竜と麒麟   作:種馬になりたいねん…

2 / 2
二話

 

 

 

「くそがっ!!」

 

 一時の怒りに身を任せ、竹をくり抜いたコップを叩きつけた。

 コップは俺が仕留めた獣達の毛皮に包まれぽむぽむとはずんだ。

 

「物は大事にしなければならないからな……」

 

 どの口が言うのかと言われそうだが、イライラした時は少しヤンチャな事をするに限る。と言っても俺自体小物であるため、やることなんてたかが知れている。

 

 先日の登用試験の事を思い出せば腸が煮えくり返りそうだ。

 あの後俺は抗議した。当然だ。確かに時間を割いて頂いているのだから、あちらの都合を優先するのは当然と言える。しかしだ、面接すら受けさせて頂けないとはどうゆうことなのだろうか?納得できる理由が知りたかった。

 

『足りない頭で考えれば?と言いたいところだけど……。はっきり言ってあげる。男なんて気持ち悪いのよ死んで』

 

 

 あの糞アマを想像しながら拳を振るう。天井から吊るされた紐を豪腕で殴りつけると、勢い良く吹っ飛び天井まで届いた。

 なんという理由だ!なんという理不尽か!!

 幅広く、実力主義なんて幻想だった!巷で噂されている曹操陣営男性嫌いと言うのは真であった!!

 

 

 興奮で血管が切れそうだ。

 コップに煮沸した水を注ぎ一気に飲み干す。流石に熱いままでは飲まないのでギャグ補正は起きなかった。

 

 あれから宿に戻るまでの記憶が朧気だ。誰かに声を掛けて貰ったのは分かる、そしてそれが励ましだったのもぼんやり覚えている。まったく恥ずかしい限りだ。礼を言う相手も覚えていないとは。

 

 ふぅ……。

 

 さて、ここからどう動くべきか?

 確かに曹操陣営に入るのは無理だった。しかし、それは将官としてだ。一般兵として武功を立てて出世していくのもありと言えばありだろう。

 それとも曹操へのこだわりは捨てるべきなんだろうか?

 時代の覇者の陣営へ行きたいのは当然といえる。他の陣営で功績を立てても、寝返ってでしか勝者陣営へと移動できないのは出世に大きく響く。

 世を動かす!と言った大それた目標ではないが、俺は平和に貢献したと胸を張って母親や子供に言えるくらいの功績は立てたい。

 

 俗物か?

 

 俗物だろうな。人の命の上で酒を飲む。武官を志望するなら当然だった。時代は乱世へと移りゆく、俺は先を見据えて動かねばならない。

 

 

 

 

 

 一日英気を養い、日課である遠乗りと槍捌きの確認を行ってから徴兵所へと赴いた。

 自分から参加するやつは少ないんじゃないか?と思ったが、以外にもその数は多かった。ざっと見ただけでも100人は余裕で超えていて、もしかしたら300人くらいいるのかもしれない。

 彼ら、彼女らは食うに困った人達だろう。生きるために戦う、嫌な時代だと思った。

 

 

 俺は憤慨した。

 

 目の前には兵舎が有る。男性用の兵舎だ。

 それは良い。当たり前だ。男性と女性を一緒くたにすれば風紀が乱れる、風紀が乱れれば横行が発生する。軍規が厳しい曹操陣営ならではの配慮と言える。

 

 しかしだ。兵舎がテントだと?

 

 女性兵舎は普通に建物だ。

 

 なぜ建物に差があるのか?と兵長へと尋ねて見れば、曹操陣営の将は我らの事を思い、寝食を共にされることがあるのだ。と誇らしげにほざいた。意味がわからん、質問に答えろよ。

 

 地べたで一緒に寝てから誇れよ。と思った俺は一体なんなんだろうか?

 

 俺も村の者と共に賊を討伐していた経験がある。あの時は皆で寒さを凌いだり、同じ釜の飯を食った。そこに男女間の優劣もなく、壁などなかった。あれを仲間というのではなかろうか。

 いや、これは押し付けだ。自分の価値観を相手に押し付けるなど独善も甚だしい。謙虚に経験と功績を積み上げ、男性が泣かずに住む環境を整えたいものだと思った。

 

 

 訓練は厳しい。

 

 鎧を付けたままの歩行訓練から、走行訓練。常に武器を模した重り付きの棒を担ぎ、鉛のような鎧をガシャガシャといわせながら行動する。

 理にかなってはいるけど、これくらい今までも経験してきた事だった。

 

 いずれ少しづつ兵達に差がつき始め、振り分けが何度か行われた。

 

 俺より弱い奴が親衛隊についた。そいつは見目の綺麗な女性だった。

 

 俺より頭の悪い奴が文官の護衛に引き上げられた。そいつは粗野ではあるが見目の整った女性だった。副官も兼ねているらしい。

 

 おかしいだろ。

 

 

 その日は賊の討伐だと命令が下された。正規兵として一ヶ月、訓練兵として一ヶ月、二ヶ月にしてやっとの本番だ。と思うが、訓練時間が圧倒的に短い。この時代では普通なのだろうか?

 戦う武将と連れていく兵士が最初から決まっているわけではないらしく、訓練を一緒にしてない将軍に率いられる事もあるかもしれない。

 出来れば楽進将軍か于禁将軍だとありがたいのだが……。

 

 

 だめだった。夏侯惇将軍の部隊に組み込まれてしまった。

 夏侯、両将軍は曹操陣営で一番二番の指揮権を持つお方だ。それ故中々訓練ではご一緒できる機会がなかった。一応命令の合図等は同じ訓練なのでそこまで不備は出ないのだろうけど。

 これはチャンスでもある、夏侯将軍は後詰や中核を担当することが多く、功績をあげるにはもってこいだろう。気合も入るというもんだ。

 

 

 

 162人

 俺が切った人数だ。罪を持つ人間だとは言え、命の重みに違いなど無い。俺はこの生命の上を踏み歩き、栄達を手にしなければならない。そうでなくては彼らは何のために死んだというのか。

 人が人を裁くなど傲慢だ。罪だのなんだのという殺していいという免罪符も所詮は人が作り出した物なのだから。俺は神でも仏でもない。

 

 

 初戦から三ヶ月ほど、俺は兵長……伍長へと就任した。

 

 

 そしていつの間にか黄巾の乱は終わっていた。





平日は仕事が忙しいので更新できません。
短いですが投稿しておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。