元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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プロローグ2

 京での仕事を地獄の日々だと思っていたが、慣れてしまえばそれが日常となり、それなりの日々を過ごしていた。

 ただ、眠ると夢によく平山が出てくるようになり、夢を見ないようにしたくなった私は、非番の間は稽古のみを行うことした。隊内には様々な武術の使い手がおり、『技』の修練には困らなかった。

 剣術の稽古を行う間は、辛いことを忘れられる、幸せな時間であった。

 この頃の私は、目の下に隈を作り、常にくたびれた様子であったので、沖田によく、幽霊みたいだと馬鹿にされた。

 

 

 そのころの京では『木刀の竜』と『人斬り抜刀斎』の噂がそこら中から聞こえてきていた。人を殺す剣と殺さない剣。なんとも正反対な二人の噂。どうしても人を斬れない私は、抜刀斎に会ってみたいという欲求が芽生え、土方さんに頼み、『人斬り抜刀斎』の捕縛の任務を命令してくれと頼んだが、お前には他にやることがあるだろうと、断られた。

 抜刀斎と直接刀を交えたことのある斎藤さんに、抜刀斎について聞いてみると見た目やどのような剣術の使い手であるとか、いろいろなことを教えてくれた。続けて一度抜刀斎と会ってみたいと相談してみたが、『阿呆が』と一蹴されてしまい取り合ってくれなかった。

 

 

 そうこうして手をこまねいているうちに、戦が始まった。そう、戊辰戦争が始まったのだ。

 沖田の持病が悪化してもうこれ以上、連れていくのが難しいと思い、土方さんに相談すると、近藤先生の知り合いの家に療養のため、戦の前に江戸に後送すると言われた。ほっとしたのも束の間、人を斬れないお前は足手まといだからここで捨てていくと伝えられた。ぎょっとして土方さんを見ると、真剣なまなざしで沖田の護衛を頼むと言われた。

 仲間を見捨てるようで気が引けるが、土方さんに直接言われてしまっては逆らえない。黙っていたら、肯定と受け止められようで、土方さんは行ってしまった。

 

 

 その後、明治維新は無事に終わり、沖田は死んだ。沖田の死後、ずっと近藤先生の知人宅にいるのも気まずくなったため、ひょっこりと実家に顔を出してみることにした。

 自宅に帰ると、家族にひどく驚かれた。どうやら戦争で死んだと思われていたらしい。新選組の残党とかやっぱり迷惑かなと思い、すぐに出ていこうとも思っていたが、歓迎されたためそのまましばらく実家に厄介になることにした。

 

 父に京であったことを話すと、立派に務めを果たしてきたなと泣いて喜ばれた。最後まで人を斬ることができなかったことを恥じており、決して武士らしいことができなかったと話すと、人を斬らない覚悟も立派な士道だと肯定してくれた。

 その言葉に目頭が熱くなり、その晩は父と初めて酒を飲んだ。

 

 父は京に行った私のことをずっと気にかけており、いろいろと情報収集をしていたようだった。近藤先生が捕縛され死罪になったことや、土方さんが蝦夷で戦死されたことを教えてくれた。

 ちなみに、私が京で『木刀の竜』と呼ばれ志士達から恐れられていたことも知っていた。碌な噂じゃないと渋い顔をしたのだが、恐れられるのはお前が立派に活躍していたからだなんていいだすんで、再び泣いてしまった。

 

 ともかく、私は実家に受け入れられ、再び実家で暮らすこととなったのであった。

 平山が夢に出てこなくなったのも、このころからであったように思う。

 

 

 実家で暮らすことを決めた私は、まず試衛館に報告に向かった。近藤先生が、土方さんが、試衛館の皆がいかに立派に闘っていたのか、余すところなく伝えた。新選組は最後まで侍であろうとしたというと、近藤先生の父上は泣いていた。

 話を終え、去ろうとすると、天然理心流の印可を渡すのでと試衛館を継いでくれないかと打診を受けた。近藤先生も沖田もいない今、試衛館を継げるのはお前だけだと口説かれたが、実戦を主眼とした流派の当主が、実戦で誰も殺せなかったのでは示しがつかないと、固辞した。

 

 

 

 実家で暮らし始めてから、手持無沙汰な私は、家業の手伝を行った。刀ばっかり振っていたくせに、やけに算術が得意だなとは長男の亀太郎兄さんの言葉ではあるが、前世で高等教育を受けた私にとって、この時代の事務仕事は内容さえ覚えれば、難しいことはなかったのだが、お給金に色を付けてもらっては身内びいきが過ぎるのではないかと思い、多少気恥ずかしくはあった。

 

 実家に帰ってから1年ほどたった頃、いつまでも実家のお手伝いでは迷惑がかかると思い、自分でも店を持つことを考えた。なんというか、独り立ちをしたいとの思いの方が強かったのかもしれないが。実家は兄が継ぐし私がいつまでも店に居座っていても、やりづらいであろうとの思いもあった。まぁとにかく、理由は色々だ。

 

 家族一同反対はされたが、必要なお金を貯めることと、お見合いをして身を固めることを条件に折れてくれた。

 どうも放っておくと危なっかしいと思われている節があり、身を固めれば落ち着くと思われたようだ。

 

 幸い新選組時代にためたお金はほとんど手を付けておらず、かなりの金額が残っているので、実はお金の方は問題ない。隊士の面々は遊郭とかでかなり散財したようだが、病気が怖すぎて一度も行かなかったし、趣味もないためほとんど生活費にしか使っていなかったのだ。いや、趣味は剣術があったか。

 問題はお見合いの方だが、女子との会話など姉や母としかほとんどしたことがない自分に、夫婦としてやっていけるのか疑問ではあったが、まぁ、なんとかなるだろうと楽観的に考えていた。

 

 

 お見合いをすることを了承してからしばらくすると、母よりお見合いの日程を告げられた。時間がかかったのはどうも、私の経歴を聞いて敬遠する女性が多かったからのようだ。元新選組と聞いて怖がる女性も多かったのだろうか。苦労させてしまった母には頭が下がる思いである。

 

 そしてお見合いを行った。結果から言うと、さよという女性と結婚することとなった。第一印象は物静かな雰囲気をもつ、かわいらしい女性と思っていたが、話をするうちに、商いに興味があり、自分でもお店を持ってみたいと考えていることが分かった。

 この時代の女性は、結婚したら子供を産んで家を守るのが普通のようで、さよのような女性は、この時代ではいわゆる『地雷』なのかもしれない。というか、それが理由で行き遅れていると本人も言っていた。行き遅れたといっても20にも満たない女の子なのだが。

 前世の記憶のせいか、私はどうもそのあたりの感覚が疎く、問題と思っていないため、二つ返事で結婚の了承をしてしまった。

 

 今では人生で一番の英断だったと間違いなく断言できるのだが。

 

 

 その後、私はお店を出すお金を貯め、赤鼈甲(あかべっこう)という舶来品を取り扱う問屋と共同で、赤べこという料理屋を開いた。時代的にも牛肉解禁の流れだろうし、流れに乗って牛肉料理のお店が流行るかもしれないと思い、情報収集していたところ、父の知り合いの赤鼈甲の店主を紹介されたのだ。

 牛肉なんて流通していないし、どうしたものかと思っていたところ、渡りに船の紹介であった。

 店主とも意気投合し、特に何の問題もなく話が進んだことはまさに僥倖といってもいいだろう。

 

 赤べこは、夜は牛鍋を中心としたちょっと贅沢な料理や、モツ煮込みやら牛タン料理といった捨てる予定だった部位を使用した安価なつまみとお酒も出す、いわゆる居酒屋的なお店にした。

 そして、お昼に高級な牛鍋を食べる客は少ないだろうと思い、売れ残った牛肉や切り落としの部位を使用した、牛丼も安めの値段設定で販売することにした。もちろん、前世の記憶の牛丼みたいに牛肉と玉ねぎだけだと原価が高いため、豆腐やこんにゃく等も入れて量を調整してるが。

 どの料理も前世の記憶を参考に味付けを行ったが、材料の関係からあまり味を合わせることはできなかった。

 

 

 さよに補佐してもらいながらお店を始めると、すぐにお店は大人気になった。順調に利益を出し、人手が足りなくなってきた。足りなくなってきた人手を集めるために、新選組時代の人脈を頼り、お金に困っている士族を中心に声をかけて、なんとかうまく回せている。

 その関係でお店を留守にすることも多いのだが、お店を留守にしても、さよがお店を回してくれるため、ありがたいことに正直やることがなくなりつつある。

 これ幸いと、余った時間で趣味の剣術(といっても近所の神社の片隅で素振りをするだけだが)や人斬り抜刀斎に関する噂を調査しているが、実のある情報は集まらない。

 わかったのは、人斬り抜刀斎の名前が『緋村剣心』であるということだけで、他に得られた情報に、新選組時代に聞いていた噂以上のことはなかった。

 

 さよとの仲も良好で、食い扶持にも困らず、幸せな時間がただ過ぎていった。




再筆に伴い江戸に戻ってきてからのエピソードをちょっと追加

17.08.23修正箇所
・転生設定に伴い一部文章をドラクエ版(旧版)に戻しました。

17.08.24追記
誤字報告が複数届いておりますので、ここでお知らせします。
「後送」は「護送」の誤字ではありません。
「後送」は「こうそう」と読み、戦場などの前線から後方に何かを送ることとの意味です。「負傷兵を後送する」とか、そういう使い方をします。特にどちらでも良いのかもしれませんが。。。

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