パジャマな彼女。より『白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャカノ・パラレル』   作:GOHON

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<番外編>第27話-another 『あの冬から、二年後』

 <前書き>

 

この話は、『原作最終回』からの、その後──を妄想してみた話です。

書き手的には、こちらよりも『長編・パラレル』の方から見て欲しい所ではあるのですけど、

あっちは合わなかったって方には、こちらだけでも読んでみてもらえると有り難いですm(__)m

 

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  <27話-another> 『あの冬から、二年後』

 

 

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 <1章> 

 

 

 計佑が、まくらと気持ちを確認し合ったあの冬から、二年が経っていた。

 

 今日は、12月24日。

 計佑にとっては高校生活最後の冬休み初日であり、

そして若い恋人同士にとっては特別な日でもあるこの日──

そろそろ夕方になろうかとしているにも関わらず、計佑は部屋着のままで。

自宅のリビングで、ぼんやりとテレビを眺めていた。

 

 そこで、とある化粧品のコマーシャルが流れて、

 

「……っ……」

 

 反射的に、計佑がテレビのリモコンへと手を伸ばした。

けれど、操作は行われず。結局、チャンネルは変えられる事もなく、計佑がテレビに見入っていると、

 

「──あらこのコ。最近またよく見かけるわね……あんたのガッコのOGなんでしょ?」

 

 計佑の母・由希子がリビングへとやってきて。

 

「確か、くーちゃんが随分憧れてたわね……って、あ」

 

 計佑同様ソファに腰掛けようとしていた由希子が、中腰で固まったまま『しまった』という顔になった。

 

「……あのなぁ、今さらそんな気ぃ使うなって。もうちゃんと割り切ってるんだからさ」

「いや、だってあんた……そうは言うけど、最近また暗い顔多いわよ?

今だって、なんか複雑そうな顔してたじゃないの」

 

 計佑が呆れた様子で口を開いたが、由希子のほうは、未だ気遣わしげで。

 

……それを鬱陶しく感じてしまう青年は、立ち上がりながら、

 

「それはまくらとは関係ねーよ。……そうじゃなくて、CMの人のせいだからさ」

「……は? CMの人?」

「ちょっとコンビニにでも行ってくる」

 

 母の訝しげな声には答えずに。

 これ以上その事について話す気がない計佑は、着替えるために部屋へと向かうのだった。

 

 

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 <2章>

 

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 簡単に着替えた計佑は、そのまま母には挨拶する事もなく家を出ていた。

その目的地は、

 

──別に、コンビニなんかに用はねーんだよな……

 

 特に決めてもいなかった。

ただ、母からの追求が続くかもしれなかったあの場からは逃げ出したくて、

そして……あのテレビのせいで、また沈みそうになった気分を変えたくて、

家を出たかった、それだけだったのだから。

 

──まくらの事は……本当に、もう踏ん切りはついてるんだけど、な……

 

 計佑とまくらの遠距離恋愛。それは──二年、保たなかった。

 

 二年前の冬、お互いの気持ちを確かめ合って。そして始まった、二人の新しい関係。

 最初は、距離など大した障害にもならないと思っていた。

確かに、高校生の経済事情などを考えれば、そうそう会うことは難しい。

けれど、携帯さえあれば、新たにお金を使わなくてもいくらでも話は出来る。

毎日メールして、電話して、そうして繋がりを保ってさえいれば。この程度の距離なんて。

 

……そう、最初は思っていた。けれど。

 

 やはり、顔を突き合わせられない付き合いは難しいのだと気付くまで──そう時間はかからなかった。

 

 離れた環境で、違う時間を過ごす二人。

そんな二人では、共通の話題は減っていく一方で。

 メール代も電話代もかからなくても、それでも、だんだんと会話は尽きていって。

 

 やがて、

 

『……ごめんね、計佑。私、他に好きな人が──』

 

 そんな風に、まくらから切り出されたのは、今年の夏休みに入ろうかという頃。

高校生活最後の大型休みだし、こっちの家に長期滞在でもしてみないか、

なんて話をしようかと考えていた時の事だった。

 

 けれど。

そんな、浮かれた所に冷や水を浴びせられるかのような話だったのに、

計佑は、特別ショックという訳でもなかった。ただ、

 

──ああ、やっぱりこうなったか。

 

 そんな、諦観しかなかった。

 

 まくらは、人一倍寂しがりな少女だった。

そんな人間が、滅多に会えないような恋人関係に本当に耐えられるのか。

 そしてあの人懐こい、誰とでもすぐに仲良くなれる向日葵のような少女が、

他の相手を見つけたりしないのだろうか──それは、付き合い始めた当初から計佑の中にあった危惧だった。

 

 そして、だんだんと間隔が空いていく連絡の頻度などから、何となく覚悟は出来つつあったから、

 

『そっか、わかった。……じゃあ、元気でな』

 

 そんな風に、あっさりと。

まくらとの付き合いは、終わったのだった。

 

「……寒……」

 

 今日は、随分と寒い。

少しばかり着こむ服が足りなかったかなと悔やむが、もう家から一番近いコンビニが見えてきた。

 

「…………」

 

 それでも、今はなんだか店に避難する気にもなれなくて。軽く震えながらも、歩き続けた。

 

──そりゃあ、落ち込まなかったとは言わないけどな……

 

 半ば覚悟はあったとはいえ、それが現実となれば落ち込まない筈もなかった。

 けれど、もう会うことも、話すこともない人間の事は。

時間が経てば、記憶の中から薄れていくのもまた、当然の流れではあって。

 強がりでも何でもなく、まくらの事は本当に割り切れつつあったのだ。

 

……けれど。

 

──最近また、一段とテレビで見かけるようになってきたんだよな……

 

 そう、計佑がこれまでの人生で好きになった少女、二人の内。

一人とは完全に接触がなくなって、計佑の中からだんだん消えていってくれていたのに、

もう一人は──モニター越しとはいえ、度々その姿や声を計佑へと魅せつけてきて。

完全に想い出として消化する事を、どうしても許してくれないのだった。

 

──だったら、テレビなんて見ないようにすれば済むってのに……

 

 そんな事はわかっている。

……それでも、つい。テレビを眺める時間は増えていって。

 

──オレが引き摺っててもしょうがないのにな……

 

 振ったのは自分の方なのだ。

だというのに、こちらの方が未練のような物を抱き続けているなんて。

 

「……はぁ……」

 

 ため息をついた青年が、猫背になる。

それは果たして、冬の気温が低いせいだけなのか──

 

──歩くにはちょっと遠いんだけど……行ってみようかな……

 

『あの夏』の事を思い出していった青年が、ふと、ある場所の事を思い出して。

目的地をそこに定めて、背を丸めたままに歩き続けるのだった。

 

 

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 <3章>

 

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「……え……」

 

 歩き続けた計佑が、やがて辿り着いた場所。

そこは、計佑があの先輩と、初めて心を通わせあった場所で。

 

「白井先輩……?」

「……え。計、佑くん……?」

 

 日も暮れようとしていてぐっと冷え込み始めている、その公園の、これまたあの時のベンチには先客──

白井雪姫がいて。

 

 二年ぶりの突然の再会に、二人はお互いに目を丸くして、しばらく無言で見つめ合うのだった。

 

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 計佑としては、雪姫に対して色々複雑な想いはあれど、

やはり自分のした事を思えば結局は気まずい思いの方が強かった。

 だから軽く挨拶して、早々に立ち去ろうとしたのだけれど、

 

「えー!? 久しぶりの再会なのに冷たいなあ。ちょっとくらいお話していこうよ?」

 

 被害者である筈の先輩に微笑でそんな風に誘われて、そうなっては逆らえる筈もなくて。

あの二年前の夏同様、ベンチの右側に雪姫が、そして計佑は左隣に座る形になりそうだった。

 

 計佑は傍にあった自販機でホットの缶コーヒーを二本買って、その一本を雪姫へと手渡そうとして、

そこでお互いに素手だと気付いた。

 

「……どうぞ」

 

 手渡しなんかして、万一自分の手が雪姫の手に触れてしまったら、また気まずい思いが強まりそうで。

青年は、自分と女性の間に缶を置いて、すっと押しやってみせた。

 

「……ありがと」

 

 その、あからさまな距離感のある行動を雪姫がどう思ったのかは──計佑には解らなかった。

 再会した直後こそ、驚きのあまりつい見つめてしまったりもしたけれど、

落ち着いた今となっては、どんどんと気まずい思いが強くなってきていて。

 もう、雪姫の顔を伺う事すら出来なくて、

視線は手で転がしている缶へと落とし続けていたから──その瞬間の雪姫がどんな顔をしたかなど、

知る由もなかった。

 

 そのまま暫く沈黙が続いて、やがて、

 

「はあっ──もう! そんな気まずい顔、しないでよぉ」

 

 大きくため息をついた雪姫が、先に口を開いた。

 

「そりゃあね? あの後、先に無視なんてし始めたのはこっちだから、仕方ないとは思うけど……

だからって、こっちがもう気にしてないのにそんな態度とられちゃったら、今度はこっちが責められてる気分だよ?

……それとも、もしかしてお返しするつもりでそんな態度とってるの……?」

「えっ!? いっいや、そんなつもりじゃなくてっ、と、とにかくすいません……」

 

 軽く頬をふくらませた雪姫に責められて、計佑が慌てて恐縮してみせると。

雪姫はプッと吹き出した。

 

「……あははっ。なんだ……計佑くん、すっかり変わっちゃったかと思ったけど。

やっぱり、あんまり変わってないのかな……?」

「え……ど、どういう事ですか?」

「うーん。さっき見た時は、結構びっくりしちゃったんだよね。

随分背も伸びちゃってるし、顔だって……あの頃は可愛い感じがする男の子~、って感じだったのに、

今じゃすっかりカッコイイ男の人って感じなんだもん。一瞬、人違いかと思っちゃったぐらいだよ?」

「え、えぇ!? ちょっ、またそんな……からかわないでくださいってば」

 

 本気で言っている筈がないとわかっているつもりでも、この女性からの言葉と思うと、やはり平静は保てなくて。

 

 そんな風に狼狽えている青年を、雪姫は目を細めて見つめていたけれど、

 

「……ごめんね、計佑くん」

 

 やがて表情を改めた雪姫が、そんな風に謝ってきた。

 

「あの夏の後……わたし、すごく感じわるかったよね?

 あからさまに計佑くんのコト無視したりして……本当にごめんなさい」

「ええっ、ちょっとそんな……何で先輩が謝るんですか!?」

 

 雪姫が頭まで下げてきて、計佑は先ほど以上に慌ててしまう。

 

「いやっだってあれは……! そもそもオレが、その……

あの頃はよく分かってなかったけど、オレ、散々気を持たせる様なコトしちゃってたんですよね?

その挙句にあんな酷いコトしちゃったんですから、謝らなきゃいけないのは、ホントにオレの方であって!」

 

 慌てて計佑も頭を下げると、雪姫は下げていた顔を上げて。

……その顔には、

 

「……へぇえ~……自分が天然タラシだった事は分かるようになったんだ。

見た目だけじゃなくて、心の方も一応は成長したんだね~?」

 

 ニマニマとした笑みが浮かんでいた。

 またからかわれてしまっているその状況に、

この青年だったら、また狼狽えてしまいそうなところだったけれど──

そんな雪姫の笑い方は、計佑と雪姫がまともに知り合って間もない頃によく見せてくれていた表情で。

懐かしさに、計佑はつい見とれてしまう。

 

────……って! オレにそんな資格はねーだろ……!

 

 自分にはこの魅力的な女性を見つめる資格など、もうありはしないのだと思いだして。

慌てて顔を逸らす、直前。

雪姫の顔が、笑顔から憂い顔へと変じるのを目にして、視線を逸らせなくなった。

 

「……私は、全然成長なんて出来てないのにな……」

 

 そんな風に呟き、計佑からも目を逸らして。前を向いた雪姫の横顔は、とても寂しそうなものだった。

 

「え……え? 何言ってるんですか? だって先輩、テレビでも良く見かけるし、凄くお仕事順調そうじゃ──」

「あんなの、ただの流れ作業だよ」

 

 暗い顔で、吐き捨てるかのように割り込んできた雪姫に、言葉を呑んだ。

 

「台本通りに口を開いて、指示された通りに表情を作って。

操り人形みたいに動きまわるだけの事で──同じ事を繰り返してれば、嫌でも慣れるだけの話だから」

 

 あの夏、病院とこの場所で。初めて雪姫と心を通わせた時。雪姫が暗い顔を見せた事はあった。

けれど今の雪姫の顔は……あの時よりもずっと重くて。

 その表情に、計佑は何も口に出来なかった。

 

「……そんなコトよりさっ!」

 

 重くなった空気を振り払うかのように、突然雪姫が高い声をあげると、

 

「計佑くんは、こんな時間にどうしてこんな所に? 誰かと待ち合わせとか?」

「……えっ……ああいやっ、そういうワケじゃあないんですけどっ」

 

 突然切り替えられた話題に、一瞬ついていけない。

 

「ふ~ん……? それじゃあ何の用があったの?」

「あっ、えっ、それはっその……」

 

「あなたの事を思い出していたら、つい足が向いて」──なんて、言える筈がなかった。

 

「そ、それを言ったら先輩こそどうして? 女の人が、日も暮れようって時に公園で一人なんて」

 

 だから、質問に質問で返すという卑怯なやり方で誤魔化しにかかると、

雪姫は一瞬目を丸くして、次にコロコロと笑い出した。

 

「あははははっ、口下手だった計佑くんが、そんな風な誤魔化し方出来るようになったなんてね~?

うんうん、『弟』くんの成長に『お姉ちゃん』は、やっぱり感無量だよ~」

「……っ……」

 

 そんな風に笑いながらお腹を抱える雪姫に、また計佑は見とれてしまう。

 

──先輩、昔以上にとんでもなく綺麗になってるのに……笑ってる時は、あの頃みたいに可愛いままなんだな……

 

 微笑の時には、あの頃より遥かに大人びた美貌を見せつけてくるのに。

大きく笑ってみせる時には一転、あの頃同様の可憐さに変貌して魅せて。

 

 ついさっきは『見とれる訳には』と自制しようとしていた事も忘れて、

青年が吸い込まれるように、その飛び抜けた相貌に見入ってしまう。

 

 やがて、笑いが収まってきた雪姫は折り曲げていた身体を戻すと、

 

「ねえ計佑くん。まくらちゃんとは上手くいってる?」

「っ……!」

 

 突然の豪速球を放ってきて、それをまともに喰らった青年が完全に言葉に詰まる。

 

「……計佑くん?」

 

 それでも、雪姫が首を傾げながら質問を重ねてきて。

計佑は雪姫の視線から逃れるように顔を前に戻し、けれど、諦めたようにため息をついた。

 

「……まくらとは、もう終わりました」

「……え……」

「今年の夏に、ですね。あっさりフラれちゃいました」

「……そうなんだ」

「でもまあ、そんなにショックでもなかったんですけどね……負け惜しみかもしれないけど、

なんだかもう、その前からそうなる予感はあったっていうか」

「……へえ」

「アイツの性格とか考えたら、どうしたって遠恋は無理って予想はしてましたから。

……まあ、それが分かってても突っ走っちゃったのは、若気の至りってヤツですかね、あはは……」

「…………」

 

『どうせ話すんなら、もう開き直っていくらでも』

そんな気持ちでペラペラと話していたのだけれど、雪姫の反応は芳しくなかった。

 

 そちらが尋ねてきた事なのに? と怪訝に思い雪姫の様子を横目で伺う。

すると、雪姫はそっぽを向いていて。表情を伺う事すら出来なかった。

 

──……まあ……自分を振った男の恋愛事情なんて、そりゃあ興味ないよなぁ……

  何となく聞いてみただけの話題だったろうに、何オレ語っちゃってるんだか……

 

 恥ずかしくなって、計佑も口を噤む。と、

 

「……ねえ計佑くん。今、受けるかどうか悩んでるドラマの話が来てるんだけどね」

「あ、そうなんですか? それは……」

 

『おめでとうございます』『やっぱり仕事、順調なんですね』

……そんな追従の言葉は続けられなかった。

先ほどの雪姫の言葉を思えば、何と言っていいのか迷うばかりで。

 不自然に言葉を切ってしまった所で、

 

「そのドラマではね……そろそろ、キスシーンの一つもやってみろって言われてるの」

 

 ドクンッ、と心臓が強く震えた。

 

「そ、そうなんですかっ……」

 

 そのまま、鼓動が激しくなってきて。

 

──なに、ショックなんて受けてんだよっ……オレには関係ないだろ!!

 

 そう、自分に強く言い聞かせて。勝手に暴れまわる心臓に憤り。

そして、気を鎮める為にと、まだ開けてなかった缶のプルタブに手を伸ばす。

 

……けれど、指先が震えて、なかなか開けられなかった。

 

──くっ……何やってんだよっ……!

 

 カショ、カショと何度もプルタブが指からこぼれて、情けない音を奏でてしまう。

──そこで、はっと気がつく。

そっぽを向いていた筈の雪姫が、いつの間にかこちらを振り返ってきていた事を。

 

「あ、あははっ……ゆ、指が悴んじゃって!」

 

 慌てて、笑ってごまかした──大嘘をついて。

ホット缶をずっと手で弄んでいたから、本当は悴んでなどいなかった。

 

 そして、そんな風に愛想笑いを浮かべる青年を、雪姫は無表情に見つめていたけれど、

 

「……でも、仕事でファーストキスなんて。初めては、やっぱり好きな人と──って思うんだよね」

 

 ぽつりと呟くように。──けれど、計佑をじっと見つめながら。そんな事を口にしてきた。

 

「……え……」

「ずっと、計佑くんの事を……思い出さない日はなかったよ。

今、偶然だろうと奇跡だろうと、とにかくまた会えた。こんな幸運を逃したくなんかない」

 

 すっ、と雪姫が擦り寄ってくる。

 

「えっ、えっ……!?」

「私の初めてのキス、もらってくれない……かな?」

 

 絶世の美女に、至近距離から潤んだ目で見上げられて。

青年の心臓が先程とは全く別の理由から、ドクドクと脈打つ。

 

「あっ、えっ、はっ……!?」

 

 顔もどんどんと熱くなっていく。

それでも、まさかの展開にまともに口も開けないでいたら、

 

「……ぷっ……」

「……えっ……」

 

 突然、切なそうにしていた美女が破顔して。

 

「……あっはははははは!!! 冗談に決まってるじゃない!! ほ、本気にしちゃったのっ……!?」

「え、え……」

 

 雪姫がお腹を押さえて身体を折って、足をバタつかせながら、今日一番の大笑いをしてみせて。

──ようやく、青年も理解が追いつくと。恥ずかしさで、全身が沸騰した。

 

「……そっそうですよね! いっいや~分かってるつもりだったんですけど!!

いやでも先輩、演技やっぱりめちゃ上手いですよっ。あまりにも巧すぎるもんだから、ついオレ──」

 

 あまりの恥ずかしさに、必死に言い訳を並べ立てたけれど。

そんな行為は、ますます恥を上塗りしているような気がしてきて、いたたまれなくなった。

 一瞬でもありえない期待をしてしまった己の身勝手さに耐えられなくて、

 

「ほ、ホントすいませんでしたっ! じゃ、じゃあオレ失礼します……!!」

 

 計佑が慌てて立ち上がり、ガバッと頭を下げながらそんな辞去を済ませようとした瞬間、

身体を折ったままの雪姫が──ぐっと唇を噛み締めた。

 青年が身を翻した瞬間、その雪姫がさっと手を伸ばして。

計佑の腕を掴んで、思い切り引っ張る。

 

 いきなり腕を強く引かれたせいで計佑の膝は軽く折れて、「え」と振り返ると──

 

……雪姫が、ぶつかるように。計佑の唇へとキスしてきた。

 

──……な、なに……!?

 

 その接触は、一瞬だった。

刹那のキスを仕掛けてきた雪姫は、すぐに唇も手も計佑から離していた。

 

──……え、なん……?

 

 計佑は、もう二年前の初心なばかりの少年ではない。

相手はまだ一人しかいなかったけれど、それでもキスくらい何度も経験していた。

けれど今、唐突なそれに、しかもいいように振り回されてからの急展開に唖然としか出来ないでいたら、

 

「どうして……っ」

 

 震える雪姫の声に、見下ろすと。俯いた雪姫の頭も、また震えていた。

 

「どうしてっ、そんな簡単に帰ろうとなんてしちゃうのっ……!?」

 

 ドンッ、と。雪姫の両拳が計佑の胸に叩きつけられた。

 

「……冗談のワケ、ないじゃないっ……」

 

 顔を伏せたままの雪姫が、頭もぶつけてくる。

二年の間に広がった身長差のせいで、雪姫の頭は計佑の胸へと預けられた。

 

「計佑くん、全然変わってない!! やっぱり、あの頃のまま、残酷なくらい鈍いままだよっ……」

 

 その涙声には、どこか複雑そうな響きが込められていた。

 

「計佑くん、私のコト思い出してここにきた癖に!

 ドラマの話を聞いて、思いっきり動揺した癖に!

 私の気持ち聞いて、あんなに嬉しそうな顔した癖に、

 なのに何でっ、なんであっさり諦めて、き、消えようとするの……っ!!」

「えっ……え!? い、いやだって……!?」

 

 そんな涙の訴えに、漸く計佑の思考回路が再稼働を始める。

 

「だってオレは、先輩の事弄んだみたいな……!

なのに、そんな虫のいい事、考えるだけでも許されないじゃ──」

「許すかどうかは私が決めることだよっ」

 

 言い訳は、最後までもさせてもらえなかった。

 

「わ、私はもう気にしてないって言ったじゃない……

そ、それでも悪かったって思うんだったら、に、逃げるんじゃなくて……

……今度こそ傍に居て、つ、償ってよぉ……」

「…………」

「今度は、今度こそはっ……今までほっといた分まで、私の事可愛がってよ……

もう、わたしに寂しい想いなんてさせないでよぉ……」

「……先、輩……」

 

 計佑の胸に置かれた雪姫の両手が、ぎゅうっとコートを握りしめてくる。

 

「どうして、そこまで……先輩なら、オレの事なんてとっくに忘れて、もう他にいくらでも──」

「忘れられなかった! 他の人なんて、気持ち悪い人ばかりだった!!」

 

 計佑が、どこかぼんやりとしたまま口にした疑問は、ブルッと強く震えながらの雪姫の叫びにかき消された。

 

──雪姫は確かに、一度は計佑の事を忘れようと、嫌いだった筈の仕事に埋没してみたりもした。

 

 そうしてあの頃よりもっと有名になった結果、確かに異性と接する機会は増えた。

 

……けれど。

 

 遠巻きに視線ばかり注いでくるだけの男、下心丸出しの男、

さり気なく近づいてはくるけれど、自然体を心がけようとしてる様が透けて見えて、かえって浅ましく見える男。

あの世界の男たちなんてそんな連中ばかりで。

 どんなに寂しくても、だからといってそんな男達になど心開ける筈もなかった。

 

……そして。

 

 自分の全てを委ねられそうな、全力で甘えることが出来そうな。

そんな特別で、初めての、たった一人を。

 一度知ってしまった至福の蜜の味を、忘れる事なんて出来る筈がなかった。

 

「……私が好きになれるのは、甘える事が出来たのは、どうしても貴方だけだったんだもの……」

「……先輩……」

 

 余りにも熱烈な告白に、青年の手が持ち上がる。

その手が、雪姫の背中に回されそうになるが、──それでも、触れる直前に止まってしまう。

 

「……でも……でも、やっぱりオレなんかじゃ……」

 

 自分などではこの人には釣り合いなんて。それに、やっぱり自分がしてきた事を思えば。

 そんな風に、どうしても躊躇してしまって。

 

そんな青年の葛藤をどう捉えたのか、雪姫が一際強く計佑へと縋りついてきて、

 

「……私、計佑くんがまくらちゃんと別れた事知ってた」

「えっ……!?」

 

 青年が思ってもいなかった真相を、突然告げてきた。

 

「夏休みの頃にはもう、アリスから話を聞いてたの……」

「……あ……」

 

 雪姫と気まずくなってしまった時に、一度は部から離れかけた後輩。

今ではすっかり天文部の中心人物で、次期部長が決まっている、雪姫の従姉妹。

 彼女を含めた天文部の皆には、まくらに振られてしまった事はすぐに知れ渡っていた。

 

「……それからは、暇を見つけたら。いつも、ここに来てたの……」

 

 ぽつり、ぽつりと語る雪姫は、相変わらず頭を計佑の胸へとのせ、顔は伏せたままだった。

 

「……本当は、すぐにでも、また連絡をとりたかった。

 ……でも、あの後の私は、ずっと計佑くんに酷い態度をとってたから。

 そんな自分勝手な真似、やっぱり出来なくて……」

 

 まだ少年への気持ちに、整理がつけられなかったから。

まだ好きだったからこそ、あんな風にしか振る舞えなかった。

 けれど、それは自分だけの都合。

 卒業して、少年の姿を見かける事すらなくなって、そうすると寂しくて堪らなくなった。

そうなって初めて、あれからの自分の振る舞いを酷く後悔したけれど、もうそれは後の祭りで。

 計佑が自分の態度に腹を立てているのでは、と思うと怖くて堪らなくて──

 

「……だから、奇跡の可能性にかけた。

 計佑くんが、私の事を思い出してこの公園に来てくれる可能性。

 私がこの公園に来ている時に、都合よく計佑くんも来てくれる可能性。

 ──計佑くんが、私の事を嫌いになっていない可能性に……」

 

 この公園は、雪姫にとって特別な場所。

 雪姫が初めて男子へと縋る事が出来た、初めて心を開けた、少年への気持ちを確立させた──

そんな、特別な場所だったから。

 計佑が雪姫の事を覚えていたら、この公園での雪姫の振る舞いの意味を理解できるようになってくれていたら、

計佑もまた自分同様にこの場所、あの時の事を特別に思ってくれていたら──ここに来てくれるのではないかと。

そんな可能性に縋って。

 

 夏から、ずっと──いつも。

この場所で、ただ一人だけを待ち続けていた。

 

「……そして、本当に計佑くんは来てくれた。

 私は……さっきも言ったとおり、この奇跡を、絶対に逃したくなんてないの……」

 

 胸に縋りついてきていた筈の雪姫の手が、いつの間にか計佑の背中に回されていた。

 

「……オレ……」

 

 凍りついていた計佑の手が、ついに融けて。

計佑の腕も、雪姫の肩の上から背中へと、とうとう回された。

 

「……オレなんかで、本当にいいんですか?」

「あなたでなきゃだめなの」

 

 最終確認にも、即答で返されて。

計佑の腕にも、少しだけ力が入った。

 

……それでも、この不器用な青年は、

 

「……でもオレは、先輩のこと忘れようとしてました」

 

 馬鹿正直に本当の事を伝えて。

それに対して、縋ってくるかのように雪姫の腕にぎゅっと力が込められた。

 

「だってオレには、覚えてる資格なんてないと思ってたから。

だから、早く忘れなきゃ、もう思い出す事だって許されないんだって。

……でも、テレビを点けてると、先輩の姿があって。

だったらテレビなんて見なければいいのにって、わかっててもつい見入って、見とれて……

……そのお陰で、先輩の事覚えていられただけで──」

 

『──そんな自分が、本当に許されるんですか?』

最後までは口にしなかったけれど、そんな意思を込めての質問に、

 

「……もう。最初と最後がなければ満点だったのに」

 

 雪姫が、ずっと伏せていた顔をようやく上げてくれて。

──その面には涙の跡があったけれど、それでも苦味混じりではあっても、笑みが浮かんでいた。

 

「何でも正直に言えばいいってものじゃないんだよ?

……でも、そういうあなただからこそ私はこんなにも好きになっちゃったんだから、愚痴は言えないのかな」

「…………」

 

 舌を軽く出してはにかんでみせた雪姫に、計佑が見とれる。

 

「……でも、そうなんだ。

嫌で嫌で仕方なかったんだけど、その仕事のお陰で計佑くんが私の事を覚えていてくれたなら。

……今、この瞬間があるっていうのなら、感謝しなくちゃだねっ」

 

 宵闇の中、外灯に照らされた雪姫の笑顔は幸せを湛えていて。どんな名画よりも美しかった。

少なくとも、青年にとってはそうだった。

 

──その雪姫の顔へ、ふわりと舞い落ちてきたものがあった。

 

「あ、雪……?」

 

 二人共、しばし無言で空を眺める。

 

「……ホワイトクリスマスだね」

 

 うっとりとした呟きが聞こえて、計佑が顔を戻した。

雪姫もまた、空から計佑の顔に視線を移して、改めて顔を赤くすると、

 

「……えへへ。今年のクリスマスは、人生で一番嬉しいクリスマスになっちゃった……」

 

──すりすりと、計佑の胸板に頬ずりをしてきた。

 

「こんな特別なプレゼント、もう絶対もらえないもんね……

初めての恋人が出来て、……きっと、最後の恋人になる人なの……」

「……っ……!」

 

 甘えきった声で、生涯の愛を誓ってきてくれる、この可愛い女性に。

自然と、計佑の手が動いていた。

 両手で、そっと雪姫の顔を挟んで。ゆっくりと、上向かせる。

ぴくっ、と震えた雪姫の、目は大きく見開かれていて。唇までも軽く開いていて、

そんな驚いた様子の雪姫が、こちらを見上げてきていた。

 その頬に残っている、涙の跡を優しく親指の腹で拭ってみせると、

ふるふるっと、また雪姫が震えて──睫毛も震わせながら、緩々と瞳を閉じた。

 

──雪姫が、また新たに零してしまった涙の上に、ひとひらの雪が舞い落ちて。熱い涙の熱で、一瞬で溶けた。

 

 そして、降りしきる雪の中。

二人は、いつまでも唇を交わし合っていた──

 

 

─────────────────────────────────

 

 <終章>

 

─────────────────────────────────

 

 それからしばらくして、雪姫は芸能界を引退した。

 雪姫が所属していた事務所は、もう看板女優になりつつあった逸材を逃すまいと、

どうにか翻意させようと縋ってきたらしいが、雪姫がまだ未成年だった事もあって、

あまり無茶な手段もとれずに。

 結果、それほど苦労する事もなく、雪姫は芸能界から逃れる事が出来たのだった。

 

 そして、計佑はエスカレートで雪姫と同じ大学へと進学した。

 雪姫は二年前に入っていた訳だけれど、進学後すぐから仕事に没頭していて休学状態だったので、

結局、改めて大学生活を一年生から始める事になって。計佑と同学年になった。

 

 そんな雪姫は、電撃引退した元人気女優というレッテルで、暫くの間は本当に大勢の人目を集めた。

 その騒ぎはやがて落ち着いてはいったけれど、元々そんなレッテルなど関係なく

人目を引きつけてしまう程の飛び抜けた美貌をもっていたから、やっぱりいつまでも注目の的だった。

 

──けれど。

 

 その隣には、いつも決まった青年がいた。

 好奇、羨望、妬み。色々な種類の視線が、その青年にも常に注がれていたけれど、

雪姫の隣にいる青年は、そんな有象無象の視線など特に気にする事もなく、いつも雪姫に笑いかけていた。

 雪姫もまた、その青年が隣にいる時には、いつだって満面に幸せそうな笑みを浮かべていて。

 

 その二人は、『大学一のバカップル』という微妙な──けれど、本人たちは喜んで受け入れていた──

No.1の地位を、四年間守り通して。

 

「ねえ計佑くんっ、結局どうしよっか? 私が『目覚』になるか、計佑くんが『白井』になるか──もうそろそろ決めないとっ」

「そうなんですよね~……オヤジとお義母さんはどっちでもいいって言ってくれてるのに。

お袋かお義父さん、どっちかいい加減折れてくれないですかね?」

 

 今日もまた、仲良く手を繋ぎ合って歩く二人は。

 

──やっぱりお互いに笑顔で、幸せな未来の為に軽く頭を悩ませているのだった。

 

 

    < 終 >

 

 

─────────────────────────────────

 

 <あとがき>

 

 この話は、26話のアトガキにおいては『投稿したくないなあ』といっていた短編なのですが……

結局、こうして投稿してしまいましたm(__)m

 考えが変わった理由はいくつかあるのですが、

 

・何人かの方に投稿を薦めてもらえた(^^)

・『長編なんてかったるいよ、とりあえず雪姫エンドみせてよ』という方もいらっしゃるかな、と思い至った^^;

・一向に後日談が進まないorz……仕方ないので、この話も投稿してみよう(-_-;)

 

……大体そんなところです……

 

 それでこの話についてなんですけど、最後らへんはともかく、基本的にはあえて暗めな話にしてみました。

いや、僕の好みからしたら明るいラブコメにしたいトコではあったんですけど……

 

 でも、どでしかでんでの読み切りとか、パジャカノ最終回辺りのどんよりとした雰囲気からすると、

濱田センセの好みはそっち系な感じじゃないですか?

 そして、この話は『原作最終回からの、その後』なワケなので、

ここはまあ、あまり好きじゃあないんだけど、それでも原作に敬意を表して暗めにしてみたという訳でm(__)m

 

ちなみに、僕好みのラブコメにするんだったら三章の最後らへんに

─────────────────────────────────

「……もう。計佑くん、背伸びすぎだよ……キスしてる間、ずっと上向きっぱなしだったから首痛くなっちゃったよ?」

「す、すいません……」

 

 計佑が腰を折って謝ると、こちらはずっと俯く形になっていたその後頭部から、積もっていた雪がバサリと落ちた。

 その結構な雪の量は、二人がどれ程長い間キスし続けていたのかを客観的に知らしめてきて、

その恥ずかしさに二人仲良く赤面して。

 青年はもう地面を見つめる事しか出来なくなって、美女の方は唇をむにゅむにゅとして、

そうしてキスを終えてからも、二人はまた暫くの間、その場でもじもじとし続けるのだった。

─────────────────────────────────

みたいなんを追加したいトコですね……(^_^;)

 

 計佑とまくらのあっさりした別れに関しては、

「まくらの気持ちを軽んじてる」

と言われるかもしれませんけど、でも僕には、

原作のあのラストからは『秒速0.05メートル』な未来しか見えなくてですね……

 

 まくらって、誰とでも打ち解けられる。仲良くなれる性格じゃないですか。

そして、重度の寂しがりでもあり。そんな人間に、遠恋は……? うーん(-_-;)

って思えちゃうんですよね。

 一方、雪姫先輩は。

親友であるカリナにすら壁を作ってしまっている(まくらも意地っぱりな部分あるけど、雪姫程ではない気が)、

人を選びすぎる性格で。

 そういうワケで、まくらの心変わりは十分有り得そうで、

けれど雪姫だと一途を貫くというのが大いに有り得そう、というのが僕の妄想でした。

 この辺の屁理屈は……そうですね、これはちょっと極端かもですけど、ホワルバ2のかずさとかみたいな? 

……キャラでいったら、雪菜のが全然雪姫先輩ぽいですけど(^_^;)

 

 そうそう、話が逸れちゃうんですけど、雪菜って雪姫先輩と良くにてるな~って思っちゃったのがきっかけで、

今度はホワルバ2の同人小説やってみようと思ってるんですよね……

……まあ、まずはパジャカノ・パラレルの後日談を終わらせてからじゃないと、ですけど……

 

 雪姫先輩がまだ二十歳の誕生日迎えてないっていうのも、ホワルバ2の雪菜の話を見ての発想です。

いや、そんなんなくても普通、名前の漢字ですぐ分かるだろって言われたら、

『僕、ニブチンなので……orz』としか返せないのですけど……

 

 ところで、この短編の雪姫先輩は、ちょっと腹黒っていうか、計算高くなってしまっています。

 原作先輩には、微妙に黒い影が潜んでるようなないような……?

という点に関しては、パジャカノパラレルのアトガキでも言及した事ありますけど、

(そもそも原作先輩は、入学式の時点でまくらの存在とか知ってるワケで、

彼女の存在を何となくでも承知の上でのアタックですからね……そして、まくらの引っ越しを知って?

デートに誘ったんでは……といった不安があったり(-_-;))

 まあ、そんな先輩が、失恋という大ショックや、芸能界という地獄での生活を余儀なくされたりで、

ちょっとやさぐれちゃったり、したたかにもなってしまったかも、なイメージです(-_-;)

 

……それでも、最後ら辺の熱い告白とか、

終盤ではきっちり僕好みの絶対一途っコにしてあげられたとは思うので、自分では満足してます。

 

 

─────────────────────────────────

  『オマケ』

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冗談なのに、本気にしちゃったの? 辺りの雪姫視点。↓

─────────────────────────────────

 

──何をやってるんだろう。今更、意地なんてはって。

 

 ここまでの観察で。

虫の良すぎる自分の期待、余りにも身勝手だった夢が、奇跡のように叶っている事はわかった。

だったら、あとは正直に気持ちをぶちまけてしまえばいいだけなのに──

 青年の気持ちが自分に残っているという、そんな幸せすぎる現実を理解したら、

嬉しい気持ちと同時に、怒りや哀しみの感情までも併発していた。

 

 二年も経つのに、まだそんな風に私の事を意識してくれてるくらいなのに。

……それなのに、あの時はあんな風に私を切り捨てたのか。そんな負の想いも沸き上がってきて。

 あの時の世界が終わるかのような悲しみと、

それからの二年間、見せかけの笑顔ばかりが上手い人間が跳梁跋扈する、ドス黒い世界での

生活を過ごすせいで積み重なった鬱憤が、安心した瞬間に吹き出したのかもしれなかった。

 

──だからって。こんな風に笑ってしまったりしたら……

 

 いくら優しい青年でも、これでは怒るかもしれない。

こんな、純情を弄ぶような振る舞いをしてしまって。

けれど、そんな恐れがあっても、それでも尚笑いが止められなかった。

 

 そうして、ぐるぐると渦巻く様々な感情がまるで制御できなくて、笑い泣きしか出来ずにいたら、

青年は……雪姫にとって怒ってくる以上に恐ろしく、そして絶対に許せない行動をとろうとした。

自分を置いて、消えようとしたのだ──二年前の、あの夏の最期と同じように。

 

 その瞬間、雪姫の中から幸せに属する感情は消し飛んで。

ぐちゃぐちゃだった色々な感情は、二つに統一された。怒りと、哀しみという二つだけに。

 

──また私を置いて行こうなんて、そんなの絶対許さない……っ!!

 

 その尖った感情に突き動かされて、雪姫が手を伸ばす──

─────────────────────────────────

 

 

 <以下メモ的なものとか。下書きや思いつき、その他諸々を

順番も何もかも雑多に書き残してるダケなのでお暇な方だけどうぞ……>

 

笑うと可愛いのに、微笑の時にはぐっと大人びた雰囲気を漂わせてきて。吸い込まれそうになる美しさ、

テレビで見慣れてるハズなのに、間近でみるそれはやっぱり

 

計佑がかっこ良くなったという雪姫発言、

もちろん、雪姫は本気でいってる。再会した瞬間の雪姫の驚き具合がその証拠のつもり。

ずっと計佑が来るのを待ってたのに、あっけにとられたアクションをしてるのは。

でも、ここはそうとられずに『ああ、待ち望んでいたクセに、偶然の出会いみたく振る舞ってしまえるような、

ちょっと黒い先輩になっちゃったんだな……』と思われても、それはそれで良し?

 

空白の二年間の、やさぐれてる雪姫を書くのも面白そう?

腹黒硝子を書くのも楽しかったし、それの亜種みたいな。

言い寄ってくる、股間に脳みそついてそうな男に

「……気持ち悪い。それしか考える頭ないクセに、

なんで言葉なんて使えるんだろう。周りくどい真似なんかしない猿の方が、よっぽど好感もてるよ……」

とか氷点下の心で見下してるとか。

 

あの時の話はやめて。思い出したくないの

 

「ごめんね、あの頃はまだ好きだったからどうしても普通にはっ」

……そっか、それはつまり普通にしてる今はもう……

当たり前なのに、胸が痛む気がした。なんて身勝手な、と思うけれと

 

大げさにならないように、静かに 十分注意して。軽く頭を下げながら

 

 本編ではキミ呼びだったけど、あえてあなた呼びに変更。

 

いたたまれなくなって、立上る。一瞬でも変な期待をした自分が恥ずかしくてたまらなかった

「……それじゃあ……」あるいは「しっしつれいします!!」

 

「ダメになるって分かってて……私のコト振って、まくらちゃんを選んだんだ?」

 

まくらとはわかれた「……やっぱり顔をあわせられないってのは難しいんですね」

→でもここから雪姫とくっつくんだからやはり雪姫は特別、っと(^^)

「いま付き合ってる人はいるの?」

「いません。先輩に好かれたりしたのが、奇跡のモテ期だったみたいですね」

「……そうなんだ」

「映画とか、いつも見てますよ」

 

あの時と違い、一気に計佑の手を引いて、ぐらりと振り向いた計佑にキスをして──

あるいは、爪を立てるほど強く握ってきて。いたっ……と振り向いたところに。

 

「私のコト、忘れちゃってた? なんとも思ってない? ……そんなコトないよね?

さっき、私の言葉に嬉しそうな顔してたもん……」と

 

オレは忘れようと。もお、そういうコトは正直に言わなくていいのに……

 

「オレだって先輩のこと、忘れたりはしませんでした……忘れようとはしてたけど

 

随分と抵抗電撃引退。もちろんドラマの話もなし。ていうか、キスシーンの話ももしかしてウソだったかも?

 

そっか、いやいや続けてた仕事だけどそのお陰なんだ……だったらよかったかな

 

雪が溶けた、のとこは解けたのほうが漢字としては正しいぽいけど……感覚的に溶けたとした

 

降り始めた最初のひとひらは、雪姫の涙の上におちて、とけて──流れ落ちた

 

「こんな特別なクリスマスプレゼント、他には絶対ないもんね……

初めての恋人が出来て、……きっと、最後の恋人になる人なの……」

 

 缶を押しやられた時の雪姫の心境は──

『やっぱり、嫌われちゃってる……!!』かな?

待ち望んでて、ついに来てくれた、すごく嬉しい。もしかしてこれは───と期待したけれど、

あまりに余所余所しい態度に、ショック。けれどあの頃より良くも悪くもしたたかになった雪姫は、

明るく振る舞ってみせた、とか。

 

忘れるためにイヤだった仕事に没頭して、けれどその結果男がよってきて。

けれど、どんなに寂しくても、そんな下心丸出しの男たちになんてと。仮面笑顔で突っぱね続けて──

ずっとずっと、この青年だけを。

 

"不自然なくらい" さり気なさを装って、近づいてくる男、

 

遠くから見ているだけでも幸せだった by境界のリンネ。

↑こっちにも適用するか。いつも遠くから見てたよ。……んー。卒業から2年たつてるからなあ。どうかな

 

 言える筈がなかった。

『あなたの事を思い出していたら、つい足が向いて』……なんて。

元々の流れ↑

 

 夏から、ずっと──ずっと、ここで待っていた。

 

私が甘えられるのは、やっぱり貴方しかいないんだもの!!」

だって!! 貴方しかいないんだもの、貴方しか好きになれなかったんだもの

ホワルバ2の雪菜のセリフから↑ 下心なくきたのは春希だけだった

 

私、ずっと忘れたことなかったんだから!! ここまで好きにさせた責任、ちゃんととってよぉ!!」

泣きじゃくる

 

──……まあ……自分を振った男の恋愛事情なんて、そりゃあ興味ないよなぁ……

↑↑ もちろん、そんなワケない。だったら、計佑が言葉につまった時に重ねてきいてくるワケもなく。

 

 その涙声には、どこか複雑そうな響きが込められていた。

↑嬉しくもあり? 自分が好きになった計佑のままだと安心できる部分もあるので

 

 顔もどんどんと熱くなっていく。

それでも、まさかの展開にまともに口も開けないでいたら、

↑ 計佑この辺で実は嬉しそうな顔なり浮かべるとか

 

「あははははっ、口下手だった計佑くんが、そんな風な誤魔化し方出来るようになったなんてね~?

うんうん、『弟』くんの成長に『お姉ちゃん』は、やっぱり感無量だよ~」

「……っ……」

↑↑ここでは、雪姫も卑怯にも誤魔化しにかかってるね……

笑ってごまかしてるけど、内心はすごく焦ってたり。

 

すっかりかっこよくなって。背も伸びてるし。あの頃は可愛い感じだったのにね

↑キスさせる時に注意 立ち上がりきる前に掴まないと雪姫は

 

 

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