結局、動くのはその日の晩になった。
それも0時過ぎ、子供である一誠が寝入ってしまう時間。
初めは悪魔の協力を得ることに否定的だった教会の二人も、悪魔が勝手に動く分には仕方ない、我々は相互不干渉であること。そう、つまり
「ということで」
「世話になった」
「バイバイ」
イリナとゼノヴィアは手早く荷物をまとめると、置手紙を残して先に兵藤家を出た。
目指すは廃教会とされている場所で、彼女達は真っ直ぐそこへ向かう。
「それじゃ、行きましょうか」
「ですね」
聖剣をもつフリードが大人しくしているとは思えない。教会から出て追手を確認したり、色々しているはずだ。
そこで悪魔側は二手に分かれることとなった。街を散策しつつ、別ルートで教会へと向かうのだ。
まずリアスと小猫、サーゼクスとグレイフィアのグレモリーコンビ。
次にディオドラとリヴァリア、そして急遽呼び出させてもらった生徒会長支取蒼那、その兵士匙元士郎の二人だ。
「悪いわねソーナ」
「聖剣が街で暴れてる、と聞かされれば駆けつけるしかないでしょう?ちょっと急すぎてすぐ来れたのは私たちだけだけども……」
「十分助かるわ。それに、後で合流してくれるんでしょ?」
「えぇ、勿論」
支取蒼那、本当の名をソーナ・シトリー。彼女も上級悪魔でありリアスの幼馴染でもある。匙元士郎はなりたての悪魔だが、その潜在能力は兵士4つ分の価値がある希少な存在だ。
リアスとソーナ、彼女達の残りの眷属には既に連絡網を回しており、各々別ルートから教会へと向けて出発、現地合流となっている。
だが、一つだけ懸念していることがあった。
(祐斗……大丈夫かしら)
木場祐斗。リアスの騎士であり、聖剣とはある因縁を持つ青年。
彼とだけは、連絡が取れていない。
――
兵藤家から教会の二人が出て行く数分前、木場は一人街を歩いていた。
なんてことは無い、何時も通り
まさか夜の風景をバックに写真を撮りたいなんて言い出すとは思っていなかったし、帰りを女性一人にさせるわけにはいかないからと一緒に帰路を共にしたのだ。
そんなこんなで少し気疲れした彼は、ちょっと近くの自販機で飲み物でも買おうとしていた……その時。
「Ohー、こんなとこでクソっタレな悪魔に出会うなんて、オレっち超ついてる?」
「ッ!」
何の気配もなかったことに驚きながら、勢いよく振り返る。
そこに居たのは白髪の神父姿の――聖剣を携えた男だった。
「そ、れは?」
「あぁ、聖剣エクスカリバー。7本のうちの2本だぜ?カッちょ良いだろぉ?」
あくどい顔で舌なめずりをしながら聖剣二振りを両手に持つ白髪の神父。
だが、木場の意識は彼に向いていない。彼の持つその聖剣、ただそれだけを睨み付けていた。
「ンー?おいおい、無視か……いや憎悪はあるな?……あぁなるほど」
「何を納得しているか知らないけど、聖剣使いが悪魔の前に現れるってことは、
神器、魔剣創造。木場祐斗は自分の想像した魔剣を作り出すことが出来る神器を所有している。
それは、皮肉めいた力でもあったが彼はこれを嫌っていない。
二振りの聖剣に対し、二振りの魔剣を持ってして相対する。
「やる気満々!いぃねいいねぇ!!かかってこいよ悪魔の坊やァ!!」
言葉数が多い神父を無視し、憎悪全てを込め、聖剣へと振り下ろした。
数度斬り合ったあと、神父を斬り裂く手ごたえを感じ、思わず笑みを浮かべる木場。
だが、相手はもっと邪悪な笑みを持って返した。
「オイオイ、何処見てんだ!」
「なっ!?」
またもや背後から聴こえる声に振り返る。
振り向いた時には聖剣が振り下ろされ、魔剣二振りでガードするもあっけなく木場ごと斬り裂かれてしまった。
「ゴポッ」
「いっちょあがりっと。ネタの説明は必要か?」
深手を負い血を吐き出す木場を踏みつけながら、神父はその笑みを深めた。
「簡単に言っちまうと
「ウッぐ」
「おーおー頑張るねぇ。まだ立って斬りかかろうって気概が伝わってくるぜぇ。だけどむだむーだ!」
「ぐァ!?」
思い切り踏みしめることで木場の動きを止めてしまう。
否、止められてしまう。悪魔と人間には膂力から差があるのに、こうもあっけなく止められてしまう。
聖剣に悪魔がどれだけ弱いかよく分かる図である。
「……お前さん、聖剣計画の生き残りだな?」
「ッ」
「コイツを使えるように
聖剣計画。それは、木場の悲惨な過去だった。
数十年に一度現れるという聖剣を扱う者を人工的に作り出そうという無茶な計画。
過去、バルパー・ガリレイという男によって行われたソレは悲惨なもので、最後は無価値な失敗作として処分されかけた木場。
多くの仲間は処分され、自分だけが生き残ってしまった事実。
「エクスカリバーへの復讐ねぇ。一介の悪魔が持つにはデカすぎる夢だな」
「貴様に、何がッ!」
「オレっちもシグルド機関っつーまぁ酷い所出身だったから、気持ちは分からなくもねぇさ。悪魔や堕天使もヒデェが、人間の悪意ってのも程度としては負けてねぇよなホント」
「シグルド、機関?」
「あぁ知らねぇならイイさ。それに復讐に熱くなって何にも見えなくなっちまう奴は、文字通りここで終わりだしな」
「……」
質量のある幻影、見破るのは至難だが出来ない事ではない。
斬った瞬間、ほんのコンマ数秒違和感を感じ取れれば木場はまだ戦えたはずだった。
それ以前にこんな危険人物が聖剣を持っていることを部員……主に教えることも彼にとっての役目のはずだった。
(――死ね、ないッ)
今此処で死ねば、何にもなくなってしまう。
過去の仲間の為に復讐を果たすことも、今の主たちに恩を返すことも、なにも……出来なくなってしまう。
走馬灯のように過去が脳裏を過ぎ去っていく中、振り下ろされる聖剣を見つめることしか木場には出来なかった。
「――アン?」
「ぇ」
必殺のそれは、木場に届く前に静止した。
ギチギチと神父の腕を止める何かがあった……何かが、
「……ぁぁ、そういうアレか」
木場が困惑する中、神父……フリードは自分の身に何が起こっているか理解していた。
思えばオカシイことばかりだ。まず最初に話しかけたりせず背中からバッサリ斬り殺すのがセオリーだろう。それに自分はなぜこんなガキにあんなペラペラと語りかけたのだろうか?
追手の神父への挑発とは関係が無い、偶然出会っただけの悪魔になぜ時間をかけてしまったのか。
聖剣計画という自分と似通った過去を持つ同情?悪魔にそんなものを持つつもりはないが、何かしら重ねていたことは認めよう。
だが違う。そんなことで、そんな程度でフリードは手を緩めたりしない。温情を掛けたりなど絶対にしない。復讐心ばかりで何も視えていない悪魔など、取るに足らない相手のはずだ。
では、何故か?
答えはフリードが聖剣を振るえているこの事実にあった。
「良かったな、お前。最後の最後に救われてよ」
聖剣を木場から退ける。
既に拘束は消えていた。最後の力、最後の意思だったのだろう。
もし、この力と意思が悪魔や堕天使だったのなら、フリードは構わず振り下ろしていただろう。
止めたのは、それが
「これは最初で最後だ。過去のお仲間に感謝しながら、そこでくたばってろ」
次は無い。もし邪魔をしようものなら、その遺志を飲み込んででも斬り殺すという確固たる決意がフリードにはあった。
それ以前に聖剣に深手を負わされたこの悪魔の少年が生き残れるか、という話でもある。だが、それでもトドメを見逃したことに変わりはない。
(……変わったねぇ、オレっちも)
あのバカみたいな連中に囲まれた影響だろうか。
以前ならこんなことはしなかった。元来彼の持つ狂気によって遺志に邪魔されることなく斬り裂いていただろうだが、その狂気は良くも悪くも薄れていた。
元々悪魔やその関係者は討伐する対象で、自分は戦闘が大好きで生き甲斐ということに変わりはない。
ただ一つ変わったと言えば、そう。
――あ、おかえりなさいフリードさん。
――お疲れ~っす。もう昼飯お先に食っちまったっすよ~。
――遅いぞ、とっとと食え。そしたら鍛錬の時間だ。
――んー、おふぁよ。おつかれー。
帰りたいと思える、帰る場所が出来たということくらいだろう。
自分のままで居られる、自分らしい場所。きっとそんな場所を得たから、彼は狂気ではなく
(ハッ、気持ち悪!)
ペッと唾を吐き捨てながら、天閃の力でさっさと高速移動を開始した。
目的地は勿論、
「ァー、ホンット気色悪ぃ」
彼自身認めようとはしないが、フリードは今の自分が嫌いじゃなかった。
※最後のニート堕天使はカラワーナ様です。