元新選組の斬れない男(再筆版)   作:えび^^

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「んー、いい汗かいたぁ」

「そうですね。今日の稽古、なかなか良かったですね」

 

 出稽古も終わり、今は神谷さんと河原を歩きながら道場に帰る途中だ。ちなみに、剣心さんは洗濯物の取り込みと夕飯の準備があるからと先に帰っている。普段の剣心さんは、剣客というよりは家事手伝いみたいなんだよなぁ。

 

「浜口さんも、けっこう神谷活心流が板に付いてきたわね。もともと基礎ができていたのもあるかもしれないけど」

「先生のご指導の賜物ですよ」

 

 と言いつつも、自分の剣術を褒められて正直うれしい。試衛館で稽古を受けていた時には、怒られることは多かったが、褒められることは滅多になかった。なんだか、むず痒いというか、こそばゆい気持ちになってしまう。

 私は一応、様々な流派の剣術を学んでいるのだが、どれも『殺すため』の剣術であった。同じ剣術であるため、基本的な構えや打ち込みは神谷活心流と共通する部分も多いが、やはり活人剣と比べると微妙に異なる点も多い。

 稽古初日は戸惑うこともあったが、ここ数日かなりモノにできている感覚はあった。うむ、神谷さんはいい先生だなと改めて思う。

 

「ん?」

 

 どうしたのだろう、神谷さんが対岸を見つめたまま立ち止まった。私もそちらに目を凝らすと、リーゼント風の妙な髪形のヤクザ風の男が、弥彦を担ぎ運んでいく姿があった。

 

 

 

 急いで道場に戻り剣心さんに事情を説明し、近所の人に話を聞いて回るとリーゼント頭の身元が分かった。あの特徴的な髪型のおかげで、すぐに特定できたのだ。男は『人斬り我助』という極道界でちょっと名の知れたヤクザであった。

 

 

 私と剣心さんは弥彦を助けるため、直ぐに組が根城にしている屋敷に向かった。

 

 

「すいませーん」

「あぁ?」

 

 門の前にいる下っ端に声をかける。問答無用で殴りかかるのも気が引けるため、一応声をかけたのだが、やけに攻撃的だな。まぁヤクザなんてそんなもんか。

 

「ここに明神弥彦さんがいるって聞いたんですけど、会えますか?」

「んだとコラァ!がッ…」

 

 急に襲い掛かってくるんものだから、反射的に殴ってしまった。

 

「急がないと弥彦が心配でござる。少々手荒ではあるが…」

 

「そうですね。まぁ、仕方がないですよね」

 

 玄関を蹴破り屋敷に侵入すると、ヤクザがわらわら沸いてきた。懐かしいなこの感覚、新選組時代を思いだす。

 『流水剣』で湧き出るヤクザをぶっ飛ばしながら屋敷の奥へと進んでいく。剣心さんの手を煩わせるまでもないね。それにしても広い。弥彦がどこにいるのかわからないなぁと思いながらうろうろしていると、少し先の部屋から大声が。弥彦の声だ。

 声を聴くや否や、剣心さんが尋常ではない速さでその部屋に飛び込んでいった。

 

 剣心さんの後を追い、部屋に入ると、ボロボロの弥彦とヤクザたちが目に入る。子供を集団リンチとか、まじでコイツら許さんわ。

 

「流浪人の緋村剣心、(わっぱ)を引き渡してもらおうと参上(つかまつ)った」

 

 剣心さんが名乗りを上げる。私は名乗らなくていいかなと黙っていたら、我助が襲い掛かってきた。

 

「何が(つかまつ)っただ! てめぇらも士族か! まとめてぶっ殺してや…ぐっ!?」

「うるさいですね。静かにしてください」

 

 我助の喉に突きを喰らわす。瞬速の突きに周囲のヤクザが息をのむのがわかる。

 喉を両手で押さえながら転げまわる我助をみて、ちょっと溜飲が下がった。ちらりとこちらを一瞥すると、剣心さんは組長にメンチをきりながら語り掛ける。

 

「どうだろう組長さん。ここは器のでかい所を見せて快く、(わっぱ)を手放してはもらえないでござるか? 組員総崩れの恥をさらすよりその方がずっといいと思うが…」

「わ…、わかった。勝手に連れていきな」

「ありがとう、無理言ってすまない」

 

 剣心さんと組長のやり取りが終わった。組長は完全にビビってるし、今のうちにさっさと帰ろう。

 

「さっ、行こうか弥彦君。立てるかい?」

 

 そっと、弥彦君に手を差し伸ばしたところ…。

 

 パシッ!

 

 えっ?なんか差し出した手を叩かれたんだけど。

 

「助けろなんて誰が言ったよ。俺は独りでも闘えた! 闘えたんだ!」

「…。そうか。拙者はまた(わっぱ)を見くびってしまったでござるか…。ならばせめて詫び代わりに傷の手当位させるでござるよ」

 

 手を叩かれたショックでフリーズしていると、剣心さんが弥彦を担ぎ屋敷の玄関へと歩いて行った。慌てて後をついて行く私。なんとも情けない。

 その後、剣心さんの強い意向により、弥彦は道場に連れていかれた。私もついて行こうかと思ったが、帰宅が遅くなると問題なので、一言断り急いで帰宅した。

 

 

 

「ただいまー」

 少し遅くなってしまったが、やましいことはないため堂々と家に入る。内心はドキドキだが。玄関をくぐるとさよが出向かてくれた。

 

「おかえり、竜さん。今日はいつもより遅かったみたいだね」

「まぁ、ちょっとしたいざこざというか、事件があってね」

「ふーん。まぁ、詳しくは夕飯を食べながら聞くよ。もうすぐ支度できるみたいだからね」

 

 よかった、今日は怒ってないようだ。ホッとすると。腹の虫がなった。居間の方からの味噌汁の匂いにお腹が刺激されたのだろうか。

 

 

 

「…というわけで、その弥彦少年を無事に助けることができたんだ。あっ、たけさん。ごはんお替りお願いします」

 

 夕飯を食べながら今日の出来事を話す。運動した後だと御飯がうまくていいね。

 

「はい、旦那様。多めに盛っといたよ。それにしてもやめてくださいね。ヤクザと揉め事だなんて。家にでも来られたらどうするんだい。余計なことに首をつっこむのも程々にしてくださいよ」

「ぐっ」

 

 まぁ名乗ってないから特定はされないだろうし、たぶん大丈夫なハズだ。

 

「たけさん。それは、心配には及ばないよ。竜さんがいればヤクザなんていくら来ても追い返してくれるさ」

「そう、さよの言う通り、心配いらないよ」

「はぁ、そうですか」

 

 悪戯っぽく笑いながらこっちを見つめるさよ。まったく、うちの嫁は本当にかわいくて困る。

 

「だからさっ、竜さん。外で遊んでばっかいないで、もっと家にいて欲しいな」

「むっ。…善処する」

「あっはっは!これは旦那様、さよさんに一本取られたね」

 




再筆に伴い『しっぷうづき』をただの突きにしました。

17.08.23変更点
・一部表現をドラクエ版(旧版)に戻しました。主に地の文(?)の横文字使用の復活です。

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