「だいじょうぶですか、高荷さん」
「浜口さん…! どうして!?」
「いやぁ、どうしてって言われても…。高荷さんを助けたいからですかね?」
頭をポリポリ掻きながら答える。何故来たのかなんて聞かれても、答えづらいな。
「ごめんなさいね…。私のせいで危険な目に遭わせて…」
「そういうことを気にするのは、無事に帰ってからにしましょ。剣心さんも左之助もまだ戦っているみたいなので、さっさと合流して逃げますよ。…神谷さんも道場で待ってます」
なにか悩んでいるようだったので、捲し立てて高荷さんを黙らせてしまう。今は逃げることだけを考えてもらわないと。
「それに、助けに来た相手には『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って言うもんです」
「…ありがとう、浜口さん」
面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい。
なんとか高荷さんは落ち着いたようだ。自己嫌悪で逃げることを渋られても誰も得しないし、前向きになってもらった方が助けがいがあるってもんだ。さてと、それでは逃げる算段を立てるか。
外から帰るわけにもいかないので、扉を蹴破り室内を脱出する。結構大きな音を立てたのだけれど、誰かが近寄ってくる様子はない。そのまま螺旋階段を下りていくと、刀と刀がぶつかり合う音が聞こえてくる。
刀同士での戦闘ということは、剣心さんが戦っているのだろう。
そっと手で高荷さんに止まるように合図し、そろりそろりと階段を降りていく。どうやら大広間の中二階に出るようだ。そっと下を覗くと、剣心さんと白い外套を着た男が戦っている。
剣心さんに引けを取らないあの戦闘力は、般若に御頭と呼ばれていた蒼紫なのであろう。よく見ると弥彦もいる。
よくよく剣心さんを観察してみると、怪我を負っているようで、ところどころ切り傷を負っているようだ。劣勢なのか?
下へと忍び足で急いで降りて援護に向かおうとすると、大声が聞こえてくる。
「終わりだ緋村抜刀斎!!」
「剣心!!」
危ない!と思ったが、剣心さんが蒼紫の刀を白刃取りで受け止め危機一髪、助かったようだ。ホッと胸を撫でおろす間もなく、剣心さんはその掴んだ刀を押し込み、蒼紫の喉に叩きつけた。
うわぁ…、結構エグイ。あまりの威力に蒼紫が口から血を吐いているのがこの距離からでもわかった。
「まだだァ!」
反撃として剣心を蒼紫が殴り飛ばすも、体力の限界が来たのか、蒼紫はそのまま倒れてしまった。
殴り飛ばされた剣心さんの方は…、どうやら無事のようだ。
どうやら戦闘は終了し、安全になったようだ。高荷さんを手招きし、コッソリ下に降りていこうとしたら、蒼紫が立ち上がったため、急いでしゃがみ、身を潜める。頑丈さは左之助並みか?
どうやら蒼紫は敗北を受け入れているようで、これ以上戦うつもりはないようだ。剣心さんに何故武田みたいな奴に雇われたのか聞かれると、蒼紫は淡々と、幕府亡き後に御庭番衆が辿った道を話し始めた。
一人、また一人と新しい生活をスタートさせていく御庭番衆の面々の中で、行き場のなかった4人、般若、
時代の波に飲み込まれた被害者、というにはあまりにも身勝手ではあるが、同情の余地はあるな。一歩間違えれば新選組も、ああなっていたのかもしれない…。
そんなことを考え感傷に浸っていると、その湿っぽい空気をぶち壊す男が大広間に乱入してきた。
「ハーハッハ! あれ程大口を叩いておきながら敗北とは情けないですね!
屋敷突入前とは打って変わって、上機嫌な武田観柳が乱入してきた。この短時間になにがあったのか。恐怖に駆られておかしくなったのか?
「あんまりあなた達がダラダラ話し込んでいるから、待ち切れなくて出て来てしまいましたよ」
「丁度いい。探す手間が省けたでござる」
いや、高荷さん確保しているから別に会わなくてもいいんですけどね。
「大した自信ですねェ。だが! これを目の当たりにしてもその自信が保てますかねェ!!」
彼の脇にはあった『何か』にかけられている白い布を勢いよくとると、そこにあったのは
さすがに生身でこの武器の相手はできない。私は駆け出すと、中二階から飛び降り、武田に飛び蹴りを喰らわす。
「ゲフっ!」
顔面に綺麗に決まった。倒れる武田を取り押さえると、ズボンのベルトを無理矢理引きはがし、腕ごと体に縛り付ける。これで
「浜口殿!」
「竜之介!」
「剣心さん、弥彦君。…すいません、出てくる機会がなかなかなくて…。高荷さんなら無事です」
中二階にいる高荷さんを目線で示すと、剣心さんも弥彦も安心したようだ。
「なぁ、竜之介。どうして上の階にいたんだ?」
弥彦が疑問を口にする。
「…秘密」
「なんだよそれ、気になるじゃねーか!」
弥彦と目線を合わせられない。壁をよじ登った件は、正直に話したらなんだか馬鹿にされそうな気がするため、内緒にしておこう。
「弥彦、それより今は恵殿でござるよ」
「それもそうだな」
話題がうまい具合に逸れてよかった。剣心さんの視線の先には、階段を降りこちらに向かってくる高荷さんがいた。無事合流で、あとは警察に武田を引き渡して帰るだけかな。
「お前が浜口か」
無事を喜ぶ剣心さん一行を、ちょっと離れたところで見守っていると、蒼紫に話しかけられた。
「ええそうです。そういうあなたは
「…ああ」
今更襲い掛かってくるとは思えないけれど、少し身構えてしまう。
「警戒するな。これ以上何かするつもりはない」
「…そうですか。これからどうするんです?」
「…さあな」
大人しく逮捕されるつもりはないのだろう。牢にぶち込まれても、すぐに脱走できそうだし。この人を警察に突き出すのは、ちょっと諦めよう。
マジマジと顔を見ると、結構若い。戊辰戦争当時に15歳くらいで御庭番衆の頭領だと聞いていたので、まだ20代のはずだ。
この人とは、戊辰戦争で共闘するかもしれなかったと思うと、運命に数奇なものを感じる。あの頃は、剣心さんとは敵同士で、蒼紫とは味方同士だった。
「もし私が、御庭番衆を雇いたいって言ったらどうします?」
蒼紫の返事はない。ただ、こちらを見る蒼紫の目は先を促しているように感じた。
「自首してください。そうして頂けるなら、罪を償った後に
「…酔狂な奴だ。だがあいつらがそれを望まん」
すげなく断られてしまった。平穏な生活は望んでいないのであろうか。蒼紫の顔を見つめてみても、相変わらず無表情だ。
「最強の『華』ってのもいいかも知れませんけどね、せめて部下が後ろ指さされないように狙う相手は選んでくださいよ。悪党よりも義賊の方が、名誉があっていいと思いますけどね。…まっ、年上からのちょっとした小言です」
冗談っぽくいってみたが反応はない。ホント、逃げるなら逃げるで、人様に迷惑かけずに生活してくれ。
私の気持ちを知ってか知らずか、それ以上蒼紫は何もしゃべらなかった。
ちょっと原作描写が多く、お話としては失敗だったかもしれません。けど、蒼紫の話を主人公に聞かせたかったのでこんな感じになりました。
また、今回の武田屋敷襲撃の全体を通したオチは、御庭番衆よりも忍者っぽいムーブを竜之介にさせることでしたが、いまいち、うまく書けませんでした。書き直す気力がわいてこないため、このまま投稿します。ごめんなさい。
武田観柳編は、御庭番衆を殺させない展開にしたかったため、観柳のガトリングをどう止めさせるか、ずっと考えてました。蒼紫との対戦は剣心にさせて、竜之介に何をさせるか。
猿叫は銃士隊に使うし、木刀を投げるにも折れちゃうし、観柳の登場と同時に殴りに行くのはなんか変か。
少し考えたところで、追っ手を追いかけるため京の町をバルクールしていた竜之介を思い出し(描写はしてないかも)、いっそ忍者らしくない御庭番衆よりも忍者っぽいことをさせてみるか、と思い付き今回の話になりました。
ただ般若を倒して後ろをついて行っても、あまり二次創作の意味がないかと思ったのですが…、もう少し何とかならなかったのか。
予定通り次話はエピローグ+長岡編です。