貴方が隣にいる世界 -Cthulhu Mythos-   作:柳野 守利

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第101話 まだ……

 慌ただしく動きまわる看護婦達の間を通り抜け、病室の扉に手をかける。開いてみると、おびただしく積み上げられた果物がまず一番に目に入ってきた。その他にも包装された箱なんてものも置いてある。それらは基本白でまとめられている病室の中では異質に思えた。

 

 しかし、目当てはこれではない。ひとつだけポツンと設置されたベッドの上に眠っている男の子がいる。眠っているのか、瞼は開かれておらず、規則的に胸が上下に動いていた。

 

 なるべく足音を立てないようにして、窓際まで歩いていく。そこから下を見下ろせば、病院の前には多くの人が群がっていた。カメラを持っている輩もいる。正直見るに堪えない惨状だ。取材拒否と何度伝えたら消える気だ、アイツらは。神がいるのだとするならば……見ろ、人がゴミのようだ。そう伝えてやりたい。

 

「……あの」

 

 集めきれなかったゴミが世間の風に吹かれていく様を見ていると、背後から声をかけられた。振り向いてみれば、どこか警戒して様子で俺を見てくる藤堂がいる。それもそうか、と内心ため息をついた。とりあえず……あの時のように言ってみるとしよう。

 

「よう、少年。調子はどうだ?」

 

 片手を上げて気さくに話しかけてみたものの、彼は困惑した顔でなんとも言えない返事を返してくるだけだった。やるせなさが込み上げてくるのを抑えて、また会話を続ける。

 

「……記憶、どこまであるんだ?」

 

「……わかりません。それよりも、アナタは?」

 

「俺か? 俺は……魔術師だよ」

 

「……魔術師?」

 

 胡散臭そうな目で俺を見ないでもらいたい。こっちは割と真剣……ってわけでもないか。砕けた感じでしか話せない辺り、どうにも負い目を感じてしまっているようだ。

 

 ……気がついた時には、あのバケモノは消えていく真っ最中だった。ふらつく身体で周りを見れば、倒れている藤堂がいて、少し先にはいつか見た女の子までいる始末。仕方なく死んだ振りをする他なかった。幸いにも女の子は俺の顔を見ずに救急車と警察を呼んでくれたし、オリジンの戦闘服は黒色なのでSNSに載っていたものとも区別はつきにくい。

 

 流石にバケモノを大っぴらにする訳にもいかない。倒れている俺を犯人扱いとし、偽造データは警察とオリジンに全任。警察の発表したカバーストーリーによって、なんとかバケモノの情報漏洩は防ぐことに成功する。

 

 その代わりに……藤堂は記憶を失った。当時の俺は正直な話、正気を保っていられる状態ではなく、彼については予測しかできない。だが、彼がネームレスを撃破したはずなのだから……能力の使い過ぎによって脳の記憶が破壊されたか。それとも、自ら記憶を代償にして奴を倒したのか。

 

 どちらにせよ、それを知る術はない。民間人であった藤堂に被害が出てしまった以上……いや、共に戦った戦友である以上、俺は彼に対してすべきことがある。

 

「ロクな魔術は使えないけどね。勿論、お前の記憶を戻すなんてことはできない。けど……伝えることならできる。お前がどんな男で、どんな生活を送っていて。そして……何を大切にしていたのか」

 

「……以前の、自分?」

 

「そうだ。全てを説明するのは無理かもしれない。でも、大切なことだけはキチンと伝えられる」

 

「大切なこと……」

 

 顔を俯かせて動かなくなった。どうやら悩んでいるようだが……まぁ、当人ではない俺には理解できない。ただ、もしも俺が彼の立場になったのなら。きっと前の記憶を知ろうと思うんだろうけど。

 

「……いいえ、知らなくてもいいです」

 

 ……俯いている彼が言った言葉は、どうにも俺には納得できないものだった。彼にとって、とても大切なことがある。幼い頃の約束。それは彼という人格を形作る上で必要不可欠なものだ。それを……知らないままでいさせるのは、どうにも胸につかえる。

 

「……本当に? それはお前が、十年以上も抱え続けた大切なものだったとしても?」

 

「いいんです。以前までの自分は、きっと死んだんです。テレビを見て、伝えられた自分の名前と同じものが映って。自分が何をしたのか、実感が湧かないんですよ。そしたら……なんか、全部さっぱり消えちゃったみたいだなって」

 

「……以前までの自分が?」

 

「はい」

 

 答える彼の顔には陰りはない。それはそうだ。何もかも忘れてしまっているのだから。いや……忘れたのではなく、消えてしまっている可能性もある。でも……俺は、伝えなきゃいけない。いや、伝えたい。それが正しいことのはずなんだと、葛藤している時だった。藤堂の言った言葉が、俺の中で燻る決意を鈍らせた。

 

「それに……大切なことだというのなら、きっと心の中にちゃんとしまってあるはず。だから、いいんです」

 

「……自ら、その記憶を捨てていたのだとしたら?」

 

「ならそれこそ、知らなくてもいいです。捨てたのだとしたら、捨てる前の自分はちゃんと考えた上で捨てたんですよ。その方がいいって、思ったはずです」

 

「……俺には……そうは、思えない」

 

 ……陰りを見せてしまったのはむしろ俺の方だった。窓の淵に腰をかけて、嫌なくらいに晴れ渡った空を見上げる。なんとも言えない気分だ。最後に藤堂の決意が鈍くなることにすがって、もう一度尋ねた。

 

「……本当に、知らなくていいんだな?」

 

「はい」

 

「お前の携帯は壊れて、俺の連絡先は入ってない。もう二度と会うことはないだろう。それでも?」

 

「……はい」

 

「……そうか」

 

 ここまで言ってダメなら、もう何も言うことはない。誰か他に知ってる人がいるなら、伝えてくれるかもしれないし、親だって何かしら言ってくれたりするだろう。

 

 ……とんだヒーローになっちまったもんだよ、お前。好きな子を守る代わりに、好きな子を忘れちまったら、そりゃないだろ。願ったヒーローになれても、お前はそれに気がつくことさえできやしないんだ。

 

 周りからはヒーローだ、ヒーローだと持て囃されることだろう。なにせ、ネットで騒がれてたヒーローは犯人扱いされ、藤堂はそれを倒した新ヒーローとして扱われてる。

 

 望みは叶ったのか、それとも叶っていないのか。俺にはわからない。これ以上、彼になにかしてやれる訳でもない。後は……今日から来る見舞い客を見て、思い出してもらうしかないんだ。

 

「……ヒーロー。これから何かと色々聞かれんだろ。俺のことは言わないようにな」

 

「魔術師ってことを?」

 

「そうだ。俺は……悪い魔術師だからな」

 

 積み上げられた果物の山に、俺もひとつリンゴを加えておく。最後に藤堂に向けて軽く手を上げるのを、さよならの代わりとして俺は病室から出ていった。

 

 ……先輩が迎えに来てくれるまで時間がある。トイレにでも行って時間を潰そうと思い、手近なトイレを借りることにした。中に入ってみれば、他には誰も使っていないらしい。ふと、鏡を見て身だしなみを確認してみたら……右肩辺りに、黒い女の影が映っている。慌てて振り向くと、口元を手で抑えられて壁に押しつけられた。

 

「静かに。誰か来ちゃうでしょ」

 

「ッ……ナイア、か」

 

「お化けだと思った?」

 

「……少し」

 

 口を塞がれていた褐色の手が退けられ、離れるかと思えば今度は俺のポケットの中を探り始めた。男子トイレ、女の人、下半身に伸ばされた手。見ようによっては情事だが、俺にとっては恐怖以外の何物でもない。近づかれると心臓が痛むし、心拍数まで跳ね上がる。気分が悪くなり始めるが、どうすることもできず……視線を逸らすという方法しかなかった。

 

「あったあった。これだ」

 

 ポケットからナイアが取り出したのは、大きな黒い石みたいなモノだ。それはどうやらネームレスの消えた場所に落ちていたらしく、持ってると偶に、どくんっと脈動している気がしてあまり気分のいいものではなかった。

 

 しかしナイアはそんなこと気にならないようで、それを電気に透かすようにして見上げている。俺にはなんだかわからない。そんな俺を見て、ナイアは真っ赤な口を歪めた。相変わらずどんな顔をしているのかすらわからない。ただ、それがとてつもなく美しいのだという事実だけが情報として認識される。訳がわからない。

 

「……私の顔について知りたいの?」

 

「知りたくない」

 

「そう、残念。絶世の美女なのに」

 

「……んなこた、どうだっていい。その黒いのはなんだ」

 

「これかい? これは、ミ=ゴの作った感情を集める装置だよ。なかなか、面白い発想するよね」

 

 口を歪めてニヤニヤと笑っているナイア。感情を集める装置といえば、そんなことをネームレスが言っていたような気がする。あの時の記憶を掘り起こしていると、ナイアはその黒い石を手元から瞬時に消滅させた。どうせ異空間にでもしまったんだろう。コイツはそういう奴だ。

 

「今回は、なんか微妙な感じだったよね。最後の最後で動けなくなったし。でもまぁ……ふふっ、いい叫び声だったよ」

 

「……悪趣味な」

 

「それぐらいしか楽しみがないし。まぁ頑張った御褒美に……私のこと少し教えてあげようか」

 

「いや、いい。知らなくていい」

 

「……ダーメッ」

 

 ……両手で首を固定させられた。逃げようにも背後は壁。前を向くしかないが、向いたらナイアが見える。さながら地獄だ。目を閉じればいいとも思ったが、閉じたら何をされるかわかったもんじゃない。俺はこの地獄に耐える他なかった。

 

 俺の体力がゴリゴリ減っていくのなんて気にもせずに、ナイアは話し始める。

 

「そうだね……ヒトは私の顔が認識できない。それは私が千の貌を持つ神としての権能を使っているからだよ」

 

「……どういう意味だ」

 

「要するに……私には、もはや顔という概念が必要ないのさ。君達にとって最も美しく思うもの。それが私の顔になる。私達みたいな存在に触れていない人間にとっては、見る人によって変わる絶世の美女になるわけさ。感じてるだろう? 目の前にいる私が……とても美しいと」

 

「……醜いとも感じてるけどな」

 

「それは私達サイドに寄ってきてる証拠。人間には美しく見えるのさ」

 

 ……じゃあ俺は人間じゃないと? 冗談じゃない。こんな奴らと一緒になんてなってやるものか。心の中で吐き捨てて、俺は首を固定するナイアの両手を引き離した。案外すんなりと離れていった辺り、話すことを話したら後はどうでもいいらしい。

 

 数歩俺から離れたナイアは歪んだ嘲笑を見せながら俺に告げてくる。

 

「じゃあ、私はそろそろ帰るから。これからも頑張るんだよ。つまらないゲームを二週目プレイしたって、途中でリセットボタン押したくなるだけだからね」

 

「……二週目?」

 

「そうとも。せっかくの強くてニューゲームだ。少しは私を楽しませてくれなくちゃ……ね?」

 

 微笑んでいるつもりなのか。見ているだけで寒気がするような口の歪みを見せつけられると、音もなくナイアは消え去った。トイレには元から俺しかいなかったような静寂が訪れ、用を足そうとすら思えない気分になっている自分がいる。

 

 ……訳のわからないことを告げられ、頭を掻きむしる他なかった。鏡に映る自分の姿を再確認する。どうにも……目が濁り始めている気がしてならなかった。

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 静謐な空間にポツンと一人でいると、もの哀しいという感情よりも空虚感を感じる。身体は至って健康体だ。ただ、病院の方が自分を出したがらないだけ。せめて他の病室と同じようにすればいいものを、なぜか自分一人だけがいる個室の病室だ。

 

 病院の中では看護婦さん達が歩き回ったりする音だけが聞こえるような状態だけど、外は全く違う。未だに多くの人々が病院に突入しようとして門前払いを喰らっていた。

 

 テレビで見たような活躍を、自分がしたようには思えない。右手を握ってみると、そこそこ握力はあるようだ。それに、眠ってばかりでも身体はそれなりに動く。むしろ動きたくて仕方がない。記憶がなくなる前の自分は、随分と身体を動かすのが好きだったようだ。そのおかげで……こうして、得体の知れぬヒーローなんてものになってしまったのだけれど。

 

 記憶がないというのは存外不便だ。誰も彼も、知らない人。両親だと名乗る人間も、どこか違和感を感じて仕方がない。医者が言うには、脳に深刻なダメージを受けたようで、様々な記憶が欠損しているのだとか。

 

 まぁ……今こうして記憶を失ってしまった自分になってからは、どうでもいいような気がしなくもない。記憶がないってことは、知らないってことと同じだ。

 

 今まで生きてきた中で何があったのか。どう思って生きていたのか。それをあの魔術師と名乗った男は教えてくれると言った。けれど、別にいいかなと思ったんだ。

 

 大切なことは心の中にちゃんとあって。それは記憶がないのではなく、しまってあるだけで。キッカケがあれば思い出せるんだ。そうすれば、知らないことじゃない。

 

 何もかもを失ってしまったのだとしたら、また歩き出せばいい。幸いにも、意味記憶は失っていないということはわかっている。勉強については問題ない。消えてしまったのは、エピソード記憶。仮に友達がいれば、そいつとの思い出が消えてしまっただけだ。

 

 なら、また思い出を作ればいい。友達がいるのなら、記憶が消えても友達なはずだ、多分。

 

 そのうち退院することになるんだろう。どうしてか、未来に不安はない。晴れ渡る空が、清々しいと感じれるほどに……いや、空っぽな自分にはそれを感じるだけの余裕があるのか。なんて、少し自嘲してみる。

 

「………」

 

 コンコンッと扉がノックされた。今度は一体誰が来たというのだろう。また知らない人に泣きつかれるのはゴメンだ。カップルらしき人達が来て、女の子の方が泣いて抱きついてきた時には流石に心臓がキュッと締まった気がする。彼氏の前でそういうことをするなんて、どういう間柄だったのだろうか。

 

「……どうぞ」

 

 ベッドではなく、窓の淵に腰掛けたまま。そう告げると、扉はゆっくりと開かれた。

 

「─────」

 

 見舞いに来たのは……女の子だった。綺麗に整えられた髪の毛に、長めのスカート。清楚感よりも真面目さを感じさせる顔立ち。歩くだけで、どこかお淑やかな感じがし、何よりも目を引いたのは……赤い額縁の眼鏡だ。

 

「あの……起きてて、大丈夫なんですか?」

 

「ぁ……うん、大丈夫」

 

 ……どうしてだろう。自分にとっては初対面のはずなのに。嫌というくらい心臓が動き出していた。

 

 誰だっけ。いや、知らないはずだ。それでも思い出さなきゃいけない気がする。

 

 必死な俺とは対照的に、女の子は静かだった。いや、静かというよりは……落ち込んでいるようだ。近くまで近寄ってくると、おもむろに自分の手を掴んでくる。反射的に、手を引っ込めてしまった。女の子は微かに驚いて、身を離す。

 

「……藤堂君が無事でよかった」

 

 本当にそう思っているのか。彼女の声には悲しげな感情が隠れているように思えた。自分と彼女の間柄は、なんだったのだろう。今まではどうでもいいとすら思っていたことなのに、それが知りたくて仕方がなかった。

 

「……私のこと、覚えてないよね?」

 

 泣きだしそうな彼女の言葉に、口の中が乾いていくような感覚があった。答えなくては。でも、今までのように、知らないの一言で済ましてはいけない気がするんだ。何か、思い出せないのか。キッカケがあれば……何か、ないのか。

 

「ッ……ごめん、ね……やっぱり、忘れて……」

 

 ……忘れて。いや、違う。何か、あと少しなのに。

 

「やっぱり、無理だよ……藤堂君の想いを無視して、こんなに都合よく……私の想いだけ伝えるなんて……」

 

 病室の中には二人だけ。誰の視線を気にすることなく、彼女は目の前で泣き始めてしまった。なんの声もかけられない。その身体に触れることすら今の自分では許されない。

 

 泣きじゃくる彼女の声が、嫌に脳に響く。聞いたことのある声だ。そんな気がする。

 

『藤堂君』

 

 彼女の声で、自分の名前が呼ばれるのを、何度も聞いたことがあるんだ。その先を……知りたい。彼女の涙の理由が、そこにある気がする。前の自分は、大切なことをなんで紙に書いてくれなかったんだ。忘れないでくれよ、こんなに心が痛むことなら。

 

『今日のことは忘れないでね』

 

「─────」

 

 ……忘れないで。あぁ、そうだ。それだ。忘れないで、だ。

 

 唐突にそのことを思い出した途端……心の奥底にしまわれていた記憶が蘇ってくる。公園で泣いている自分。そして隣に座って話を聞いてくれた女の子。君の、名前は……。

 

「……加賀、さん?」

 

「えっ……?」

 

 泣いたまま目を見開き、自分を見つめる女の子がいる。何もかも全てを思い出せたわけじゃない。でも、大切なことを思い出せた。あの時、思ったんだ。心の中にしっかりとしまっておこうって。忘れないようにしようって。

 

「……私のこと、思い出したの?」

 

「……全部じゃない。けど……忘れないでって言った君のことを、覚えてる」

 

「っ………」

 

 流れる涙の跡にそっと手を添えて、それを拭っていく。せっかく拭いたというのに、君はまた涙を流し始めてしまった。何度もしゃくりあげながら、君は尋ねてくる。

 

「なんで……明日香ちゃんのこと、思い出してないのに……」

 

 明日香ちゃんというのが、どういう人なのか一瞬わからなかった。でも、そういえばお見舞いに来た人の中にそんな女の子がいた気がする。けれど、それは今はどうだって良かったんだ。

 

「どうしてだろうね。でも……覚えてる。他は全て忘れているけれど、あの公園での約束を思い出したんだ」

 

「っ……いい、の? 私に……こんな、ことがあって……」

 

 彼女が何を思っているのか、わからない。それでも今大事なのは、目の前にいる君だというのがわかっていた。心の奥にある記憶が、大切にしろと言っている気がしてならない。

 

「私、よりも……思い出さなきゃいけない人、いるんだよ……?」

 

「……でも、思い出せたのは君だから」

 

「……ずるいよ、こんなの……」

 

 泣きながら見上げてくる彼女の眼鏡を外して、そっと抱き寄せた。彼女の頭に手をやって、無理やり自分の胸に押しつける。抵抗されることもなく、彼女はされるがままに腕の中で泣き続けた。そんな君に、今度は自分から尋ねる。

 

「……加賀さんとは、どんな関係だったっけ」

 

 知っている。どんな関係であるのか。それでも聞きたかった。涙声のまま、腕の中からはくぐもった彼女の声が聞こえてくる。

 

「……まだ、友達……だよ」

 

 ……そう。自分と彼女は……。

 

「……まだ、友達だね」

 

 小さく頷く彼女を、キツく抱きしめる。すると君も、腕を腰に回して抱き返してきた。

 

 こんな意味不明なやり取りでさえ、君との間であるのなら、ちゃんと意味がある。それがどうしようもなく嬉しかった。

 

 病室の中には誰も入ってくることはなく、君との時間を邪魔する人はいない。空虚な心が満たされていくのを感じる。消えてしまった過去の自分はどう思うのかわからないけど。今の自分は……幸せだ。そう言いきれる。

 

 

 

 

 

 

To be continued……




 藤堂 袴優 藤袴『あの日を思い出す』

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