パジャマな彼女。より『白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャカノ・パラレル』   作:GOHON

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第11話 『雪姫の添い寝と次の朝、一方硝子は……「まくらには内緒にしておくから」』

<center>11話</center>

 

綺麗だと言ってくれた。

命がけで助けてもくれた。

望みはあるのかもしれない。

 

──ううん、そんなの関係ない。

 

あふれそうなこの気持ちを、もう抑え切れないから。だから、ただ一言だけでもいいから、伝えたい──

 

 

 

「好き」

 

 

 

 

─────────────────────────────────

 

──……え……?

 

最初に計佑が抱いた感想は、ただの疑問だった。

雪姫が何やら独り言のような感じで話し始めたと思ったら、決意表明のような事を言い出して。

その後、何を言うのかと思ったら、二文字の言葉が雪姫の唇から飛び出して。

その言葉自体はもちろん慣れ親しんだ日本語で、意味なんて簡単で、むしろ簡単すぎるものだったけれど。

それでも今、唐突すぎて全くの予想外で、理解がまるで追いつかなかった。

薄暗い部屋でもわかるくらい、真っ赤な顔の少女。

未だ見慣れない、類まれな美貌の先輩が、そんな赤い顔でじっとこちらの目を上目遣いで見つめてきている。

それでも尚、ぼーっと雪姫を見つめ返している内に、

 

「……好き」

 

もう一度言われた。

……そして、ようやく理解が追いついた。

 

──……好き……て……え!? ええええ!!? おっ……俺の事!!?

白井先輩が──俺なんかのことを……!!??

 

慌てて、雪姫の反対側を振り向いたりしてしまう。

勿論、誰もいなかった。

相手を間違っている……訳でもないらしい。雪姫のほうに顔を戻す。

 

ドックン、ドックン──!!

 

鼓動が一気に高まっていた。

雪姫は変わらず赤い顔をしていたが、

計佑の長い沈黙に耐えられなくなったのか、ギュっと瞼を閉じて唇をかみしめている。

相手が合っているのなら、或いは何か聞き間違えたのでは……?

と一瞬考えたが、二度も聞いたし、こんなに雪姫が恥ずかしがっているしで。

……いよいよ間違いなさそうだとわかったら、鼓動が更に激しくなった。

 

「けっ……計佑くん……今の……」

 

瞼をギュッと閉じたまま、雪姫が言葉を絞り出してくる。

 

「聞こえ……たよね……?」

 

そろ……っと、雪姫がまた瞼を開いて、計佑を見つめてきた。

 

「……っぁ……きっ……聞こえました……」

 

──けどっ……何を言ったらいいかさっぱりわかんないんですっ!!

 

その時、急に雪姫の感じが変わった気がした。

 

<b>──かっ……かわいい……!!</b>

 

きゅうっと身体を縮めて、真っ赤な顔でじっと自分を上目遣いで見つめてくる少女が、

綺麗というより可愛く見え始めた。動悸がもう限界を超えそうだった。

 

──スッゲーかわいい!! 先輩かわいいよ……!!!

……なんだよこれっ、先輩どーしちゃったんだよ……!!?

 

それは雪姫の問題ではなく、むしろ計佑の側の問題なのだが、そんなことを理解できる少年ではなかった。

計佑が困惑し続けている間も、雪姫はじっと計佑の言葉を待ち続けている。

 

──何か言わなきゃ……!! だけど何て……!?

『先輩ってすごい美人だと思ってたんですけど、実はめちゃめちゃカワイイですね』

……違う違うっ!! そんな感想は求められてないっ!!

 

……それはそれで雪姫は喜んでいただろうから、

突然の告白を受け止め切れない少年としては、意外と正解だったのかもしれない。

しかしこの少年に、そんなセリフを意図して口にできる筈もなく、ただ口をあうあうとするばかり。

そのうち、計佑は口どころか顔全体が強ばってくるのも自覚したが、やはりこの迷路の出口は見つかりそうにない。

 

──……誰か助けてくれーーーっっ!!!!

 

……そんな情けない少年の悲鳴に、救世主が現れた。

トントン、と軽くふすまが叩かれた後、すぐにふすまが開いて──

 

「白井先輩? 目覚くんの様──」

「……須々野さんっ……!!」

 

固まっていた空気が、とりあえずこれで解された。

そう思い、計佑は安堵して。

身体を起こして、改めて硝子を見たが──

 

「……須々野さん?」

 

なんだか様子がおかしい。起き上がった自分じゃなく、雪姫の方に視線が釘付けのような──

 

<b>「そっ──添い寝!? 」</b>

 

そして、目を見開いていた硝子が、大声で指摘してきた。

 

「──えっ!?」

 

そばに寝そべっている雪姫を見下ろす。雪姫は顔を手で覆ってしまっていた。

けれど、覗いている耳は真っ赤で、そして体は更に縮こまっている。

……そんな状態で、でも、その位置は計佑の本当にすぐ傍で。

 

「……ちっ違──!? 」

 

痛む体をおして、慌てて立ち上がろうとしたのだが

 

「ごめんなさいっ!!」

 

硝子はピシャッとふすまを閉めて、去ってしまった。

 

──だから違うのにっ……!!

 

行き場のない、伸ばした手を震わせる計佑に、

 

「びっ……びっくりしたね……」

 

雪姫が、そろりと話しかけてくる。

 

──いやびっくりっていうかっ……なんかヘンな誤解がですねっ!?

 

雪姫からしたら、好きな人の看病のためにこうしている訳で、だから雪姫としては誤解でも何でもないのだけれど。

未だによく分かっておらず、そんな風に考えてしまう少年。

そんな計佑の手に、雪姫の手が重ねられた。

 

「……え!?」

 

ドキリとする。

 

「……何も言わなくていいよ」

 

雪姫が、ふわりと微笑んでいた。

 

「ただ今は……このまま手を握っててもいい……?」

 

ふるりと、雪姫の手が震えた。

 

「一人で寝てると……思い出しそうで……」

 

その言葉で、昨日の事件を思い出した。

『本当は臆病で、自信がなくて──』

さっきの雪姫の言葉も思い出された。

──こんなにキレイで、優秀な人なのになんでそんなこと……?

以前の自分だったら、さっきの言葉を、そう不思議に思うだけだったかもしれない。

けれど、病院での様子や、公園での表情、電車での泣きそうな顔やコンビニでの萎れた姿──

それらを思い返した時。

雪姫のさっきの発言が、腑に落ちたのだった。

 

──そうだ……確かに先輩は、とても傷つきやすい人なんだ……

 

そう気づいた瞬間。

 

──守ってあげたい……!!

 

そんな強い衝動が芽生えて。

「…………」

何も言わず、雪姫の手を、きゅっと強く握り返した。

雪姫は少し驚いたように目を大きくしたが、すぐに安心したように目を閉じて。

やがてすぅっと眠りにつく。

 

そうして計佑はしばらくの間、そのまま雪姫の姿を見つめ続けるのだった。

 

─────────────────────────────────

 

──やっぱり反則だよ……計佑くんは……

 

ついさっきまで、真っ赤な顔をして狼狽えてばかりだった癖に。

私が弱音を吐いた途端──落ち着いた微笑で、こちらの手を握り返してきてくれるなんて。

その優しさに、また胸が熱くなる。

 

──それにしても、やっぱり私は弱いなぁ……

 

硝子の介入は、正直ありがたかった。

自分も随分といっぱいいっぱいだったけれど、計佑の様子はそれ以上だった。

赤い顔をするだけならまだしも、その内凄い顔までし始めたので、

正直「今のはナシ!!」とでも言って、逃げようかなんて思い始めた矢先だった。

そんな醜態を晒さないで済んで本当によかった……と、改めて硝子に感謝する。

 

──まあ……結局、何も言ってもらえなかったのはちょっと残念だけど……

 

もう自分の中でためこんではおけない、とにかく伝えてしまいたい──

そんな気持ちでの告白だったから、付き合って欲しいなんて言葉は重ねなかった。

だから結局「何も言わなくていいよ」と切り上げもしたのだけれど……

乙女心としては、やっぱり何かしらの言葉は欲しかったというのも本音で。

そんなちょっぴりの不満は残ったていたけれど、

計佑の優しい微笑と、今握ってくれている手の感触に安心したら、それもすぐに消えて。

……雪姫は、やがて眠りにおちていったのだった。

 

─────────────────────────────────

 

6時を過ぎた頃に、雪姫が目を覚ますと。

目の前で、計佑が眠っていた──雪姫の手を、しっかりと握ったままで。

その握っている手を見て、ほわっとする。

夢で魘されたりするかもという心配も、杞憂に終わった──この手のおかげだろう。

ふわふわとした気分のまま、

軽く爪を立ててみたり、逆に計佑の爪先に自分の指を押し付けてみたり。

そんな風にひとしきり計佑の手と戯れると、今度は計佑の横顔にも注目した。

朝日の下で、その顔には絆創膏や包帯が目立っていて──改めて申し訳なくなるけれど、最高に愛しい顔でもあった。

そっと手を伸ばすと、絆創膏が貼られていない方の頬にふわりと触れる。すりすりと、軽く撫でてみた。

 

「……ん……」

 

計佑が寝返りをうったので、慌てて手を引っ込める。

寝返りをうった計佑は今、雪姫と向き合う形になっていた。

 

「…………」

 

雪姫はそうっと、計佑の手から自分の手を離した。

 

「…………」

 

両手を計佑の頬に、ゆっくりと添えてみた。

 

「…………」

 

そっと顔を近づけて、鼻と鼻が触れ合いそうな距離で──動きを止めた。

 

──本当……こんなに男の子の事を好きになっちゃうなんて、全然思わなかったなぁ……

 

以前の自分からは、まるで想像出来なかった。

男には苦手意識があって、いつも壁を築いていた自分。

それが、この男の子と知り合ってからは、あっという間に崩れていって。

今では距離をとるどころか、いくらでもくっついていたくなってしまって。

 

──ドキドキさせられる事もあったけど、

基本的にはカワイイ……そばにいて安心出来る男の子だったのに。

 

──いや、それは今も変わっていない。

もっとドキドキして、でも今まで以上に安心できて。

可愛くて、なのに格好よくて、尊敬も出来て。

そして、もっともっと、ずっと傍にいたくなった──それだけだ。

 

「…………」

 

もう、このまま唇を捧げてしまいたい気持ちもあったけれど。

計佑の気持ちがわからない以上、そんな勝手な事はやっぱり出来ない。

名残惜しかったけれど手を離して立ち上がると、障子をそっと閉めて、雪姫は朝食の準備に向かった。

 

─────────────────────────────────

 

結局、昨夜の計佑は朝方まで眠れなかった。

雪姫の手を握ったまま色々考えていたら──またドキドキしてきたりで、なかなか寝付けなかったのだ。

そんな調子で、漸くまた眠りにつけて、そして今、短い睡眠から目を覚ますと、もう雪姫はいなかった。

……何故か残念な気もしたけれど、それに関してはすぐに考えるのをやめた。

ほっとした気持ちもあったからだ。あのまま、茂武市やカリナに発見でもされたら、またややこしくなってしまう。

 

──……そうだ、須々野さんの誤解を解かないと!

 

昨夜の事を思い出し、誤解ではないのに未だそんな事を考える少年は、慌てて起き上がって。

廊下に出ると──ついてることに、ちょうど硝子が歩いてきた。

「あっ!! 須々野さん。おはよう……昨夜の「まくらには内緒にしておくから」

 

途中でセリフを被せられた。

早口で、硝子にしては随分と低い声だったので、ちょっと驚いたけれど、

一言だけ言い捨てた硝子がそのまま通りすぎようとしたので、慌てて引き止める。

 

「やっ、ちょっと待って待って!! だから誤解なんだってば」

 

硝子が、ゆっくりと振り返ってくる。

 

「……誤解って何が?

目覚くんのケガに責任を感じた白井先輩が、一晩中そばについててくれた。

……なにか間違ってる?

「……う……違わないけど」

 

初めて見る硝子の冷たい態度に、思わずたじろいでしまう。

 

「そしてまくらには知られたくないだろうと思ったんだけど、それも間違ってる?」

「……っ……いや間違っては……でもっなんでまくら限定なんだよ?

誰であっても困るよ。変なふうに話が広まったりしたら、先輩だって迷惑だ」

 

最後の言葉のところで、硝子の顔が更に暗くなった気がしたけれど──

 

「……ごめん目覚くん。ちょっと意地悪だったね」

 

やっと、硝子が笑ってくれた。

……困ったような、苦笑だったけど。

 

「大丈夫。目覚くんの言いたいことはわかってるつもりだから……安心して」

「あ、うん……わかってくれたならいいんだ。

須々野さんもありがとう。昨夜、俺のこと心配して見にきてくれたんだよね?」

「……そのせいで、お邪魔しちゃったみたいだけどね」

 

硝子がまたイヤミを口にする。けれど、今度は一応笑顔だった。

 

「だからー!! 勘弁してってば」

 

硝子が何故暗い顔をしていたのか──深くは考えないのが、この少年だった。

 

─────────────────────────────────

 

硝子と別れた後、洗面所へ向かう途中で茂武市、カリナとも出会った。

茂武市には軽く茶化され、

カリナには「まあ坊やにしてはよく頑張った!!」と肩を叩かれたりして。

そして二人とも別れ、また洗面所へ向かい出したところで──今度は雪姫とバッタリ出会ってしまった。

 

「「……あ……」」

 

ハモってしまい、二人で同時に俯く。

 

<i>「おっおはよう……どっかいくの? 」</i>

 

震える声で、雪姫が先に話しかけてきた。

 

「いや、あのっ顔を洗いに……」

<i>「あ、ああっ、そっか」</i>

 

やっぱりまだ、雪姫の声は震えていた。

 

「……っ……計佑くんっ……戻ったら……私ご飯作ったから……食べてくれる……かな?」

 

──せっ、先輩の手料理!?

 

<i>「は……はい!! スグ行きます!!」</i>

 

顔が熱くなる。

 

「じゃあ……待ってるね」

 

上目遣いで微笑む雪姫の顔色も……真っ赤だった。

 

─────────────────────────────────

 

──うおおおお!!!

なんなんだこれっ!? めっちゃハズかしいっ……!!

先輩の顔を真っ直ぐみれなかった……っ!!

 

バシャバシャと顔を洗いながら、昨夜答えが出なかった問いにまたチャレンジする。

 

──何も言わなくていいと先輩は言った……

付き合って欲しいとか、そういうワケじゃないってことか?

すると…… "恋愛感情の好き" じゃなくて、"人として好き" とかそういう話だったりするのか?

 

……あの状況でそんな訳はないのに、相変わらず、とんちんかんな事を考えてしまう少年。

 

──なんか先輩、昨日の俺の事、色々勘違いして過大評価してたみたいだし……

そうだよ、偶然見つけたなんて与太話を、超能力とか何とか大袈裟に受け止めてたくらいだもんな……

そっか、そういうことだったんだ!!

 

……今度はあながちズレてはいない考え方だったが、

そもそもの立脚点が間違ってるので、やはり導かれた答えは明後日の方向のものだった。

 

──な~んだ……悩んで損した。

……そうだよなー、あの白井先輩がオレみたいのに、……なんて……

 

さっきまでの熱い気分が、一気に冷めて。

暗く沈んでさえいったけれど、その理由については、やはり考えようとはしない少年だった。

 

─────────────────────────────────

 

計佑が食卓へ向かうと、もう食事の準備はできていた。茂武市たちも揃っている。

計佑の為に用意してある席は、雪姫の左隣で──向かいにはカリナと茂武市、硝子は雪姫の右隣──

その席につくと、すすっと雪姫が寄ってきた。

 

「利き腕ケガしてるから、食べるの大変でしょう? 私でよかったら……手伝わせて?」

「えっ!? いやっ……そんな別にっ」

 

落ち込んだ気分が、それだけのやり取りで、また高揚するのを感じた。

「遠慮しないで」

雪姫が計佑の分のスプーンを手にとった。

ちらりとカリナ達を見やってから、

「これくらいはさせて……計佑くんのケガは、私の責任なんだから」

 

そう、赤い顔で言う雪姫。

しかし計佑は、その言葉にまた少し気分が沈んだ。

 

──そっか……やっぱり昨夜からの先輩の態度は、ただの責任感か……

 

「……先輩。昨日も言ったけど……先輩には責任なんてないんです。だから──」

 

言い終わる前に、雪姫がすっと計佑の耳元に唇を寄せてきて、

 

「好きな人のお世話くらいさせてほしいな」

「えっ……!? 」

 

驚いて軽くのけぞると、雪姫はカリナ達には見えないように、ウインクまでしてきた。

 

──なっなにこれっ……ホントにこれ、"人として好き" ってだけ……なのか!?

 

さっき出したばかりの結論が、揺らいでしまう。

 

──いやでもっ……またいつものようにからかってるだけ……とか……?

……けど、人前で先輩がからかってきたことは今までなかったような……

 

また頭がぐるぐるしてきてしまう。

 

「はい、あーんして」

結局熱い頭のままで、言われるがまま口を開いてしまう。

そうして雪姫が、「あー……ん……」言いながら、口の中にスプーンを差し入れてきた。

 

「……どうかなぁ? 計佑くんの口に合うといいんだけど……」

 

心配そうに、でもどこか期待を込めた瞳で見上げてくる。

 

「うっうまいですよ……スゴクおいしいです」

「ホント!? ……よかった……」

 

ホッとした、そしてすごく嬉しそうな笑顔を雪姫が浮かべて。

 

「じゃあまた……あーん……」

「あー……熱っ!?」

 

今度の具は一際熱くて、思わず悲鳴が出た。

「あっごめんっ!! ……ヤケドしてない!?」

「やっ大丈夫ですっ」

「……ふーふーもしたほうがいいのかな?」

 

雪姫が上目遣いで尋ねてくる。

 

「いやそれはっ!? 」

恥ずかしすぎます、とは言葉にできなかったが、

 

「ふふ……それはさすがに恥ずかしいかな?」

 

やっぱり幸せそうに雪姫が笑って。

 

──計佑は、もう雪姫の事しか目に入らなくなってしまうのだった。

 

─────────────────────────────────

 

雪姫の方も、実は内心、相当恥ずかしがっていた。

けれど、それ以上に舞い上がってもいた。

今までは、一応人前では抑えていた部分もあったのだけれど……もう、そんな我慢は出来なくなっていた。

カリナや茂武市の、ぽかんとした視線は気になるけれど、

『私のせいのケガだから』という免罪符だってある。それで開き直れた。

 

──幸いな事に。

計佑の方を向いている雪姫には、隣に座っていた、今は後ろにいる硝子がどんな顔をしていたのかは……見えなかった。

 

─────────────────────────────────

 

朝食後、未だ席に残っているのは計佑だけだった。

食事が終わると、「ちょっと待っててね」と言い残して雪姫は食器を運んでいった。

別に歩けない訳でもないし、せめてそれくらいは自分でやりたいところだったけれど。

 

そして今、計佑は早く外に出たい理由もあってそわそわとしていた。

 

──まくらは一体どこいった? メシもずっと食ってないハズだし。

コンビニ行って、またメシ買ってこないとな……

 

昨夜コンビニで買っておいたまくらの為の食料は、茂武市やカリナが夜食にと平らげてしまっていた。

雪姫には待てと言われたけれど、やはりまくらを捜さないと。そう考えたところで、

 

「お待たせ計佑くん。コレ……見たがってたやつだよ」

 

雪姫が古いアルバムを運んできた。

 

「あっ……!? 」

 

──あの写真の人のっ!?

 

ついに見られる手がかりに、慌てて飛びついた。開いてみると、一ページ目から美月芳夏の写真があった。

 

──確かにあの人だ……!!

 

パラパラと、どんどんめくっていく。

どうやらこのアルバム全部が、美月芳夏の写真を収められたもののようだった。

 

「ひいおじいちゃんの患者さんだったんだって」

「ひいおじいちゃん……?」

 

──という事は、あのじいさんも直接知ってるわけじゃないのか……?

 

なんだかまた手がかりが遠のいた気がして、ちょっと気分が沈んだ。

 

「さっきおばあちゃんに聞いてみたんだけど、それ以上詳しくは知らないって言うし」

 

とはいえ、計佑も諦めきれない。やはり直接おばあさんにも話を聞いてみたい。

そう雪姫にも頼もうとしたところで、

 

「……その写真」

 

雪姫が一枚の写真を指さした。

 

「え? ……この写真がどうかしました?」

「なんかこの写真の建物……見覚えがあるんだよね」

 

その一枚の中の、美月芳夏が立つ後ろの、建物を指して雪姫が言う。

 

「ひいおじいちゃんが昔やってたっていう病院の療養所じゃないかな……」

雪姫がぽつぽつと説明を続ける。

 

──ここから少しボートで行ったところの小島にある。

──子供の頃、祖父に連れていってもらったことがある。

──その頃にはもう使われてなかった事。

──資料とかがまだ残っているらしく、祖父はそれが目当てだったらしい。

 

そんな話を聞かされて、俄然興味が湧いてきた。

 

──この人がいたっていう療養所……そこに資料が残ったままだというならもしかして……!!

 

「……やっぱり大分気になってるみたいだね。行ってみる?」

「はい!!」

 

雪姫の言葉は、まさに望むところだった。

 

─────────────────────────────────

 

まくらが、砂浜に座り込んでいた。

体育座りをして、左手の小指を見つめている。その表情は、いつになく暗かった。

 

「まくらーっ!!」

 

そこに、コンビニ袋を携えた計佑がやってきた。

 

「……計佑」

「やっと見つけたーっ、せっかくいいニュースがあるってのにお前どこいってたんだよ!!

おらっ、メシも持ってきてやったぞ!! ……っても……食えるのか?

モノ触れなくなったとか、昨夜言ってたよな」

「……だいじょぶ。ありがと……」

そう答えて、まくらがおにぎりを受け取る。

 

「お? なんだよ、またモノ持てるようになってんじゃん」

「うん……昨夜のうちにまたそうなった」

「はー……ホントいい加減だよなぁ。服が勝手に変わったりなんだりとさー」

 

まくらが俯いた。

 

「ケガ……大丈夫?」

「あ? このホータイか? こんなん大げさに巻いてあるだけだよ。大したことないって」

「……ごめんね」

「……は? なにが?」

「白井先輩が攫われた時。 私がモノ動かせる状態だったなら、先輩を助けられたのに……」

「……まあ、確かにポルターガイストが起きてたら、連中も泡くって逃げ出してたかもしんねーけどな」

 

へっと笑ってみせる計佑。

 

「…………」

 

それでもまくらは俯いたまま、無言だった。

 

「……どうした?」

 

真面目な声で尋ねると、まくらが唇を噛み締めて──くるりと後ろを向く。

 

「……ゆうべ」

「……うん?」

「私、何もできなかった……白井先輩が攫われた時も……計佑があいつらに殴られてる間も……刺された時も!!」

 

まくらの肩が震えていた。

 

──あー……なんだよコイツ、そんなん気にしてたのか……

 

こそばゆくなる。まくらも、昨夜は随分と心配してくれていたのだろう。

刺された瞬間は、傍目には殺されたように見えたかもしれないし。

そうして今は、自分を責めてしまってる訳だ。

 

──全く。元気と笑顔しか取り柄のねーガキんちょのクセして、余計なコト考えてんじゃねーぞ。

 

まくらの頭に、ポンと手を置いて。

 

「……めちゃめちゃ活躍してくれたじゃないか、お前。

先輩の状況を教えてくれて、道案内までしてくれて。お前がいなかったら絶対に間に合わなかった。

──ありがとな、まくら」

 

心配してくれた事に感謝して。

大きな仕事をやり遂げたことを褒める為に。

責任なんて何もないのに、自分を責めて苦しんでる妹分を慰めたくて。

──頭においた手で、わしゃわしゃと髪をかき混ぜてやる。

 

「……バカっ……それやめてって、いつも言ってるじゃないっ」

 

そう言いながらも、まくらは跳ね除けようとはしなかった。

じっとしたまま受け入れて──やがて腕を持ち上げると、目元をゴシゴシこすり始めた。

それからバッと計佑の腕から逃れると、振り返って、にぱっと笑ってみせてきた──まだ赤い目をしていたけれど。

 

「あーっもーお腹すいたっ!! 結局昨夜から何も食べてないんだよー?

ご飯持ってくるの遅すぎなんだよ計佑はっ」

 

いつも通りの悪態をついてくるまくらにほっとしながらも、計佑もニヤリと笑ってみせた。

 

「フフ……いっそずっとメシ抜きにしてみたらどうだ?

今みたいにメシ喰ってばっかいると、身体に戻った時に食った分太っちまうんじゃないのかぁ?」

 

まくらがギクリとする。

いっちょ前に体重なんぞ気にしやがって──そんな意志を込めて、まくらをニヤニヤと見つめてやる。

 

「……がーーっ!! いっぺんホントに締めちゃるっ!! ちょっとこっち来い計佑っ」

 

言いながら、まくらが文字通り空から飛びかかってくる。

 

「来いって言いながらてめーから来てるじゃねーかよっ」

 

ひらりとかわして、またまくらの頭を押さえつける。

まくらが腕を振り回してきて、またそれをやりすごす。

あばらや身体のあちこちが痛んだけど、苦しい顔は見せずに笑顔を保ったまま──

計佑はひとしきり、まくらとはしゃぐのだった。

 

─────────────────────────────────

 

<11話のあとがき>

 

原作では、海辺でのまくらに対して「守りたい……」と考えてしまっていた計佑ですが。

こちらの話では、弱音を吐いた先輩に対して付け替えてみました。

 

添い寝発見の役は硝子にしてみたり。

そのほうが硝子も強く心配してた感が出るかなぁと。

硝子も、雪姫やまくらと同じくらい心配してたハズですしね。

 

原作のこの回の硝子が、僕にはどーにも怖く思えてるんですよね……。

あーんで食事する計佑達に、難しい顔してるアレです。

特に恐い顔をしてる訳ではないのですが、

無言のフキダシと、口元が本で隠されてるせいでなんかこ~……うん(-_-;)

原作24話でも、ヘタれた計佑を厳しく叱る硝子なんですが、

あれと合わせて、僕の中じゃーこのコは、ヤンデレとまではいかなくても、かなり恐いコとして認識されちゃってます。

というわけで、今回その辺の片鱗を書いてみたり。

 

後半の、まくらとの会話は随分と改変してみました。

まくらとの会話でも、

『計佑はやっぱりいいヤツ』であるように書いてあげたいから、

その辺は心がけてみたつもりなんですが……なんかこー、まくらとの話書いてるときのほうが

雪姫相手の時よりも、計佑いいヤツに書けてるような気がしてます。

雪姫の時と違って気負いなく対応してるもんだから、ナチュラルに優しいとこを表しやすいんですよね、多分……

 

 

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