いただきます。それはご飯を食べる際に行われる日本人の挨拶、祝詞、儀礼……それを、カラフルな頭の悪魔たちと堕天使、そして悪魔祓いが一緒に行う。
これがどれだけ異常な光景なのか、この家族は理解できているのだろうか?
「にーく、にーく、に~く!」
「もぅ一誠落ち着きなさい。それと、野菜もね?」
「分かってるって姉ちゃん。それよりどんどん焼こうぜ!折角こんなデカい鉄板どっからか持って来たんだしさ!」
「はいはい」
勿論持ち込んだのは家の改築を受け持ったグレモリーである。
肉の殆どはアスタロト、野菜はスーパーから特売を夕麻が選んで買って来たものだ。
夕麻がわざわざ買ってきたのだから、それを真っ向から拒否することは一誠にはできない。こんなことだからシスコンと呼ばれるのだ。
「んー、飯は唯一の潤いだな」
「そういえば、ディオドラ様は最近間食が増えましたね」
「まぁ禁欲生活だからねー。あー、良いところを取り寄せただけあって、美味い」
上機嫌に箸で肉をつまんでいくディオドラ。
彼の今の生活は昔に比べるとそれはもう窮屈だが、その分日常にある日々の幸せというモノを噛みしめることが出来た。
無論、出来ることならいつでも昔の自由な生活に戻りたいが、今の所如何にか我慢できているような状況だ。
「むっ」
「あら」
が、ここで問題が発生。
リアスとディオドラ、狙っていた肉がかち合ってしまった。
「おい、これは僕が育てた肉だぞ?」
「これは私が先に手を付けたの。お肉なら沢山あるでしょう?」
「ハッハッハ、その肉を用意したのは僕なんだが?」
「フフ、どうせリヴァリアさんに頼んだんでしょう?」
「「……」」
パリッと視線がぶつかり合い、肉を巡っての争いが勃発しようとしていた。
「(え、ちょっと、え?なに下らない争いを起こそうとしてるのこの二人!?)」
「(肉が消し飛ぶぞ!?)」
「(違うゼノヴィアそうじゃない!!止めないとってどうしよ!?)」
こんな中聖剣を取り出せばどうなるか分かったモノではない。そもそも聖剣を取り出す前に諸々吹き飛んでしまうだろう。
リアス、ディオドラの両者ともに臨戦態勢に入りかけそうになったその時、彼らを止めたのは……。
「も~らい!」
「「あ」」
「ふふ、喧嘩はダメよふたりとも~」
「はい……申し訳ありませんでした」
「すいません、つい」
「謝る相手は私じゃないでしょ?」
「「うっ。はい」」
兵藤家のお母様だった。悪魔の争いに割り込む生身の人間とか、常識的に考えてありえない。
それどころか、最後はお互いを謝らせて丸く収めてしまった。彼女は何だ?聖女だろうか?
「おやおや、流石のリアスも形無しかい?」
「う、えぇお兄様……グレモリーとして此処の人たちには対等に、と思ったら」
「気付けば謝っていたと」
「えぇ……不思議、お母様ほどの凄みは無いのだけれど」
「母は強し、だね」
和やかな兄妹だが、早くもイリナは色々限界が近づいていた。
ゼノヴィアはもう諦めたのか黙々と肉を頬張っていく。最後の晩餐ならば恥も外聞も捨て、景気よく行こうと言う気概が伝わってきた。
「イリナお姉さん、食わねぇの?」
「え?えっと……」
「ほら、俺の肉やるよ!」
「い、いいのよ!それは一誠君が食べて!」
「そうか?でもさっき腹空き過ぎて大変そうだったし、ちゃんと食えよなー。ゼノ
「え、えぇ……ありがと」
この中で唯一子供らしい反応をしている子供、それが一誠だった。
イリナは彼を常識的な日常の象徴とも思え、思わず微笑んで応える。
何故こんな者達が集まっているかはわからないが、こんな子供を皆好いているのはよく伝わってきた。
この純粋な子供を好きなその心を通じて、少しは分かり合っていきた――。
(って何を考えてるの私は!?相手は悪魔と堕天使なのに!!)
一誠との掛け合いによって、完全にこの家の空気に呑まれている証拠だった。
思わず頭に手を当ててしまうが、もうこの状況を如何にかする力は自分にはないことくらい、彼女は分かっている。
(でも……)
そう、確かに呑まれているのかもしれない。
だけれども。
「姉ちゃん、おかわり!」
「はいはい」
「あ、ディー、そこのタレとってくれ!」
「あいよ」
「一誠様、ご飯粒が付いてますよ?」
「んっサンキュ、リヴァリアさん」
この暖かな空間を否定する気には、どうしてもなれないのも事実だった。
複雑な心境を抱えながら、楽しい団欒は続いた。
「そーいえば、お姉さん達ってどこ帰るの?」
「え?」
「
金無し行く当て無しの二人が言われて気づいたその事実に、団欒が一瞬静かになった。
そして――。
――
その日、宿に泊まる金もない二人は気付けば兵藤家に泊まることとなってしまった。
「ゼノヴィア、生きてるわね私たち……」
「そうだな……巣窟の中に変わりないが、生きてるなぁ」
呆然と呟く二人だが、安息は遠い。
当たり前だが、事情を知るために食事と風呂を終えた悪魔たちが訪ねてきたのだ。
魔王サーゼクス・ルシファー、彼の女王グレイフィア・ルキフグス。
その妹で上級悪魔のリアス・グレモリーと、一誠と戯れる上に焼き肉を食べれると聴いて飛び込み参加しに来た戦車、搭城小猫。
同じく上級悪魔であるディオドラ・アスタロトとその女王リヴァリア・ククリカ。
客用の部屋に通された二人だが、現状まるで勝てる気がしない。というか、何で自分たちはこんなことになったんだっけ、と疑問符で頭が埋まるほどだった。
「で、キミらはなぜこの街に?ここは私の妹の管轄下にあるんだが」
「えっと、その……聖剣、エクスカリバーは御存じですか?」
「あぁ。大戦の時に折れ、今は七つの欠片から七つのエクスカリバーを作り出したんだったね」
「そのうちの三本が奪われてしまい、追手として送ったエクソシストも返り討ちに」
「死人が?」
「いや、それが……」
全員酷い重症だが、死者は今の所出ていない。
拷問後の様な酷い傷痕が残る者もいたが、それでもどうにか生きている。
「なるほど不思議な話だが、実力差を見せつけたいのなら納得できる」
「殺すより生かして戦意喪失させる方が難しいからですね」
「つまり、並の者では相手にならない――同じように、聖剣を持ってこいという挑発ってわけね」
魔王と上級悪魔の考察と視線が二人の持っていた包みと、イリナの腕に巻いていたバンドのような形状のソレに向いた。
「それでキミたち聖剣使いが選ばれたわけか」
「えぇ。エクスカリバーに対処できるのは、エクスカリバーだろうとの判断よ」
「なるほど。それでキミらはこれからどうするつもりだい?敵はそのエクスカリバーを奪った者だけではないんだろう?」
聖剣を奪うということは、聖剣を保管していた教会らを敵に回すという事だ。
組織を敵に回しても大丈夫なほどの力を持った者が後ろにいるはず。
「敵は誰かな?」
「唯一意識が戻った者が一名いて……敵はフリード・セルゼン。そしてコカビエル、と」
「『
「ディオドラ様、フリードと言えば」
「あぁ、あの教会に居るアイツだろ?」
「知ってるの!?」
知っているも何も監視していた教会連中は大体調べがついている。
人間と一介の堕天使の過去の経歴など、ディオドラに掛かれば調べきれないモノじゃなかった。
ただ、一誠との一件以来あそこは監視しておらず、その後のことは知り得ていない。
「そうと決まれば話は速いわね。今からでもそのフリードって奴の場所に行って――」
「待った」
「?」
ゼノヴィアの言葉にリアスが疑問符を浮かべる。
後は敵を奇襲するだけなのに、なぜ止めるのかと。
「これは私たち教会側の……人間の問題だ。貴方がたには関わってほしくない」
「……此処は私の管轄地よ。そういう意味では私も貴女達を無視することはあり得ないわ」
ピリピリとした空気に変わっていく。
悪魔祓いとして悪魔の手を借りるなど断固容認できるものではない。
だが、リアスも責任があり大きな戦いになると知りながら無視するわけにはいかなかった。
「あー……悪いんですがその前に情報を一つ提供」
「「「?」」」
「フリードだけど……一誠が兄貴って慕ってる奴ですよ?」
「「「「「「!?!?!?」」」」」
ディオドラの言葉によって、変な方向に空気が変わった。
まず、単純な驚愕。あのフリードが子供を相手にするとは、という教会側の驚き。
次に焦り。まずい、あの子が聖剣なんて目の当りにしたら何を仕出かすかわかったもんじゃない、というリアスと小猫、そしてリヴァリアにディオドラの感情。
最後に達観。もはや龍の運命なのか、と天を仰ぎ見るサーゼクスと傅くグレイフィア。
「……で、どうします?」
「えーっと………」
――どうしよう……。
少しズレているが、恐らく今世紀初の人間と悪魔の悩みが合致した瞬間だった。