元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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原作未読であったり、佐渡島方治って誰と思う方は、竜之介がおっさんに会う話と思って読んで下さい。
書き終わって気づいたのですが、原作未読者に優しくない内容です。


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「さてと、夕飯どうしようかなあ」

 

 家で一仕事を終え、財布だけを持ち誰もいない家を出る。さよとたけさんは法事で実家に帰っているので、今日は一人でお留守番だ。

 そんなわけで、どこかで夕食を食べようと夜の町に繰り出すのだが、食べたいものも思い浮かばず、向かう先が定まらない。お腹は減っているんだけどなぁ。

 適当にそばでも食べて、今日は早めに寝ようかな、なんて考えていると不意に声を掛けられる。

 

「もし、そこの方。すまんが道を教えてくれんか」

 

 随分と変わった見た目の方に声をかけられたものだと、最初に思った。私に声をかけたのは、四十くらいの男性、洋装の服を身にまとい、髷を結ってはいないが髪は長く、でこが広い。佇まいや姿勢からにじみ出る勤勉さ、理知的な表情から頭の良さを感じる。下町に似つかわしくないその御仁に、私は興味をそそられた。

 

「ええ、いいですよ。私が分かる場所であればですけれど。どちらまで?」

「そうか助かる。実は赤べこという牛鍋屋に行きたいのだが、どうも迷ったようでな」

「ああ、赤べこですか。すぐそばですよ。ついてきて下さい」

 

 まさかうちのお店に用事とは、奇遇なこともある。気を良くした私は、快く案内を申し出た。

 店に向かい歩く道すがら、彼と少し話をした。彼の名は佐渡島さんといい、東京には仕事で来ているとのこと。とある商品の買い付けを行うためにこの時間まで商談を行っていたらしい。

 赤べこで特に誰かと会う約束をしているわけではないのだが、彼の知り合いから赤べこの評判を聞き、近くまで来たので立ち寄ってみようと思ったそうだ。

 

「ほら、あそこですよ、佐渡島さん」

「おお、確かに。わざわざ道案内まですまないな」

「いえいえ、いいんですよ。その代わりと言っちゃあ何ですけどね。少しばかり付き合ってもらえませんか?」

 

 

 

「こんばんわ。あっ、妙さん。二人なんだけど空いてるかい?」

「あら、竜之介さん。空いとりますよ。こちらへどうぞ」

 

 佐渡島さんには、これから一人で夕飯も寂しいので、お相伴(しょうばん)にあずからせて頂けないかと頼んだ。断れれたらそれまでと思っていたのだが、お互い一人で夕飯を食べるよりいいだろうと提案すると、渋々ではあるが許可して頂けたのだ。

 

 席に着き、牛鍋や酒、適当なつまみを頼む。佐渡島さんはあまりお酒が強くないそうだが、私もそれほど強くない。とりあえず熱燗を一本を頼み、二人で飲むことにした。

 

「ささっ、佐渡島さん。どうぞ」

「おお、これはすまない。…さっ、浜口殿も」

「はい、失礼します」

 

 お互いのお猪口に酒を注ぎ、軽く持ち上げ乾杯し、くいッと口へ流し込む。酒が体に染み、食道がほんのりと熱くなる。

 ぷはぁと一息つき、つまみの漬物を一切れ口に運ぶ。うん、美味い。

 

「随分とおいしそうに食べる」

 

 珍しいものでも見るような表情の佐渡島さんと目が合い、少し恥ずかしくなる。

 

「お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」

「恥ずかしがることはあるまい。少し羨ましく思えてな。ほらっ、お猪口が空のままでは寂しかろう」

「おっと、すいませんねぇ」

 

 慌てて私が持ち上げた私のお猪口に、佐渡島さんが酒を注いでくれる。気遣いができる人だ。

 

赤べこ(ここ)へはよく来るのか?」

「えぇ、まぁそうですねぇ。よく来る方だとは思いますけど…」

「ふむ、しかしここは活気があっていい店だな。常連になる浜口殿の気持ちも理解できる」

 

 店を見渡す佐渡島さんの顔から目を逸らし、頬をポリポリ掻きながらアハハと笑う。なんだか今更このお店を経営しているのは私です、だなんてちょっと言い出しづらいなぁ。なんだか居心地が悪いというか、居た堪れない気分だ。

 

 そんなことを話している間に、牛鍋が到着した。私はこれ幸いと、佐渡島さんの分を取り皿によそい渡す。彼は申し訳なさそうに受け取ると、お先に失礼と言い牛肉を一口食べる。私はドキドキしながらその様子を見つめていた。

 

「うまい!」

 

 目をカッと見開き、短く感想を述べる佐渡島さんを見つめながらそっと胸を撫でおろす。簡潔でわかりやすいな。

 

「お口に合ったようで良かったです」

 

 ガツガツと食べる佐渡島さんを見ながら、私は牛鍋のお代わりを頼んだ方がいいなと思いつつ、綻んだ顔を誤魔化すためにお猪口に入っていた酒を一気に(あお)る。顔が熱い。鏡がなくとも、自分の顔が大分赤くなっていることが分かる。

 

 

 

 徳利を三本ほど開けたところで話は佐渡島さんの仕事の話に移り、今は苦労話を聞かせて貰っている。個性的な同僚が多く、悩みも多いらしい。

 

「…へぇ、そいつは大変ですねぇ」

「あぁ、話が通じぬ者もいてな。これがなかなか厄介なのだ」

 

 赤ら顔で吐き捨てる佐渡島さんにほとほと同情してしまう。仕事上で付き合う相手というモノは、なかなか選べないからなぁ。合う人、合わない人いろいろいるのだろう。

 

「まっ、それだけいろいろな人が集まっているのも、志々雄さんでしったけ? その人の魅力のなせる技なんじゃないですかねぇ」

「その通り!」

 

 佐渡島さんは上司で社長(のことだと思う)の志々雄さんという方をとても尊敬しているようで、この人の話を始めると止まらなくなる。正直話の内容よりも、夢中に語る佐渡島さんを見ていることが楽しい。

 私は空になった佐渡島さんのお猪口に酒を注ぎ、彼の話に相槌を打つ。ここまで信頼を寄せてくれる人がいるということは、とても幸せなことのだろうな。

 

 

 

 腹も膨れ、店内のお客もまばらになり、そろそろ店を閉める時間が近づいてきた。お互いに大分酔ってしまったようだ。佐渡島さんは、酔い覚ましにと最後に豆茶(コーヒー)を注文した。どうやら豆茶(コーヒー)がお好きなようで、自分で豆を挽く道具まで持っているらしい。

 私は火照った体を冷やすためにお水を頂く。

 

「今日は楽しい酒が呑めた。お礼にここは私が出そう」

「いいえ、結構です。ここは私が持ちますので…」

 

 財布を取り出す佐渡島さんを慌てて止めようと立ち上がると、体勢を崩し倒れそうになる。むぅ、結構酔っているな。二人で食事をしていた座敷の端には、呑み終えた徳利がひぃ、ふぅ、みぃ…、ダメだ頭が回らず数えられない。

 

「しかし、それでは私の気が収まらん」

「ここは私からの投資だと思ってください。いいですか佐渡島さん…」

 

 私は一呼吸置き、佐渡島さんの目を見つめながら言葉を続ける。

 

「実はですね、赤べこは私の店なんですよ」

「は?」

 

 ポカンと口を開け呆ける佐渡島さん。そりゃ急に言われてもそうなるか。

 

「だからね、私がここの店主なんですよ。また、お店に来ていただければそれでいいんで、今日のお代は結構ですよ。ほらっ、財布はしまってください」

 

 ついでに近くにいる女給さんに、この人からお代は絶対に受け取らないように念を押す。苦笑しながら了承する彼女を見て、佐渡島さんはお金を出すことを諦めてくれたようだ。

 

「はぁ、これではまた来ぬわけにはいかないな」

「えぇ、お待ちしておりますとも。是非とも今度は同僚の方と一緒にお願いしますね」

 

 苦笑する佐渡島さんに、してやったりと心の中でほくそ笑む。また来てくれるだろうと思うが、別に来てくれなくたって構わない。なんだかんだ理由を付けてみたが、結局のところは、今日楽しいお酒を飲ませてくれたお礼なのだから。

 

 

 

 その後はお店を出て、まっすぐ家に帰り布団を敷き寝た。と思う。実を言うと店を出てからの記憶がないのだ。

 

 

「うわっ、何この匂い。竜さんお酒くさぁい」

 

 さよの声に目を覚ました私の目に、鼻をつまんで不快そうにする彼女の顔が映る。

 

「んん? さよかぁ? うッ、急に動くとなんだか頭が痛む…」

 

 立ち上がると帯がほどけ、着衣が乱れておりだらしない。立ち続けるのがつらくなり、その場でへたり込んでしまう。

 

「まったく、そんなになるまで呑んで…。一人で呑んだのかい?」

「うーん、佐渡島さんって人と知り合って赤べこ(ウチ)で飲んだんだけど、あんまり何を話したか覚えてないんだよなぁ。楽しかったことは間違えないんだけど」

 

 深いため息を吐くさよを余所に、昨日のことを思い出す。頭痛が邪魔をし、記憶がなかなか戻らないようだ。

 

「どうでもいいけどさ、早く水でも浴びてきてよ。くちゃくてたまらないよ」

 

 顔をしかめ部屋から出ていくさよの背を見つめるも、追いかけることはできない。頭痛と気怠さに悩まされ、私は半刻ほどその場から動けなかった。




 時系列は特に雷十太編の後というわけではありませんが、方治と主人公を会わせてみたかったという、個人的な希望で書きました。

 書いていて色々と思うところありますが、以降は原作ネタバレの話ですので活動報告に後書きを書こうかと思います。しかしながら、原作未読でここまでお読みいただけている方がいるのかなとの疑問もありますが。
 次回より斎藤編開始です。全部で5話くらいに収めたいなぁと思っております。
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