元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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「ここが武田さんのお屋敷か。大きいなぁ」

「ああ、何度見てもデカすぎて嫌な屋敷だぜ」

 

 東京の郊外にある武田の屋敷に辿り着いた私達は、その大きさに圧倒されていた。敷地だけでいえば江戸城の何倍もありそうなサイズ感。弥彦の言う通り、私もデカすぎだと思う。大きすぎて逆に不便でしょ。

 

「で、コイツをどうやって攻める?」

「少数での奇襲は迅速(はや)さが物を言う。門を破ったら全力で玄関まで駆け抜けるでござるよ」

「つまり正面突破か。よっしゃあ」

 

 剣心さんと左之助の打ち合わせで、作戦方針が決まる。行き当たりばったりの出たとこ勝負ですか。事前情報が何もないんで仕方がないのだけれど。

 

「左之助」

 

 弥彦に声を掛けられて左之助が振り返る。今更怖気づいたわけでもあるまい。どうしたのだろう。

 

「遅れをとるんじゃねーぞ」

 

 思わずズッコケそうになる。カチンときた左之助が手を出すものだから小競り合いに発展。ここまで来て身内争いとか勘弁してくれ…。

 

「二人とも真面目にお願いしますね。遊びじゃないんですから」

 

 拳骨を一発ずつ喰らわせるとようやく大人しくなった。手加減しているとはいえ、手甲付けてるから結構痛いでしょ。剣心さんも苦笑してないで止めるの手伝って下さいよ…。

 さて、仕切り直しだ。

 

「それじゃあ行きましょうか」

「おう!」

「おう!」

 

 弥彦と左之助の声が同時に返ってくる。ま、息が合うのはいい方向と考えよう。

 新選組時代はほとんど一人で行動していたので忘れていたが、団体行動って大変だよね。

 

 

 馬車が通れそうな大きな扉を破壊して敷地内に侵入すると、武装したゴロツキがそこら中にたむろしていた。たけさんが言っていた男色疑惑ってこのゴロツキが原因なんだろうなぁと、妙に納得しながら『流水剣』で敵を打ち倒していく。

 先頭は剣心さん、右翼は私、左翼が左之助という隊列で敵を蹴散らしながら屋敷に向かう。

 弥彦はついてくるので精一杯のようだけど、むしろその年でこの速度についてこれるのはすごいのではないだろうか。後ろから「遅れをとるんじゃーねーぞ!!」と叫んでいる意図はわからないが。

 

「銃士隊! 撃ち方用意!」

 

 ようやく屋敷の門が見えてきたというその時、10人程の集団が隊列を組み、拳銃でこちらに狙いを定めていた。これは危ないですね。

 

「かあぁぁぁぁぁぁぁぁつ!」

 

 即座に私は、自分の出せる最大声量を、その銃士隊とやらに向ける。示現流の猿叫(えんきょう)モドキだ。本家は「チェストォ!」とか「キエェェェイ!」みたいな叫びだったので、そのまま真似るのもどうかと思い、せりふを変えてみた。

 私の叫び声に怯み、銃の狙いがあらぬ方向を向けている。よしよし。

 

 猿叫(えんきょう)といえば、以前に土方さんに新選組隊内でを取り入れてみてはどうかと進言したことがある。ほら、人数で圧倒された挙句、四方から猿叫(えんきょう)浴びせられたら、さすがの維新志士と言えども、士気が落ちるでしょ。

 進言した後に、急遽平隊士全員でろうそくを声で消す訓練が始まったのはいい思い出だ。皆の叫び声の種類が豊富で、こういうところで育った環境や(くに)の違いが出るのだなと、いらない知識がまた一つ増えた覚えがある。

 言い出しっぺの責任ということで、なぜか私も平隊士と一緒に訓練させられたことは納得いかなかったのだけれど。

 訓練自体は、当時屯所として利用させていただいたお屋敷の方からの騒音に対する抗議で、30分も経たないうちに中止となったのだが。 

 

 思い出に浸っているうちに、怯んでいる銃士隊に剣心さんが飛び込み全員ブッ飛ばした。しかし、いつみても見事な刀捌きだな。

 

 

 外にいた手勢を片付け終わり、ようやく屋敷の入り口に辿り着いた。ふと上を見上げると、二階の窓からこちらを見下ろす武田の顔が見える。どことなく顔色が悪そうに見えるが、室内の明かりが逆光になりわかりづらいな。

 

「観柳!!」

 

 剣心さんも武田に気付いたようで、すごい形相で睨みつけている。名前を呼ばれてビクッとなる武田に、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「…年貢の納め時だ。武田観柳。恵殿を連れて降りてこい」

 

 ドスが利いているにも関わらず、良く響く声だな。このまま武田の心が折れてくれれば楽なのだけれど。かなりビビっているし、もう一押しかな?

 

「…ククククククククク! 素晴らしい! 私兵団五十人余りを息もつかぬ間に倒すとは、流石伝説の人斬り緋村抜刀斎! そして木刀の竜こと浜口竜之介!」

 

 御庭番衆を使って調べたのかな。まさか名前までバレているとは思わなかった。しかし、精神的に追い詰められているこのような状態から、こういう切り返しができるあたり、商人として優秀なのであろう。私も少し見習った方がいいのかもしれないな。

 

「私兵団五十人分の報酬を払いましょう。どうです是非とも私の用心棒に!!」

「降りてくるのか来ないのか。どっちなんだ?」

 

 引きつった笑顔を浮かべながら交渉に持ち込もうとするも、剣心さんにすげなく無視される。その後も報酬を引き上げてなんとか懐柔しようとするも、剣心さんは全く意に介していない。むしろ、より一層怒りが増している気がする。

 …もしこの誘いにのったら、私は武田の愛人って噂が流れるんだろうな。世間体的に考えていくらお金を積まれてもないわ。そう考えると用心棒の『棒』が意味深すぎて怖いんだけど。

 

ドゴァォォォォ!

 

「あひぃ!!」

 

 余計なことを考えていたら、剣心さんが自分の身長の3倍以上あるガス灯を斬り飛ばし、屋敷にぶつけていた。

 

「一時間以内にそこへ行く! 心して待ってろ観柳!!」

 

 こんなに怒った剣心さんは初めてだな。…一応、私も武田に声を掛けられていたみたいなので、なにか一言言っておくか。

 

「武田さーん」

「はっ、はひ!」

「安心してください、私も剣心さんも殺す気はないんで。最悪は半殺しで済ませますよ。今すぐ降参して阿片の件も自首してもらえるなら、私からは手出ししませんよ。まぁどちらにしろ、逮捕は覚悟しておいてください」

 

 できるだけ安心してもらえるような優しい声色とニコニコ顔を心掛けて降参を呼びかける。こちとら、商人の端くれ、交渉の基本は飴と鞭よ。

 ところがぎっちょん、武田は顔色を益々悪くさせると奥に引っ込んでしまった。首をかしげていると、呆れ顔の左之助から解説が入る。

 

「浜口サン。あんた知らねーのか?阿片の密売は斬首刑だぜ。『逮捕させる』ってことは殺すって宣言することと変わらねーぞ」

 

 いやいや、阿片に関する刑罰だなんて、私知りませんもん。頭をポリポリ掻きながら、剣心さんの後をついて屋敷へと入っていくのであった。

 

 

 

 

「江戸城 御庭番衆 密偵方 『般若』。御頭の命によりこの場を死守する!」

 

 屋敷の中に入ると、般若の面をつけた全身黒ずくめの男が、仁王立ちで待ち構えていた。名は体を表すと言うか、わかりやすい名前だ。聞いた話によると、確か拳法の達人だったはずだな。

 

「…不要の闘争はできれば避けたいでござる。そこをどいてはくれぬか?」

「御頭の命は絶対だ」

 

 剣心さんの説得は失敗に終わった。まぁ、元から引いてくれるような奴ではなかろう。

 

「ここは私が引き受けます。剣心さんたちは先に行ってください」

「話を聞いていたのか? 私は誰も通さんといったはずだ」

 

 両の拳をガチガチと叩きつけ合い威嚇する般若。皮手袋の下に手甲を付けているな。

 

「般若さん、逆に考えてください。今から私と剣心さんを同時に相手にするよりも、ここで分断した方が得策じゃないですか?まだこの先には何人か御庭番衆が待ち構えていると見ました。私以外を通したところで、直ぐにそちらの負けとなるわけでもでないのでしょう?」

 

 目で合図すると、剣心さんと左之助は散会しながら般若の脇をすり抜けて屋敷の奥へと向かう。

 

「くッ、待て!」

「隙ありっ!」

 

 ボキッ!

 

 般若が慌てている隙に脳天に一撃喰らわせようと木刀を振り下ろしたのだが、手甲で迎撃され、無残にも木刀は折られてしまった。

 

木刀(コレ)新品だったんですよ?何も折ることはないでしょうに」

「…卑怯な真似を!」

 

 怒り心頭といった様子でこちらに向き直る般若。こちらに気が向き剣心さんを追う様子はないようだ。

 

「卑怯で結構。目的の達成と関係のないところで手段を選んでいるうちは、二流以下です。まっ、元上司の受け売りなんですけどね」




次話で終わらせられないかもしれません。予想外に長引きそう。
本日中に、あと一話か二話ぐらい投稿を予定しています。
来週はまとまった空き時間が取れないため、今週程更新できない予定です。

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