ソードアート・オンライン -sight another- 作:紫光
今回の話はほぼオリジナルに近いです。原作にも一行あるかないかの文ですので、、、
話に進展はほぼありませんが、読んでいただけると幸いです。
「…と言うわけで頼みたいんだが」
「つってもなあ…ウチの2階だったら好きに使って良いんだぜ?」
数日経って再びエギルの店に顔を出した。ここの所顔を出してるのはエギルにもっと顔を出せと叱られたからだ。あの顔で叱られるのはなかなか怖いものがある。
目の前でもっぱら口論中なのは、店主…エギルと、数日振りに会うキリト。
「…何やってんだ?」
「あ、アキヤ。よう。」
いつも通りのキリトの返答だが、何やら以前とは違うような気がした。次の瞬間、俺は違和感に気づいた。
「ああ…なるほど。アスナと結婚おめでとう」
「んなっ、な、何で…」
「…それ。」
俺が指差したのは、キリトの左手。左手の薬指に指輪が嵌まっている。わずかにしか見えなかったが、恐らくは結婚指輪だろう。そして、キリトがここ最近共に過ごしていたといえばアスナだろうと結論に至った。
「…んで?新婚がどうしてここにいるんだ?」
「あ、ああ。それなんだけど…ログハウスを買おうと思って、エギルに手持ちのアイテムを売りに来たんだ。」
「ふーん?」
悪い話では無いだろう。しかし、SAOの家というのはまた高価な物であって、買うには莫大な金…コルが必要なはずなのだが。目の前の店主は渋い顔をしていた。
「あのな、キリト。安く仕入れて安く提供するのがウチのモットーなんだよ。」
「疑わしいもんだな」
「うるせえよ、アキヤ。…ともかくだ。それを買い取ることに関しちゃ文句はねえが、それが売れねえと意味がねえんだよ。でねえと、金が工面できねえ。あんまり高いレアアイテムだと欲しがる人ってのもあんましなあ…」
エギルが申し訳無さそうに頭を掻いた。とはいえ、エギルも商売人であって、その辺に関しては敏感なのだろう。
「…んじゃ、俺にくれよ。金は払う」
「はあっ!?いや、マジで高いぞ…?」
エギルが驚きにのけ反る。どれ、と現在商談中のキリトのウィンドウを見せてもらうと、それなりの金額は表示されている。確かに安くは無いだろう。
「なるほど…ほれ。」
「…おいおい。」
キリトが思わず唸った。先程表示された額をそのまま打ち込んでトレードウィンドウを向けただけなのだが、金額が金額だけに表情は強ばっている。エギルがマジかよ、と溢しながら声を出した。
「おいおい…正気かよアキヤ?それ払ってオメーが生活出来ないんじゃどうしようもないぜ?」
「…悪いけど、俺それの倍以上持ってるからな?」
「「はああっ!?」」
二人が驚くのも分かるが、俺は肩を竦めて応えた。今の装備は大半がモンスタードロップや、トレジャーハント、すなわち宝箱から手に入れたものであり、金はかかってない。以前からそんな装備をつけており、余った装備は売却。
買う面ではポーションを時々、結晶を稀に。あとは剣のメンテ、強化代くらいしか支出がないのだが、買うものも特になく貯まりに貯まっている。
「いや流石に…」
尚も遠慮気味のキリトに、俺は手を軽く振った。持ってけと言わんばかりに。
「んじゃ結婚祝いも兼ねとく。何だったら上乗せするけど?」
「い、いや、流石にもう充分。アスナにも言っておくから」
それじゃ、とキリトは出ていった。俺はエギルに買い取りの査定を頼むと、カウンターに寄りかかって待つことにした。
「しっかし…さっきの額がありゃ、自分の家買えるだろ?買わねえのか?」
「…あいつみたいに相手がいりゃ話は別だが、俺一人だったらいらん。それに、あいつには色々と恩があるもんでな」
なるほど、と言って査定に戻ったエギルに、俺は外の様子を見ながら査定を待つことにした。
それから数日。75層の攻略は僅かに遅いが、確実に進んでいた。俺は偶然フィールドで会った〈風林火山〉と攻略を進めていた。
「…やーっぱ、あいつらがいねえと進むのも遅えなあ。いや、着実に進んではいるんだけどよ」
「しゃあねえだろ。今まで指揮執ってたアスナもいねえし、俺とほぼ同じペースだったキリトもいねえんじゃな。逆に今の戦力にしては速い方だと思うけどな」
クラインの言葉にそう返すと、クラインは頷きながらもあーあ、と溜め息を吐いた。
「キリの字とアスナさんが結婚ねえ…オレも出逢いねえかなあ…」
「…余計なこと考えてると死ぬぞ。そう言うのは〈圏内〉でやってろ」
俺の言葉に、クラインが更なるため息。そして、〈風林火山〉からもため息。クラインと同じ状況なのか、哀れんでいるのかは定かではないが。
「そういやあよう、お前ェは行ったか?キリトんとこ。オレァ昨日行ってきたんだけどよ、22層、良いとこだったぜ?」
「…へえ。今度行ってみるかな。攻略が少し落ち着いたらな」
とりあえずフィールドボスを倒してからかな、と心の中で考えると、目の前にモンスターが湧出した。75層のフィールドもだいぶ攻略したよなあ、と思いつつ、横の野武士を見た。
「さて、戦闘だ。クライン、俺は危なくなったら助太刀に入るから。」
「よし!やるぞお前ェら!アキヤの手煩わす前にカタ付けるぞ!」
戦闘を譲った訳は、簡単に言えばレベル差のせいだ。俺は先日92までレベルを上げ、安全マージンよりもかなり上のため、今回はクラインたちの助っ人として参加しているわけだ。
(さて、キリトとアスナの手を煩わす事なく進められればいいんだが…)
新婚の二人を呼び戻すのは忍びない。せめてボスまではゆっくりしてて欲しいものだ。
そう思いながら、目の前の戦闘に目を向けた。どうやら、早々にカタは付きそうだった。