朝学校へ行くと、いつもの席にフィーが居なかった。
いつも張り合っている少女が見当たらないだけで、何だか物足りなくなってしまう。
「せんせー、今日フィーは休みなんですか?」
余りにも退屈で、つい分かりきったことを訊いてしまう。
居ないのだから休みに決まっている。
だというのに先生は、ありえない
「フィー?誰だい、それは?」
■
放課後、駒王学園のとある一室に大勢の人間が集まっていた。
魔王サーゼクス・ルシファーとその女王グレイフィア。
同じく魔王セラフォルー・レヴィアタン。
駒王町を守護する役割を担っている、リアスとソーナ。それに彼女たちの眷属。
そしてディオドラとその女王リヴァリア。
「では、始めましょうか」
彼らと同席しているのは――高位天使のミカエルと、堕天使の総督であるアザゼル。
ミカエルの背後にはアーシア、ゼノヴィア、イリナの信仰組が待機しており。
アザゼルの背後にはコカビエル、ミッテルト、ドーナシーク、カラワーナが。
それと、興味なさそうにアザゼルの近くに座るヴァーリ。
そして、そんな彼らから少し離れた部屋の隅に、顔色を青くした兵藤夕麻の姿が在った。
学園全体に結界が張られており、外にはそれぞれの陣営から他にも三種族が大勢待機している。
何か起これば、すぐさまその場で戦争が起こりかねない。
そんな一触即発の雰囲気の中、悪魔・天使・堕天使三種族の会議が始まろうとしていた。
「ちょっとすまん、少しいいか」
だが、さっそく雰囲気をぶち壊す一言がアザゼルから。
「いいとも」
「構いませんよ」
「じゃぁ……まず一つ、なぁんでお前は悪魔の嬢ちゃんを抱きしめてんだ?」
ズラッと全員の視線がカラワーナと……彼女に抱きしめられている悪魔、ギャスパー・ヴラディへと集まった。
カラワーナは見たこともない程にニッコニコであり、ずっと引き篭もっていたギャスパーは何故か放心している。
「お気になさらず、戦友として当然のことなので」
「は?」
「それと、吸血
「………ハ?」
カラワーナの言葉に思わずギャスパーの主であるリアスへと視線を向けると、確かに頷いていた。
ただし、当の本人も疑問符を浮かべていた。
「えぇ、確かにギャスパーは男ですけど……貴女たち、何時知り合ったの?」
「この街へ来て……そこの悪魔が住処に来てからちょっと経ってからだな」
「それってその悪魔、ディオドラがアーシア連れ出そうとしてイッセーにボコボコにされたときっスかぁ?」
「あぁ」
「……カラワーナ、貴様その頃引き篭もっていなかったか?」
「関係ないでしょ」
「あわわわ」
ドーナシークへ冷たく告げると、プイっと顔を背けつつ、ギャスパーを可愛がるカラワーナ。それ以上喋るつもりはないのだろう。
リアス達にとってギャスパーが外に出てくれたのは嬉しいが、謎が出来てしまった。
「………よく分かんねぇが、ちゃんと話は聞いとけよ?」
「わかってます」
「は、はい」
「で、もう一つ……兵藤一誠は何処だ?」
「ひぅっ!」
只でさえ青かった夕麻の顔色がさらに悪くなった。
彼女は学校が終わった一誠と一緒に来るはずだったのだが、件の少年が居ないのだ。
「そ、その……あの」
「……あん?」
「ぅぅっ」
アザゼルを見つめる視線に少し熱が入ったかと思ったら、次の瞬間には青ざめ、さらに周りの視線も集まって土気色になってきていた。
(あぁー、そういえばレイナーレの初恋って……)
ミッテルトが少し同情していると、グレイフィアが暖かい紅茶を夕麻へ手渡していた。
少し呑んで気を落ち着かることが出来たのか、相変わらず青ざめながらも理由を説明した。
「あの……一誠は、帰ってきてなくて……」
「帰ってきてねぇ?なんだそりゃ」
「一誠の担任にも電話をしたんですが、午後の授業から見ていない、と」
「おいおい、マジかよ」
神滅具と呼ばれる神器所有者に興味を持っていたアザゼルとしては、気落ちしてしまう情報だった。
同じくミカエルも「おやおや」と少し残念そうにしていたが、彼の少年をよく知っている面々は仕方ないと夕麻を励ましだした。
「まぁ仕方ないですよ。あのクソガキは自由奔放で、こっちで制御なんて出来ませんって」
「そうですね、イッセー様を如何にかしようだなんて、それこそ魔王様にも出来ませんでしたから」
「ははは、それを言われると痛いな」
リヴァリアの言葉に、事実悪魔への勧誘を断られたサーゼクスが苦笑を浮かべた。
「ミルたんにもメールしてみたけど、知らないって。まぁイッセーくんだからね、仕方ないね☆」
「ミル……」
「か、会長、しっかり」
「えぇ、大丈夫よ」
セラフォルーが言った名前にトラウマを刺激されたのか、思わず顔を下に向けたソーナへ匙がフォローをしていた。
一部知り合いたちも、あぁあの
「何だかわからねぇが……いねェもんは仕方ねぇか。さえぎって悪かったな、会議を始めようぜ」
会議内容は先日起こった事件と、この街に起こっている諸々の事情について。
まずはコカビエルが起こした事件について。
事件を起こした主犯コカビエルは力を500年封印し、その上で駒王町への無償奉仕。
「本当は地獄の奥底で、永久に凍結封印するつもりだったんだが」
「ハッ、それをすれば、赤いのはコカビエルを封印から出すために地獄に繋がる冥界で暴れるだろな」
ヴァーリは楽しそうに言うが、冥界に住む悪魔たちにとってはたまったものでは無い。
やり遂げるか殺されるくらい追い詰められない限り、あの少年は止まらないだろう。
その際に巻き起こる被害は、尋常ではない筈だ。
「……まぁプライド高いコイツにはいい薬だろ」
「フンッ」
そっぽを向くコカビエルだが、封印を解こうとする素振りは無いのを把握しているアザゼルからすると。
「お前……気持ち悪くなったなぁ」
「ア゛ァ゛!?」
「気にすんな、良い意味でだよ。全く、赤い方への興味が尽きねぇぜ」
「チッ……アレはただのガキだぞ」
「へぇ、只のガキの我儘に付き合っているわけだ。大人になったなぁ、えぇ?」
それ以上何も言うつもりはないのか、アザゼルから顔を背けるコカビエル。
アザゼルも言いたいことを言ったからか、それ以上おちょくることなく次へ話を進めた。
「まぁ俺からは以上だな。この件に関しちゃ、コカビエルの独断だ。廃教会に住んでる面子に関してもな、オレは関係してねぇぞ」
「……レイナーレ、もとい兵藤夕麻に関しては?」
「同じくだ。基本放任主義なんだよ、オレは」
組織の長としては最悪の発言だが、当の本人は完全に開き直っている。
堕天使らしいと言えばそうなのだろうが、これほど身勝手だともはや呆れてしまう。
「全く……そうだアザゼル、一つ訊きたいのだが……ここ数十年、神器の所有者を集めているのは何故だ?」
「趣味だな。神器研究は俺の最高の趣味だ。それ以上の他意はねぇよ」
そう言い切るアザゼルへ、今度はミカエルが問いかけた。
「……今回の事件で、堕天使所属と見なされている廃教会に住まうフリード・セルゼンに聖剣が握られています。そのことについては?」
「ついてはって言われてもなぁ。オレにはそこの神父と特に繋がりがあるわけじゃねぇし」
「ヘッヘッヘ、オレッちとしては依頼されれば何でもするぜぇ?」
「とのことですが」
「いい性格してんな、この腐れ神父は……」
アザゼルを嗤うフリードに思わずイラつくが、抑え改めて言葉を紡いだ。
此処でキレては話にならない。喧嘩を売りに来たのではなく、会談をしに来ているのだから。
「だーかーら、オレへの興味は全部神器に向いてるっつってんだろ。聖剣なんざ知るかっての」
「とかなんとか言っちゃってぇ~……銃剣という異例の形になったオレっちの相棒に無関心はないだろ~?」
「………まぁ、正直少しはあるが、」
「ほーらほら、在るんじゃん!いやぁ、嘘はダメダメだぜぇ~そ・う・と・くぅゥゥ?」
「っあ・る・が!……他の勢力に目を付けられるようなことはしねぇって……あと、オレお前嫌いだ」
ケラケラと嗤うフリードへハッキリと嫌悪を向けるアザゼル。
種族として圧倒的に差があるはずにも拘らず、フリードはその嫌悪を流して見せた。
依頼さえあればどの陣営にも着くということは、報酬が無いのなら味方をするつもりなどない、という『はぐれ』なりのスタンスを見せつけた。
「……まぁ、いいでしょう」
流石のミカエルも、人間に『場』を整えてもらってしまっては、何も言えなくなってしまう。
他の問題も後は似た様なモノ。此処に集まったのは偶然と必然によって……もしくは、『龍』の運命というものに惹かれた結果だと。
それで、会議は終了――の筈だった。
「あぁそれでな、一々集まる度にこんな空気嫌だしよぉ――三種族で和平、結ばね?」
アザゼルが、軽い口調でそんな言葉を吐き出すまでは。
「何を言うかと思えば。私は神に仕える者で、」
ミカエルは神の代行であり、天使の総意ではない。
そういうつもりの言葉を無視し、アザゼルが遮った。
「その神が死んでんだろーが。なぁ?
その一言に、場の空気が、凍った。