貴方が隣にいる世界 -Cthulhu Mythos-   作:柳野 守利

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第35話 紫暮

 死亡したとされる諜報員、紫暮さんを探しながら村中を歩き回って情報を集めていった。だが、わかったことは全て事前に聞いた事と大きな差異はない。収穫はゼロと言っても良いだろう。あとは、嬉しいことにここの村人達は俺達よそ者を拒んだりはしなかった。優しげな顔つきで、どこから来たんだとか、時には自宅で採れた野菜を恵んでくれる人もいた。僻地だからと警戒していたが……村人に襲われる心配は少なそうだ。ただ天在村と違って俺達くらいの年齢層の人もいるので、やはり七草さんひとりで捜査に行かせるのはやめておこう。どこかに連れていかれそうで怖い。

 

「さてと……あと行ってないのはどこら辺だ」

 

「んー、あっちの方? 一応道続いてるよ」

 

 七草さんの指し示した方角は村の更に奥の方へと続いている道だ。村から離れて木が覆い茂る道となっている。近くに立て札が建てられていて、『山奥湖』と書かれていた。おそらく女将さんの言っていた赤く染まったとされる湖だろう。

 

「……どうしたものか」

 

「行かないの?」

 

「情報が少ない上に、二人だけとなるとな……せめて先輩がいる状態で湖には行きたいな。下手すると神話生物の住処になってそうだからな」

 

 もっとも、本当に神話生物がすり替わりをしていたとするならばの話だ。聞いた話だと、村人はあまり湖には行かないらしい。時折獣も出るらしく、子供達にも奥には行かないように注意しているんだとか。湖の事で何か思い出したのか、七草さんが昼間に聞いた話を切り出してきた。

 

「そういえば、行方不明になった男の子が湖の近くで泣いてるのが見つかったって言ってたよね。その時に湖が赤くなってるのがわかったって」

 

「第一発見者は紫暮さんだったらしいな。一応オリジン所属の諜報員だから、戦闘能力はあるんだろう。だから率先して湖の方に探しに行ったのかね」

 

 流石大人の人と言うべきか。行動力からして俺達と違ってくる。俺達はまだまだ世間知らずのガキがいい所だ。今後の事も考えてもう少し柔軟かつ大胆に行動できるようにしないといけないな。まぁ、俺は安全を第一に考えて行動する派だが。死んだら元も子もない。俺ひとりだけなら、死ななきゃ安いで通すことも出来ると思うけど。流石に誰かと一緒の時にその行動はダメだろうな。

 

「……あれ、氷兎君向こうから誰か歩いてくるよ?」

 

 七草さんの指さす方向……湖のあるとされる道の奥の方から誰かがこっちに向かって歩いてきていた。黒スーツをしっかりと着こなしているのが遠目からでもわかる。

 

「……多分紫暮さんかな。こんな田舎でスーツ姿とか、普通ありえないけどな」

 

 そう言って身体に巻き付けてある銃を触って、しっかり装備しているか確かめた。大丈夫、ちゃんとある。七草さんにも一応警戒はしておくようにと念を押して、彼がこちらに辿り着くのを待った。向こうも途中から俺達に気がついたようで、怪訝な顔つきのまま足を早めて俺達の目の前にやってくる。見たところ、年はまだ若そうだ。穏和な顔つきをしている。

 

「こんにちは。君達は……この村の人じゃないよね。観光客かな?」

 

 どうやら、一般人だと思われているようだ。仕方がないか、なにせ俺達はまだ仕事に就くには早すぎる。しかも、仕事の内容が内容だからな。バケモノ殺し、下手すれば殺人にまで手を染めるかもしれない仕事を、俺達みたいなガキに大人はやらせたくないだろう。

 

「……いいえ。仕事でここに来ました。紫暮さんで合ってますか?」

 

「……驚いたな。こんな子供を送ってくるとは思ってなかったよ……。あぁそうだ、僕が紫暮だ。ここで諜報員として活動しているオリジンだ」

 

「調査活動の手伝いとして送られてきた、唯野です。こっちは七草で、今ちょっと体調崩していないんですが鈴華という男性の計三人です」

 

「よ、よろしくお願いしますっ」

 

 自己紹介を終えると、彼は少しだけ唸ってから何かを思い出したようで、七草さんの方を見て口を開いた。

 

「君がもしかして、『英雄』って呼ばれてた子? 想像してたよりも随分と可愛らしいね」

 

「……へっ? あ、の……その……」

 

「正直もっと筋肉ムキムキで厳つい女かと思ってたよ」

 

 ハッハッハッ、と彼は笑った。七草さんが可愛いと言われて慌ててることに関して何かフォローをすべきだとも思ったが……今重要なのはそこじゃない。

 

 組織の人間しか知らないはずの、『英雄』の情報をこの男が持っているということの方が大問題だ。それは一旦オリジン本部に戻らなければわからない情報のはずだ。ということは、だ。この男……神話生物ではないということなのか。すり替わりではなく、本当に生き返ったと?

 

「………」

 

 見たところ怪しい場所なんてない。昨日見た隼斗さんのような濁った目でもなく、変な雰囲気を纏っている訳でもない。言動もマトモ、歩き方も人間のそれだ。仕草も普通。これで皮をかぶってましたなんて言われたら……隣の人間すらも信じられなくなるくらいだ。

 

「えへへ……可愛いって言われちゃったよ氷兎君……」

 

「……はぁ。七草さん、少し気をしっかり持ってくれ……」

 

 嬉しそうに笑っているのはいいんだけど、さっき忠告したばかりだというのに……。やっぱりこの子を単独行動させるのはダメだ。下手すると目の前の男に良いように言われてホイホイついていって、信じて送った彼女がまさかビデオレターで……なんて展開になりかねない。いやならないけど。

 

 ……少しだけ別の意味でこの男を警戒する理由が増えた。

 

「とりあえず、何があったのかは事前に把握しています。新しく得た情報や、赤く染まった湖に関しての情報を提供していただけるとありがたいですね」

 

「ん、そうだね……。ここじゃなんだ、宿に戻らないか? 君のもう一人の連れもそこにいるんだろ?」

 

「……そうしますか」

 

 彼に提案された通りに俺達は宿へと戻ることにした。横三人で並んで帰る形になったが……七草さんが俺と紫暮さんの間に来ようとしたので、無理やり反対側に行かせるように左手で彼女の手を握った。

 

「っ……」

 

 隣を歩く彼女の頬が赤くなっている気がする。あまり見ないようにして、歩くスピードをほんの少し早めた。

 

 ……何度か俺の手を握り返すようにする彼女の行動に、やけに鼓動が早くなった。おかしいな……菜沙の時はここまで早くなることはないんだけど……それに、七草さんの手がとても柔らかい。ギュッと強く握ってみたい衝動に駆られる。

 

「……仲いいんだね二人とも。恋人同士?」

 

「いえ、違いますよ。友達です」

 

 色々とあったが、彼女とは友人な関係だ。まぁ、多少普通の友人よりかはスキンシップが多い気がするが……七草さんの性格や、俺達の過ごす日々の影響的に仕方のないことだろう。

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 宿の俺達が使っている部屋でダウンしていた先輩を含め四人で話し合いを始めることになった。部屋の真ん中で円を描くように座布団を敷いて、楽な体制で話をしていく。それにしても、まさか半日もしないうちに先輩が復帰できるとは思ってなかった。もう少し濃度を濃くしてもいいのかもしれない。

 

 互いの自己紹介をしながらそんなことを考える傍ら、現地諜報員である紫暮さんはとうとう事件の話を切り出した。

 

「事件の内容に関しては知ってる通りだと思う。新しく入手した情報は……残念ながらないんだ。今のところ何か新しい事件が起きたってことは無い。ただ……夜中時折悲鳴が聞こえるくらいかな。駆けつけても、そこには何も無かった。周りには誰もいなかったよ」

 

「悲鳴の聞こえる場所はどんな所なんすかね。家の裏側とか、森の中とか」

 

「……家の中から聞こえることもあるんだ。尋ねてみても家族揃って何も無かったとしか言わなかったよ」

 

 紫暮さんの情報に、眉間に皺を寄せることとなった。家の中から悲鳴が聞こえるのにも関わらず、何も無かったというのはおかしいだろう。天在村の時のように、村人達が何か隠しているんだろうか。色々と見聞きしている紫暮さんなら知っているかもしれない。

 

「村人達が何か隠し事をしているということは、ありえそうですか?」

 

「いや……ないかな。そういったことに関しては素人だから強くは言えないけど、嘘をついているとは思えない」

 

「変な宗教とか、風習とか、そういったのも?」

 

「見たり聞いたりする限りでは、ないね」

 

 困ったな……。情報が少ない上に、何か核心に迫れるようなものがある訳でもない。前回は花巫さんという村人側での協力者のような立場の人がいたから立ち回れた部分もある。しかし今回は敵は村人ではない。どうしたものか……。

 

「……そういやぁ、赤い湖だっけ。それについてはどうなんすかね。女将さんに俺も後から聞いたんすけど、まるで血の池だったらしいじゃないですか」

 

 先輩のその言葉に、紫暮さんは険しい顔をして少し口元を抑えた。視線が揺れ動いて一点を見つめようとしない。どうにも気分が悪そうだ。それほどまでに凄惨な光景だったのだろうか。重々しく口を開き、彼はどんな状態だったのかを話し出した。

 

「……村の男の子が行方不明になって、僕はひとりで湖の方に捜索に行ったんだ。男の子は湖のすぐ側で泣いていた。その時に、僕は見たんだ……真っ赤な湖だった。広がっている部分全部、真っ赤だった。匂いも酷かった。あれは比喩もなしに……血の湖だったよ。今日僕は湖を見に行ってきたんだ。けれど……もう赤くなかった。普通の湖に戻ってたんだ」

 

「……血溜まりが消えたのと関係してそうですね。それに関して何か見解はありますか?」

 

「いいや、何も……。まるで意味がわからない。夢でも見ている気分だよ……。信じられるかい? 血溜まりが一瞬で消え、吐き気を催す光景も同様に消えてしまうんだよッ。神様のいたずらなんかじゃない……絶対に、バケモノの仕業だッ」

 

 紫暮さんの語尾が次第に荒くなっていく。どうやら精神的に参ってきているようだった。流石に俺もひとりでこんな任務に就きたくはない。頼れる人もなしにこんな場所にひとりで放られたら……想像したくはないが、俺はきっと宿に引き篭もっていただろう。

 

「……どうします先輩。正直今のところお手上げ侍ですよ」

 

「お手上げ侍……?」

 

 首を傾げる七草さんとは違い、先輩は顎に手を当てて唸っていた。あまり案は考えついていないそうだ。正直なところ、村人達にこれ以上話を聞いて回っても何も収穫はないだろう。現状は手詰まりだ。

 

「……見廻りするか。夜中に悲鳴が聞こえるのなら、事件が起きるのは夜中なのはわかりきってる。なら、現場抑えるしかないよな?」

 

「夜間見廻りですか……正直怖いですね」

 

「言うな、俺も怖い。だがやらないといけないのは明らかだ。できるなら四人で手分けしたいが……そりゃ危険すぎる。四人固まるか、半々で分けるか……どうする?」

 

 ……四人で固まれば、余程のことがない限り対処ができるだろう。だが、見廻り範囲が劇的に狭くなる。いくら狭い田舎とはいえ、見廻り隊がひとつだけでは足りない。なら半々はどうなのかと言えば……戦力の分散によって安全面が欠如するだろう。だが、夜間だから俺も一応戦闘能力は向上するし、先輩は前回一緒に戦ったからどの程度戦えるのかもわかった。問題は……紫暮さんがどの程度戦えるのかだ。

 

「見廻りには僕も賛成だ。できるのなら半々がいいかな。その方が範囲が広くなる」

 

「俺達は一応互いがどの程度戦えるのかわかります。紫暮さんはどれくらい戦えますか?」

 

「僕は……残念ながらあまり戦闘は得意じゃないんだ。『起源』が戦闘向きじゃなくてね……。まぁ、だから諜報員なんてことやってるんだけどさ」

 

「となると振り分けは……あぁ、でもなぁ……」

 

 先輩は俺と七草さんを交互に見やって、頭を抱えて唸っている。戦力だけを考慮するのなら、俺と先輩。七草さんと紫暮さんのペアがいいんだろう。けれど、正直七草さんを紫暮さんと組ませるのは心配だ。悩み続ける先輩に向けて、紫暮さんが要望を伝えてくる。

 

「僕としては、『英雄』である彼女が同行してくれるとありがたいかなぁ……。戦闘面に関しては、彼女はだいぶ優秀らしいじゃないか。男として恥ずかしいけど、僕は自分がどれだけ非力なのかわかってる。強い人が一緒だと心強いけど……」

 

 そう言って彼は七草さんを見た。下卑た目線はない。普通に仲間として見ているらしい。それと、女の子に守ってもらうという申し訳なさか。先程までの揺れている瞳ではなく、しっかりと見据えるように視線を固定させている。彼が七草さんに変なことを企んでいないか、確認するために彼の瞳の奥まで覗き込もうとする。

 

 ……瞬間、何か嫌な寒気が背中を駆け抜けていった。

 

「……ッ!!」

 

 ぞくり、と何かが這い回るような感覚に身を震わせた。彼を見ていると、何か心の奥底で訴えかけるようなものを感じる。ダメだ、彼女を彼と一緒にいさせてはいけない。何故かそう思えた。七草さんが彼に取られそうだから? いや違う……この感覚はもっと別の……。

 

「……すみませんが、七草さんは俺が一緒につきます。実戦経験が浅すぎる。それに、恐怖感への対処やバケモノと相対した時の決断力も培っていない。オリジン兵とはいえ……まだ彼女は幼い子供です。彼女のこれまでの経歴的にも信頼出来る人が隣にいた方がいいでしょう」

 

 若干捲し立てるようになったが……ほとんど俺のわがままに近い。なんとしてでも、彼女と紫暮さんを二人きりにしてはいけない。いや……させたくない。

 

「……まぁ確かにな。七草ちゃんは皆の言うような強い子って訳じゃない。外は良くても、中身はまだ子供だ。紫暮さんには俺がつきましょう。心配せずとも、これでも腕っ節は自信ありますよ」

 

「そうですか……。わかりました。では、よろしくお願いしますね」

 

 ……先輩がチラッとこちらを見て、どこか安心したような顔つきに変わった。隣にいる七草さんもホッとしたようで、少しだけ体を近づけてくる。一通り話すことは終わっただろう。紫暮さんが腕時計を確認して、見廻りのことを伝えてくる。

 

「……話し合いの内容としてはこんなところでしょうか。見廻りは22時を開始としましょう」

 

「そうっすね。じゃあ俺達はそれまでに準備しときます」

 

「えぇ、それでは……」

 

 紫暮さんは俺達を一瞥した後、部屋から出て行った。張り詰めていた気分が楽になり、息を吐ききって俺はその場で横になる。そんな俺を見て、先輩はどこか愉快げな笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「……保護者だねぇ。そんなに七草ちゃん取られるの嫌だったのか」

 

「ふぇっ!? 氷兎君、そうだったの……?」

 

「いや……違いますよ……。七草さんにアイツと一緒にいて欲しくなかっただけです」

 

「いやそれ同じじゃねぇかよ……。まぁお前が言ってくれて良かったけどさ。俺も、七草ちゃんと紫暮さんを一緒にさせる気はなかった。ただ……断る理由が思いつかなくてな……」

 

 そう言って先輩は頬をポリポリと掻いてから困ったように笑う。自分でも一瞬わからなかったが、先輩との会話で紫暮さんではなく、アイツと呼称した。知らぬ間に警戒レベルがかなり上がっていたらしい。今の俺の内心はそんなに穏やかなものではなかった。自分のわがままで、先輩に危険な役目を負わせてしまった可能性がある。

 

「すいません先輩……多分、危険な役目任せてしまったかもしれません」

 

「ん……? どういうことだ?」

 

「紫暮さん……あの人が七草さんを見た時……なんか、嫌な感じがしたんですよ。直感としか言えませんが……」

 

「……こういった場合の直感って嫌に当たるからなぁ……。七草ちゃんは何か気がついたことある?」

 

「んー、私は何も……」

 

「そっかぁ……」

 

 先輩もごろんと横になった。それに倣って七草さんも理由もなく横になる。白熱電球が淡い光を発していた。明るいはずなのに、どうしてか不安な気持ちになる。天井を見上げながら、先輩の言葉に耳を傾けた。

 

「木原さんも信用するなって言ってたからな。まぁ、なに気にする事はない。年上に任せておけよ」

 

「……本来なら、あの時反論すべき言葉は七草さんが誰と一緒に行くかではなく、四人で固まって行動するべきだという提案にするべきでした……すいません……」

 

「で、お前は四人で固まって行動するメリットを説明できるのか?」

 

 そう言われると……何も言えない。デメリットしか頭の中に浮かんでこない。紫暮さんの言ったメリットを覆せるほどのメリットを、俺が提示できるとは思えなかった。俺はただ黙るという方法でしか先輩に返事ができず、先輩はそんな俺を見て笑っていた。

 

「……だろ? 俺も思いつかん。だから……これで良かったんだ。そう気を負うなよ氷兎」

 

 先輩の手が頭に添えられて乱暴にぐしゃぐしゃと撫でられる。やめてほしい、俺は先輩にそんなことをされるくらい年下ではないのだから。っていうかひとつしか年齢差がないのによくこんなことが出来るな、この人は……。

 

 ……まぁ、不思議と安心できるわけだけども。

 

「……ありがとうございます、先輩」

 

「おう」

 

 ひひひっ、と先輩の笑う声が聞こえる。俺は再度身体の中にある空気を吐き切るように出し切って脱力した。

 

「……それに、お前忘れてるだろうけどそろそろ新月だからな。新月時のお前のバフがどうなるのかわからんが……用心しろよ」

 

「……あぁ、そういえばそうですね……。気をつけます」

 

 道理で最近夜になっても気分が乗らないわけだ。あの女声から力を受け取って以来新月になったことは無かったが、一体どの程度まで落ちるのか……。下手すると、七草さんに護られるかもしれないな。それは流石に嫌だ。

 

「……ねぇ、氷兎君」

 

 横になった状態のままズルズルとこっちに近寄ってくる七草さん。真横まで近づいてくると俺の顔をのぞき込むように顔を近づけてきた。

 

「ありがとね。私のこと、心配してくれたんでしょ?」

 

「……まぁ、そうなるのかな」

 

「……氷兎君と一緒で良かった。本当に……」

 

 枕がわりにしている俺の腕に、彼女は頭を乗せてきた。近い。流石に近すぎる。羞恥心というものがないのかこの子には。少し距離を開けたいが、彼女が腕を枕にしているせいで逃げられない。

 

「……ちょっと、このままでいさせて……。氷兎君の近くって、なんだか安心出来るから」

 

「っ……どうぞ」

 

 なるべく彼女の方を見ないように、天井を見続ける。流石に七草さんにこんなことをされると、恥ずかしくて仕方が無い。そんな時横の方では先輩が頭を掻いて唸っていた。

 

「……氷兎、デスソースをくれ」

 

「ダメです。任務に支障が出ます」

 

「クソぅ……リア充め……」

 

 何やら先輩が聞こえない声で何かを喚いている。そんなにデスソースが食べたかったのか。癖になる味ってやつかな。やめておいた方がいいと思うけどね、俺は。あんなの好んで食べようとするとか、流石に引きますわ。

 

 

To be continued……


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