パジャマな彼女。より『白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャカノ・パラレル』   作:GOHON

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第16話『温泉へ。まくらが語る呪いの真相。「目覚くんは無理だと思いますよ」』

16話

 

 

 

「「「『お化けぇ~~~~!!?』」」」

 

 計佑たちが島から戻った日のお昼。

計佑と雪姫の罰掃除も終わり、5人揃って昼食をとったところだった。

 そして食事が終わって一服といったところでカリナが始めた話に、皆のリアクションが揃った。

──約一名、極端に声の大きい少女もいたりしたけれど。

 

「そーなんだよー。アタシが仕入れてきた情報が確かならこりゃ出るね。ヤバイわー」

 

 カリナが指をたてて話してくるが、そこに割り込む笑い声があった。

 

「あははははは!! 森野先輩、何の話を始めるのかと思ったら……そういう話は夜に始めてくれないと、意味ないですよ?」

 

 硝子はそう言った後にも、未だにプククと笑いをこらえていたりした。

……『夜の怪談話なんて絶対イヤっ!?』といった感じの顔をしている、誰かとは対照的に。

 しかし計佑は、そんな二人の姿を気にも留めず、カリナの話にかなり関心を抱いていた。まくらを見やる。

 

──一昨日こちらに来たばかりのまくらの事じゃないハズだ……

  まくら以外にも、ホントにオバケなんているのならまくらと認識しあえたりするんじゃないのか!?

 

 その可能性に気づいた瞬間、計佑は身を乗り出していた。

 

「森野先輩っ!! その話もっと詳しく聞かせてくれませんか!?」

「けっ計佑くんっ!?」

 

 雪姫が焦った様子で呼びかけてきた。

 

──あ……しまった……

 

 怖がりの雪姫としては、こんな話を続けられたくはないのだろう。

その事に気づいた計佑だが、とはいえ無視もできない話で。

場所を変えてでも聞きだそうと考えたのだけれど、行動に起こすのがちょっと遅かった。

 

「おーっ、いい反応してくれるじゃないの坊や!! よーっし聞かせちゃろー!!」

「えー……怪談話は、夜にしましょうよー……」

 

 硝子がぐずってみせると、カリナは苦笑を浮かべた。

 

「まーまー。硝子ちゃんが期待するような怖い話とかじゃないんだよね。縁結びの神様とかそんな感じの話でさ」

 

 その言葉に、3人の少女がピクリとした。

 カリナ曰く、

 

──この近くにある寝宮温泉に、座敷童子みたいな"恋の神様"が出るらしい。その童子に会えたら、必ず恋を成就させてくれるという──

 

バンッ!!

 

「行こうッ!!!」

 

聞き終わるや否や、雪姫がテーブルを叩いて身を乗り出した。

 

「行くしかないですね」

 

硝子は一言行って、さっさと部屋を出ていった。

──多分、支度を始めにいったのだろう。

 

「……おー……なんか随分急に態度変わったねキミら……まあアタシもオバケ見れるもんなら見たいから、いいんだけどさ……」

 

 カリナが微妙な顔をして呟いた。

 雪姫もさっさと立ち上がって、いそいそと部屋を出ていく。

 計佑は慌ててそれを追いかけて、

 

「先輩先輩っ。ホントにいいんですか? オバケなんて──」

「オバケじゃなくて神様なのっ!!」

 

 クワっと雪姫がかみついてくる。

 思わずたじろぐ計佑だが、行ったら行ったで震えるばかりになりそうな雪姫が想像できるだけに、引くわけにはいかなかった。

 

「いや、確かにいい神様って話らしいですけど……それでもオバケの一種みたいな感じでしょう?

こういっちゃあ何ですけど、万一ホントに出たりしたら……先輩の場合どうなることかと……」

「…………」

 

 雪姫が俯いてしまった。

 

「あっいや!!  昼間だし!!  みんなで行くんだし、そんなに怯えるものでもないとは思うんですが!!」

 

 後で苦しむ雪姫を見たくはないが、

だからといって今凹んでしまう雪姫だって見たくない計佑は、あっさり前言を翻してしまう。

 

「……ふふっ……」

 

 けれど、顔を上げた雪姫は微笑を浮かべていた。

 

「……計佑くん。もう元気になったみたいだね」

「……え? あ……」

 

──そうだった。今日は、先輩には朝からずっと凹んだ姿しか見せていなかったっけ……

 

 罰掃除の間は顔を合わせることはなかったし、

皆が揃った昼食の間も、雪姫にはカリナが絡んでばかりいて、ろくに会話はしていなかった。

 

「……すいませんでした。なんか色々心配かけちゃって……」

「ううん、いいの。計佑くんが元気になってくれたならそれで……」

 

 嬉しそうに笑って、計佑の手をきゅっと握ってきた。

たちまち顔を赤くしていく計佑に、雪姫が言葉を継ぐ。

 

「心配てくれてありがとね。でもホントに大丈夫だと思うよ。

計佑くんの言うとおり、昼間で、みんなだっているんだから、ね?」

 

 そこまで言って、雪姫が笑顔をニマっとしたものに変えた。ポンっと計佑の肩を軽く叩いてくる。

 

「それにっ。私の王子さまが一緒なんだから、オバケからだって守ってくれるでしょう?」

「せ、先輩……王子さまってのは流石にやめてくださいよっ」

 

 いつも通りの雪姫のからかいに、いつも通りの照れる姿を晒す計佑だった。

 

─────────────────────────────────

 

──おー……いい雰囲気のとこだなー。

 

 バスで温泉にやってきた計佑達は、今入り口のところで辺りを見回していた。

 

「あっ!! ねえねえ、向こうにあるの展望台じゃない?」

 

 雪姫が指差す先には、確かに屋外の展望台らしきものがあった。距離もそんなに遠くはない。

 

「じゃー温泉入った後に、みんなでいってみよーっ!!」

「さんせー!!」

 

 カリナの誘いに、茂武市が即答した。

 

「おっしゃー!! 一番風呂だー!!」

 

 茂武市が駆け出していく。

 

「よーし!! じゃーまずはオバケ発見からいってみよー!!」

「オバケじゃなくて神様っ!!」

 

 引っ張るカリナに、強張った顔で雪姫が訂正するが、結局カリナの力には敵わないのかズルズル引きずられていく。

 屋内へと消えて行く直前、心細そうに計佑を振り返ってきたが、女湯までついていける訳もなく。

苦笑を浮かべて、手を振ってあげた。

 

 雪姫の口が『うらぎりものー!?」とでも動いていた気がするが──

 

──女湯に入っていく『王子さま』はいないと思いますよ、先輩……

 

 そう、心でツッコむ計佑だった。

 

──……さて。オレも行くとするか。でもその前に……

 

 一人きりになれた事だし、まくらに釘を刺しておかないと。

 本来なら止めるだろう皆との入浴だが、今回は話が違う。

しかし重々注意してもらわないと、まくらのほうが騒ぎの元になってしまいかねない。

だからきちんと改めて注意を──そう考えてまくらのほうを振り返ると、ちょうどまくらが計佑の裾を引っ張ってきた。

 

「ねえ計佑っ、硝子ちゃんが……!!」

「なに?」

 

 まくらに引っ張られて少し移動すると──バス停の辺りで、硝子がうずくまっているのが見えた。

 

──……えっ!?

 

「どうしたの須々野さんっ!?」

 

 慌てて硝子の元に駆けつけた。

硝子の前に屈みこみ、肩に手を置く。軽く力をかけて、硝子の顔を上げさせようとした。

 

「……ダメ……うごかさな」

「えっ!?」

 

──硝子が戻したものが、計佑に降りかかった。

 

─────────────────────────────────

 

──よし、掃除終わりっと。

 

 幸い、汚れたのは上の服だけだったので、シャツだけさっと着替えて。

(幸い、温泉だけあって洗濯機・乾燥機も完備していた)

 掃除道具を温泉の人に借りてきて、今掃除を済ませたところだった。

 まくらは、遠くでこちらの様子を伺っている。

 

「お前だったら、自分がゲロったとこ須々野さんにジロジロ見られたいか?」

 

との計佑の言葉で、素直に引き下がってくれた。

 硝子は今、バス停のベンチに腰掛けて、完全に項垂れていた。今の硝子の心中は、流石の計佑でも察しはついた。

 掃除はきっと自分でやりたかったろうこともわかるが、一刻も早く片付けないと周りに迷惑がかかってしまう。

硝子が完全に落ち着くのを待ってはいられなかった。

 

──んー……と。何て言ったらいいものか……

 

 掃除は終わったし、何かしら言葉をかけてあげないと。

いつまでもここにいたら、雪姫たちも心配してしまうだろう。

 掃除が終わった事を察したのか、まくらがこちらに近寄ってくる。

 それを横目に見ながら、硝子に声をかけた。

 

「バスの中で読書はやっぱりまずかったね、須々野さん」

 

 ビクリと、硝子の肩が震えた。

 

──う……やっぱりストレート過ぎたか……?

 

 あまり腫れ物に触るような態度もまずいかと、あえて踏み込んでみたのだが……

 

「……ごめんなさい……」

 

 返ってきたのは涙声で。

『うっ、やっぱ失敗だったかっ』と悔やむがもう遅い。

こうなったら次々言葉をかけて、何かしらヒットを期待することにした。

 

「ホント、そんなに気にすることないよ。 洗濯機だってあったし、どうせこれから風呂に入るんだからさ」

「…………」

 

 反応はなかった。

 

「大丈夫だって。誰にも言ったりしないからさ。オレにだってそれくらいのデリカシーはあるよ?」

「…………」

 

 やっぱり、また無言だった。

 

「……あー。ホントにオレは平気だから。

昔はまくらもよく戻すやつでさー。その後片付けとか、よくオレがやらされてたから慣れたもんだよ」

「!? ちょっ、こらぁ!? 余計なコトばらすなー!!」

 

 まくらが絡み付いてくるが、ガン無視。

今朝は随分まくらにしてやられたから、ちょっとした仕返しも兼ねていた。

 

「……そうなんだ?」

 

 硝子が、ようやく顔を上げた。

 

──おっ!? まくらの話がヒットしたぞ……まさに一石二鳥だったな。

 

 内心ほっとしながら、さらにまくらの話を暴露していく。

 

「そーそー。アイツなんてこんなもんじゃなかったよ? オレの顔面にぶちまけてくれたことすら──」

「ケイスケ~~~!!!! ホントにおばちゃんに、先輩との事バラしてやろうかっ!!?」

 

 慌てて口を閉じる。

 

「ふふっ……やっぱり仲いいんだよね、目覚くんとまくらは」

 

 ようやく硝子が笑顔を見せた。

 

「別に仲よしじゃなくて。単に腐れ縁。家族なだけだってば」

 

 硝子の笑顔には安心できたが、その言葉だけはいつも通りしっかり否定しておく。

 計佑のいつも通りの否定に、やっぱりいつも通り硝子が苦笑を浮かべて。

 

「……あーあ。私、目覚くんには怒ってたのになぁ。こんなにお世話になったら、怒り続けてる訳にはいかないよね……」

「え!? オレ須々野さんになんかやっちゃってた!?」

 

 一応、自分が鈍いことを自覚してる少年は、また気づかないウチに何かやらかしてたのかと、大いに焦る。

 

「……何もやってないよ。……私には、ね……やったのは、まくらに対して、だよ」

 

 硝子が途中で一瞬声を落としながら、そんな事を言ってきた。

 

「……え?  まくらに……?」

 

 チラリとまくらと顔を見合わせる。まくらもキョトンとした顔だ。

 

「そう。まくらがここにいないから、代わりに私が怒ってた。

……私にそんな資格がないのは重々承知、なんだけどね」

「えーと……オレが何をしたっていうの?」

 

 何の話をしているのかさっぱり分からなかったので、素直に尋ねた。そんな計佑に、硝子は表情を消すと。

 

「白井先輩と朝帰り」

「ぶほっ!?」

 

 予想外の内容に、吹き出してしまった。

 

「えっ!?  なっ何それ!? 別に変なコトは何もしてないって散々言ったよね!?

嵐のせいで昨日は帰れなくて!! それだけの話って!!」

 

 三人には何度も説明した話だ。

 

「昔来たコトのあるキャンプ場のコトを思い出して。それで白井先輩に案内してもらったんだったよね?」

「そうそう!!」

 

 雪姫と、そんな風に口裏を合わせていた。

──まくらが来たことがあると自信ありげに言ってたぐらいだ、 自分が覚えていないだけで多分本当に来たことはあったのだろうし──

 

「でも何で、二人だけで行く必要があったの?」

「そっ……それは!! 使えるボートは二人乗りが限度で!! だから──」

「みんなに内緒で、こそこそと行く必要があった?」

 

──……ぐっ……!!

 

 その点は、どうにも言い訳が思いつかない部分だった。

 茂武市はデートだろうとでも曲解してかあまりツッコんでは来なかったし、

カリナは細かいことは気にしない性分なので追求されなかったのだが……硝子までは騙されてくれていなかった。

 

──何なんだよ……何で先輩が絡んできた時だけ、こんなに意地悪くなるんだ須々野さんは……?

 

 雪姫の添い寝を見られた次の朝も、硝子の態度はおかしかった。

 普段は大人しい、気の優しい筈の少女が見せるトゲのある態度に、計佑はもう何も言えなくなってしまった。

 

「……ごめんなさい、目覚くん。私が口出しするようなコトじゃないのに、責めるようなコト言って……」

 

 黙りこんでしまった計佑を申し訳なく思ったのか、硝子が謝ってきた。

 

「……いや、いいんだけどさ……

なんか白井先輩のコトにだけ、須々野さん厳しくなってない……? それはちょっと気になるんだけど……」

 

 問うと、硝子は一瞬言葉に詰まった。

 

「っ……それは。……白井先輩は私の憧れの人だから……先輩を誑かそうとしてる目覚くんが許せなくて」

「たぶっ!? なっなんだよそれっ!? べっ別にオレ、そんなつもりで先輩とは……!!」

 

 まさかの言いがかりに、慌てるしかない計佑。

そんな計佑を胡乱げな目つきで見つめる硝子が、さらに畳み掛けてくる。

 

「本当かなぁ……どうせ無害そうな優しい顔して近づいていったんでしょう……?」

 

──それはまさに正解だったのだが、計佑にそんな自覚はない。

 

「なにそれ!?  オレ、そんな人間じゃないよ!?」

 

……罪作りな少年は、本気でそう訂正してみせる。

しかし硝子は目付きを変えないまま、はぁっとため息をついてみせる。

 

「人の吐瀉物をさらりと片付けてみせるような筋金入りのクセに……本当に自覚ないんだからタチ悪いよね目覚くんは。

……これじゃあ騙されちゃうのも仕方ないんだけど……」

「…………」

 

 あまりの言われように、計佑はもう黙りこむだけだった。

──今のセリフの最後の部分は、雪姫の事だけでなく硝子自身の事も含めて言っているのにも気付かないまま。

 

──♪♪♪~~~……

 

 そこで、硝子の携帯がなった。

 

「……白井先輩からだ。ちょっと待ってて……」

 

 硝子が電話にでる。

 

「はい……すいません先輩、ちょっとバスに酔っちゃって……

はい……いえ、もう大丈夫です。……もうすぐ私も行きますから。

……はい、ご心配おかけしてすいません……。はい、ではすぐに……」

 

 ピッ、と硝子が通話を終えて立ち上がる。

 

「……本当にごめんなさい、目覚くん。せめて最後の後片付けくらいは私にやらせて?」

 

 そう言って硝子が手を差し出してくるので、素直に道具やゴミ袋を渡した。

 

「私はもう大丈夫だから。早く行ってあげて?  一人きりの茂武市くんもやきもきしてるだろうし」

「……ん。わかった」

 

 笑顔で見送ってくる硝子に頷いて、踵を返した。歩き出して、

 

「……目覚くん」

 

 すぐに声をかけられた。

 

「……私は。白井先輩とのコトは応援できない。……だってあの人は……」

 

 そこで言葉が途切れてしまった。振り返った計佑が、代わりに言葉を継いだ。

 

「須々野さんの憧れの人だから、でしょ? ……まあ気持ちはわかるけど、さ。

あんな凄い人にオレみたいなのが近づこうとしたら、そりゃあ面白くないよね」

 

 苦笑を浮かべる計佑に、硝子は首を振って呟いた。

 

「……むしろ逆だよ……」

「え?  ごめん、よく聞こえなかったんだけど」

 

 硝子の声は小さすぎて。聞き返したのだけれど、硝子は笑顔を浮かべた。

 

「……私が応援できるとしたら、まくらとだけだよ。そう言ったの」

「もーっ、結局それなの? 須々野さんも相当頑固だよね……」

 

 ため息をつく計佑に、硝子は寂しそうに笑ってみせるのだった。

 

─────────────────────────────────

 

 この温泉は基本予約制で、今は雪姫とカリナの二人きりだった。

そこへ漸く現れた硝子に、雪姫は軽く駆け寄った。

 

「硝子ちゃん!!  ホントに大丈夫なの? ごめんね、気付かなくて……」

 

 真っ先に、雪姫は謝った。

 神様(断じてオバケではない!!)の事で頭が一杯で、なかなか硝子の不在に気付けなかったのだ。

 ちなみにカリナは、とにかく大雑把な少女なので素で気づいていなかった。

 そして肝心の温泉だが、いざ入ってみたら開放感はあるし景色もいいしで、

予想していたような怖さはまるでなかった。お陰で、雪姫も今は余裕が取り戻せていた。

 

「いえ、そんな……バスの中で本なんか読んでた私が悪いんですから」

 

 困った感じの笑顔を硝子が浮かべて、雪姫もようやく安心した。

 

「……目覚くんが気づいてくれて。ずっと傍についててくれたんです。

……私、戻しちゃったりしたのに、それもイヤな顔1つしないで片付けてくれて……ホントに優しいですよね、目覚くんって」

「そうだったの!? そんな大変だったのに、ホント気付かなくてごめんなさい……でもさすが計佑くんだよね!!

きっと『全然大したコトないよ』って感じの笑顔で慰めてくれたんじゃない?」

 

 硝子の『牽制』に、嬉しそうに雪姫が答えた。

 硝子の思惑に気付かない雪姫にあるのは、『好きなヒトを褒められて嬉しい』という喜びだけだった。

 

「……っ……そうですね、確かにその通りでした、目覚くんは……」

 

 硝子が一瞬顔をしかめたけれど、

 

──あ……そうだよね、男の子にそんなコトされたら複雑にもなるよね……私だったら耐えられないかも……

 

 雪姫が思ったのはその程度のことだった。

 

「おー、そうだ硝子ちゃん。キミも気にしてた神様の話なんだけど、なんかこういうアイテムを使うんだよー」

 

 カリナが、紐のついた鈴を鳴らしてみせた。雪姫が説明を継ぐ。

 

「この温泉の名物なんだって。これをそこの桶に投げ入れて、

神様に鈴を手にとってもらえた人の恋が叶うっていう話なんだよ」

「まーアタシは恋なんてクソ喰らえなんだけどー、オバケには是非とも会ってみたいからさー」

 

 カリナが大袈裟に鈴を振りまくっている。

 

「硝子ちゃんの分も、もう買ってあるの。一緒にやろ?」

 

 そう言って雪姫が、鈴を硝子に手渡して。

 

「え……ありがとうございます。あの、お代は……」

「そんなのいいから!! ほらっ早く」

 

 雪姫が硝子の手を引っ張って、桶の前へ。カリナも後からついてくる。

 

「よし! それじゃあ行くよ? せーの……」

 

 雪姫と硝子が投げ入れようとした瞬間、

 

「おりゃあ!!!!」

バシャァアア!!

 

 桶をひっくり返しそうな勢いで、カリナが鈴を投げ込んだ。

 

「おらー!!  出てきてみろよ神様とやらー!!」

 

 罰当たりにも、挑発までしていた。

 

「もうっカリナ!! ふざけないでよ!!」

「えー?  だってさー、アタシは別に願いがあるワケじゃないし、ただ神様の姿とやらを見てみたいだけなんだも~ん」

 

 鼻歌交じりにカリナは湯船に戻っていく。

 

「全くもう……硝子ちゃん!! あんな人ほっといて一緒にやろっ」

「…………」

 

 雪姫の呼びかけに、硝子は無反応で俯いていた。

 

「……?  硝子ちゃん?  どうかした?」

 

 雪姫が尋ねると、硝子はゆっくりと顔を上げた。

 

「……先輩。白井先輩は誰とのコトを願って、この鈴を投げるんですか?」

「えっ!? 誰って、それは……」

 

 自分の態度はかなりあからさまだったと思うけれど、硝子にはまだ気付かれていなかったのか。

 

──まあハッキリと伝えていた計佑くんすら分かってなかったりしたぐらいだし。

意外とこういうのは分からないものなのかな……

 

 硝子の真意も知らず、そんな風に考える雪姫。

 計佑への気持ちに迷いはないし、何ら恥じることもないし、別に隠さなくてもいいかな……そう考え硝子に明かそうとして、

 

「目覚くんは無理だと思いますよ」

 

……ドクンッ!!

 

「……え……」

「目覚くんには、もう特別な人がいますから」

 

 暗い目をした硝子の言葉に、凍りついた。

 自分の気持ちが見抜かれていた事は、どうでもよかった。

雪姫にとってショックなのは、計佑に想い人がいるというその一点のみ──

一気に血の気が引いていく。ガクガクと膝が震え出す。

 

「……ウソだよ……だって……」

 

──昨夜、言ってくれた。私のコトが一番だって。 だから……安心して待っていられると思ったのに……

 

「嘘じゃありません」

 

 断言する硝子の声に、目の前が暗くなっていく。

 

 ウソだ。信じられない。計佑が自分にウソなんてつく筈ない。でも硝子だって、ウソをつくようなコじゃない──

二律背反に硬直する雪姫に、硝子からの言葉が続いた。

 

「音巻まくらってコがいるんです」

 

──……え……?

 

 その名前を聞いた途端、スゥッと身体が軽くなった。世界にも一気に色が戻る。

 

「音巻まくらさんって……計佑くんと一緒に育ったっていうコのことだよね?」

「──っ!? 知ってたんですかっ!?」

 

 力を取り戻した雪姫が尋ねると、今度は硝子が動揺した。

 

──なんだ……例の幼なじみさんのコトだったのね……

 

 心の底からほっとする。

 やはり、計佑がウソなんてつくはずがなかった。

 どうして硝子がそんな勘違いをしているのかはわからなかったが、もはや雪姫の中には一片の不安もなかった。

 

「うん、昨日計佑くんに聞いたよ。

子供の頃から殆どを計佑くんのウチで過ごしてて。もう家族同然だって、全然そういうのじゃないって」

「っ!!  ……そうなんですか……子供の頃から目覚くんの家で……それは初耳です……」

 

 硝子が悔しそうな顔をする。

 

──?  なんで硝子ちゃんが悔しそうなんだろう……? まくらちゃんって、もしかして硝子ちゃんの親友とかなのかな?

 

 自分が知らなかった親友の事情を、第三者から聞かされたりしたらそれは確かに面白くないかも……?

──そんな風に考えて。

……そして、そこで終わってしまうのが、白井雪姫という少女だった。

 

─────────────────────────────────

 

 硝子と別れた計佑は、茂武市と一緒に湯船につかっていた。

こちらも上手く予約がとれた事で、茂武市と二人きりだった。

 

「よー、どーだ計佑ー?  ケガした身体にはこの温泉は最高じゃねー?」

「あー……まあ確かに極楽だなーこれは……」

 

──あ~~……オバケのコト確認にきたハズだったんだけど……なんかもーどーでもよくなる心地よさだ……

 

 縁に頭と腕を預けて、完全にまったりとしていたら、

 

『キャーーーッ!!』

 

 女湯のほうから、雪姫の悲鳴が聞こえてきた。

 

──えっ!?

 

 ガバっと身体を起こす。まさか。本当にオバケが出たのか──

 

「先──「ウヒョーッ!! やっぱ雪姫の胸スゴーイ!!」

 

──計佑の呼びかけは、カリナの嬌声に遮られた。

 

──……え……?

 

 ぽかんとする計佑の耳に、雪姫の声が届く。

 

「もうっ!!  危ないでしょっ!?」

 

──なんだ……森野先輩とのいつものじゃれ合いか……

 

 事態を理解して、安心する。──しかし、落ち着くのはまだ早かった。

 

「雪姫の胸……ホントにキレイ……白くて……」

 

 カリナの陶然とした声が聞こえてきた。

 

「やっ……やめて……よ……」

 

 雪姫の弱った様子の声も聞きとれてしまった。

 

「この大きさ……弾力……凶器でしょっこれは!!」

「……んやっ!? ……だめっ……んああ!!」

 

 そしてカリナの興奮しきった声と、なんだか怪しい感じの雪姫の悲鳴が……

 

──ちょっ……ちょっと待てよ……なんかミョーな雲行きに……

 

 手が、自然と鼻を押さえていた。

 

「ほらっ硝子ちゃん!! キミも確かめてみなっ!! これは絶対凶器だから!!」

「……そうですね。ちょっと許されないと思ってたんですよそれ……ちょっとばかり罰を与えるべきですよね……」

「えっ!? ウソっまさか硝子ちゃんまでっ!? あ! あ!? いやっやめ──ふあぁん!!」

 

──ヤバイヤバイヤバイ!!  一体何やってるんだよ向こうは~~~!?

 

 きっとカリナが後ろから雪姫の胸を揉みしだいていて、前からは硝子が雪姫の胸を責めていて……

そんな姿が脳裏に浮かんで、計佑は沸騰しそうになった。

 

──ダメだダメだダメだ!! こんなコト考えるな!! 先輩のコト汚すつもりかよオレはっ……!!

 

 必死で頭を振る。──そこで気付いた。

茂武市が鼻の下を伸ばして、女湯との仕切りに近づいていることに。

 

──テメエエエエ!!!!

 

 今の雪姫の声を、茂武市も聞いていた──その事に気づいた瞬間、全身を怒りが支配した。

 

「なにしてやがるテメエェ!!! テメエは聞くんじゃねェェ!!!!」

 

 茂武市の肩を掴み、力任せに後ろに引き倒してお湯に沈めた。

バシャバシャと茂武市が暴れるが、計佑は力を緩めない。

今、手を離したら、また茂武市に雪姫の声が聞かれてしまう──その怒りのままに、茂武市を沈め続けた。

やがて、茂武市の抵抗が弱くなってきて──我に返った。

 

──……ハッ!? しまった、マジで死んじまう!!

 

 慌てて、茂武市の身体を引き上げた。

 

「ゴフゥッ!! ガハッガフ、ガフッ!! ……おいっ計佑ッ、お前マジで死ぬトコだったぞオイ!!!!」

「ご、ごめん……なんかついカッとなって……」

 

 当然、茂武市が怒り、流石に計佑も本気で謝った。

 

「……オレはお前のコト、気のいい人畜無害なヤツかと思ってたが、勘違いだったわ……ハルクかよ全く……」

 

 言いながら、茂武市が立ち上がる。

 

「あ、おい……もう上がるのか?」

 

 計佑が呼び止めるが、

 

「上がるに決まってるだろ……これ以上ここにいたらマジで殺されそうだわ」

 

 ジロリと睨みつけられて、恐縮してしまう。

 

「お前よー……」

 

 茂武市が言いかけてから、口を噤んだ。

 

「……なんだよ?」

 

 促すと、

 

「……やっぱいいわ。それで無自覚とかオレには信じられんけど、そこまでキてるんなら、自覚出来るのも時間の問題だろうしな……」

 

 そんな風に半ば独り言のように言って、ひらひらと手を振って湯船から上がるので、

 

「……あっ、じゃあオレも!!」

 

 慌てて立ち上がる。自分だって、あんな声を聞き続ける訳には。

 

「お前はまだ入ってろよ。ケガ人はちゃんと養生しとけって。向こうのアレも、もう収まってるだろ?」

 

 言われてみれば、もう女湯からの怪しい声は聞こえてこない。

 何やらバシャバシャと派手な水音とキャーキャーという声は聞こえてくるが、雪姫が二人に反撃でもしているのだろうか。

 

『じゃあお前だって出るコトねーだろ』と一瞬考えるが、入ってからそれなりの時間は経っていたし、

今の騒ぎがきっかけになったのだろうと考えて、それ以上呼び止めはしなかった。

 

──まあそういうコトなら……お言葉に甘えて、もうしばらく浸からせてもらうかな。

 

 さっきの雪姫の声には色々と焦らされたが、それまでの心地よさを思い出して、あらためて湯につかった。

──のだけれど、結局。程なく、計佑も逃げ出すことになった。

 

 女湯から、今度は硝子の嬌声や、普段は凛々しいカリナの、別人のような艶っぽい声が聞こえてきたりで。

耐えられなくなったのだった。

 

─────────────────────────────────

 

「お?  なんだよ、結局早かったじゃないか計佑」

「……あー……まあな……」

 

 外で炭酸を飲んでいた茂武市が、出てきた計佑に気付いて声をかけてきた。

 

「……またえっらく赤い顔してんなー……なんか湯に浸かってた時より赤くね?」

「……悪い……」

「? なんで謝るんだ?」

 

 それには答えなかった。

 茂武市を追い出すような事をしておいて、

自分は硝子やカリナの嬌声を聞いてしまった事が申し訳なかったのだが、それは流石に口に出せなかった。

 計佑も何か飲み物を買おうとして、そこでふよふよと建物から出てくるまくらに気付いた。

茂武市の手前、ちらりと見ただけで無視していたのだが、まくらはふわりと近づいてくると、

 

「……話があるんだ、計佑。皆が行こうって話してた展望台で待ってる」

 

 そう告げて、ふわりと去っていった。ちらり見えた横顔は、なんだかぼんやりとしていて。

 

──話ってなんだ……まさか、本当にオバケと会えたとかじゃないよな!?

 

 このタイミングで改めての話なんてそれくらいしか思いつかないが、とりあえず展望台へ向かうことに決めた。

 

「なあ茂武市。早いかもしれないけど、オレ散歩がてら展望台に向かうわ」

「あ?  ……じゃーオレもそうすっかなー」

 

 茂武市が腰を上げようとするので、

 

「いやいや、お前はみんなを待っててやってくれよ。

お前まで来ちゃったら、後で女子だけで移動するコトになっちゃうだろ?」

 

 そう言って止めた。そもそも、茂武市について来られてはまくらとの話もできなくなってしまう。

 

「……うーん……女子の風呂は長引きそうでヒマ持て余しそうなんだがなぁ……ん!? いや待てよ!!

 そうか、しばらくの間はオレのハーレムタイムってことか!?

オッケーオッケー、ナイト役はオレがきっちり果たしてみせるからお前はさっさと行ってくれ!!」

 

最初は渋ったかと思えば手の平を返す親友の姿に苦笑が漏れるが、その言葉に甘えて計佑は展望台へと向かうのだった。

 

─────────────────────────────────

 

 計佑が展望台へ着くと、まくらは手すりに座ってぼんやりと景色を眺めているところだった。

 

「おい、まくら。話ってなんだ?  まさか本当にオバケだか神様に会えたりでもしたのか?」

 

 計佑が話しかけると、ゆっくりと顔を計佑に向ける。

──その表情はなんだか気の抜けたもので、計佑も拍子抜けする。

 

「なんだよ、そのぽやーっとした顔は……わざわざ話があるなんて言っておいて──」

「わかったんだよ、計佑。私が "こう" なった理由」

「……え……?」

 

 予想外の言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。

 

「……わかった!? お前が眠り込んで──今そうしてる理由がか!?」

 

 勢いこんで尋ねる計佑に、まくらは相変わらず気の抜けた表情で答えた。

 

「正確には "思い出した" なんだけどね……さっき突然思い出したんだ。

ヒントはホタルちゃんに聞いてたんだけど……

言われたコトの意味が、さっきようやく全部わかったんだよね」

「……ほたる? 誰だよそれ。ヒントを聞いてたって……オレ以外に、お前と話せるヤツがいたのか!?」

「ホタルちゃんっていうのは……美月芳夏さんのコトだよ。あのヒトも今幽霊になってて、一昨日の夜に話したんだ」

「なっ……!? なんだよそれ!! なんでそんな大事なコト今まで隠してた!?」

「……ごめん」

 

 計佑の怒りの声に、まくらが苦笑する。

ようやく気の抜けた表情をやめてくれたまくらだが、今の計佑には、そんな事はどうでもよかった。

 

──一昨日の夜って……あ!?

  夢でまくらと美月芳夏が話してるのを見た時!? あれはタダの夢じゃなかったのか!?

 

 そこでゾワリとした。

 あの夢の中で、まくらは美月芳夏のセリフに強い衝撃を受けていた。身体がガタガタと震え出すほどの──

 

「何を言われたっ!?」

「えっ!?」

 

 まくらの肩に掴みかかった。その剣幕に、まくらが身を固くする。

 

「何かショックなこと──相当マズイことを聞かされたんだろう!?  何を言われたんだよッ!!」

「なっ……なんで……」

 

──わかったの、そんな顔をしてくるまくらに、いよいよ焦燥が募った。

 

「話せよ!! なんでそんな大事なコト今まで……っ!? まさか、オレに隠さなけりゃならないくらいマズいことなのか!?」

 

 まくらが自分に気を使って話さなかった──その可能性に気付いた。

 そうして完全に余裕がなくなってしまった計佑に、まくらが苦笑して、計佑の手をポンポンと叩いた。

 

「話す、話すよ。その為に呼び出したんじゃない……だから落ち着いてよ、ね?  ……ちょっと痛いよ」

 

 言われて気付いた。かなり力を入れてまくらの肩を握ってしまっていた。

 

「あ……悪い……」

 

 手を離して、椅子にぺたんと座り込んだ。息を大きくつくと、力なくまくらを見上げる。

 

「わかんないコトだらけだ……全部教えてくれるんだよな? まくら」

「全部説明できるかはわかんないけど、私にわかってることは話すよ。

……まあ、説明とか私上手くないから、きちんと伝えきれるかはわかんないけどね」

 

 そう言って、まくらが一回言葉を切った。

 

「……まず。なんでホタル──美月芳夏さんのコトを話さなかったというと、

ホタルちゃんの話が、その時はさっぱり意味がわかんなかったから。

さっき、"思い出した" って言ったでしょ?

昔……子供の頃ホタルちゃんに会ってたコトを思い出して、

それでホタルちゃんの言ってたコトも全部わかったって感じなんだよね」

「子供の頃!?  なんだそりゃ!?  まだ元気だった頃に、幽霊と話したってのか?」

「そう。計佑は結局思い出せないみたいだけど……計佑も私と一緒に会ってるんだよ?

昨日行った島で──子供の頃、キャンプに行った時に」

「ええ!?  ウソだろ!?」

 

 そう言われても、やはり計佑には思い出せなかった。

 確かに、まくらとキャンプをした記憶はある。

でも、まくらや両親とキャンプをしたコトは何度かあって、一体どれがいつの記憶だとかも、はっきりとは思い出せないぐらいだった。

 

「……それでね。なんで私がこんなになっちゃってるかというと……これは自業自得なんだよね。私がそう望んだからで」

「望んだ? ……寝たきりになることをか!?」

 

 計佑の疑問に、またまくらが苦笑した。

 

「じゃなくて。正確には幽霊になりたいって願いをね。ホタルちゃんにお願いしちゃったんたよね……」

「な……なんだそりゃ……なんでそんな願いを……」

 

 さっぱりわからず尋ねた計佑に、まくらは困ったように笑って、

 

「お母さんに会えると思ったからさ」

 

 そう答えた。

 

「…………!!」

 

 その答えに、計佑は何も言えなかった。

 子供の頃……母親が亡くなった後のまくらは、一時期本当に元気がなかった。

 強がって笑顔をみせることはあの頃からあったけど、それでも小さい子供がそんな事徹底できる訳もなく。

 その時期は、計佑も子供ながらにまくらを元気づけようと必要以上に連れ回したり、じゃれついていたりした記憶があった。

 

「……まー、子供ってホントバカだよねー!!  勿論今だったらそんなコト考えるワケないんだけどっ」

 

 暗くなった雰囲気を払拭しようとしてか、まくらが明るい声を出してみせる。

 

「…………」

 

 それでも計佑は俯いたまま、何も返事を出来なかった。

 まくらが空咳をついて、また説明をはじめる。

 

「ともかくそんなワケで。なんか随分時間が空いちゃったんだけど、例のバラの傷でこの呪いが始まったみたいなんだよね……」

 

 聞き捨てならない言葉を聞いて、計佑はバッと顔をはね上げた。

 

「呪いってなんだ!? お前がショックを受けてたのはそのコトなのかっ!?」

「えっ!?  あっ、あ~いや~ちょっと大袈裟に言っちゃっただけで、そんな大層な──」

「誤魔化すなよ!! オレに隠し事なんてするなっ!!」

 

 立ち上がって、また詰め寄ろうとする計佑にまくらが慌てた。

 

「わっわかったわかった!! ちゃんと話すから落ち着いてよ……

ホント大袈裟なんだよ……呪いと言っても、ちゃんと解けそうなアテだってあるんだからさ……」

「なにっ!?」

 

 その言葉に、一度は座りかけていた計佑がまた立ち上がる。

 

「なんだよそれっ!? なんでそんな大事なコトを──」

「だ~~か~~ら~~!! さっき思い出したばかりだって言ってるでしょっ!?

ちゃんと全部話すって言ってるんだから、ちょっと落ち着いてよっ!!

さっきから話を中断させてばっかりなのはケースケのほうなんだからねっ!?」

 

 ついにまくらがキレてしまった。

 

──そんなコトを言われても、こんな急展開の話で落ち着けるワケあるかよ──

 

 そんな風に考えてしまう計佑だが、それは口には出さず大人しく腰をおろす。

 

「……悪い。今度こそ大人しく聞くから、続きたのむ……」

 

 そんな少年の姿をもうひと睨みしてから、まくらはまた話を始めた。

 

「まあ……ホントに解けるかはわかんないんだけど。一応今夜にでも試してみるつもりなんだよね」

「今夜?  すぐには試せないことなのか?」

 

 大人しく聞くとはいったが、質問しないとは言ってない──そんな風に心で言い訳してまくらに質問した。

少なくともさっきみたいな詰問口調ではないし、これくらい許されるだろう。

けれどまくらはその質問に対して、何故か顔をボッと赤くした。

 

「ひっ昼間なんて無理っ!! 絶対ムリ、ダメっ!!」

 

 ブンブンと両手を振ってくる。

 

「……?  そうか、それなら仕方ないんだけど……オレにできるコトはあるのか?」

 

 そう尋ねると、まくらは耳まで赤くなった。

 

「っ、ない!! いやあるといえばあるんだけど……計佑は夜になったら大人しく寝てくれればいいの!! 後はこっちが勝手にやるからっ!!」

 

 少女が喚くが、少年は訝しむ。

 

「……なんだよ、怪しいなぁ……何をやるのか一応教えておいてくれよ」

「っ……言えない。……人に話したら、もう一生解けなくなるから」

「な、マジかよ!? ……いやでもまあ、呪いとかって確かにそんな感じの話あったりするか……うん」

 

 一人で納得してうんうんと頷いている少年は、幼なじみが気まずそうな顔をしていることには気付かなかった。

 

「ただ……一応、先に謝っておくね? ごめんなさい……でもそれで、最初で最後にするから」

 

 まくらが神妙な顔つきで謝ってきた。

 

「なんだよおい、不安になるな……なんか痛かったりすることなのか?」

「痛くは……ないと思うよ、多分……うん。心は……どうかわからないけど……」

 

 歯切れの悪いまくらの言葉に不安が募るが、それでまくらが戻れるなら、と計佑はそれ以上訊かなかった。

代わりに、他の事を尋ねる。

 

「けど呪い解くのにオレも一応必要っていうのは……

やっぱ子供の頃のその時、オレもその場にいたからとかそういう事なのか?」

「う……ん、そうだね……子供の頃からずっと一緒だったってコトは、確かに大きく関係してるね……」

「ふーん……?」

 

 まくらの答えはイマイチ的を射なかったが、計佑はさほど気にしなかった。

 

──なるほどな……オレだけがまくらを認識できたのは、オレもまくらと一緒に美月芳夏の幽霊に会ってたからなんだな……

 

 ずっとわからなかった疑問もこれで解けた。あと、聞いておくべき大事な事は一つだけ──

 

「で?  それで呪いが解けなかったら結局どうなるんだ?

美月芳夏に聞かされた話で一番ショックだったのは、そのコトなんだろ?」

 

 そう尋ねると、まくらがうっと言葉に詰まった。

 

「……結局、それを聞くのは諦めないんだね……」

「諦めるワケないだろ!? こんな大事な話!!」

 

 計佑がまた怒鳴ると、まくらは気まずそうに視線を逸らした。

そのまましばらく沈黙を続けたが、計佑からの無言のプレッシャーに負けたのか、漸く口を開く。

 

「……今夜試す方法が駄目だったら、その時は話すよ……

今話したって、他に解決するアテはないんだからそれでもいいでしょ?」

 

 結局、それでもまくらがちゃんと明かしてくれることはなかった。

 

「……なんでそこまで……」

 

 ここまでまくらが隠そうとするということは、相当ろくでもないのは間違いない──そう察せられた。

そもそもこの元気少女が、あんなに震え出すような話なんて──

 

……ゾワッ……!!

 

 全身が怖気だった。

最悪の可能性──例えば死とか──に思い至ったからだ。

 

「おいっ!! まさか──」

 

 怒声に視線を戻してきたまくらが、計佑の形相から心中を読み取ったのだろう、焦った顔をした。

 居ても立っても居られなくなった計佑が、まくらにつかみかかる。

 

「話せっ!! 今すぐ話──」

 

 言葉は、最後まで続かなかった。

──まくらに掴みかかった筈の手も、空を切って何もつかめなかった。

 

──……え……

 

 何が起きたのかわからず、呆然としてしまう。

 さっきまで目の前にいたまくらが、突然消え去っていた。

 

──え……何が……?

 

「……まくら……?」

 

……その呆然とした呼びかけに、応える声は聞こえてこなかった。

 

 

─────────────────────────────────

 

<16話のあとがき>

 

消化試合二試合目……と言いつつ、実はかなりの文量なんですよね……

雪姫先輩メインだった頃より、長くなってるような(汗)

 

硝子の大胆改変を、またやってしまいました。

オバケの話にゲラゲラとか、ホントはイメージじゃないかもしれないんですけどね……

でも意外とこんな感じなんじゃないかと。

電車の中でも、硝子が一番はしゃいでたりしてたじゃないですか。何気に毒舌家でもあったし。

彼女は結構意外性の固まりなんじゃないかなーと。

 

そして、仮にもヒロインの一人なのにゲロ吐かせたり……

……硝子ファンの方には申し訳ないんですけどm(__)m

計佑をカッコよくするために硝子ちゃん使わせてもらいました。

原作後半の計佑くんは、あんまいいトコないのでね……

ヘタれてばかりだったし……それはいかん!! というワケで、

思いついたアイディアはどんどん盛り込んで計佑を上げていこう、と思いまして……

 

まあこの一件で、硝子の中でも計佑の株はさらに上がったという感じで。

 

雪姫が「計佑くん、元気になったんだね」と安心するシーンがありますが、

雪姫の中で計佑が元気かどうかの判断は

『私のことを構ってくれるかどうか』で行われています(^_^;)

計佑が、いつも通り自分の挙動にあたふたしてくれたことで「立ち直ったんだ」と判断した感じかな……

ちょーっと自己中ぽいかなぁ……でも僕の中では、雪姫の本質は『ワガママな子供』なのです……

 

硝子ちゃんの腹黒チェック。

腹黒の一。『……白井先輩は私の憧れの人だし』、 果たして本心では……?

腹黒のニ。……白井先輩とのコトは応援できない。……だってあの人は…… →このセリフの続きは、書けたとしても後日談とかそんなとこかなぁ……

腹黒の三。ゲロったなんて恥を明かすことになっても。計佑の優しさは貴方だけにじゃないんだと主張。

腹黒の四。まくらの存在を明かす。だから貴方が割り込んだって無駄なの、って感じで。

腹黒の五。悔しそうな顔をする。自分の爆弾が不発に終わったどころか、全て逆襲をくらったので。

うーん。まあいい感じに腹黒要素もりこめた、かな……?

 

今回は硝子から雪姫への攻撃が2つありましたが、

1つは完全にスルー+逆襲、もう1つも結局逆襲にあってしまいました。

タイミングが悪かった感じかも。

次回、雪姫にはちょっと変化があるんですけど、

それ以降だったら最初のような攻撃は通じたかもですが……残念硝子ちゃん(-_-;)

このゲロ話暴露失敗は、二重に悔しいですね。

攻撃が不発、どころか雪姫からの「計佑くんのことならわかってるの」

逆襲を喰らわされちゃったんですからねー。

その怒りもあっての、まくらのコト暴露とかそんな感じ?

 

─────────────────────────────────

──まあハッキリと伝えていた計佑くんにすら分かってもらえなかったりしたぐらいだし。

意外とこういうのは分からないものなのかな……

─────────────────────────────────

↑ なんだかんだでちょっと天然の雪姫ちゃんは、人の恋心とか察することができません。

まあ、人がいいってコトなんですけどね!!  基本的に人を疑わないというか。

僕の中の雪姫先輩が疑うのは、下心のある男限定です。

 

硝子の「目覚くんには相手がいますから」発言にショックを受ける雪姫先輩。

ただの痛い女のコだったら、ヒトの言うことなんてガン無視で、ただ計佑だけを盲信しちゃうとこかも。

「私のカレが浮気なんてするワケないわ!!」みたいな。

そういう女性ってなんかアメリカサスペンスドラマとかでよく見かける気がする……気のせい?

ともあれ、雪姫先輩はその手のバカ女とは違うので、ちゃんと硝子の言うことにも耳を貸すのです(^^)

 

計佑くんの嫉妬を盛りました。

本編では雪姫に対して妬くことはなかったもんなぁ……まくらばっかりで(T_T)

ああ……思い返すとホント、雪姫先輩は本編では完全ピエロだったですよね(T_T)

……って思ったんですが、パコにさらわれた雪姫を発見した時、もしかして妬いてたんでしょうか!?

……んー、でも原作のアレはなんか……なんか僕の中では嫉妬って感じじゃなくて。

だからここの小説の中では、僕には、これは嫉妬!! って感じられるように改変してみたつもりです。

トップページの予告通り、カリナの見せ場。

実は3人の中で一番エロく喘ぐってやつがそれ(^_^;)

いえ、それは冗談として、ホントはカリナの活躍は最終回の26話を考えてます。

といっても15話での茂武市程度の、ちょっとした相談相手ってかそんな感じなんですけど。

 

呪いが解けなかったらどうなるか、隠そうとするまくら。

解く方法をごまかした時同様、「話すことは禁じられてる」

と言う手もあったのですが、万一全て失敗して最悪なコトになった時……

どれだけ計佑が苦しむかと考え、一応これは後でちゃんと話す気があったということで。

 

『ごめんなさい……でもこれで、最初で最後にするから』

健気なまくら……原作だと『卒業するよ』でしたね……

でもこの時点で完全に卒業されると話が続かないので^^; ちょっと変えちゃいました。

けどあのセリフはすごいよかったと思うので、そのウチ使わせてもらおうかと。

 

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