――熱い。
一誠の身体を熱が這い回っていた。
うなされる小さな少年に、濁った光が女性の身体を象り、一誠に抱き着いた。
「ぅ……ねぇ、ちゃ………すぅ」
うなされていた彼に溶け込むように光が消えると、同時に熱も治まっていく。
光によって体の異変が
僅か1時間後、少年は普通に目を覚ました。
「ん?どこ、此処?」
キョロキョロと辺りを見渡すも豪華絢爛な部屋だとしか言いようがない。
広い部屋にベッドがぽつんと……一応部屋の隅に小さなタンスなどがあるが、一誠の想像する「部屋」とは違い贅沢な使い方をされていた。
「………」
ふと、今何時だろうと疑問符が浮かぶ。
式場に赴いたのはもう0時過ぎ、うろちょろして暴れてたから気絶する前は……2時?
「……やばい」
というかそもそも此処は一誠が知っている日本ですらなくて、一人では帰れないわけで。
「ね、姉ちゃんに怒られる……!」
というか家族に心配される、泣かれて怒られて色々拙い!!
そう焦った一誠は時計を探すこともせず屋敷を走り回りだした。
「あら……?」
その僅か数分後、様子を見に来たグレイフィアが空の部屋をみて呆けていた。
――
場所を式場から少し離れた場所にあるサーゼクスの別荘の一室に集められた面々は、かれこれ1時間以上話し合いや説明を続けていた。
式場は諸事情により粉々になってしまったため、式場を解散、改めて
「……つまり、キミの思惑から外れた結果一誠君と繋がりを得た、と」
「まぁそう言うことになりますね」
「酷い外道だったのね、貴方」
「えぇ。悪魔ですから、外道でもなんでも自分のやりたい様にやりたいことをしていただけですよ。……まぁ、もうそれも出来ませんがね」
そう言って首の隷属紋を見せる。
「ふむ……それは、キミにしか付いていないのかい?」
「えぇ。僕の眷属には何の印もついていませんでした。あぁ、確認したのは僕の
「そうか。相当警戒してるんだね」
「というか、イライラを発散しようとして新入りの子に迫ったらこう、神経を直接弄られるみたいな不快で壮絶な痛みがですね……」
「なるほど。……その彼女がキミの命令で確認を行って、キミに報告したわけだけど、その時に不便は無かったかい?」
「いえ、特には」
「そうか……これは私の想像だけど、その隷属紋は彼の意思というよりも、
「好み?」
今の話だとディオドラが女性と
そもそも彼の眷属は主人を嫌悪しており、中には会話を拒否する者が居てもおかしくはない。
「となると、だ。一誠君の好み、感性に左右されているとしたら話はとおる」
「どういう事でしょう?」
「恐らくだけど、
「……それって人心掌握の魔法とか使っても?」
「んー、そもそも女性の心を操るという行為がNGかもしれない。なにせリアスが泣いていた、というだけでここまでする少年だからね」
「ですよねー」
はぁとため息をついてガクリと肩を落とすディオドラ。
今まで散々自由にしてきた彼が此処に来て禁欲の日々を強制されるのは、かなりクルものがあるのだ。
「ん?」
サーゼクスが何かに反応した直後、屋敷にアラームが響き渡った。
耳をすませば破砕音や強い力を感じる……一誠だ。
「これは、何事ですか?」
「いや、屋敷の防犯システムが作動したようだ……なるほど、あの子はもう目を覚ましたのか」
「なんで起きたら防犯システムに引っかかってんですかねぇ、あのガキは」
「外に出よう。キミとキミの眷属なら止められるだろう……グレイフィアに止めてもらうのも良いが、式場に続いて屋敷まで更地に変えられては、流石に参ってしまう」
「そうですね」
そうおとなしくついて行くディオドラは最後までツッコミしなかったが、アラームの前に一誠に気付いたサーゼクスをやっぱり化物だと再認識していた。
――
「何処だよ、ここぉー!!」
ひとしきり部屋を開け閉めしては走り回っていた一誠は、ふと飛べばいいじゃんと気づき、窓から外へ出た。
龍翼を展開し、飛翔するも知らない場所に変わりはない。
そもそも焦っていて忘れているが、一誠は式場に転移してきたのだから、そもそも式場の上空だって知らない景色に違いない。
「はぁ……早く帰らねぇといけねぇのに。クソっ!」
地面に降り立ち、イライラを大きな扉……一誠からすると門の様にも見える玄関を強くぶん殴った。
扉に亀裂が入ると同時にアラームが鳴り響き、迎撃用の魔法が撃ち出される。
「な、なんだ!?」
一誠は知る由もないが、此処は魔王サーゼクスの所有する別荘であり、これくらいの警戒は普通なのだ。
「急いでるってのに、邪魔すんな!」
魔法弾を蹴散らし、次に放たれた砲撃を軽く殴り消した。
生身だというのに、最早その威力は人間のそれではなくなっていた。
魔法陣をオーラの籠った拳で破壊し、ついでに地面にクレーターを作ること数分。彼の近くにディオドラ一行が転移してきた。
「あ、ディぃいいー!!」
「やぁってちょっとまt」
ディオドラの静止を聞かずにそのまま突進した一誠。
これでも小学生だ、見知らぬ場所に一人きりにされては不安の一つもある。
そしてそれ以上に早く帰るために急いでいた一誠は、ディオドラの襟首を掴んで勢いよく振りながら帰宅方法を聞き出そうとしていた。
「ディー!丁度いいところに来た帰るぞ!……おい、ディー寝るな!眠いのは分かるけど寝るなぁ!」
「い、一誠様落ち着いてください。ソレは眠っているのではなく、気を失っているんです」
「俺だって眠いんだぞ!おーきーろー!!」
「一誠様、落ち着いて、白目剥いてますから!」
テンパる一誠を落ち着かせようとすること数分。今がまだ4時前であり、帰宅は転移で一瞬で済むことを一誠が理解するのにさらに数分かかった。
それまでにディオドラは揺さぶられ続け、若干首を痛めたことは些事である。
「えぇと、落ち着いたようだね」
「あ、お姉さんのダメ兄貴!」
「ダメ……」
「お、お兄様!?」
グサッとサーゼクスに見えないなにかが刺さり、落ち込んだ。
近くに居たリアスの言葉でもすぐに復帰しない辺り、彼がどれだけ今回のことを気にしているかがよく分かるが、如何せん一誠は気にしなかった。
「あー、そういや俺負けたんだっけ」
目の前の魔王よりも別のことを気にしだした。
だがそれはそれとして、とすぐ切り替えた。
「なんかよう?俺早く帰って寝たいんだけど」
「……そうだね、手早く済ませようか。兵藤一誠君、単刀直入に言おう」
「?」
疑問符を浮かべる一誠に、サーゼクスは手を差し出しこう告げた。
「悪魔にならないかい?」
ぽかんとする一誠。他の面々は予想していたのか、特にリアクションは無く様子を見守っている。
「キミは若手でも有能だと言われているアスタロト家の次期当主である、ディオドラ・アスタロトを打倒、支配下に置いている。その上で式場に殴り込み名門フェニックス家の三男をこれまた打倒、見事破たんさせた」
「………」
「いいかい、今キミは悪魔に害ある存在として認識されかねない。いや、もうされている」
「………」
「それだけじゃない。キミは自覚を持っているかわからないけど、その
「………」
「もし悪魔になるなら私が責任を持って――」
「あの」
サーゼクスの言葉を遮るように、今まで黙っていた一誠が手を挙げた。
「よくわかんねぇんだけど」
ずこっとグレイフィアを除いた全員がこけた。
グレイフィアも苦笑いを浮かべている。
「えっとだね、つまり今のままだと悪魔に危険視されるから、悪魔に転生して私の保護下に入らないかい?力の使い方だって教えるし、それ以前に悪魔になれば今より頑丈に、えと、強くなれるはずだよ」
「……つまり、アンタの下につけと?」
「体裁的にはそうなるかな」
「ヤダ」
「………えっと、何故?」
「………さっきの喧嘩は負けちまったし、アンタに今すぐ挑んでもおんなじ結果になるのは分かるけどさ……でも!」
ぷぅと少し頬を膨らませた一誠は、そっぽを向くことで悔しさを隠そうとしつつ呟いた。
「負かされた相手にほいほいついて行って、しかも力貰う上に世話してもらうとか、カッコ悪いじゃん」
「……………」
余りの子供の我儘っぷりに、ぽかんとサーゼクスが呆けた。
大人であり、眷属を従え、悪魔の王となった彼には一誠の考えを飲み込むのにそれだけ時間が必要だった。
「つーか、一回勝ったからって調子のんなよな!もっと強くなってぜってぇリベンジしてやる!!」
「―くっ」
ついにはサーゼクスを指して喧嘩を売る始末。
その身勝手かつ傲慢な少年に、彼が長らく触れることの無かった感情が動き、それは笑みになって表れた。
「アッハハハハハハハ!!!」
「な、なんだよいきなり?」
「あーいや、すまない。なんだろうね、色々懐かしいなと思ってね」
サーゼクスが魔王になるまで、色々な邪魔があった。いや、今だって反感は強い。
その度に、「負けるものか」と「絶対勝つ」と、己を鼓舞していた。
最近は事務仕事だったり腹の黒い探り合い立ったりと、少し離れていたその情熱。
「いいね、うん」
「???」
「いや、こっちの話だ。すまない」
「別に良いけど……?」
サーゼクスはいろいろ難しいことを考えていたのがばからしくなってきていた。
この小首を傾げる少年は、見たままの子供なのだ。こっちの都合で振り回すよりも、こうやって振り回されるのが自然というモノ。
「それはそれとして、今度君の家に挨拶に行っても良いかい?」
「挨拶?」
「「!!」」
サーゼクスの言葉に反応する約二名を放置し、会話が続く。
「色々キミには気付かされたし、私も気に入った。遊びに行かせてくれ」
「おう、別に良いぜ!」
「……軽いなぁ」
「あ、ディー起きたか!帰るぞ!」
「おいおい、話し合いはいいのかよ?」
「いい!……よな?」
「あぁ、有難う。……どんどん強くなりなさい」
ぽんぽんと一誠の頭を軽く撫でるサーゼクスには、魔王という肩書には似つかわしくない、グレモリ―の血を感じさせる慈愛が籠っていた。
そして、数日後。
――ピンポーン。
「あら、誰かしら?」
「あ、多分俺の友達」
「一誠の?フィーちゃん?」
「ううん、ちがーう」
「あら、新しい友達?」
一誠の友達と言えば極少数であり、今まで家に遊びに来るような人は数える程。
一誠自身の縁の輪が広がっている事実に、どこか嬉しい様な寂しいような……そんな感傷に浸りつつ扉を開くと――。
「初めまして、サーゼクス・ルシファーと言います」
「従者のグレイフィア・ルキフグスです」
「えぇと、友達?、……のリアス・グレモリーと言います」
「従者の姫島朱乃ですわ」
「……同じく、搭城小猫です」
「同じく、木場祐斗です」
「どうも、色々事情の説明に来ましたディオドラ・アスタロトです」
「じゅ、従者の、リヴァリア・ククリカです」
「……………………キュゥ」
「ね、ねえちゃぁーん!?!?」
突然の
リヴァリア・ククリカ
ディオドラ・アスタロトの
魔力の運用、魔法に長けているぞ!……残念ながら神器持ちではない。