パジャマな彼女。より『白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャカノ・パラレル』   作:GOHON

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第3話 『病院での再会、「この人苦手だ……!!」』

03話

 

海から帰ってきた計佑とまくらは、いつも通りの一日を過ごした。

──生き霊?と過ごすような一日がいつも通りになるというのもおかしな話だが、そうとしか言えないものだった。

まくらは、他人に見えないことと、宙に浮けるということを除けば、普通の人間だった時と特に変わりなかったからだ。

食事をする、風呂に入る、リモコンを忙しなく操作しながらテレビを見る。

そんなまくらは夕方になった今も、空を眺めながら計佑に星の話を聞き込んだりしていた。

「おばちゃん……今日は帰り遅いね」

 

──お前のために病院に寄ってるんだろうさ……

 

口にするとまた暗くなりそうな答えは、どうにか心の中だけで押し留めた。

「つかさ……もうちょっと戸惑いとかないのかよお前。まだあれから1日たってないんだけどな」

「うーん……でも」

にぱっと笑うと、まくらは続けた。

「私 結構楽しいんだよね、今」

「……はあ?」

 

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その日の夜、まくらは計佑の部屋で眠っていた。

まくらが駄々をこねたからだ。

計佑としても、こんな状況で一人になりたくない心境はわかるので、押入れを片付けて寝場所を用意してやったのだが……

 

──楽しいって……そりゃ心底そう思ってる訳じゃないだろうけど。相変わらずガキっつーか脳天気っつーか……

幸せそうに眠っている様子のまくら。

 

──終業式が終われば夏休みだから、部活の問題はあるけどしばらくは誤魔化せるだろう……

 

だとしても、こんな状態をいつまでも続けている訳にはいかない。

 

──コイツを元に戻す方法・・・さっさと見つけてやらなくちゃな。

 

少年が、海での決意をまた新たにするのだった。

 

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次の日の朝。

起きてきた計佑は、ちょうど出かけるところの由希子と顔を合わせた。

「あら、計佑おはよう」

「どこいくのさ?」

「くーちゃんの病院よ」

「……ああ、じゃあ俺も行くよ」

病院で眠る本体? よりも、普通に会話も接触も出来るこちらのほうが

断然本物という感覚になりつつあったが、もう一度身体本体の様子を確認したくなった。

「ちょっと待ってて」

黙って置いていかれては不安だろうと、一応まくらに声をかけようと思ったのだが──

「ぐう」

──まくらがスゴイ格好で寝ていた。

相変わらず上半身だけパジャマの格好で寝崩れたせいで、裾がめくれ上がり下着が完全に露わになっている。

 

──もういいわ……コイツはおいていこう

 

計佑は赤面した自分を誤魔化すように、

まくらにバフっと乱暴にタオルケットをかけると、書き置きを残して母親のところに向かうのだった。

 

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「ねえアンタおぼえてる? くーちゃんのお医者さん」

病院へと向かう車の中で、由希子が尋ねてきた。

「ああ・・・ちょっとふざけた感じのじーさんだったな」

「そう・・・でもなんかね、本当に有名な先生らしいのよ。

前にくーちゃんと同じ様な患者さんを治したことがあるとかないとか……」

「あるとかないとかって。怪しい感じだなぁそれ」

「まあアタシも、どうもイマイチ信頼できないんだけどねぇ」

それでも、計佑にとっては大きな意味のある話だった。

 

──まくらと同じ様な人が前にもいた……?

じゃあもしかして『俺だけが見えている』ような状況の事とか何か知ってたり、

俺のように『見えた』人とかもいたりしたんじゃないのか?

 

詳しい話を聞いてみたい。まくらの身体を確認するだけのつもりでいたが、

思いがけず手がかりが見つかりそうなことで、心は僅かに弾んだ。

 

─────────────────────────────────

 

「あのー……すみません。これ、祖父にお願いできますか? お弁当なんですけど……母に頼まれて」

まくらが入院している病院の受付女性に話しかける少女。麦わら帽子をかぶった雪姫だった。

「あんらぁ~雪姫ちゃん!! 久しぶりねー。 またキレイになってぇ~。CMみてるよ~」

テンションの高い声に、受付にいた他の女性たちも雪姫に気付いた。

「私もー! 白雪フェイス♪ 使ってるー」

「わ! ホントにCMのコだー」

「ホントにきれー」

「そんな……恥ずかしいです。やめてください……」

雪姫は本気で困った様子で謙遜しているのだが、

受付女性たちは『照れているだけだろう』と大して気にせず、はしゃいだ声を上げ続けた。

「あらっ? 泳ぎに行ってきたの?」

「いえ、これから……」

『「デートッ!!?」』

「違いますよー、クラスの女の子達とです」

テンション高い女性たちにちょっと引きながらも、笑顔は絶やさずに雪姫が答える。

 

──……あれ?

 

きゃいきゃいと絡んでくるナース達に、内心困っていた雪姫は、

視界の端でちょうど病院に入ってきた計佑の姿を認めた。

計佑と母親らしき人物は、真っ直ぐエレベーターのほうに向かい、雪姫の事には気づかなかった。

 

──受付に来ないってことは……お見舞いかな?

 

「ねーねー、うちのコにサイン書いてあげてー♪」

相変わらず黄色い声で話しかけてくる女性たちに、

「すいません、後でまた寄りますから」

そう別れを告げると、雪姫は足早に計佑たちの後を追った。

 

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「ちょっと俺用事あるから」

そう告げて由希子と別れた計佑は、前回話を聞いた老医師の元へと行くつもりだった。

前回話を聞いた部屋には不在で、今は「先生の個室にいらっしゃると思うわよ」と教えられた部屋へ向かっていた。

 

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──お見舞いでもない……のかしら……?

 

少年は病室に向かう訳でもなく、脳外科診察室へ向かったと思ったらすぐにまた出てきた。

何とか見つからずにやり過ごせたが、

 

──うーん……別に隠れる必要はなかったんだけど。

 

しかし、後を追う内になんだかイタズラ心が出てきてしまったのだ。

ただ声をかけるだけじゃ面白くない。

一昨日の別れ際に彼が見せてくれた狼狽ぶりを思い出すと、なんだかまたあんな反応が見たくなってしまったのだった。

 

──いきなり『ワッ』じゃ普通すぎるし……病院の廊下でやるのもちょっとね。

周りに迷惑をかけないようにってなると、一人になるのを待つしかないんだけど……

 

病院でそれは難しいかなぁと思いつつも、何かいい脅かし方はないかと計佑の尾行を続ける雪姫だった。

 

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「失礼しま──」

「おおお!! ちょうどいいところにきた」

 

──は??

 

計佑が教えられた個室にたどり着き、開けっ放しのドアから挨拶をすると、目当ての老医師が計佑に向かって駆け寄ってきた。

「戸締まりを頼もうと思っとったんじゃ。急にアメリカ行きが決まってのう! なに2週間はかからんと思うから……ほれ鍵っ!!」

カートを引いてる老医師が放り投げてきた鍵を、つい受け取ってしまった。

「いやっ、ちょっと先生に聞きたいことがあって来ただけなんですけどっ」

「時間がないんじゃっ! 論文でわからないところがあるならここの資料を使ってもよいからの。その代わり期日は守る様にっ!!」

研修生か何かと間違ってる様子だ。

 

──俺まだ高1なんだけど……そんなんにも気付かないって、ホントに名医なのかよ……

 

改めてこの老医師に胡乱な気持ちを抱くが、

「だから違いますって──」という計佑の言葉を無視して

「タクシー、タクシーは来とるかー!」

老医師は怒鳴りながら走り去ってしまった。

 

──ええー……

 

ぽつねんと取り残されてしまった。

「なんだよ……あのじーさまは……」

悪態が口をつくのも無理はなかった。

 

──くそっ……何かしらヒントくらいはって期待してたのに。

 

ぐるりと部屋を見渡す。

机やテーブルがいくつもあったが、そのあちこちにうず高く本が積まれている。

どころか、足元にまで散らばってる本もあったりした。

 

──ここまで来たんだ……鍵預けられたくらいなんだから、ちょっとくらい見せてもらっても罰は当たらないだろ……

 

そう自己弁護すると、部屋の中に足を踏み入れた。

とりあえず、目についた本をパラパラと開いてみる。

「……外国語……」

勿論、計佑には読めない。部屋をうろつき、いくつか適当に本やノートを開いてみたが全て同じ。げんなりする。

 

──無駄足か……まくらのとこに行く前に鍵、病院の人に渡してこないとな……

 

そう考え、踵を返そうとした時に、ふと絵本が目についた。

 

──『ねむりひめ』──

 

──なんで絵本なんかが……?

 

ふと医者のセリフを思い出した。

 

──『今の彼女の症状を一言で申しますと、お伽話に出てくる眠り姫みたいなもんです』

 

なんとなく興味にかられて、手にとって開いてみる。

──ハラリと落ちそうになった物があって、慌てて捕まえる。

 

──随分古い写真だな……昭和六年、美月芳夏……ね──

 

おかっぱの、綺麗な少女だった。しばらくぼんやりと見つめていたが、

 

──……と、いけね……何ぼうっとしてんだオレ……

 

我に返ると、写真を裏返してみた。

「えっ!?」

そこに記してあった走り書きが、計佑を驚かせた。

『仮名 "眠り病" 患者』

 

──"眠り病" !!? もしかしてこの人が前にいたっていうまくらと同じ──

 

はっとした瞬間、

 

「手を上げろ」

背中に『硬質な何か』が押し付けられた。

 

──えっっ……

 

訳もわからず硬直した計佑の背中に、更にグリっと『何か』が押しこまれる。

何がなんだかわからないが、とりあえず言われた通り両手をあげた。

「声をあげるなよ。──まだ死にたくないならな」

押し殺された女性の声だった。

「知ってしまったみたいね……どうやら……この部屋の秘密を」

 

──なっ……な何だコレ……っっ……

 

アクション映画などでのお決まりのセリフが投げかけられた。

下手な冗談に決まってると思いたかったが

医者の勘違いをいい事に部屋に入り込んで、資料を漁っていたのは事実。

女性の声に、冷徹な響きと押し殺された怒りが含まれている気がして──計佑の身体は震えだしていた。

 

「私はアメリカ政府から派遣されたエージェント。秘密に近づいた人間は消さなければならない……」

 

物騒な内容──物騒『すぎる』内容に、冷静さをなくした計佑はさらに震えを大きくした。

「ひっ……」

どうにか声を引っ張りだす。

「人を消す……って手品……?」

「冗談とは余裕だな」

女性の声の怒りが強くなった気がした。

「っっ……」

口を開いたことを後悔して、限界まで身体を固くする。

「こんな少年まで仕込んでるとは連中も随分と……せめて楽に死なせてあげるよ、少年」

『硬い何か』がススっと動き、頭に突きつけられた。

 

──ま……マジ……? まくらの事を調べようとしてただけなのに……こんなっ……!? 嘘だ、嘘嘘嘘嘘……!!!!

 

「さよなら坊や」

 

──イヤだあああああぁぁぁぁあ!!!!

 

『バキューーン♪』

──耳に息を吹きかけられた。

「うあああああああぁぁぁああ」

少年が、腰砕けになって前につんのめった。

「ああぁぁああああああああ──……!!!」

引き続き悲鳴を上げながら前方に倒れこんで、机に積み上がっていた本の山に突っ込む。

ドサドサと崩れてきた本に、計佑の上半身が埋もれた。

──コントさながらの姿だ。

「ぷっ……ふふ……うふふふっ……!!」

押し殺された笑い声が聞こえて、涙目の計佑が振り返ると──そこには銃? を右手に持ち、

左手で口を抑えてこらえきれない笑いに身をよじる少女がいた。

「もーっ、お腹痛いっ!! 水鉄砲でこんなに面白いモノ見れるとは思わなかったよー」

目尻の涙を指で拭いながら少女──白井雪姫が言う。

「ごめんごめん。そんなに私の演技上手かった?」

 

──白井……先輩……!!?? 何で……ここに!?

 

──『スケベ』

前回の、からかわれた一幕を思い出す。

 

──こっ……このヒトなんか苦手だっ……!!

 

命の危機?で感じていたドキドキが、なんだか別の種類のドキドキに変わった気がしたが、

前回といい今回といい、いいようにからかわれた計佑の中で

「白井雪姫」という少女は、とりあえずそんなカテゴリーに入れられてしまった。

……ただし、強烈な存在感とともに、だったけれど。

 

そんな計佑の心中など知る由もなく、

「もうおじいちゃん、こんなに散らかして」

ようやく笑いが収まってきた雪姫がつぶやく。

「へっ……おじいちゃん?」

「そうよ、わたしのおじいちゃん。この部屋使ってるお医者さんだよ」

 

──マ、マジでかよ……

 

思いがけない繋がりに二の句が告げられない計佑だった。

 

─────────────────────────────────

 

──まさかおじいちゃんに用があったなんてね……まあ、おじいちゃんの方は、また勘違いでもしてたみたいだけど。

 

自分にも気付かず駆け去ってしまった祖父。

そそっかしいのも慌ただしいのもいつものことだった。

 

──それにしても……やっぱりカワイイなぁ。このコ……

 

オドオドと、赤い顔をして自分を見つめてくる男の子。

そういう反応自体は珍しくもないのだけれど、

何故かこの男のコのそれは、他の男子のと違って微笑ましく感じるのだ。

 

──プール用に持ってきてた水鉄砲でこんなに面白いモノが見れることになるなんて……このイタズラは大成功だったみたいね。

 

コントのように、本の山に突っ込んでからの埋もれる姿は本当に愉快だったが、

その後に涙目で振り返ってきたあの顔には──ゾクリときた。

 

──私が、今こんな顔をさせてるんだ……この男の子に……

 

初めて会った時には飄々とした態度で接してきた彼が、

今は自分を強烈に意識しているのだと思うと、なぜか嬉しい。

自分の一挙手一投足が彼にそうさせているのだ、そう思うとゾクリとした満足感すらあった。

 

──ホントに……この男のコの、何がそんなに刺さるのかなぁ……

 

充実感と、ちょっぴりの困惑を胸に、雪姫はそばにあった机に寄りかかった。

 

─────────────────────────────────

 

「たった今味わっただろうけど、ちょっと触っただけでも崩れるだろうから気をつけてね」

そう言いながら雪姫が寄りかかった机の本が、早速ぐらついた。

 

──それはこっちのセリフっ!!

 

注意する間もなく一気に崩れて、雪姫の傍をかすめる本の山。

「ひゃっ!!」

雪姫がビクリと身体をすくめて距離をとろうとするが、その先でまた別の本の山に身体をぶつけていた。

今度は彼女の真後ろから崩れてきそうな──

「危ないっ!!!」

今度は注意の声と、同時に身体も動いた。

雪姫に向かってダッシュしようとした瞬間──

足元に散らばった本。ダッシュには向かないスリッパ。

それらの連携攻撃で計佑は、またつんのめってしまった。

 

──おわあああぁぁ!!

 

ギリギリバランスをとって、

半ばかがんでいた雪姫に覆いかぶさるように倒れこむ事には成功した。

バサバサと本が崩れ落ちてくるが、どうにか全て、自分の身体で受け止めることは出来たようだ。

分厚い物もあったりで、なかなか痛かったのだが。

「っつつ……大丈夫ですかせんぱ──」

閉じていた目を開き、声をかけたところで、少年が硬直した。

 

「ちょっと──」

雪姫が、赤い顔をして計佑を見つめている。

「やっぱりキミは──」

困ったように、眉を八の字にしてもいる。

「……ワザとやってるよね……?」

──計佑に押し倒される形で、胸を鷲掴みにされた雪姫がそこにいた。

 

 

 





<第3話のあとがき>

3話と4話は、雪姫の計佑への気持ちがある程度固まる大事な話。
なので、雪姫の心理描写とか頑張ってみたつもりです。

植物園にいったシーンはばっさりカットです。続くまくらとのシーンもぎゅっと短縮……

真っ当な小説なら、雪姫の私服姿の描写とかも入れるべきなんでしょうけど、
僕は服装にはとんと疎くておざなりにでも描写できる能力はないので(T_T)
そのへんは割愛させていただきました……

「演技上手かった?」は、なんとなく拘りのポイントです。
仮面生活に嫌気のさしてる雪姫ですが、計佑がハマってくれるのはそれはそれで楽しい……みたいな感じですかねー。

手紙を見つけないのは雪姫フラグを高めてみたポイントのつもり。
原作では「目覚めない……」の一節がまくらの状態への
不安をふくらませてしまい、結果先輩のコト考える余地が減ってた訳ですから、
それを削るというのは雪姫ポイントに繋がるかなと。
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