」

想定してなかった答えに少し考え込んでしまった。

「いいよ。じゃあ来月一緒に行こ」

「……いいの?」

「真央が行きたいって言ったんでしょ」

「そうだけど」

真央の複雑そうな顔を見て、思わず笑ってしまう。

「もう、どうして笑うの」

「わたし、真央のそういう顔好きだよ」

「……バカ」

わたしの肩を軽く叩く真央を見て、またわたしは笑ってしまった。

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