その後は色々面倒だった。
姉は何やらこそこそ話し合い、結局何事もなくこれまで通り過ごしていいことに。
ただし、赤い籠手はなるべく出さないことと言われてしまった。
カッコよかっただけに残念で、ふてくされるように帰ってごろごろしていると、本格的に眠くなりそのまま……――
――オイ――
声が聞こえる……大きな声だが、叫んでいるわけではない。
近いわけでもなく、ただ大きい声が響いている。
―オイ、起きろ――
起きろ?もう起きているのに、何を言っているのだろうかこの声は。
何だか素直に言うことを聞くのも釈然としないので無視していると、声は段々荒げてきた。
大きいながらも囁くような気配りを感じさせる言い方だったのが、段々と荒々しく、激しく……最早これでは騒音だ。
―えぇい、起きろと言っているだろうが!無視するなクソガキ!!!―
「だぁーーー!!!!うっせぇ!!人の微睡タイムを邪魔すんじゃねぇよ!!!」
ガバーッと勢いよく身体を起こした。
ふて寝した自分の部屋ではなく、燃え盛っている謎空間だったが、そんなことに目もくれず、自分を起こした張本人に目を向けた。
「……ドラゴン?」
―やっとか、全く―
そこに居たのは、巨大な赤いドラゴンだった。
威圧感を感じたが、それより今は重要なことがあった。
「おい」
―なんだ、あいb―
「うっさい」
―ガフッ!?!?―
ピョンッとジャンプすると、その赤龍の顎を思いっきりぶん殴りカチ上げた。
良い具合に喋りかけていたのを邪魔できたらしい。殴ったこっちの手が痛いが、顎を殴りあげ……というより、持ち上げるような感覚で舌を噛ませることに成功した。
「っし!」
―~~!! っし、じゃないわ!!―
痛む拳に若干涙目になりつつもガッツポーズを決めると、赤龍からツッコミが入った。
あの鋭く巨大な歯で噛めばそれは痛いだろう、ざまぁみろと嗤ってやった。
「つーかなぁ、お前自分のサイズ考えろよ。そして今の俺の内心を考えてくれよ」
―ん、あぁまぁ確かにこれだと煩いか―
「あと首痛めるし、アレだな。縮むか屈むかしろよ」
―このオレに屈めと?―
「じゃぁ縮め」
―こんな奴は初めてだ……ハァ―
ため息を溢すと、その身が翡翠色に光り輝き―――一人の男性になった。
逆立った赤髪に翡翠色の瞳……ツリ目で不遜な表情が様になっているイケメンだ。
「うざ」
「お前、我儘にもほどがあるぞ」
「いや、だって高身長でイケメンでドラゴンって何だそれ。狡い」
「狡いって……あぁ、そう言えばお前は、あの堕天使に釣りあう様なイケメンになりたいとかなんとか言ってたな」
「おいちょっと待て」
ちょっと聞き捨てならないことを洩らしたドラゴンに待ったをかけた。
「お前なんなの、何でそんなの知ってんの、つぅか忘れろやコラっ」
「何でオレは恐喝されてるんだ……」
小学生にガン付けられるという奇妙な出会い方をしたドラゴンは、改めて自己紹介をした。
「オレはドライグ。赤き龍の帝王と呼ばれ、畏れられていた存在だ」
「はあ……」
「……お前何も自覚してないな?言っておくがな、神すら殺せるんだぞ?」
「いやな、面白いなーとは思ってんだよ。堕天使、ドラゴン、神……なんか楽しそうじゃん?ただ……」
「ただ…?」
「行き成りの急展開に追いつけてねぇ」
「ぶっちゃけたなオイ」
兵藤一誠は大人顔負けの腕っぷしを持っている。
持っているが、それ以外は特に変わったことが無い小学生である。
常識だって兵藤夫妻と姉の夕麻によって
「いやいやいや、オマエなぁ。自分が年上の大人どころか、堕天使とか言う化物を殴り飛ばせたりして、不思議に思わなかったのか?」
「だって出来たんだもん」
「もんじゃないわ……たく、ガキだから似合ってるのがムカつくな」
「で、そのすげぇドラゴン様が何用で?」
「何用も何も……オレはお前の籠手の中に封じられているんだよ」
「籠手ってあの赤いかっちょいいの?」
「そうだ」
格好いいと言われ機嫌が若干良くなったドライグ。そんな彼から始まった、ドライグによる神器講座、もとい赤龍帝の籠手講座。
10秒ごとに倍化すること、禁手のこと、そもそもの神器についてや、そこに自分が納まった理由など。
その全てを訊いた一誠の反応は……。
「うわぁ」
「何だその顔は」
「いや、だってなんていうか……はた迷惑というか……大人げないというか」
「うっさい」
このドラゴン、ライバルの白龍がいるらしい。そいつと大喧嘩した結果、過去起きていた三大種族の大戦争を無理やり終わらせてしまったとかなんとか……。
神も魔王も喧嘩の邪魔だと殺したらしい上に、反省なし。神と魔王がまさかの決死の協力によって神器に両者封じられても、宿主まで交えて喧嘩を続けているらしい。
「喧嘩の原因は?」
「忘れた」
「………」
「……そんな目で見るな」
「いや、もうなんていうか……うん。姉ちゃんが言ってた、凄いけどその他がまるでダメで残念な大人、略してマダオってこういう事かぁって」
「失礼な!?」
「事実だろー」
悔しかったらもっと良い武勇伝語ってみろと言ってみると、出てくるのはホントに「武」勇伝ばかり。
力比べや殺し合い、破壊破壊破壊と。
「子供の癇癪かよ」
「お前に言われたくはないな……」
はぁーっとため息を溢すと、取りあえずと話をぶった切った。
「お前にはこれから災難が降りかかってくるだろう」
「災難?」
「強いドラゴンの氣には、そういう厄介事を惹きつける。魅了のような力がある」
「みりょー?」
「……魅力的、あーっと……好かれやすいってことだ」
「なるほど」
所々小学生で分からないことがあるらしく、一々訂正しているためシリアスになり切れない二人だった。
「これから、お前は強くならなければ、そのうち殺されてしまうだろうな」
「マジか?!」
「あぁ。自分の命だけじゃなく、身近な者も危ぶまれるだろう。事実、歴代の赤龍帝となった者は碌な死に方をしていない」
「それ半分お前らのせい……」
「ゴッホン!……ともかく、精進しろ。お前は魔力はそこまでじゃないが、どうやらオレの氣と相性がいいらしい。もしかすると、もしかするかもしれん」
「お前の、き?」
「お前のその並外れた身体能力についてだ……自覚は無いかもしれないがな」
ふと、そこまで聴いて視界が歪んだ。
あぁ、目が覚めるんだと漠然と感じ取った。
―お前は、ドラゴンに成りかけていてるのさ―
最後に、そんな言葉を聞いた気がして……。
「イッセー、ご飯よー」
「ぅ……はぁーい」
平和な母親の優しい声で目が覚めた。
夢の出来事ははっきり覚えているし、最後の言葉も漠然とだが思い出せる。
(ドラゴン、ね)
人間、堕天使、ドラゴン、神。
命に関わるような災難に、人外告知と非日常のオンパレード。
恐怖がある、怯えもある、でも。
(面白くなってきたぁ!)
少年は只々、その瞳を輝かせていた。
《設定コーナー》
「赤き竜の帝王」ドライグ
大きな体躯の赤い龍だが、逆立った赤の短髪に翡翠の瞳という人間離れしているが、そんなすべてが許されるようなイケメンの人型にもなれる。
この度初めて宿主である人間に殴られ、困惑しつつ期待もしているイカレドラゴンさん。
倍化等といった神器や龍としての能力ではなく、純粋な龍の力に呼応している現相棒の一誠に興味津々で、実は神器発現前から興味深く観察し続けていた。
一誠にとってはストーカー紛いであり、知られたくないようなことも知っている、今一番記憶を消したい奴No.1。