元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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 三条さん達の後をそっとついて行くと、人通りの少ない路地に入っていくのが見えた。ますます怪しい。

 話を聞いていると、ガラの悪い男の筆頭格である長岡という士族崩れの男が、三条さんに赤べこのお金を盗むための調査をさせていたらしい。代々三条家が長岡家に仕えていた関係もあり、三条さんは古い主従関係を持ち出されて断りきれない様子だ。

 よりによって、うちが泥棒に狙われるとは。それなりに儲けは出ているので、今まで狙われたことはなかったけれども、これからはもう少し用心した方がいいかな。

 

 三条さんは指示された通り、蔵の倉庫の鍵の粘土型を取らされたり、売上金の行方(私かさよが毎日自宅に持ち帰っているのだが)を伝えたりしていたのだが、長岡が盗賊まがいの行いをすること自体に反対している。

 

「いつから俺に意見できる程偉くなったぁ!」

 

 自分の犯罪行為を止められると、長岡は激昂し、怒鳴りながら三条さんを殴った。自分の中に、どす黒い感情が渦巻く。

 とりあえず長岡を警察に突き出そう。そう心に決め、その場に飛び込もうとするが、誰かにガシッと腕を掴まれる。

 

「もう少し様子を見るでござるよ」

「…! 剣心さん」

 

 殺気が無かったので気づかなかったが、左之助と神谷さんも一緒のようだ。どうやら私の後をついてきていたご様子。

 

「様子を見るも何も、うちの子が…!」

 

 真剣な表情でこちらを見つめる剣心さん。しかしこればっかりは私も譲れない。

 

「型を渡さねぇなら仕方ねぇ。鍵がなけりゃ、浜口とかいうオッサンも含めて皆殺ししかねぇな」

 

 そんなやり取りをしている間にも、長岡が脅すように三条さんに迫る。ああ、もう見ちゃいられない。

 

「ダメです! そんなことしたら…、そんなことしたら長岡様が殺されてしまいます!」

 

 今日一番の三条さんの大声に、思わずズッコケてしまう。

 

「父に聞いたんです。旦那様…、浜口様は新選組でも腕の立つお方で、普段はお優しいですけど、維新志士に閻魔様のように恐れられていたって…。そんな方相手に刃を向けたら…、皆殺しにされてしまいます!」

 

 ガタガタと震える三条さんに、私はしばらく立ち直れなかった。そうか、私ってそんな風に思われていたんだ…。思い返すと、三条さん、少し私によそよそしかったかも。あぁ、思い当たることが他にもありそうで、考えだすと落ち込みそう。

 話を聞いた長岡達は、しばらくお互いに顔を見合わせると、大声で笑いだした。

 

「アッハッハ!あの冴えないオッサンが、そんなわけあるかよ。フカしだよ()()()。親子そろって一杯食わされたな!」

 

 長岡はゲラゲラ笑いながら、三条さんが手にする鍵の粘土型を奪い取る。

 

 

 

「明治も十年を過ぎたってのに、まだそんな主従関係に囚われてるのかよ」

「や…弥彦ちゃん」

「『ちゃん』はよせって言ってんだろ!」

 

 唖然として行く末を見守っていると、「とうっ!」と掛け声を出しながら、颯爽(?)と塀の上から飛び降り、三条さんを庇うように長岡の前に立ちふさがる弥彦。

 

「強盗なんて馬鹿な考えは捨てろ! さもなくばこの東京府士族 明神弥彦が相手だ!」

 

 竹刀を手に勇ましく啖呵(たんか)を切る。面食らっていたチンピラたちも、長岡の指示で慌てて弥彦に襲い掛かるのだが苦戦している。しばらく善戦していた弥彦だが、複数人に囲まれ劣勢だ。次第に囲まれタコ殴りにされる弥彦を目の前に、正気を取り戻した私は、弥彦を助けようと再度飛び出そうとする、のだが…。

 

「相待った」

 

 再び剣心さんに腕を掴まれ止められる。

 

「剣心さん!」

「落ち着くでござるよ。弥彦は拙者達の事に気づいていない。ここで姿を現すのは至極不自然でござるよ」

「これが落ち着いていられますか!」

 

 思わず声を荒げてしまう。

 

「助けられてばかりでは人はいつまでたっても強くなれぬ。これは弥彦の闘い、弥彦から助けを求めるのならば別だが、拙者達が横からしゃしゃりでていいものではござらん」

「強くなりたいなら稽古をすればいい! そんなの…、目の前で助けられる人を見捨てていい理由になんかならない!」

「…浜口殿」

 

 真剣な目でこちらを見つめる剣心さんだが、全く納得いかない。私は剣心さんの腕を振り払い、弥彦と三条さんの元へと向かう。

 

「あっ? さっきのオッサンじゃねーか」

 

 ニヤニヤ笑いながら長岡が何か言っているようだがそれを無視し、私は弥彦を殴るチンピラに無言で近づくと、一人ずつ素手で気絶させていく。相手は木刀を持ち殴りかかってくるのだが、簡単にいなせる。武道の嗜みのない素人相手に武器なぞ不要だ。

 

「おい! このオッサンつえーぞ!」

「ひぃっ! くっ、くるな!」

 

 何人か逃げ出していくが後は追わない。二人の安全確保が先だ。

 

「弥彦くん、三条さん遅くなってすまない」

「竜之介…。手ぇだすんじゃねぇよ…」

 

 体を痛めつけられ、つらそうな声で抗議する弥彦だが、目には強い意志が垣間見える。幸いにも大きな怪我はしていないようだし、無事といってもいいだろう。三条さんの方をちらりと見ると、小さく震えている。暴力的な光景を見て怯えているのだろう。

 

「文句はあとからいくらでも聞くよ。だから今は、三条さんを頼むよ」

「くそ…」

 

 悔しがる弥彦を尻目に長岡の前に立つ。コイツだけは逃がしてやらない。自分の中に渦巻く怒気を抑え、長岡の目を見つめる。

 

「チッ! なんだよ…。なんだってんだよ! オォォォォ!」

 

 長岡は懐にしまっていた脇差を取り出し振り回す。回避するのは簡単なのだが、先ほどの雑魚と比べると、幾分か太刀筋がマシだ。どこかの流派を修めているのだろうか。しばらく長岡の攻撃を捌きながら観察していたのだが、警戒した割に大したことが無さそうだ。徐々に彼の顔色が悪くなっていく。

 

「クソっ!何で当たらねェ! こうなったら…。甲元一刀流(こうげんいっとうりゅう)! 必殺『浮足落とし』!」

 

 地を這うような体勢から、私の足元を切り付けようとしてくる長岡の攻撃を、私は軽く飛んで避け、顔に蹴りを喰らわす。

 

「ぐほぁっ!」

 

 長岡の手から零れ落ちた脇差を蹴り飛ばし、すばやく取り押さえる。

 

(いて)てて! 何しやがる!」

「大人しくしてください! 暴れても無駄です!」

 

 逃げようと暴れる長岡だが、そうやすやすとは逃がさない。しばらくジタバタしていたのだが、強めに押さえつけるとようやく大人しくなった。

 

 

 

 しばらくして警官達が駆け付けた。神谷さん達が呼んでくれたらしい。

 駆けつけた警官は、長岡を取り押さえている私を見るなり、「お疲れ様です!」と声をかけてくれた。ここのところ警察にお世話になる機会も多く、顔見知りの警官も増えたのだが、その声のかけ方間違っていないか?話がわき道に逸れそうなので、今は指摘しないでおくが。

 警官に事情を話し、長岡をしょっ引いてもらう。先ほど逃げ出したチンピラは、剣心さんと左之助が捕まえてくれたので、一応これで泥棒に入られる心配はないようだ。

 警察に連れられて行く中、長岡は三条さんを罵倒しながら、彼女も泥棒の片棒を担いだと主張したのだが、三条さんは私の指示であえて長岡の犯罪を確認するために協力していたと警察に説明したため、罪に問われることはなかった。

 

 

 

「大丈夫かい?」

 

 警察もいなくなり落ち着いたところで、三条さんに声をかける。剣心さん達はいつの間にかいなくなっていた。おそらく先に道場に戻っていったのだろう。

 

「はっ、はい。弥彦ちゃんが一緒にいてくれたから…」

「『ちゃん』はよせって言ってんだろ」

 

 私がお願いしてからずっと、弥彦は三条さんのそばにいてくれた。いや、守ってくれていたと言った方が良いだろうか。

 

「今日はもう、家に帰って休んだ方がいいね。弥彦君、悪いけど三条さんを家まで送ってもらえないかな。…、文句はその後で聞くよ。後でうちにおいで」

「ちっ、しょうがねーな。さっさと行くぞ」

「あっ、弥彦君待って!それじゃあ失礼します」

 

 三条さんはペコリとお辞儀をすると、一人で先に行ってしまった弥彦の後を追っかけていった。二人の後姿を見送り、溜息を一つ吐くと、私は赤べこへと戻っていった。




17.09.16
 後半の内容を大幅変更。

17.09.17
 警官のセリフ(?)を『ご苦労様です』から『お疲れ様です』に変更。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 見て頂ける方が増えてきて、毎度更新ボタンを押すのが怖くなって参りました。深く考えずに投稿を始めたのですが、日に日に増える閲覧者やお気に入り登録してくださる方に、生意気にもつまらないと思われたらどうしようなどと、反応や人の目が徐々に気になっております。
 今後ともエタらずに続けていく所存でございますので、一つよろしくお願いいたします。

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