はちゃめちゃ赤龍帝   作:...

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禍の団

 アザゼルの言葉に反応したのは、魔王であるサーゼクスとその女王、セラフォルー、そしてコカビエルとヴァーリ以外の全員だった。

悪魔も人間も堕天使も、全員が耳を疑っていた。

 

「……どういう、ことですか?」

「どーもこうも、そのままの意味だ。この世界に神は居ない(・・・・・)、事実としてな」

「アザゼルっ!!」

 

 ミカエルが叫ぶようにしてアザゼルを止めるが、その態度こそ事実なのだと証明してしまっていた。

静まる部屋の中、膝から崩れ落ちる音が聞こえた。

信仰深いアーシアが床に座り込み、そしてイリナとゼノヴィアの二人も呆然と立ち尽くしていた。

 

「神が……なら、私たちの信仰は、いったい」

「ウソだ、ウソに決まって……」

「………」

「っ貴方は、何のための禁則事項だと!」

「んなもん、聖魔剣っつぅ矛盾した存在が現れた時点で破綻してんだよ」

 

 本来神と魔王によって聖と魔の境界はハッキリと示されている。

故に、聖の属性が勝つならばともかく、聖魔剣とは本来打ち消し合う筈の矛盾を内包してしまっている。

その存在そのものが、その境界が完全に崩れているのだと証明してしまっているのだ。

 

「それとも、この事実を隠すためにここにいる全員殺すか?」

「っそんなこと、するわけがないでしょう……出来るとも思っていません」

「ま、だろーな。んなことしたら妹思いの魔王二人とも戦う羽目になる。それに、姉思いの赤龍帝だって飛んでくるだろうぜ?」

 

 何ならそれでも構わないとでも少し思っているのか、少しアザゼルは楽しそうにしていた。

無論そんなつもりは無いミカエルは、ため息をついた。

 

「ハァ……神の不在は事実です。辛うじて神が遺した『システム』によって、如何にか私たちは存在しているようなものです」

「そんな……」

 

 天使は元々神が創造していた。彼らにも生殖器は存在するが、行為によって堕天してしまう可能性が非常に高く、基本禁じられている。

現在はシステムと神器、そして入手した悪魔の駒の応用で『転生天使』という存在を作り出すことで天使は辛うじて陣営という体を保っているのだ。

 

「あなた達の信仰は決して無駄ではない。今となっては、人々からの信仰は必要不可欠なものですらある……質問等あれば、何時でも受け付けます。今は落ち着く時間が必要でしょう」

「で、どうすんだ?」

 

 ミカエルは呆然とする三人だけではなく、他の者達にも連絡用の水晶を手渡した。

この場はもう話し合うことも難しいだろうが、また会談を行うことは難しい。

だからこそ、アザゼルはこの場での回答を求めた。

 

「……いずれ、私も悪魔グリゴリ両陣営に和平を持ちかける予定ではありました」

 

 戦争の大元である神と魔王は消滅し、今は新しい未来へ向かわなければいけない。

だからこそ和平には賛成だとミカエルは示した。

 

「我等も同じです。種を存続するため、悪魔も先に進まねばなりません」

 

 もしまた戦争をすれば、その時はきっとどの陣営も共倒れする。

生き延びたとしても、種としては終わるだろう。

和平を結んだだけで細かいことは決めていないが、混乱も多い。

今日は此処までだろうと会談を終了させようとした、その時だった。

 

 

「――ん、そうでなくては困る」

 

 

 幼い声色が唐突に現れた。

その場にいた全員が視線を声の居場所に集中させた。

そこには、霧の様なモヤ(・・・・・・)に包まれた、黒い長髪の少女が居た。

 

「この感覚は、神器かッ!?」

 

 この面子で一番熟知しているアザゼルが力の正体に気付くが、少女を思い出せない(・・・・・・)でいた。

頭にモヤが掛かったかのような、何か掴もうとして擦り抜ける感覚。

それが他の者も感じているのか、怪訝な表情をしながら他の者を護るように立ち上がる。

 

「……フィー、ちゃん?」

 

 そんな中、たった一人だけ彼女に気付いた者がいた。

名をレイナーレ、今は兵藤夕麻を名乗っている。

 

「何だ、嬢ちゃんの知り合いか?」

「え、えぇ。一誠の友達なの、だけれど」

 

 なるほど、確かに風貌だけで言えば小学生のそれだ。

一誠の友人として不自然はないな、と納得しかけた(・・・・・・)

この感覚がおかしなことだと気づいたのは、この場に居る仲でも超常の実力者のみ。

 

「これは、魔法ですね……私たちにも効果を及ぼすとは、何者ですか?」

「ふふっ」

 

 グレイフィアの迫力にも全く動じない少女は、小さく微笑んだ。

神器による存在の隠蔽、魔法による意識への妨害。

魔王達にも通用しうる術など、神滅具以外では珍し過ぎる。

 警戒されながら、少女は黒いドレスの端を少しつまみ上げ、自己紹介をした。

 

「我、ウロボロス・オーフィス」

「っ無限の龍神、だと!?バカな、お前レベルの存在を隠蔽なんざ出来るわけねぇだろ!?」

「神滅具所有者に我の蛇を与えた。数時間なら、もつ」

 

 胸元のペンダントに着いている黒い宝珠を見せながら、説明した。

そしてそれは無限の龍神が誰かと組んでいる(・・・・・・・・)事実を証明していた。

 

「おい、コカビエル。お前あの戦いのときに黒い蛇を呑んでいたな」

「……あぁ、無限の龍神に持たされたモノだ。言っておくが、勧誘の手土産として渡されただけだからな。それ以降は知らん」

「お前、そういうことはちゃんと教えろよなぁ……たくっ」

「……バニシング・ドラゴン、久しい」

 

 堕天使陣営ではちょっとした言い合いが始まりかけていたが、オーフィスがヴァーリへ視線を向けたことで止まる。

 

「本当は、貴方も勧誘するつもりだった」

「俺も?」

「ん、でも貴方、凍ってたから(・・・・・・)

「チッ」

 

 嫌なことを思い出したのか、ヴァーリは苦い顔をしながら舌打ちをした。

その情報を知らない他の陣営が、説明を求めるようにアザゼルをみた。

 

「どういう意味ですか、アザゼル?」

「あー……ヴァーリにとある神器を回収しに行ってもらったんだが、追い詰め過ぎて相手の禁手が暴走してな。ヴァーリと一緒に――」

「おい、アザゼル、余計なことを言うな」

 

 ヴァーリにとっては最初で最大の汚点なのだろう、とても苛立っていた。

 

「まぁ詳細は省くが、解凍されたのが最近でな。ちゃんと成長してれば本当は今頃、十七か十八くらいの筈だったんだ」

「私たちと同い年……!?」

 

 リアス達が驚くが、ヴァーリにとっては本当に嫌な想い出なのだろう。

脳裏に自称お姉さんのある女性(・・・・)が浮かぶのも、理由の一端である。

 

「でも、結果イッセーと同い年……二天龍の運命。少しだけ羨ましい」

「羨ましい……?」

 

 その言葉に、アザゼルが怪訝な目を向ける。

オーフィスについて色々調べたことがあったが、元来無限の龍神が何かに固執することなど、無かった。

静かな場所で揺蕩っていられたらそれで満足、そんな伝来が残っている。

よく言えば温厚、悪く言えばあらゆることに無関心。

そう言われている存在が、羨ましい(・・・・)だって?

 

(おいおい、赤龍帝……お前、ホントに何しやがったんだ)

 

 この場に居ない筈のたった一人の少年の影響が、とんでもない存在にまで及んでいたことに驚愕を隠せなくなっていた。

幾ら赤龍帝と言えど、その力は二天龍と呼ばれる龍が元になっている。

二頭の龍は龍王と呼ばれる存在より上位であるが、()と言われることはなかった。

言ってしまえば格下の筈なのだ。幾ら希少と言えど、赤龍帝が無敵の存在というわけではなく、彼の龍神たちからすれば打倒など容易いはず。

 

「で、一体何の様なんだ?ここにアイツは居ないぞ」

「分かってる……でも、もうすぐ来る」

「なに?」

 

 確信を持った言葉。

しかし、この学園には結界が張られている。

幾ら赤龍帝と言えど只の小学生である彼には魔法や結界に関する知識が無い。

 

「我は、禍の(カオス・ブ……)……えぇと」

「……もしかして、禍の団(カオス・ブリゲート)か?」

 

 ここ最近名乗りを上げてきた組織の名。

三大勢力から危険分子を、中には禁手へ至った神器持ちも確認されている。

あの霧がアザゼルの想像通りならば、想像以上に厄介な神器所有者たちを抱え込んでいるようだ。

 

「そう、ソレのトップ、一応」

「随分とふわふわしてんな………何が目的だ?」

「そこら辺はよく知らない」

「ハァ?」

 

 アザゼルも大分適当な総督だが、オーフィスはそれ以上というか、完全にお飾りだと自称した。

 

「我、遊びに来た」

「遊び?」

「そう、遊び」

「ッ伏せろ!?」

 

 オーフィスはスッと天井へ手を向けた。

その掌には超大の『力』が溜められていく。

余りにも強すぎる力は、三大勢力がそれぞれ別個に作り出した三層の結界を呆気なく砕き、黒い閃光を大空へ打ち上げた。

 

 ――我は、ここにいる。

 

 その証明の様に無限の龍神の力がまき散らされ、余波だけで会議に使っていた部屋が吹っ飛んだ。

魔王達によって護られなければ、今頃塵も残らず消え去っていたことを予感する程の力。

そんな力の余波が収まった直後、別の結界(・・・・)が張られる。

 

「これは、魔術と魔法の結界か」

 

 外を見ればオーフィスの力を借り受けた魔法使いとみられる一団が転移で現れ、待機していた天使や悪魔、堕天使と争いだしていた。

 

「こりゃぁ、完全にテロ行為だぞ?」

「そう」

 

 もう用事はないのか、オーフィスは背を向け空へ上がっていった。

ただ、楽しそうに微笑んでいるその姿は、鮮烈にその場の全員の印象に残った。

 

「……ふふっ。イッセー、くらべっこ、だよ?」

 

 ■

 

 一誠は街中を走り回っていた。

フィーの後ろの姿を探して学校から始まり、公園やゲーセン等の遊び場を巡っていた。

何処にもいない、見当たらない。

飴をくれる年寄りも、ゲーセンの店員も、誰も彼女のことを知っている人はいなかった。

 

「ハァ、ハァ……くそ、何処だよ!」

 

 必死に探し回る一誠へ、近寄る人物がいた。

その者は大きく、力強く、そして……オトメな人物。

 

「にょ、見つけたにょ!レヴィアたんが探してたにょ」

「あ、ミルたん……セラ姉ちゃんが?」

 

 何故と思いつつも、今はそれより追い求めている者がある。

 

「なぁミルたん、フィー……えっと、膝くらいまであるなっがい黒髪の女の子、見てないか?」

「ん~、見てないにょ」

「そっか……!」

 

 残念がっていると、突然強烈な波動(怖気)を感じた。

直後、姉が通っている学園から黒い柱と見間違うような閃光が立ち上がっていた。

 

「にょぉぉお!?」

「くっ」

 

 閃光に遅れて街中にまき散らされる衝撃波に絶えながら、一誠は何故か脳裏に探していた少女が浮かんでいた。

 

「一体……」

「……フィー」

「待つにょ!」

 

 ミルたんは思わず一誠を止めようとした。

あんな力の下へ向かうなど、自殺行為にも等しいと感じた。

きっとそれは当たり前で、忌避して近寄らないのが普通だ。

 だが、一誠はまた違う感覚を受けていた。

 

「悪いミルたん、俺行かなきゃ!」

 

 これは呼び出し(チャイム)だ。

玄関も何もないから、手段が派手になっただけの、合図だ。

そう彼は感じていた。

 

「……仕方ないにょ」

「っなにを!?」

 

 ひょいっと一誠を担ぎ上げたミルたんは、一誠の想いを無視できなかった。

魔法少女を目指す者として、純粋無垢な少年の願いを叶えるのは――本望!

 

「イッセー、汗だくなにょ。だから、ミルたんが連れていってあげるにょ!」

「ミルたん……!サンキュー、全速力で頼む!」

「まぁかせるにょぉおおおおおおおお!!!!!!」

 

 残像を置き去りにして、巨漢と少年の姿が学園へ疾走する。

血生臭い戦場へ、只真っ直ぐと。

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