誰しもが静かに式が始まることを待っていた会場で、何故か轟音が響いた。
警備の者が走り回る中、ディオドラ・アスタロトだけは何か嫌な予感がしていた。
いや、これはもはや確信だ。眷属たちは知らない
そして、
(うっわ、マジか、マジかよあいつ)
信じられないという思いが彼の内を占める。
だって相手はライザー・フェニックス……そして、グレモリ―家だ。
片方だけでも手に余るというのに、その両方を相手に喧嘩を売ろうというのか。
破砕音はどんどん近づいてくる。
そしてついに、警備員が廊下から吹き飛んで反対側の壁に頭から突き刺さった。
「はは、超逃げてぇ……」
魔力の流れからして生きているのだろうが、これはダメだろう。
というか、もうダメだろう。腹をくくるしかない。
此処で逃げれば一誠にぶっ飛ばされ、逃げなければ名家に潰されかねない。
「何とかしてくれよぉ、子ドラゴンさまァ」
ウェディングドレスに身を包んだリアス・グレモリーの手を引いて現れた少年に、本気で悪魔は願った。頼むから、自分をまきこんで殺してくれるなよ、と。
「さぁて……新郎様って、どいつだ?」
一誠の問いに、炎が応えた。
新婦とは別室、新郎の控室に繋がる廊下から特大の火焔が吹荒れた。
炎と共に現れたのは、金髪の一見すると只のチャラいナンパ男にも見える男性だった。
彼こそがライザー・フェニックス。リアス・グレモリーの婚約者である。
「……騒がしいと思えば、たかが一人の人間相手に何をしている、お前ら」
静かな言い方とは裏腹にその瞳は怒りに燃えていた。
思い通りに行っていた、ここまでずっと。権力に実力を持ってして力ずくで手に入れようとした
あと一歩という所まで来ての邪魔。一周して冷静になるほどに、彼は怒り狂っていた。
「ハー、なるほど。こりゃすげぇなぁ」
一誠はそこそこ離れているのにも拘らず、ライザーの荒々しい焔を感じ取っていた。
ヤバいと感じつつも口元が釣り上がってしまう。
「初めまして、兵藤一誠。只の小学生だ。わりぃけど、この式ぶっ壊させてもらうわ」
「ハッ何を言い出すかと思えば下らない。……まぁ用件は分かった――死ね、クソガキィ!!」
ライザーが纏っていた炎は大きく膨れ上がり、巨大な火球となって一誠へと放たれた。
「あっぶねぇなぁ!!」
「キャッ?!」
リアスを背後に放り、翡翠のオーラを火球にぶつけ相殺した。
「ゴメンねお姉さん、ちょっと待ってて!」
「ぁ……」
翡翠の翼で飛翔する一誠。
そこでふとディオドラは気付いた、今一誠は
にも拘らず、
(……どうなってるんだか、全く)
自分は上級悪魔だ。ライザーの様な不死性はないが、「アスタロト」という特殊な血筋の者だ。
だが断言しよう。自分はあそこまで
「とにかく、こちらにどうぞグレモリーさん」
「ぇ、貴方はたしか」
「ディオドラ・アスタロトです」
座り込んでいたリアスを丁寧に離れた席へと連れ、障壁を張って観戦をする。
火球は一誠に中らなくともその熱だけで火傷を負わせ、翡翠の波動はライザーを切り裂き抉る。
違うのは、一誠は傷付き続け、ライザーの傷は癒えていくことだけ。
「……ディオドラ様、一誠様は大丈夫でしょうか」
「んー、大丈夫でしょ。というか、関わりたくない」
強いて言えばライザーも一誠も両方とも共倒れしてくれないかとさえ思う。
両者ともに気に入らないし、両者ともに煩わしい。
「あの子の事を、知っているの……?」
「ん? あぁ、まぁ色々ありまして」
「そう……あの」
「はい?」
「……いえ、何でもないわ」
何だか知らないが、リアスが何も言わないならばディオドラも何も言うことは無かった。
面倒な会話をするつもりはなかったというのもあるが、それ以上に障壁を維持するのがかなり難しくなっていた。
(……おかしい)
ライザーの力が変わらず剛健なのはその不死性からして当然だろう。
だが、傷付き、疲弊するばかりのはずの一誠の力が増していくのは何故だ?
「……オイオイオイオイ、嘘だろ?」
「「?」」
ディオドラの呟きに眷属とリアスが揃って首をかしげる。
悪魔アスタロトとは、女神アスタ
説明は省くが、アスタロト家は男女というモノを
その本質を利用し、ディオドラは別方面から
皮肉なことに、かの赤龍帝の子供の眷属になった影響で、彼自身の力も増しているのだ。
(人と龍としての境界が、一致しはじめている……この餓鬼、何処まで化物染みていきやがる!)
人が龍の力に抗えるはずはない。人と龍が共にいられるはずなどない。
何故なら、人は龍に食われ、龍は
元から二者の素養を持っているような龍人ならばともかく、
(人の形をした龍になるのではなく、龍人とかいう種族に落ち着くでもない。龍であり人であり、そのどちらでもない融合体になりかけてやがる……ハハッ)
彼らは龍との融和性が高いというのを、そのうち龍になる人間だと勘違いをしていた。
いや、そもそもあの少年は何なのだろうか。一体、何の恩寵を受ければああなる?
人間だった、龍の力のほんの欠片を持っただけの人間だった。
きっと些細なことのはずだ。こんな大きな変化を許してしまう様な切っ掛けは、意外と小さなことだ。
そして、ディオドラにはそれが何となく
「……あぁ、なるほどな。あの
一誠の中にある暗い光が、境目を
きっと本人はこういう心算は無かったのだろう。ほんの軽い気持ち、お守りのようなつもりだったのだろう。
「すげぇよ。いやはや、鴉なんてもう呼べねぇな」
丁寧な口調は驚きによって剥がれていた。
素直に称賛しよう。そして感嘆し、嗤い飛ばしてやろうではないか。
「おめでとう、アンタの
翡翠のオーラは強まっていくばかりで、不死鳥の炎の出力は最高値のまま。
これが意味することは簡単で単純。
「ガッ?!」
ライザー・フェニックスは、もう終わりだ。
「どうした焼き鳥?まだやれんだろ?」
「なんだ、お前はっ何なんだオマエはァ!?!?」
「なんだって、言ったろ」
翡翠のオーラに火焔の全てが阻まれ、波動によって吹き飛ばされるライザーが狼狽える。
それに対し一誠はライザーを壁に減り込ませながら変わらない応えを発した。
「只の小学生だ、女泣かせの屑野郎!!!」
「ヒッ!!」
ぶっちゃけていってしまうと、不死を殺す術など幾らでもある。
一誠がやろうとしているのはその中でももっとも単純な方法だ。
不死だ不死だと言っても、所詮は生ある悪魔が彼だ。殺され続ければ、その精神は何時か滅ぶ。
その手始め、最初の一殺目。それを――。
「はい、そこまでにしてもらおうか」
一人の男性が、止めた。
「何だ、アンタ?」
「いやはやここまでワンサイドゲームになるとは思わなかったよ。途中までいい試合だったからなおの事ね」
「誰だって言ってんだけど?」
ギリギリと力を強めるが、一向に拳は進まない。
凄まじい力が込められているはずの拳を止めた彼は、にこやかに自己紹介をした。
「初めまして、私はサーゼクス・ルシファー。リアス・グレモリーの兄、と言えば分かってもらえるかな?」
ルシファー、それは魔王の証である。
その名前は小学生の一誠も知って……。
「いや、誰だよ?」
「え?」
いなかった。
「そもそもりあす・ぐれもりーって?」
「え??」
……………これ以上ない静寂が、会場内を包んでいた。
「いや、キミ、リアスの結婚が気にくわなくてぶっ壊そうとしてたんじゃ?」
「あぁ、あのお姉さんの名前か!」
「リアスの名前すら知らないでこんなこと仕出かしたのか……?」
「うん」
ぽかんとする魔王ルシファー。
きっと公の場でこんな顔をさらすつもりなどなかっただろうに、可哀想だなと他人事のようにディオドラは紅茶を啜っていた。
「いや、だって泣いて嫌がってるんだぞ?しかも自分じゃどうしようもないっていってさ。だったらもうぶっ壊すしかなくね?」
「いや、えっと、泣いて……え?」
「……アンタ、兄貴なのに妹のこと見てねぇんだな」
掴まれていた腕を振り払うと、一誠はライザーなど無視してサーゼクスへと拳を向け直した。
「うっし、取りあえず一発殴らせろ!!」
「おっと、全く乱暴な」
威力がさらに上がった一誠の拳を普通に受け止める。
魔王が上級悪魔と比べ物にならない強さだと分かっていたつもりだったが、ここまでとは想定外だった。
もはや拳圧だけで会場が軋んでいるのだが?
「ふむ……どうやら、話し合いが必要みたいだね」
「こんのぉ!」
一誠の気合いに応えるように、左手に籠手が顕現する。
「その神器は――」
「オラァ!!!」
『Explosion!』
本来なら必須の倍化など必要が無い。
既に一誠は龍の力が満ちている。その力を収束、破裂するだけでかなりの破壊力となるのだから。
ぶっ飛ばす等と言った甘い威力ではない。正しく消し飛ばす一撃。
「危ないね」
それを、あっさりいなしてみせた。
流された力はサーゼクスの背後の壁を粉々にし、余波で悪魔たちを吹き飛ばしていく。
誰も死んでいない辺り、化物具合がよくわかる。
「にゃろ!!」
「おっとっと」
連続で殴りかかるも同じこと。一誠の暴力はサーゼクスの技によって流されていく。
「お姉さんは、泣いて、たんだぞ!!」
「そうか……あのリアスが」
「兄貴なら、しっかり、見てやれよな!!!」
「そうだね。忙しくて、リアスの将来の為にと急ぎ過ぎたところもある」
「っあぁクソ!」
一誠はサーゼクスの余裕さが気にいらなかった。
冷静に妹の嘆きを流されているようで、酷く気に入らなかった。
だがわかる。今のままではこの気にいらない奴をぶん殴れない。
力が必要だ。もっともっと強い力が。
「気にいらねぇ、気にいらねぇ!!ドライグゥ!!!」
『――
一誠にとって姉とは偉大な存在だ。
自分を見守ってくれて、心配してくれて、大変な時だって関係なく何時も気にかけてくれている。
他人にそれを押し付ける理由はないし、道理はない。
――でも妹が泣いていたと聴いて、その態度は無いだろう?
サーゼクスの内心なんて知った事ではないが、ひたすら気に入らなかった。
「テメェのその余裕から、ぶっ壊してやる!!!」
『
禁手とは、神器の真の力を発揮する形、所謂奥の手である。
本来の赤龍帝の籠手の禁手は真紅の鎧なのだが、一誠のそれは本来のそれとは形が違った。
「『GAAAAAAAAAA!!!!!』」
刺々しく荒々しい。一誠の感情と龍としての攻撃的な特性がそのまま表に現れたような鎧。
手足の爪は長く鋭く、翼は鋭利、腰から伸びる長い尾は棘の塊の様だった。
「これは、流石に拙いか……?」
「『イクゼ、コノヤロォオオオオオオオ!!!』」
力が際限なく上がっていくのを感じる。
一誠の
彼の変化……進化が終わるまで、彼の力は上がり続けるだろう。
「……式どころか婚約すら破棄させるつもりになったのだけど、うん。まずはキミを落ち着かせた方がよさそうだね」
あんな毅然と自分達に抗議しに来た妹が、実は陰ながら泣いていただとか、実は内心色々キレていた魔王様は、荒れ狂う赤龍を抑えることから頑張ることにした。
殺してしまうと妹に赦してもらえないだろうから、ホントに頑張んなきゃなぁなんて、余裕ありそうで余裕がない魔王様の苦難が始まった。
ライザー撲殺タイム(略)でした。
神器すら使われることなく子供にボコボコにされていくだけの作業です、お疲れ様でしたライザーさん……(-人-)ナムナム。
次話、相手は魔王様。禁手覚醒したての一誠くんに勝機はあるかな?
ちなみにちゃっかりディオドラ君強化……本格的な強化はまだですけど、こんな感じの方向性で行くつもりです。