はちゃめちゃ赤龍帝   作:...

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始まりは最悪から

 

 ――最悪だ。

 

 沈んでいく夕日を眺めながら、ボロボロの体を引きずって歩く少女が居た。

名前をレイナーレ。幼い外見だが、それなりの年月を生きている堕天使だ。

 

(……なんで、わたし)

 

 何故こうなったのか、考えてもただ運が悪かったとしか言いようがなかった。

神器(セイクリッドギア)を探していた彼女は、悪魔祓い(エクソシスト)という連中に運悪く発見された彼女は、これまた運の悪いことに一人だった。

レイナーレ自身ずば抜けて強いというわけでもなく、多勢に無勢の状況を命からがら逃げ伸びた結果が、今の現状だ。

 長い綺麗だった黒髪は所々煤けており、身体の至るところが生傷だらけ。

攻撃を捌くために力を使い切り、敵を欺くために身体を幼くして、心底惨めだった。

 

(たすけとか、こないわよね……アハハ)

 

 自分よりずっと上の存在である幹部から寵愛を受けるために色々頑張ってきた彼女だが、この状況になって救けてもらうことは無いだろうと断定した。

ミスした一介の堕天使なんてそんなものだ。

 

(つかれちゃった)

 

 ついには道端に座り込み、光を無くした瞳で暮れる日を眺める。

このまま沈んで夜になる。きっと、自分の今の心境を現すくらい真っ暗だろうな、なんてネガティブな考えが過ぎる。

 ふと、そんな彼女の前に人影が現れた。

 

「どうしたの?」

「迷子かい?」

 

 人間の夫婦だ。自分たちと違って脆弱で、世界のことを何も知らない無知で愚かな……レイナーレにとって価値なんて無い、そんな存在。

 

「酷い怪我……立てる?」

 

 立てるも何も今しがた座り込んだばかりだ。そんな気力なんて湧くはずもない。

鬱陶しい、もし力があったらこんな奴ら消し飛ばすのに、とそんなことを思ってもどうしようもない。今の彼女は只の幼子に過ぎないのだから。

 

「――よっと」

「!?」

 

 ずっと無視していると、急に視界が上がった。

身体は幼子のままで、浮く力もない。そんな彼女の視界が変わった理由は、目の前の夫婦だった。

 

「軽いなぁ、ちゃんと食べてるかい?」

「あらあら、怪我もだけど汚れちゃってるわね……」

 

 男性が抱え、女性がペットボトルの水で濡らしたハンカチでレイナーレの顔を拭いた。

 

「ん、綺麗な顔立ちね。将来は絶対美人さんね」

「だなぁ。きっとキミに負けないくらいの美人さんになるぞ~」

「もう、あなたったら」

 

 急に惚気だした二人に挟まれるような形になった彼女は、何なのだと状況に困惑しながらも、彼らの暖かな雰囲気に包まれたせいか、勝手に口元が歪んだ。

 

「? あらあら、どうしたの」

「おぉ?!えっと、こういう時はどうしたら」

「?」

 

 急におろおろしだした夫婦。どうしたのだろうと思っていると、頬を何か熱いものが伝って落ちた。

 

 ――涙だ。

 

 気付いたら止まらなかった。

 

(どうして泣いているんだろう、なんでこんなに悲しいんだろう、どうしてこんなに暖かいのに私は――わたし、は)

 

 涙と共に感情が溢れ落ちていく。

疑問は尽きない。それでも、今この瞬間、確かに彼女は幸福を感じていた。

 

 

 その後、レイナーレは彼ら、兵藤家の一員となった。

親はいない、名前も何故か名乗りたくなかった。そんな名無しで行く当てのない彼女を、快く彼らは拾ってくれたのだ。

 内に巣食う黒い光に蓋をして、彼女は兵藤夕麻として生きていくことにした。

名前の由来は、出会った時の夕暮れに因んで付けられた。

最悪だったあの日にみた夕暮れが、それだけで好きになった。

 

 

 そして夕麻が引き取られて数年後、兵藤家に新たな命が仲間入りした。

自分とは違ってちゃんと人間の二人から生まれた人間の男の子。

自分を引き取ってから流産を経験し、嘆いていた彼らの為に色々したかいがあった、心底嬉しそうな夫婦をみてそう思った。

 

「……?」

 

 ふと、自分の小指に何かを感じた。

みると小さな、とても小さな掌が自分の小指をぎゅっと握りしめていた。

 

「あらあら、早速夕麻ちゃん気にいられたのね」

「一誠は見る目がいいなぁ。きっと父さん似だな!」

「ふふふ、じゃぁ大変ね」

「どういう意味だい!?」

 

 夫婦の惚気を聞きながらも夕麻の中では何かが込み上げてきた。とっさには分からなかったが、それが暖かい事だけはハッキリしていた。

 

(私、兵藤夕麻として生きて、ホント――)

 

 暖かなその小さな掌を優しく両の手で包み込んだ。

あの日は最悪だったけど、でもあの後も堕天使として生きていたら、こんな想いを抱くことは無かっただろう。

 

(――幸せだ)

 

 

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