アーシア・アルジェントと知り合い、さらにミッテルトの仲間だという人たちと知り合ってから数日が経った。
初めはカラワーナという女性に睨まれ、ドーナシークという男性に喧嘩を売られたりしたのだが、今では流した過去である。
ちなみに喧嘩を買った理由は単純明快。
「……ミッテルト、何だその目つきの悪いクソガキは?」
「ア?行き成り失礼だなオイ、汚ねぇコートのオッサン」
「事実を言っただけだ。それと目つき同様クソな価値観しかないようだから言っておくが、これはビンテージと言って、歴史あるものなんだ」
「歴史って、要するに古着だろ。っていうかちゃんと洗ってんのかよ、こっち寄るんじゃねぇぞ」
「誰が貴様のような下賤な人間に近寄るものか。とっとと失せろ」
「ハ?何で俺がお前の言うこと聞かなきゃいけねぇんだよ。ゲセンってなんなのかよく分かんねぇけど、偉そうにしてんじゃねぇぞ」
「ふん、お前の様なションベン臭い小僧よりは偉いに決まっているだろうが」
「ハ、こんな平日の夕暮れにのんびりしている暇人より、そこらのガキのがまだ健康的でいいね」
「「あぁ言えばこう言いやがって、この――………よし、表出ろ」」
売り言葉に買い言葉、初対面で言葉の暴力のバーゲンセールとなった二人は、教会の庭を穴だらけにするような喧嘩をしたのだった。
ドーナシークは光の槍とか摩訶不思議な攻撃をして来たり、黒い翼が生えたり、なんか人外っぽかった。
そんな彼と喧嘩をした一誠は一言、「取りあえず殴れるんなら問題ねぇ!」と全てを殴り飛ばし捻り潰した。
(もうどっちが人外なのか分かんないっスねぇ)
ミッテルトが事情をカラワーナと少し離れた場所に居たフリードという神父に説明し、神器が発現すらしていない状態でコレだとドーナシーク(犬神家)の哀れな姿を指さし、色々諦めるように説得した。
おろおろとした様子のアーシアを見かねたミッテルトが止める頃には、何故かドーナシークと変な友情が芽生えており、「もう男って訳分かんねぇっス」と諦めた様子のミッテルトがぼやいたりしたのは、もうずっと昔のように思える。
「アーシアお姉さんの淹れてくれる紅茶、うめぇー」
「そうっスねぇ」
「
「はー……ところでミッテ」
「なんスかー?」
「今更だけど、ドーナシークのおっちゃん、人間じゃないのか……?」
「ほんっっとに今更ッスね!」
一誠に負けて以来ずっと庭で自己鍛錬を続けているドーナシークを見て、思い出したように訊いてみたが、喧嘩してから結構な日数が経っていたりするのだ。
「はー。ウチらは堕天使っていうんスよ」
「へー。アーシアお姉さんとか、フリード兄はドノーマルって言ってたけど?」
「アイツらは一応人間っス。色々常人と違う所はあるっスけどね」
「へー……あ、おかわりー」
呑気な様子の一誠に、ホントに分かってるのかと疑問符を浮かべながらもお昼のティータイムを楽しむ。
「なんでもいいけど……かっこいいよな、ああいうの」
「ああいうの?」
「ほら、槍とか翼とかさ!」
「あー、男の子って好きッスよねぇ……」
「俺もこう、こんな感じで!なんか出せ、たり……」
ババッとカッコいいポーズを決めていると、一誠の目線が左腕に向けられた。
なにげなーく、なんとなーく、左腕から光線でも出すイメージをしただけなのだが……そこには、真っ赤な籠手が顕現していた。
「ホントになんか出た!?!?」
「うわー、こんなきっかけでいいんスか?……龍の手、じゃないっすよね。ってことは……あーまぁもう何でもいいっス」
ウチしーらない、と大興奮の一誠をボーっと眺めていると、何やら携帯を取り出して……。
「あ、姉ちゃん?あのさあのさ!俺――」
「ってどこに電話してるッスか!?」
「え、姉ちゃんだけど?」
「なんで!?」
「いや、面白いことがあったら連絡するようにって言われてっから」
正確には一誠にとって面白いこと=一般的に観て危ない、という図が夕麻の中で確立しているから、こういう連絡の仕方を教えているのだ。
「だからってウチ等のこととか言っても……」
「いやでも……え?……うん」
「?」
「え!?……あ」
「……今度はどうしたんスか?」
何やら呆然と携帯を見つめる一誠。
何が何やらと思いつつ、ミッテルトは思いもよらない言葉を聴くこととなった。
「……今から来るって」
「は?」
「いや、なんか、その声ミッテルトがいるのね!?って」
「ウチの声?」
「うん。名前教えてないんだけど……っていうか、場所も教えてないんだけど……」
「なにそれこわいっス……」
二人が顔を青くしながら顔を見合わせたのは、兵藤夕麻が来訪する数分前のことであった。
――
兵藤夕麻は焦っていた。
授業中にもかかわらず震えた携帯に出てみれば、何だか興奮した様子の一誠の声に混ざって聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あぁ、口調変わってないんだなとどこか懐かしく思いながらも、一誠が何に首を突っ込んでいるのだろうと気が気でならなかった彼女は学校を早退すると、早足に駆けだした。
(早く、早く!)
GPS機能を使う僅かな間すら惜しいと感じながら、一誠の居場所を検索する。
あの子の魔力は覚えているが、堕天使と一緒だとすると結界などに阻まれているかもしれない。
電子機器も阻まれかねないが、こちらはまた別の結界術が必要になる。夕麻の覚えが正しければ、彼女はこういうことは面倒がっていて適当だったはずだ。
(どうせ自分たちは碌に使わないんだから、そんなの要らないッスって……そっか、もう10年以上は会ってないんだっけ。懐かしいなぁ)
走りながら昔のことを思い出す。
今とはまるで違うふるまいをしていた自分が、今自分と同じように暮らしている人間を軽視し、利用し、殺していたあの頃。
一人で出来ることは少なくて、チームを組んで行動していた。まぁ、ピンチになったら見捨て合うような冷たい面が多かったが、それなりに楽しい会話もあったように思う。
そんな風に過去を思いだしながら、既に今は使われていないはずの教会へと辿り着いた。
一見すると廃墟に等しいが、結界の中に入ってみれば綺麗に清掃され人が住めるだけの状態は確保してあるように見える。
「一誠!!」
「ホントに来た!?」
教会に入れば、金髪のゴスロリを着た少女にシスター服の少女とお茶している一誠がいた。
ポカンとしている見知った顔をスルーし、一目散に一誠のそばに駆け寄った。
「あぁもうなんでこんな訳わかんないことになってるの貴方は?!」
「? あぁ、コイツがミッテで、こっちがアーシアお姉さん」
「自己紹介とかそんなことにツッコミを入れてるんじゃないのよ私は!!」
「え?? あぁ、そうそう姉ちゃん見てくれよこれ!すっげぇカッコよくね!?」
「赤い籠手? …………もぉー、何でよりによってそれで、なんで此処で、もぉ~~~」
ガックリと膝をつく夕麻。
その籠手は一見すると龍の手というありきたりな神器に見えるが、はめ込まれている翡翠の水晶と、そこに浮かぶ龍紋から察するに
夕麻は一誠が神器持ちだと堕天使の感覚から分かっていたが、何の神器かは把握できていなかった。未開放の神器というのは、その力も極限まで抑制されているからだ。
だが一度神器が解放されてしまうと、発見されやすくなる。未開放と違い、只納めているだけでは隠していることにならないのだ。
しかも、よりによって堕天使の拠点でなんて……。
「えーっと、姉ちゃん?」
「なんでこんなことに……」
「ドンマイ?」
「うぅぅ」
「いやいやいや、どういう事ッスか!?!?」
彼女を知っているミッテルトからすると、異常だとしか言えなかった。
そもそも10年ほど前にドジって死んだと思っていたのだ。
散り散りに逃げるしかなく、その後合流できたのは自分とカラワーナ、ドーナシークのみ。終ぞ彼女……レイナーレは現れなかった。
「アンタレイナーレっスよね!?」
「そうね」
「今まで何してたんスか!っていうか、姉って、人間と暮らしてたとか!?」
「そうね……」
「音沙汰なくて心配してたんッスよこっちは!連絡できない事情でもあったんスか?」
「そうね……」
「あー、ミッテ、悪い。何か分かんねぇけど姉ちゃん処理落ちしてるわコレ」
呆然とした様子でミッテルトの言葉に頷くことしかしない夕麻は、見事にハイライトが消えており、ペタンと座り込んだまま空笑いを浮かべていた。
「……どういう状況だ、これは?」
「知らん……アーシア、私にも紅茶を寄越しなさい」
「?
「アーヒャハハハハハ!!!!あー、は、ハラいてぇー!!」
午前の鍛錬を終えたドーナシークと、状況が分かっていないアーシアは疑問符を浮かべ、本を読んでいたカラワーナは我関せず状態。
しまいにフリードは大笑いしていた。