フリード・セルゼンという神父が居た。
とはいえ、この神父別に神を敬っているわけでもなく、寧ろくたばってろとか思ってたりするエセ神父で……現在進行形で殺人殺悪魔殺堕天使殺天使と、殺してばかりのロクデナシだったりする。
「…………」
そんなロクデナシだが、ここ最近そのイカレた常識が崩れていっているのだ。
彼は人間であり、人間が悪魔などの化物を倒すには下準備が必要だったりする。
なのだが、流れ者の彼の一時的上司だった堕天使一行は一人の少年によって瓦解した。
神器をろくに発動せずに一体を殴り倒し、そもそもその少年を連れてきたもう一人の堕天使は何故か人間として仲良くしていて……もっと殺伐ライフを送っていたはずなのに、気付けばフリード自身そんな輪の中に入っていた。
「………いや、でもさァ」
確かに、常識が崩れていっていた。これまで殺して奪って生きてきた彼の今までとは正反対だったし、それを行った少年は無自覚ではちゃめちゃだし?
ただ、逆に言えばあの少年が関わらなければ後は何時もどおりだと、そう思っていたのだ。
フリードはある依頼で聖剣エクスカリバーを手に入れていた。
古の大戦で砕けてバラバラの破片となり、その破片を出力元として新たに打ち直された7本のエクスカリバー。
エクスカリバーシリーズとでもいうのだろうか。そのうちの一本、
「一杯食べてくださいね」
「ん………おかわり」
「はい」
窓の向こうに居る金髪美少女シスターが、銀髪ショタに飯を食わせている。
まぁこれは良い……いや、ある意味良くないが、ともかくいい。シスターとして行き倒れしていた少年を助けるのはいたって普通のことだ。
で、だ。
「…………何してンすか、ドーナシークの旦那?」
「……見ての、とおりだ」
教会の真ん前で
そのまま都合を聞くと、アーシアが道に迷って行き倒れていた少年を保護したらしい。
が、この少年めっちゃ喰う。食って食って食いすぎて、ちょっと注意したらしい。
「おい、貴様施されている身だろ。少しは遠慮をしたらどうだ」
「もぐもぐ」
「おい……無視するなこのクソガキっ」
「もぐ………おじさん、臭いウザい向こう行ってろ邪魔」
「……ハァー。最近のガキはどいつもこいつもッ躾がなってない!!俺が躾けてやろう、表に出ろクソガキ」
「むっ……仕方ない、格の違いって奴を教えてあげるよ。おじさん」
ドーナシークとしては別に油断していたわけではなかった。
ただ、この少年がどこかのクソガキを思い出させるほどに無茶苦茶だっただけである。
気付けば、彼の頭は地面に埋まっていたらしい。
「………あー、取りあえずそっちは依頼は?」
「達成済みだ。お前の回収した
「んじゃいーや、ゆっくりお休み~♪」
「ちょ、抜くの手伝――」
男堕天使を無視して改めて教会へと入りなおす。
内部に造った生活スペースへ入ると、
「あ、フリードさんお帰りなさい」
「たっだいま~♪アーシアちゃん、ミッテルトの嬢ちゃん知らない?」
「ミッテルト様なら自室にいらっしゃいますよ?」
「さーんきゅ」
手を振ってリビングを素通りする。
一瞬銀髪の子供と視線が合ったが、何をするわけでもなく通り過ぎてミッテルトの部屋へ。
「嬢ちゃん、失礼しますよっと」
「何かってに入って来てるんスか……まぁ良いっスけど。あの子供の事っすよね」
「旦那に訊きましたけど、
「なんだあのバカ起きてたんスか」
ドーナシークは一誠に負けてから鍛錬を欠かさず強くなった。
強くなったのだが、どこか脳筋というか最近
「アレ、一誠クンと同類っしょ?」
「神器持ちの悪魔っすよ。隠すつもりないみたいッスから、ちょっと探れば分かる事っす」
「あーあー……。何処の子とかは?」
「………それが」
ごくん、と彼女は生唾を飲み込み、初めて緊張した様子を見せた。
「………アザゼル様、の御使い……らしいっす」
「はい詰んだー!!」
両手を上げてそのままベッドに背中から倒れ込んだ。
どうしようもないじゃん?堕天使のトップに目を付けられるとか、どうしようもないじゃん?
「てか殺されないんだねー俺っちたち」
「知らないっすよ」
「そーいえばカラワーナの姐さんは?」
「実力差を察してふて寝してるっすよ。最後の言葉は、インフレについてけない、だったっス」
「ハハハ、言えてるぅー」
そもそもアーシアという無力な少女の神器を手に入れようとしていたのに、なんでこんな強い連中が集まる地に集合してしまったのか。
不運というなら、この教会、この街を選んだあの時の自分達のことだろう。
意気消沈している様子の二人だったが、扉向こうの言葉に意識を戻した。
「そうは言いつつも、餓えは隠せてないな」
「!」
「いらっしゃ~い」
気配を全く感じなかったのだろう、驚くミッテルトと冷や汗をかいているフリード。
「餓えって、なんのことっすか?」
「力だよ、力に対する欲求。あのおじさんも雑魚だったが、その餓えは一端のそれだったよ……アンタはともかく、白髪のアンタはそれ以上みたいだけど?」
「え?」
「チッ」
完全に強者の上から目線の物言いに舌打ちするフリード。
ミッテルトは若干の諦めが入っていたが、何か思うことがあるのか強くなりたいらしい。
だがフリードは違う。この男は強くなりたいではなく、強くなろうとしている。
「聖剣奪ってるのは依頼なんだろうけど、あわよくばそれを手に入れようって魂胆なんだろ?」
「ハァ……オミトオシってかァー?」
「まぁね。人間にしては良いオーラしてるよ、アンタ。その眼のギラつきもいい感じだ。もう少し力を付けたら、遊んでもいいかもしれない」
「……」
「はぁ」
どっちがギラついてんのやら、とミッテルトは溜息を吐いた。
もうこの空間に居ずらくてたまらないと言った様子だ。
「さぁて、迷子の御使いさんは一体何のようなんで?喧嘩売りに来たってわけじゃないんだろ」
「まぁ俺も暇じゃないんだけど……アザゼルがコカビエルと
「…………それだけじゃ、無いっすよね?」
「勿論。メインディッシュはそっちじゃない」
爛々と眼を輝かせ、銀髪の少年は楽しみだという感情と戦意を微塵も隠さずに告げた。
「
この銀色の少年の目的は最初からそっち……赤龍帝の出現、その存在と戦うこと。
「バトルジャンキーっすねぇ」
「だなぁ」
「……まぁそんなわけで、暫く此処を使うから」
「りょーかい」
「って待つッス!なにがどういうわけっすか!?」
行き成り話が飛んだ、そう思ってツッコミを入れるミッテルトだが、そこは慣れた様子のフリードが言い聞かせた。
「コカビエルの旦那が出てくるのは依頼最終段階、聖剣の統合の時。それまでは此処にいるってことっしょ?」
「そういうこと。頭も回るようだな、将来が楽しみだ」
「……」
子供に将来とか言われるとか心外だったが、フリードは人で相手は悪魔。
生きる時間の長さと速さが違う。
「……そういえば、名前は?」
「あぁそう言えば言ってなかったっけ」
コホンと一息入れて、少年は名乗った。
「ヴァーリだ」
一瞬、本当にその一瞬だけヴァーリは自分のオーラ、力を見せつけた。
轟ッと力の渦に飲み込まれるような錯覚を覚え、少しフラッとくるフリードとミッテルト。
「ッ……フリード・セルゼン、よろしく」
「ミッテルトっす」
「あぁよろしく……っとしまった、あのお姉さんにはきつかったかも」
お姉さんとはアーシアのことを言っているのだろう。
一誠とディオドラの件以来、ミッテルトが結界を
彼女は見るからに一般人であり、ヴァーリから見ても優しいオーラとしか言いようがないほどに戦意が無かった彼女。あの威圧を部屋が違うとはいえ受けたらひとたまりも―――。
「みなさーん、そろそろお夕飯にしましょう~」
「………」
「………」
「………」
大きな声を出す余裕のある、ケロッとした様子のアーシアに、きっと一番驚いたのは他でもないヴァーリ自身なのだろう。
余裕綽々で強者の目線で見下していたあの少年が、ポカンとしている。
「あー、行きますか?」
「そうっすね。アーシアあんまり無視すると泣いちゃうっすもんね」
「むっ、それはいけな……冷めるといけないから、いくぞ」
少し言葉を訂正し、頬を少し赤らめた少年はいの一番に部屋を出て行った。
「………なんか」
「色々大丈夫そうっすね?」
取りあえず今は依頼を達成することを優先することにしたフリードだった。
「ん?依頼?………誰か忘れてるような」
「………あれじゃないっすか?」
「……あぁ。………まぁ、反省ってことで放置で」
「そっスか」
その後、アーシアの探す声に耐えかねた少年がドーナシークを無事引き抜き、一緒に夕飯を食べるまでの間、彼は植物の気持ちを味わっていたとのちに語ったという。
~もしも聖剣がエクスカリバー(ウザ)だったら~
聖剣を手に入れたフリードはこれまでにないほどに戸惑っていた。
『エ……リバー♪エクス……バー♪』
――何か手に入れた聖剣から歌が聞こえるゥゥゥ!!!
「いやいやいや、ねぇから、あり得ねぇから」
『そう、私の伝説は12世紀から始まった』
「急にハキハキ語りだしたなんだこれ!?」
『ヴァカめ!私の語りを邪魔するな。何の因果か私と繋がったのだ、その光栄を噛みしめながら私の話を聞くがいい』
「……なんか、ウザそうだけど面白そうだしオッケー!このフリードさm」
『黙れと言っているだろう、このバカめ!!』
「痛ってぇ!?勝手に動いた、なんだこの便利剣!」
『便利剣ではない、エクスカリバーだ』
「俺っちの知ってるエクスカリバーじゃねぇ!!」
『ヴァカめ!私以外にエクスカリバーがあるものか!!』
凄く、波長があわなそう……?