ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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お久しぶりです。今回からようやく原作一巻の話に入っていきます。

更新が遅いですが読んで下さっている方がいることに感謝し、徐々に筆を進めていきたいと思います。


19話『馴染みの顔ぶれ』

「あいつ…どうやって動いてるんだろうなあ」

 

腕を組んでぼそりと呟いた声に帰ってくる声はない。最前線…74層迷宮区。ソロプレイヤーということもあり、辺りは静かだ。目の前からカシャンと言う音が時折聞こえる以外は。

目の前のモンスターにフォーカスを当てるが、どう見ても動いてるカラクリは分からない。学校にあるような全身骨格が糸も何もなしに直剣を持って動いているのだ。しばらく眺めていると、全身骨格──モンスター名〈デモニッシュ・サーバント〉はあるはずのない眼を俺に向けたような気がした。

 

「おっと、気付かれたか。まあ、逃げる気もねえけどよ」

 

背中から愛剣を抜き放つと、構える。とは言っても、自然体で、左足を前にやや半身。剣先は右足より少し離れたところの地面すれすれに下ろす。

 

「…来いよ」

「ふるるぐるるぅ!」

 

俺の声に反応したのか定かではないが、骸骨は──どこから声を出しているのか──唸った。骸骨が持つ直剣が光を灯す。片手剣ソードスキル〈シャープネイル〉。隙の少ない三連撃として愛用する人が多いこのソードスキルだが、言い返せば、相手が使ったらなんとも厄介なソードスキルだ。

何とかステップ回避するが、三連撃目が肩口を掠めた。HPバーが僅かに減少する。

 

「よっ!」

 

反撃とばかりに骸骨に攻撃の剣を振るう。片手剣ソードスキル〈ホリゾンタル・アーク〉が骸骨のHPを三割ほど削る。

ここで二人ともソードスキル特有の技後硬直に陥る。技の発生は相手が先だが、連撃数はこちらが少ない。連撃数が少ないほど硬直も短い…と考えた所で硬直が解ける。コンマ何秒という差で骸骨も動き出す。

骸骨は剣を振るう。ソードスキルでもない袈裟斬りを避け、再びソードスキルをカウンターのように発動。片手剣ソードスキル〈デッドリー・シンズ〉。七連撃を骸骨に叩き込むと、骸骨はポリゴンを撒き散らしてその姿を消した。

 

「ふう…一応回復しとくか。えーと…ポーションは…ん?」

 

約7割となったHPを回復しようとメニューを開き、アイテム欄を漁る。様々な素材アイテムだったりドロップ品はごちゃごちゃとあるが、肝心のポーションは見当たらない。

 

「…戻るかな。」

 

既に迷宮区をあらかたマッピングし終わったので今日は終わることにして、ポーションを買いに行くことにした。74層の街で買おうかと考えたが…50層の故買屋の顔が浮かんだ。

 

「…そういや、最近顔出してねえ。そっちにするか。」

 

故買屋のエギルの所に行ってない理由はいくつかある。ストレージが容量いっぱいになったら売りに行こうと考えてたり、50層の道が複雑すぎて覚えてないので、手近なNPCの店で済ましたりなど。

迷宮区の今まで来た道を戻ることにした俺は、とりあえず敵とのエンカウントを最小にして、安全第一で迷宮区を出ることにした。

 

 

 

主街区まで無事に抜けると、転移門を経由して、50層〈アルゲード〉に着いた。多少迷いながらも何とか目的地の故買屋に着くと、そこには見知った先客がいた。

 

「よう、久しぶりだな、アキヤ」

「お、アキヤ。」

 

店内で色黒巨漢のエギルと交渉中なのか、カウンターに寄りかかるように〈黒の剣士〉キリトは立っていた。近付いてキリトと向かい合うようにカウンターに肘をつく。

 

「久しぶりなのは否定しねえ。それが終わったら俺も買い取り頼む」

「おうよ。…そうだ、アキヤも見ろよこれ。良いよな、キリトよ?」

 

キリトが頷いたのを確認してから、顔をそちらに向ける。キリトによって可視化されたウィンドウを見ると、〈ラグーラビットの肉〉と表示されていた。

 

「これって確か…S級食材だったっけか。お前が食えば良いんじゃねえの?」

「いや、確かに食いてえけど、これを調理できる程料理スキル上げてるやつなんて…」

 

この世界の料理の上手い下手はスキルによって決まる。料理スキルは熟練度上げが面倒だと聞いたこともあるし、そこまで上げている奴、というのは専門職か、あるいは…

そこまで考えた時、キリトの肩に手が乗せられた。そして、穏やかな声で、その声は発せられた。

 

「キリト君」

 

声に目をそちらに向けると、栗色のロングヘアが視界に映った。さらに白と赤の騎士装が映えるその女性──アスナ。

キリトは乗せられたアスナの左手を掴むと、振り返り様に言った。

 

「シェフ捕獲」

「な、何よ…あ、アキヤ君。」

 

キリトに左手を掴まれているので、右手でひらひらと手を振るアスナ。俺はちらりとアスナの後ろの二人を見ると、無愛想に返した。

 

「…よう、〈閃光〉」

 

そう返すと、アスナは一瞬不機嫌そうな顔を見せたが、追求はしなかった。

俺も普段はアスナのことを〈アスナ〉と呼ぶ。が、他に初対面の人がいたり、その他事情があれば〈閃光〉や〈副団長〉などと呼ぶときもある。

 

「…で、何よ、シェフがどうのこうのって?」

「あ、そうだ。今料理スキルどのへん?」

 

キリトの言葉に、アスナは得意気な顔を浮かべた。

 

「聞いて驚きなさい、先週に〈完全習得〉したわ」

「なぬっ…その腕を見込んで頼みがある。」

 

キリトが可視化したウィンドウをアスナに見せると、アスナは驚きに目を見張っていた。次いで、キリトを見て詰め寄るように問い詰めた。

 

「こ…これって…S級食材!?」

「取引だ。こいつを調理してくれたら一口…」

「は・ん・ぶ・ん!」

 

半ば脅されるようにキリトが頷くと、アスナはガッツポーズを見せた。そしてキリトは振り向いてエギルを見た。

 

「悪いな、そんな訳で取引は中止だ。」

「いや、それはいいけどよ…。なあ、オレたちダチだよな?な?オレにも味見ぐらい…」

「感想を800字以内で書いてきてやるよ」

 

そりゃあないだろ、とまるでこの世の終わりかとでも思えるエギルの声に思わず笑いそうになるのを堪えると、店の外に向かおうとしていたキリトのコートの袖をアスナが掴んだ。

 

「料理はいいけど、どこでするつもりなのよ?食材に免じてわたしの部屋を提供してあげてもいいけど。」

 

さらりと凄まじいことをいうアスナに、俺は大胆だなあ、と思っていると、キリトはどうやらアスナの言葉を理解するのにだいぶラグっているようだ。それを気にせず、アスナは後ろの二人に向き直った。

 

「今日はここから直接〈セルムブルグ〉まで転移するから、護衛はもういいです、お疲れ様」

「ア…アスナ様!こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、素性の知れぬ奴をご自宅に伴うなどと、と、とんでもない事です!」

 

叫んだのは、後ろの長髪の男。白と赤の騎士装からみてアスナと同じ〈血盟騎士団〉…KoBの連中だろうが。〈様〉を付ける奴は初めて会うかも知れない。当のアスナも相当にうんざりとしているようで。

 

「このヒトは、素性はともかく腕だけは確かだわ。多分あなたより10はレベルが上よ、クラディール」

「な、何を馬鹿な!私がこんな奴に劣るなどと…!──そうか…手前、〈ビーター〉だろ!」

 

クラディールが言い放つ。それに対し俺はああ、やっぱりな、と言う感想が浮かんだ。かのビーター騒動からおよそ2年の月日が経っても、まだいるのだ。〈ビーター〉をこう言った話し合いに出す輩は。キリトが口を開きかけた時、俺は喚いたクラディールという輩に言い放った。

 

「あいにく、〈ビーター〉は俺だ。どこで聞いたかは知らねえけど、どこの誰かくらい確認してから話せよ」

 

その言葉に、クラディールは黙った。まあ、あれだけ自信満々に言ったのが外れたのだからしょうがないか。

そんなクラディールに、俺は嘲るように両の掌を上に向けて言った。

 

「そう言った情報の誤差が、今後に響いてくるっての、覚えといた方がいいぜ?攻略組トップギルドに所属してても、名ばかりじゃあたかが知れてるな」

「…なんだと、貴様ァ!」

 

クラディールはつかつかと俺に詰め寄る。思った通り、こいつは1つ苛立つと視界が狭くなるタイプだ。猪突猛進といえば良いだろうか。

それなら、と俺は下ろしている左手の人差し指を軽く動かす。『早く行け』のサインだ。アスナが気付いたのか、キリトを引いてゆっくりと動き出した。

 

「もう一回言ってみろ貴様ァ!私は栄光ある〈血盟騎士団〉の団員だぞ!」

「何が団員だよ。副団長に呆れられてる団員がどこにいる。それに…」

 

ちらりとクラディールの後ろに視線を向けるが、そこには誰もいなかった。もう一人の護衛はどうやらアスナの命令に従ったようだ。

 

「…さっさと帰りやがれ。〈閃光〉がいないんじゃ俺とお前の喧嘩にしかならねえぞ。」

 

その声に、クラディールは後ろを向いて、ギリギリと歯を食い縛った。次いで、白のマントを翻してすたすたと出ていった。

俺はカウンターに若干意気消沈しているエギルに声をかけた。

 

「…悪いな。騒がせた」

「なあに。あのくらいなら良いってことよ。…さて、買い取りだったか」

「ああ。あと、ポーションくれ。」

 

トレードウィンドウを表示させて、エギルの鑑定を待つ。カウンターに寄っ掛かりながら待っていると。

 

「…なあ。何でアスナのことネームで呼ばねえんだ?」

「んあ?ああ…ああいう奴等がいるからだよ。仲が悪いようにしといた方が色々都合が良いんだ。まあ俺が粗方のギルドと仲が悪いんだけどよ」

 

俺が仲が良いギルドというと、クラインの所の〈風林火山〉くらいで、残りは個人として仲が良い人はいても、ギルド全体としてはそこまで、という所が多い。

アスナは現状攻略を指揮する身。俺のようなはぐれ者よりも、ギルド間との繋がりが重要になるだろう。それなら、と俺は仲が悪いように振る舞っている。

 

「ま、大方このままソロだろうな。俺を迎えたいなんてかなりの変人ギルマスでもない限りねえだろ」

「おいおい…無理すんなよ?ほら、料金だ。」

 

そう言って提示された金額に目を下ろすと、それなりの金額が表示される。OK、と取引を終わらせると、俺はカウンターからしばらくぶりに離れる。

 

「…ま、安全第一でやるさ。騒いだ詫びは今後何かで返すからよ」

「いいってのによ。…毎度あり!」

 

店の外に出ると、既に日は暮れかかっていた。明日また迷宮区に行くか、と心の中で確認すると、帰路に入った。

 

 


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