貴方が隣にいる世界 -Cthulhu Mythos-   作:柳野 守利

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第52話 藪雨

 滞在五日目。満月と言っても過言ではないと言える月が浮かんでいる。昨日も月を見ていて、まさかの林田さんから相談みたいなものを受ける事態になるとは思わなかった。今まで得てきた情報を自分なりに纏めて、自論として彼に話した訳だが……果たしてアレで良かったのだろうか。林田さんは朝早くから家を出て行ってしまい未だ帰ってこず、調査も上手く進んでいない。

 

 何かしらいることはわかっている。だが、尻尾が掴めない。村を歩いていて時折感じる違和感。狩浦さんを初めて見た時も感じたものだ。しかし、神話生物であるという確固とした自信も証拠もない。手詰まりだ。ベランダの柵に身体を乗せるように預けて、深くため息をついた。

 

「……月を見て黄昏れるとか、カッコつけですか? 全然カッコよくないですよー」

 

 ガラガラッとベランダと廊下を繋ぐ扉が開かれ、最近聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向かなくてもわかる。いつも媚びへつらう笑顔を向けてくる後輩だ。しかし、どうにもその声には覇気が感じられなかった。普段とは違う後輩を不思議に思ったが、まだ知り合って長くない。彼女の事を詳しく知っている訳では無いので、特に気にしないことにした。

 

 誰にだって気分が沈む時というのは存在するものだ。月が出ている今となっては、俺は気分が高揚しているのだが。おそらく彼女は月を見てナイーブになるタイプなのかもしれない。

 

「うわっ、なんか顔ニヤけてるし。後輩と夜中に二人っきりになったからって浮つきすぎですよー?」

 

「ニヤけてるのはまた別の理由だ。ってか、ニヤけてたのか、俺?」

 

 隣にまでやってきて顔を覗きこまれた。指摘されて、自分の頬を触ったが、特に何も無い。次に口角付近を触ってみたら……どうやら少しだけ上がっているようだ。月の影響か、自然と緩みがちになってしまっているらしい。抑えるように心を落ち着かせながら、隣で外の風景を見ている後輩に声をかけた。

 

「何しに来た? 湯涼みか、それとも七草さんと喧嘩したか? 喧嘩したなら謝ってこい。きっとお前が全部悪い」

 

「だからなんでそんなに私にキツく当たるんですか」

 

「言っただろ? 俺も先輩も、色々あったんだ。お前みたいな腹に何か抱えたような奴は、どうにも相手しづらいんだよ」

 

 頬を指で掻きながら、困ったように俺は言う。この組織に入ってから、短い期間で色々とあった。世間の黒いところも、人の汚い部分も、そして綺麗な心を持った人も。多くの人を見てきたように思える。

 

 そんなことを内心考えていた俺の言葉に、藪雨は無表情のまま会話を続けてきた。

 

「そういうことだったんですかぁ。私に魅力がないのかなって不安に思っていたんですよねー。皆、私の仕草で操り人形にできたのに、せんぱい達は靡かないんですから」

 

「いや先輩はただ単に好みから外れてるだけだと思うけど。あと単純にお前みたいなウェーイ系女子が嫌いなだけ」

 

「何気に傷つく事実を伝えないでくれませんか」

 

 はぁ、っとため息をついた藪雨。しかしため息をつきたいのは俺の方である。なんだってこんな夜更けに藪雨と二人っきりで話をしなくてはならないのだ。こんな事になるのならば、先輩が唐突に始めた下ネタ会話から逃げてこなければよかった。

 

「……せんぱい、昨日の夜こうやって林田さんと話していましたよね。恋は一方通行で、愛は相互に贈り合うもの、でしたっけ?」

 

 ビクッと身体が震えた。ぎこちない動きで首を回して藪雨を見る。まさか聞かれていたのか。流石に恥ずかしい。このまま会話を切り上げて先輩のところへと逃げてしまいたいくらいだ。

 

 俺の反応を見て、藪雨は口をニヤリと歪めた。嫌な予感がする中、藪雨はニヤニヤとしたまま俺を弄らんと口を開いた。

 

「随分とポエミーでしたねー。あまりに笑えすぎて、SNSに投稿しようかと思ってましたよ。大炎上間違いなしです」

 

「やめろ訴えんぞ」

 

「あんな小っ恥ずかしいセリフをよく言えたもんですよねー」

 

 藪雨が人差し指でツンツンと脇腹を突いてくる。こそばゆい感覚と恥ずかしい感情に苛まれながらも、ここで変に反応しては藪雨の思う壷だと思った俺は、なんとか耐えることにした。

 

「本当、恋とか愛とかくっだらないことよくあんなに悩めますよねー。馬鹿みたい」

 

 ケラケラと林田さんを馬鹿にするみたいに藪雨は笑った。流石にそれは笑えない話だ。俺は片手で軽く藪雨の頭をコツンッと叩いた。舌打ちと共に、藪雨が俺のことを睨んでくる。それに対して俺も軽く睨み返した。

 

「笑うのはよせ。人には他人には理解できない悩みがある。それを笑うのは、ただの畜生だ。お前だってそうだろう、藪雨」

 

「そうやって正義の味方気取りですかー? 偽善者ヅラしちゃって。そういうの、カッコよくないですよー。それに、私のこと知ったような口きかないでくださーい」

 

「口の悪い奴だ。お前のことは何にも知らん。けど、ある程度は予想がつく。さっきの話といい、昨日の事といい、お前は他人の……いや、色恋自体に関してよく思っていないな。違うか? 人間総じて皆クズだと言い張った、クズの一員さんや」

 

「………」

 

 藪雨の睨みつける力が強くなった。その睨み方は、まるで尖った釘が向かってくるよう。長い時間睨みつけられていたら穴が空いてしまいそうなくらいだ。だが、俺も怯むわけにはいかない。ここで劣悪な関係になってしまっては任務に支障が出る可能性があるが……きっと、今ここでしかコイツの本音が聞けないと思ったからだ。

 

 嫌われるかもしれない? 上等だとも。どの道ここは学校じゃない。女子のグループで敵を作ったところでまったく怖くはないのだから。組織内での藪雨のグループが敵対したところで、痛手にはならないだろう。

 

「……まぁ、話聞いていればわかることですよね。知ったかぶっちゃって、カッコ悪い」

 

「元より格好つけようなんて思ってない。いい加減、俺達の前でくらい擬態しようとするのをやめろよ。ここにいる奴は、誰も他人を見下して嘲笑おうなんて思っちゃいない。学校で何やってたんだか知らんが、ここはもう学校という見た目や強さで階級分けされた場所じゃない。上司に対して下っ端が何人もいる人間社会だ。ガキが勝手に作り上げたなんちゃって社会とは違うんだよ」

 

 睨み合いが続く。先に目を逸らしたのは藪雨だった。彼女は空を見上げて思いに耽り始める。俺も同じく、月を見上げた。月が綺麗ですね、なんて小洒落た言葉を放つような雰囲気ではない。言ったら最後、殴られてどこかに行かれること間違いなしだ。

 

「……男も女も、表面的に見れば変わっているのに、根底では何も変わっていない」

 

 ポツポツと呟き始めた藪雨の言葉に、俺は相槌と共に返事を返した。

 

「当たり前だ。性別が変わろうが、人間であることには変わりない。自分大好きな自己中生物だよ。少し周りから飛び出ただけで、嘲り嬲り、その芽を潰す。ヒエラルキーが人間がトップであると誰が決めたのか。悪いことが起きれば神様のせいにして責任逃れ。かといって良い事が起きても神様のおかげ。周りの人間に敬意や感謝なんてものは抱いちゃいない」

 

「……そうじゃない人もいるみたいなこと、言ってませんでしたか?」

 

「そうだ。そういう奴は大抵その嘲られた立場であった人だ。相手の立場にならなきゃ何もわからない。だが、相手の立場になろうともしない。お前はコンビニの店員にお礼を言うか? 世の中言わない奴が多いよ。誰もコンビニで働かなくなったら、誰も買い物出来なくなるのに。働いてるのが当たり前じゃない。働いてくれてるから、当たり前のように使えているんだ。お前は……周りの誰かに感謝しているか?」

 

「……誰にも」

 

 嫌そうに彼女は言った。街灯の明かりと、廊下から漏れてくる光が自分たちを照らしている。横目で伺える彼女の整った顔立ちは、夜の暗さと光によって一層際立った。細く整えられた眉に、綺麗な肌。小さな鼻に、柔らかそうにケアされた唇。

 

 映画のワンシーンなら、告白してキスでもするような場面だ。まったく、口さえ開かなければ顔は良い子なのだが。それ故に……目の敵にでもされたんだろう。

 

「俺はしてるよ。少なくとも、両親に菜沙、七草さんに先輩。加藤さんとか……今まで出会って友達になった人にも。勿論コンビニの店員にも頭を下げるさ。クズの一員だと思いたくないからな」

 

「……いい子ぶってますよね」

 

「いいや、別に」

 

 月を見るのをやめて、眼前に広がる景色を見た。夜間に出歩く人がいる。車が通り、電車が走り去っていく。日常的な光景なのに、それが少しだけ綺麗に思えるようになった。この組織に入って良かったと思う点のひとつだろう。

 

 しかし、藪雨はずっと空を見上げたまま。現実に目を向けまいと、ずっと目をそらし続けていた。それが正解であるとも、間違いであるとも言えない。なにせ、俺は藪雨ではないのだから。だから、俺は何も言わない。

 

「……女の子には女の子のルールというものがあります」

 

 藪雨が小さな声で話し始めた。外の喧騒にかき消されそうなくらいの声だ。一言一句逃さぬように、夜間の聴力強化をフル活用してその話を聞く。

 

「誰が作ったのかもわからない。暗黙の了解のようなもの。男の子にはわからない、女の子特有のルールです。知っていますか?」

 

「……菜沙から聞いたことはある。全部は知らないけどな」

 

「女の子が好きな男の子の名前を言った時、他の女の子は手を出してはいけない。誰にでも愛想よく振る舞う女の子は、トップカーストに睨まれる。陰キャな女の子と一緒にいると、同じような扱いを受ける。特にダメなのが、最初に言った好きな人関連。これを破ると、完全に目の敵にされます。絶対に表には出ない、水面下での醜い争いが女の子の世界なんですよ」

 

「……おっかねぇもんだな」

 

 菜沙から聞いていたことと似たような話だった。男子というのは、喧嘩しようがそこまで大事には発展しない。最悪殴り合いで終わるのだから。しかし女子は肉体ではなく精神的に追い詰めてくるらしい。集団心理なんかも働くだろう。皆が纏まってる中で取り残されたりすれば、年頃の女の子なんかは傷つくだろう。

 

 友だと思っていた人が、急に掌を返して敵に回る。それが日常茶飯事なのだと、菜沙は言っていた。つくづく男でよかったと俺は思う。

 

 まぁ、藪雨がこの話をしたということは……被害者、なんだろうなぁ。生々しい、嫌な話になりそうだ。少しだけ気を引き締めて、藪雨の言葉の続きを待った。

 

「……男女間に友情が成立しないなら、きっと女性間にも友情なんて成立しない。きっと、私達が感じているのは、友情ではなく、寂しさを埋める何かなんです。少なくとも……私はそう思います」

 

「……俺は哲学者じゃないし、心理学者でもない。そんな俺の言葉でいいのなら、俺はまぁ……なんだ。下手な慰め程度はしてやれるかもしれない。お前が話したいと思うなら、な」

 

 今度は睨みつけるわけでなく、真っ直ぐに藪雨の目を見つめた。藪雨の目に宿っているのは、生気ではなく孤独感を感じさせるものだった。今にも消えてしまいそうな蝋燭の火が、ゆらゆらと揺れているような感じ。

 

 彼女は俺の真っ直ぐな目線に折れたのか、軽くため息をついてからまた口を開いた。出てきた言葉は、強がるような虚勢心を表している気がした。

 

「仕方ないなぁ。どうせ、せんぱいの言葉で何が変わるって訳でもないし、しつこく言い寄られても面倒なので、しょうがないから話してあげますよ」

 

「………」

 

 何も言わない。それが答えだ。藪雨もわかっているようで、俺が何も答えなくともひとりでに話し始めた。時は、中学にまで巻き戻るという。

 

「中学時代なんて、色恋ばっかですよ。盛った男子に、ちょっとそういった悪いことに興味が出てきた女子。当然まぁ、私こんなに可愛いですし? 告白とかされちゃったりするわけですよ」

 

 藪雨の言葉に、俺も少しだけ中学時代を思い出した。まぁ、なんてことはない部活の日々。色恋なんて、どうでもいいと思っていた。時折彼女がいる奴を羨んだりしたこともあったが……懐かしき日々、というものだろう。少なくとも、俺にとっては。

 

「ある日、別のクラスの男の子が私に告白してきました。会話したこともない男の子で、一目見て好きになってしまったみたいでした。そんな人と、付き合う訳もなく私は振りました」

 

 当然だろう。会ったことも話したこともない人に、好きだと言われても靡かない。加えて言うのならば、それが格好いいから目に入ったりするというわけでもなく、平凡な人ならば尚更だ。

 

「……私の友達だと思っていた人達が、私の陰口を言い始めたのはその時からです。その告白してきた男の子が好きな友達がいて、相談を受けていました───

 

 

 ねぇ、私彼のことが好きだって言ったよね? どうして色目なんて使ったの!? 友達だと思ってたのに!!

 

 友達だと思っていた女の子は、私に詰め寄って怒鳴り散らした。しまいには、泣いて崩れ落ちてしまった。どうすることも出来なく、彼女が走り去っていくまで私はただぼうっと立っていることしか出来なかった。

 

 ───ねぇねぇ、あの子中古らしいよ。隣の駅の近くにある中学校の生徒らしいよ、相手。

 

 ───なぁ、いくらで相手してくれんの? えっ、だって金払ったらヤらせてくれるってアイツら言ってたぜ。

 

 ───あっ、ごめんね。打ち上げの連絡貴方の所だけ忘れちゃってたみたい……。

 

 確証のない嘘や噂が広まっていく。誰も彼もが私を嘲った。顔だけはいいくせに、とか。じゃあお前はなんなんだよって言ってやりたかった。顔どころか、性格もクソじゃないか。

 

 第一どうしろと言うのか。だって相手は一目惚れだ。私に何ができたというのか。相手の視界に入るな? それこそ無理な話だ。友達の恋の為に不登校になれとでも言うのか。ふざけるな。

 

 誰も私の話を信用しない。皆が私の陰口を言う。寝取り魔だとか。好きな人の話を目の前ですると、取られるとか。事実無根な噂を、まだ若い中学生であった彼女達は簡単に信用し、そして私を苦しめた。なまじ顔がよかったのが、余計に反感を買ってしまった。

 

 もうこんな場所にはいられない。頑張って勉強して、遠くの高校を受けて、誰も知り合いがいない場所に受かることが出来た。そして……私は私の生き方を変えた。

 

 友情なんて紛い物があったから、あんな事態になったのだ。だったらそんなものいらない。適当にあしらって、適当に繕って。周りに溶け込むように過ごせばいい。

 

 男達は私の頼みは断らないし、女の子の中では清楚系で純粋そうな子を演じた。男を操るなんて簡単だった。強そうな子には下から見上げるようにねだればいい。気弱そうな子なら、まっすぐ見つめて頼めばいい。そうして何もかも終わったあとに、ニッコリと笑ってあげればいい。

 

 こうして擬態という名の技術を磨いた私は、誰からも敵視されない立場を得ることが出来た。けど、そんなことを続けていれば気が滅入る。家では親と喧嘩する毎日。学校では偽りの自分を演じて、疲れるけど時折楽しめることもある。そんな毎日だった。

 

 

 ───紛い物の友情なんていらない。利害関係のみ成立する利用するされるの関係でいるのが、一番心地いい。そう思いませんか?」

 

 ……藪雨の言葉に、すぐには答えられなかった。けど……あぁ、それでも。俺はここ数日少なくとも藪雨という少女と共に過ごしてきた。最初は媚びるだけの存在だった彼女の、その笑顔が柔らかくなってきた気がしたのは、きっと気のせいではないはずだ。

 

「……そんなの、つまらないし疲れるだけだ。なぁ、今楽しいか?」

 

「楽しい? えぇ、楽しいですよ。あんな狭いところにいるよりも、こうやって外にいる方が何倍も……」

 

「違ぇよ。お前、俺達と一緒にいて楽しいのかって聞いてんの」

 

 藪雨の目つきがキツくなる。しかし俺は言葉を止めない。自分の思ったことを、伝えるだけだ。今までずっとそうやってやってきたのだから。

 

「最初に会った時からしばらくの間は、ずっとニコニコと笑顔のままで気味が悪かった。けど最近、そんな取り繕った笑顔が少なくなって、人間らしい表情の変化をするようになった。驚いたり、怒ったり、馬鹿みたいって笑ったり」

 

「貶しているんですか」

 

「そうやって、少し反抗的に言ってきたり」

 

 藪雨がギリッと歯を食いしばった。悔しいのか。まだ彼女が何を思っているのかはわからない。けど、まだまだ言うべきことは沢山ある。

 

「……楽じゃないか? きっと、学校でヘラヘラ笑ってるよりも、こうして俺と先輩にいじられたり、俺と一緒に先輩をいじったりと。少しは楽しくなかったか?」

 

「………」

 

 あぁ、なんだか認めたくなさそうだ。少しだけ視線を逸らして、反抗的な目つきで軽く睨んでくる。俺はその様子に少しだけ微笑んでから、彼女から目を逸らして背中を柵に押し付けるように預けた。

 

「少なくとも、いじられて笑ってる時はなんかこう……違うなって思った。案外、作られた笑顔と自然とできた笑顔って差が激しいんだな。だから、俺と先輩はあぁやってお前のこといじってんの。あんな汚ねぇ笑顔より、ずっとマシな笑顔が見れるんだからな」

 

「……汚ねぇとか、女の子に言うセリフじゃないです」

 

 彼女は俯いてしまった。背の高さ的に、俺では彼女が今どんな表情をしているのかわからない。だが、知る必要も無い。きっと……今の彼女の顔は綺麗だろう。確証なんてないが、そんな気がした。

 

「……いつか、もっと楽になれるよ。そうして、また人並みの生活を送ればいい。辛い演技なんて必要ない。頑張る必要なんてない。そんで好きな人でも作って、さっさと家庭を持て。こんなとこ、長々といる必要はねぇんだから」

 

「……なんなんですか。せんぱいって、何でこんなに話しやすいんですか」

 

「知らんよ。前からこんな役回りが多かったからな……慣れだろ、きっと」

 

 昔からこんな役回りばかりだった。相談役、仲介役、メンタルケア。人の悩みを聞いて、解決出来るように対応していた記憶が多い。そんな経験を生かして、藪雨のメンタルケアが少しはできたからよかったのだが……。

 

 ……心配はいらなそうだ。あとは時間が解決するだろう。ゆっくりと、慣らしていけばいい。まだ俺達は子供だ。時間なんて、沢山あるのだから。

 

「……ん?」

 

 誰かが走ってくる音が聞こえる。ドタドタと忙しない。ペースなんて考えず、全力で走っているようだった。音のする方を見ると、一人の男性が自分達が今いる家に向かって走ってきていた。服装からして……林田さんだろうか。藪雨と共に部屋の中まで戻っていくと、ちょうど林田さんが家の中に入ってきた。

 

 息も絶え絶えで、焦点の定まっていない目をあちこちに動かしながら、疲れて崩れ落ちた。しかしそれでも彼は動くのをやめず、近くにいた俺の足を掴んで懇願するように言ってくる。

 

「頼むっ、助けてくれ……僕の話を、信じてほしいんだ……。み、見たんだ、彼が、彼が人から変なバケモノに変化するところを……!!」

 

 ……どうやら、ようやくこの村にいる神話生物の尻尾が掴めたらしい。

 

 

To be continued……


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