元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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17.08.23変更点
・細部を修正、大きな変更はないハズです。


10

 その後、比留間兄弟を警察に送り届け道場に戻った。医者に左之助をつれていった神谷さんはまだ戻っておらず、かといってこれ以上稽古する気にもなれない。ちょうど日も暮れ始め、中途半端な時間だったため、帰宅することに。帰りがけ、剣心さんからは

「今日は災難だったでござるな」

 なんて労われてしまった。ほんとその通りである。

 

 

「ただいまー」

「あら、おかえりなさい、旦那様」

 

 帰宅時間はいつも通り、夕飯の少し前。今日は、たけさんがお出迎えだ。さよは書斎で仕事中かな?

 

「さよさんじゃなくて残念だったかい?」

「そんなことないよ。誰かが出迎えてくれるだけでありがたいよ。ありがとう、たけさん」

 

 まぁ、本音を言うとさよが出てきてくれた方がうれしくはあるが。

 その後風呂に入り、さっぱりした後に夕餉を頂きに居間に向かう。

 

 

「おっ、今日は刺身かぁ」

 

 魚はやっぱり刺身がうまいね。ごはんがモリモリ食べれるね。

 

「ずいぶんおいしそうに食べるね、竜さん。今日は稽古の日だったからお腹がすいているのかい?」

 

 あまりにもがっつくもんだから、さよに笑われてしまった。恥ずかしい。 

 

「いやいや、それがね。今日もいろいろあって…」

 

 私は今日の左之助との騒動を掻い摘んで話した。

 

 

 

「嫌ですよ、旦那様。河原でケンカだなんて恥ずかしい。もういい年してるんだからやめてくださいよ」

「あれはしょうがなかったんだって。私のこと、京都まで調べに行ってるんだよ? 断って家まで来られた方が危ないじゃないか」

「そんなもん、その場で一度殴られて、負けましたって言えばおしまいじゃないですか。別に負けたってなにも取られるわけじゃないんだろうし…」

 

 ムッとしてたけさんに言い返すと、すぐに言い返されてしまった。わざと殴られろって言われてもねぇ。 

 

「お金…」

「ん…? どうしたんだ。さよ」

 

 ずっと黙っていたさよが、何か呟いたがよく聞こえない。

 

「お金は払ってもらったのかい? 竜さん」

「えっ?」

 

 お金ってなんのことだろう。慰謝料かなんか?なんかさよの様子が変だな。

 

「その人、この前うちの店で食い逃げした人でしょ? お金はちゃんと払ってもらえたのかって聞いているんだよ」

「あっ、忘れてたわ…」

 

 あー、そういえばそんなこともあったわ。

 

「はぁ。あきれたよ、竜さん。いいかい、食い逃げってのはね…」

 

 私は胡坐から正座に座り替え、そのままさよに説教されたのであった。

 

 

 

 翌日、左之助から代金を徴収するため、左之助に会いに行った。たぶん、あの怪我であれば入院しているかなと思い、道場に行き神谷さんと合流し、左之助の療養している場所に向かった。暇をしていた弥彦と剣心さんも一緒だ。

 なぜ神谷さんと合流したかというと、昨日は神谷さんと弥彦に左之助を運んでもらい、そのまま帰ってしまったため、左之助をどこの医者に運んだのか、分からなかったのだ。

 左之助に会いに行く道すがら、怪我の具合を神谷さんに聞いてみた。

 

斬左(ざんざ)の怪我、すごかったらしいわよ。全身打撲に骨折もあって全治1か月。命に別状はないけれど、とても殴り合いの喧嘩でできた怪我に見えないって、先生驚いていたわ」

 

 先生も余計なこと言うね。

 

「やたら丈夫だったからね。早く終わらせたい気持ちもあったし、手加減しなかったんですよね」

 

 あはは…。苦笑いしてみるんだけど、笑っているの私だけか。皆神妙な顔しちゃって。

 

 

 結論から言うと、左之助に会えなかった。牛鍋が食べたいと言い残し、療養所を抜け出していったとのコトであった。牛鍋というと、やはり赤べこか。無駄足のお詫びに、神谷さん、剣心さん、弥彦に牛鍋をごちそうすると約束し、赤べこへと移動した。

 

 

 

 赤べこに入り中を見渡すと…、あーいたいた、特徴的なトリ頭のおかげで見つけやすくていいね。

 

「左之助さん!」

「よう、昨日は世話になったな」

 

 体中に包帯を巻いた左之助が牛鍋をつつきながら酒をのんでいた。こちらに気付くと箸を置き、片手をあげて挨拶してくる。

 

「お主、確か入院の筈では?」

「ケッ、俺の売りは打たれ強さだぜ、こんなもの屁でもねぇ」

 

 そういうと立ち上がり、元気ですよってアピールし始めた。やせ我慢にしか見えないが、ツッコむのは野暮かな。

 

「まっ、また喧嘩しようや、浜口さんよ」

 

 私の肩をポンポン叩きながら、いい雰囲気で店の入り口に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 あかん、これはあかん奴や。

 

「待て!」

 

 うおっ、思ったよりでかい声がでちゃった。弥彦と神谷さんがビクッてなってる。

 

「なんだぁ? 喧嘩ならまた今度…。」

「左之助さん食い逃げは勘弁してください。今日はこの前の食い逃げ代も含めてきっちり払ってもらいますよ」

 

 お客様の前だったことを思い出し、ニコニコ顔を意識して左之助の肩を掴み向き直る。掴んだ瞬間ビクッてなったな。怪我してるところを掴んで申し訳ないが、それとこれとは話が別だ。

 

「ちっ、ちぃっとばかし、今持ち合わせがなくてよ」

「お金を持っていないのに、注文したんですか? えっ、なに? 払う気もなく食べていたってこと? 左之助さん。ちょっとわかるように説明してもらえませんか?」

 

 ないわー。マジでないわー。

 

「ツケ…。そう、ツケてもらおうと思ってだな」

「ウチはツケ、お断りなんですよ」

「俺と浜口さんの仲だろ?」

 

 どんな仲じゃ!適当なこと言いおって。これはじっくりお話する必要があるな。表情が崩れないように、注意しながら左之助を見つめる。

 

「弥彦…。アンタ、浜口さんだけは怒らせるんじゃないわよ…」

「おっ、おう。気を付ける…」

 

 ひそひそ話聞こえてますよ。まったく、失礼しちゃうね。

 

「そういうことであれば、左之助さん。ちょっと店の奥でお話しましょうか」

 

 

 

 

 じっくりとお話した結果、左之助からはお金を取ることが難しいと判断し、体で返してもらうこととした。といっても、赤べこ亭でできる仕事なんて大してないしなぁ。

 仕方がないので神谷道場にて下働きや稽古の手伝いをしてもらうことで、お代とすることにした。

 どうせ定職にもつかず、暇しているんだから少し労働をした方がいい。神谷さんに許可を取り、左之助も渋々承知した。なぜ渋るのか、そうできる立場ではないのに。そう思うと、こちらの説教も長くなってしまうけど、仕方ないよね。


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