①30話の感想返しに抜け漏れがありました。ソーマさん申し訳ございません。先日感想返しを行いました。意図的に返していなかったわけでなく、単なるミスでございました。
非ログインユーザの方でメッセージを送れないため、この場を借りてお詫びと連絡をさせてください。
②予定していた更新から大幅に遅れましてごめんなさい。
言い訳ですが、仕事が忙しく書く時間と考える時間が取れませんでした。
今後しばらく、週に1~2回くらいの更新になります。
「剣心!」
ようやく神谷道場に辿り着いたと思うと、中から神谷さんと弥彦の悲痛な叫び声が聞こえてくる。間に合わなかったか!?
私は勢い良く同情の扉を開け、道場の中へと飛び込んだ。
「剣心さん!」
素早く道場の中を見渡すと、血を流し膝をつく剣心さん、それを見守る神谷さんと弥彦。そして、私が最もこの場に居て欲しくないと願った斎藤さんが、日本刀を片手に立っていた。
「チッ、浜口。なぜ来た?」
「約束をすっぽかしておいてその言い草はないでしょう、斎藤さん。左之助の怪我もあなたの仕業ですね?」
道場の壁にかかってある木刀を手に取ると、剣心さんを庇うように素早く斎藤さんの前に立つ。何か言いたそうな弥彦を目で制し、斎藤さんの目を見つめる。
「黙って帰れば見逃してやる。…余計な事に首を突っ込むな」
「見逃す? ご冗談を。斎藤さん、もしかして私が怖いんですか?」
正直怖いのはこっちだったりするのだが、ここで弱みを見せてはいけない。こちらがビビっていることを悟らせないために、私は無理やり笑みを浮かべる。
窮地に立たされた時こそ、相手が怖い時こそ笑えとは土方さんの教えだ。
「フンッ、笑えない冗談だ」
そう吐き捨てるように言うと、斎藤さんはこちらを睨みつけながら、腰を落とし、弓を引き絞るように刀を構える。久しぶりに見る斎藤さんの独特の構え。得意技の『牙突』か。
牙突は体全体を使った必殺の突き。刃を寝かせた平突きにより繰り出されるため、回避できたとしても間髪入れずに横なぎへと変化させることが可能であるため、初見で避けきることは非常に難しい。
幕末の争乱の中、斎藤さんが文字通り必殺の技として練り上げ、絶大な信頼を寄せるに至った技だ。
まさか斎藤さんに刀を向けられる日が来るとはなぁ。悲しい気持ちを心の奥にしまい、こちらも木刀を構え、臨戦態勢に移る。
「…浜口殿、これは拙者と斎藤の問題。手出し無用でござる」
不意に剣心さんから声をかけられた。剣心さんは立ち上がりゆっくり移動すると、私の横に立ち逆刃刀を構える。チラリと横目で見ると、瞳に闘志が宿し斎藤さんを睨みつける横顔が見える。
「水臭いですね、剣心さん。あなたと左之助が血を流しているんですよ? 無関係なわけないじゃないですか」
私は横目で剣心さんを見つめたまま、言葉を続ける。
左之助には怪我をした際に、運んでもらった恩がある。相手が相手だけに複雑な気持ちではあるが、それでも黙って見過ごせる程薄情になったつもりはない。
それに剣心さんだって、今更赤の他人面をするような仲ではないと思っている。
「だからね、剣心さん、この人を止めるの手伝ってくれませんか。一人じゃ流石に無理そうなんで」
「なっ!?」
私の発言に弥彦が声をあげる。
「驚くことはないよ、弥彦。新選組じゃあ当たり前のことだった。…負けて傷つく人が増えるぐらいなら、卑怯者と呼ばれたほうがマシだ。そうですよね、斎藤さん」
「…腑抜けたお前に説教される程、落ちぶれたつもりはないんだがな」
視線を斎藤さんに向けたまま、弥彦に言い訳めいた説明をする。少し格好悪い気もするが、今はそんなことどうでもいい。
木刀を握る手にぎゅっと力を籠め、軽く緩める。小さく息を吐き、ますます威圧が増した斎藤さんの眼光を見つめ返す。
先ほどまでは怖かったはずなのに、今は不思議となんとも思わない。剣心さんが隣にいるだけで、随分と心強いものだ。
もう無理に笑う必要もないな。斎藤さんを睨みつけながら、剣心さんに確認を取る。
「そういうこと何でよろしく頼みますね、剣心さん。隙は何とか私が作りますので…」
「あぁ、わかった」
私は剣心さんからの返答に満足すると、正眼に構えた木刀を下ろし、下段の構えをとったまま腰を少し落とす。木刀の切っ先は道場の床に接触させ、足を少し広げ、重心を低く前よりに置く。
そのまま斎藤さんの体全体をぼんやりと見つめながら動き出すのを待つ。狙うは後の先。牙突を止め、隙を作る。
道場に静寂が訪れ、空気が重くなる。背中を伝う嫌な感覚が、妙に懐かしい。
長い様で短いような、不思議な時間が流れる。斎藤さんはなかなか動かない。時間が止まったように固まったままだ。全く待たされる側というのは、いつだって嫌なものだ。
「おぉぉぉぉ!」
ふと気を抜きかけた寸簡、唐突な雄たけびと共に斎藤さんが動き出す。踏み込む足の向きから、狙いは剣心さんと見た。
私は木刀の先端を床に擦り付けながら斎藤さんの前に踏み込む。勝負は一瞬だ。斎藤さんが突きを繰り出す瞬間を見極め、床の先端から木刀を弾きながら斬り上げる。
鞘がない木刀で居合を再現するために生み出した、龍飛剣の変則型。名付けて『
突き出された斎藤さんの刀を、昇竜剣で下から打ち上げる。刀と共に左手を上にあげてしまい、斎藤さんは無防備な胴を晒す。
牙突が平突きで良かった。普通の突きであれば、刃にまともに木刀が当たるため木刀が折れてしまい、十分に刀を打ち上げることはできなかっただろう。
「!?」
斎藤さんと目が合う。その目は軽く見開かれ、多少の驚きが窺える。一杯食わせることができたようだ。
「剣心さん!」
『後は頼みましたよ』との思いを託し、私は剣心さんの名を呼ぶ。
「おおおお!」
叫び声と共に、剣心さんは逆刃刀で斎藤さんを胴を打ち抜く。防御態勢が取れない斎藤さんは胴をまともにくらい、体をくの字に折り吹っ飛んでいく。
吹き飛ばされた斎藤さんは、道場の壁に激しくぶつかると、壁にもたれかかったままその場にへたり込んだ。その手には未だに日本刀が握られており油断はできない。
咳込みながら荒く呼吸をしている様子から、意識はまだあるようだ。顔を上げ、こちらを睨みつける目には闘志が漲っている。
その目は苦手だ。
あれだけの一撃をもらいながらも衰えないその気迫に、私は思わず怯んでしまう。
「斎藤さん、もうこれ以上はやめにしましょう」
無駄だとはわかっている。ただ、黙って斎藤さんを見ていることに耐えられず、私は話しかけた。
「…やはりお前は腑抜けたよ。なぜ腕を狙わなかった」
斎藤さんの意外な質問に、私は何も答えられない。黙っている私を睨みつけながら、斎藤さんは言葉を続ける。
「昔のお前であれば、確実に動きを封じるために躊躇なく俺の腕を折っていた」
「斎藤さん…」
「なぜ敵に情けをかける! 覚悟がないなら引っ込んでろ!」
斎藤さんの一喝に、一瞬私の全身が強張る。斎藤さんを傷つけたいわけではないのだが、その考え自体が甘いのだろうか。友人に重傷を負わせた相手を、無傷で捕縛することは驕りであろうか。
いろいろな考えが頭を駆け巡り、迷いが生じる。
「浜口殿は、お前のことを救おうとしているだけでござる。その覚悟が分からぬお前ではあるまい」
不意に剣心さんが口を開く。違う、そんな大層なことを考えてはいるわけではない。斎藤さんを止めたいという想いと、怪我をさせたくないという想いが拮抗し、ただ中途半端なだけだ。そう思いながらも、私は何も言えない。
無言の私を見据えたまま、斎藤さんはゆっくりと立ち上がり、再度牙突の構えを取る。
その姿を見て、私も再び木刀を下段に構え昇竜剣を繰り出す準備を行う。正直、何度も止められるとは思わないができることをするだけだ。
「新選組隊規第五条、私の闘争を許さず。…これは明らかな私闘ですよ。覚悟がなくとも、私は斎藤さんを止めるだけです」
こういうときは余計なことを考えずに、ただ隊規を守ることだけを考えるに限る。頭がスッキリし、これで目の前の斎藤さんに意識を集中させられる。
「チッ、阿呆が…」
斎藤さんの目が、一瞬悲しそうな色を浮かべたように見える。残念ながら私には斎藤さんが何を考えているのか、サッパリわからない。
私は大きな溜息を一つつき、目の前の男を止める手段に思考を巡らせるのであった。
昇竜剣は、キャプテン翼の日向小次郎が使う雷獣シュートを参考にしました。地面を蹴って、その反動で強烈なシュートを打つという、今考えると不思議なシュートでしたが、子供の頃に憧れて真似して足首を痛めた思い出があります。
17.10.23
・一部誤字を修正。
・『昇竜剣』の誤字を修正、表記のブレがあったため『昇竜剣』に統一。
・『昇竜剣』にルビを追加