パジャマな彼女。より『白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャカノ・パラレル』   作:GOHON

14 / 32
第14話『島編第3話・何もかも告白させられて。「先輩のこと、守ってあげたくなりました」』

14話

 

 

 

──パサ……

 

 何やら布が落ちた音に、計佑が硬直した。

──まさか。自分がいるのに、着替え始めるなんて事、ある筈が……

 

「そのままそこにいてね……すぐに着替えちゃうから」

 

…あった。

 

──いやいやいやっちょっと!? 怖いからっていくらなんでも!?

 

 動悸が一気に激しくなる。

 雪姫が怖がりだというのは、十分わかっていたつもりだった。

けれどまさか、男のすぐ傍で服を脱ぎだす程、一人きりを怖がるなんて予想外すぎた。

 

──そりゃあ振り向いたりなんてしないけどっ!

──信頼してもらえるのは光栄なんですけどっ!!

──いくらなんでも無防備すぎですよっ先輩っ!!!

 

─────────────────────────────────

 

 雪姫は、じっと計佑の後頭部を見つめながら着替えていた。

 もし今振り向かれたりしたら──

そう思いつつも自分は後ろを向かず、体の正面を計佑へと向けたまま。

 この少年なら、決して覗き見なんてしない。

そう信じているけど、でもどこか振り向いて欲しいような気持ちもあって。

 もし、万に1つの可能性で、

計佑が自分の身体を覗き見ようとするなんて事があるなら、絶対にそれを見逃したくない……

そんな想いのもと、先の言葉とは裏腹にゆっくりと着替えていくのだった。

 

─────────────────────────────────

 

「えっち」

 

──……な!?

 

「今振り返ったら計佑のコト……一生軽蔑する!!」

 

 金縛りにあっている計佑に、正面に立つまくらからの言葉が叩きつけられた。

 

「仕方なく着替えてる先輩を覗き見する……そんなえっちマンだって一生呼びつづけてやる!!!」

 

 涙目で叫んでくるまくらに、計佑はショックというより怒りを覚えた。

 

──ふざけんなっ……!! きっちり我慢してんのに、てめーにぎゃいぎゃい言われる筋合いはねーよ!!

 

 今から宿題を始めようとしたところに、母親から「宿題はやったの!?」と言われたときの様な。

正に逆効果の咎めを受けて、計佑はキレた。

 

「そーかよ!! だったら堂々と見てやるよ!!」

 

 叫んでしまった。

 

「なっ!!」「え!!?」

 

──まくらだけでなく、雪姫からもリアクションの声があった。……当たり前だった。

 

──ア……ナニヤッテンノオレ……

 

 改めて金縛りにあう。

 

「そんなコトさせるかっ、このヘンタイめ!!」

 

 まくらはまくらで、今の計佑の言葉を真に受けたのか計佑の頭を両手で挟んで、振り返れないようにしてきていた。

そんな事をされずとも、もう完全に硬直状態なのだけれど。

 

 振り返って否定する──なんて最悪の手段こそとらなかったが、黙りこんでしまうのも十分悪手。

しかしそれがわかっていても、ただ棒立ちを続けてしまう少年だった。

 

─────────────────────────────────

 

 計佑のいきなりの大声に、雪姫は二重の意味で驚かされた。

 突然の大声と、自分の心を見透かしたかのような内容に。動悸が激しくなった。

 

──本当に……こっちを見るの?

 

 じっ……と計佑の後頭部を見つめる。

少しの動きも見逃すまいと。そして……

 

──動かない……

 

 叫んでから一転、計佑は全然動かなくなった。声すら発さない。

 

──あんなコト叫んでおいて……やっぱり実際には何もしないんだ……

 

 安心、悔しさ、切なさ、色んな感情がごちゃ混ぜになった。

 

「……先輩? まだ着替え終わりませんか?」

 

 あまりに長い時間が過ぎて、ついには計佑から催促された。

雪姫の口からため息がもれる。

 

「……もう振り向いてもいいよ……」

 

──……計佑くんのバカ。

 

─────────────────────────────────

 

 雪姫からお許しが出て。

念のためまくらに目配せすると、まくらは計佑の後ろを見た後『あれ?』という顔をした。

 

「……大丈夫」

 

 けどそれでも保証してきたので、ついに計佑も振り返る。

──雪姫は、パジャマ姿だった。

 

──え? なんで?

 

 多分唖然とした顔をしていたのだろう、雪姫が慌てた様子で弁解してくる。

 

「なっなによっ、服の入れ間違いくらいあるでしょっ!?

服詰める時にたまたま他のコト考えてたんだもん……計佑くんだって妹さんの水着もってきたりしたクセにっ!!」

「すっすいません!!」

 

 雪姫の弁解は、最後には口撃になっていた。

 別にあれは計佑が持ってきた訳ではないのだけれど、

そんな言い訳をするわけにもいかず、計佑はペコペコと頭をさげてしまう。

 

──それにしても……このパジャマの柄って……

 

 なんとも可愛らしい、クマさんプリントだった。

 

──ケータイストラップといい、そんなにクマ好きなのか先輩……

 

 コンビニでの買い物の事も思い出してしまい、つい見入ってしまう。

 

「……なに? ……また子供っぽいとか笑ったりするの?」

 

 なんだか着替え終わった後あたりから雪姫の機嫌が悪い。

 確かに変な顔をされたり、じろじろ見られたりしたらいい気はしないかもしれないけれど、

思い返してみると『振り向いていい』の声からして不機嫌さを感じたような……

 

──あ!? もしかして、叫んだ通りオレが覗いたとでも思ってる!?

 

 着替えている間も雪姫はずっと自分を見つめていた──そんなことを知る筈もない計佑は、そんな答えにたどり着いて、

 

「いやあのっ先輩っ!! さっきは変なコト叫んですいません!! でもオレ、ホントに覗いたりはしてませんから!!」

「……そんなの知ってるし」

 

 ボソリと呟かれたが、何とか計佑にも聞き取ることが出来た。

 

「え……? じゃああの、何を怒って……」

「えっ!? そっその、それはっ……」

 

 聞き取られるとは思ってなかったのか、今度は雪姫が慌てだした。

 

「……そう!  計佑くんのその目付きよっ!!

『またそんな子供っぽい……』とか思ってそうなその顔に怒ってるだけっ!!」

「えっ? いやそんなつもりは……普通にカワイイと思いますけど」

「えっ!?」「な!!」

 

 雪姫とまくらの驚いた声が重なった。

 

──えっ!?  なに何!?  なんか変なコト言ったオレ!?

  そりゃあ確かに子供向けだろうけど、普通に可愛らしいデザインのクマだと思うんだけど……?

 

……少年は、パジャマに関しての感想を言っただけのつもりだった。

なので当然、二人の少女の大袈裟なリアクションの意味がわからない。

 雪姫は赤い顔をして唇をむにゅむにゅしていて──昨夜もしばらくそんな顔をしていたような──

まくらのほうは、はっきりと頬を膨らまている。

 

──……なんなんだ一体……

 

 それでもやっぱり気付かない、ある意味幸せな少年だった。

 

─────────────────────────────────

 

 結局、雪姫が怖がるので計佑も部屋を移らずに着替えを済ませた。

 ちなみに、雪姫も計佑の着替えを覗いたりはしなかった。

見たい欲求より、万が一計佑に気付かれたらどう思われるか──そんな不安が上回っての事だった。

 

─────────────────────────────────

 

 パジャマを褒めた後、雪姫の機嫌は直ったようだった。

覗いたりしなかったというのはわかってくれていたようだし、それで計佑も安心した。

 まくらはふくれっ面をしていたが、それは珍しくもない事なのであまり気にせず、

雪姫と二人でボロ畳の上に座り込んで、壁に寄りかかりながら会話に興じるのだった。

 

「なかなか嵐がおさまらないね……もう今日はここから動けないかなぁ?」

「そうですね……ケータイ通じないってのも痛いですね。連絡できないと随分心配かけちゃうだろうし……」

「嵐が去っても、夜の海を渡るワケにもいかないもんね……今日は泊まりかなぁ。

おばあちゃんはまだしも、何も知らないカリナ達にはホントに心配かけちゃうだろうね……」

「……ホントにすいません。オレに付きあわせたばっかりにこんなコトになって」

 

 計佑が、あらためて雪姫に頭を下げた。

 

「あっううん、いいのいいの!!

確かにコワイのはちょっとアレだけど……これでも私、結構嬉しいんだから、今の状況」

 

 雪姫がニコリとフォローしてくれる。

 

──やっぱ先輩優しいな……ムリしてるだろうに、オレに気まで使ってくれてくれて……

 

 雪姫の真意を誤解して、ただ気を使ってくれてるだけだろうと考える計佑。

そんな計佑に、逆に雪姫が謝ってきた。

 

「……こっちこそごめんね。

こんなトコまでひっぱってきておいて、結局大した収穫もなくて。

天気予報くらい見とけばよかったのに、ホント何やってたんだろ……」

「いやっそんな!! それはオレも同じだしっ、

オレの勝手な都合なのにここまで案内してくれた先輩にそんなコト言われたら、それこそオレの立つ瀬がないですから!!」

 

 そう言って慌てた様子で両手を振る計佑に、雪姫がクスリと笑った。

 

「……そうだね。二人とも迂闊だったってコトで、もう謝るのはナシにしよっか」

「はいっ」

 

 そして、計佑も笑顔を返すのだった。

 

 会話が途切れて、しばしの沈黙が訪れた。

 そんな中、計佑の脳裏では先の会話にでた『大した収穫もなくて──』からまくらの事へと考えが移っていた。

 

──確かに大した手がかりもなかったよな……

  結局、一応持ち帰ってきたのは童話一冊と美月芳夏の写真が一枚……

 

 雪姫の話ではあの老医師はかなり頼りになるらしいし、焦ることはないのかもしれない。そうは思うが、それでもやはり──

 

「先輩。オレ……」

「……うん?」

 

 まくらをチラリと見る。

雪姫と反対側の隣に座り込んでいた幼なじみは、いつの間にか船を漕ぎだしていた。

 ヒジでつついて、起こしてやる。

 

「……んっ……むっ、なんだよっ」

 

 まだゴキゲンナナメの様子のまくら。

そんなまくらをあえて無視して、雪姫のほうに顔を向ける。

 

「確かに先輩の言うとおり、オレがバタついたって状況は変わらないかもしれません。

でも……やっぱりまだあがいてみます」

 

 雪姫の方を向いたまま、まくらへの言葉を投げかけた。

 

「まー、色々とムカつくヤツですけどね、そんなんでも "一応" 大事なヤツなんで」

「……そっか。うん、いいと思うよ。計佑くんらしいと思う」

 

 雪姫が微笑んで肯定してくれて、そんな雪姫に計佑の心もまた力づけられた。

 

「ありがとうございます。先輩にそう言ってもらえるとホントに頑張れそうです」

 

──……本当に。先輩の協力がなかったら、何の行動もできてなかったかもしれないもんな……

 

 あらためて、今までの協力に礼を言う。

 

「先輩の好意、本当に嬉しかったです」

「…………!!」

 

 雪姫が息を呑んだが、計佑はそのまま言葉を続けた。

 

「この旅行に誘ってもらったコト、本当ありがとうございました。調査のこと関係なく、先輩と知りあえて本当によかった」

 

 ちょっと気恥ずかしくなって、雪姫の顔から視線を逸らした。

だから、雪姫の顔がみるみる赤くなっていくのには気付かなかった。

 

「オレなんて大した人間じゃないですけど……それでもよかったら、これからもよろしくお願いします」

 

 軽く頭を下げて、改めて交友をお願いした。

 気恥ずかしくて、苦笑を浮かべながら雪姫の顔にまた視線を戻して──驚いた。

 雪姫が林檎みたいな顔色で目を見開いて……涙ぐんでいたから。

 

──えっえっ……先輩どうしたんだ?

 

 戸惑う計佑の手を、雪姫がきゅっと握ってきた。

 

──……へっ?

 

「嬉しいっ……!!!」

 

 雪姫が感極まった様子で声を発した。きゅっと瞳を閉じて、うつむきながら言葉を継いでくる。

 

「本当に選んでもらえるとは思ってなかったから……!! ありがとうっ、計佑くん……!!」

 

 雪姫の手に、ぎゅっと力が入った。

 

「こちらこそ、全然大した人間じゃないけどっ……これからは、改めてよろしくねっ!!」

 

 顔を上げた雪姫は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「……?  いえそんな……ホントこちらこそよろしくです……?」

 

 感謝の言葉と、これからも友人であってという願望を伝えただけでなんでこんな大袈裟な反応をされるのか、

計佑にはまるで──

 

「うわぁ……うわぁあ……ふふっ……計佑くんが私の彼氏かぁ……///」

 

──わかった。

"交友"をお願いしたつもりが、"交際"と受け取られていることに。

 

──えぇええええ!!!??

 

 まさかの誤解に、一気に計佑の脳が沸騰した。慌てて雪姫の手から逃れ、バタバタと両手を振る。

 

「ちょっちょちょちょ!! ちがっ違います違います!!」

「……え。……違う、って……?」

 

 雪姫の笑顔が強張る。その様を見て申し訳なくなるが──

 

──だからってこんな誤解ほっとくワケにはいかないしっ!?

  ていうか何でそんな話にっ!?

  単に友人としてこれからもよろしくと言ったのがなんでそんな風に……っ!?

 

 ぐるぐるする頭に、昨夜の雪姫の告白、それから今までの態度が思い出された。

 

──……まっ……まさか……

 

 混乱した少年は、昨夜からの疑問を──バカ正直にぶちまけた。

 

「昨夜の告白って……本気だったんですか!?」

 

─────────────────────────────────

 

 今度は雪姫のほうが混乱する番だった。

天国から地獄へ──落とされるのかと思いきや、まるで予想だにしなかった質問が投げかけられて。

 

──ほ……本気ってなに……?

 

 顔が引きつるのがわかる。

 

「……まさか……冗談だとでも思ってたの……?」

 

 そんな。信じられない。

初心な少年なのはわかっていたつもりだけど、まさか告白を冗談扱いなんてそんなこと──

 

「いやっ……冗談とまではいわないですけどっ……

『人として好感が持てる』とか『一時の気の迷い』とかそんな感じかとは……」

 

──なっ……なにそれっ……!!!

 

 冗談扱いでこそなかったが、本気にしていない事に変わりはなかった。

 

「うっ……ウソでしょっ!? なん……なんでそんなコトになっちゃうの!!?」

 

 決死の想いの告白をないがしろにされて、当然ながら乙女が猛る。

ぐわっと少年の肩につかみかかった。

 

「いやっ……だってっ……」

 

 雪姫の剣幕にしどろもどろになりながらも、どうにか言い訳を試みてくる計佑。

 

「昨夜の先輩……なんか随分オレのこと過大評価してたみたいだし……てっきり。

……だってっ、やたらと『優しい』だの『強い』だの、『予知能力者みたい』

なんてことまで……最後には『俺みたいになれたら』とかまで言ってましたよね!?」

 

──た……たしかに言ったけどっ!!

 

 自分が計佑をどれだけ好きなのかを、よりにもよって計佑自身の口から指摘されたようで気恥ずかしくなる。

けれど、今はそれに照れていていい状況ではなかった。

 気を引き締め直して、改めて質問を投げかける。

 

「だっ、だけど!! あ……あんな風に『好き』だって言うのは普通に考えたら……わかるよね!?

本当に、『人として』だけだって考えてたワケじゃないよね?

……そうだよ、昨夜の計佑くんだって、顔真っ赤にしてあうあうしてたじゃない!!」

 

 そうだ。気持ちを告げた直後の計佑の様子からすれば、ちゃんと真意が伝わってたのは確かで。

それが何故、いつの間に誤変換されてしまっているのか──

 

「いやっ……だって。冷静になってから考えてみたら、

先輩みたいなヒトが俺なんかのコトを……好きになるワケ……って思っちゃって……そう思うのは仕方ないじゃないですか」

 

──全然仕方なくない!! 計佑くんの方こそ、よっぽど私を過大評価してるじゃない……!!

 いや、この少年の場合自己評価が低すぎる事が問題なんだろうか。

謙虚な所も好ましいのだけれど、ここまで度が過ぎるなんて。

 ガクリと肩から力が抜けた。計佑の肩からも手を離す。

 

「──わかった。百歩譲ってそれはまだいい……

ううん、ホントは全然良くない。けど、とりあえずそれは置いておくとして──」

 

 感情では全く納得出来ないけれど、理屈としては一応納得したことにする。

けれど、もう1つの理由については。こちらは特に許せない。

 

「 "一時の気の迷い" って……これは何でそんな風に思っちゃったの?」

 

 溢れそうなくらいに膨らんでしまった気持ちを、思い切って伝えたのに "気の迷い" 扱いだなんて──

これだけは、どんな理由を聞かされても納得できる気がしなかった。

 

「それは……その。昨夜の先輩、すごく危ないトコだったでしょう?

そこにタイミングよく駆けつけた俺が殊更よく見えただけなんじゃ、みたいな……

ほら、危機的状況のドキドキを、恋心と勘違い──なんて、よく聞く話じゃないですか?」

 

 そんなことを、「ね?」みたいな顔で少年がほざいてくるけれど──雪姫からしたら、勘違いも甚だしい話でしかなくて。

 

「ちがっ……だって私はっ」

 

 口ごもる。けれどそれも一瞬のことだった。

この少年には、一から十まで説明するくらいじゃないと、きっと伝わらないから。

 

「昨夜のコトはっ、そりゃあトドメにはなったけどっ……

駄目押しになったのは、終わった後の謝罪と笑顔なんだしっ!!

……それに!! そもそも、その前から好きになってたんだから!! そういうのじゃあ、全然ないのっ!!」

 

 そう、はっきりと伝えると。

 

「……え……ええっ!?」

 

 案の定、大袈裟に驚く計佑。

 

「えっ……だって!?  あの前って……いっつもオレのコトからかってばっかりでしたよね!?」

「っっっ……!!」

 

 ぐっと言葉に詰まった。それを言われると、ちょっと痛いのだけれど──

ここで黙ってしまったら、この少年はまた誤解をしてしまって、それで終わりになってしまいそうだ。

 

「……あのね、何とも思ってない男の子をからかうためだけに、あんなに近づいたりしないよ?

 ……あとね、好きでもない男の子からの痴漢行為を、いくつも許すと思う?」

 

 噛んで含めるように言って。少年の理解を待つように間をとった。

 

「……え……あ……じゃあ……」

 

 じわじわと少年の顔が赤くなっていく。

 それをじっと見つめ続けていると──突然、計佑が何かに気づいたようにビクリとした。

 

「……えっ!? ちょっと待って下さい?

それじゃあまさか、かなり最初の頃からオレを……ってコトになりませんか!?」

「……~~~っっ!!」

 

──~~~そんなコト、あらためて確認しないでよぉ!!!!

 

 何でこんなに逐一説明させられているのか……恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

それでも、毒を食らわば皿まで──な心境で、洗いざらいぶちまけていく。

 

「うぅ……そっそうだよっ!!

裏門の日にはもう──それどころか、もしかしたら入学式の時にでも。

……ちゃんと自覚したのは終業式の頃だったけど……それは仕方ないでしょっ!?

私はこれが初恋だったんだもん!!」

 

……勢いに任せて、余計な情報まで付け加えてしまった。

 

──……もう、ここまできたら恥も何もないよ……

   ……ここまで言えば、いくらなんでもちゃんとわかってくれるよね……

 

 ようやく、恥ずかしい解説も終わりかとほっと一息ついて──少年の赤かった顔色が、冷めてきているのに気付いた。

 

──えっ……なに……?  どうして……?

 

 もう何もかも伝えた筈だ。

ついさっきまで、ちゃんとこちらの言いたいことを理解してくれていた筈なのに。

なんでここにきて、そんな風に不審そうな顔つきになっていくのかわからない。

 

 戸惑う雪姫に、おずおずと計佑が口を開いた。

 

「……入学式の時って……俺がカエルみたいにコケて、ゴミを押し付けちゃった時……ですよね?

その時にでもって……ええぇ……?」

 

 その言葉で、ようやく計佑の心情が理解できた。

確かに客観的にみたら、その時の少年は、間抜けな姿を晒したと思ったら傍迷惑なコトまでやらかしてきた人で。

その2つの行動だけを切り出したら、それは確かに納得できないかもしれない──けれど。

 

──~~~~~~!!!!

 

 これ以上、まだ解説しろというのか。

 あの時の自分を取り巻いていた環境、心情、

そういった事を語るのは出来なくもないけど、結局最終的には感覚の問題なのだ。

 これ以上延々と語っても──そう考えて。

 そして、少年の心が遠のいていくのを感じて。

『やっぱりいつものからかいだったんじゃあ』とでも考えだしてそうな顔つきを見て────雪姫はキレた。

 

「も~~~~っっ!!!!」

 

がっ! と計佑の顔を両手で挟む。ぐっと顔を近づけた。

 

「キミは一体、私を何だと思ってるのっ!!!

好きでもない人に!

胸つかませたり、お尻撫でさせたり、裸見せたり!!

添い寝したり、そばで服を脱ぎだしたり、キス──あれは事故だけど!!

そんなことするワケないでしょおっ!!??」

 

 この中に意図的にやった事は2つくらいしかなかったのだけど、勢いで喚きたてた。

 

 至近距離が恥ずかしいのか、また少年の顔に熱が入ってくるのを感じる。

 

「これだけ言ってもわからないっていうなら、

事故じゃなくて、ホントにこのままキスしちゃうからねっっっ!!!」

 

 半分ハッタリだったけど、ダメ押しもした。

 大好きな少年とのファーストキスは、

一方通行の想いではなく、事故でもなく、ちゃんと計佑に好きになってもらってからにしたい。

でも、いくら言葉を投げても受け止めてもらえないなら、もうそんな非常手段に訴えるしかないじゃないか──

そんな決意をもって、雪姫はじっと計佑の目を見つめる。

 

─────────────────────────────────

 

 計佑はパニック状態だった。

『やっぱり冗談なんじゃあ』と冷めかけたところに、灼熱のマグマをぶっかけられた気分だった。

 至近距離で、とんでもない爆弾発言をぶつけられて。

雪姫の両手にしっかり顔を挟まれていて、視線を逸らすことも許されない。

 もう、頭が沸騰しそうだった。

限界だとばかりに、ついには、ぎゅっと目を閉じると、

 

「……ふーん……それはキスしてもオッケーてことだよね?」

 

 そんな言葉が聞こえて、慌ててまた目を開く。

──本当に、さっきより更に距離が近かった。

 

「わひゃ……わきゃりましたから、ちょと離れちぇ……」

 

 ろれつが回らなかったが、どうかに言葉を発した。けれど。

 

「……どうわかったのかちゃんと言って。でないと計佑くんの場合、信用できない……」

 

 雪姫の顔が更にじわりと近づいてきて。ついに、雪姫の鼻が自分の鼻に触れた。

 

──……あ。

 

──そこで少年が鼻血を出して、失神した。

 

─────────────────────────────────

 

 計佑が目を覚ますと、視界には雪姫の顔が逆さまにあって、その後ろには天井が見えた。

 

「……?」

 

 自分が寝転んでいるのにも気付いた。身動ぎすると、

 

「……あ。気がついたんだね」

 

 雪姫が微笑で見下ろしてきた。

 

「俺……一体どうしたんですか?」

「……気絶しちゃったんだよ。こっちがビックリだったよ……?」

 

 さらりと、雪姫の手が頭を撫でてくれるのを感じた。

 

──気絶……?

 

 記憶を探ってみる──思い出した。雪姫の爆弾発言と、超至近距離の──

ボッ!! とまた頭に血が上った。慌てて身体を起こそうとする。

 

「ああっ、ダメダメ!! 鼻血も出てたんだよ? もうしばらくじっとしてなさい」

 

 雪姫の手に押さえつけられて、また枕に頭が戻される。

 

──……枕?

  そんなものも持ち込んでいたっけか?

   というか、先輩の胸や顔が真上にあって、でも逆さまに見えるってそれ……!?

 

 自分の後頭部にある枕の正体に気づいて、ますます動悸が激しくなった。

 

「せっ、先輩あのっ……この格好はそのっ、やっぱり落ち着かないですっ……!!」

 

 必死で言葉を紡いだ。

 

「うーん……残念だけど、しょうがないか……計佑くんじゃあ、また気絶しかねないもんね?」

 

 雪姫はちょっとだけ意地悪そうに微笑うと、計佑の肩に下から手を入れて、起きるのを手伝ってくれた。

 起き上がってすぐ、鼻に手をやる。──ティッシュが詰められていた。

 

──どこまでカッコ悪いんだよ……俺……

 

 引きぬく。恥ずかしさのあまり、投げ捨てたくもなったけれど──

そんな八つ当たりはせず、持ち込んでいたゴミ袋がわりのビニール袋にきちんと捨てた。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙がおりた。

計佑のほうは恥ずかしさで何も言えなかったし、

雪姫のほうが今何を思ってるのかは……計佑にはわからない事だった。

 チラリと雪姫の表情を確認すると、今はいつも通りの穏やかな微笑で、こちらを見つめてきていた。

 

──落ち着いては……くれたのか……

 

 自分が気絶する直前の雪姫の剣幕は凄かったから、それが治まってくれていた事にはホッとした。

 

「あの……なんかホント……色々すいませんでした」

「…………」

 

 まずは、謝罪から入った。でも、雪姫からの返事はなくて。

 

「えっと……その……」

 

 喋りかけたけれど、何を言っていいかわからない。

 

──やっぱり……さっきの話の続き……しなきゃダメかな……

 

 この期に及んで、まだ悩んでしまう計佑。

それでも起き抜けの頭ではまだ、どう話すべきかわからないのが正直なところだった。

 

「"色々すいません" ──って言ったけど……何が一番 "すまないこと" だったかは──わかってる?」

 

 静かな声で、雪姫が尋ねてきた。

 

「……はい」

「それが何か……ちゃんと私に教えて。また勘違いしてたら、今度は本気で怒るからね?」

 

 さっきも本気だったでしょう──そんなツッコミを入れられる立場でもなく、

 

「先輩の気持ちを誤解して──しようとしてたこと、ですよね……?」

 

 素直に答えた。

 

「……うん。それが──わかってくれたのなら。もういいよ」

 

 そう言って、雪姫が笑ってくれて。だから計佑も、どうにか苦笑を浮かべてみせるのだった。

 

─────────────────────────────────

 

 計佑が気絶してる間に、嵐は去ってしまったようだった。

 静寂に満ちたボロ宿の中で、

二人は夕食──間食用にと持ち込んでいた菓子ばかりだけど──を始めていた。

 気絶してる間に、まくらはいなくなっていた。

まあ、天気が落ち着いたんで探索でも始めたんだろうな……くらいに考えて、とりあえずはまくらの事を忘れた。

 

「それにしてもさ……ふふっ」

 

 雪姫が、何やら思い出し笑いをした。

 

「鼻血出して倒れるとか……計佑くんウブすぎるよ?」

 

 お馴染みの、ニマニマスマイルで計佑を見やってきた。

ぐっと詰まりかけたが、これは流石に少年としても黙ってはいられなかった。

 

「先輩が大胆すぎるだけです……」

 

 ボソボソとした声になってしまったが、なんとか言い返せた。けれど、雪姫の反撃は苛烈だった。

 

「誰のせいだと思ってるのカナ……

あんな大胆なコトまでしなきゃわかってくれない、誰かさんのせいだと思うんだけどナ……」

 

 ジト目で睨まれてもしまった。

 

「すっ……スイマセン……」

 

 あっさり返り討ちにあって、恐縮するしかない計佑。そんな計佑を見て、また軽く雪姫が笑って。

 

「あ……そうだ。安心してね?  計佑くんが気を失ってる間に唇を奪ったりはしてないからね?」

 

 あらためて、爆弾を落としてくる。

 

「せっ……先輩っ!! 本当にもう……!!」

「あははははっ!!」

 

 計佑の慌てぶりに、さっきより大きな声で雪姫が笑う。

 

「まあ……顔や頭を撫で回すくらいはさせてもらったんだけど。

それくらいは罰ゲームだよね? ヒトの真剣な告白を、マジメに受け止めてくれなかったんだから」

「う……」

 

 またジト目で睨まれて。

やっぱりまだ怒ってるんじゃないか……と、ビクビクしてしまう計佑だった。

 

─────────────────────────────────

 

 食事も終わって。

二人は今、ケータイでゲームなどして時間を潰していて。

 そんな中、計佑は気絶する前の会話を思い出していた。

 

──やっぱり……返事はしなきゃいけないよな……

 

 昨夜の雪姫は、返事はいいとは言っていた。

でも、交際を申し込んだと誤解させてしまった時の様子を思えば、雪姫の本心は計佑にでもわかることで。

 だから──情けない話になるとは思ったけど、正直な気持ちを伝えることにした。

 

「先輩……」

 

 雪姫の番になったケータイを手渡しながら、話しかける。

 

「うん?」

 

 雪姫がケータイから顔を上げて、計佑を見つめてきた。

 相変わらず雪姫は綺麗で可愛くて。

だからこれからの会話は恥ずかしかったけれど。

それでも今は目をそらさずに、気持ちを伝える。

 

「……先輩の気持ちは嬉しいです。すごく嬉しかったし、ホント光栄なんですけど……」

 

 その言葉に、雪姫がふるりと身体を震わせた。

 

「……けど……?」

「今は……ちゃんと返事を返せないんです。すいませんっ!!」

 

 ガバっと頭を下げた。

 

「…………」

 

 雪姫は何も言わなかった。そしてしばらく経って。ふぅっ、と雪姫がため息をつくのが聞こえた。

 

「 "今は" ダメなんだ……理由を教えてくれる?」

 

 頭を上げる。

 

「その……情けない話なんですけど。

正直、まだ恋愛の好きとかそういうのオレよくわかんないんです」

「……計佑くんは……まだ誰も好きになったことはないの?」

「……はい。ないです……ホントガキですよね、こんな歳までないなんて……」

 

 苦笑するが、雪姫はもっと困ったように笑った。

 

「それじゃあ私はどうなるの……この歳になって、ようやく初恋が出来たのに」

「あっ!? やっ!! でもっ!! 先輩はたまたま好きになるヒトがいなかっただけで、

ちゃんと自分で気持ちとかわかったんですよね?

オレなんか、自分の気持ちもよくわかんないとか、そんな情けないヤツなワケでっ」

 

 慌てて、フォローする。

 雪姫はそんな計佑を優しく見つめてきていたけれど、やがてまた質問をしてきた。

 

「それじゃあ……自分の気持ちがはっきりわかる時がきたら……あらためて、答えをくれる?」

「……はい。それは、必ず。約束します」

 

 じっと雪姫の目をみつめて、頷いた。

 

「……そっか。わかった……」

 

 雪姫も深く頷いて。

……しばらく経って、顔を上げるとまた尋ねてきた。

 

「わかったんだけど……もういくつか訊かせてもらってもいい?」

「はい。オレに答えられることならいくらでも……」

「……うん……」

「…………」

 

 聞きたいことがあるといってきたのに、なかなか雪姫は口を開かなかった。

 

「……先輩?」

 

 それでも、計佑が水を向けるとようやく質問を始めた。

 

「計佑くんが……今一番……一番だよ?

ドキドキすることがある女の子、

一人でいる時によく思い出す女の子、

傍にいて嬉しい女の子。

……他にも聞きたい子はいるけど、とりあえずこの三人を……それぞれ教えてくれる?」

「…………」

 

考えてみる。

1つめ、これは考えるまでもない。

2つめ、まくらの事が脳裏をよぎるが、ごく最近だと、昨夜からの雪姫の態度に悩まされたこともあって。

3つめ、それなりに話す女子なんて三人程しかいないけれど、その中で今一番そばに居て嬉しいといえば……緊張もするけれどやはり……

 

「白井先輩ですね、全部」

 

 質問の意味は考えずさらりと答える少年と、

 

「……っっ!!」

 

 その答えに息を呑む少女。

 

 そして雪姫はぶるりと身体を震わせると、みるみる顔を赤くしていって。

ぎゅっと目をつぶると、唇をむにゅむにゅし始めた。

 

──あ……まただ。なんか昨夜から時々これやってるなぁ先輩……

  確か、先輩にキレイって言ってしまった時と、さっきパジャマを褒めた時と、たった今……だっけ?

 

 鈍い少年はその共通点にも気付かず、ただぼんやりと少女を見守るだけだ。

 

「……わかった。ありがとう。もういいよ……」

「え? 他にも聞きたいことあったんじゃあ……?」

「ううん、もういいの。……今はもう十分……」

 

 赤い顔でもじもじしながら、そんな風に答える雪姫。

 

「……? そうですか、わかりました」

 

 イマイチ腑に落ちないながらも、雪姫がわかってくれたのならありがたいとばかりに、それ以上はツッコまなかった。

色恋の話が続いていったら、いつまた自分は爆発する羽目になるかわかったものじゃないし。

 

「うん……ほんとに。ありがとう計佑くん……なんだか安心して、ゆっくり答えを待てそうな気がする」

 

 ふわりと、雪姫が幸せそうに微笑って。

 

ドクン!!!!

 

 その笑顔があまりに綺麗で可愛くて、また心臓が跳ね上がった計佑は、慌てて視線を逸らした。

 

──なっ……なんだ今の顔……っ!! 昨夜、告白してくれた時みたいなっ……!?

  ……表情は全然違うのになんでっ……!?

 

 なんでまた雪姫の見え方が変わってしまったのか、相変わらずわからない少年は、結局答えを出せないまま適当に口を開いた。

 

「そっ、そう言ってもらえると助かります。正直、今はまくらのことが気がかりだったりするし……」

 

 それで、ポロリともう一つの本音がこぼれた。

 

「……まくらさん?」

「あっああ、例の妹みたいなやつの名前です。音巻まくらっていうんです」

「あっ……ごめんなさい!! そうだよね、そんな大変な時に私ばっかり舞い上がっちゃって……」

 

 しゅんとしてしまう雪姫に、慌ててフォローする。

 

「いやっ、だから元気にはしてますからホント!! 先輩のおじいちゃんってヒトも保証してくれてるんですから」

 

 パタパタと大袈裟に手を振ってみせる。

 

「そう……そうだったよね。おじいちゃんがついてるんなら、絶対大丈夫だよね」

 

 雪姫がまた安心したように、相好を崩した。

それに計佑も安心して、ちょっと軽口を叩いてみる。

 

「まあ……俺ホントにガキですから、まくらのコトが片付いてもなかなか答え出せないかもですけど」

 

 そんな予防線を張ってみた。

 

「そうだね、それはついさっき、よ~く分かった」

 

 ザックリ。返ってきた返事は鋭かった。

 

「きっ……きついですね、先輩……」

 

 思わず泣き言がでる。

 

「でもそうだよね?

告白を本気にしない、本気にしても返事も出来ない、顔を近づけたら気絶する」

 

 ザクザクザクッ!!!

 言葉のナイフの三連投に、計佑のHPはもう0だ。

顔をひきつらせながら、どうかに言葉を絞り出す。

 

「っや……やっぱり……まだ怒って、ますか……?」

「怒ってないよー、ホントに。……むしろ最高に幸せな気分だし。ただ、計佑くんをいぢめるのが楽しいだけっ」

 

 ニンマリと笑ってみせる雪姫。

その言葉にウソはなさそうだけれど、しかしそれはそれで──

 

「……先輩って、結構いじめっコですよね……」

「……そうなんだよね……計佑くんと知り合うまでは、私もこんな自分がいるなんて知らなかったんだけど……」

 

 言いながら、雪姫が俯いた。そしてそろ……っと計佑の目を見上げてくる。

 

「……つまり、『計佑くん専用』の私なんだけど……計佑くんはこんな私はキライかなぁ……?」

 

──反則だっ……!!  なんでそんな仕草で、そんなセリフをっ……!!

 

 美しくて可憐な少女の、不安そうな上目遣い。

そしてその口から出てきた言葉は、なんだか特別な響きを感じさせて。

 小悪魔な一面と、健気な一面が目まぐるしく入れ替わる少女に、計佑はまたタジタジになる。

 それでも不安そうな雪姫を前に黙っていられず、とにかく少年は口を開いてみる。

 

「いえっ……そんなコトないです。

……先輩になら、弄られるのも意外とキライじゃないし……

それにそういう時の先輩って、なんかスゴク可愛らしかったりもするんですよね」

 

 結局、本音を晒すしかなかった。

 そして、少年が本音を漏らす流れは大抵──

 

「そっ……そうなんだ……///」

 

──雪姫が照れる羽目になるのだった。

 

「……計佑くんは、天然で私をいぢめてくるんだからおあいこだと思うんだよね……」

 

 計佑に聞こえないほど小さい声で、呟く雪姫だった。

 

─────────────────────────────────

 

「また、手を握っていてくれる?」

「え゛」

 

 そろそろ休もうかという話になった時、雪姫がそんな事を頼んできた。

 思わず、変な声が出てしまう計佑。

 

「むっ……なによー。昨日は一晩中握っていてくれたじゃない……」

 

 雪姫が唇を尖らせるが、今日の計佑としては、2つの理由でちょっと首を縦に振れなかった。

 

「あー……えっとですね……」

 

 理由の1つはかなり恥ずかしかったが、

もう1つの理由は雪姫には明かせないので、こちらを話すしかない。

 

「オレ……先輩の手を握ったままだと、ドキドキして寝付けそうにないんです」

 

 昨夜はそれで、なかなか寝付けなかった。……自分なら、きっと今日も同じことになる。

 

「あ……そうなんだ……ふふっ」

 

 拗ねた顔を見せていた雪姫だったが、その理由を聞くとくすぐったそうに笑った。

 

「……そういえば、私も。

……初めて計佑くんに手を握られた時は、すごくドキドキしたんだよ?

なんだか口もきけなくなるくらい、ね」

「え……」

 

 思い出す。確か、病院から逃げだした時だ。

そういえば、走っている間もその後も、しばらく雪姫は殆ど口を開かなかった。

てっきり、怒っているからだろうとばかり思っていたのだけど。

 

「そ……そうだったんですか……」

 

 以前から計佑のことが好きだった──今さら疑いはしないけれど、それを裏付けるような話を聞かされて、また顔が熱くなってしまう。

 そっと、計佑の手の甲に雪姫の手が重ねられた。更に頭に血が上る。

 

「私……計佑くんの手、大好きだよ。ドキドキさせられるけど、すごく安心もさせてくれる手なの」

「オ、オレは……先輩の手にはドキドキばっかりで──」

 

 言いかけて。思い出した。昨夜、雪姫に対して抱いた、一つの願望──

 

「──いえ。先輩のこと、すごく守ってあげたくもなりました。昨夜先輩の手を握っていて……」

 

 手を裏返して、雪姫の手を握った。

 雪姫は驚いたように目を一瞬見開いて。けれどすぐに、幸せそうに目を細めた。

 

「……うん。よろしくね、私の王子さま……」

 

 

─────────────────────────────────

 

<14話のあとがき>

 

原作14話は、ある意味僕の中では最終回!! (ていうか雪姫派の人の大体はそう思いますよね……?)

なので、こちらでもここで終わっても、まあありかな? くらいのつもりで書いてみました。

お陰で、文量もかなり多くなりました。というか、3週分のボリュームがあった第一話より長いんでは……?

 

でもだって、原作では雪姫先輩のターンはここまでなんだもの……

まあ個人的にはヤキモチとかも最高だったんですけど……やはりこれ以降は、普通に考えたらですね(-_-;)

 

なんでまあ、オッケーこそしてないけど、もう完全にバカップルだろこれ!!

くらいのものを目指しました。……ええ、実現できてるかは別ですけどね……

 

……そしてこれ以降の話は、正直もう消化試合な気分が否定できない(-_-;)

濱田先生の教科書にラクガキって形でどうにか書けてる以上、

女神さまの出番が激減する今後は、もうスカスカな話しか書けない気がするのです。

ラスト2話だけは考えてあるんだけど、そこまでどう繋いでいったものか……?

 

(26話書き上げてみてからの追加コメント・意外となんとかなりました! というか、

文字数だけで言うならこの先どんどん長くなっていくんですよね……お陰で完結まで随分時間かかる羽目にもなったんですけど、

それでも結果的には嬉しい誤算でした)

 

パジャマのお着替えは、僕のこの話ん中では特にいらんかなーとも思ったんですけど……

あれは濱田先生の絵だからこそ意味のあるサービスですもんね……うーん。

でもせっかく7話で伏線(のつもりのモノ)も書いたんだし、入れとくかぁ……くらいな感じで。

 だったんですけど、意外と長く改変しちゃいましたね……

なんかそぐわないかなぁとも思ったけど、雪姫先輩のターンはこの話までだし。

盛れるだけ盛っとくかなぁと。

『覗いてくれるくらい私に関心あるんなら望みはあるかも』みたいなつもりで書きました。

 

原作では雪姫を勘違いさせてしまった「先輩の好意に……」のセリフのとこも、自分なりにこだわって改変してみたり。

計佑視点では "交友" でもおかしくない内容で、

かつ雪姫からしたら "交際" としか思えないようなセリフ回しにしようと、頑張ってみたつもりです。

 

雪姫からの三種の女の子の質問。

もう両想いじゃんってことにしたい仮最終回としては、こういう会話いるかなーと。

これで計佑がまだ無自覚な理由としては、

 

『こんなにキレイなヒトがそばにいたら。ドキドキするのなんて当たり前だよな』

『最近考えるっていうのも似たようなもんかなー。初めて告白なんかされたら、悩まないワケないよ』

『親しい異性は3人しかいなくて、まくらは家族で当たり前。須々野さんはまだそこまでは親しくないし。

んじゃ消去法で先輩じゃね?』

 

とか、そんな感じでどうでしょう……?

(26話書き上げてみてからの追加コメント・計佑がここまで鈍感になってしまった理由は、25話でも一応触れてみてたりします)

 

今回も、計佑の心情で雪姫の見え方が違うトコロを。

笑顔の度合いでいえば、告白OKされたと思い込んだ時のほうが

雪姫は満面の笑顔なハズですが、わかってない計佑はこの時戸惑うばかりで。

『"一応" 両想いみたいなものかな』とふわりと微笑んだ雪姫のほうが

計佑にはずっと魅力的に見えたってトコ。これは雪姫に本当に好かれてると理解した後だからって感じで。

 

------------------------------------------------

正直、 今はまくらのことが気がかりだったりするし……」

それで、ポロリともう一つの本音がこぼれた。

-------------------------------------------------

↑ここんとこは、自分としてはちょっと拘り。

『こぼれた』本音。計佑の中では、実はこちらのが本命の理由なんじゃなかろうかという……

 

『計佑くん専用』……うん、これはいいな……

自分で書いといてなんだけど、正に萌え豚御用達の単語///(≧∇≦)/

……と、最初は思ってたんですが……あれ? もしかしてリョージョクゲーとかのがしっくりくる単語なんだろうか(汗)

 

"先輩になら弄られるのも意外とキライじゃないし" の部分。

ここは『先輩になら』がポイントになりますかね……?

最初は書いてる自分でも気付かなかったんだけど、

これって計佑のほうも『先輩専用ですよ』って言ってるようなもんですよね……

うん、そう考えると確かに、この計佑は天然女殺しっぽいんじゃないかな(^_^;)

 

雪姫の小悪魔モードを可愛いと思うようになってるのは、一応8話で書いてますね。

 

原作だとデレた後は小悪魔モードがあんまなくて残念だったんですけど、

やっぱり先輩の魅力はツンデレならぬ小悪魔デレだと思うんです。

なのでこちらでは、デレてからも小悪魔モードをはさんでいきたいです!!

 

ここまでは原作通りの区切りでやってきたんだけど、今回ついにそれを変えちゃいました。

原作14話は、後半はまくらとの話になっちゃいますけど、

この14話は雪姫編の仮最終回なんで、もうまくらのパートは入れないようにしようと、15話にスライドさせてしまいました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告