兵藤家に魔王御一行様が訪れてから早数日、一誠は姉に連れられ夜の駒王学園へと赴いていた。
「こんばんはー!」
「こ、こんばんは……」
「いらっしゃい、二人とも」
中に居るのはたったの4人。にも拘らず給湯器や紅茶、コーヒー、お菓子完備の上バスルームまでおまけについている。その部屋の名前は「オカルト研究部」……悪魔がオカ研とは、凄い皮肉だと笑うに笑えない夕麻だった。
「それじゃ、さっそく始めましょうか」
今日二人が来たのは他でもない、リアス・グレモリーの誘いだった。
兄のサーゼクスは諦めたが、彼女は勧誘を諦めていなかった。寧ろ、あの暖かな家族を見て決心したくらいである。
「今日は小猫に依頼が入ってるの。それについて行ってもらうわ。お願いね、小猫?」
「……分かりました」
搭城小猫、白髪の小さな少女だ。一誠より少し背が高いくらいで、傍から見れば小学生に間違われるだろう……。
(何だか私、引率のお姉さんみたいね……)
夕麻からしてみれば一誠に近い妹がいるような変な感覚になってしまうが、何とかこらえる。相手は
「……では、いきましょう。魔法陣の中へ入ってください」
小猫の魔力で拡大化された転移魔法陣へと足を踏み入れる。
光が瞬くと、次の瞬間には全く知らない部屋へと移動していた。
「……初めまして、願いを叶えに来ました」
「ほ、本当に来た……しかも、三人?」
「……後ろの二人は見習いというか、ともかく違います。悪魔は私だけです」
「そうなんだ……」
「……それで、願いはなんでしょう?」
呼び出した青年の願いは、自分の作った服を着て欲しいという事だった。
所謂コスプレである。その願いを叶える報酬を相談している横で、一誠は彼が造った服をまじまじと見ていた。
「すっげぇ。これ全部兄ちゃんが造ったの?」
「ん? あ、あぁそうだよ」
「はー……お、姉ちゃん見て見て、これこの間やってた仮面戦士の敵役の格好だ!!」
「一誠がいつも見てる奴ね……よく作りこまれてる、凄いわね」
というか、この敵役は先日出演したばかりではなかっただろうか?
わずか数日で完成させるって、どんな熱意だと呆れ半分で鑑賞する。
べた褒めされて照れる青年……よく見れば目に隈が出来ている。寝ていないのだろう。
「姉ちゃん姉ちゃん、これ着てよ!」
「え、……えぇ?」
「小猫姉ちゃんも着るんだろ?なぁいいよな兄ちゃん!」
「僕としては、願ったりかなったりだけど……」
「えっと……と、搭城さん?」
「……私の契約とは別ということなら、別に構わないですよ」
小猫にヘルプを望んだが、何気に一誠に姉呼びされて嬉しいのだろう。ここ最近機嫌がいい小猫には一誠の願いを叶えるのは部員としても、個人としてもやぶさかではなかった。
「ねえちゃーん?」
「うぅ……仕方ないわね、少しだけよ?」
「「よっしゃー!」」
気付けば青年とハイタッチしている一誠。
あ、ヤバいと思った時には手遅れで、上機嫌になった一誠と青年主催で行われた小猫と夕麻のダブル試写会は、深夜遅くまで続くこととなった。
契約はスムーズに進むし一誠は上機嫌だしで、表情に乏しい小猫は分かり辛いがご満悦だった。
夕麻は、満更でもなかったが流石に写真を撮られるのは恥ずかしかったらしい。
終わった後しばらくは赤面したままだったという。
*
そのような日々が数日ほど続いた。
小猫の様な欲望を叶えるパターンだけではなく、病気の誰かを元気づけたいとか、治したいとか、剣の道を極めたいとか、ゲームや釣りの相手をしてほしいなんておじさんとか、色々な人間が居た。
「たっだいまー!今日も面白かった!」
「ふふ、楽しそうでよかったわ」
「私は大変ですけどね……」
「お疲れ様、朱乃が紅茶を入れているから少し待ってなさい」
夕麻をソファーに座らせるリアス。
朱乃、と聞いて少し表情を硬くする。夕麻はあまり彼女、姫島朱乃と話したことが無いのだ。
全く会話が無いわけではないし、何時も優しげに微笑んでいるイメージなのだが……。
(なんとなーく、嫌われてるような、違う様な?)
悪感情
自然と会話も少なくなるし、やり辛いというか居ずらい。
しかし、一誠相手にはそんな気配微塵もない。じゃぁ夕麻が何かしたのだろうか、そう考えても全く身に覚えがない。
「にしてもスゲーよな、こんな紙切れ一枚でひとっ跳びだもん」
「あら、貴方も似たようなことしたのよ?」
「ん?そうだっけか?」
「そうよ。まぁ貴方にとっては、当たり前のことだったのかもしれないけどね」
あのリアスの結婚式をぶち壊した一件は、一誠の中で既に消化済みのことらしくきょとんとしている。
小学生の彼にとって時間の進みはじれったいほどだ。ついこの間のことが彼にとってはかなり前の話なのかもしれない。
「……ん?」
ふと、一誠の手元の紙切れ……契約書が光っていることに気付いた。
一誠の魔力は低く転移することは無いのだろうが、反応しているということは紙を配った悪魔ではなく、担当不明瞭、誰でもいいから願いを叶えて欲しいのだろう。
「一誠、その紙を――」
渡してちょうだい、そう言おうとしたその時、一誠の姿が掻き消えた。
「………………」
「………………」
「「……………」」
「あ、あわわわわ」
呆然と部員が沈黙する中、夕麻だけがオロオロと慌てふためいた。
「ま、またあの子が厄介事をひきおこしちゃうわぁ」
「お、落ち着いて夕麻さん!」
「……そうです、部長の様な事はそうそうおこりません」
「れ、レアケースは中々起こらないから、レアケースというのですわよ?」
「そ、そうですよ。あ、お菓子でも持ってきますね」
魔王来訪が随分堪えたらしい夕麻は、半泣きになりながら部員メンバーに慰められていた。
一誠の居場所を突き止める、ほんの数時間前のことであったという。
*
転移した一誠は困惑していた。
行き成り転移したこともそうだが、目の前に土下座をしている人物が急に現れてはさすがの彼も驚くというモノ。
「お願いします悪魔さん、ミルたんを魔法少女にしてほしいにょぉぉおおおお!!!!!」
それも、魔法少女のコスプレをした巨漢が土下座をしているその圧巻さと言ったらもう、うん。
「えぇと………魔王じゃなくて?」
「魔法なにょ」
呆然として思わずツッコミを入れてしまった一誠は間違っていない。
ただ、その後の選択肢はきっと間違いだったのかもしれない。
「んー、えっと、俺悪魔じゃねぇんだよ」
「にょ!? でも、この紙は悪魔さんがくれたにょ……白髪の小さな悪魔さんだったにょ」
「あー……んー……えっと」
取りあえず小猫がとんでもない相手に紙を渡していたことに関して慄きつつも、それを信じたこの巨漢のピュアさにも驚いていた。
「悪魔さんじゃなかったなんて、どうしたらいいにょ……」
「えぇと……」
いや、まぁ魔法少女という性別というか、何か違うものも超越しなきゃいけなくなっているし、どのみち小猫でも無理なのでは?
そう考えた一誠は、どこかで思考が捻じれてしまったのか、一つの結論に達した。
「よっし、俺が手伝うよ!」
「いいにょ!?」
「何か小猫姉ちゃんでも手に余りそうだけど、俺赤龍帝とか呼ばれてるし、なんとかなんだろ!」
「ありがとなにょー!」
一誠を抱き上げくるくるとその場を周る。回る回る回る………気付けば高速回転していた。
「ちょ、ストップストップ!」
「あ、ごめんにょ」
「ゲホゲホ……今の、魔力とか使って」
「ないにょ」
『相棒、今のは純粋な筋力だ』
「マジか」
彼が呼び出したのが深夜の公園でなければ、辺り一面突風で色々吹き飛んでいただろう。それくらいの力を純粋な筋力で行うなんて……魔法少女になる必要あるのだろうか?
「えぇと、俺兵藤一誠。イッセーでいいぜ」
「ミルたんはミルたんなにょ、よろしくなにょ」
「ミルたんな……えっと、ミルたんは魔法少女になりたいんだよな?」
「そうなにょ」
「んー、魔法少女かぁ」
シスター、神父、堕天使、悪魔と色々特殊な人種に会ってきたが、魔法少女にはまだあっていなかった。
「ドライグ、魔法少女っているのか?」
『……魔女、という存在ならいるが』
「魔女かぁ」
「魔女さんにならもうあったにょ」
「『マジか!?』」
というかどうやってあったのだろうか。
「魔法の気配を探って、空間を跳んだにょ」
「すげぇな」
『相棒も似たようなもんだが……』
「それで?」
「ダメだったにょ。アレは魔法少女じゃなかったにょ……惜しい線いってたにょ」
「あらら」
どうやら魔女はミルたんにはお気に召さなかったらしい。
どうしようかなーと考えて、ふと自分の左腕に目が留まった。
「なぁドライグ、神器って宿主の願いを叶えるんだよな?」
『ん?あぁ極力沿う様なことはするが……おい、まさか』
「強く願えば
「出来るにょ!?」
「分かんねぇけど、やらねえよりやってみるしかねえだろ!!ミルたんも手伝ってくれ!!」
「分かったにょ!!」
『ちょ、おい待て、無茶苦茶するな!!おいそこの巨漢触るな!変な力を送るなぁあああああああ!!!!!』
「おおおおおおおおお!!!!!」
「にょおおおおおおお!!!!!」
二人で左腕の籠手に力を込めていく。
二人の周囲の空間が歪んでいき、遂には割れはじめた。
『や、止めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』ビキィッッ
ドライグの悲鳴と神器の罅割れる音と共に、二人は人間界から姿を消した。
*
「魔法少女、レヴィアたん☆……え?」
「……お?」
「にょ?」
次に現れた場所は何やら豪華絢爛な部屋で、目の前に居たのはミルたん同様、しかしミルたんとは真反対に目茶苦茶様になっている魔法少女のコスプレをした、黒髪ツインテールの女性が居た。
鏡の前でポージングの練習をしていたのだろうか、そのまま突如姿を現した二人を鏡越しに認識し、固まっている。
「ま、魔法少女さんなにょ!?」
「え!?えっと、え?」
「おぉすげぇ、一発じゃん」
『……………こっちは一発でグロッキーだ、もう二度とやらんからな』
ドライグの疲弊した声なんて初めて聴いた、よしまたやろうと一誠は何気に決意していた。
目の前では、またミルたんが土下座している。
「お願いなにょ、ミルたんを魔法少女にしてくださいなにょぉおおおおお!!!!!」
「え、えっと……?」
「頼むよ魔法少女のお姉さん、コイツ真剣なんだ!」
『オレにはどうでもいいんだが、またさっきのようなことをされては敵わん。娘、どうにかしてくれ!』
「………」
巨漢、少年、神器の声に懇願され、彼女の出した結論は………。
「わ、私の修行は厳しいわよ☆!!!」
「上等なにょ!!!」
「おっしゃー、頑張れミルたん!」
こうして魔法少女レヴィアたんと、魔法少女を目指す
実際は魔法少女というか魔王少女だし、それ以前に魔法少女なんてこの世界には存在しないということを知るまで時間がかかることになったが、それでもこの三人の友情は僅か数時間で深まったという。
「いーい?魔法を使う少女だから魔法少女じゃないの!魔法を使う以前に、少女の純粋な心を持つことから始めるのよ!!」
「分かったにょ!!」
「いやー、ミルたんその辺は大丈夫だと思うぜ、うん」
「あらそう?だったらあとは、どんな状況でも魔法の様な奇跡を信じなさい!魔法少女を名乗るのはそれからよ!!」
「分かったにょ師匠!!」
「ノン!レヴィアたん!」
「分かったにょ、レヴィアたん!!」
この三人は特殊且つ個人的な契約関係となり、友情と魔法と拳で活躍する「魔法少女ドラゴたんズ☆」という番組が出来上がるのだが、それはまた別の話……。
「一誠が、いっせいが……」アワワワワワ
「………ドンマイ」
「ドンマイですわ」
「……ドンマイです」
「あ、アハハ……」
リアスの親友から連絡を受け駆けつけた時には色々手遅れだった上に、この三人の相性の良さと言ったら……集まった瞬間を見つけられなかった時点でどうしようもなかった、とはその親友談だったりする。
何気に文字数最多かも?
というか書いてて暴走した感が半端なかった……愉しかったですけどね!愉悦!
「魔法少女ドラゴたんズ☆」
ボス・赤ドラゴたん
部下・魔法少女レヴィアたん&ミルたん
部下の部下、苦労人ズ・糸目くん、お姉たん、Etc
魔法少女とボスが働きすぎないように部下の部下が縁の下で頑張るけど結局暴れられちゃう、大体そんなお話。
尚、お姉たんは特殊条件を満たすと魔法少女化、ボス限定特攻となりますm(__)m