貴方が隣にいる世界 -Cthulhu Mythos-   作:柳野 守利

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第九章 鏡合わせの観測者
第123話 これがTSちゃんですか


 例えばの話、自分と同じ存在がいたとして。その外見を見て、あぁなるほど、自分は他人からこう見えるのか。自分の声はこう聞こえているのか。表情はこうなっていて、笑うと笑窪ができるのか。そういったものを目にし、感じ取ることになるだろう。

 

 だが、それとは別のものとして。自分を知っているからこそ、客観的にそれを眺め、見えてくるものもあるだろう。目配せ。仕草。腹積もり。

 

 そんなもの見たところで、別に面白くはない。

 

 あぁ、でも……もっと面白いものが見れるよ。それを人間らしさと言うべきか。それとも浅ましい存在だと嘲るのか、君次第になるだろうけどね。

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 暗闇から、ふっと浮き上がるように意識が覚醒したことを実感する。今日もまた、朝がやってきた。気怠い身体に言うことをきかせるよう、頑張って眼を開こうとする。横向きになって眠っていて、瞼を開ければ先輩のベッドが見えるはずだった。

 

 ただ、すぐ隣に見えたのは自分以外の誰かの後頭部。同じように横を向いて寝ている。先輩か、それとも『彼』が布団に潜り込んできたんだろう。いつまで経っても、ベタベタと……嬉しい半面、恥ずかしくもある。

 

 でも、そんなことより起きなくては。朝ごはんを作って、先輩を起こして、それから西条さんとの訓練に行くんだ。

 

「……ん、ぅ……」

 

 隣で眠る誰かは、そろそろ起き始めそうな気配がしていた。先輩はこんなに早く起きない。なら、やはり彼か。

 

 寝ぼけ眼で、彼を見る。長めの襟足。化粧で整えれば、女の子に見えそうな顔。服装は、寝巻きではなく私がいつも着ているオリジンの制服。

 

(……ん?)

 

 ベッドから出ようとして、思わず二度見する。今度は正面から、彼の顔を見た。その人物は、まったく身に覚えのない人で、そのまま腰が抜けてしまいそうになる。

 

(……誰この人ッ!?)

 

 なんとか距離をとって、彼から目を逸らさない様にしつつ、静かに先輩を呼ぶ。

 

「先輩、起きて……起きてくださいっ」

 

「んん……どうしたの、こんな早くに……」

 

「ふあぁ……なんだよ、モーニングコールはやめてくれよ藪雨……」

 

『……え?』

 

 三人の声が重なる。今間違いなく、自分以外に二人の声が聞こえた。しかも片方は、男の声。後ろを振り向いて、先輩のベッドを見る。そこにいたのは、二人。いつもボサボサな髪の毛の先輩と……同じく、ボッサボサな髪の毛の男の人。二人は互いに何が起きているのかわからず、何度か目を擦る。その仕草までもが、何もかも同じだった。

 

 そしてようやく状況を理解した先輩が、素っ頓狂な女らしい悲鳴をあげる。

 

「なんだこのおっさんっ!?」

 

「おっさんだと!? お兄さんだろォ!?」

 

「先輩、朝からうっさい語録はやめてくださ……なんだお前ッ!?」

 

「それこっちのセリフ! なに女子部屋入ってきてるんですかあなたたち!!」

 

「えっ、いやここ俺たちの部屋じゃ……なんだこの女子っぽい小物類ッ!?」

 

「あすいません、あの、自分の部屋に、変態がちょっと入り込んでるんですけど……。不法侵入ですよ不法侵入!」

 

 てんやわんやとし始めた私たちの部屋。とりあえず、縛らなきゃ。

 

 男だろうと、私たちなら勝てるだろう。ベッドから飛び起きた先輩と一緒に構え、相手は困惑しつつも徒手空拳を受けるつもりなのか、構え始めた。

 

 狭い室内。どう仕掛けるべきかと悩み始めたその時。部屋の扉がノックされた。時間的に、部屋に来たのは西条さんだ。頼もしい助っ人が来た。先輩が扉に向かって大声で叫ぶ。

 

「西条、ヘルプ!! 変態が部屋にいるから助けて!!」

 

「待ってくれ、俺たちは変態じゃ……!!」

 

「そうそう、誤解だって! 俺たち何もしないから!」

 

『……あぁ、なんだ。そっちにもいたのか』

 

 渡しておいた合鍵を使って、西条さんが部屋に入ってくる。珍しく黒一色なシンプルな寝巻きのままで、肩には縄で縛られた男の人が担がれていた。

 

 その人物は眼鏡をかけていて、担がれていてもなお鋭い眼光で睨みつけてくる。まるで、西条さんみたいな人だった。

 

「いやなに、こちらの部屋にも朝起きたら変態がいてな……」

 

「西条さんッ!?」

 

「嘘だろ、西条がやられたってのか!?」

 

「その声……あぁ、お前たちか。すまんが弁解を……無理みたいだな……」

 

 まさか同じ名前だとは。でも、そんなことで一々驚いたりする前に、驚愕して固まっているこの人たちを縛らなくては。

 

 背後に素早く回り込んで、背中を蹴り飛ばす。倒れた隙に乗りかかり、両手を背中に回して拘束する。隣では先輩も同じように侵入者を拘束していた。

 

 まったく、女子の部屋に入り込んでくるなんて、なんて変態たちなんだ。

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 どうしてこうなった。頭を抱えたくなるような事態だというのに、両手は縛られて動けない。先輩も西条さんも、仕方なくあの女性たちに言われて正座中。向こうの三人は、椅子に座っていて、まるで尋問をするかのよう。いや実際する気なんだろう。

 

「それで、貴様ら女性の部屋に堂々と入った挙句、添い寝をするという所業を犯した訳だが……弁解の言葉が必要か? ないのなら首を撥ねるが」

 

「確かに、女性側からすれば生きた心地がせんだろうな。だが、俺たちにも言い分はある。なにしろ急なことでな。実際どうなっているのか……少々、状況を整理したいんだが」

 

 一際恐ろしい目付きで睨んでくる女性。西条さんと似たような眼鏡をかけ、短髪で目も鋭い。雰囲気も、話し方も、かなり西条さんと似ている。それと胸がでかい。

 

 その隣の椅子では、えらく中性的な女性が座っていた。ショートボブで中性的であるとしか、彼女に関しては言いようがない。これといった特徴はなさそうだった。ボーイッシュと言えばいいのか。ともかく男の服を着させればそれなりに見えるし、実際少しばかりの胸の起伏がある程度。

 

 最後に中性的な女性に背後から抱きつくようにして睨みつけてくる、三人目の女性。先程まで少々跳ねていた髪の毛は綺麗に梳かされており、二人の距離はかなり近い。百合かもしれない……なんてことはなさそうだ。実際かなり仲は良さそうではある。見えづらいが、胸は二人の中間あたり。一般的な程度だろう。

 

 あとは……さっきから語録を使ったりする。性格がかなり先輩に近い。なんだろう、かなり既視感を覚える人たちだ。

 

 隣から小さなため息が聞こえてくる。先輩は困惑した様子で、やれやれと言わんばかりに首を振っていた。

 

「なーんでこんなことになってんだ俺たち……。西条もやられてるしよぉ」

 

「普通にステゴロ始めたんだがな……自分の部屋じゃないことに気づいて、その隙に腹に一発重いものを貰った。なかなか、鋭い腹パンだったな……」

 

 その光景を思い出しているのか、口端が上がっていく。戦闘狂の笑みだ。手合わせできるのならまたやりたいと思っているな、あれは。しかし、西条さんを沈めるほどの武術の使い手が桜華以外にいたとは……。

 

 西条さんとの戦いが向こうもそれなりに満足のいくものだったのか、腕を組んで挑戦的な笑みを浮かべた。あの、腕を組むと胸が強調されるんですが……何も気にしていない様子だ。

 

「侵入云々はともかく、貴様は腕は確かなようだ。もっとも、この組織にそんな輩がいるだなんて知らなかったが」

 

「それはこちらもだ。女性陣で戦果を上げているのは加藤くらいなものだと思っていたが……」

 

「加藤……? 女で加藤という名は特に聞かんな。男ならいるが」

 

「なに? 加藤はオリジン兵だ。名は広まっているはずだが」

 

「オリジン兵の加藤だろう。奴は男だ」

 

「……どうにも変だな」

 

 彼女曰く、加藤さんは男である。そんな馬鹿な話があるはずない。しかしオリジン兵は加藤さんと桜華、そして木原さんだけのはず。

 

 変なことばかりだ。俺たちが女性部屋で寝ていたことだって変だし、そもそもオリジンの制服のままだ。ベッドの近くには、俺たちが使っていた武器も落ちていたし……いや、そもそも昨日の記憶が曖昧だ。一体何があったのか……。必死に思い出そうとしていたら、隣で先輩の頭に電球マークが浮かび上がったようだ。

 

「ふむふむ、なるほど。これはピンと来たぜ!」

 

「手縛られてるのにふざけたことぬかしたら、そこの女性に折檻してもらいますよ」

 

「ふふん、聞いて驚け。俺たちはなんと……性別が逆転した平行世界に来てしまったのさ!」

 

「すいません、この人ちょっと頭が……」

 

「いえ、ウチの先輩もそんな感じですので……」

 

「ちょっと酷いよ氷兎っ、私ここまで酷くないでしょ!?」

 

 先輩のような女性が、中性的な女性に対して氷兎と呼んだ。思い返してみれば、彼女たちは西条と叫んでいた気もする。

 

 これは……まさか本当に先輩の言った通りに?

 

 そんなこと信じたくもないが、左隣で縛られてる先輩はドヤ顔で胸を張っていた。

 

「な? 名前も同じだし、絶対そうだって」

 

「……だとしたら、貴様ら異世界から来たと? なんとも、馬鹿馬鹿しい。信じるに値せんな」

 

「鈴華の言っていることが本当ならば……俺の内ポケットにカードが入ってる。それを確認してみろ。偽装も何もできないものだ。お前のものと一致していたら……まぁ、癪だが鈴華の言った通りなのかもしれん」

 

 西条さんが、目付きのきつい女性に確認を促す。彼女は西条さんの制服に手を入れ、内ポケットからカードを取り出した。それを見て、眉間に皺が寄る。その表情が、西条さんと似ていて……先輩の言ったことが、本当に真実のように思えてきた。

 

 今ここにいる三人の、女性バージョンが目の前にいる三人だとするなら……あの中性的な女性は俺なのか。胸の大きさで、菜沙を馬鹿にできないな、これは。

 

「……名前も、起源も、誕生日も同じか。気味が悪いな」

 

「ちなみに俺は小学生以降、誕生日を碌に祝われたことはない。好きなラーメンは味噌。RTAのWR(ワールドレコード)保有数は三。編集は鈴華に大体任せていた。大嫌いなものは血の繋がった家族だ」

 

「うわぁ……西条と同じレベルの廃人がここに……。あれ、同じ人なんだっけ。てことは、私は……そこの天パ? 嘘でしょ?」

 

「氷兎が背中から抱きついてくるようなことはないし、俺はたまにするから……そうなんだろうなぁ」

 

「じゃあ私は、あなたですね。認めたらペルソナになってくれませんか?」

 

「乗っ取るレベルの邪神を降魔することになるんですがそれは……」

 

 向こうも向こうで、そんなこともあるのかもしれないと感じ始めているようだった。まぁ、仮に同存在だとしたら……これまで散々な目に遭ってきてるし、それなりに適応してきてしまうんだろう。

 

 未だに向こうの西条さんは警戒を解いていないようだけど……。それにしたって、一体どうして俺たちはこんな場所に制服のままいたんだろうか。何か事件に巻き込まれたような記憶はない。確か……そうだ。いつものように訓練をしていて……。

 

「……あぁ、なんとなく思い出しました。多分これ西条さんのせいじゃないですかね」

 

「俺に責があると? 身に覚えはないが」

 

「揃って記憶が混濁してますね。思い出してくださいよ。いつもの朝食の時間、ウッキウキで西条さんが部屋に来たじゃないですか」

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 朝ごはんを食べてから、西条さんが見せたいものがあると言って俺たちをVR室へと連れていった。いつもの訓練かと思っていたが、そうではなく。三人揃って森林のようなVR空間へと招かれると、珍しくどこか嬉しそうな顔で西条さんが最上を抜く。それはVR空間であっても、鏡のように光を反射していた。

 

「ノーデンスの加護が宿った刀。何かしら不思議な力はないものかと試していたんだが……昨日、神経を研ぎ澄ませながら素振りをしていた時だ。妙な脱力感を覚え、気づけば刀身が伸びていた」

 

 西条さんが刀を正眼で構え、目を瞑る。すると、不意に軽い頭痛に襲われた。魔術の反応。まさかと思ってみていれば……刀がまるで水のような膜で包まれ、その水は刀身よりも更に長く形状を残したまま伸びていく。おおよそ、その長さは二倍ほどに。刀は基本、約六十センチ。その倍となると、もはや大太刀だ。片手で振るえるものではない。

 

「おぉー、すっげぇ。リーチがかなり伸びるなぁこれ」

 

「……これ、魔力使ってますよね。西条さん平気なんですか?」

 

「そう長くは保たん。今はまだ難しいが……振る一瞬。その刹那の時間だけ伸ばすことができれば、かなり戦いやすくはなるな」

 

 そう言って、いつもの霞の構えではなく、野球バットを引くように大太刀を構えた。そして近くにあった木に向かって、力任せに振り抜く。重量もそれなりに増しているだろうに、それを感じさせない鋭い一振。水刀は少量の水を弾きながら、二人分ほどの太さはある巨木を斬った。斜めに入った筋に合わせ、そのまま綺麗に倒れていく。

 

 魔術を使ったこともない人が、まさかたった一日でここまでするとは。魔力制御も慣れれば問題ないと言うあたり、この人やっぱり頭おかしい。優秀という枠を飛び越している。

 

「魔力は、俺のものを使っていると思うが。仮に、この武器を唯野の魔力で活性化させることは可能か?」

 

「別のものへの魔力譲渡とかやったことないんですが……」

 

 まぁやってみろ、と西条さんは刀を横持ちにしてこちらへ向けてくる。持ち手の部分に触れてみると……ひんやりと涼しい感覚が腕を突き抜けていった。

 

 試しに、ぐっと力を込めて握ってみる。詠唱で魔術を扱うように、集中して精神を研ぎ澄ます。心の内で、冷たく燃える炎のような、矛盾した気味悪い感覚を覚え……掴んだ右手が急激に冷たくなる。まるで氷水に手を突っ込んだような感じだ。思わず手を離してしまう。

 

「……どうもダメみたいですね。ナイアとは相性が悪いんだと思います」

 

「敵対した奴の力は無理、か」

 

「俺の場合、魔術の負担の多くは魔導書で軽減して、足りない魔力はナイア経由ですからね。俺自身の真っ当な魔力なんて微々たるものですし。まぁそもそも、その武器ノーデンス直々に力を渡されたものですから。認められた西条さんしか扱えない可能性もあるんじゃ?」

 

「認められた人だけが使える神器ってクソかっこいい……かっこよくない? 俺もそろそろ属性攻撃を覚えたいんだけど」

 

「火炎瓶なら属性武器だぞ。酒と導火線と火種で作れるからコスパもいい」

 

「いやそうじゃなくて、銃から炎が飛び出すとかさぁ……」

 

「異世界転生でもしてろ」

 

 馬鹿馬鹿しい、と西条さんは先輩を貶すように言う。俺だって属性攻撃ができる訳じゃない。炎は出せないし、できるのは空間歪曲くらいなものだ。加藤さんなら起源でいろいろとできるっちゃできるんだが……先輩の場合、何もないところから炎を出したい訳で。そりゃ流石に無理だなとしか言いようがない。

 

「氷兎、異世界に行ける魔術とかない?」

 

「俺が廃人になる代わりに先輩をブラジルに飛ばす転移系なら……」

 

「だよね、ないよね」

 

 ドリームランドで見たものと、おそらく同じような魔術をナイアに勧められたが、流石に俺には荷が重い代物だった。癒えない精神的苦痛を受ける代わりに、次元をも超える空間転移ができる魔術、門の創造というものがあるらしい。流石に代償がデカすぎる。下手すると幼児退行したり、何も無いところを見てずっと笑い続けたり、土を食べ始めたり……碌なもんじゃない。教わるのは断った。

 

「いいなぁー属性攻撃。西条は遠距離苦手だし、リーチが伸びるから文句無しの強化じゃん」

 

「銃を撃てないわけじゃない。斬ったほうが早いだけだ」

 

「いやね、普通の人は撃った弾丸斬らねぇから。遠距離なら俺の勝ちだと思ってた、あの時の心を返して」

 

「そんなお前に朗報だ。この武器、遠距離攻撃もできるぞ」

 

「うそん……恵まれ過ぎじゃない?」

 

 今から見せてやる、と言って西条さんは納刀して、体制を前傾にした。腰につけられた鞘に左手を添え、右手は持ち手の近くで宙に浮いたまま。息を深く吐ききっていき、その静けさに俺も先輩も、何も言えなくなる。

 

 一陣の風が吹き抜けた。その瞬間、西条さんが刀を握る音が響く。音が耳に届いた時には、既に彼は抜刀して水を纏った刀を振り切った後だった。

 

 彼が振り抜くその瞬間を目に捉えることはできなかったが、代わりに見えたのは……刀の軌跡をそのままに飛んでいく、水の刃。それは決して西条さんの位置からでは届かない、遠くにあった木を斬りつけ、両断する。まさしく、斬撃を飛ばしたと呼称すべきなんだろう。

 

「うわぁ……マジか……綺麗な月牙天衝だ……」

 

「逆に汚い月牙天衝とは……?」

 

「月牙天衝が何なのかは知らんが、まぁ見ての通りだ。水を纏った状態で素早く振り抜けば、刃として飛んでいく。高水圧の水は何であろうと斬り落とす。ウォーターカッターのようなものだな」

 

 西条さんの背後で、木が倒れていく。近距離、中距離、遠距離。隙がなさすぎる。こんなんじゃ勝負になんないよ……。ウチの組織に勝てる人いるのかな。攻撃を魔術で逸らしても、逸らす被害が大き過ぎてすぐガス欠になるし。しかも本人の動きも早いから、気を抜くと視界からいなくなる。何だこの人。主人公かよ。

 

「元から強かったのに、神器貰って余計に強くなっちゃったよコイツ。流石我らが部隊のリーダー」

 

「リーダーがコミュ力に難ありでいいんですかね? コミュ障じゃなくて、威圧的なのが問題なんですけど」

 

「勝手にリーダーにするな。対人の情報収集なら唯野、遠距離が得意な鈴華がいれば、別に俺が何やろうと問題はなかろう」

 

「西条さんと一緒に情報集めに行った時の苦労は忘れもしない……」

 

 北海道のことを思い出して、また会話が弾んでいく。

 

 そんな折に、VR空間に『Beep!Beep!』と警告音が響き渡った。突然のことに驚き、なにが起こったのかと周りを見回したら……空間の遠くの空から、景色が水色のキューブのようになって崩れ落ちていくのが見える。それは間違いなく、このVR空間が崩壊しているという目印だった。

 

「お、おいなんかヤバくね!? ログアウトした方が良くね!?」

 

「……チッ、ログアウトできん。どうなっている!?」

 

「えっ、ちょ……まさか西条さんが神器なんか振り回したから、システムエラー起こしたんじゃ!?」

 

「俺のせいにするな!」

 

「言い争ってる場合かよ! やべぇって、もう近くの地面まで消え始めてるぞ!?」

 

 ジリジリと、足場が消えていく。森だった場所は何も無くなり、とうとう俺たち三人の周りだけを残して全てが消え去った。周りには虚無とも言える、黒い空間があるばかり。

 

 先輩と西条さんの体にピッタリとくっつく。これ以上はもう逃げられない。

 

「やべぇ、やべえってこれ!!」

 

「クソッ……」

 

 その恐怖を言葉にはできない。とうとう足場がなくなり、身体は奈落へと落ちていく。

 

 先輩の悲鳴が遠のいていき……俺も段々と、意識が薄れていくのを実感していた。これはもう、助からないんじゃないか。そんなことばかり、考えていた。

 

 

 

 

To be continued……




お久しぶりです。
この小説も完結させたいんですがねぇ……そのためには書かないといけない話がまだまだありまして。今回の『鏡合わせの観測者』の他に、『空は何色か』『加藤の過去』『本物と偽物』『神話生物大戦』『終章』と、まだまだ多くあります。
その他にも、書いてみたい話もあって、『湯けむり殺人事件』『幼馴染を取り戻せ』とか。

とりあえず、頑張ります……。

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