コカビエルを助けた一誠は、そのままアーシアに全員回復してもらった。
おかしな黒い蛇が身体に入った気がしたが、とりあえず問題はないようなので放置している。
「あ、そういえば魔法陣どうするよ?」
「ん?ぶっ壊せばいいだろう。コカビエルと繋がってるなら、コイツの力を極限まで低下させれば、後は粉々にしてしまえばいい」『Divid!』
「そーだな」
そんな軽いノリで街を壊そうとしていた魔方陣も二天龍の力技で破壊され、無事平穏が訪れた。
負けた堕天使は意外なほど大人しかった。子供二人に負けたのがショックだったのか、助けられたのがプライドに障ったのか、はたまた一度本気で死に掛けたせいなのか……詳しくは分からないが取り敢えず暴れることはないようだ。
これで残るは後処理だけ……なのだが、問題が発生した。
「さて、行くぞコカビエル」
「待てよ、このおっちゃんはちゃんとゴメンナサイしなきゃいけないだろ?」
「は?」
「?」
コカビエルという伝説上の堕天使は、戦争を引き起こそうとした犯罪者である。
ところが一誠にとっては、よく分かんないけど暴れて迷惑をかけたオジサンに過ぎない。
こうして、さっさと永久冷凍しようとしていたヴァーリと、いつも通り謝らせて反省させようとする一誠の意見が食い違ったのだ。
「貴様、コイツが謝罪して改心するような奴だと思うのか?」
「かいしん?させりゃいいじゃねーか。だいじょーぶ、また暴れたくなったら俺が相手になりゃいいんだしな。俺、喧嘩は得意だし!」
「……成程。お前にとっては今までのが全部喧嘩の範疇なのか」
呆れた視線を向ける白龍皇だが、今代の赤龍帝は寧ろ喧嘩じゃなければ一体何なんだ、と疑問顔である。
「ともかく、コイツは他種族からも見過ごせない。処罰として永久冷凍は免れないだろうさ」
「えいきゅーって、ずっとってことじゃねぇか!そんなの罰じゃねぇよ!反省しなきゃ意味ないって、姉ちゃん言ってたぞ!?」
「……ハァ。だから、コイツが反省するような奴ならそうすればいいだろうが……」
「だーかーらー!反省させりゃいいだろ!」
「そういうわけにも……あぁもう面倒くさいな」
「面倒なのはどっちだよ」
苛立ったヴァーリは髪をかき上げ、一誠を睨んだ。
一誠も同じように話が通じないヴァーリにムカついたのか、ファイティングポーズをとる。
「「しょうがねぇ、言うこと聞かせてやるよ!!」」
余りにも唐突な二天龍の激突劇に、その場にいた全員が驚いた。
このままでは学園が、否、救ったはずのこの街が若い二天龍によって消し飛んでしまう。
しかしこの二人の間に割って入れるような者は魔王様くらいであり、その魔王様も子供の癇癪をうまく纏められるような言葉を持っていない。
こうして禁手を開放しようとした、その寸前――。
「「こら!!」」
二人の女性の声が、子ドラゴン達を止めた。
一人は金髪のシスター、アーシア・アルジェント。
そしてもう一人は騒ぎを聞きつけ駆け込んできた、兵藤夕麻だった。
「喧嘩はいけませんよ、二人とも!」
「一誠、貴方また大変なことに首を突っ込んで……しかもこんな夜遅くに、勝手に出歩くなんて……!!」
「い、いやこれには事情が」
「ね、姉ちゃん、でも」
「「言い訳無用です!!」」
お姉ちゃんモードとなった二人に二天龍は何故か逆らえず、気づけば二人そろって正座してお説教を受け始めていた。
遠目にそれをほっとした様子で見ていた悪魔や堕天使一行だったが、彼女たちの説教はそっちにも向いた。
「大体ディオドラ、貴方一誠を巻き込むなんて、どうなるかも分からないのに……!」
「え?いや、だって私たちの手に余る状況で……」
「魔王様たちだっていらっしゃるのだし、援軍はもっとこれたはずでしょう!?」
「……それを言われると、まぁそうなんですけどね?でもほら、直ぐに来れるかって言われるとやっぱり少し時間がかかるわけで」
「時間稼ぎも出来ない程弱くないでしょ、貴方たちは」
「いや、今回は相手が悪かったっていうか……まぁもっと魔王様を前面に押し出す策でいけばよかったかなぁと、反省はしてますよ?」
今回の事件の反省をするディオドラ。
魔王様の力押しで意外とどうにかなったのでは?と、今更なことを考えていた。
そして勿論夕麻にとってはそっちは
「そもそもこんな時間に子供を起こして……夜更かしを覚えたらどうするの!?」
「あーそれはもう手遅れ……いえ、なんでもありませんヨ?」
「もしかして……連れ出してるのかしら?いつ?なんで?どこに?」
「あ、アハハー」
時折一緒に住んでいるリヴァリア以外の下僕達が会いたがって、ふと一誠を誘っては夜に迎えに行っていることとか、最近の一誠のマイブームが冥界に遊びに来ることとか言えるはずもないディオドラは笑って誤魔化そうと頑張っていた。
そして、その横ではアーシアがぷんぷんと擬音が付きそうな可愛い怒り顔をしていた。
「フリード様、お仕事の都合で危ないことをしないといけないのは分かりますけど、こんな
「つっても仕方ないことだしー、オレッちからするとこんなの怪我のうちに入らないぜ?」
「血だらけだったじゃないですか!あまり心配かけさせないでください……」
「うっ」
涙目になるアーシアに何も言えなくなるフリード。
フリードは今回の件死人を出さない為にある程度の配慮が必要であり、その度にそこそこ怪我をしてはこっそり治していたのだが、その怪我もしっかり見られていたようだ。
この聖女サマは彼のことを家族同然に思っているらしく、ここ連日聖剣関係で傷だらけになっていたフリードを気にかけていたらしく、家族愛と女の涙という最強のコンボを決められたフリードは大人しくなった。
「…………で、結局俺はどうなるんだ?」
「んー……」
二天龍を叱るシスターと堕天使というよく分からない状況に驚きながらも、これからの処遇を魔王に聞くコカビエル。
本来なら冷凍処分なのだが、無理にその話を進めると赤龍帝が暴走するかもしれない。
夕麻が居ればそのストッパーになるかもしれないが、本気で怒った赤龍帝をどこまで止められるかは分からない。
「取り敢えず、保留で」
「………」
戦争時なら即座に消し飛ばされていたはずなのに、生かされる現状に納得できないコカビエルはため息を一つ溢して……もうどうにでもしてくれ、とその場に寝転がった。
「……聖剣、どうしたらいいのかな?」
「あー……どうにも出来んだろ」
イリナとゼノヴィアは銃剣となった聖剣を持つフリードを見て、その周辺に居る悪魔やドラゴン達を見て……いやこれ無理と諦めた。
教会へ戻った彼女たちが報告をすると、勿論上層部の者は困り果ててしまった。
聖剣を持ったフリードははぐれで、周辺には堕天使や魔王、赤龍帝が仲良くしている。彼に危害を加えると、少なくとも赤龍帝の怒りを買うだろう。
……苦肉の策として、教会本部が下した結論は……。
「と、いうことでこれからよろしくね」
「お手柔らかに頼む」
廃教会へ二人を送り、フリードの動向の監視という名の聖剣監視命令が下された。
アーシアは魔女と呼ばれ異端扱いされていたが、この子に手を出すと赤龍帝と白龍皇が飛んでくる恐れがあった。そんな少女が家族として見ているのが、堕天使とはぐれ神父……もう無理やりエクスカリバーを手に入れる手段は無くなったと言っていいだろう。
そして、さらに数日後……思わぬ来客が訪れた。
「……………え、嘘っすよね?冗談っすよね?」
「………夢か」
「あ、私徹夜で眠いから寝るわ」
ミッテルトは現れた人物が話した事実を認められず、ドーナシークは夢だと思い柱に頭をぶつけてみたりしていた。
尚、もう色々諦めていたカラワーナはいつものダメ人間オタクライフを満喫するために、ネット環境が整った自室へと籠った。彼女曰く、「私は二次元では最強なんだ」らしい。
「嘘でも夢でもない……今日から厄介になるぞ」
現れた人物は、堕天使幹部コカビエルだった。
彼は力を厳重封印され、下級堕天使相当の力にされた状態で五百年間の街へ無償奉仕をすると言うことで決着がついたのだ。
「……敗者として、この程度は聞く」
こうして厳つい顔のおっさんが駒王町のとある教会に住むこととなった。
おっさんは街の掃除をしたり、不良の喧嘩を拳で諫めたり、困った婦人を助けたりと段々知名度を上げていき……『解決おじさん』というあだ名が付けられることとなるのに、そんなに時間はかからなかった。
尚、『解決おじさん』は一緒に住んでいるシスターに頭が上がらないらしく、度々遅く帰ってきたりちょっと無茶したりしては怒られている姿が見られ名物と化したのは蛇足である。
『廃教会メンバー』
アーシア・アルジェント(龍紋付き)
彼女がお説教モードに入ると、なぜか白龍皇が逆らえなくなる特攻聖女。赤龍帝にも効果あり。
ミッテルト(龍紋付き)
赤龍帝の親友、暇なときは大体一緒に遊んでいる。
フリード・セルゼン
銃剣の聖剣使いとなったはぐれ神父。力の研鑽に余念がなく、メキメキと上達中。
ドーナシーク
重度の鍛錬厨。フリードに最近負け続きで悔しがっているが、何だかんだ上達中。
カラワーナ
オタク化した堕天使。ネット界では『
『New!』紫藤イリナ
インフレしていた現状に置いていかれてしまった可哀そうな子。元エクスカリバーの聖剣所有者。最近別の聖剣が彼女に送られるらしい。最近はゼノヴィア共々フリードたちと鍛錬の日々を送っている。
『New!』ゼノヴィア
インフレ現状においていかれた可哀そうな子その2。もうディランダルを使いこなすしかない、と改めて鍛錬に励んでいる。が、フリードに一方的に負け続けており悔しい想いをしている。性格も含めて相性が悪いことが原因。
『New!』コカビエル(超弱体化)
死に掛けた上にプライドをズタズタにされ大人しくなり、罰として駒王町に住むことになった堕天使幹部。『解決おじさん』というあだ名が広まり、その名の通り色々な厄介ごとを解決していくこととなる。下級まで力を落とされたはずだが、力の扱い方が雲泥の差らしく中級程度なら足蹴に出来る程度の実力は持っている。