ソードアート・オンライン -sight another-   作:紫光

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お久しぶりです。執筆の時間が思うように取れず、だいぶ時間が空いてしまいました。

無理せずマイペースに進めていきたいと思います。
読んでくださっている方には申し訳ないですが気長に待っていただけると幸いです。


25話『75層ボス』

55層〈グランザム〉に訪れたのは理由があった。ここにいる人物…ヒースクリフに用があるためだ。

この城塞のような〈血盟騎士団〉の中でも大きな扉の部屋の前に立つと、俺は扉を押し開けた。

 

「…よう」

「…ノックくらいしたまえ、アキヤくん。」

 

中には一人、ヒースクリフのみが腰かけていた。俺は扉の脇の柱に腕を組んで寄りかかった。

 

「そいつは失礼。社交辞令とかは抜きで、本題から頼む。予想も多少ついてるしな」

「なるほど。もうちょっとこっちに来たらどうかね?」

「…どうせ聞いてるのは俺一人。しかもシステムによって俺に聞こえないこともないし、外に聞こえることもないだろ?なら、この位置でも充分だ」

 

そう言うと、ヒースクリフはその真鍮色の瞳を細めて俺を見た。俺がその瞳を片目を瞑って受け止めると、ヒースクリフは話し始めた。

 

「偵察隊は5ギルド合同の20人で行った。その結果として得られたものは…ボスの詳細は不明。〈結晶無効化空間〉は74層同様。更に、脱出不能。それが、生き残った偵察隊からの報告だ」

「…何人死んだ」

「半分だ。残念ながらな…今回のボスは可能な限りの大部隊で当たることにする。ボス戦への集合は午後一時、75層転移門。…参加を待っているよ」

 

そう言うと、ヒースクリフは言うことはない、と言うように目を伏せた。30秒ほど互いにそのままだったが、そのあと俺は入ってきたドアから外に出た。

 

 

 

12:45分頃、75層転移門には攻略組が少しずつ集まってきていた。俺が転移門に着いたのは今からおよそ5分前だが、その間にも一人、また一人とその数は増している。

 

「よう、アキヤ」

「…へえ。こりゃまた頼もしい人が来たな」

 

俺に声をかけたのは、低いバリトンの声の、エギル。彼も攻略組の斧使いではあるのだが、商人としても有名なため、ボス戦に参加するかは分からなかった。

その横に、赤髪の侍が並び立つ。クラインだ。

 

「よお、二人とも。アキヤは前も一緒だったけどな」

「あれを一緒と呼ぶかは謎だけどな。鉢合わせたといった方が正しいだろ」

 

74層ボス戦を攻略組で体験したのは俺、キリト、アスナ、クラインの4名。〈風林火山〉の面々は〈軍〉の救援に当たっていたので、実質4人だったと言える。

 

「お前さんらが参加してくれるだけでオレみたいな奴はだいぶ心強いんだ。頼りにしてるぜ。」

「おうおう、言ってくれるじゃねえか、エギルよう。こっちもお前ェみたいなタンクがいてくれると心強いぜ」

 

互いに褒め称えるクラインとエギル。この二人ともなかなか長い付き合いになったものだ。

そんな感慨に浸っていると、転移門から向かってくる影が2つあった。

 

「…来たか」

 

俺の声に、エギルとクラインがそちらを向いた。クラインがつかつかと歩み寄ってよう、と肩に手を回す。回された人物…キリトは意外そうな顔をしていたが。

 

「何だ、お前らも参加するのか」

「何だってことはないだろう。今回は苦戦しそうだって言うから商売投げ出して加勢に来たんじゃねえか。この無私無欲の精神を…」

 

エギルが言うと、キリトは大柄なエギルの肩に手を置いて答えた。

 

「無私の精神は分かった。じゃあお前は戦利品の分配から除外していいのな」

「いや、そ、それはだなあ…」

 

エギルが困ったように声を上げると、辺りに少し笑いが広がった。キリトは俺を見ると、軽く頷いた。俺も軽く頷き返す。

その時、転移門に新しいエフェクトが発生し、それを機に再び空気が引き締まる。出てきた人物はヒースクリフ含め〈血盟騎士団〉数名。ヒースクリフは辺りを一瞥すると、大きく声を上げた。

 

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。──解放のために!」

 

その声に、辺りのプレイヤーはときの声を上げる。ヒースクリフという男の強さかカリスマ性か、反するプレイヤーは一人もいない。

その後、キリトに一言ほど話したヒースクリフは、集団に向け、片手を挙げた。

 

「では、出発しよう。目標のボスモンスター直前の場所までコリドーを開く」

 

コリドー・オープン、というヒースクリフの言葉に、近くに青い光の渦が現れる。最初にヒースクリフが通り、その後にKoBの隊員が続いた。辺りの人が少なくなってきた辺りで、俺もコリドーをくぐった。

迷宮区は中々に暗い。攻略の際にも思ったが、この層の迷宮区は他の層とは若干異なり、黒曜石のような黒い石で随所作られており、空気も他より湿っている。

 

「…よっ、と」

 

近場の柱に背中を預け、腕を組んで目を閉じる。深呼吸し、呼吸を整えると、うっすらと目を開ける。

辺りではプレイヤーがそれぞれ装備の確認をしていた。しばらく経つと、十字を象った盾を持ったヒースクリフが再び集団に向かって声を発した。

 

「皆、準備はいいかな。今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報がない。基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、攻撃パターンを可能な限り見切って、柔軟に攻撃して欲しい。では──行こうか」

 

ヒースクリフが大扉に手をかける。あの奥にボスがいるのだろう。隣を見れば、いつのまにかクライン、エギル、キリトが見えた。

 

「死ぬなよ」

「へっ、お前こそ」

「今日の戦利品で一儲けするまではくたばる気はないぜ」

 

3人のやり取りに、軽く笑みを浮かべる。何ともふてぶてしいやり取りは彼らならでは。前を向くと、隣からキリトの声が聞こえた。

 

「アキヤ…頼むぜ」

「お互い様にな」

 

前を向いたまま答えると、もう声は飛んでこなかった。前で大扉が重々しい響きと共に開き出す。俺は背中から愛剣を抜き取った。

 

「──戦闘、開始!」

 

ヒースクリフのその声と共に、攻略組がボス部屋へとなだれ込む。クォーター・ポイントの長い戦いが、今幕を開けた。

 

 

 

中は大きな半球状の部屋だった。後ろで大きな音と共に扉が閉まると、数秒沈黙が訪れる。

 

(…どこだ…どこかに…)

 

ボスが姿を現さない。その事に、皆が辺りを見渡す。神経を研ぎ澄まし、視覚、聴覚をフルに使って探していると、カツン、という音が聞こえた。

 

「上よ!」

 

アスナの声に、上を見上げた。ドームとも言える半球の天井──そこに、奴はいた。

全長は目測で10メートルほど。百足のような体だが、それらはすべて骨。先端には頭蓋骨。その近くにあるのは…形状からして鎌か。

ボスの名前が表示される。〈The Skullreaper〉──骸骨の、刈り手。その時、ボスが足を開くのが見えた。

 

「──落ちてくるぞ!」

「固まるな!距離を取れ!」

 

俺の声に、ヒースクリフが指示を出す。落ちてきたボスは、近場のパーティーに狙いを定めたようだ。僅かに遅れた3人に鎌を振りかぶる。

 

「こっちだ!早く!」

 

キリトが叫び、3人も走り出すが、ボスが落ちた衝撃でたたらを踏んだらしく、ボスの鎌が3人を襲った。HPはグリーンからイエロー…レッド──そして、消えた。

 

(…嘘だろ…)

 

声にならなかった。攻略組の、ハイレベルプレイヤーが、たった一撃で、死んだのだ。その光景に、全員が動けなかった。骸骨の百足は近くのパーティーに鎌を振りかぶる。

 

「うわあああー!」

 

しかし、今回は鎌は止まった。飛び込んだヒースクリフの盾によって。ガッシリと受け止めた盾はびくともしない。流石の防御力としか言いようがないだろう。

もう一方の鎌が振り上げられる。まずい、と思った瞬間、キリトが飛び出していた。両手の剣で鎌を受け止めると、そこに合流したアスナと共に鎌を弾き返す。

 

「大鎌は俺たちが食い止める!みんなは側面から攻撃してくれ!」

 

キリトの声に、俺は側面向けて駆け出す。側面に張り付くと、ソードスキルを発動。片手剣ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉。四連撃を叩き込むと、ボスのHPはほんの僅かに減った。

 

「アキヤ!」

「クライン、エギル!スイッチ!」

 

後ろに迫っていた二人と立ち位置を変わると、二人が今度は攻撃を叩き込む。攻撃に特化した武器だけあって、ボスのHPは目に見えて減った。

その時、悲鳴が聞こえた。その方向を見れば、ボスの尻尾──槍状の骨が数人を薙ぎ払われるのが見えた。

 

「…アキヤ!頼む!」

「無茶言うぜ…ホントによ!」

 

キリトの言葉に悪態を付きながらも、側面から後方へ。振り回されている槍状の尻尾を弾くと、重めの衝撃に顔をしかめる。

しかし、鎌と違って、そこまでダメージが大きい訳でも無さそうだ。これなら俺でも弾けるだろう。

 

「こっちは任せろ!」

 

短く叫ぶと、攻略組の面々が次々に側面から攻撃を開始する。ボスが叫び、時折破砕音が響く中、死闘とも呼ぶべき戦いは続いていった。

 

 




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